龍也が迷いの竹林に突入してから、大体一ヶ月位は経ったであろうか。
如何に迷い易く狙った場所に辿り付く事が困難な迷いの竹林とは言え、一ヶ月もあれば大体の場所は見て回れるであろう。
だからか、龍也はそろそろ他の場所に向かおうと考えている。
なので、迷いの竹林の出口に向けて龍也は足を進めているのだが、

「……出口って何処だ?」

どれだけ足を進めても迷いの竹林の出口に辿り着く事が出来ず、今までと変わらずに迷いの竹林内を彷徨い続けていた。
迷いと言う名が付いているのは伊達じゃ無いな言う事を龍也は改めて思いつつ、足を動かし続けていく。
尤も、空中に上がりさえすれば直ぐにでも迷いの竹林から出る事は出来るだろう。
だが、龍也は空中に上がって迷いの竹林から出ると言う方法は取らなかった。
何故かと言うと、その方法で迷いの竹林を抜けても何か負けた気分になるからだ。
ともあれ、そんな意地を張って歩き続けた結果、

「……もう夜になってたのか」

夜になっても迷いの竹林から出る事が出来ないと言う事態に陥ってしまった。
別段急ぐ旅路では無いとは言え、迷いの竹林から出ると決めたと言うのに出れなかったと言うのであれば格好が付かない。
誰も見ていないと言うのに、龍也はそんな自分自身の格好悪さを隠すかの様に足を止めて空に顔を向ける。
顔を空に向けた事で自身の目に光り輝く満月が映った為、

「そう言えば、一ヶ月程前は偽者の満月だったんだよな」

一ヶ月前の偽者の満月の事を龍也は頭に思い浮かべた。
あの時の満月と今の満月。

「んー……やっぱり違いがある様には見えないな……」

どちらも同じ満月にしか見えず、龍也はつい首を傾げてしまう。
もし、自分が妖怪だったら。
異変の時の偽者の満月と本物の満月の違いが分かったのだろうか。
と言った、もしもの事を龍也は頭に過ぎらせたが、

「……ま、そんな事を思っても意味は無いか」

直ぐに思っていた事は意味が無いものであると悟り、思っていた事を頭の隅へと追いやる。
そして、

「さて……」

気持ちを切り替えるかの様に再び足を動かそうとした時、

「ッ!?」

突如、夜を照らす様な光が発生した。
発生した光に気付いた龍也は、光が発生した方に顔を向け、

「何だ?」

疑問気な表情を浮かべながらその場所を注視する。
すると、然程時間を置かずに再び夜の照らす様な光が発生した。
夜と言う時間帯に夜を照らす様な光が二度も発生したと言う事は、何かが起こっているに他ならない。
何が起こっているのか気になった龍也は、

「……よし」

決意を決めたと言った様な表情を浮かべて跳躍を行い、足元に霊力で出来た見えない足場を作り、

「よっと」

作った足場に足を着け、光が発生した場所へと向かって行った。






















光が発生していた場所に近付くにつれ、爆発音が龍也の耳に入って来た。
爆発音が聞こえて来た事から龍也は誰かが戦っているのではと言う推察をし、進行スピードを上げる。
そして、光が発生したであろう地点に辿り着いた時、

「ッ!!」

龍也の視界の端に人影が映った。
映った人影から腰位までの長さが在る白い髪が見て取れた為、

「あれは……妹紅か?」

映った人影は妹紅ではないかと龍也は考える。
そのタイミングで、何本ものレーザーが映った人影に向かって行った。
レーザーの光で照らされた事で映った人影が妹紅である事を理解したのと同時に、龍也は気付く。
レーザーを受ける側の妹紅が体勢を崩している事に。
この儘では、妹紅はレーザーの直撃を受けてしまう事だろう。
そう思った龍也は一瞬で移動出来る移動術を使って妹紅の前に移動し、

「らあ!!」

迫って来ているレーザーを己が拳で全て叩き落す。
全てのレーザーを叩き落し、龍也が一息吐こうした瞬間、

「貴方……龍也?」

背後から、少し驚いた様な声色で龍也かと言う確認を取る声が龍也の耳に入る。
耳に入って来た声に反応したかの様に龍也は振り返り、

「あ、やっぱり妹紅だった」

やっぱり妹紅だったと零す。
お互いがお互いの存在を確りと認識した後、

「どうしてここに?」

妹紅からどうしてここにと言う問いが龍也へと投げ掛けられる。

「いや、迷いの竹林を探索していたら光源が見えたから何かなと思って」

投げ掛けられた問いに龍也はそう返し、再び前方に視線を戻す。
戻した視線の先には魔理沙の姿が在り、魔理沙は少し驚いた表情を浮かべていた。
魔理沙が浮かべている表情を見て、若しかして弾幕ごっこの邪魔をしてしまったのではと言う可能性が龍也の頭に過ぎる。
何故そんな可能性が頭に過ぎったのかと言うと、つい先程叩き落したレーザーの威力が低かったからだ。
だとしたら、余計な事をしたのかもしれない。
そう龍也が思ったタイミングで、魔理沙の近くに次々と色んな者が集まって来た。
集まって来た者は、アリス、霊夢、紫、藍、レミリア、咲夜、幽々子、妖夢の合計八人。
奇しくも、ついこの前の異変を解決する際に動いていたメンバーだ。
もし、幽香もここに居れば全員集合となっただろう。
ともあれ、色々と集まって来た事で場が少し混沌して来た事を感じた龍也は、

「お前等……揃いも揃ってこんな所で何やってるんだ?」

取り敢えずと言った感じでこんな所で何をやっているんだと魔理沙達に尋ねる。
すると、

「肝試しよ肝試し」

一同を代表するかの様に、霊夢が肝試しだと言う答えを述べた。

「肝試し?」

何で肝試しでレーザーが飛んで来るのかと言う疑問を抱き、首を傾げている間に、

「そ。暇してたら輝夜が神社にまでやって来て、私達に迷いの竹林で肝試しをしないかって言って来てね」
「私達って言うのは、私と霊夢と咲夜と妖夢の事だぜ。私等は最初っから博麗神社に居たんだ」
「それで、肝試しをする為にこの前の異変で組んだ相方を連れて来いって言って来たの」
「龍也さんが居ない事に彼女、少し残念がっていましたが」

どう言った経緯でこの肝試しをする事になったのかと言う理由を霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢の四人が龍也に教える。
どうやら、輝夜は龍也も肝試しに巻き込もうとしていた様だ。
だが、それは出来なかった様ではあるが。
まぁ、輝夜が龍也を巻き込む事が出来なかったのは無理もない。
何せ、龍也は年がら年中幻想郷中を自分の足で旅して回っているのだ。
そんな龍也の居場所を特定し、肝試しに誘うと言うのはかなり厳しいであろう。
仮に龍也が掴まったとしても、あの異変で龍也とコンビを組んだ幽香も掴まったとは限らない。
何故ならば、夏以外の季節は幽香も龍也の様に幻想郷中を彷徨っているからである。
特定の場所に留まる事を知らない二人を同時に捕まえると言うのは、無理難題と言うもの。
なので、どの道今回の肝試しに龍也と幽香を誘うと言う輝夜の企みは叶わなかったであろう。
兎も角、

「成程……」

魔理沙達がどうして迷いの竹林にやって来ているのかと言う理由を知った龍也は納得した表情を浮かべ、

「で、何で妹紅と戦う事になってんだ?」

何故、妹紅と戦う事になってるのかと言う疑問を投げ掛けた。
投げ掛けられた疑問を受け、

「えっと……何でだったかしら?」

霊夢は疑問気な表情を浮かべて首を傾げてしまう。
それに続くかの様に、他の八人も同じ様に首を傾げてしまった。
妹紅と戦う事になった理由はどうでも良いものであったのか、それとも弾幕ごっこをしている最中に忘れてしまったのか。
どちらかのかは分からないが、一つだけ分かっている事がある。
その分かっている事と言うのは、九人から戦意が消えてはいないと言う事。
つまり、魔理沙達はこの儘弾幕ごっこを続ける気であると言う事に他ならない。
となれば、妹紅は一対九での弾幕ごっこをしなければならないと言う事になる。
今後の展開を予想した龍也は息を一つ吐き、

「……で、弾幕ごっこは続ける積り何だろ?」

確認を取るかの弾幕ごっこは続ける気なのだろうと言う疑問を九人に投げ掛けた。

「当然。ちゃんと決着付けないと気分が悪いからな」

投げ掛けられた疑問に九人を代表するかの様に、魔理沙が決着は着けると言う返事をしたので、

「なら、俺は今から妹紅と組ませて貰うぜ」

自分は妹紅と組むと言う宣言を龍也は行なう。
突然とも言える龍也の宣言で、場の空気が驚愕と言ったものに包まれ始めた刹那、

「あら、良いじゃない」

レミリアが好戦的な笑みを浮かべ、

「九対一で戦ってても面白くなかったし、龍也が向こうに付くのであれば面白くなりそうじゃない」

龍也が妹紅の方に付いた方が面白そうだと零す。
レミリアの零した事を聞き、

「確かに、向こうに龍也が加わった方が面白くなりそうだな」
「それでも数の上ではこちらが圧倒的に有利と言う事に変わりはしないけど……少しは躊躇いは無くなるかな」
「ま、肝試しと言う割には大したスリルが無かったからね。向こうに龍也が加わるのであれば、スリルも増すでしょ」
「ふーん……じゃ、龍也が向こう側に付く事で良いのね」

