朝、

「……んあ?」

寝惚けた表情を浮かべながら龍也は上半身を起こし、周囲を見渡していく。
見渡した結果、今居る場所が何処かの部屋の中である事が分かった。
どうして自分は部屋の中に居るのかと言う疑問を龍也は抱いたが、

「あ……」

直ぐにアリスの家に泊まった事を思い出す。
それを思い出したからか、龍也の頭は少しずつ覚醒していったので、

「んー……」

序に体も覚醒させると言わんばかりに龍也は上半身を伸ばしていく。
上半身を伸ばし始めてから少しすると体もある程度覚醒したので、龍也は上半身を伸ばすのを止めてベッドから降り、

「よっと」

椅子に掛けてあった学ランを着込み、泊まっていた部屋を後にして居間へと向かう。
そして、居間に着くと、

「あ、おはよう」

アリスが朝の挨拶をしてくれた。
された挨拶に返すかの様に、

「ああ、おはよう」

龍也も朝の挨拶をした時、

「丁度良かったわ。朝ご飯が出来たから、起しに行こうと思ってたの」

アリスから朝ご飯が出来たから起こしに行こうと思っていたと言う事が口された。
口にされた内容を耳に入れたのと同時に、龍也は良い匂いがしている事に気付く。
十中八九、良い匂いの正体はアリスが作った朝ご飯であろう。
そう思ったからか、

「あ……」

龍也の腹から空腹を訴える音が発せられた。
発せられた音を聞いたアリスは軽い笑みを浮かべ、

「ほら、早く椅子に座って朝ご飯を食べましょ」

椅子に座って朝ご飯を食べる様に龍也を促す。
促されたが龍也が椅子に腰を落ち着かせると、アリスも椅子に腰を落ち着かせ、

「「いただきます」」

二人は朝食を食べ始めた。
因みに、朝食はパンとスープとサラダである。
補足すると、男である龍也を考慮してか龍也の前に並べられている料理の量はアリスのものよりもずっと多い。
ともあれ、腹が空いていると言う事もあって龍也はガツガツと言った感じで料理を平らげていく。
一心不乱と言う言葉が似合う様な勢いで料理を食べている龍也を、アリスは微笑ましと言った様な事を思いながら料理を口に運ぶ。
そんな感じで食事を取り始めてから幾らか経った頃、

「ご馳走様」

食べ終えた龍也がごちそうさまと言う言葉を発した。
すると、

「お粗末様」

お粗末様と言う言葉がアリスから返って来る。
どうやら、龍也とアリスは同じタイミングで食事を取り終えた様だ。
二人とも食事を取り終えたと言う事で、アリスが何体の人形を操って人形に空になった食器を台所に運ばせ、

「えーと、確かにあの辺りに……」

新たに別の人形を操り、その人形に食器棚を探させる。
探し始めてから少し経った辺りで目的の物を見付けたからか、人形は食器棚からある物を取り出し、

「後は台所から……」

次に持って来る物を決めながらアリスは人形を操り、食器棚から取り出した物をテーブルの上に置かせた。
テーブルの上に置かれた物と言うのは、二つのコーヒーカップ。
置かれた物からこれからコーヒーでも淹れるかと言う事を龍也が思っている間に、台所の方からコーヒーポットを持ったアリスの人形が戻って来た。
戻って来たアリスの人形がコーヒーポットをテーブルの上に置いた時、

「……っと、そうだ。龍也、砂糖とミルクは要るかしら?」

思い出したかの様にアリスは龍也に砂糖とミルクは要るかと聞く。
聞かれた龍也は、

「いや、俺はブラックで良い」

砂糖とミルクは必要無いと答える。

「そう」

龍也から返って来た答えを耳に入れたアリスは了承したと言った表情を浮かべてコーヒーポットを手に取り、コーヒーカップにコーヒーを注いでいく。
二つのコーヒーカップにコーヒーを注ぎ終えると、アリスは人形を操ってシュガーケースを持って来させる。
持って来させたシュガーケースをテーブルの上に置かせると、シュガーケースの中に仕舞って置いたシュガートングを使ってアリスはコーヒーの中に角砂糖を入れる。
その後、

