迷いの竹林での二対九と言う変則的な弾幕ごっこが行なってから一日が過ぎた今日この日。
あの戦いで決着が着いた後、色々あったが最終的に皆それぞれの家に帰る事となった。
となると、龍也も家として使っている無名の丘の洞窟に帰っていると思われるだろうが実はそうでは無い。
では、何所に居るのかと言うとアリスの家。
何故アリスの家に居るのかと言うと、昨日の一戦でボロボロになってしまった服を修繕して貰う為である。
龍也が着ている服、学ランなどは文字通り一張羅。
流石にボロボロの格好で旅を続けるのは気が引けたので、あの戦いの後に龍也はアリスに自分の服を修繕してくれと頼んだのだ。
その頼んだ事をアリスが了承してくれた事で龍也はアリスの家に赴き、もう晩いと言う事でアリスの家に泊まる事になった。
以上が、アリスの家に龍也が居る理由だ。
そして、時間帯が昼に成った辺りで、

「はい、終ったわよ」

アリスから学ランなどの修繕が終わったと言う言葉が発せられる。
発せられた言葉を聞いた龍也は、

「あ、ありがと」

ありがとうと言う言葉と共にアリスから修繕が終わった学ランなどを受け取った。
余談ではあるが、学ランなどを受け取る際に伸ばした龍也の腕や手には包帯などが巻かれている。
何で包帯などが巻かれているのかと言うと、擦り傷や火傷などを負っていた龍也をアリスが手当てしてくれたからだ。
まぁ、アリスからしたら怪我を負っている龍也を放って置けなかったのだろう。
ともあれ、巨大人形の大爆発に巻き込まれたせいで龍也は腕や手と言った箇所に包帯を巻いているのである。
尤も、包帯が巻かれている箇所は腕や手以外にも在るのだが。
しかし、龍也と同じ様に巨大人形の大爆発に巻き込まれたアリスには包帯などが巻かれていない。
と言うより、怪我を一つも負っていないのだ。
少なくとも、昨日まではアリスも龍也と同じ様に怪我を負っていたと言うのに。
どうして、龍也は未だ傷を残していると言うのにアリスだけ傷を残していないのか。
答えは簡単。
治療薬として使った薬の差だ。
アリスが龍也の傷の治療に使った薬は誰に使っても問題無い魔法薬であるが、アリスが自分の傷の治療に使ったのは自分専用に作った魔法薬。
大多数の者に効果が有る薬よりも、特定の個人専用に調整された薬の方が効果が高いのは当然の事。
故に、アリスが負っていた怪我は既に完治していたのだ。
それはさて置き、修繕された服を受け取った龍也はアリスが作ってくれた衣服を身に纏っている。
龍也が着ている学ランなどに洗濯や修繕が必要な状態でアリスの家に行く事が無かったら、今龍也が着ている服が作られる事は無かったであろう。
もしアリスが龍也に着せる服を作っていなかったら、龍也は今頃トランクス一丁の格好になっていたのは確実。
兎も角、修繕された学ランなどを受け取った龍也は居間から別の部屋に移動して着替えに掛かる。
着替え終わると龍也は居間に戻り、

「バッチリ。ありがとな、アリス」

完璧と言う状態にまで修繕してくれたアリスに改めて礼の言葉を述べた。

「どういたしまして」

礼を言われたアリスは裁縫道具を仕舞いながらそう返す。
すると、

「あ、そうだ。さっきまで俺が着てた服、どうすれば良い?」

思い出したかの様に龍也はアリスに今まで着ていた服をどうするれば良いかを聞く。
聞かれたアリスは、

「そうね……後で洗濯するから、この子に渡して置いて」

後で洗濯するからこの子に渡してと言って人形を操り、操った人形を龍也の目の前に待機させる。
目の前に待機させられた人形に龍也が着ていた服を手渡すと、人形は服を受け取って奥の方へと向かって行った。
おそらく、洗濯籠に龍也が着ていた服を入れに行ったのだろう。
洗濯物を持った人形が完全に見えなくなった後、

