龍也が迷いの竹林に入ってから数週間程の時が過ぎたが、龍也は未だに迷いの竹林の中を彷徨っていた。
迷いの竹林はその名の通り非常に迷い易い場所である為、数週間も迷いの竹林から出られないのは当然なのかもしれない。
とは言え、仮に迷いの竹林の辿り着いたとしても龍也は迷いの竹林から出る事は無かったであろう。
何故ならば、まだまだ迷いの竹林を探索していたいと龍也は思っているからだ。
なので、龍也は今までと変わらずに迷いの竹林の探索を楽しんでいた。
そんな感じで迷いの竹林を探索していると、

「……っと、分かれ道か」

分かれ道が視界に映ったので、龍也は一旦足を止めて二つの道を見比べて考える。
どちらの道に進むべきかを。
別にどっちの道を進んで良いのだが適当に決めるのも何か味気が無いと思った龍也は、軽く周囲を見渡していく。
すると、

「お……」

足元に落ち葉が落ちている事に龍也は気付く。
そして、それを視界に入れたのと同時に、

「……そうだ」

何かを思い付いた表情を浮かべて龍也は落ちている落ち葉を拾い、拾った落ち葉を落とす。
落とされた落ち葉は当然の様に、地面に向かって落下して行く。
右へ行ったり左へ行ったりしながら。
左右へ行ったり来たりしている落ち葉は、最終的に左の道の方に落ちた為、

「……左か」

左の道へ進む事を龍也は決め、移動を再開する。
再び移動を再開してから幾らか経った頃、

「ん?」

突如、龍也は足元に違和感を覚えた。
具体的に言うと、地に足を付けている感触が無かったのだ。
地に足を着けている感触が無い事に気付いた龍也は視線を眼下へと向ける。
眼下に視線を向けた龍也の目には、

「……無い?」

足場が無いと言う事実が映った。
要するに穴、落とし穴と言った場所に龍也は居るのである。
その事を龍也が認識したタイミングで、

「うおわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

龍也は落とし穴に落っこちて行ってしまった。
落とし穴に落ちてはしまったが、ここで大人しく地面に激突するのを待っている龍也はでは無い。
落下している中で龍也は体勢を立て直し、足元に霊力で見えない足場を作り、

「らあ!!」

作った足場を思いっ切り蹴り、大きな跳躍を行なって落とし穴から抜け出す。
落とし穴から抜け出した龍也は穴が無い地面に足を着け、自分が落ちた落とし穴を覗き込む。
除き込んだ穴の底が今一つ見えなかったので、

「結構深いな。誰が掘ったんだ?」

結構深いと言う感想と誰が掘ったんだと言う疑問を龍也は抱きつつ、

「普通の人間が落ちたら怪我じゃ……いや、普通の人間はこんな奥深くまで来ないか」

普通の人間がこの落とし穴に落ちたら只では済まないだろうと言う事を思ったが、直ぐに普通の人間ならこんな迷いの竹林の奥地には来ないだろうと思い直した。
確かに、普通の人間なら確固たる目的でも無ければ迷いの竹林の奥地にまでは来ないであろう。
序に言えば、ここまで来れると言う事はそこ等の妖怪程度となら普通に戦える筈。
ならば、この程度の落とし穴に落ちたとしても大事にはならないだろう。
そう考えた龍也は落とし穴に背を向け、

「……さて、行くか」

気持ちを切り替えるかの様に足を進め始めた。





















相も変わらずと言った感じで迷いの竹林の中を彷徨っている中で、

「……ん?」

龍也は何かを見付けた。
見付けたものが気に掛かった龍也は、見付けたものが在る場所へと足を進めて行く。
足を進め、近付くに連れて見付けたものの全貌が明らかになる。
龍也が見付けたものと言うのは、

「永遠亭……か」

永遠亭。
そう、永遠亭であったのだ。
どうやら、龍也は何時の間にか永遠亭の近くにまで来ていたらしい。
まぁ、幾ら非常に迷い易い場所だと言っても数週間も彷徨っていれば永遠亭を見付ける事は出来るだろう。
兎も角、永遠亭にまで来るのは異変の時以来。
折角なので上がらせて貰おうと思った龍也は永遠亭の扉の前まで足を進め、

