魔理沙の家に龍也が泊まり始めてから幾日が過ぎた頃。
妖怪に負わされた龍也の怪我は、既に完治していた。
だからか、

「何だ、もう行くのか?」

龍也は魔理沙の家を後にする事を決める。
ともあれ、もう自分の家を後にする事を決めた龍也に魔理沙が少し驚いていると、

「ああ、これ以上世話になるのも悪いしな」

これ以上世話になるのも悪いと言う事を龍也は口にした。
口にされた内容から、龍也の包帯を取り換えたり怪我人でも食べ易い料理を作った事を魔理沙は思い出しつつ、

「別に気にしなくても良いんだがな」

気にしなくても良いと言う事を漏らしながら龍也の顔を覗き込み、

「大丈夫か? まだ顔色悪い様だけど……」

まだ顔色が悪い様だが大丈夫かと言う問いを投げ掛ける。
問うた通り、龍也の顔色は良いとは言えない。
兎も角、そう問われた龍也は顔色が悪いのはここ数日の夢見が悪かったからだと思った。
何せ、ここ数日は自分が自分でなくなる様な夢ばかりを見ていたのだから。
いっその、全て正直に魔理沙に話してしまえば楽になるかも知れない。
そんな考えが龍也の脳裏に過ぎったが、直ぐに過ぎった考えを龍也は彼方へと追い遣る。
何故ならば、下手に自分の状況を伝えれば余計な心配を掛ける事になると判断したからだ。
故に、

「ああ、大丈夫だ」

大丈夫だと言う答えを龍也は魔理沙に返し、

「じゃ、またな」

またなと言って魔理沙に背を向け、外に出ようとする。
その瞬間、

「……なぁ」

魔理沙は龍也を呼び止めた。

「ん?」

呼び止められた龍也が魔理沙の方に振り返ったタイミングで、

「何かあったら言ってくれ。格安で頼まれてやるぜ」

そう言いながら魔理沙は笑顔を作った。
数瞬程、不意に浮べられた笑顔に龍也は目を奪われたものの、

「……ああ、ありがとう」

礼の言葉を述べて、魔理沙の家を後にする。
魔理沙の家から出た龍也は、

「……ふぅ」

一息吐き、思う。
魔理沙に今の自分が不調である事を知られたのではないかと言う事を。
まぁ、ここ数日は元気の無い姿しか龍也は魔理沙に見せていない。
不調だと思われるのも当然と言うもの。
だが、根本的な事までは知られてはいない筈。
とは言え、結局は余計な心配を掛けてしまった様なので龍也はその事を反省しつつ、

「……よっと」

気持ちを切り替えるかの様に跳躍し、足元に霊力で出来た見えない足場を作ってそこに着地する。
そして、顔を動かしてアリスの家を探していく。
それから少しするとアリスの家を発見出来たので、龍也は空中を駆けてアリスの家を目指して行った。
何故アリスの家を目指しているのかと言うと、自分の体に起きている変調に付いて相談する為だ。
ここ数日、龍也は魔理沙の家に泊まっている間にある結論を出した。
出した結論と言うのは、戦いの最中に体を動かなくなったのは何者かに体を操られそうになったからなのではと言うもの。
この出した結論が正しいか正しくないかを知る為に、人形を操る魔法を得意としている人形遣いのアリスの家に向かっているのだ。
正しい事が分かればアリスに解決策を教えて貰えば良いし、正しくない事が分かったら自分の体は操られていた訳では無いと言う確信を得る事が出来る。
アリスからどう言った答えが返って来たとしても、自分の問題を解決する為の手掛かりは見付かる可能性は高いだろう。
と言った様な期待をしながら突き進んでいるとアリスの家を眼下に捉える事が出来たので、龍也は急ブレーキを掛けながら見えない足場を消す。
すると、龍也は地面に向けて急降下していき、

「よっと」

地に足を着け、アリスの家のドアの前にまで足を進めて行く。
ドアの前にまで辿り着くと龍也は足を止め、ドアをノックした。
ドアをノックしてから少しすると玄関のドアが少し開かれ、

「あら、龍也じゃない。いらっしゃい」

少し開いたドアから来訪者が龍也である事を確認したアリスは、ドアを完全に開いて龍也に出迎えの言葉を掛ける。

「よっ」

掛けられた言葉に龍也が片手を上げて挨拶の言葉を発すると、

「ええ、こんにちは」

アリスも龍也に挨拶を言葉を返し、

「ここで立ち話しをするのもあれだし、家の中に入りましょ」

家の中に入る様に促す。

「ああ。そうだな」

促された龍也は賛成の意を示しながらアリスの家に上がり、二人揃って居間へと向かう。
居間に着くとアリスの人形がテーブルの上に紅茶が入ったカップとクッキーが入った皿を並べている様子が龍也の目に映ったのと同時に、

「取り敢えず、椅子に座りましょうか」

アリスは椅子に座ろうと言って椅子に近付き、椅子に腰を落ち着かせる。
そんなアリスに続く様にして龍也も椅子に近付き、腰を落ち着かせた。
お互い向かい合う様な形で椅子に座った後、アリスは紅茶を一口飲み、

「それで、私に何を聞きたいのかしら?」

紅茶が入ったカップをテーブルの上に置き直して自分に何を聞きたいのかと言う事を龍也に聞く。

「……分かるのか?」
「分かる……と言うより、私に何かを聞きたいと言う雰囲気を出していたわよ」

聞かれた事を受けた龍也が虚を突かれた様な表情を浮べると、アリスからその様な指摘をされてしまった。
指摘された内容からそんな雰囲気を出していたかと言う疑問を龍也は抱く。
が、直ぐに抱いた疑問を彼方に追い遣って思う。
だったら話が早いと。
しかし、アリスに余計な心配を掛けたくはないので、