「お、アリスは砂糖を入れるのか」
「ええ、色々と頭は使っているからね」
「ああ、魔法使いって色々と頭を使ってそうだもんな」
「そうね、実験や新しい魔法の開発って言った感じで魔法使いは頭を使う事が多いわね」
「確かに。アリスもパチュリーも頭を使ってる事が多そうだものな」
「あら、パワー馬鹿だけど魔理沙も結構頭を使ってるわよ」
「だろうな。魔理沙の家に俺じゃ読めない様な魔導書がかなり在るし」
「その魔導書の大半は、パチュリーの所の図書館から盗まれた物でしょうけどね」
「本人は借りてるだけって主張しているけどな」
「ふてぶてしいと言うか何と言うか。魔理沙らしいと言えば魔理沙らしいけど」
「ははは……」

龍也とアリスは雑談を交えながらコーヒーを飲んでいった。






















雑談が一段落着いた辺りで、二人のコーヒーカップの中に入っていたコーヒーが空になった。
だからか、

「さて、俺はそろそろ行くかな」

龍也は立ち上がり、そろそろ行くかと言う事を口にする。
それを聞いたアリスは、

「何所に行くの?」

龍也に何所に行くのかと聞く。

「迷いの竹林。あそこを探索しようと思ってな」

聞かれた龍也は行こうとしている場所と、行った場所で何をするかをアリスに教える。

「成程」

教えられた内容を耳に入れたアリスは納得した表情を浮かべ、

「じゃあ、一寸待ってて」

一寸待つ様に言って立ち上がり、台所へと向かって行った。
アリスが台所に向かってから少しすると、アリスは二つの包みを手に持って台所から戻り、

「はい」

手に持っている二つの包みを龍也に手渡す。

「これは?」

手渡された二つの包みを受け取った龍也が疑問気な表情を浮かべると、

「サンドイッチとクッキーよ。道中でお腹が空いたら、良かったら食べて」

包みの中はサンドイッチとクッキーである事がアリスから伝えられた。
伝えられた内容を頭に入れた龍也は、昼に食べ物を探すと言った事をしなくても済みそうだ思いつつ、

「ありがとな、アリス」

礼の言葉をアリスに掛ける。

「別に良いわよ。サンドイッチを作るのもクッキーを作るのも、大した手間でも無いからね」

掛けられた礼の言葉にアリスが大した手間では無いと返した後、龍也とアリスは外へと向かう。
そして、

「それじゃ、またな」
「ええ、またね」

龍也はアリスと別れの挨拶を交わし、空中に躍り出る。
空中に躍り出た龍也は足元に霊力で出来た見えない足場を作り、作った足場に足を着けて迷いの竹林が在る場所を探す為に顔を動かしていく。
顔を動かしてから少しすると迷いの竹林が在ると思わしき場所を発見したので、

「……よし」

見えない足場を思いっ切り蹴り、龍也は発見した場所へと向かって行った。





















「異変の時の以来だな。ここに来るの」

迷いの竹林の入り口に足を着けた龍也は、少々感慨深いと言った表情を浮かべながらそう呟く。
どうやら、龍也が発見したものは迷いの竹林で合っていた様だ。
ともあれ、異変の時以来となる迷いの竹林。
異変解決の時は空中を移動しながら進んで行ったが、今回は地に足を着けて進む事になる。
龍也に取って未開の地とも言える場所をこれから探索する事になるからか、龍也はワクワクしてると言った表情を浮かべながら迷いの竹林に足を踏み入れ、

「竹林の中を歩くのって初めてだから、結構新鮮だな」

周囲をキョロキョロと見渡し、思う。
博麗神社近辺にある森や魔法の森、霧の湖周辺にある森とは違った雰囲気があると。
まぁ、これは当たり前と言えば当たり前だが。
兎も角、周囲を見渡す事に重点を置きながら足を進めていると、

「……お?」

龍也の視界に何がか入り、視界に入ったものが何であるかを確認する為に龍也はそこに足を進める。
そして、視界に入ったものが何であるかを確認する為に屈んだ結果、

「これは……筍か?」

筍が視界に入ったのかと言う判断を龍也は下した。
今居る場所は竹林なのだから、筍が生えていたとしても何の不思議も無い。
それはさて置き、見付けたものが何であるかを確認した龍也は立ち上がり、