魔理沙、妖夢、咲夜、霊夢から龍也が妹紅側に付く事を歓迎すると言った様な発言が発せられる。
何時の間にか龍也と妹紅が組むと言う事で話が進んでいった為、

「ねぇ、良いの?」

良いのかと言う声を妹紅は龍也に掛ける。
掛けられた声に反応した龍也が振り返り、

「何が?」

何がと言って首を傾げてしまったからか、

「私と組んでも」

自分と組んでもだと口にしながら妹紅は魔理沙達の方に顔を向けた。
魔理沙達の方に顔を向けた妹紅の表情から、妹紅が何を思っているのかを龍也は何となくではあるが察し、

「別に良いって。妹紅とだって知らない仲じゃないし、皆何時もどうでも良い事でも弾幕ごっことかしてるしな。それに……」

気にするなと言う様な事を妹紅に言い、再び魔理沙達の方に体を向ける。
そして、

「九対一って言う状況だけで向こう付く……って言うのはどうかと思うしな」

自分自身の心情を龍也は零し、構えを取った。

「良いの? 向こうの方が圧倒的に有利なのに」
「良いの良いの。俺は妹紅の方に付きたいと思ってるからこっちに付いただけだし」

もう自分と組む気満々と言った龍也に妹紅が念の為と言った感じで確認を取ると、龍也は良いと返しながら顔を妹紅の方に向け、

「それに、向こうの方が有利か何てやってみなきゃ分かんねぇよ」

不敵な笑みを浮かべながら数が多い方が有利かどうかはやってみなければ分からないと言い切る。
何の躊躇いも無く数が多い方が有利とは限らないと龍也が言い切った為、妹紅はポカーンとした表情を浮かべてしまう。
が、直ぐに軽い笑みを浮かべ、

「頼りにさせて貰うわ、龍也」

頼りにしていると言って、背中から炎の翼を生み出した。
不死鳥を思わせる様な翼を。
背中から炎の翼を生やした妹紅を見て、

「おお!! 格好良い!!」

率直な感想を龍也は述べ、今度自分の炎で翼を生み出してみ様かと考える。
同時に、妹紅が炎を扱う事を思い出し、

「妹紅って、炎を使うんだから炎への耐性も相当高い?」

炎を扱うのだから炎への耐性は高いのかと言う事を妹紅に聞く。

「勿論よ。私自身が炎を生み出してる訳だしね」

聞かれた事に妹紅が肯定の返事をすると、

「なら……」

何か決意を固めたかの様な表情を龍也は浮かべ、自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の解放に伴い、龍也の瞳の色が黒から紅に変わった瞬間、

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

龍也は霊力を解放し、力の解放を行なう。
すると、龍也の髪の色が黒から紅に変わって紅い瞳が輝きを発し始める。
急激とも言える龍也の変化に妹紅、そして妖夢、紫、藍以外の面々が龍也に驚きの表情を向けた。
まぁ、それも無理はない。
力を解放した状態の龍也を初めて見たのだから。
兎も角、力の解放が完了したので龍也は霊力の解放を止めて両手から二本の炎の剣を生み出し、

「俺達が互いの技でダメージを受ける事は無いな」

自分達がお互いの技でダメージを受ける事は無い言う言葉を妹紅に掛ける。
二人共炎に耐性が有り、こらからやるのは弾幕ごっこ。
少なくとも、弾幕ごっこで戦う分には龍也と妹紅がお互いの技でダメージを受ける事は無いだろう。
だからか、

「そうみたいね」

同意する返事と共に妹紅は龍也の隣に移動し、構えを取った。
構えを取った妹紅を見た龍也は左手の炎の剣を消し、妹紅と目を合わせる。
龍也と目を合わせた事で、龍也がやろうとしている事を察した妹紅は無言で右腕を前方へと伸ばす。
勿論、龍也もそれに合わせる様に左腕を前方へと伸ばし、

「いくぜ」

妹紅に軽い合図を掛ける。

「ええ」

掛けられた合図に妹紅が反応したタイミングで、龍也と妹紅は伸ばした腕の掌から火炎放射を放つ。
放たれた二つの火炎放射は混ざり合い、一つの巨大な火炎放射となって魔理沙達へと向かって行った。
迫り来る火炎放射を避ける為に魔理沙達はバラバラに分かれていく。
固まっていた九人が分かれたのを確認した龍也と妹紅は顔を見合わせた後、二人は二手に分かれた。
どうやら、龍也と妹紅は各個撃破していこうと言う作戦を立てた様だ。
妹紅と一旦分かれた龍也は、誰が一番近くに居るかを確認し様とする。
その刹那、

「ッ!?」

上空の方から何かを感じ取った龍也は再度左手から炎の剣を生み出し、二本の炎の剣を頭上へと持っていく。
同時に、頭上へと持っていった二本の炎の剣に何かが激突する。
激突したものが何であるかを確認する顔を上げると、龍也の目に真紅の槍が映った。
今弾幕ごっこをしている面々の中で真紅の槍を扱う者の名を、

「レミリアか」

龍也が呟くと、

「正解」

正解と言う言葉がレミリアの口から紡がれた。
やはりと言うべきか、真紅の槍で攻撃を仕掛けて来た者はレミリア・スカーレットであった様だ。
ともあれ、何時までもレミリアの槍を受けていても仕方が無いので、

「らあ!!」

龍也は二本の炎の剣を振り払い、レミリアを弾き飛ばす。
弾き飛ばされたレミリアはクルクルと体を回転させながら体勢を立て直し、龍也と同じ高度で佇み、

「解り切っていた事だけど、初めて戦った時とは比較に成らない程に強くなったわね」

強くなったなと口にする。

「……そいつはどうも」

一応褒められたと言う事で龍也はどうもと返しつつ、構えを取り直す。
構えを取り直した龍也に合わせるかのレミリアも構えを取り、

「色々と変則的な弾幕ごっこではあるけど……こうやって、貴方と戦うのはこれで二度目になるのかしら?」

龍也と軽い会話を交わそうとする。
レミリアの狙いは分からないが、会話を交わす事でレミリアの出方を伺う事が出来るので、

「そうだな……萃香が起こした異変の時にも戦ったけど、あれは俺のスペルカードのテストに付き合って貰っただけだからな。ま、これが二度目の戦いで
良いと思うぜ」

用心しつつも、龍也はレミリアと会話を交わす事にした。

「そうだったわね。パチェの図書館で、貴方の新作スペルカードのテストに付き合ったんだっけ」
「ああ、あの時は助かったぜ。ありがとな」
「どういたしまして。それにしても、あのテストで図書館……取り分け本に被害が出なくて良かったわ。もし被害が出ていたら、パチェが怒っていた
でしょうね」
「だろうな。ま、弾幕ごっこで……だったから本に被害が出る可能性は低かったろうけど」
「そう言えば、前に貴方がフランと戦った時は図書館が酷い事になってたわねぇ。あの後、暫らくパチェの機嫌が悪かったわ」
「そうだったなぁ……」

暫しの間、レミリアと龍也は他愛の無い会話を交わしていたが、

「それはさて置き、龍也。私のものにならない?」

レミリアは唐突に会話を打ち切り、何時もの様に自分のものにならないかと龍也に言う。

「悪いが、断る」

レミリアから言われた事にお約束の様に断ると返すと、レミリアは右手で真紅の槍を数回程回転させ、

「あら、残念。それなら偶には趣向を変えて……私の力を貴方に見せ付けて屈服させ、私に永遠の忠誠を誓わせて上げるわ」

真紅の槍を龍也に突き付けながら宣戦布告をし、構えを取り直した。
今まで通りのやり取りで違う答えが返って来た事に龍也は少し驚くも、

「そう簡単に……俺は膝を折らねえぞ」

直ぐに不敵な笑みを浮かべ、そう簡単に膝を折る事は無いと言う意思をレミリアに伝える。
お互い言いたい事を言い終えたからか、龍也とレミリアは睨み合いながら間合いを詰めて行く。
そして、ある程度間合いが詰まった辺りで、

「「ッ!!」」

龍也とレミリアは空中を駆けるかの様に一気に間合いを詰め、自分の得物を相手の得物に激突させた。
それにより、二本の炎の剣と真紅の槍による鍔迫り合いの様なものが開始される。
鍔迫り合いが開始されてからは少しの間は均衡状態を維持していたが、

「ぐ……」
「ふふ……」

少しすると、二本の炎の剣は真紅の槍に押され始めてしまった。
劇的な早さでと言う訳では無いが、少しずつではあるが真紅の槍は龍也の体へと近付いていく。
真紅の槍が龍也の体に近付いていくのを見ているレミリアは軽い笑みを浮かべ、

「あら、随分と強くなった様だから前に戦った時よりもずっと力を籠めてみたのだけど……強過ぎたかしら?」

挑発を行なう。
行なわれた挑発に反応した龍也は口元を吊り上げ、

「舐めるな!!」

舐めるなと言い放ちながら霊力を解放し、自身の力を底上げして真紅の槍を押し返す。
今までとは逆に今度は二本の炎の剣が真紅の槍を押し、レミリアへと近付いていく。
どんどんと迫って来る二本の炎の剣を見て、

「そうよ、そうでなくてはね!!」

レミリアも口元を吊り上げて魔力を解放させる。
すると、二本の炎の剣の進行が止まって再び均衡状態へと戻った。
解放されている霊力と魔力がぶつかり合い、その余波で下方に在る竹林が嵐が来たかの様に激しく揺れ動き、

「あ……」

レミリアの帽子が吹っ飛んで行ってしまった。
吹っ飛んでしまった帽子にレミリアは一瞬だけ意識を向けたが、直ぐに意識を龍也の方へと戻す。
その瞬間、龍也とレミリアは弾かるかの様に間合いを開けて息を整えていく。
息を整えていく過程で龍也とレミリアは霊力と魔力の解放を止め、

「「ッ!!」」

再び一気に間合いを詰めて激突した。
但し、今度は鍔迫り合いではなく剣と槍による応酬。
龍也とレミリアは物凄いスピードで斬撃と刺突を繰り出し、繰り出されたそれを己が得物で防いでいく。
何度も、何度も。
まるで永遠に続くかの様な攻防に痺れを切らしたからか、レミリアは少々強引さが感じられる動きで後方へと跳び、

「そら!!」

超スピードで龍也に突っ込みながら強烈な突きを放つ。
行き成り攻撃パターンを変えられた事で龍也は虚を突かれた様な表情を浮かべたが、反射的に二本の炎の剣を交差させ、

「ぐう!!」

真紅の槍による突きを受け止める。
だが、完全に受け止め切る事が出来なかった様で、

「ッ!?」

龍也はレミリアに押される形で後ろへと下がって行ってしまう。
これを好機と見たレミリアは一気に攻め立てる事にし、

「はあ!!」

攻め立てる為の前段階と言わんばかりに突きを放っている腕に力を籠め、

「ぐあ」

龍也を突き飛ばす。
無論、これだけでは終わらない。
突き飛ばした龍也に追撃を掛ける為、レミリアは龍也を追う様に突っ込んで行く。
突き飛ばされている中でレミリアの接近に気付いた龍也は強引に体勢を立て直し、急ブレーキを掛ける。
急ブレーキを掛け、何とか停止した事に一息吐くも束の間、

