「何時まで寝てるのよ」

そんな言葉と共に霊夢は襖を開いて居間に入り、居間の中央部付近に在った布団を剥ぎ取る。
剥ぎ取った布団の中には龍也が寝ており、

「……んあ?」

寝ていた龍也は目を開いた。
どうやら、布団を剥ぎ取られた影響で龍也は目を覚ました様だ。
目を覚ました龍也はボケーッとした表情を浮べながら上半身を起こし、周囲の様子を見渡していく。
その時、霊夢の存在に気付けたからか、

「あー……おはよう、霊夢」

寝惚けた儘の状態で龍也はおはようと言う挨拶の言葉を霊夢に掛ける。
掛けられた挨拶の言葉を耳に入れた霊夢は呆れた表情を浮かべ、

「おはようって……もうお昼過ぎてるわよ」

もう昼過ぎである事を龍也に伝えた。
今現在の時間を知れた事で龍也の頭はある程度覚醒し、

「……マジで?」

少し驚いた表情を浮べながら本当かと霊夢に問う。

「ええ、マジよ」

問われた事に霊夢が肯定の返事を返すと龍也は改めと言った感じで昼過ぎである事を実感しつつ、

「そうか、もう昼過ぎか」

上半身を伸ばして体を覚醒させていく。
その時、

「あー……体が微妙にダルイな……」

微妙に体がダルイ事を感じ取った。
体が少々ダルイと言う事で今一つ調子が出ないと言った表情を龍也が浮べていたからか、

「お昼過ぎまで寝てるからよ。体がダルイのわ」

昼過ぎまで寝てるからそうなるのだと言う突っ込みが霊夢から入る。
霊夢からの突っ込みを受けて確かに寝過ぎたかと思った時、

「……あれ? 俺って何時寝たんだっけ?」

ふと、自分は何時寝たのかと言う疑問を龍也は覚えた。
覚えた疑問に対する答えを出す為に龍也は過去の記憶を遡っていったが、

「……ん?」

幾ら記憶を遡っても何時寝たのかと言う事を思い出せなかった為、龍也は首を傾げてしまう。
宴会で飲んだり喰ったり騒いだりしたと言う記憶はあるものの、寝たと言う記憶は見付からなかった。
思いっ切り酔っ払った状態で寝てしまったのではと言う可能性が龍也の頭に過ぎった刹那、

「運動がてらに昨日の宴会の後片付けでもして来たら? そうすれば、その内体の調子も戻ると思うわよ」

宴会の後片付けをしたらどうだと言う提案が霊夢から出される。

「後片付け? てか、まだ片付けをしてなかったのか?」

出された提案を耳に入れた龍也がまだ宴会の後片付けをしていなかった事を知り、少し驚いたと言う表情を浮べると、

「何言ってるのよ。龍也が後片付けを手伝ってくれるって言ったからまだ片付けをしてなかったんじゃない」

呆れた表情を浮かべた霊夢が、宴会の後片付けを龍也が手伝ってくれると言っていただろうと口にする。

「……そうだったけ?」
「そうよ。昨日そう言ってたじゃない」

後片付けを手伝う何て言ったっけと漏らした龍也に、霊夢はちゃんとそう言っていたと言う指摘を行なう。
霊夢の指摘を受けた龍也は宴会の時に霊夢と交わした会話を思い出していき、

「あー……確かにそんな事も言った様な言わなかった様な……」

少々曖昧ではあるが、宴会の後片付けを手伝うと言った様な事を約束した記憶が龍也の頭の中から出て来た。
出て来た記憶が曖昧とは言え、霊夢がそんな嘘を吐くとは思えないので龍也は霊夢の言葉を信じる事にし、

「……ま、手伝うと言ったらしいからさっさと宴会の後片付けをするか」

立ち上がりながらこれから宴会の後片付けをする事を口にし、軽く肩を回しながら居間を後にする。
そして、宴会をしていた場所に辿り着いた瞬間、

「うわぁ……」

何とも言えない表情を龍也は浮かべた。
何せ、宴会を開いていた場所には酒瓶、食器、茣蓙と言った物が無造作に幾つも転がっていたからだ。
まさに、散らかり放題と言った惨状である。
だからか、