「……そうだ。夜は筍を食べるか」

夜は筍を食べる事を決める。
だからか、龍也は今見付けた筍を回収し様かと考えた。
だが、今回収すると言う事は夜までこの筍を持ち歩かなければならないと言う事。
夜になるまでまだまだ時間があるし、アリスに作って貰ったサンドイッチとクッキーが入った包みを龍也は持っている。
これ以上荷物が増えると言うのは、龍也としても勘弁したいところ。
なので、

「……ま、これだけ竹が生い茂っているんだ。筍位、直ぐに見付かるだろ」

今見付けつた筍を、龍也は放置する事を決める。
どうせ、筍位直ぐに見付かるだろうと言う楽観的な事を思いながら。
その瞬間、

「ッ!!」

龍也は何かを感じ取り、反射的に頭を下げた。
龍也が頭を下げた数瞬後、龍也の頭が在った場所を何かが通り抜ける。
同時に、龍也は前方に飛び出しながら体を反転させて自身の頭が在った場所付近に視線を向けた。
視線を向けた龍也の目に、

「……竹?」

竹が映る。
と言っても、映っている竹は只の竹では無い。
手足が生え、目と口が付いているのだ。
十中八九、竹に擬態した妖怪であろう。
魔法の森にも木に擬態した妖怪が存在しているので、この妖怪もそれと同タイプの妖怪であろうと龍也が推察した時、

「おっと」

竹に擬態している妖怪が龍也に向けて腕を振るうと言う攻撃を仕掛けて来たので、龍也は後ろに跳んでその攻撃を回避する。
狙いは龍也自身か、それとも左手に抱えているアリスが作ってくれたサンドイッチとクッキーが入っている包みか。
若しくは、その両方。
少し、竹に擬態した妖怪の狙いに付いて龍也は頭を捻らせたが、

「ま、どうでも良いか」

直ぐに頭を捻らす事を止めた。
竹に擬態している妖怪の目的が何であれ、倒す事に変わりは無いからだ。
頭を捻らせる事を止めた龍也は意識を戦闘に切り替え、自身の力を変える。
青龍の力へと。
力の変換に伴い、瞳の色が黒から蒼に変わるのと同時に龍也は右手から水の剣を生み出す。
そして、

「ッ!!」

大地を駆け、龍也は竹に擬態した妖怪と交差する。
すると、竹に擬態した妖怪が真っ二つになって崩れ落ちた。
崩れ落ちる音が聞こえた龍也は振り返り、真っ二つになった竹に擬態した妖怪を見詰める。
暫らくの間見詰めていたが、一向に動き出す気配が見られなかった。
なので、龍也は倒したと判断して自身の力を消す。
力を消した事で龍也の瞳の色は元の黒に戻り、右手の水の剣が力を失ったかの様に零れ落ちた。
戦闘体勢を解いた龍也は息を一つ吐き、

「やれやれ、ここも油断出来ないな」

油断出来ないなと漏らす。
ここも魔法の森と同じく、探索する際は一定以上の警戒をしていた方が良いだろう。
何時、不意打ちを受けるのか分かったものではないからだ。

「……よし」

気持ち新たにと言った感じで正面を見据え、龍也は再び足を進め始めた。






















竹に擬態した妖怪を倒してから暫らく。
龍也は一定の警戒をしながら迷いの竹林を探索している。
その中で竹に擬態した妖怪の襲撃を何度か受けたが、龍也はそれを問題無く撃退していた。
しかし、ずっと迷いの竹林の中を歩いていたせいか、

「腹が減って来たな……」

腹が減って来た言う発言が龍也の口から零れてしまう。
空腹感を覚えた事で、龍也はポケットから懐中時計を取り出して現在の時間を確認する。
確認した結果、

「うわあ……昼、かなり過ぎてるな」

昼過ぎである事が分かった。
今現在の時刻を知った龍也はずっと歩きっ放しだったからなと言う事を思いつつ、懐中時計をポケットに仕舞って周囲を見渡していく。
すると、近くに小さな岩が在るのを発見した。
見付けた岩は乗っかる事が出来る程の大きさは無いが、背凭れにはするには丁度良い大きさだ。
一通り発見した岩を観察した後、