「ッ!?」

何かを感じ取った龍也は反射的に体を逸らす。
すると、

「あら」

龍也の腹部僅かを前方を真紅の槍が通過していった。
もし、体を逸らしていなかったら。
確実に真紅の槍による直撃を受けてしまっていた事であろう。
兎も角、今の一撃を避けられると思っていなかったレミリアは少し驚いた表情を浮かべてしまった。
が、直ぐに浮かべている表情を好戦的なものに変えて急停止しながら龍也の方に体を向け、

「しっ!!」

真紅の槍による刺突を繰り出す。

「ッ!!」

繰り出された刺突を龍也が慌てた動作で避けた瞬間、

「安心するのはまだ早いわよ!!」

再度、レミリアから刺突が放たれる。
しかも、今回の刺突は単発ではなく連続。
傍から見たら、槍が増殖したかの様に見えるスピードで。
一瞬でも気を抜けば簡単に直撃を喰らいそうなラッシュを、龍也は何とかと言った感じで避けていく。
体の位置をずらし、逸らしたりしながら。
何とかレミリアの攻撃を避ける事は出来ているが、この儘ではジリ貧だ。
なので、龍也は必死になって反撃のチャンスを探っていたが、

「……くそ!!」

見付からなかった。
不用意に反撃し様ものなら、確実に真紅の槍によるラッシュをその身で受ける事になるであろう。
全くと言って良い程に隙が見付からなかった為、小さな苛立ちを抱き始めた時、

「…………ん?」

龍也はある事に気付く。
気付いた事と言うのは、レミリアの動きに付いていけていると言う事。
もし、レミリアの動きに付いていけていなかったとしたら。
とっくの昔に真紅に槍によるラッシュをその身に受ける事になっていただろう。
ともあれ、レミリアの動きに付いていける事に気付いた龍也は、

「………………………………………………………………」

回避行動を取りつつ、ラッシュを放っているレミリアの腕の動きを注視していく。
そして、

「……そこ!!」

左手の炎の剣を消しながら左腕を伸ばし、突きのラッシュを放っているレミリアの腕を掴んで強制的にラッシュを止める。

「ッ!?」

腕を掴まれてラッシュを止められたレミリアは、思わず驚きの表情を浮かべてしまった。
それを合図にしたかの様に、龍也は右手の炎の剣で斬撃を放つ。
斜め右下から斜め左上へと一気に振り払う様に。
振るわれた炎の剣がレミリアの体に当たる直前、

「ッ!!」

龍也は攻撃を急遽止め、レミリアの腕から自分の手を放して後ろへと跳ぶ。
その刹那、龍也の体が在った場所にナイフが十数本通過して行った。
通過して行ったナイフを見た龍也は誰が乱入して来たかを理解し、

「咲夜か」

つい、ナイフを投擲して来たであろう者の名を口にする。
龍也が口にした名は正しかった様で、

「良く避けたわね」

投擲したナイフを避けた事を称賛する様な台詞を言いながら咲夜はレミリアの隣に現れ、

「ご無事ですか、お嬢様?」

レミリアの安否を確認しに掛かった。

「ええ、無事よ」

安否の確認をされたレミリアは無事だと返し、

「先程の援護、良いタイミングだったわよ」

援護攻撃をした咲夜を称賛する。

「恐縮です」

レミリアからの称賛を受けた咲夜は恐縮だと言いながら頭を下げ、

「お嬢様、私も龍也と少し戦いたいのですが宜しいでしょうか?」

自分も龍也と戦いたいのだが宜しいかと問う。

「ふむ……」

そう問われたレミリアは少し考える素振りをし、

「良いわ、戦って来なさい」

戦っても良いと言う許可を出す。

「ありがとうございます、お嬢様」

龍也と戦っても良いと言う許可を出された事で咲夜は礼の言葉を述べながら頭を上げ、龍也の方に向き直りながら太腿に装備しているナイフを二本抜き取り、

「ッ!!」

抜き取った二本のナイフを両手で構え、龍也へと肉迫して行く。
咲夜の接近に反応した龍也は左手から再び炎の剣を生み出し、

「らあ!!」

近付いて来ている咲夜を迎撃する為に右手の炎の剣を振るう。
振るわれた炎の剣を咲夜は大きく跳躍するかの様な動きで避けた。

「ちっ!!」

繰り出した攻撃を避けられた事で龍也は舌打ちしつつ、咲夜を追う様に体を動かす。
跳躍するかの様な動きで回避行動を取った咲夜は龍也の反対側の方へと移動し、

「しっ!!」

超スピードで龍也の懐へと入り込んでナイフを振るう。
振るわれたナイフに反応した龍也は咄嗟に左手の炎の剣でナイフを受け止める。
振るったナイフを受け止められた咲夜は不敵な笑みを浮かべ、

「ま、これ位は出来て当然ね」

今の攻撃を受け止められたのは想定の範囲内と言わんばかりの台詞を呟き、

「せい!!」

ハイキックを龍也の脇腹に叩き込む。
叩き込まれたハイキックの速度はつい先程振るわれたナイフよりも遥かに速かった為、

「ぐあ!!」

ハイキックの直撃を受け、龍也は吹っ飛んで行ってしまう。
吹き飛んでいる最中に龍也は強引に体を回転させて体勢を立て直し、顔を上げた瞬間、

「ッ!?」

何本ものナイフが迫って来ているのが目に映った。
おそらく、ハイキックを叩き込んだ直後に咲夜がナイフを投擲したのだろう。
そう思考しながら龍也は炎の剣を振るって迫り来るナイフを全て薙ぎ払い、

「ッ!!」

振り返りながら後ろへと跳ぶ。
後ろへと跳んだ龍也の目には、自分の体が在った場所にナイフを振るっている咲夜の姿が映った。
どうやら、投擲したナイフを目晦ましにして龍也の背後に回った様だ。
それはさて置き、不意打ちとも言える攻撃を避けられた咲夜は二本のナイフを構え直し、

「しっ!!」

龍也に突っ込みながら超速でナイフを振るっていく。
次から次へと振るわれるナイフを龍也は二本の炎の剣を使って防いでいくが、

「ぐ……」

直ぐにこの儘では防ぎ切れなくなると言う事を悟る。
"時間を操る程度の能力"が有るからと思われがちだが、別に能力を使わなくても咲夜はかなりスピードが速い方だ。
少なくとも、斬撃の速度では今の龍也を上回る程度には。
兎も角、咲夜のナイフによる攻撃を二本の炎の剣で防いでいる龍也は考える。
どうしたものかと。
単純な方法として、スピード負けているのならスピードで対抗出来る様に自身の力を白虎の力に変えると言うものがある。
しかし、咲夜が振るって来るナイフを必死になって防いでいる現状で力の変換は自殺行為に等しい。
もし、力の変換を今行なったとしたら力の変換が完了する前に咲夜のナイフが龍也の体を捉える事になるだろう。
何故ならば、力の変換にはある一定の時間を必要とする事と力の変換が完了するまで無防備になってしまうと言うリスクが存在するからだ。
となれば、朱雀の力の儘で現状を打破しなければならない。
と言った結論を下した龍也は、炎の剣とナイフが激突していく瞬間瞬間に意識を集中させていく。
意識を集中させる対象をナイフを振るう咲夜から炎の剣とナイフが激突する瞬間に変えた為、

「ぐう!?」

龍也は一気に咲夜の攻撃に押し込まれる形となってしまう。
これで炎の剣による防御をナイフが突破するまでの時間が圧倒的に早くなってしまったが、

「……今だ!!」

リスクに対するリターンを得る事が出来た。
得たリターンと言うのは炎の剣とナイフが激突する瞬間を見切ったと言うもの。
そして、得たリターンを直ぐに活用すると言った感じで龍也はナイフと激突した炎の剣の刀身部分を爆発させた。
炎の剣とナイフが激突した瞬間に激突部分が爆発を起こした事で、

「きゃあ!!」

咲夜が振るったナイフは弾き飛ばされ、咲夜は大きく体勢を崩してしまう。
その隙を突くかの様に、

「らあ!!」

爆発を起こさせていない方の炎の剣で、龍也は刺突を繰り出した。
並大抵の者ならば今繰り出した炎の剣による刺突の直撃を受けたであろうが、そこは咲夜。

「くう!!」

刺突の進行方向上に弾き飛ばされていない方のナイフを持って行き、炎の剣による刺突をナイフの腹で受け止める。
ナイフを盾にしたお陰で直撃は避けられたが、突き出される様な形で咲夜は吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされた咲夜が急ブレーキを掛けて体勢を立て直した時には既に龍也も体勢を立て直していた。
お互い体勢を立て直した事を理解した咲夜と龍也の二人は、

「今ので決める積りだったんだけど……便利な剣ねぇ、それ」
「ま、この剣は炎そのものだからな。爆発させる位、訳ねぇよ」
「成程。序に言えば、炎の剣に限らず貴方の炎は貴方自身が生み出しているもの。幾ら壊れた処で、修復は容易と言う事ね」
「そう言う事だ」
「全く、羨ましいものね。私のナイフにも修復能力が欲しいわ」
「ああ、ナイフって戦いに使うと刃毀れとかしそうだなもの」
「するわね、刃毀れ。でも、霊力でナイフの刀身をコーティングしていると大分刃毀れを押さえられるのよね」
「って事は、今もナイフの刀身を霊力でコーティングしてるのか?」
「ええ、してるわね。と言っても、この戦いは弾幕ごっこだから切れ味を上げる為ではなく切れ味を落とす為のコーティングをしているのだけどね」
「へぇー、コーティングの仕方でそう言った変化を付けられるのか。器用だな」
「貴方の空の飛び方の方がよっぽど器用だと思うんだけどね」

軽い会話を交わしながら相手の出方を伺っていく。
と言っても、攻め込む隙と言ったものは見付からなかったが。
取り敢えず、会話をしながら相手の出方を伺うと言う事に意味は無いと龍也と咲夜が感じた時、