「こいつは酷いな……」

こいつは酷いと言う感想が龍也から零れた。
それに続く様に霊夢は溜息を一つ吐き、

「あいつ等、騒ぐだけ騒いでこれだもの」

愚痴を漏らすも、

「龍也が宴会に参加する時は大体は宴会の後片付けを手伝ってくれるから楽が出来て良いわー」

龍也が宴会に参加すると宴会の後片付けを手伝ってくれる事が多いので、楽が出来ると言って幾らか機嫌を戻す。
溜息、愚痴が続いたと思ったらある程度機嫌を持ち直した霊夢に、龍也は女心と何とやらと言う言葉を思い浮かべつつ、

「俺が宴会に参加しなかった時って、後片付けは霊夢一人でやってるのか? ああ、宴会会場がここの場合だけど」

宴会会場が博麗神社の場合、自分が宴会に参加していない時は一人で後片付けをしているのかと聞く。

「そうよ。極稀に魔理沙が手伝ってくれたりする時もあるけど」

聞かれた霊夢は肯定の返事と共に、魔理沙が極稀に後片付けを手伝ってくれる事があると言って龍也の顔に視線を向け、

「あんたは宴会する時に捕まらない事が結構あるからね。ちゃんと捕まってくれれば私は楽が出来るのに」

もっと見付かり易い場所に居ろと言う様な文句をぶつける。
幻想郷中を自分の足で旅して回っている龍也を見付けるのは、はっきり言ってかなり厳しい。
故に、宴会を開く時に龍也が見付からない事が多々あるのだ。
尤も、そんな見付かり難い龍也を探しに行っている者は主に魔理沙であるが。
兎も角、見付かり易い様な場所に居ろと言う様な文句をぶつけた霊夢は、

「一箇所に落ち着いたりはしないの?」

一箇所に落ち着いたりはしないのかと龍也は尋ねる。
尋ねられた龍也は少し考える素振りを見せた後、

「……まぁ、今の処は一箇所に落ち着く気は無いな」

今の処は一箇所に落ち着く気は無いと断言し、改めてと言った感じで散らかり放題の宴会場跡地を見渡し、

「さて、片付けをするか」

後片付けを始めた。





















「思っていたよりも時間が掛かったな」

後片付けを完了させた後、龍也は思っていたよりも時間が掛かったと呟きながら溜息を一つ吐く。
どうやら、宴会の後片付けには思っていた以上の時間が掛かってしまった様だ。
ともあれ、やっと後片付けを終えたと言う事で龍也は疲れを吐き出すかの様に上半身を伸ばしていると、

「お疲れ様」

霊夢が労いの言葉を龍也に掛けて来た。
掛けられた労いの言葉に反応した龍也は霊夢の方に顔を向け、

「途中から、殆ど俺一人で片付ける事になってたよな」

呆れた表情を浮べながら途中から自分一人で後片付けをする事になっていたと言う事を口にする。
そう、後片付けを手伝うと言う事だったのに何時の間にか龍也一人で後片付けをする事になってしまっていたのだ。
若しかしたら、後片付けを龍也に押し付ける事が霊夢の狙いだったのかもしれない。
霊夢に対して一寸した不信感を龍也が抱き始めた時、

「別に良いじゃない」

罪悪感など欠片も存在しないと言った感じの表情で霊夢は別に良いじゃないと言ってのけた。
既に後片付けは終わっている事もあってか、

「まぁ、良いけどさ」

龍也は文句の言葉を述べると言った事をせず、良いけどさと言う言葉と共に溜息を一つ吐く。
吐かれた溜息が気に喰わなかったからか、

「何よその溜息。お腹減ってると思ってご飯作ったけど、いらないのかしら?」

何処か強気そうな笑みを霊夢は浮かべ、作ったご飯はいらないのかと聞く。
聞いて来た内容から察するに、霊夢は後片付けを龍也に押し付けたら後にご飯を作っていた様だ。
それはさて置き、昼過ぎまで寝ていて何も食べずに宴会の後片付けをしていた龍也の胃袋は空と言っても良い程の状態なので、