「実はさ、少し前に体の自由が効かなくなる事があってさ」

当たり障りの無い部分だけを話す事にした。

「ふむ……」
「アリスなら何か分かるかもって思ったんだ」

話された内容から何かを考え込み始めたアリスに、龍也は序と言わんばかりにアリスの家にやって来た理由も伝える。
伝えられた内容を頭に入れたアリスは龍也を見詰めて、

「……つまり、何者かに操られた可能性が在るから調べて欲しいと言う事かしら?」

端的に、何者かに操られていた可能性が在るから調べて欲しいのかと問う。

「ああ」
「分かったわ。調べて見るから後ろを向いて服を脱いで」

問うて来た事に龍也が肯定の返事をした為、調べて見るので服を脱いで後ろを向く様にと言う指示をアリスは龍也に出す。

「分かった」

出された指示に従うかの様に龍也は分かったと言い、学ラン、ワイシャツ、シャツを脱いで上半身裸になる。
そして、アリスに背を向け様とした時、

「……ッ」

ある事に気付く。
何に気付いたのかと言うと、この儘アリスに背を向けてもテーブルが邪魔になって調べ難いと言う事。
なので、龍也は立ち上がって椅子を横にずらす。
ずらした椅子がテーブルからある程度離れた辺りで龍也は椅子をずらすのを止め、ずらした椅子に腰を落ち着かせる。
勿論、アリスに背を向ける形で。
龍也の準備が整ったのを理解したアリスは立ち上がり、自分が座っていた椅子を龍也の近くにまで移動させ、

「さて……」

移動させた椅子に腰を落ち着かせ、龍也の背中を手で触れて調べていく。
背中に触れているアリスの手の感触が少し擽ったいと言う事を龍也が思っている間に、アリスは手は別の部位へと向かって行った。
肩、肘、手と言った部位に。
アリスの手が自分の手に触れた時、女の子らしい柔らかい手だと言う感想を龍也は抱いた。
その間にアリスの手は龍也の手から離れ、龍也の後頭部に移る。
それから少しするとアリスは龍也の後頭部から手を離し、

「結論から言うと、龍也の体に魔力糸やそれに類するものが付けられていたと言う痕跡は無かったわ」

結論を述べた。

「魔力糸……確か、人形を操る際にアリスが使っている魔力で構成されている糸だったか?」
「ええ、そうよ」

魔力糸と言う単語から自分が知っている情報を龍也が漏らしながらアリスの方に体を向けると、アリスはそうだと言いながら自身の指先から光る糸を何本か生み出し、

「これが魔力糸。今は見える様にしているけどね」

今見せている光る糸が魔力糸である事を龍也に伝える。
目に映っている魔力糸を見るのは初めてであったからか、

「これが……」

若干興味深そうな視線を龍也は魔力糸に向けた。
そんな龍也を余所に、

「私は人形を操るのが専門で人体を操るのは専門じゃないけど、それでも分かる事は在る」

自分は人形を操るのが専門であって人体を操るのは専門ではないと言う事をアリスは語るも、それでも分かる事は在ると断言する。

「分かる事?」
「それは、操り主と操られる対象には何らかのラインが必要だって言う事」

断言された事を受けて何が分かるのかと言う疑問を龍也がアリスに投げ掛けると、アリスは魔力糸を消して龍也が投げ掛けた疑問に対する答えを返す。

「ライン?」

返って来た答えの中に在ったラインと言う単語に龍也が首を傾げた為、

「直接説明した方が早いかしらね。もう一回後ろを向いて」

直接証明した方が早いとアリスは判断し、龍也にもう一回後ろを向く様に言う。

「あ、ああ」

言われるが儘に龍也が再びアリスに背を向けた瞬間、

「……ん?」

かなり曖昧な感覚ではあったものの、龍也は自身の背中や腕に何かがくっ付いた感触を覚えた。

「今、魔力糸を分かる様にくっ付けたんだけど……分かった?」

同時に、アリスから背中に魔力糸をくっ付けたのは分かったかと言う事が尋ねられる。

「ああ、背中や腕に何かがくっ付いた感触は在ったな」

尋ねられた龍也が何かがくっ付いた事が分かったと答えた途端、

「うお!?」

突如として、龍也の右腕が上がった。
行き成り右腕が上がった事に驚きながら、龍也が自身の右腕に顔を向けると、

「今、私が魔力糸を使って貴方の体を操ったの」

龍也の右腕が行き成り動いたのは、自分が操ったからだと言う事をアリスは龍也に教える。

「へぇー……」
「只、今の状態だと一寸問題が在るのよ。例えば強度とか」

教えられた内容を受けて何処か感心している龍也に、今の状態では強度に問題が在ると言う事をアリスは零し、

「龍也、一寸右腕を動かしてみて」

右腕を動かしてみてと言う指示を出す。
出された指示に従うかの様に龍也が右腕を動かすと、当然の様に龍也の右腕は動いた。
と言っても、

「……ん?」

複数在る何かを引き千切る様な感触と若干の抵抗と共にであるが。
明らかに只右腕を動かしただけの感触では無いと言う事を龍也が理解したタイミングで、

「今の様に、一寸抵抗すれば魔力糸が簡単に切れてしまうのよ」

一寸抵抗すれば魔力糸が簡単に切れてしまう事をアリスは語り、

「かと言って、丈夫なのを作ろうとすると……」

そう続けながら新たな魔力糸を作り、作った魔力糸を龍也の体にくっ付けていく。
すると、

「お……」

はっきりと、自身の体に何かがくっ付いたと言う感触を龍也は覚えた。
魔力糸をくっ付けた龍也の際の反応を見たアリスは、

「……と、この様に丈夫な魔力糸だと簡単に気付けてしまうのよ。魔力糸を作る際に使う魔力がどうしても多くなってしまうからね。まぁ、よっぽど
感知能力が低かったら話は別でしょうけど」