「あ、お昼食べてく?」

アリスは龍也に昼ご飯を食べていくかと尋ねる。
そう尋ねられたからか、龍也は突如として空腹感を覚え始めた。
思えば、昨日の夜から龍也は何も食べてはいない。
と言うのも、龍也はアリスにボロボロになった学ランなどを預けてから直ぐに寝てしまったからだ。
そして、朝目が覚めて居間に行くとボロボロになっている学ランなどを修繕しているアリスの姿が龍也の目に映る。
その時、龍也は理解した。
ボロボロになった学ランなどを渡してからアリスはずっと修繕作業をしてくれていたと言う事を。
流石にずっと自分の学ランなどの修繕をしてくれたアリスに朝食を用意してくれとは言える訳はなく、龍也は朝食を抜く事になったのだ。
と言う事もあり、更に言えばアリスの修繕作業も終わった事で、

「ああ、食う食う」

龍也は昼食を貰う事を決めた。
龍也から昼食を食べていくと言う発言を受け、

「分かったわ。取り敢えず、テーブル前の椅子に座ってて」

龍也をテーブル前の椅子に座る様に促し、アリスは指を動かしていく。
アリスが指を動かしたのと同時に、何体もの人形が動き出した。
勿論、動き出した人形は全てアリスが動かしている。
今動き出した人形で料理を作るんだろうと言う事を思いながら龍也がテーブル前の椅子に腰を落ち着かせると、アリスもテーブル前の椅子に腰を落ち着かせた。
二人揃って椅子に腰を落ち着かせ、向かい合う様な形になっているからか、

「それにしても、魔法薬って便利だな」

ふと、魔法薬は便利だな言う発言を龍也は零す。

「そう?」
「そうそう。傷からは全然痛みは感じないし、アリスの傷は綺麗に治ってるしさ」

零された発言を聞いたアリスが首を傾げると、龍也は自分の傷から痛みを感じない事とアリスの傷が綺麗に治っている事を話す。
龍也の話を受け、アリスは納得した表情を浮かべつつ、

「私も貴方も大した怪我じゃなかったから、直ぐに完治したし傷の痛みもかなり和らいだのよ。流石に、瀕死の重傷を負った相手を一日二日で治す様な
魔法薬を作る事は出来ないわ」

自分や龍也が負った傷が大したものでは無かったからか簡単に治った事と、自分では瀕死の重傷を負った様な傷を短時間で治す様な魔法薬は作れない事を口にする。

「そうなのか?」
「そうよ。私の本職は人形遣いで、目指しているのは完全自立型人形の製作。人形関連の魔法の知識はかなり有ると自負しているけど、それ以外の魔法に
対しての……魔法薬を含めてそこまで深い知識が有る訳じゃないの。ま、それでも触り程度知識しか無いって訳じゃないけどね」

口にされた内容を頭に入れた龍也が疑問気な表情を浮かべたので、アリスは自分の魔法に対する知識には系統によって差がある事を龍也に教えた。
まぁ、アリスは人形を専門としている魔法使い。
得ている魔法の知識に差が出て来るのは当然と言うもの。
兎も角、アリスがどんな傷でも瞬時に治す様な魔法薬が作れないと言う理由を龍也が理解したタイミングでアリスの人形が二人分のコーヒーをテーブルの上に置いた。

「ご苦労様」

コーヒーを運んで来た人形にアリスが労いの言葉を掛け、コーヒーを飲もうとしたタイミングで、

「……っと、そうだ。龍也、砂糖とミルクは要る?」

思い出したかの様にアリスは龍也に砂糖とミルクは要るかと問う。

「いや、ブラックの儘で良い」
「そう、分かったわ」

問われた事に龍也が砂糖とミルクは要らないと返すと、アリスは了承の返事をして軽く指を動かす。
すると、コーヒーを運んで来た人形が台所の方へと向かって行った。
台所へと向かって行ったアリスの人形を見送った後、