「すいませーん、居ますかー?」

扉をノックして声を掛ける。
しかし、声を掛けてから少し待っても永遠亭の中から反応が返って来る事は無かった。
若しかして、留守なのではと龍也が思った時、

「どちらさん?」

どちらさんと言う声と共に永遠亭の扉が少し開かれる。
扉を開いた者は、黒い髪に兎耳を生やした女の子。
因幡てゐだ。
てゐの存在を認識した龍也が、

「てゐか」

てゐに声を掛けると、

「ありゃ、お兄さん」

てゐも龍也の存在を認識して扉を完全に開き、

「どうしたんだい?」

どうしたのかと聞く。
聞かれた龍也は、

「近くに寄ったから遊びに来た。上がらせて貰っても良いか?」

端的に永遠亭にやって来た理由を話し、永遠亭に上がっても良いかと尋ねる。
尋ねた事に対し、

「良いよ良いよ。上がって行きなよ」

了承の返事がてゐから返って来たので、龍也は永遠亭の中に入って行く。
永遠亭の中に入った龍也は靴を脱いで廊下に上がり、キョロキョロと周囲を見渡して、

「この前来た時にも思ったが、この屋敷は広いな」

広いと言う感想を零す。

「ここに住んでる私でも広いと思えるから、迷わない様に注意してね」

零された感想にてゐは同意しつつ、迷わない様に注意しろと言う言葉を龍也に掛ける。

「ああ」

迷わない様にと言う注意を受けた龍也が返事をすると、てゐは龍也は背を向けて足を進め始めた。
先に進み始めたてゐの後を追う様にして、龍也も足を動かして行く。
淡々と言った感じで進み始めてから少しすると、二人はとある襖の前に辿り着いた。
すると、てゐは襖を開き、

「ここで寛いでてよ」

襖を開いた部屋の中で寛ぐ様に龍也へと勧める。
勧められた龍也はてゐの方に顔を向け、

「ああ、そうするよ」

部屋の中で寛ぐのを決めたと言う事を伝え、部屋の中に入って行く。
そして、キョロキョロと周囲を見渡すと部屋の中が純和風である事が分かった。
雰囲気的には、阿求の屋敷や白玉楼と似た感じがあるだろう。
阿求の屋敷や白玉楼と言った場所を思い出しながら腰を落ち着かせると、

「……ん?」

何時の間にかてゐが居なくなっている事に龍也は気付いた。
龍也を部屋に案内した後、何所かに行ったのだろうか。
てゐが何処に行ったのかは少々気になるところではあるが、てゐの行方を考えたところで何の意味も無い。
なので、龍也はてゐに言われた通り部屋の中で寛ぐ事にした。
まったり、のんびりとした時間を龍也が過ごし始めてから幾らか経った頃、

「てゐ、居るかしら?」

そんな声と共に襖が開かれる。
襖を開いた者は、

「永琳」

八意永琳であった。
龍也が襖を開いた永琳の存在を認識したのと同時に、

「あら、龍也じゃない。いらっしゃい」

永琳も龍也の存在を認識し、軽い挨拶の言葉を掛ける。
その後、永琳は龍也に近付き、

「行き成りで悪いんだけど、てゐを見なかったかしら?」

てゐを見なかったかと尋ねて来た。

「てゐなら俺をここに案内した後、どっかに行ったぞ」
「あら、そうなの」

尋ねられた事に対する答えを龍也が永琳に教えると、永琳は残念と言った表情を浮べる。
永琳の浮かべた表情を見て、

「何かてゐに用事があったのか?」

てゐに何か用事があったのかと言う事を龍也は永琳に問う。
問われた事に、

「ええ、一寸ね」

永琳は軽い肯定の返事をし、

「てゐが貴方をここに案内したのであれば、またここに戻って来るでしょ」

龍也をここに案内したのがてゐであるのならば、何れここに戻って来るだろうと言う推察を立てて腰を落ち着かせる。
永琳もここで寛ぐ事になったからか、

「そう言えば医療行為をしたり薬を売るとかって言う話、どうなったんだ?」

折角なので、龍也は永琳達が起こした異変の後の宴会で自分が提案して永琳が一考の価値有りと判断した話に付いて聞いてみる事にした。
聞かれた永琳はシレッとした表情を浮かべ、