丈夫な魔力糸を作ると魔力糸に籠められている魔力の量が多くなるので、丈夫な魔力糸をくっ付けたら簡単に気付けてしまう事を話す。
話された内容から龍也は体が動かなくなった時の事を思い出したが、今の様に魔力糸の様な何かがくっ付いたと言う記憶は無かった。
更に言えば魔力糸を使って人形を操っているアリスが、龍也の体に魔力糸が付いていた痕跡が見られないと断言したのだ。
だとしたら、魔力糸の様なものをくっ付けられて体の動きを止められたと言う可能性は除外しても良いだろう。
なので、体が動かなくなった原因から魔力糸による身体操作を龍也が除外すると、

「脳に糸を付けて操っていると言う線も在ったからそっちも調べてみたけど、その痕跡も無かったわ」

補足内容として、脳に糸を付けて操ったと言う痕跡は無かった事もアリスは龍也に伝える。
伝えられた内容を理解した龍也が、ついと言った感じで後頭部に手を持って行った時、

「まぁ、龍也位の力が在れば体や後頭部に魔力糸やそれに類するものが付いたとしても楽に引き千切れるでしょうね。それが龍也に気付かれない様に
くっ付けられたものなら尚更よ」

龍也の実力なら魔力糸やそれに類するものが体にくっ付いても楽に引き千切れると言う発言でアリスはこの話題を締め括り、

「魔力糸関連のものが龍也の体に付着していたって言う痕跡は見られなかったけど、遅延発動型の魔法や潜伏型の魔法と言ったものが龍也に仕掛けられている
可能性が在るわ。それに付いても調べ様と思うのだけど……良いかしら?」

話を変えるかの様に何かしらの魔法が龍也の体に仕掛けられている可能性を示唆し、その可能性が正しいのかどうかを確かめても良いかと言う事を龍也に聞く。
魔力糸によって体の動きを止められたと言う可能性は否定されたが、何らかの魔法によって体の動きを止められたと言う可能性までは否定されてはいない。
であるならば、魔法使いのアリスにその事を調べて貰うのが一番であるので、

「ああ、宜しく頼む」

龍也はアリスに自分の体に何かしらの魔法が掛けられていないかを調べて貰う事を決める。

「ええ、任せなさい」

龍也から許可が出たと言う事で、アリスは早速と言った感じで龍也の体に魔法が掛けられているかどうかを調べていった。






















「……終わったわよ」

そう言ってアリスが龍也の体から手を離すと、

「どうだった?」

どうだったと言いながら龍也はアリスの方に体を向ける。
体を向けた龍也がアリスと向かい合う様な形になったタイミングで、

「……結論から言うと、貴方に何かしらの魔法が掛けられていると言う痕跡は発見されなかったわ」

龍也の体に魔法が掛けられてはいないと言う結論を、アリスは龍也に伝えた。
魔力糸、魔法と言った様なもので自分の体が動かなくなった訳では無いと言う事を龍也が理解した時、

「ごめんさい。魔法……魔に属するものが原因で無いのなら、私では龍也の体の自由が効かなくなった原因を突き止められそうにないわ」

アリスは申し訳無さそう表情になり、自分では龍也の体の自由が効かなくなった原因を突き止められそうにないと言って頭を下げる。
急に頭を下げられた事で龍也は驚くも、

「謝んなくて良いって。魔力糸や魔法と言ったものが原因じゃないって言うのが分かっただけでも大収穫だったしさ」

謝る必要はない事を口にし、アリスの様子を伺う。
すると、アリスは頭を上げ、

「そう……」

何処か安心したかの様な表情を浮かべた。
その後、

「それよか、俺の方こそ悪かったな。こんな晩くにまで付き合せて」

晩くにまで付き合わせた事に対する謝罪を龍也は行なう。
龍也の体に魔法が掛けられているかどうかを調べる為、アリスは様々な方法を試みた。
だからか、龍也が思っていた以上に自身の体を調べ終わるのに時間が掛かってしまったのだ。
具体的に言うと、天を支配しているものが太陽から月に変わる程の時間が。
ともあれ、晩くまで付き合わされた事に謝罪されたアリスは、

「それこそ、別に構わないわ。龍也には完全自立型人形の作成やゴリアテの作成から強化改修に関するアドバイスを色々として貰っているからね。
お互い様と言うやつよ」

龍也には色々と世話になっているのだから、気にする事はないと返して指を動かす。
その瞬間、何体かの人形が動き出し、

「もう晩いし、今日は泊まっていきなさい。それと、今からご飯を作るけど……何か食べたい物はあるかしら?」

もう晩いから泊まっていく事をアリスは龍也に提案し、晩ご飯のリクエストはあるかと問う。
問われたのと同時に龍也はかなりの空腹感を覚えたので、

「なら、直ぐに食べれる物を作ってくれないか?」

直ぐに食べれる物を作ってくれと言うリクエストをする。

「直ぐに食べれる物ね。分かったわ」

リクエスト内容をアリスが理解したのと同時に、アリスの人形が台所へと向かって行く。
それから幾らかすると、龍也がリクエストした通りの料理が運ばれて来た。
運ばれて来た料理がテーブルの上に置かれた同時に、龍也は椅子をテーブルの近くに移動させて早速と言わんばかりの勢いで料理を食べ始める。
勢い良く食べ始めた龍也を見てアリスは微笑ましいと言った様な表情を浮べつつ、アリスも椅子をテーブルの近くに移動させて料理を食べ始めた。
料理を食べ終えると、龍也はアリスの家に泊まる際に使わせて貰っている部屋へと移動する。
そして、その部屋に着くと龍也はベッドに入って眠り始めた。






















上下左右前後、全てが黒で染め上げられた空間。
そんな空間に、龍也は一人で立っていた。
どうしてこんな所に居るんだと言う疑問を龍也が抱いた時、

『…………………………………………う』

声が龍也の耳に入って来る。

『……………………………………らう』

自分ではない、自分と似た様な声が。
最初は何を言っているのか聞き取れなかったが、

『……………………………………貰う』

少しずつだが、はっきりと何を言っているのかが聞こえ始める。
そして、最後には、

『幾ら足掻いても無駄だ。テメェの体は俺が貰う』

はっきりと何を言っているのかが理解出来る様になった。
その後、龍也は声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた龍也の目には…………………………






