「咲夜、そろそろ私と代わって貰えないかしら?」

自分と代わってくれくれないかと言う台詞を口しながらレミリアが咲夜の隣に現れる。
咲夜の本音としてはもっと龍也と戦っていたかったが、主であるレミリアに代わってくれと口にされたら代わらざるを得ない。
若干の名残惜しさを残した表情を咲夜は浮かべ、

「御意」

構えを解いて一歩後ろに下がった。
咲夜が後ろに下がり、前に出る事となったレミリアは楽しそうな表情を浮かべながら懐に手を入れ、

「私のラッシュと咲夜の連撃を上手く避け、捌いた様だけど……こもれ避ける事が出来るかしら?」

懐からスペルカードを取り出し、真紅の槍を肥大化させて輝きを発しさせる。
そして、レミリアは体を大きく反らし、

「神槍『スピア・ザ・グングニル』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動した瞬間、

「痛ッ!?」

龍也の左肩に何かが掠る。
全くと言って良い程に反応出来なかった事に龍也は驚きつつ、改めてレミリアを注視した。
注視するとレミリアが何かを投擲した体勢を取っている事と、レミリアの手に在った真紅の槍が消失しているのが龍也の目に映る。
十中八九、龍也の左肩を掠ったのはレミリアが持っていた真紅の槍であろう。
投擲速度がとんでもないと言う感想を龍也が抱いていると、

「あら、掠っただけか。直撃すると思っていたんだけどね」

投擲した真紅の槍が直撃しなかった事が不満だと言いながらレミリアが体勢を戻した時、

「お嬢様が投擲する直前に龍也が僅かですが体を動かしていました。直撃しなかったのはそのせいかと」

咲夜はレミリアに龍也が真紅の槍を掠らせる程度で済ませる事が出来たのは、真紅の槍が投擲される直前で回避行動を取ったからだと言う事を教える。

「成程」
「咄嗟に動けたのは運でしょうか? 龍也の反応を見るに、お嬢様が投擲された槍を捉えていた訳では無さそうですが」

咲夜から教えられた内容を頭に入れたレミリアが納得したと言った表情を浮べると、咲夜は龍也が投擲された真紅の槍を避ける事が出来たのは運かと聞く。
聞かれた事に対し、

「いえ、おそらく今までの戦闘経験か本能のどちらかが龍也の体を動かしたのでしょう」

運ではなく戦闘経験か本能のどちらかが龍也の体を動かしたのだろう返す。
返された内容を理解した咲夜と二人の会話を耳に入れていた龍也は納得したと言った表情を浮かべた。
咲夜だけではなく、真紅の槍の直撃を避けた当の龍也も納得した表情を浮かべたのだからレミリアが返した事は正しいのだろう。
兎も角、必殺とも言える一撃を避けられたレミリアは仕切り直しと言った感じ右手から新たな真紅の槍を生み出して構えを取り直す。

「………………………………………………」

構えを取り直したレミリアを見て、龍也も構えを取り直したタイミングで、

「危ないじゃないか!! こっちにも当たるところだったぜ!!」

龍也の後方から魔理沙が文句の言葉を発しながら現れた。
どうやら、レミリアが先程投擲した真紅の槍の射線上に魔理沙が居た様だ。
ともあれ、一応味方の攻撃に当たりそうになったのだから魔理沙の怒りは当然と言うもの。
そんな怒りを抱いている魔理沙に向け、

「あら、それは悪かったわね」

欠片も申し訳無いと思っていない表情でレミリアは謝罪を行なう。
行なわれた謝罪に罪悪感と言うものが全く感じられなかった魔理沙は苛っとした表情を浮かべながら懐に手を入れる。
魔理沙から殺気の様なものを感じた龍也が振り返ると、懐に手を入れている魔理沙が予定調和だと言わんばかりの動作で懐からスペルカードとミニ八卦炉を取り出し、

「恋心『ダブルスパーク』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると魔理沙をミニ八卦炉を持っている手と何も持っていない手を前方に突き出し、両手から極太レーザーを放つ。
放たれた極太のレーザーを見て、今のスペルカードはマスタースパークを二つ放つ技なのかと言う事を龍也は考えつつ、

「って、ボサッとしてる場合じゃねぇ!!」

慌てて一瞬で移動出来る移動術を使って今居る位置よりも高い場所へと移動する。
一瞬で移動出来る移動術を使ったお陰で二つの極太レーザーを避けれた龍也が安心している間に、

「一寸、危ないじゃない!!」
「ああ、それは悪かったな」
「……欠片も悪いとは思ってないわよね、貴女」
「それは気のせいと言うやつだぜ、きっと」
「きのせい……ね。なら今の二つのマスタースパーク、私を狙っていた様に感じられたのも気のせいかしら?」
「おう、気のせい気のせい」

レミリアと魔理沙の二人が龍也の下方で言い合いを始めた。
まぁ、味方の攻撃を喰らいそうになったのだ。
先程の魔理沙と同様、怒るのは当然と言うもの。
余談ではあるが、口に出す様な事はしていないが咲夜も魔理沙に怒りの感情を向けていた。
咲夜はレミリアの近くに待機していたのだから、レミリアと同じ様に二本の極太レーザーを喰らいそうになったのだろう。
これならば同士討ちを狙えるのではと龍也が思った刹那、

「……っと」

背中に何かが当たった感触を龍也は覚えた。
何が当たったのかを確認する為に顔を後ろに向けた龍也の目に、

「妹紅」

背中を向けている妹紅の姿が映る。

「あ、龍也」

当たったものの正体に龍也が気付いたのと同時に、妹紅も自身の背中の先に居るものが龍也である事に気付く。
取り敢えず妹紅と合流出来たので、

「そっちはどうだった?」

そっちはどうだったと龍也は妹紅に尋ねる。

「駄目ね。皆、一筋縄ではいかないわ。そっちは?」

尋ねられた妹紅は手古摺っていると言う様な事を龍也に伝え、そっちこそどうだったのかと尋ね返す。

「俺も同じだ」

尋ね返された事に、龍也はこっちも同じだと言う。
龍也と妹紅の二人が戦っている九人は、皆が相当な実力者だ。
そう簡単に倒す事が出来ないのは当然だろう。

「さっきの火炎放射で各個撃破するって作戦だったんだがな……」
「そう上手くはいかないものね。とは言え、一緒に組んで戦っても二対九になっちゃうし」
「なら、また分かれて各個撃破に移るか?」
「となると、また相手を分断する必要が在るわね。私達が集まっている様に、向こうも集まって来ているし」

合流した序に一寸した作戦会議を龍也と妹紅が開いている間に、

「魔符『アーティクルサクリファイス』」

何処からか、スペルカードを発動した声が二人の耳に入って来た。
スペルカードが発動されたと言う事は、強力な攻撃が来ると言う事。
だからか、龍也と妹紅は作戦会議を一旦中断して何処からスペルカードが発動されたのかを探す為に顔を動かそうとした時、

「「ッ!?」」

二人の間に一体の人形が現れ、現れた人形が大爆発を起こした。
発生した爆発に飲み込まれた龍也と妹紅の二人であったが、直ぐに爆発の中から飛び出して爆発が発生した地点から距離を取る。
距離を取った二人が軽く息を整えていると、

「やっぱり、炎そのものは無効化出来ても爆発の衝撃までは無効化出来ない様ね」

炎そのものは無効化出来ても爆発の衝撃までは無効化出来ない様だと言う声が何処からか聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した龍也と妹紅が声が発せられた方に顔を向けると、二人の目にアリスの姿が映る。
となれば、龍也と妹紅に爆発する人形を投げ込んだのはアリスと言う事になるだろう。
それはさて置き、アリスの頭の回転はかなり速い。
弾幕ごっこに限らず戦いに関してはブレインを信条としているので、アリスの頭の回転が速いのは当然と言うもの。
この儘では自分と妹紅に対する何かしらの対抗策を考え出すのも時間の問題かと言う事を龍也が考えている間に、分断していた相手側のメンバーが一箇所に集まり始めた。
但し、集まったと言っても未だ口喧嘩を魔理沙とレミリアを除いたとしても最初から組んでいた者同士以外で纏まりがある様には見えない。
紫と幽々子を除いてだが。
余談ではあるが、紫と幽々子の頭は相当良い方だ。
となると、上手い事全員を纏めて二対九の状況に場を持っていく可能性は十二分に在る。
二対九で戦うのはどう考えても分が悪い為、早々に相手を分断し様と言う事を伝える為に龍也は妹紅の方に顔を向けた。
すると、妹紅も龍也の方へと顔を向ける。
お互い同じタイミングで顔を向け合った事に龍也と妹紅は少し驚くも、

「良いか?」

炎の剣を片方を消しながら龍也が妹紅一声掛けたタイミングで、

「ええ」

妹紅からええと言う言葉が返って来たので、直ぐに頷き合って二人は懐に手を入れながら向け合っていた顔の位置を戻す。
そして、龍也と妹紅は懐からスペルカードを取り出し、

「炎鳥『朱雀の羽ばたき』」
「不死『火の鳥-鳳翼天翔-』」

取り出したスペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると大きな炎の鳥が大量の炎の弾幕を追従させる様にして突っ込んで行き、その後ろを少し小さな炎の鳥が追う様にして突っ込んで行く。
因みに、小さな炎の鳥が通った場所に炎の弾幕が現れて左右にばら撒かれている。
正面から突っ込んで来る二羽の炎の鳥にばら撒かれる無数の炎の弾幕を目にした九人は、四方八方へとバラバラに散開して行った。
散開した面々を龍也は目で追いながら一番近い位置に居る者に狙いを付け、狙いを付けた者に一気に近付き、

「らあ!!」

消していた片方の炎の剣を再度生み出し、再度生み出した炎の剣を振るう。
炎の剣が振るわれた事に気付いた者は、

「くっ!!」

己が刀で受け止める。
振るった炎の剣を刀で受け止めた事から、

「妖夢か」

狙いを突けた者が妖夢であると言う事を龍也は理解した。

「龍也さん」

妖夢の方も斬り掛かって来た者が龍也である事を理解し、押し切られない様に自身の刀である楼観剣に力を籠め様としたが、

「ッ!!」

瞬時に力を籠めるのを止めて後ろに下がる。
何故後ろに下がったと言うと、炎の弾幕の一部が妖夢の方へと向かって行ったからだ。
幾らスペルカードによる攻撃と言えど、互いの得物をぶつけ合っている状態で少しでも余計なダメージが入ったら押し切られる可能性が高くなってしまう。
更に言えば朱雀の力を使っている龍也や妹紅と違って妖夢は炎に対する耐性がある訳でも無い。
ここで炎の弾幕を受けたら、ダメージを受けた際に生じる衝撃と炎による熱で戦いのペースは龍也に握られるのは確実。
相対している龍也だけではなく周囲も警戒しなければならない為、妖夢が気を引き締めた刹那、