「すいません、食べさせてください」

瞬時に謝罪の言葉と共に龍也は頭を下げ、ご飯を食べさせてくれと頼み込む。
龍也の余りの変わり身の早さに対し、霊夢は呆れた表情を浮べるも、

「……まぁ、良いわ。居間にご飯を用意しているから行きましょ。私も少しお腹が減ってるし」

先程までの事の水に流すかの様に龍也に背中を向け、自分も腹が少し空いているので早く居間に行こうと提案する。

「お前も腹減ってるって……もう昼は食べたんじゃないのか?」
「実は、私も少し寝過ごしてね。朝食べるのが晩かったお昼はまだなのよ」

少し腹を空かせている霊夢に龍也が疑問をぶつけると、覚えた疑問に対する答えを霊夢は直ぐに返す。
そして、

「何だよ、霊夢だって俺の事を言えないじゃねぇか」
「煩いわね、それでも私は龍也程爆睡してはいないわよ」
「あー……確かに、昼過ぎまで寝てた俺が言えた義理でも無いか」
「そうよ。起きるのが晩くなっても朝ご飯をちゃんと作って食べたんだから」
「……その時に俺を起こして一緒に朝ご飯を食べるって選択肢は無かったのか?」
「無かったわね。それに、朝ご飯は一人分しか作ってなかったしね」
「さよけ」
「そうよ」

龍也と霊夢は軽い会話を交わしながら居間へと向かって行き、居間に着くと二人は卓袱台の前に座り、

「「いただきます」」

ご飯を食べ始めた。
黙々と言った感じでご飯を食べている中で、

「そうそう、昨日の宴会で余ったお酒が在るんだけど飲む?」

霊夢は龍也に宴会で余った酒が在るので飲まないかと尋ねる。
昼ご飯を食べながら酒を飲むのはどうかと龍也は思ったが、そう言う酒の飲み方も偶には良いかと瞬時に思い直し、

「飲む飲む」

飲むと言う主張をし出す。
すると、

「そう言うと思ったわ」

予想出来ていたと言う表情を浮べながら霊夢は卓袱台の下に置いて在ったグラスを取り出し、取り出したグラスも酒を注いでいく。

「……あれ? ここにグラスって在ったっけか?」
「ああ、これ? これは昨日、レミリアから貰ったのよ。何でも、食器が余って来たからって」

博麗神社にグラスが在った事に少し驚いた龍也に、このグラスはレミリアから貰ったと言う事を霊夢は教え、

「羨ましいわね、グラスが上げる程に余ってるん何て。よっぽど、お金が余ってるんでしょうね」

グラスを上げる程に紅魔館にはお金が余ってるんだなと言う羨む様な発言を零す。

「お守りやお札を作って、それを人里に売れば結構稼げるだろ。前に霊夢に作って貰ったお札、あれかなり強力だし」
「いやよ、面倒臭い。効果の高いお札やお守りを作るのって、結構大変なのよ」

お金が無いと言う発言を零した霊夢に龍也はお札やお守りを売ったらどうだと言う提案をしたが、された提案を霊夢は面倒臭いと言って切り捨てた。
霊夢らしい断り方と言えば断り方だ。
まぁ、面倒臭い事を嫌って生活している霊夢であるが普通に食っていける生活をしている。
ならば、この儘でも特に問題無いと龍也は判断し、