「ッ!?」

龍也は勢い良く上半身を起き上がらせ、

「ハァハァハァ……ハァ!!」

息を荒げながら周囲の様子を確認する。
周囲の様子を確認すると、先ずは窓から差し込む月光が映った。
月光の次に映ったものは、整理整頓された部屋。
目に映ったものから、

「……そうだ、俺はアリスの家に泊まったんだ」

アリスの家に泊まった事を龍也は思い出す。
そして、左手で左目辺りを押さえ、

「くそ…………」

悪態を吐きつつ、理屈や理論った言ったものではなく本能で理解した。
自分ではない何かが自分に近付いて来ている事と、自分が自分でなくなる様な感覚に襲い掛かられていると言う事を。
同時に外側から干渉されているのではなく内側、それもかなり深い部分から干渉されていると言う事も。
本能で理解した内容を、言葉で説明出来る様になるまで時間が経った辺りで、

「この儘じゃ……俺は…………消える………………」

ポツリと、そんな言葉が龍也の口から零れた。
その瞬間、龍也は底知れぬ恐怖に襲われる。
妖夢と初めて戦った時に負け、修行して再び妖夢と戦っていた時に抱いた負けるかもしれないと言う恐怖。
あんな下らない恐怖とは、比べ物にならない程に強烈で凶悪な恐怖を。
覚えた恐怖はどんどんと龍也の心を蝕んでいき、

「俺は…………どうすれば良い…………どうしたら良い…………? 誰か……教えてくれ……助けてくれ……」

震える声でそんな事を呟く。
だが、今居る部屋には龍也以外に誰も居ない。
故に、龍也の呟きに応える者は誰も居なかった。
勿論、その事は龍也も知っている。
だが、それでも言った感じで龍也は上半身をベッドに預けてうつ伏せになり、

「……くそ!!」

ベッドに拳を叩き落した。






















龍也がアリスに自分の体が突如として動かなくなった事を相談してから一日が経った日の朝。
アリスの家で朝ご飯を食べた後、龍也はアリスの家を後にして魔法の森の中を歩いていた。
一歩、また一歩と言った感じで足を進めている中で龍也はある事を感じ取る。
感じ取った事と言うのは、自分の心の状態がどんどんと悪くなっていると言う事。
アリスと一緒に会話を交わしながら朝食を食べていた時は心の状態は割りと安定していたのだが、こうも悪化したのは一人になったからであろうか。
こんな事なら暫らくアリスの家に居れば良かったと龍也は一瞬だけ思ったが、

「いや……それは駄目だ」

直ぐに思った事を否定し、頭から追い遣った。
そうした理由は二つ。
一つは何か行動を起こさなければ取り返しが付かない事になると感じた為。
もう一つはアリスに余計な心配を掛けたくなかったと言うもの。
只でさえ、突如として体が動かなくなってしまった言う事をアリスに伝えてしまっているのだ。
これ以上アリスの家に居れば、確実に龍也はアリスに余計な心配を掛ける事であろう。
ともあれ、一人になると心の状態がどんどんと悪化していってしまっているので、

「俺……こんなに弱かったか……?」

ポツリと、そんな事を呟いた。
その瞬間、

「……ッ」

龍也の進行方向上に茸型の妖怪が現れる。
ここ、魔法の森では良く見られるタイプの妖怪だ。
そんな事を思っていがら足を止めた時、龍也は現れた妖怪が戦う意思と言った様なものを発している事に気付く。
同時に、戦いを避ける事が出来ない事を悟った龍也は、

「さて……」

現れた茸型の妖怪を倒す事を決め、大地を駆けて妖怪との距離を詰めに掛かる。
しかし、

「ッ!?」

妖怪との距離が半分程詰まった辺りで、龍也の動きが止まってしまった。
と言っても、また急に自分の体の自由が効かなくなったと言う訳ではない。
龍也が自分の意思で体の動きを止めてしまったのだ。
何故、そんな事をしたのか。
答えは、内側から響き渡る様に聞こえて来る声に在る。
戦ったら、またあの声が聞こえて来るかも知れない。
一瞬でも、僅かでもそう思ってしまった龍也は反射的に体の動きを止めてしまったのである。
当然、突如として動きを止めた龍也の隙を突くかの様に妖怪は龍也へと肉迫して行く。

「ッ!?」

妖怪の接近に気付いた龍也は体を倒し、地面を転がって妖怪から距離を取る。
妖怪からある程度距離が取れた辺りで龍也は立ち上がりながら体勢を立て直す。
そして、気持ちを切り替えるかの様に妖怪を倒す為に攻撃を行なおうとしたが、

「ぐっ!!」

また、動きを止めてしまった。
攻撃せずに動きを止めてしまった龍也を不審に思う事無く、妖怪は龍也との距離を詰めに掛かる。
それに対し、龍也はまるで逃げるかの様に後ろへと下がって行く。
追う妖怪と退く龍也。
龍也と妖怪がまるで追いかけっこ様な事をし始めてから少しすると、

「……ん?」

龍也は何かにぶつかり、後ろに下がると言う行為を強制的に中断してまう。
ぶつかった何かを確認する為に顔を後ろに向けると、龍也の目には木が映った。
今居る場所は魔法の森。
森と言うからには木々が至る所に存在しているので、後方を確認しないで後ろに下がっていれば木にぶつかるのも当然とも言うもの。
木にぶつっかった事に納得した後、龍也は思い出したかの様に顔を正面に戻す。
すると、妖怪が目の前にまで迫って来ているのが分かった。
この儘では妖怪の攻撃をまともに受けるのは確実なので、龍也は迎撃行動を取ろうとしたが、