「そういや、アリスは砂糖やミルクは使わないのか?」

アリスは砂糖やミルクを使わないのかと言う事を龍也は聞く。
コーヒーを飲む時、アリスは砂糖とミルクを入れる事が多いので龍也はついその事を聞いてしまった様だ。
ともあれ、聞かれた事に対し、

「ええ、偶にはブラックで飲むのも悪く無いかなって思ってね」

偶にはブラックで飲むのも悪く無いと思ったと言う答えをアリスは述べてコーヒーを一口飲み、

「話を戻すけど、魔法薬の作成などが専門な魔法使いなら文字通り万能薬とか言った物も作れるかもしれないわね」

魔法薬の作成などを専門としている魔法使いなら万能薬と言った物も作れるかもしれないと言う事を述べる。
述べられた内容を耳に入れつつ、龍也がコーヒーを飲むと、

「まぁ、魔理沙ならそう言った物も作れるかもしれないけどね」

魔理沙ならそう言った万能薬も作れるかもしれないと言う事がアリスの口から語られた為、

「魔理沙が?」

龍也はつい驚いた表情を浮かべ、コーヒーを飲むのを止めてしまう。
魔理沙は別に魔法薬作りを専門としている魔法使いではないのだから、龍也が驚くのも無理はない。
そんな龍也の驚きは理解出来ているからか、

「そう。あの子は光や熱を扱った魔法をメインとしてるけど、それとは別に色々と実験してるじゃない。茸を使った実験やら魔法薬の作成とかね」

魔理沙が茸を使った実験や魔法薬の作成をしている事をアリスは話す。

「あー……そういやそうだな」

そう話された事で、魔理沙が茸を使った実験や魔法薬の作成をしている事を龍也が思い出している間に、

「魔理沙の場合、茸の成分やら特性を碌に調べずにその場のノリと勢いで実験したり魔法薬の材料にする事が多々在るらしいのよ。だから、時には魔理沙も
想定していなかったものが出来る事があるって訳。その想定していないものが良いものなのか悪いものなのかは出来るまで分からない様だけどね」

魔理沙ならそう言ったものも作れるかもしれないと語った理由をアリスは説明していく。
確かに、そう言った方法で実験やら魔法薬の作成をしていたら想定外の結果が出たり魔法薬が出来たりするであろう。
序に言えば、龍也が以前魔理沙から買った塗り薬も適当な調合から生まれたもの。
と言っても、その適当な調合で作成された薬の性能は中々のものであったのでアリスの説明も馬鹿に出来たものではない。
だが、その魔理沙から買った薬は現在龍也の手元には無かった。
何故かと言うと、以前龍也が萃香と戦った時に龍也の治療で全部使われてしまったからだ。
正確に言うと、細かい傷や治り掛けの傷の治療にだが。

「…………………………………………」

今の話で魔理沙から買った塗り薬を切らしている事を龍也は思い出し、近い内に魔理沙からあの塗り薬を買おうかと考えている間に、

「ま、そう簡単に作れはしないと思うけどね」

そう言ってアリスは魔理沙が万能薬を作れるかどうかと言う話を締め括った。
締め括られた言葉で考え事から復帰したのと同時に、

「……そういや、パチュリーはどう何だ? やっぱパチュリーも万能薬って言ったものを作れる可能性があるのか?」

パチュリーも魔理沙と同じ様に万能薬と言ったものを作れる可能性があるのかと言う疑問を龍也はアリスに投げ掛ける。
投げ掛けられた疑問に対し、

「うーん……パチュリーは解読されていない魔導書の解読や新魔法の開発を主としているから、必要が無かったり興味が湧かなければ魔法薬は作らないでしょうね。
でも、パチュリーは賢者の石の名を冠した自分の魔法の増幅装置を作ったと言う実績があるから……若しかしたら既に万能薬の生成方法を知っているのかもしれない
わね。仮に生成方法を知らなかったとしても、万能薬の生成方法が書かれた書物の一つや二つは所持してそうだけどね。あそこの図書館の蔵書量なら」