「医療行為をしたり、薬を売る事にしたわ」

あの時の提案を受け入れたと言う事を口にする。

「どんな風にだ?」
「医療行為……手術や確りとした診断が必要な場合はここ、永遠亭に来て貰う事になっているわね。薬に関しては先ず最初に人里の各家庭に置き薬と
言った感じで薬を一通り揃えた物を置かせて貰うと言う方法を取っているわ」

どんな風に医療行為や薬の売買を行なっているのかが気に掛かった龍也に、永琳はどの様にして医療行為や薬の売買をしているのかを教え、

「定期的に置き薬の在庫を確認して、使った分だけ料金を取ると言うシステムを取っているの」

補足するかの様に、薬の料金接収システムに付いての簡単な説明を行なう。

「へぇー」

中々に斬新な料金接収システムある為、龍也が感心した表情を浮かべていると、

「それだけだとあれだから、週に二、三回程人里の方に直接薬を売りに行くと言う方法も取っているわ」

一般的な方法での薬の販売もしている事を永琳は語った。

「あ、普通の方法で売るって言う事もしてるのか」
「主に鈴仙がだけどね」

普通の方法でも売っている事を龍也が知ったのと同時に、主に鈴仙が販売を担当している事を永琳は述べる。

「鈴仙がか?」
「ええ。あの子、少し人見知りなところがあるから」

販売担当をしているのが鈴仙だと言う事を知った龍也が少し驚いたと言った表情を浮べると、鈴仙に販売を任せた理由を永琳は漏らす。
要するに、この販売で鈴仙の人見知りを直させ様と言うのだ。
しかし、そのせいで鈴仙の人見知りが悪化する可能性も無きにしも非ずだが。
ともあれ、薬の販売に付いて話に一段落着いたからか、

「そう言えば、貴方の言った通りね」

話を変えるかの様に、永琳は龍也の言った通りだと言う事を漏らした。
すると、

「何が?」

何が自分の言った通りなのか分からないと言った表情を浮べてしまう。
そんな龍也に、

「人里の方では医療などの深い知識や技術を持った者が殆ど居ないって話しよ」

永琳は人里では医療などの深い知識や技術を持った者が殆ど居ないと言う話だと口にする。

「……ああ、そう言えばそんな事を言ったなぁ」

口にされた内容を耳に入れた龍也は、嘗ての自分の発言を思い出した。
まぁ、思い出した内容は宴会の時に繰り広げていた話題の一つだったのだ。
瞬時に思い出せなくても無理はない。
兎も角、あの時の話を思い出してくれたからか、

「だから、ありがとう。貴方のお陰で、人里の人達は私達を受け入れてくれたわ」

礼の言葉と共に永琳は龍也に頭を下げた。

「別に良いって、頭を下げられる程の事じゃ……」
「いえ、貴方の出した案のお陰で私達は他所と繋がりを持つ事が出来た。もし、貴方が何も言わなかったら私達は引き篭もっている時と変わらない
生活を送っていたかもしれないわ」