「ぐう!!」

迎撃行動を取る事が出来ず、動きを止めてしまう。
戦えばまたあの声が聞こえて来るのではと言う恐怖心が、龍也の体を縛っているからだ。

「くそ……戦え!! 戦えよ俺!! ここは戦う場面だろ!!!!」

自分自身に龍也は喝を入れて戦おうとしたが、龍也の体は戦う事を拒んでいた。
そうこうしている間に妖怪からの攻撃が繰り出されたしまった為、

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

悔しさを声で表しながら龍也は大きく跳躍し、足元に霊力で出来た見えない足場を作る。
作った足場に龍也は足を着け、逃げるかの様に魔法の森から離れて行った。






















魔法の森から離れてから幾らか経った頃。
龍也は、

「はぁ……」

頭を下げ、気落ちした雰囲気を見せながら何処かを歩いていた。
だからか、

「痛ッ」

誰かにぶつかってしまう。
ぶつかった事で、龍也は頭を上げ、

「すみません」

すみませんと言って周囲の様子を伺っていく。
その結果、

「ここは……人里か……」

今居る場所が人里である事が分かった。
どうやら、魔法の森から離れた龍也は人里にやって来ていた様だ。
龍也としては別に人里を目指していた訳では無いのだが、無意識の内に人が多い場所に惹かれれいたのだろうか。
恐怖心、怯え、不安と言った感情を誤魔化す為に。
そんな事を思った龍也は、

「……くそ」

つい、悪態を吐いてしまう。
同時に、龍也は自分と精神状態が悪くなっているのをはっきりと自覚した。
だからと言って、この精神状態を良くする方法を龍也は知らない。
どんどんと悪くなっていく自分の精神をどうすれば良いのかと言う事を悩み始めた龍也に、

「おや、龍也君じゃないか」
「え? 龍也?」

誰かが声を掛けて来た。
掛けられた言葉に反応した龍也は足を止め、声が聞こえて来た方に顔を向ける。

「慧音先生に……妹紅?」

顔を向けた龍也の目には、慧音と妹紅の姿が映る。
同時に、

「どうしたんですか?」

取り敢えずと言った感じ龍也はどうかしたのかと問う。

「妹紅と話していたら君を見付けてね」

問われた事に、慧音は妹紅と話している時に龍也の姿を見付けた事を口にし、

「そうそう、聞いたぞ。この前起きた異変を解決したらしいじゃないか」

思い出したかの様に龍也が異変を解決したと言う話題を出す。

「ああ、あの時の……」

出された話題で偽者の満月が天を支配していた異変の事を思い出しつつ、

「と言っても、俺一人で解決したって訳では無いんですけどね。あの異変では、幽香と一緒に行動していましたし」

訂正するかの様に、幽香と一緒に異変解決をした事を龍也は述べた。

「それも噂で聞いていたが……まさか本当だったとわね」

述べられた事を理解した慧音がかなり意外そうな表情を浮かべた浮かべたので、

「そんなに意外ですかね?」

ついと言った感じで龍也は首を傾げてしまう。
そんな龍也を見て、

「まぁ、風見幽香と言う妖怪は人間に対して友好的は言い難いからな。彼女は花の種を買いに人里に来る事もあるが、人間と会話をしている様子はちっとも
見られないんだよ」

風見幽香と言う妖怪が人間とは友好的では無いと言う事を慧音は龍也に教えたが、

「そう何ですか? 俺が幻想郷に来たばかり頃、幽香にはかなり世話になったんですけど。まぁ、今でも時偶世話になってはいるんですけど」

幻想郷に来たばかりの頃も今も幽香の世話になっていると言う情報を龍也に返されてしまう。
返された内容を受けた慧音は驚いた表情を浮かべつつ、

「彼女が人間である龍也君の世話を焼く……か。他の外来人が風見幽香に親切にされたって言う話は聞いた事は無いな。となると、龍也君が特別気に入られていると
考えるのが妥当かな」

龍也が幽香に特別気に入られているだけかと言う結論を下し、

「あ、そうだ。実はな、妹紅が迷いの竹林の案内を始めたんだよ」

話を変えるかの様に妹紅が迷いの竹林の案内を始めた事を語り始める。

「へぇー……」
「永遠亭の者達が人里に来て薬の販売をしに来てくれた事で、人里の者達に永遠亭がどう言う場所かと言う事が知れ渡ったんだ。人里よりもずっと医療、薬学と
言ったものが優れている場所として。兎も角、そう言った場所であるからか永遠亭に診察や治療と言ったものを求める者が増えていってね。とは言え、永遠亭が
建っている迷いの竹林は非常に迷い易い場所。下手に迷いの竹林に入ったら最後、遭難するのは確実だろう。そこで、妹紅の出番と言う訳だ。妹紅は迷いの竹林
の構造を誰よりも熟知しているからね。何所からでも永遠亭に行く事が出来るんだ」

語られた事に龍也が幾らかの興味を示すと、慧音はどうして妹紅が迷いの竹林の案内を始めたのかと言う理由を説明し、

「これを機に、妹紅ももう少し皆と交流を持ってくれれば良いんだけどな」

そう言いながら妹紅の方に顔を向けた。
慧音から顔を向けられた妹紅は、

「別に私はそこまで交流は求めてないわよ」

交流はそこまで求めていないと言って顔を明後日の方向に向ける。
そんな妹紅を見て苦笑いを浮べ始めた慧音を余所に、龍也はある事を考え始めた。
考えた事と言うのは、今から妹紅に永遠亭に案内して貰うと言うもの。
現在の龍也の精神状態は最悪と言っても良い程の状態。
だが、永遠亭で精神安定剤でも貰ったら少し自分の精神状態もマシになるかもしれない。
そこまで考えが至った辺りで龍也は妹紅の方に顔を向け、