「さよけ」

今の話題を打ち切り、

「……っと、霊夢。そこの醤油を取ってくれ」

話を変えるかの様に霊夢に醤油を取ってくれと言う。

「はい」

龍也からの頼みを受け入れた霊夢が醤油瓶を龍也の近くに置いてくれたので、

「ありがと」

礼の言葉と共に龍也は醤油瓶を手に持ち、大根下ろしに醤油を掛けていく。
極々普通の食卓な雰囲気を醸し出しながら、龍也と霊夢は食事を進めていった。





















昼ご飯を食べ終え、暫らくの間まったりとした時間を過ごした後、

「それじゃ、そろそろ行くかな」

そろそろ出発する旨を龍也は霊夢に伝え、立ち上がって上半身を軽く伸ばす。

「あら、もう行くの?」
「ああ。今回は大した怪我もしなかったしな」

出発する旨を伝えられた霊夢は龍也にもう行くのかと聞くと、龍也は肯定の返事をしながら大した怪我を負わなかった事を口にする。
その後、

「じゃ、今度来る時もお賽銭よろしくね」
「相変わらずだなお前」

龍也と霊夢は軽い会話を交わし、

「それじゃ、またな」
「ええ、またね」

別れの挨拶をして龍也は博麗神社を後にし、石段を降りて行く。
石段を折り始めてから少し経った頃、

「……ん?」

何か妙な気配を龍也は感じ取り、足を止めて周囲を見渡す。
すると、龍也の背後から何者かが飛び掛って来た。
何者かによる襲撃を感じ取った龍也は前方に跳びながら体を反転させ、構えを取りながら着地して襲い掛かって来た相手を確認する。
確認した結果、襲い掛かって来たのは爬虫類の様な外見をした四足歩行の妖怪である事が分かった。

「あれ、てっきりゴリラっぽい妖怪が襲い掛かって来たのかと思ってたけど違うのか」

ここを通る時に良く現れる妖怪で無かった事に龍也が驚いている間に、現れた妖怪は口から妖力で出来た弾を龍也に向けて放つ。
放たれた弾を龍也は跳躍する事で避けたが、

「何……」

跳躍した龍也に向け、地上に居た妖怪の何体かが突撃を仕掛けて来た。
明らかに地上戦が得意と言った風貌をしているのに空中に上がって来た妖怪に龍也は少し驚くも、

「おっと」

体を逸らしたり捻ったりしながら妖怪達の突撃を避け、

「らあ!!」

すれ違い様に拳や蹴りを叩き込む。
拳や蹴りを叩き込まれた妖怪が吹き飛んで行くのを視界に入れながら龍也が地に足を着けた瞬間、

「……ッ」

地上に残っていた妖怪全てが龍也に向けて妖力で出来た弾を放って来た。
着地した瞬間を狙われた事で、跳躍による回避を再び行うのは無理だと言う判断を龍也は下し、

「なら……」

両手の手の甲を使って妖力で出来た弾を弾き飛ばしていく。
そして、妖力で出来た弾を全て弾き飛ばすと、

「そら!!」

お返しと言わんばかりに龍也は霊力で出来た弾を地上に居る妖怪達に向けて放った。
放たれた霊力で出来た弾は次々と妖怪達に命中し、小規模な爆発を起こしながら妖怪達を撃ち倒していく。
放った霊力の弾が全ての妖怪達に命中したのを感じ取った龍也は攻撃を止め、周囲を見渡す。
周囲を見渡すと撃ち倒された妖怪以外の存在が見られなかったので、

「……ふぅ」

龍也は一息吐き、再び足を進め様としたが、

「………………………………………………」

ふと思い立ったかの様に自身の掌を見詰め、

「んー……何か違和感があった様な……」

違和感があった様なと言う事を呟きながら手を握ったり開いたりする。
しかし、その動作を幾ら繰り返しても違和感は感じられなかった。
龍也の感覚では霊力で出来た弾を放った時に想定以上の威力が出た気がしたのだが、

「………………………………………………」

何か違和感の様なものを欠片も感じない。
だからか、龍也は酒の飲み過ぎで感覚が鈍っていたのだろうと考え、

「……さて、行くか」

気持ちを切り替えるかの様に石段を降り始めた。





















「……っと、ここで終わりか」

石段を降り切った龍也は一旦足を止め、上半身を伸ばしながら周囲を見渡し、

「ここに来るのも何か久しぶりな気がするな」

ここに来るのも久し振りだと呟きつつ、これからの予定を立てていく。
と言っても、次の予定は決まっている。
今まで探索する事の無かった迷いの竹林の探索だ。
なので、

「さて、当初の予定通り迷いの竹林の探索に……あ」

早速と言わんばかりに迷いの竹林に向かおうとしたが、龍也はある事を思い出して言葉を詰まらせた。
思い出した事と言うのは、

「行く前にお札に霊力を補充して置くべきか……」

お札に霊力を補充するべきかと言う事。
龍也が住処としている無名の丘の洞窟には、結界を展開するお札が貼られている。
どの様な結界かと言うと、洞窟の中に龍也以外の者の進入を防ぐと言うもの。
少し補足すると、展開されている結界は龍也が触れている間は効力が失われる。
兎も角、お札に霊力を籠もってなければ結界が張られなくなってしまうのだ。
そうなってしまえば、龍也が住処としている洞窟に泥棒などが入り放題となってしまうので、