「らあ!!」

妖夢に向けて龍也が炎の剣を振り下ろした。

「ッ!!」

振り下ろされた炎の剣に反応した妖夢は咄嗟に楼観剣で炎の剣を受け止め、

「はあ!!」

受け止めた炎の剣を楼観剣で弾き、弾いた勢いを利用して楼観剣を振るう。
迫り来る楼観剣を龍也は炎の剣で受け止めたが、

「ぐう!!」

勢いが乗った楼観剣が予想以上に重かった為、龍也は少し体勢を崩してしまった。
それを好機と判断した妖夢は追撃を掛け様とする。
しかし、

「くう!!」

また炎の弾幕が迫って来た為、妖夢は攻撃を中断して後ろに下がった。
こうも攻撃を中断させられる現状に妖夢は苛立つも、直ぐに苛立ちを収め様と軽い深呼吸を行なう。
炎の弾幕が邪魔で上手く攻撃が出来ないのは龍也も同じと思われるかもしれないが、実はそうではない。
炎に対する耐性が在る龍也は炎の弾幕を受けてもダメージだけで済むが、妖夢の場合はダメージだけではなく熱も受けてしまう。
つまり、只ダメージを受ける龍也と熱とダメージを受ける妖夢とでは立ち直りの早さに差がでるのは必至。
故に、妖夢は落ち着きを取り戻そうとしたのだ。
同じタイミングや自分だけが炎の弾幕を受けると言うのを避ける為に。
龍也だけに意識を向ける事が出来ない状況で、龍也に勝たなければならない。
改めて妖夢が気合を入れ直した瞬間、

「ッ!!」

何者かが龍也の真横から己が爪で龍也に攻撃を仕掛けて来た。
突然の第三者による攻撃に反応した龍也はその攻撃を炎の剣で受け止め、自分に攻撃を仕掛けて来た者が誰かを確認しに掛かる。
確認した結果、

「藍」

自身に攻撃を仕掛けて来た者が藍である事が分かった。
襲撃者の正体を龍也が理解している間に、

「忘れてないかい? 君と彼女に炎に対する耐性が有る様に、私にも炎に対する耐性が有ると言う事を」

龍也と妹紅の二人と同じ様に自分にも炎に対する耐性が有る事を忘れたのかと言う言葉を藍は龍也に掛ける。
掛けられた言葉で、

「……ッ」

龍也は思い出す。
藍が狐火と言う炎系統の技を使う事を。
龍也が自分の使う狐火に付いて思い出したのを察した藍は、

「思い出して貰えた様だね」

軽い笑みを浮かべ、

「要するに、私が炎の弾幕が当たった際のリスクは君と同じと言う事だ」

炎の弾幕を受けた際のリスクを同じだと断言し、己が腕に力を籠め、

「くっ!!」

龍也を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた龍也ではあるが、瞬時にブレーキを掛けながら体勢を立て直す。
龍也が止まり、完全に体勢を立て直した時には藍との距離が結構離れていたからか、

「妖夢、ここは私に任せてくれないか?」

藍は妖夢に自分に任せてくれないかと聞く。
出来る事なら龍也とは自分が戦いと妖夢は思っているが、今は一応チーム戦。
優先すべきは私情ではなくチームの勝利。
となれば、現状で龍也の相手は龍也と同条件で戦える藍に任せるのが得策であろう。
そこまで考えた妖夢は幾らかの躊躇い見せながら構えを解き、

「解りまた」

了承の返事と共に妖夢は後ろへと下がった。
後ろへと下がった妖夢がある程度距離を取ったのを感じ取った藍は構えを取ってジリジリと龍也との間合いを詰めて行く。
それに気付いた龍也は構えを取り直して藍と同じ様にジリジリと間合いを詰める。
ジリジリと間合いを詰め、龍也と藍の距離がある程度縮まった瞬間、

「「ッ!!」」

二人は一気に間合いを詰めて己が得物を振るう。
振るわれた得物である炎の剣と爪は激突し、鍔迫り合いの様な形になると、

「そう言えば、こうやって君と戦うのは久しぶりだね」
「そういや……そうだな」
「最近の調子はどうだい?」
「俺か? 楽しくやってるよ。そっちは?」
「私もだよ。ま、紫様の変な思い付きなどが無ければもっと良いんだけどね」
「中々苦労してるみたいだな」
「それなりにね……ああ、誤解が無い様に言って置くが紫様は素晴らしい御方だよ」
「……けど、紫の命令で勘弁してくれって言うのは結構あるだろ」
「いや、まぁ、それはその……」
「……苦労してるんだな」
「……うん」

藍と龍也は軽い会話を交わしていく。
が、二人は直ぐに会話を中断して後ろに跳んだ。
何故かと言うと、鍔迫り合いをしている最中に龍也と藍の元に炎の弾幕が迫って来たからである。
後ろに跳んだ事でまた距離が離れてしまったが、二人は直ぐに再び一気に間合いを詰め、

「「はあ!!」」

自分の得物である炎の剣と爪を激突させた。
しかし、今度は鍔迫り合いをしたりはせずに得物をぶつけ合ったら直ぐに離れて再度激突すると言う方法を二人は取り始める。
幾らダメージは最小限に抑えられるとは言え、炎の弾幕を受ける事は二人共避けたい様だ。
兎も角、龍也と藍は激突と離脱を繰り返していく。
何度も、何度も。
一進一退とも言える様な攻防を龍也と藍が繰り広げている中、唐突に、

「境符『波と粒の境界』」
「死蝶『華胥の永眠』」

少し遠くの方からスペルカードを発動する声が龍也と藍の耳に入って来た。
誰かがスペルカードを発動した事を理解した龍也と藍は一旦止まり、声が聞こえて方に顔を向ける。
顔を向けた二人の目には、紫と幽々子の姿が映った。
どうやら、スペルカードを発動したのは紫と幽々子の二人であった様だ。
スペルカードを発動した者が紫と幽々子である事を龍也と藍が理解したのと同時に、紫と幽々子から弾幕が放たれる。
紫は自身を護る様に展開されている弾幕を、幽々子は自身を護る様に展開されている蝶を模した弾幕を。
二人共攻防一体で数が多い弾幕であると言う感想を龍也と藍を抱いた時、放たれている弾幕が炎の弾幕とぶつかり合って相殺し合った。
割と目に付き易い炎の鳥よりも、無数に存在している炎の弾幕の消去を優先したのだろうか。
ともあれ、炎の弾幕の数が大きく減ってしまったら龍也達の優位性が消えてしまう。
只でさえ二対九と言う状況で戦っていると言うのに、フィールドでの優位性を無くしてしまう訳にはいかない。
なので、龍也は紫と幽々子のスペルカードの発動を止める為に二人の元へと突っ込もうとしたが、

「させん!!」

龍也の進行を止めるかの様に藍は己が爪を龍也に向けて振るう。
振るわれた爪を、

「ぐ!!」

龍也は焦った表情を浮かべながら炎の剣で受け止めた。
何せ、時間の流れと共に炎の弾幕の数が減っていってしまっているからだ。
龍也としては早々に紫と幽々子のスペルカードを止めたい為、

「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

霊力を解放し、己が力の底上げを行なう。

「ぐう!!」

龍也から解放された霊力を感じた藍は気圧された様な表情を浮かべたが、直ぐに表情を戻して解放された霊力に対抗する為に己が妖力を解放し様とする。
が、

「はあ!!」
「しまっ!!」

その前に藍は龍也に弾き飛ばされてしまった。
気圧されて妖力の解放を仕損こねた己が不甲斐なさを藍が恥ながら吹き飛ばされている間に、龍也は霊力の解放を止めて再び紫と幽々子が居る方へと向かって行く。
迫り来る弾幕を上手く避け、紫と幽々子まで後少しと言った所まで来た瞬間、

「ここから先は通さないわよ」

龍也より高い位置に居た霊夢がここから先は通さないと言う台詞と共に飛び蹴りを放って来た。
龍也は意識を紫と幽々子の方に向けていたせいで霊夢の接近に気付けず、

「ぐあ!!」

飛び蹴りの直撃を龍也は受けてしまう。
お陰で進行を止めさせられ体勢を崩された龍也であったが、直ぐに体勢を立て直し、

「くそ……」

軽い悪態を吐きながら左手の炎の剣を消し、左手で腹部を押さえる。
不意打ち気味に攻撃を喰らったせいか、そこそこのダメージを受けてしまった様だ。
腹部に手を当てながら受けたダメージを龍也は確認しつつ、霊夢の方に顔を向ける。
顔を向けた先に居る霊夢はお払い棒を右手に持ち、左手の指の間にお札を挟んだ状態で構えていた。
何時仕掛けられても可笑しく無い雰囲気を霊夢から感じ取れたからか、龍也は左手を腹部から離して再度左手から炎の剣を生み出す。
それを合図にしたかの様に、霊夢は龍也に向けてお札を投げ付けた。
投げられたお札を、龍也は左手の炎の剣で薙ぎ払い、

「はあ!!」

一気に霊夢との間合いを詰めて右手の炎の剣で斬り掛かる。
迫り来る炎の剣を霊夢はお払い棒で受け止め、

「しっ!!」

左手から針を龍也に向けて投げ付けた。

「っとお!!」

針が投げ付けられた事に反応した龍也は、咄嗟に顔を傾けて回避行動を取る。
だが、回避行動を取った事で生まれた隙を突くかの様に、

「はあ!!」

霊夢は龍也の顎目掛けて蹴りを放つ。
放たれた蹴りが龍也の顎に当たる刹那、

「ッ!?」

蹴りの先、と言うより霊夢の目に映っていた龍也の姿が突如と消えてしまった。
攻撃目標が突如として消失してしまった事で蹴りを空振り、霊夢の体勢が崩れたのと同時に、

「正面だ!!」

消えた龍也が霊夢の正面に現れ、炎の剣を振るう。
体勢が崩れてはいるものの、腕は自由に動いたので、

「くっ!!」

振るわれた炎の剣を霊夢はお払い棒で受け止める。
しかし、

「くう!!」

体勢を崩していたせいで踏ん張りが効かなかったからか、霊夢は吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされた霊夢に追撃を掛ける為、龍也は霊夢を追おうとしたが、