「……よし」

あの岩を背凭れにして昼食を取る事を龍也は決め、発見した岩に向けて足を進めて行く。
そして、岩の前に着くと龍也は反転しながら腰を落ち着かせ、

「さーてとっと」

サンドイッチが入っている包みを広げる。
包みの中には、結構な量のサンドイッチが入っていた。
男である龍也に気を使って、沢山作ってくれたのであろうか。
理由はどうであれ、沢山サンドイッチを作ってくれたアリスに龍也は内心で感謝しつつ、

「いっただっきまーす」

サンドイッチを食べ始める。

「アリスの作る物は相変わらず美味いな」

そんな感想を零しながら次から次へとサンドイッチの数を減らしていると、

「……ん?」

何かが自分に近づいて来ているのを龍也は感じ、一旦サンドイッチを食べるのを止めて何かが近づいて来ている方に顔を向ける。
顔を向けた先には、

「……兎か?」

兎が居た。
見た感じ、只の兎だ。
序に言えば、敵意と言ったものも感じられない。
この事から普通の兎と言う判断を下した時、龍也は兎の視線がサンドイッチに向いている事に気付く。
気付いた事からサンドイッチを食べたいのかと思った龍也は、左手でサンドイッチのパンの部分を何回か毟り、

「ほら」

毟った部分を左手の掌の上に乗せ、左手を兎が居る方へと伸ばす。
それから少しすると兎は龍也の元へと近付いて龍也の左手の掌の上に乗っているパンの匂いを嗅ぎ、パンの欠片を食べ始めた。
一生懸命と言った感じでパンの欠片を食べている兎を見て、

「はは、可愛いな。お前」

可愛いと言う感想を龍也は抱きつつ、サンドイッチを食べる事を再開する。
龍也が一つのサンドイッチを食べ終えたのと同時に、兎も龍也の左手の掌の上に乗っていたパンの欠片を食べ終えた。
今食べた分で満足したからか、兎は龍也に背中を向けて去って行ってしまう。

「あ、行っちゃった」

去って行った兎を龍也は名残惜しそうな表情で見送ったが、気持ちを切り替えるかの様にサンドイッチを手に取って口へと運んでいく。
再び一人でサンドイッチを食べる事になってから少しすると、

「ご馳走様」

龍也はサンドイッチを食べ終えた。
アリスが作ってくれたサンドイッチは美味しかったのだが、

「んー……まだ少し足りないな」

一寸した物足りなさを龍也は感じた為、クッキーが入っている方の包みも開き、

「いっただっきまーす」

クッキーも食べ始める。
同時に、

「お、これも美味いな」

これも美味いと言う感想を龍也は呟いた。
今食べているクッキーの程好い甘さと言う、龍也好みの味。
美味しいと言う感想が出て来るのは当然とも言えるだろう。
食後のおやつと言った感じでクッキーを食べ、クッキーを食べ終えた後、

「ふー……食った食った」

満足したと言った表情を龍也は浮かべ、腹部を擦る。
サンドイッチ、クッキーの二つの食べ物を立て続けに食べた事で龍也の腹は十分に膨れた様だ。
兎も角、昼食を取り終えたのならこれ以上ここに居る必要も無いので、

「さーってとっと……」

開いていた包みを畳んで懐に入れて立ち上がり、

「行くか」

再び迷いの竹林の探索に出た。





















迷いの竹林の探索していると、何時の間にか日が完全に暮れてしまっていた。
なので、

「さーて、何処か開けた場所は無いかなー……」

龍也は只の探索から寝床を探す為の探索に切り替える。
寝床を探す探索も中々楽しいものだと言う事を思いつつ、空を見上げ、

「ここって、結構月明かりが入るんだな」

結構月明かり入るんだなと言う言葉を龍也は漏らす。
龍也が漏らした通り、迷いの竹林には月明かりが差し込んでいる。
そのお陰で、龍也は朱雀の力で炎を生み出して灯りを出すと言った事をせずに済んでいた。
もし、炎を灯り代わりしていたら。
竹に炎が燃え移るのを警戒して、寝床を探す為の探索を楽しむ事は出来なかったであろう。
月明かりが差し込んでいてラッキーと言う事を龍也は思っていたが、