頭を下げて来た永琳に龍也は頭を下げられる程の事じゃ無いと言うが、永琳はそんな事は無いと返す。
この儘ではイタチごっこになりそうだと言う事を龍也は感じ取ったので、

「あー……そうだ。何時か、俺が大怪我したら只で治してくれよ。それでチャラにし様ぜ」

何時か大怪我した時は只で治してくれればそれで良いと言う提案をした。

「……分かったわ。もしその時が来たら、只で完璧に治して上げる」

龍也から出された礼代わりの提案を永琳が受け入れ、顔を上げた時、

「師匠、只今戻りました」

玄関の方から戻ったと言う声が聞こえて来る。

「あら、鈴仙が帰って来たみたいね」

聞こえて来た声から鈴仙が帰って来たのを察した永琳は立ち上がり、

「もう少ししたら夕食の時間だから、貴方も食べて行きなさい。序に、部屋も用意させるから泊まっていくと良いわ」

龍也に夕食を食べ、泊まっていく様に勧めた。
態々自分の手で食べ物を見付け、玄武の力を使って寝床を作る必要性も無いので、

「そうだな、そうさせて貰うよ」

永遠亭で夕食を食べ、泊まる事を龍也は決める。
すると、

「なら、鈴仙に今日はもう一人分追加する様に言ってくるわね」

鈴仙にもう一人分作る様に言って来ると口にしながら部屋を後にした。
再び一人になり、龍也は暇を持て余す事になってしまう。
だが、夕食が出来るまで永遠亭の中を探索すると言った気は龍也には無かった。
何故ならば、永遠亭内を一人で歩き回ったら迷子になってしまう可能性が極めて高いからだ。
なので、

「……ま、ここに来るまでずっと歩きっ放しだったんだ。のんびりしてるか」

龍也は夕食が出来るまで部屋の中で待つ事にした。





















「あ、本当に居たんだ」

永琳が部屋を後にしてから暫らく経った頃、鈴仙がそんな事を言いながら部屋の中へと入って来た。
部屋の中に入って来た鈴仙に気付いた龍也は体を起こし、

「よう」

軽い挨拶の言葉を掛ける。
すると、

「若しかして、前に会った時からずっと迷いの竹林に居たの?」

以前会った時からずっと迷いの竹林に居たのかと言う問いを鈴仙は龍也に投げ掛けた。
投げ掛けられた問いに、

「ああ、そうだ」

龍也は肯定の返事を返す。
あれからずっと迷いの竹林に居た事を知れたからか、

「よく、迷いの竹林で数週間も過ごしてたわね。ある意味尊敬するわ」

呆れた視線を鈴仙は龍也に向ける。
鈴仙からの視線を受けて何となくではあるが居心地の悪さを感じた龍也は、

「そ、それよか俺に何か用か?」

自分に何か用かと言う事を鈴仙に聞く。
聞かれた鈴仙は何かを思い出したかの様な表情を浮かべ、

「そうそう、ご飯が出来たから呼びに来たのよ」

この部屋に来た理由を龍也に説明する。
何時の間にか夕食の時間に成っていた事に龍也は驚くも、直ぐに立ち上がり、

「だったら、早く食いに行こうぜ」

早くご飯を食べに行こうと口にした。
ご飯を食べ様と言って来た龍也の勢いに鈴仙は若干押されるも、

「居間に案内するから私に付いて来て」

ご飯が在る居間に案内するから自分に付いて来る様に言い、龍也に背を向けて歩き出す。
歩き出した鈴仙の後を追う様に龍也も足を進めて行く。
居間へと向かう道中で、

「全く、何時もより多目に作る事になるとは思わなかったわ」

愚痴の様なものを鈴仙が零した為、

「あー……何か悪かったな」

取り敢えず、謝罪の言葉を龍也は発した。
謝罪の言葉が耳に入ったからか、

「……別に良いわよ。作る量が一人分増えた程度、大した手間でもないし」

謝罪される様な事じゃ無いと鈴仙は言い、

「と言うより、姫様や師匠に物凄く手間が掛かるものを作れと言われる事が偶にあるし。それに比べたら軽い軽い」

輝夜や永琳に手間が掛かるものを作れと言われた時と比べたら楽だと口にする。
そんな感じで軽い会話を交わしながら足を進めて行くと居間に着いたので、二人は会話を切り上げて居間へと入って行く。
龍也と鈴仙が居間の中に入ると既に輝夜、永琳、てゐの三人が座って待っていた為、二人は急ぎ足で席に着く。
そして、

「「「「「いただきます」」」」」

五人は食事を取り始めた。





















夕食を食べ終え、少し経った頃、

「ほらほら、もっと飲みなさいよー」

永遠亭でプチ宴会が開かれていた。
いや、正確に言うと輝夜が龍也に絡んでいるだけだが。
序に言うと、永遠亭で立場は一番上である輝夜を永琳、鈴仙、てゐの三人は止める事が出来ないでいた。
兎も角、輝夜に絡まれている現状を省みて、