そんな事を口にした。
紅魔館に存在するパチュリーの図書館の蔵書量は、文字通りケタ違いと言って良い程の量を誇っている。
それ程の蔵書量なら万能薬の生成に付いて書かれた本が在っても不思議では無いだろう。
環境と言う面で考えたら、魔理沙よりもパチュリーの方が万能薬と言った薬や魔法薬と言ったものを作れる可能性は高いのかもしれないと言う事を龍也が思った時、

「……あ、そうそう。話は変わるけど、貴方のアドバイスが欲しいのよ」

話を変えるかの様に、アリスは龍也のアドバイスが欲しいと言い出した。
急にアドバイスが欲しいと言われた事で龍也は少し驚くも、

「俺のアドバイスって言うと……巨大人形の事か?」

大した時間も置かずにアリスが何に付いてのアドバイスを欲しているのかを理解する。
その理解した事は正しかった様で、

「そうよ」

アリスは肯定の返事をしながら手帳とペンを取り出し、

「今回……昨日一戦で貴方から見てゴリアテに改良点とかは在ったかしら?」

昨日の一戦で龍也から見て巨大人形の改良点は在るかと聞く。
聞かれた龍也は疑問気な表情を浮かべ、

「そうだなー……逆に聞くけど、アリスは巨大人形を操ってみてどうだった?」

巨大人形を操ってみてどうだったと聞き返す。
聞き返して来た事に対し、

「え、そうね……思っていた以上に魔力を消費したわね」
「魔力を?」
「ええ。弾幕ごっこ用に出力は大分落としていたんだけど……それでもかなりの魔力を消費したのよ。サイズの大きい弾幕を放つ時とか、ゴリアテを操る際に
使っている魔力糸……人形を操る時に私が使っている魔力で構成された糸ね。その魔力糸も要所要所で強化しなければならなかったし。後、バリアに関しては
そこまで魔力を使う事は無かったんだけど……それは弾幕ごっこだったから。通常戦闘ではそれ相応にバリアの出力も上げなければならないでしょうね。弾幕
ごっこでさえ、想定していた以上の魔力を消費したんだから通常戦闘でゴリアテを使ったら魔力の消費がとんでもない事になるでしょうね。だからと言って、
パワーを全体的に落として魔力の消費を抑えても折角の長所である巨体さ故の力強さを殺す事になるし……」
「んー……だったらさ、魔力を溜め込ん置ける何かを巨大人形に組み込んでみたらどうだ」
「魔力を溜め込んで置ける何か?」
「そうそう。で、組み込んだそれの魔力を使えばアリスの消費魔力も大分抑えられると思うぞ」
「……成程、それなら私自身が使う魔力はかなり抑えられるわね。問題はゴリアテの運用を可能とさせる程の魔力を溜め込める様な代物だけど……香霖堂に
行けばそんな代物も売ってるのかしら?」
「霖之助さんの所か。魔理沙が言うには色々と溜め込んでいるそうだから、大量の魔力を溜め込める物も持ってそうだな。まぁ、買うとしたらそれなりに
吹っ掛けられそうだけど」
「そう言えば、そんな事を魔理沙や霊夢が言ってわね。後、物々交換にも応じるって事も。でも、足元を見られる事を考慮したら……お金で買い取った方が
無難かしらね」

巨大人形を操ると魔力を大量に消費すると言う問題点をアリスが述べると龍也がその解決策を提示した為、その問題は直ぐに解決した。
そして、香霖堂に赴く際にどれだけのお金を持って行こうかと言う事にアリスが頭を悩ませている間に、

「そういや、巨大人形が爆発した原因って何だ? 俺としてはあの熱で巨大人形に機能不全を起こさせる積りだったんだけど」

ふと、思い出したかの様に龍也はどうして巨大人形は爆発したのかと尋ねる。

「爆発の原因はゴリアテの中に入れて置いた爆弾型人形が超高温で熱せられたからね。まさか、あの不死人があそこまで高温な炎を扱えるとは思わなかったわ」
「成程……じゃあさ、独立したブロックを作ってその中に爆発しそうな物を入れたらどうだ?」