「……とと、寝る場所探さなきゃ」

直ぐにずれていた思考を戻し、寝床探しに戻ろうとした時、

「……ん?」

何かが近付いて来るのを龍也は感じ、感じ取った方へと体を向ける。
体を向けた龍也の目には、

「あれは……サニーミルクにルナチャイルドにスターサファイア……」

こちらに向けて大慌てで走って近付いて来ているサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアの姿が映った。
何をそんなに慌てているんだと言う疑問を龍也が抱いたのと同時に、三妖精は龍也の存在に気付いた様で、

「「「龍也さん!!」」」

龍也の名を口にしながら龍也の背後に隠れる。
突然と言えば突然の事態に龍也は驚くも、

「どうしたんだ?」

取り敢えず、どうしたんだと言う問いを三妖精に投げ掛ける事にした。
問われた事に対し、三妖精を代表するかの様に、

「追われてるんです!! 助けてください!!」

スターサファイアが追われているので助けてくれと言う事を龍也に伝える。

「追われてる?」

伝えられた内容を龍也が頭に入れたタイミングで、

「待ってってば」

何者かが龍也の目の前に降り立った。
降り立った者が薄い紫色の長い髪に兎耳を生やしていると言った風貌であったからか、

「お前は……鈴仙……だよな?」

確認を取るかの様に龍也は鈴仙だよな声を掛ける。
すると、

「そう言う貴方は……龍也……で良かったわよね?」

向こうからも確認を取るかの様に龍也で良かったよねと言う言葉が返って来た。
どうやら、三妖精を追っていたのは鈴仙であった様だ。
ともあれ、龍也と鈴仙が互いの存在を認識した後、

「こんな夜中に何しに来たの?」

こんな時間にどうしたのかと言う事を鈴仙は龍也に問う。

「迷い竹林の探索だな」
「こんな時間に? 物好きねぇ」

問われた事に対する答えを龍也が述べると、鈴仙は物好きだと言う感想を抱いた。
非常に迷い易いと言われている迷いの竹林を日が暮れている時間帯に探索していると言って来たのだ。
物好きと言う感想が出て来ても不思議ではない。
それはそれとして、龍也と鈴仙の反応から、

「えっと……お二人はお知り合いですか?」

二人は知り合いなのかと言う事をスターサファイアが尋ねて来た。
尋ねられた事に反応した龍也はスターサファイアの方に顔を向け、

「ああ、そうだ」

肯定の返事をし、再び鈴仙の方に顔を向ける。
そして、

「こいつ等はお前に追われてたって言ってるけど?」

三妖精が鈴仙に追われていると言っていた事を龍也は鈴仙に教えた。

「追わ……追っていたのは事実だけど別に危害を加えようとした訳ではないわ」

教えられた事を耳に入れた鈴仙は龍也の背後に隠れている三妖精の怯え様を見て、少し慌て気味に弁解を始める。
何でも、鈴仙は永琳の命令で光る竹を手に入れなければならないらしい。
しかし、その光る竹を手に入れる為にはてゐの力が必要不可欠との事。
なので、てゐを探す為に鈴仙は迷いの竹林の波長を弄って出れない様にした。
波長を弄って迷いの竹林から出れなくしたと言う部分を聞いた龍也と三妖精は、傍迷惑なと言う感想を抱く。
兎も角、てゐを探している時に三妖精を見付けたので鈴仙が三妖精にてゐの居場所を知っているかと尋ね様としたら逃げられたのだとか。
因みに、三妖精が逃げたのは自分達の能力で姿を消していたのに見付けられたからだとか。
余談ではあるが、鈴仙が三妖精を見付ける事が出来たのは鈴仙の能力の特性上らしい。
一通り弁解を終えた事で鈴仙が口を閉じた後、

「ねぇ、どうする」

サニーミルクからどうすると言う言葉が発せられた。
どうすると言うのは、鈴仙の手伝いをするかと言うもの。
特にこれと言って用事も無いからか、

「私は手伝っても言いと思うわ。何か、面白そうだし」
「んー……私は眠いけど、スターとルナが手伝うって言うのであれば手伝うわ」

スターサファイアとルナチャイルドから手伝っても良いと言う発言が発せられる。
二人が鈴仙を手伝うと言う意を示したからか、サニーミルクも鈴仙の手伝いをする事を決めた。
その後、三妖精は龍也の背中に隠れるのを止めて龍也の顔に視線を向ける。
幾ら面白そうな事だと言っても日が暮れてしまった迷いの竹林で自分達だけで、しかも初めて会った鈴仙と一緒にと言うのは些か不安がある様だ。
そんな三妖精の視線を受けた龍也は、寝床を探す以外に特にする事は無いなと思い、