「妹紅」

妹紅に声を掛ける。

「ん、何?」
「一寸、永遠亭まで案内してくれないか?」

声を掛けられた妹紅が龍也の方に顔を向けると、龍也は永遠亭に案内して欲しいと言う頼みを行なった。

「永遠亭に?」

永遠亭に案内して欲しいと言う事を頼まれた妹紅は、嫌そうな表情を浮かべてしまう。
妹紅が浮かべた表情を見て、龍也はある事を思い出す。
九対二の変則的な弾幕ごっこが終った後、妹紅から聞いた事を。
何を聞いたのかと言うと、妹紅と輝夜の関係。
何でも、この二人は顔を合わせれば殺し合いをする様な仲であるらしい。
だからと言って積極的に顔を合わせる気は無いが、その日の気分次第ではどちらかがどちらかを殺しに行く事は在る。
輝夜も妹紅と同じで不老不死。
以上、三点が聞いた事だ。
不老不死同士で殺し合いをするのは不毛な気がしないでもないが、その事に付いて龍也は何かを言う事はしなかった。
お互い譲れないものも在るのだろう言う判断で。
兎も角、永遠亭へ案内を頼まれた妹紅は浮かべていた表情を戻しつつ、

「それで、永遠亭に何か用?」

何の用で永遠亭に行くのかと言う事を龍也に尋ねる。
ここで正直に自分の状態を話したら、妹紅と慧音に心配を掛けてしまうのは確実。
故に、

「ん、ああ。一寸体調が悪いから薬を貰いに行こうと思ってさ」

かなり誤魔化した内容を龍也は二人に教える事に教える事にした。
教えられた内容を受けた妹紅と慧音の二人は龍也の顔を覗き込み、

「確かに、顔色が余り優れていない様ね」
「ふむ、そうみたいだな」

龍也の顔色が悪い事をそれぞれ口にし、慧音は妹紅に視線を向ける。
すると、妹紅は仕方が無いと言った様な表情を浮かべ、

「分かったわ、案内して上げる。付いて来て」

龍也を永遠亭まで案内する事を約束し、付いて来る様に言って歩き出した。

「ありがとう」

歩き出した妹紅に龍也は礼の言葉を掛け、妹紅の後を付いて行く。

「お大事に」

お大事にと言う慧音からの言葉を背中で受けながら。






















人里から永遠亭に向けて出発してから暫らく経った頃。
気付いたら、

「はい、着いたわよ」

龍也と妹紅は永遠亭の前に辿り着いていた。
思っていたよりも早く着いた事に龍也は驚くも、

「ありがとな」

ここまで案内してくれた妹紅に礼の言葉を述べる。
礼の言葉を述べられた妹紅は、

「別に良いわよ、これ位」

別に良いと返しながら龍也に背を向け、歩き出した。
永遠亭に診察に来ている龍也が居る手前、輝夜と顔を合わせて殺し合いと言う展開になるの避けたかったのだろうか。
ともあれ、去って行く妹紅を龍也が見送っていると、

「あ、そうそう」

何かを思い出したかの様に妹紅は足を止めて振り返り、

「お大事にね」

お大事にと言う言葉を龍也に掛け、再び足を動かし始めた。
去って行った妹紅の姿が完全に見えなくなった後、龍也は永遠亭の扉をノックする。
ノックしてから少しすると扉が開かれ、

「あら、龍也じゃない」

鈴仙が顔を出す。
どうやら、扉を開けてくれたのは鈴仙であった様だ。
扉を開けてくれた鈴仙の存在を龍也が認識している間に、

「いらっしゃい、何か用?」

何の用かと言う問いが鈴仙から投げ掛けられたので、

「ああ、永琳居るか?」

取り敢えずと言った感じで、永琳は居るかと聞く。

「師匠? 居るけど」
「案内してくれるか?」

聞かれた事に肯定の返事が鈴仙から返って来たので、龍也は永琳の所まで案内してくれと言う事を頼む。
別に断る理由はないからか、

「分かったわ。案内するから中に入って」

鈴仙は分かったと言って永遠亭の中に入る様に龍也を促す。
促された龍也が永遠亭の中に入ると、鈴仙は扉を閉めて永遠亭の廊下を歩いて行く。
歩いて行った鈴仙を追う様に龍也は靴を脱いで永遠亭の廊下に上がり、足を進める。
歩き始めてから少しすると、比較的大きな部屋の前に二人は辿り着いた。
すると、鈴仙はその部屋の襖をノックし、

「師匠、宜しいでしょうか?」

そう声を掛ける。

「ええ、構わないわ」

掛けられた声に対し、構わないと言う答えが返って来たので、

「失礼します」

一言、失礼しますと言って鈴仙は襖を開いて中へと入る。
それに続く様にして龍也も中に入ると、龍也の目には粉末同士を混ぜ合わせる作業をしている永琳の姿が映った。
何かしらの薬を作っているのかと言う事を龍也が思っている間に、

「あら、龍也じゃない」

龍也の存在に気付いた永琳が少し驚いた表情を浮べる。
龍也が来ていた事が予想外であったのだろうか。
兎も角、さっさと用件を済まそうと鈴仙は考え、

「彼が師匠に用があるとの事で」

ここに龍也を連れて来た理由を永琳に伝える。

「……分かったわ。鈴仙、下がって良いわよ」

伝えられた内容を受けた永琳は鈴仙に下がっても良いと言う指示を出す。

「分かりました」

出された指示に従う様に分かったと言いながら鈴仙は頭を下げ、永琳の部屋から退出して襖を閉めた。
そのタイミングで永琳は薬を作るのを止めて龍也に向き直り、

「それで、私に何か用かしら?」

用件を問う。

「ああ、精神安定剤が欲しいんだけど……」
「精神安定剤を?」

問われた龍也が簡潔に精神安定剤を欲している事を言うと、永琳は意外そうな表情を浮かべて龍也の顔を観察し始める。
観察し始めてから幾らかすると、永琳は近くの机の前に移動し、