「……ッ」

紫と幽々子の弾幕が当たりそうだったので、霊夢への追撃を中断して龍也は回避行動を取り始めた。
迫り来る弾幕を龍也は必死に避けているのに対し、龍也と同じ様に大量の弾幕に曝されている筈の霊夢は何処吹く風と言った感じで体勢を立て直していく。
何処から弾幕が来るのか分かっているかの様に。
だから、

「お前、この状況下で良く平然と体勢を立て直せるな」

つい、その事に付いて龍也は霊夢に問い掛ける。
問われた霊夢はシレッとした表情を浮かべ、

「そう? 何となくだけど、弾幕が当たらないと分かっていたのよねぇ」

何となくではあるが弾幕が当たらない事が分かっていたと言う事を口にした。
口された内容を耳に入れた龍也は、霊夢の勘が優れている事を思い出す。
おそらく、その勘の良さで弾幕が自分に当たらない場所を無意識で発見したのだろう。
霊夢の勘の良さを若干羨みながら、龍也は改めて周囲の様子を伺っていく。
周囲を伺っていくと炎の弾幕の数がかなり減っている事と、炎の鳥に紫と幽々子の弾幕が激突していっているのが分かった。
これでは、龍也と妹紅がスペルカードで出した炎の鳥が破壊されるのも時間の問題だろう。
そうなったら、龍也と妹紅にとって優位なフィールドが崩れてしまうのは確実。
それを避ける為には紫と幽々子を早急に叩く必要が在るのだが、

「……………………………………………………」

霊夢の存在が邪魔で、龍也は紫と幽々子に斬り掛かりに行けないでいた。
不用意に斬り掛かり行けば、確実に霊夢から手痛い反撃を受ける事になるだろう。
が、動かなければ状況は悪化の一途を辿るだけ。
こうなったら霊夢からの反撃を受ける事を前提で突撃を仕掛け様かと言う決意を固めた瞬間、

「……ん?」

ある事が龍也の脳裏に過ぎった。
過ぎった事と言うのは、近付かずにここから紫と幽々子に攻撃すれば良いと言うもの。
無論、紫と幽々子の弾幕が在るので生半可な攻撃では二人に届く事は無い。
ならば、生半可な攻撃をしなければ良いだけ。
思い立ったら速行動と言った感じで龍也は二本の炎の剣を合わせて一本の炎の大剣にする。

「……ッ」

二本の炎の剣を合わせて一本の炎の大剣にした龍也を見た霊夢は、幾らか警戒したかの様な表情を浮かべて構えを取った。
霊夢が警戒しているのに龍也は気付いたが、それを無視する龍也は炎の大剣を振り被り、

「はあ!!!!」

振り下ろす。
振り下ろされた炎の大剣の切っ先から巨大な爆炎が迸り、迸った爆炎は紫と幽々子に向けて放たれる。
放たれた爆炎は既に存在している弾幕を呑み込み、勢いを劣らせる事無く突き進んで行く。
突き進んで行く爆炎を視界に入れた霊夢は爆炎を止めるのは不可能であると悟り、即座に回避行動に移った。
霊夢と言う障害が無くなった事で、爆炎は消滅したり威力が削がれる事無く紫と幽々子が居る場所へと進んで行く。
この儘弾幕を放ち続けていたら放っている弾幕諸共爆炎に呑み込まれる事を理解した紫と幽々子は、

「仕方ないわね」
「そうね、仕方ないわ」

残念だと言った様な表情を浮かべながらスペルカードの発動を止め、今居る場所から離脱する。
紫と幽々子が離脱した事で爆炎が外れてしまったが、二人のスペルカードを止める事は出来た。
お陰で、紫と幽々子の弾幕が消えてフィールド上に再び炎の弾幕が増え始める。
フィールドの状況が自分と妹紅がスペルカードを使った時の状態に戻った事を龍也は察し、

「…………………………………………」

一本の炎の大剣を二本の炎の剣に戻して構えを取り直す。
折角状況を戻せたので、今度こそ炎の弾幕が存在している間に一対一で何人かは倒すと言う意気込みを龍也が抱いた時、

「……埒が開かないわね」

割と近くに居たアリスが埒が開かないと言う台詞を零した。
零された発言が耳に入った龍也がアリスの方に顔を向けると、アリスは懐に手を入れ、

「仕方無い。この間完成したばかりでテストはまだ何だけど……」

懐からスペルカードを取り出し、

「試作『ゴリアテ人形』」

スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると、アリスの正面にアリスが何時も扱っている様な人形が現れた。
別段不思議な光景では無いが、

「な……に……」

龍也は驚きの表情を浮かべていた。
何故かと言うと、現れた人形の大きさが異常であったからだ。
どれ程の大きさなのかと言うと、以前龍也が萃香と戦った時に萃香が見せた巨大化。
あの時の萃香の凡そ、倍程の大きさがアリスが出現させた人形にはある。
おまけに、炎の弾幕をどれだけ受けてもアリスの人形はビクともしていない。
分かっていた事ではあるが、巨大さに見合った頑丈さも持ち合わせている様だ。
龍也が現れた巨大人形に目を奪われている間に、巨大人形は妹紅の方に顔を向けて目からレーザーを放つ。

「わっ!?」

放たれたレーザーに反応した妹紅は咄嗟に今居る場所から離れる。
レーザーを妹紅に回避されたからか、巨大人形はレーザーを放つのを止めた。
そのタイミングで、二つの炎の鳥が巨大人形に突撃を仕掛ける。
だが、二つの炎の鳥は巨大人形に激突する事は無かった。
何故ならば、巨大人形が虫でも払うと言った様な動作で腕を振るって二つの炎の鳥を破壊したからだ。
妹紅の方は分からないが、龍也のスペルカード発動で現れた炎の鳥は弱い相手なら直撃すれば勝利を収められると言って良い程の威力を誇っている。
そんな威力を誇る炎の鳥を、何て事無い動作で破壊されたのだ。
だからか、

「な……」

何処か呆けたかの様な表情を龍也は浮かべてしまった。
ともあれ、二つの炎の鳥が消えてしまったのでもう炎の弾幕は生成されずフィールドでの龍也と妹紅の優位性が失われる事になるだろう。
優位性が失われる前にせめて巨大人形を撃破し様と言った感じで妹紅は弾幕を放つ。
勿論、狙いは巨大人形だ。
巨大人形の大きさが大きなさなだけあって妹紅が放った弾幕は必ず命中する。
そう思われたが、

「ッ!?」
「…………………………………………………………」

妹紅の弾幕が命中する前に巨大人形からバリアが発生し、発生したバリアが妹紅の弾幕を遮断してしまう。
バリアによって弾幕を消されてしまった事に妹紅は驚いていたが、龍也はある事に気付いてしまった。
何に気付いてしまったのかと言うと、この巨大人形は自分のアドバイス通りに作られていると言うもの。
アドバイスした事をちゃんと採用してくれた事を龍也は嬉しく思うと同時に、アドバイスを採用してくれた事に対する厄介さを思い知っていた。

「……って、ここであれこれ考えていても仕方無いな」

思った事をその儘思考の海に流して思考に没頭しそうになった自分を振り切るかの様に龍也は顔を上げ、意識を切り返るかの様に巨大に人形を見詰め、

「先ずは距離を取るか」

巨大人形から距離を取ろうとする。
龍也が巨大人形から離れ様としている事に気付いたからか、巨大人形はスカートの中から何時もアリスが使っている大きさの人形が何体も現れ、

「ッ!?」

現れた人形達は距離を取ろうとしている龍也を追い始めてた。
追い掛けて来る人形を見た龍也がこれもアドバイスした事だと思っている間に、現れた人形達の何体かが龍也の前方に回り込み始める。
それに気付いた龍也は再び自分の意識が思考の海に流れそうになっている事を自覚し、

「巨大人形のギミックに驚いたり考えたりしている場合じゃないな、こりゃ」

一寸した自身への反省を口しながら人形達が居ない上方へと向かって行く。
取り敢えずはこれで一安心かと龍也が思った矢先、

「ッ!!」

龍也の目の前に巨大人形の腕が迫って来ていた。
巨大人形と言うよりは、アリスは龍也が上方に向かうと言う事を読んでいた様だ。
兎も角、上方へと向かっている最中に攻撃を加えられた為、

「がっ!!」

迫り来る腕を回避する事が出来ず、薙ぎ払われる様な形で龍也は吹き飛ばされてしまった。
不意打ちとも言える攻撃を受けた事で二本の炎の剣は消失し、どんどんと距離を離して行ってしまっている龍也であったが、

「っと、大丈夫?」

途中で妹紅に受け止められ、これ以上距離が離れて行くのを止められる。
妹紅に受け止められた事を認識した龍也は妹紅から少し離れ、

「ああ、大丈夫だ。ありがとう」

大丈夫である事と礼を妹紅に伝えて消失した二本の炎の剣を再度生み直して巨大人形を改めて視界に入れた。
改めてと言った感じで巨大人形を観察している龍也に、

「処で、あれは……」

妹紅は声を掛ける。
掛けられた声で妹紅が何を言いたいのかを龍也は察し、

「アリスが作った人形だな」

巨大人形がアリスの作った人形である事を教えた。
教えた龍也の声色から自信と言うものを感じられた為、

「知ってるの?」

巨大人形に付いて何か知っているのかと言う問いを妹紅は龍也に投げ掛ける。

「ああ。巨大人形作成には色々とアドバイスしたからな」
「……弱点とかは?」

投げ掛けられた問いに龍也が巨大人形作成には色々とアドバイスしたと答えた為、妹紅は弱点とかは無いのかと聞く。
巨大人形作成のアドバイスをしたのならば、弱点の一つや二つは知っているだろうと妹紅は考えていたのだが、