「ああ、良いぜ。俺も付き合うよ」

自分も手伝うと言う旨を口にした。
龍也、サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアの四人がてゐを探すのを手伝ってくれると言ってくれたからか、

「本当……ありがとう」

涙が出そうな表情で鈴仙は礼の言葉を述べ、

「はぁ、何かある度に師匠に怒られるのは私なのよねぇ。この前だって、てゐがした失敗が何故か私のせいになって師匠に怒られたし。て言うか、師匠だって
てゐのせいだって気付いている筈なのに私が怒られるし。妖怪兎達は全然私の言う事を聞いてくれないし。姫様も師匠も色々と無理難題を吹っ掛けて来るし。
それにこの間だって……」

愚痴を零し始める。
色々と溜まっているからか、一向に愚痴が止まる気配は見られない。
だからと言って鈴仙の愚痴を止め様にも、止めるタイミングが全く見付からなかった。
なので、龍也と三妖精は黙って鈴仙の愚痴が収まるまで待つ事にする。
龍也達が愚痴を黙って聞いているからか、鈴仙の愚痴はどんどんヒートアップしていく。
ヒートアップしていったせいか、愚痴が少しずつ悪口へと内容がシフトしていった。
鈴仙の愚痴の様な悪口の様なものを聞いていた龍也が、流石にこれを本人が聞いたら不味いのではと思った時、

「ふむふむ、成程成程。後でお師匠様に報告してやろーっと」

近くの竹の影からてゐが姿を現し、鈴仙に取って不吉な発言を残して去って行く。
てゐが現れた時点で愚痴を止めていた鈴仙はてゐの残して行った発言をバッチリ聞いてしまったので、

「……って、待てー!!」

大慌てと言った感じで去って行ったてゐを追い掛けて行った。
何やら嵐が過ぎ去って行った感じを龍也が受けている間に、

「ほら、起きなさいよルナ」

何時の間にか寝てしまっていたルナチャイルドをサニーミルクが起こす。

「……ふにゃ? もう朝?」

起こされたルナチャイルドが現状を把握し様とした時、

「そう言えば、お前等は何しに迷いの竹林に来たんだ?」

ふと思い出しかの様に、龍也は三妖精に迷いの竹林に来た理由を尋ねる。

「あ、私達は一寸遊びに来たんです」

尋ねられた事に対し、三妖精を代表するスターサファイアが龍也に自分達が迷いの竹林にやって来た理由を教え、

「あの人が探してた人が見付かったみたいだし、私達もそろそろ帰り……」

鈴仙が探して者も見付かったので、サニーミルクとルナチャイルドにそろそろ帰ろうと言う声を掛け様とした刹那、

「「「ッ!?」」」

近くの茂みからガサガサと言う物音が発生し、三妖精は再び龍也の背後へと隠れた。
茂みから発生した音と三妖精が自分の背後に隠れた事で、龍也は一寸した警戒心を抱きながら茂みに目を向ける。
すると、

「いやー、鈴仙も甘い甘い」

してやったりと言った表情を浮かべたてゐが茂みの中から姿を現し、

「やっほ、お兄さん」

軽い挨拶をしながら龍也に近付いて行く。
そして、

「どうだい、この賽銭箱にお金を入れると良い事が起こるよ」

小さな賽銭箱を取り出し、賽銭箱にお金を入れれば良い事が起こると口にする。

「またか」

口にされた事に龍也はまたかと返しつつ、財布を取り出して小銭を何枚か賽銭箱の中に放り込む。
何の疑いも無くてゐの賽銭箱に小銭を放り込んだ龍也を見て、

「あのー……本当に良い事が起きるんですか?」

若干疑う様な眼差しで本当に良い事が起こるのかと言う疑問をサニーミルクは龍也にぶつけた。
ぶつけられた疑問に真っ先に反応したてゐは、

「失礼な。私の能力は本物だよ」

心外だと言わんばかりの表情を浮かべながらてゐは賽銭箱を仕舞い、

「実際、前にお賽銭を入れてくれた時に良い事が起こったでしょ」

龍也にお賽銭を入れて良い事が起こっただろうと言う確認を取る。
そう言われた龍也は、初めててゐの賽銭箱に小銭を入れた時の事を思い出し、

「あー……良い事と言えば良い事……なのか?」

若干頬を赤く染め、少々曖昧な言葉を漏らす。
龍也も年頃の男なので、あの時の事が全く嬉しくないと言う訳では無い。
とは言え、あれが良い事なのかと問われたら少々首を傾げてしまう。
良い事と嬉しい事は必ずしもイコールで結ばれるとは限らないからだ。
今一つ、はっきりとした答えを龍也が出せなかったから、