「えーと、確かこの辺に……」

引き出しの中を探していく。
そして、

「あ、在った在った」

目的の物を見付けた永琳は引き出しの中からそれを取り出し、容器の中に入っている水をコップの中に入れ、

「はい、精神安定剤とお水」

引き出しの中から取り出した精神安定剤と水が入ったコップを龍也に手渡す。
手渡された物を見て、

「ありがとう」

龍也は礼をしながらそれ等を受け取り、早速と言わんばかりに薬を飲む。
序と言わんばかりに龍也が水を全て飲み干した時、

「空になったコップはその辺の机の上に置いといて良いわよ」

空になったコップは机の上に置く様に永琳は言う。
そう言われた龍也が、空になったコップを近くの机の上に置いたタイミングで、

「それと、余り抱え込まずに全部吐き出した方が楽な場合も在るわよ」

抱え込まず、全て吐き出した方が楽になる場合が在ると言う言葉を永琳は紡ぐ。
紡がれた言葉を聞いた龍也は、思わず目を見開いてしまう。
まるで、今の自分の状態を正確に見透かされている様に感じたからだ。
とは言え、仮に自分の状態を知られていたとしても龍也はその事を永琳に言う気は無かった。
余計な心配を掛けたくないからだ。
更に言えば、何も言わなければ只の思い過ごしと判断してくれるかもしれないから。
ともあれ、ここでの用事は終わったから、

「……忠告、受け取っておくよ」

それだけ言って永琳に背を向け、

「薬、ありがとな」

改めて精神安定剤をくれた事の礼を言い、永琳の部屋を後にした。






















永琳から精神安定剤を貰った後、龍也は永遠亭上空にやって来ていた。
霊力で出来た見えない足場に足を着け、永遠亭上空から永遠亭を見下ろしながら、

「しっかし、竹が邪魔で永遠亭が良く見えないな。こりゃ、上空から永遠亭を目指すのも難しそうだな」

一寸した感想を漏らし、迷いの竹林を見渡す様に視線を動かしていく。
そして、

「……駄目だ。全然地表の様子が見えない」

地表の様子が確認出来ないと言う事を漏らす。
これでは、上空から永遠亭のルートを確認すると言うのは不可能だろう。
まぁ、確認出来た処でルートを覚えられる保障は無いのだが。
兎も角、上空から迷いの竹林を観察している中で、

「……あ」

龍也はある事に気付く。
気付いた事と言うのは、精神状態が安定していると言うもの。
少なくとも、永遠亭に来る前の精神状態だったら迷いの竹林の観察何て事は出来なかったであろう。
かなり即効性がある精神安定剤をくれた永琳に龍也は改めて感謝しつつ、これからどうするかを考えていく。
現状を打開する為も方法を。
考え始めてから幾らかすると、

「……そうだ、霊夢に会いに行こう」

霊夢に会いに行く事を龍也は決める。
何故、霊夢に会いに行く事にしたのか。
答えは簡単。
呪いに掛かっているのではと言う考えに至ったからだ。
もしこの考えが正しかったら、巫女の霊夢なら解呪してくれる事だろう。
まぁ、霊夢が巫女らしい事をしている姿を龍也は殆ど見た事は無いのだが。
ともあれ、これからの予定が決まったのなら何時までも永遠亭の上空に突っ立っている必要性は無い。
善は急げと言った感じで、龍也は空中を駆けて博麗神社を目指して行った。






















迷いの竹林から博麗神社を目指して移動を始めてから幾らか経った頃。
博麗神社が龍也の眼下に見え始めた。
だからか、龍也は急ブレーキを掛けて止まりながら霊力で出来た見えない足場を消す。
すると、当然の様に龍也は降下して行く。
そして、

「……よっと」

龍也は博麗神社の境内に着地し、霊夢の姿を探そうとすると、

「珍しいわね、上空から来るなんて。何時もなら石段を登って来るのに」

そんな声が龍也の耳に入って来た。
入って来た声に反応した龍也は、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた龍也の目には、賽銭箱の隣で茶を啜っている霊夢の姿が映った。
そのタイミングで、