「無い。強いているなら機動性が低い事と、人形を操るアリスの集中力に幾らかの不安が在るって事だな」

龍也からは妹紅が望んでいた答えは返って来なかった。
とは言え、返って来た答えの中に少々気になる部分が在ったので妹紅がその事を龍也に尋ね様とした瞬間、

「「ッ!?」」

巨大人形が龍也と妹紅に両腕を向け、十本の指先から弾幕を放ち始める。
巨大人形と言う大きさに見合った弾幕を。
弾幕が放たれた事に気付いた二人は直ぐに意識を巨大人形に向け、回避行動を取っていく。
回避行動を取り始めてから幾らかすると、幾ら弾幕が巨大と言っても回避にも慣れて来たので、

「処で、機動性が低いって言うのは解るんだけどアリスの集中力に幾らかの不安が在るって言うのはどう言う事? あのアリスって子、私は見た事無いけど
人里で人形劇を披露しているのでしょう? だったら、そう簡単に集中力が切れるって事は無いじゃない?」

返って来た答えの中の気になる部分を妹紅は龍也に尋ねた。
アリス・マーガトロイドが人里で人形劇を披露している事と、人形遣いである事は人里に住んでいる者に聞けば直ぐに分かる話。
故に、妹紅はアリスが人形の扱いに長けている事を知っていた。
だから、そんな答えを返して来た龍也に妹紅は疑問を覚えたのである。
それはさて置き、龍也は尋ねられた事に対し、

「いや、アリスはああ言った人形を操った事は無いって言ってたからな。序に言えば、俺のアドバイスを素直に受けてくれてるみたいだからあの人形自体には
色々な仕掛けが組み込まれている筈。で、そんな仕掛けを使うタイミングだとか制御だとかをアリスは常時考えながら慣れてない巨大人形を操る。これ、結構
負担になるだろ」

どうして集中力に不安が在ると言う答えを出したのかと言う理由を述べた。
述べられた理由を頭に入れた妹紅は納得した表情を浮かべ、

「なら、時間を掛けていれば彼女の集中力が切れて巨大人形が動きを止めるって言う事かしら?」

時間を掛ければアリスの集中力が切れて巨大人形が動きを止めるのかと言う確認を取る。
返って来た答えと理由から妹紅は取った確認で間違いは無いと考えていたのだが、

「いいや、時間掛けてもアリスの集中力が切れるとは思えないんだよなぁ……」

当の龍也の口からは否定の言葉が発せられた。

「どうして?」
「元々あの巨大人形は通常戦闘を想定しているんだ。で、今俺達がやってるのは弾幕ごっこ。実際の戦闘と遊びじゃあ精神的な疲労も全然違うだろ」

否定の言葉を発せられた事で妹紅が首を傾げてしまったので、龍也は否定の言葉を発した意味を妹紅に伝える。

「成程。確かに、弾幕ごっこは普通の戦いと違って気楽に戦えるものね」

伝えられた内容に納得した妹紅は巨大人形を目に入れ、

「……となると、あの巨大人形を倒さなきゃ戦いの主導権は向こうに握られっ放しになりそうね」

握られている戦いの主導権を奪う為には巨大人形を倒す必要が在ると妹紅は判断した。

「ああ、そうだな」

妹紅が判断した事に異論は無かった龍也が肯定の返事をした時、

「……ん?」

ある事に気付く。
気付いた事と言うのは、巨大人形以外が攻撃を加えて来ていないと言うもの。
巨大人形を操っているアリス以外の面々は、巨大人形の背後に回っていた。
同士討ちを避ける為に後ろに下がり、攻撃行動に出ないでいるのかもしれない。
理由はどうであれ、他の面々が攻撃して来ないのなら今は巨大人形にだけ専念する事が出来る。
大きさが大きさなだけに最大火力をぶつけ続けると言う方法で攻めるかと言う考えを龍也が頭の中で廻らせていると、

「……お?」

突如として弾幕が止んだ。
急に弾幕が止んだ事を不審に思った龍也と妹紅が回避行動を止めて巨大人形に視線を向けると、巨大人形は握り拳を作っており、

「「ッ!?」」

握った拳を龍也と妹紅目掛けて射出した。
射出された拳を見て、

「ロケットパンチ!?」

つい連想されるものの名を零すも、龍也は直ぐに回避行動を取る。
同じ様に妹紅も回避行動を取った事で、射出された拳は二人に当たる事は無かった。
スピード自体はつい先程まで放たれていた弾幕よりも速いと言う感想を抱いた時、

「……ん?」

龍也の視界にある物が映る。
映った物と言うのは、

「これは……鉄線か」

太い鉄線であった。
どうやら、巨大人形のロケットパンチは有線式であった様だ。
ロケットパンチが有線式であった事で一寸がっかりした様な気分になっている間に、射出された拳は巨大人形の元へと戻って行く。
戻って行っている拳を見て、

「……そうだ」

ある作戦を龍也は思い付き、

「妹紅妹紅、一寸耳貸してくれ」

そう言いながら妹紅の方に近付く。

「何?」

耳を貸してくれと言われた妹紅が龍也に顔を近付けると、龍也は妹紅に思い付いた作戦を耳打ちする。
思い付いた作戦の概要を耳打ちし終えた龍也が妹紅から離れたタイミングで、

「理屈としては分かるけど……そんな単純な手でそう上手くいくのかしら?」

少々訝し気な表情を浮かべ、妹紅は難色を示した。
耳打ちされた作戦は、かなり単純なもの。
そんな単純な作戦で巨大人形を打ち倒せるのかと言う不安が在る様だ。
しかし、

「ああ、問題ねぇよ」

作戦立案者の龍也が自信満々と言った感じで問題無いと断言した為、

「……分かったわ。龍也を信じる」

仕方が無いと言った感じで妹紅は龍也の作戦に乗る事にした。
これからするべき行動が決まった後、龍也と妹紅が巨大人形の方に改めて顔を向ける。
その時、

「あれは……」
「また弾幕を放つ気なのかしら?」

巨大人形が握っている指を伸ばし、先程の様に弾幕を放つ様な体勢を取っていた。
なので、龍也と妹紅は弾幕が来ると判断して回避行動を取る準備に掛かった瞬間、

「「ッ!?」」

二人は驚きの表情を浮かべてしまう。
何故ならば、巨大人形の両肩の一部が開き、両腕部からガトリング砲の様なものが現れ、臍辺りに丸い孔が開いたからだ。
大きいとは言えないが小さいと言えない巨大人形の変化に二人が驚いている間に、巨大人形は攻勢に入る。
目からレーザーを。
両肩からは一度上空に放たれた後に目標へと向かって行く細いレーザーを。
腕部から現れたガトリング砲からは弾速が速い弾幕を。
指先からは広範囲に広がる巨大な弾幕を。
腹部からは少し太いビームを。
それぞれを全て同時に放った。
正に一斉射撃と言える攻撃を前に、

「「ッ!?」」

龍也と妹紅は意識を戻したかの様に慌てて回避行動に移る。
しかし、先程の指先からの弾幕と違って今回は量が量。
おまけに放たれている弾、レーザー、ビームの全ては巨大人形の大きさに見合った大きさだ。
故に、

「ちぃ!!」
「これは……」

迫り来る弾幕を避ける事に、龍也と妹紅は大きな苦戦を強いられていた。
圧倒的物量とも言えるこの弾幕に当たって体勢を崩そうものなら、確実のこの弾幕の海に呑まれて弾幕ごっこに敗北するのは必至。
かと言って、この儘避け続けられる保障も無いので、

「だったら!!」

龍也は回避行動を取るのを止め、二本の炎の剣を使って迫り来る弾幕等を斬り払い始めた。
回避ではなく己が手で弾幕を防ぐと言う方法を取った龍也を見た妹紅は、龍也に倣うかの様に妹紅も回避行動を取るのを止め、

「私は上から来るレーザーをやるから、龍也は正面から来るのをお願い!!」

上空からの攻撃は自分が引き受けるから正面からの攻撃は龍也に任せると言い、妹紅は上空から迫り来るレーザーに向けて弾幕を放って相殺させていく。
通常の弾幕ごっこと違って弾やレーザーが大きい事もあって斬り払ったり相殺と言った行為に龍也と妹紅は苦戦しているが、それでも攻撃の直撃だけは避けていた。
チャンスが来るのを待つかの様に。
そして、防戦に徹し始めてから幾らかすると弾幕が若干薄くなり、

「ッ!?」

迫って来ている弾幕の奥に薄っすらとではあるが握られた拳が龍也の目に映った。
大量の弾幕を隠れ蓑にしてロッケトパンチを当てる積りなのだろうか。
アリスの狙いはどうであれ、これをチャンスと判断した龍也は二本の炎の剣から爆炎を放ってから自身の力を変える。
玄武の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色は紅から茶に変わり、二本の炎の剣は風に流される様にして消えていった。
今まで炎の剣で弾幕等を斬り払っていたと言うのに、その斬り払う為の炎の剣が消えてしまったのだから、

「ぐあ!!」

弾幕等の攻撃が次々と龍也の体に直撃していく。
普通ならばここまで攻撃を受けてしまえば弾幕ごっこに敗北してしまいそうなのものではあるが、今の龍也は単純な防御力も高められる玄武の力を使っている。
しかも、今は力を解放した状態。
今なら弾幕の直撃を立て続けに受けてもそう簡単に敗北する事は無いと言わん気な雰囲気を出しながら、龍也は弾幕等の衝撃を耐える。
耐え続けて始めてから幾らかすると弾幕等の着弾が一瞬だけ止み、代わりに巨大な拳が龍也の目に映った。
眼前に迫る巨大な拳を見た龍也は不敵な笑みを浮かべ、

「だらっしゃあ!!」

迫って来ている拳を受け止めた。

「ぐう……」

受けた止めた際の衝撃で龍也は若干顔を歪めるも、

「妹紅!!」

直ぐに妹紅の名を呼ぶ。
すると、妹紅は弾幕を放つのを止めて太い鉄線に全速力で近付き、

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

太い鉄線を掴み、掴んでいる手から全力で炎を生み出す。
妹紅が生み出した炎は、通常の炎よりもかなり温度が高い。
そんな温度で熱せられたら当然、鉄線は直ぐにその色を赤へと変える。
鉄線の色が変わったのをアリスが見たからか、巨大人形は射出している拳を引っ込める。
拳を掴んでいる龍也、太い鉄線を掴んでいる妹紅を連れて。
が、射出された拳は元の位置に戻る前に止まってしまった。
おそらく、太い鉄線から伝わった熱が巨大人形に何らかの障害を齎したのだろう。
その証拠に、巨大人形から煙が上がっている。
巨大人形から煙が上がり、動きが止まったのを理解した龍也は狙い通りと言った様な表情を浮かべた。
そう、龍也の狙いと言うのは太い鉄線から巨大人形に高熱を送って巨大人形の動きを止めると言うものであったのだ。
アリスにアドバイスした内容と覚えていた事と巨大人形の設計図を見ていなかったらこの手法は取れなかったと龍也が思っていると、