「んー……暫らくは帰らないだろうし、今の内に補充しに行くか」

急遽予定を変更したかの様に龍也は跳躍を行ない、空中に霊力で出来た見えない足場を作ってそこに着地し、

「えーと……」

無名の丘が在る場所を探す為に顔を顔を動かしていく。
顔を動かしてから少しすると無名の丘が在る場所を発見したので、

「さて、行くか」

空中を駆ける様にして無名の丘へと向かって行った。





















無名の丘が眼下に見え始めた辺りで龍也は降下し、

「到着っと」

地に足を着けて周囲を見渡し、

「変わってないな、ここも」

変わっていないと言う感想を漏らしながら洞窟に向けて足を進めて行く。
足を進め、無名の丘から見える光景を龍也が楽しんでいると、

「あー!!」

大きな声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した龍也は足を止め、声が聞こえて来た方に体を向ける。
体を向けた先には、

「メディスン?」

メディスンが居た。
どうやら、大きな声を発した者はメディスンであった様だ。
取り敢えず、見知った顔を見付けたと言う事で、

「そーいや、お前もこの辺りに住んでるんだったな」

龍也は声を掛けながらメディスンに一歩近付く。
すると、

「……………………………………………………………………」

何も言わずにメディスンは一歩後ろに下がった。
それを見た龍也がまた一歩近付くと、メディスンは一歩後ろに下がる。
龍也が一歩前に進んでメディスンが一歩後ろに下がると言った事を何度か繰り返した後、

「……別に取って食ったりはしないって」

メディスンの警戒を緩めるかの様に龍也は足を止め、自分に害が無いと言う主張を行なう。
しかし、

「……人間なんて信用出来ないもん」

プイっと言った感じでメディスンは顔を背け、人間なんて信用出来ないと言う言葉を零す。
少しはメディスンと解り合えた思っていたが、少しも解り合えていない事を龍也が思い知っている間に、

「それで何しに来たの? スーさんを盗みに来たの?」

半目になり、睨み付けるかの様な表情でスーさんを盗みに来たのかと問う。

「別に鈴蘭を盗みに来たんじゃないって。ここに俺の住んでる洞窟が在るからここに来たんだよ」

問われた龍也は鈴蘭を盗みに来た訳では無いと言ったが、メディスンは今一つ龍也の事が信じられないと言う表情を浮かべた。
こうもメディスンから疑われている事で龍也は居心地の悪さを覚えるも、

「……と、そうだ。昨日異変があったんだけど、お前は大丈夫だったか?」

話を変えるかの様に龍也はメディスンに昨日異変があった事を教え、大丈夫だったかと聞く。

「昨日? 異変かどうかは分からないけど……意識してなかったら毒が体中から溢れ出す事があったかな。後、何か毒殺したい気分になった」

聞かれたメディスンは人差し指を下唇に当て、昨日自分の身に起こった事を話す。
何やら物騒な話を聞かされた気がしたが、自我が無くなる程に狂った訳では無い事が分かったので、

「そっか。まぁ、無事だった様で何よりだ」

何処か安心したかの様な表情を龍也は浮かべる。

「……変なの。人間が妖怪の心配をするなんて」

自分の事を心配していた龍也にメディスンが人間が妖怪の心配をする何て変だと言う感想をぶつけると、

「そうか?」

間髪入れずに龍也は疑問気な表情を浮べてしまった。
龍也からしてみたら、人間だろうが妖怪だろうが見知った顔が危険な目に遭っていたりしたら気にしたり心配したりするのは至極当然の事。
勿論、見知った顔の者が龍也に取って敵であったりどうでも良いと奴や許せない相手であったりするなら話は別であるが。
兎も角、龍也が人間だけど妖怪の事を心配すると言った為か、