「おやおや、あの時の事を思い出しているのかな? お兄さんも男の子だねぇー」

てゐは龍也にからかいの言葉を掛け、

「それじゃ、まったねー」

またねと言う言葉と共に何処かへ去って行ってしまった。
言うだけ言って去って行ったてゐを見届けた龍也は、鈴仙があれだけの愚痴を零していた理由を何となくではあるが理解する。
ともあれ、特にする事が無くなった龍也は気持ちを切り替えるかの様に一息吐き、

「さて……」

寝床を探す為に足を再び動かし始めた。
そんな龍也の後ろを三妖精が付いて来た為、

「ん? 何か俺に用でも在るのか?」

龍也は三妖精に自分に用でも在るのかと聞く。

「良い事が起きるんなら、それを見届けようかと思いまして」

聞かれた事に、サニーミルクがそう答える。
要するに、野次馬根性で付いて来ていると言う事だろう。
まぁ、別に付いて来られても困ると言う訳でも無いので、

「……ま、良っか」

ま、良っかと言う言葉で龍也は済ませる。
それからの道中は、雑談を交えながらののんびりとしたものであった。
のんびりとした雰囲気で移動を始めてから幾らか経った頃、

「あれは……」

何かを見付けた龍也は反射的に足を止める。
急に龍也が足を止めた事で三妖精も慌てて足を止め、

「何か見付けたんですか?」

サニーミルクが何か見付けたのかと言う声を掛けた。

「ああ」

掛けられた声に反応した龍也は肯定の返事を返しつつ、見付けたものに向けて足を進めて行く。
龍也が見付けたものと言うのは、

「光る竹……」

光る竹。
そう光る竹あったのだ。
先程出会った鈴仙が探し求めていた。
竹一本丸々光っている事もあってか、龍也がつい光る竹に目を奪われている間に、

「あ、綺麗」

綺麗と言う感想がルナチャイルドから発せられる。
確かに、綺麗と言う感想が発せられる程に光る竹は綺麗だ。
暫しの間、喋る事を止めて一同が光る竹を見ていると、

「あの光る竹、持って帰れないかな」

唐突に、サニーミルクが光る竹を持って帰れないかと呟く。

「流石に無理じゃない?」
「分けれれば、持って帰る事が出来るんじゃない?」

呟かれた事にスターサファイアが無理ではと言う突っ込みを入れると、ルナチャイルドは分ければ持って帰れるのではと提案する。
ルナチャイルドの提案を受けてサニーミルクとスターサファイアは光る竹を持って帰ろうと言う計画を立て様としたが、

「分けるたって……どうやって?」

どうやって分けるのかと言う疑問がスターサファイアから発せられた事で、三妖精は疑問気な表情を浮かべてしまった。
光る竹をどの様にして持って帰るかに付いて三妖精が頭を悩ませている間に、龍也は自身の力を変える。
青龍の力へと。
力の変換に伴い、龍也の瞳の色が黒から蒼へと変わる。
そのタイミングで龍也は右手から水の剣を生み出し、

「しっ!!」

光る竹に向けて龍也は水の剣を振るう。
すると、光る竹は四つに斬り分けられた。
斬り分けられた光る竹が地面に落ちて行くのを見ながら、龍也は水の剣を消して自身の力を消す。
力を消した事で龍也の瞳の色は蒼から元の黒に戻るのと同時に、龍也は地面に落ちた光る竹を拾い、