尋ねられたアリスが爆発の原因を龍也に教えると、龍也から独立したブロックを作ってそこに爆発物を入れたらどうだと言う提案がされた。

「独立したブロック?」
「そうそう。いざって時にそのブロックを切り離せる様にすれば、被害は減るだろ」

独立したブロックを作ると言う部分に疑問を覚えたアリスに、龍也は独立したブロックを作る利点を説明する。

「成程」

説明された内容から独立したブロックを作る利点を理解したアリスは、その内容を手帳に書き込んでいく。
それを合図にしたかの様に、

「それと関節部分なども切り離せる仕様にすれば、超高熱を送られて内側から破壊される様な事態になっても被害を最小限に抑えられるな。後、魔力を溜め込んで
置く物はメインとサブの二つに別けた方が良いと思うぜ。俺のお薦めは頭と胴体に別ける方。他には巨大人形専用の武装……剣や槍、防御用に盾を作ったり装甲を
追加するのも良いと思うぜ。あ、序に機動性の無さを補う装備も欲しいかな。例えば、背部にブースターの様な物を着けて瞬間的な機動力を上げるとかさ。足の裏
にもブースターの様な物を作るのも良いかもな。後は……」
「ふむふむ……」

龍也は自分が考えうる限りの巨大人形の改善点を伝え、アリスは伝えられた事を一字一句逃さず手帳に書きとめていく。
そんな二人のやり取りは、昼食が出来るまで続く事となった。






















「ふいー……食った食った」

龍也は腹を擦りながら魔法の森の中を歩いていた。
巨大人形の改善点を龍也が色々と述べている最中に昼食が出来上がった為、龍也とアリスは巨大人形の改善点に付いての話し合いを中断して昼食を食べる事になる。
昼食を食べ終えた後、二人は再び巨大人形の改善点の話に戻っていった。
そして、取り敢えずその話が終わったと言う事で龍也はアリスの家を後にして現在に至ると言う訳だ。
魔法の森の中を歩きながら次は何所に行こうかと言う事を考えていると、

「あ、そう言えば」

ふと、龍也はある事を思い出す。
思い出した事と言うのは、昨夜の弾幕ごっこで妹紅が見せた炎の翼。
あの炎の翼が格好良かったので、龍也は自分も炎の翼を生み出してみたいと考えていたところ。
だが、只妹紅が生み出した炎の翼を真似したとしても芸が無い。
何か、オリジナリティが欲しいところだ。

「炎の翼………炎……」

オリジナリティを出す為に炎から連想されるものを龍也は頭に次々と思い浮かべていく。
思い浮かべているものは漫画やゲームのキャラばかりであったが、唐突に龍也の脳裏にフランドールの姿が過ぎり、

「……そう言えば、フランドールも炎の大剣を使っていたな」

フランドールと戦った時の思い返した。
今にして思えば、良く勝てたものである。
それはさて置き、フランドールとの戦いを思い返したからか、

「そうだ、フランドールの翼みたいなのはどうだろう」

フランドールの翼を模したものを炎で生み出したらどうだろうと言う発想に至り、龍也はイメージを膨らませていく。
ベースはフランドールの翼。
翼にくっ付いている宝石みたいなのは除外し、枯れ枝っぽいのを生やす。
一対だけでは少々寂しいので、生やすのは三対の計六本。
一通りイメージが纏まった後、龍也は自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から紅に変わった瞬間、

「……よし!!」

気合を入れながら龍也は背中から炎の翼を生み出し、少しドキドキしながら自身の背後に目を向ける。
そんな龍也の目には、

「……うわあ」

ショボイ翼っぽい何かが映った。
一応、三対六本の炎の翼と言う形は成してはいるのだが炎の出力は弱く形もフニャフニャとしたもの。
はっきり言って最悪の出来と言って良いが、それで諦める龍也ではなく、

「うううううぅぅぅぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

今度は霊力の解放を行ない、今現在生み出している炎の翼を強化しに掛かった。
すると、既に生み出された三対の翼が一対の翼となって翼そのものが勢い良く伸び始める。
しかし、今龍也が居る場所は魔法の森の中。
魔法と言う名が付いてはいるが、森の中である事に変わりは無い。
森の中と言う事は、周囲は木々ばかりと言う事。
つまり、そんな場所で炎の翼を不用意に伸ばそうものなら、

「…………あ」

伸ばした部分が木に当たり、木が燃え始めるのは自明の理。
自身が伸ばした炎の翼のせいで木が燃え始めた事に気付いた為、

「ああああああああああああああああああああ!! ここが魔法の森の中だって事忘れてた!!」

大慌てと言った感じで龍也は霊力の解放を止め、自身の力を朱雀の力から青龍の力へと変えた。
力を変えた事で龍也の瞳の色が紅から蒼に変わり、生み出されていた炎の翼の様なものが消失する。
そのタイミングで、龍也は振り返って燃えている木に両の手を向けて水を放つ。
放たれた水は燃えている木に当たり、見事に燃えていた木を鎮火した。
火が消えたのを確認した龍也は水を放つのを止め、

「ふぅー……」

両腕を下ろしながら安堵の息を一つ吐き、

「上手くいかないものだな」

愚痴るかの様にそう呟いて自身の掌を見詰め、掌から掌サイズの水球を生み出す。

「………………………………………………………………」

生み出した水球を龍也はジッと見詰めながら水球の形を変えていく。
水の剣、水の槍、水の手裏剣、水の十手、水の懐中時計、水の鳥、水の猫と言った様に。
一通り生み出した水球の形を変えた後、龍也は水球を崩して自身の手に纏わり付かせていく。
そして、纏わせた水を龍の手を模した形に変え、

「手から生み出したものは自由自在且つ割と思い描いたに形を変える事は出来るのにな……」

手から生み出したものなら自由自在且つ思い描いた形を変えれるのにと漏らし、纏わせている水を消す。
暇な時にでも手以外の場所からでも炎や水をと言ったものを思い描いた通りに生み出せる様に練習するべきかと考えた時、

「ん、龍也じゃないか」

木々の間から魔理沙が現れた。

「魔理沙」

急に現れた魔理沙に龍也は少し驚きつつ、魔理沙の方に体を向けると、

「何やってたんだ、こんな所で?」

何をやっていたんだ言う疑問が魔理沙から投げ掛けられる。

「俺か? 俺は適当に散策だな。魔理沙は?」
「私は茸狩りだぜ」

投げ掛けられた疑問に龍也がそう返すと、魔理沙は茸狩りだと答えて背負っている籠を龍也に見せた。
見せられた籠の中には、様々な種類の茸が入っている。
良くここまで様々な種類の茸を集められたなと言う感想を龍也が抱いている間に、

「そういや、さっき焦げ臭いものを感じたんだけど……何か知らないか?」

焦げ臭いものを感じ取ったのだが何か知らないかと言う問いを魔理沙は龍也に投げ掛けた。
魔理沙が投げ掛けた疑問に対する答えを龍也は知っている。
何せ、焦げ臭さを魔理沙に感じ取らせる原因を作ったのは龍也なのだから。
が、炎の翼を生み出すのをミスって山火事ならぬ森火事を起こしそうになったと言うのを正直に話すのは恥ずかし過ぎる。
だからか、

「いや、知らないな」

龍也は知らない振りをする事にした。

「そっか」

龍也の知らない振りを信じたからか、魔理沙はそれ以上追求せずに息を一つ吐いてキョロキョロと周囲を見渡していく。
どうやら、ここにも茸が無いか探している様だ。
そんな魔理沙を見て、相変わらずだと言う感想を龍也は抱きつつ、