「ん……」

巨大人形の背後からアリスを除いた八人が飛び出して来た。
巨大人形が行動不能となった今なら同士討ち等の心配は無いと判断したのだろう。
序に言えば巨大人形が行動不能になったと言ってもアリス自身は戦闘不能になった訳ではないので、最初の時の様に二対九に持ち込まれるのは時間の問題。
となれば、また魔理沙達を分断する必要が在る。
とは言え、紫や幽々子と言った極めて頭の回転が高い者が居るのだ。
三度も炎を使っての分断が成功するとは考えない方が良いだろう。
となると、別の方法で相手を分断する必要が在る。
自分の炎以外で妹紅の炎と合わせて上手く相手を分断するにはどうしたら良いかと少し頭を回転させた結果、

「……そうだ」

何かを思い付いた表情を龍也は浮かべ、自身の力を変えた。
玄武の力から青龍の力へと。
力の変換に伴って髪と瞳の色が茶から蒼に変わったタイミングで、龍也は妹紅に近付いてある作戦を伝える。
作戦と言うのは水と炎を合わせて水蒸気を作り、それで魔理沙達を分断させ様と言うもの。
妹紅としても二対九で戦う気は無いので、妹紅は龍也の作戦に乗る事にした。
取り敢えず、これからするべき事が決まった事で龍也と妹紅は巨大人形から離れる。
そして、龍也と妹紅は右手と左手を合わせながら伸ばして水と炎を放とうとした瞬間、

「「……ん?」」

巨大人形が急に光り出し、大爆発した。






















迷いの竹林のとある場所。
巨大人形の大爆発のせいで竹が殆ど吹き飛んだ場所で、

「……おーい、生きてるかー?」

仰向けになって倒れ、文字通りボロボロの状態で力の解放も解けて元の黒髪黒目になっている龍也がそう声を発する。
すると、

「おー……」

誰かが生存していると言う報告をしたのを皮切りに、チラホラと自分の生存を伝える報告が上がって来た。
因みに、龍也がボロボロの状態なのは巨大人形の大爆発に巻き込まれたからだ。
弾幕ごっこで戦っていたと言うのにボロボロになっているのは、巨大人形の大爆発がスペルカードによるものでは無いからであろう。
兎も角、一通り生存報告が発せられたからか龍也は上半身を起こして周囲の様子を見渡していく。
周囲を見渡した結果、皆龍也と同じ様に文字通りボロボロの状態であった。
更に言えば、服がボロボロになっているせいで皆中々に際どい格好になっている。
だからか、龍也は少々顔を赤くしながら明後日の方向を向く。
すると、

「あらあら、男の子である龍也に取ってこれは嬉しい光景かしら?」

紫は龍也に近付いてからかいの言葉を掛ける。
紫の言葉から、からかおうとしているのを感じ取った龍也は、

「はいはい、そうですね」

出来るだけ動揺しているのを悟らせる事の無い様に、素っ気無い返事を返す。

「あら、てっきりもっと赤くなって狼狽える……って思ったのだけど」
「もう突っ込む元気もねぇよ」

素っ気無い態度を示した龍也に紫が不満気な表情を浮かべた為、龍也は紫がこれ以上自分に興味を抱かない様に突っ込む元気も無いと返した。

「あら、それは残念」

返って来た返答から残念と言って紫は溜息を一つ吐く。
そのタイミングで、

「あいたたた……」

巨大人形の瓦礫の中から皆と同じ様にボロボロの状態のアリスが姿を現した。
姿を現したアリスは瓦礫と成り果ててしまった巨大人形を見詰め、

「まさか爆発するとは……」

爆発する事は予想外と言った台詞を呟き、

「あああああー……」

思いっ切り項垂れてしまう。
巨大人形作成にはかなりの労力、時間を掛けていた様なので落ち込むのも無理はない。
そんなアリスを余所に、

「なぁ、私の帽子知らないか?」

破れ掛かっている服を押さえながら魔理沙は起き上がり、自分の帽子の行方を知らないかと口にする。
今の魔理沙も際どい格好に成っているのは分かっているからか、龍也は魔理沙の方に視線を向けたくなるのを耐えるかの様に、

「知らね」

明後日の方向に顔を向け儘の状態で、知らないと言う言葉を発した。
発せられた言葉を耳に入れた魔理沙は少し残念そうな表情を浮かべ、

「そうか……」

そうかと一言漏らし、巨大人形の瓦礫に近付いて瓦礫の中から自分の帽子を探し始める。
魔理沙が立ち上がって無くなってしまった物を探し始めたのを合図にしたかの様に、倒れていた面々が次々と起き上がり始めていく。
そんな皆に続く様に龍也も起き上がった時、

「紫ー、私の帽子知らない?」

幽々子は紫に自分の帽子の所在を尋ねながら龍也の目の前に現れた。
勿論、幽々子もボロボロの状態でかなり際どい格好であった為、

「おま!! 一寸は隠せ!!」

慌てながら龍也は幽々子に隠せと言う突っ込みを入れる。
しかし、入れた突っ込みを無視するかの様に、

「あら、隠すって何をかしら?」

一歩前に出て幽々子は自身の顔を龍也へと近付けた。
顔を急に近付けられた事もあってか、

「え、いや……ちょ、あれだ、あれあれ」

碌な言葉も発せずに、龍也はより顔を赤くして幽々子から目を逸らす。
赤面し、上手く言葉を発せずにいる龍也に満足した幽々子は紫の方に顔を向け、

「ほら、龍也にはこれ位やらないと狼狽えないわよ。紫」

これ位やらなければ龍也は狼狽えないと言う事を教える。

「成程」

教えられた内容を頭に入れた紫は良い事を聞いたと言う表情を浮かべた。
幽々子が教えた内容と紫の台詞からまたからかわれた事を理解した龍也は、紫と幽々子に視線を合わせない様にしながら再び周囲の様子を伺う。
すると、

「咲夜ー、私の帽子は見付かったー?」
「いえ、探しましたがこの近辺にはお嬢様の帽子は無い様です。おそらく、爆発の影響で遠くに飛んで行ってしまったのかと思われます」
「あの、誰か私の白楼剣が何処に在るか知りませんかー!?」

何かを探しているレミリア、咲夜、妖夢、

「……あー、酷い目に遭ったわ」
「何だ、霊夢か。黒い何かを見付けたから私の帽子かと思ったのに……残念だぜ」
「……一寸、何だとは何よ。何だとは」
「そりゃ、探してもいないものが出て来たら何だって言いたくもなるぜ」

巨大人形の瓦礫の中から出て来た霊夢、そしてその霊夢と軽い言い争いをしている魔理沙、

「……はぁ、作るのに大変だったのに」

まだ落ち込んでいるアリス、

「思っていた以上に威力が有ったのだな、あの爆発は。帽子を含め、衣服の類は丈夫に作ってあるんだがな……」

破損している帽子を直している藍と言った面々の姿が目に映る。
が、

「……あれ?」

周囲の様子を伺っても妹紅の姿は龍也の目に映らなかった。
若しかしたら、巨大人形の大爆発のせいで遠くの方に吹き飛ばされてしまったのだろうか。
だとしたら、探しに向かった方が良いかと言う考えが龍也の頭に過ぎった時、

「あ、無事な様ね」

背後から無事を確認する声が耳に入る。
聞こえて来た声に反応し、龍也が振り返えると、

「妹紅」

見た目はボロボロだが、全然平気と言った感じの妹紅が立っていた。
無事な妹紅を見て一安心した龍也だが、直ぐにある事に気付く。
気付いた事と言うのは、ボロボロになった服のせいで見える妹紅の素肌に傷などが一切見られないと言うもの。
巨大人形の大爆発を受けた面々は、皆大なり小なりの傷を負っている。
だが、同じ様に大爆発の直撃を受けた妹紅は衣服がボロボロになってはいても傷などは一切負っていない。
その事に龍也が疑問を抱いたのを察したからか、

「不老不死は再生能力が高いわねー」

妹紅が不老不死であると言う情報を紫は口にした。
口にされた理解した龍也は確認をするかの様に、

「不老不死?」

妹紅に不老不死なのかと問う。

「え、あ……うん」

問われた妹紅が少々言い難そうにしながら、自分が不老不死である事を肯定する。

「へー」
「……えっと、それだけ?」

不老不死と言う存在である事を知られたと言うのあっさりとした反応を龍也が示した為、妹紅はついそれだけかと返してしまう。

「それだけって?」
「いや、ほら、何かこう……」

妹紅の反応から他に何か言う事でもあるのかと言う態度を示した龍也に、妹紅が何か言いた気な表情を浮かべた為、

「んー……ぶっちゃけ不老不死でもそうなんだとしか言い様がないんだよ。幻想郷には種族問わずに色んな奴がいるから、不老不死が居ても不思議じゃない
って言うのが俺の感想だな」

不老不死に対して自分がどういう想いを抱いているかを龍也は述べた。
述べられた言葉に嘘が無い事を感じ取れたからか、

「……そっか」

驚きと嬉しさを入り混じった様な表情を妹紅は浮べる。
何で妹紅がその様な表情を浮かべているのか龍也には解らなかったが、機嫌を損ねた訳ではなかったので龍也は特に気にしない事にした。
そして、何かに導かれるかの様に顔を上げて天に浮かぶ満月に視線を向け、

「あー……満月が綺麗だな」

ポツリと満月が綺麗だと言う感想を零し、思う。
変則的な弾幕ごっこを行なった結果は巨大人形の大爆発と言う形で幕を降ろすなったが、偶にはこんな終わり方も悪く無いと。























前話へ
                                           戻る                                             次話へ