「どうしてこうなった」

龍也は思わずどうしてこうなったと呟いた。
そんな龍也の呟きを無視するかの様に、

「ほらほらー、この私が酌をしてるんだからもっと嬉しそうな顔をしなさいよー」

少し妖艶さが感じられる笑みを浮かべながら輝夜は龍也の背中に抱き付く。
酔っ払いの相手をしている様な感覚を受けた龍也は、

「あー、はいはい。輝夜姫様に酌されて私は幸せでございますー」

適当にあしらおうと言った感じの言葉を龍也は発する。
しかし、

「全然気持ちが篭ってないわね」

龍也が発した言葉は輝夜のお気に召さなかった様で、輝夜は不満気な表情を浮かべながら龍也から離れ、

「そんな態度を取られるとプライドが傷付くわね」

プライドが傷付けられたと言う言葉を発する。
その言葉が耳に入ったからか、

「……ああ、そう言えば文字通り腐る程の人数から求婚された事があるんだっけか? お前」

嘗て、輝夜が数多の男達に求婚されたと言う事を龍也は思い出した。
と言っても、思い出した内容は外の世界に居た頃に授業で習った程度のもの。
合っているかどうかまでは分からなかったが、

「そうそう。千は軽く超えてたわね」

何処か自慢気な表情を浮かべながら、輝夜は求婚された数は千を超えていると言う事を語った。
どうやら、授業で習った内容は合っていた様だ。
もう少し授業を真面目に受けていたら、上手く輝夜をあしらう事が出来たかもしれない。
と言った可能性が頭に過ぎった為、外の世界に居た頃の自分の授業態度を龍也が軽く悔いていると、

「でも、それだけだった」

何やら神妙そうな表情を浮かべながら輝夜は顔を俯けた。

「……え?」

急に雰囲気を変えた輝夜に龍也が驚いた時、

「結局は私の美貌……言わば体だけが目当て。本当に私の事を想ってくれた人なんて……」

どんどんと輝夜の雰囲気が暗くなっていく。

「お、おい……」

暗い雰囲気を漂わせ始めた輝夜を心配してか、龍也が輝夜に声を掛け様とした瞬間、

「なんちゃって!!」

かなり良い笑顔で輝夜が顔を勢い良く上げ、

「何時の時代も泣き落としは使えるわね」

泣き落としは使えると言う事を言い出した。
言い出された事を理解し、騙された事に気付いた龍也は、

「テ、テメェ……」

輝夜に文句の言葉を叩き付け様としたが、

「ほらほら、怒らない怒らない」

文句の言葉を龍也が発する前に、輝夜は怒らないでと言いながら龍也の杯に酒を注ぎ、

「ちゃんとお詫びもするから」

お詫びをすると口にする。

「お詫び?」

お詫びと言う単語を聞いて龍也が首を傾げると、輝夜は自身の顔を近付けて行く。
急に顔を近付けられた為、

「お、おい……」

龍也は慌て始める。
が、慌てている龍也を無視するかの様に輝夜は自身の顔をどんどんと龍也へと近付ける。
輝夜の顔が近付くにつれ、龍也は顔は赤みを増していく。
そして、

「ちょ、あ、え?」

龍也が完全に慌て始めた刹那、

「ふむふむ、ある一定ライン以上に踏み込むと面白い位に慌てるのね」

してやったりと言った様な表情を浮かべ、龍也から顔を離す。
輝夜が離れて行った事で冷静さを取り戻した龍也は、

「……あ」

理解した。
またやられたと。
翌々考えれば、輝夜は数多の男から求婚された身。
男を手玉に取る方法の一つや二つ、熟知しているだろう。
であるならば、下手に何かを言えば容易く手玉に取られる事は確実なので、

「……はぁ」

何かを言うと言った事はせず、様々な想いが籠められた溜息を龍也は一つ吐いて杯の中にある酒を一気に飲み干していく。
そんな龍也に、

「うふふ、初心ねぇ」

からかうかの様な視線を輝夜は向けた。





















因みに、一泊した龍也は朝食を貰ったら永遠亭をさっさと後にした。
自身の色香を使ってからかって来る輝夜を振り切るかの様に。
余談ではあるが、心の片隅で少し惜しかったかと言う事を龍也が思ったとか思わなかったとか。
























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