「あ、そうだ。魔理沙、前に俺がお前から買った傷薬ってまだ在るか?」

思い出したかの様に以前買った傷薬はまだ在るかと魔理沙に聞く。
聞かれた魔理沙は何かを考える様な体勢を取り、

「傷薬……あー、あれか。今は手元には無いが直ぐに作れるぜ」

然程間を置かずに今は手元に無いが直ぐに作れると言う答えを返す。
返された答えを頭に入れた龍也は、

「じゃあ作ってくれ」

早速と言わんばかりに魔理沙にその傷薬を作ってくれと頼む。
頼まれた魔理沙は少し驚いた表情を浮かべ、

「何だ、もう無くなったのか?」

もう無くなったのかと尋ねて来たので、

「ああ、萃香が起こした異変の時でな」

萃香が起こした異変の際に全部使い切った事を龍也は魔理沙に教える。

「ああ、そう言えばあの時の龍也はボロボロだったな」

教えられた事から萃香が起こした異変を解決した龍也の状態を思い出しつつ、

「了解。んじゃ、今から作るから私の家に来てくれ」

了解と言う返事と共に魔理沙は龍也に背を向けて歩き出した。

「あいよ」

歩き出した魔理沙を見た龍也はあいよと言いながら自身の力を消す。
力を消した事で瞳の色が蒼から元の黒に戻ったの同時に、龍也は魔理沙の後を追う様にして足を動かして行く。
そして、

「あ、ちゃんと代金は頂くぜ」
「分かってるって。それよか、どんな茸を採って来たんだ?」
「えーと……食用の茸、毒茸、魔法薬の材料になる茸、他の茸の性質を高める茸、少し魔力を籠めれば爆弾になる茸、只の燃料になる茸と言った感じで色々だな」
「良くそれだけの種類の茸を集められたな」
「ま、茸集めは得意だからな。これ位、訳無いぜ」
「その辺は流石って言ったところだな」
「おいおい、褒めたって何も出ないぜ」

魔理沙と龍也は雑談を交わしながら魔理沙の家を目指して行った。






















「しっかし、お前の家は相変わらず散らかってるな」

魔理沙の家に着き、家の中に入ると龍也は関口一番相変わらず散らかっているなと言う感想を零す。
零された感想をが耳に入ったからか、

「これはこれで整理されてるんだぜ」

少々不機嫌そうな表情を浮かべながら魔理沙はこれはこれで整理されていると言い、背負っていた籠を机の上に置き、

「さて、傷薬を作ると言っても完成するまで結構時間が掛かるぜ」

龍也が居る方に向き直って傷薬が完成するまで時間が掛かる事を伝える。
となると、それまで暇になってしまうからか、

「あー……どうすっかな」

どうしたものかと言った感じで龍也は頭を悩ませ始めた。
そんな龍也に、

「何だったら、床の掃除でもしててくれ」

これ幸いと言った感じの表情を魔理沙は浮かべ、龍也に薬が出来上がるまで床の掃除をしててくれと言う頼みをし出した。

「床掃除?」

床掃除をしろと言う頼みをされた龍也は訝し気な表情を浮かべながら視線を下に向ける。
視線を下に向けた龍也の目にはゴミ、埃、服、本、小銭、ガラクタ等々、様々な物が転がっている光景が映った。
良くここまで散らかせたなと言う感想を龍也が抱いている間に、

「で、どうだ? 只待っているよりも有意義に時間が過ごせると思うぜ」

さっさと自分の頼みを受け入れろと言った雰囲気を魔理沙は醸し出しながら、只待つよりも有意義に時間が過ごせるだろうと口にする。
確かに、只待つよりも掃除でもしていた方が暇は潰せる事は確実なので、

「分かった分かった、掃除位してやるよ」

龍也は魔理沙の頼みを引き受ける事にした。
自分の頼みを龍也が引き受けてくれたからか、

「お、そうかそうか」

嬉しそうな表情を魔理沙は浮かべ、

「取り敢えずゴミはゴミ箱に、本は本棚に入れてくれ。それ以外の物は机か椅子の上にでも置いといてくれ」

軽い指示を出した後、傷薬を作る為に実験室へと向って行く。
向かって行った魔理沙を見届けた後、龍也は近くに落ちていた本を拾って中身を軽く見てみる。
拾った本に書かれている文字は、龍也が全く知らない文字で書かれていた。
魔理沙に限らず、パチュリーやアリスと言った魔法使いはこう言った文字でも平気で読み解く事を可能としている。
改めて魔法使いと言う存在は凄いなと言う事を思いつつ龍也は本を閉じ、