「ほら」

拾った竹の内、三つを三妖精に手渡した。
手渡された光る竹を三妖精が受け取った後、

「あ、えと……ありがとうございます」

三妖精を代表するかのサニーミルクが礼の言葉と共に頭を下げる。

「別に良いって。俺もこの光る竹は欲しかったし」

言われた礼に龍也は大した事で無いと返しつつ、改めて手に持っている光る竹を観察していく。
光る竹は斬り分けられた状態ではあるが、発せられている光に少しも衰えは見られない。
これならば、灯りとして使う事も十分に可能であろう。
暗くなって視界が不明瞭な時に毎回朱雀の力を使って炎を生み出す必要も無くなったなと思っている龍也を他所に、

「いやー、本当に良い事が有ったわね」
「わー、綺麗」
「こう言うのを、棚から牡丹餅って言うのよね」

サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアの三人は思い思いの事を口にしていった。






















光る竹を見付けた後、龍也は三妖精と別れて再び寝床を探す為の探索に戻っていた。
その中で、

「しっかし、便利だなこれ」

龍也は手に持っている光る竹に対する感想を漏らす。
朱雀の力で炎を生み出さなくても、十分過ぎる程の明かりを確保出来ている。
月明かりが差し込んでいるとは言えだ。
おまけに、朱雀の力で炎を生み出して明かりを確保している時と違って周囲に炎が飛び火する事を心配しなくても良い。
だからか、龍也は随分とお気楽な表情を浮かべて足を進めていた。
そんな時、

「てゐの奴、何処に行ったのよ……」

疲れが感じられる声色でその様な事を呟きを発しながら鈴仙が竹藪の中から現れる。

「鈴仙」

現れた鈴仙に気付いた龍也は足を止め、鈴仙に声を掛けると、

「あら、龍也じゃ……」

鈴仙も龍也の存在に気付き、龍也に声を掛け様としたが、

「あー!! それ!! その光る竹!!」

完全に声を掛ける前に龍也が手に持っている光る竹に気付いた様で、大きな声を上げながら龍也に詰め寄り、

「それ!! 何処で手に入れたの!?」

何処で光る竹を手に入れたのかと尋ねる。
尋ねて来た鈴仙の勢いがかなりのものであったからか、龍也は気圧された表情を浮べつつ、

「ど、何処って……」

今まで通って来た道を振り返った。
しかし、振り返っても目に映るのは無数の竹ばかり。
光る竹の在る場所は勿論、今まで何処をどうやって歩いて来たのかも分からなくなっていた。
だからか、

「……何処だろう?」

何処だろうと言いながら龍也は首を傾げてしまう。
光る竹の在り処がが分かるかも知れなかったのに結局分からず仕舞い終わって為、

「そんなー……」

がっかりとした感情が思いっ切り伝わる位の勢いで鈴仙は肩を落とし、

「光る竹が見付からないと師匠に何されるか……」

どんよりした雰囲気を漂わせていく。
鈴仙が漂わせている雰囲気を感じ取り、可哀想に思った龍也は、

「ほら、やるよ」

鈴仙に持っている光る竹を差し出す。

「……ふえ!? 良いの!?」

差し出された光る竹を見た鈴仙は希望に満ちた目で龍也を見詰め、良いのかと問う。

「良いよ、別に。俺にはどうしても必要な物って訳でも無いしな」

問われた事に対し、龍也が別に構わないと言う様な事を口にしてくれた事で鈴仙は龍也から遠慮無く光る竹を受け取り、

「本当にありがとう!!」

龍也の手を握って礼を言葉を述べ、頭を下げた。
頭を下げた鈴仙を見て、

「別にそこまで礼を言われる事じゃ無いって。頭を上げろよ」
「そんな事無いわよ!! 光る竹を持って帰れなかったら師匠にどんなお仕置きをされるか……。それに……」

謙遜する様な事を龍也が言うと、鈴仙はそんな事は無いと言いながら頭を上げてそのその理由を説明していく。
尤も、説明が途中で愚痴に変わっていく先の焼き回しの様な事態になったが。
兎も角、一通り喋り追えた事で満足した鈴仙は息を整えながら喋るのを止め、

「改めて、ありがとう。龍也」

改めて礼の言葉を述べ、去って行った。
去って行った鈴仙を見届けた後、

「……永遠亭に泊めて貰えば良かったな」

思い出したかの様に、永遠亭に泊めて貰えば良かったと言う事を零す。
とは言え、今更何を言っても後の祭り。
なので、

「……さて」

気持ちを入れ替えるかの様に龍也は正面を見据え、寝床探しを再開した。























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