「……やっぱり、変な人間」

少し吹き出した感じでメディスンは龍也の事を変な人間と称した。
同時に、場の雰囲気が幾らか柔らかいものに成ったのを龍也は感じ取る。
メディスンが警戒をある程度解いてくれたからであろうか。
ともあれ、会話を続けて何かの拍子でメディスンの機嫌を損ねてもあれなので、

「……さて、俺はもう行くけど体には気を付けろよ」

龍也は会話を切り上げ、この場から去ろうとする。
その瞬間、

「あ、あの」

メディスンから待って欲しいと言う様な声が発せられた。
それに反応した龍也は足を止め、

「ん?」

メディスンの方に体を向けた時、

「えと、その……また……ね」

またねと言う言葉がメディスンの口から紡がれる。
紡がれた言葉に対し、

「ああ、またな」

またなと返し、龍也は自分が住居として使っている洞窟に向けて足を進めて行く。
メディスンと別れ、再び足を進め始めてから幾らか経った頃、

「おー、着いた着いた」

自身の住処としている洞窟の前に、龍也は辿り着いた。
辿り着いた龍也は少し懐かしい気分になったが、直ぐに懐かしい気分を振り払うかの様に自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴って瞳の色が黒から紅に変わると、龍也は自身の掌から炎を生み出し、

「……よし、行くか」

気分新たにと言った感じで龍也は洞窟の中に入って行く。
生み出した炎の灯りを頼りに洞窟の奥に進んで行くとランプを置いて在る場所に着いたので、龍也はランプに火も灯す。
ランプに火が灯ったのと同時に龍也は生み出していた炎と自身の力を消し、瞳の色が紅から黒に戻ったタイミングで、

「ここも変わってないな。当たり前と言えば当たり前か」

周囲を見渡しながらここも変わっていないと言う感想を漏らし、近くに置いて在るダンボールの中を覗き込む。
覗き込んだダンボールの中に在った保存食を手に取り、龍也は椅子に腰を落ち着かせながら取り出したした保存食をテーブルの上に並べ、

「いっただっきまーす!!」

保存食を食べ始めた。
そして、保存食を食べ終えた後、

「さて、お札に霊力を籠めるとするかね」

お札に霊力を籠める為に龍也は椅子から立ち上がり、お札が貼って在る場所へと向かい、

「よっ……と」

自身の掌をお札に当て、お札に霊力を籠めていく。
霊力を籠め始めてから少しするとお札の霊力が満タンになったので、

「ふぅ……」

龍也はお札に霊力を籠めるのを止め、お札から掌を離す。
もうやるべき事をやり終えた為、龍也は迷いの竹林に向かおうとしたが、

「……っと、そうだ」

何かを思い出したかの様な表情を浮べながらポケットから懐中時計を取り出して現在の時刻を確認しに掛かる。
確認した結果、

「あー……結構晩い時間だな」

結構晩い時間である事が分かった。
今から出発したとしても特に問題は無いであろうが、迷いの竹林に着く前に日が暮れてしまうであろう。
急いで行けば日が暮れるまでに迷いの竹林に着くであろうが、それでは風情が無い。
おまけに、別段急ぐ旅路でも無いので、

「……よし、明日にするか」

出発を明日にする事を龍也は決め、取り出していた懐中時計をポケットに仕舞う。
その時、

「何か忘れている様な気が……」

何か忘れている様な気が龍也はしていた。
とは言え、何を忘れているかを思い出す事が出来なかったからか、

「んー……まいっか」

思い出そうとしていた事を放棄し、龍也は布団の中に入り込んだ。
寝るにしてはまだ早い時間帯ではあると思われるであろうが、龍也は直ぐに睡魔に誘われていく。
宴会で騒ぎまくっていた疲れがまだ残っていたのかもしれない。
ともあれ、直ぐに睡魔に誘われた理由はどうでも良いと言った感じで龍也は明日を楽しみにしながら夢の世界へと旅立って行った。























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