「さてと……」

他の落ちている本も拾い集めていく。
ある程度本を拾い集めると、龍也は拾い集めた本を本棚に収め、

「ここに在る本、魔理沙自身が集めたものも勿論在るんだろうけど……一体何割がパチュリーの図書館から持ち出された本なんだ?」

この家に在る本の何割がパチュリーの図書館から持ち出された物なのかと言う事を考える。
だが、考えても仕方が無い事なので龍也は考えた事を頭の隅に追いやって振り返り、

「……取り敢えず、先ずは本の片付けからするか」

本から片付ける事を決め、本を拾い集めるルートを頭の中で構築していった。






















「あー……やっと終わった」

掃除が全て終わった後、龍也は疲れを吐き出すかの様に息を一つ吐きながら自身の力を消す。
すると、龍也の瞳の色が翠から元の黒色に戻った。
どうやら、龍也は今まで白虎の力を使っていた様だ。
何故、今まで白虎の力を使っていたのか。
答えは簡単。
床に溜まっていた埃などを一箇所に集める際に、白虎の力を利用したからだ。
兎も角、掃除を完了させた龍也は窓に視線を向け、

「うわぁー……もう夜になってる……」

もう時間帯が夜になっている事に気付く。
龍也の記憶が正しければ、掃除を始めた時点ではまだ日が昇っていた筈。
ここまで時間が掛かった事に驚きつつ、そろそろ傷薬が出来ても良い頃だと龍也が思ったタイミングで、

「完成したぜー」

実験室の扉が開き、完成したと言う言葉と共に魔理沙が実験室の中から出て来た。
丁度良いタイミングで出て来たな龍也が思った時、

「そら」

魔理沙が龍也に向けて何かを投げる。

「おっと」

投げられた何かを龍也は右手で掴み、掴んだものが何かを確認すると、

「これは……木製のケースか」

掴んだものは木製のケースである事が分かった。
因みに、形状は丸。
それはさて置き、投げたものを龍也が受け取ったのを確認した魔理沙は、

「そのケース中に傷薬が入っているぜ」

ケースの中に傷薬が入っている事を龍也に伝える。
伝えれられた内容から、傷薬のタイプは以前と同じで塗り薬である事を龍也は理解し、

「ありがとな」

礼の言葉を述べながら傷薬を懐に仕舞う。
その後、魔理沙は一通り周囲を見渡し、

「お、綺麗に片付いてるな。感心感心」

綺麗に掃除されている事を理解した事で満足気な表情を浮かべた。
魔理沙の浮かべた表情を見て、

「感心する前に、普段からもう少し綺麗にする事を心掛けろよ」

普段から家の中をもう少し綺麗にする様にと言う突っ込みを入れる。

「それはそれ、これはこれってやつだぜ」

突っ込みを入れられた魔理沙は何処吹く風と言った感じで受け流し、

「それよか、腹が減ったからそろそろご飯にするか。後、もう晩いから泊まっていっても良いぜ」

そろそろご飯にする事と、泊まっていっても良いと言う事を龍也に伝えた。
もう晩いと言う時間帯なので、泊まっていっても良いと言ってくれた魔理沙に内心で龍也は感謝しつつ、

「そういや、ご飯って茸料理か?」

確認を取るかの様にご飯は茸料理かと問う。

「おう、そうだぜ。今日は食用の茸が沢山とれたしな。それに、茸料理なら直ぐに出来るしな」

問われた事を魔理沙は肯定しながら籠の中から食用の茸を幾つか取り出し、台所へと向かって行く。
台所へと向かって行った魔理沙を見届けた龍也は、ソファーに腰を落ち着かせてご飯が出来るのを待つ事にした。























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