「何はともあれ、いらっしゃい」

いらっしゃいと言う言葉を霊夢は龍也に掛ける。
掛けられた声に反応した龍也は霊夢に近付き、

「ああ」

ああと言ってポケットから財布を取り出し、財布の中から小銭を何枚か摘まみ、

「そら」

摘まんだ小銭を賽銭箱の中に放り込む。
放り込まれた小銭が賽銭箱の中に入り込んだ瞬間、

「何時もありがとう」

霊夢は満面の笑顔を浮かべた。
相変わらずとも何時も通りとも言える霊夢の反応に龍也は若干呆れつつ、

「霊夢、一寸頼みが在るんだが……」

霊夢に頼みが在る事を切り出す。

「頼み?」
「ああ、俺に呪いが掛けられてないかを調べて欲しいんだ」

頼みが在ると言われて首を傾げてしまった霊夢に、龍也は頼みたい事を説明する。

「呪い? 何でまた」
「最近一寸不調でな」

説明を受けて疑問気な表情を霊夢は浮かべてしまったので、最近不調である事を伝えた。
伝えられた内容に霊夢は若干の違和感を覚えたが、

「ふーん……ま、良いわ」

直ぐに覚えた違和感を頭の彼方に追い遣り、茶を啜るのを止めて立ち上がって龍也に近付く。
その後、

「よっと」

背伸びをしながら霊夢は龍也の両肩を掴み、

「私の目を見て」

龍也に自分の目を見る様に言う。

「分かった」

言われるが儘に、龍也は霊夢の目をジッと見詰め始める。
霊夢の目を見ている龍也は、何か吸い込まれそうな感覚を覚えた。
それから幾らか経つと、

「もう良いわ」

もう良いと言う言葉と共に霊夢は龍也の両肩から手を離して背伸びを止め、

「結論から言うと、呪いに掛かってはいないわ」

呪いに掛かってはいないと断言する。

「そうか……」

体が急に動かなくなった事などの原因が呪いで無い事を知った龍也が、別の原因を考え様とした瞬間、

「と言うかちゃんと寝てる? 顔色悪いわよ」

ちゃんと寝ているのかと言う問いが霊夢から投げ掛けられた。
ここ最近は夢見が悪かった為、龍也は満足に寝る事は出来ていない。
だからか、

「ん、ああ……最近は余り寝れていないな」

最近は余り寝れていないと事を龍也は霊夢に話す。
話された内容から、

「そのせいじゃないの? 不調を感じてるの」

不調を感じているのは睡眠不足のせいなのではと言う指摘を霊夢は行なう。

「あー……そうかもな」

行なわれた指摘に龍也は納得しつつ、思う。
今は精神安定剤のお陰で気分も落ち着いているので、良い夢を見られるのではないかと。
そう思ったら早速と言わんばかりに眠気を覚えたので、

「部屋、借りても良いか?」

博麗神社の一室を借りても良いかと言う許可を龍也は霊夢に求める。

「良いわよ」

悩む事無く霊夢は龍也に博麗神社の部屋を使う許可を出してくれた為、

「ありがと」

礼の言葉を述べて龍也は早速と言わんばかりに、博麗神社に泊まる際に使わせて貰っている部屋へと向って行く。
そして、部屋に着くと龍也は布団を引いて眠り始めた。






















真っ暗闇の空間。
そこに龍也は一人、立っていた。
立っている場所が何所なのかを確認し様とした時、

『もう遅えよ』

何者かの声が龍也の耳に入って来る。

『幾ら足掻いても無駄だ』

魂に直接響いて来る様な声が。
自分が自分で無くなってしまう様な声が。
聞こえて来る声の発生源を探そうとした龍也の顔に、

『テメェは消える。俺に喰われてな』

突如、何かが絡み付いて来た。

『そして、この体は俺のものになる』

絡みついたものを必死になって剥がそうとしている龍也の目の前に、何者かが現れる。
現れた者が何者なのかを確認する為、龍也は顔を上げた。
顔を上げた龍也の目には…………………………






















「ッ!?」

龍也は飛び起き、

「ハァ!? ハァ……ハァ……ハァ……」

乱れている息を何とか整えていく。
そして、ある程度息が整って来た辺りで、

「…………夢か」

ポツリと夢かと呟き、理解した。
何かが近付いて来ていると言う事を。
同時に、言い知れぬ恐怖心が龍也を支配していく。
そんな恐怖心を振り払うかの様に龍也は立ち上がり、

「くそ!!」

悪態を吐いて襖を開き、部屋から出る。
すると、太陽が沈みそうな光景が龍也の目に映った。
もう少しで夜になりそうなのを感じた龍也は、

「……そうだ、紅魔館に在る図書館」

紅魔館に存在しているパチュリーの図書館を思い出した。
あの図書館の蔵書量は、膨大過ぎると言って良い程の量を誇ってる。
図書館の主とも言えるパチュリーが魔法使いと言う事もあって魔導書と言った類の本が多いが、それ以外の本も多数存在している。
そのそれ以外の本の中に、今の自分の状態を解決する為のヒントが載っているのではと言う可能性が龍也の頭に過ぎったからか、

「……行ってみるか」

パチュリーの図書館に行く事を龍也は決めた。
希望と言うものが見えたからか、龍也の気持ちがが少しずつではあるが落ち着き始めていく。
気持ちが落ち着き、精神状態がある程度安定した辺りで、

「そうだ、霊夢に一声掛けてから行くか」

博麗神社を出る前に霊夢に一声掛ける事にし、霊夢を探す為に博麗神社の中を探索し始める。
探している中で居間へと続く襖を開くと、

「あ……」

龍也は卓袱台に突っ伏して寝ている霊夢の姿が龍也の目に映った。
一応暖を取っているので居間は暖かいが、今の季節は秋の終わりか冬の始まり。
この儘では風邪を引いてしまうかも知れないからか、

「布団でも掛けてやるか」

寝ている霊夢に布団を掛ける事を決め、龍也は別の部屋に布団を取りに向かう。
そして、布団を手に持ちながら居間に戻って来た龍也は、

「よっと」

布団を霊夢の背中から掛け、

「後は……」

軽く周囲を見渡す。
すると、

「お……」

部屋の隅に在る箪笥の存在に気付き、ある光景が龍也の頭の中に思い浮かぶ。
何時だったか、霊夢があの箪笥の中から半紙を取り出していた光景が。
だとするならば、あの箪笥の中に半紙が在ると判断し、

「さて……」

早速と言わんばかりに龍也は箪笥に近付き、箪笥の引き出しを一つ開く。

「お、半紙だけじゃなく硯に墨に筆も在る」

開いた引き出しの中には何かを書くのに必要な物が一通り揃っていた。
何かを書くのに必要な物が揃って見付かった事に龍也は喜びつつ、見付けた物を取り出して卓袱台の上に置き、

「次は……」

硯を手に持って台所に向かい、硯の中に水を入れて居間に戻る。
居間に戻ると墨を磨り、

「筆を使って文字を書くのって書道の授業以来か?」

磨った墨を使って半紙に文字を書いていく。
と言っても、大した事を書いている訳では無い。
書かれている内容は、世話になった程度の事。
兎も角、書くべき事は書いた龍也は硯や筆と言った物を洗って片付けをする。
片付けが終わると、龍也は博麗神社を後にして紅魔館へと向かって行った。






















紅魔館の近くまで来ると龍也は空中から地上に降り、地上から紅魔館の門を目指して行く。
そして、門の前にまで来た龍也の目には、

「……やっぱり」

立った儘の状態で、幸せそうな表情で寝ている美鈴の姿が映る。
秋の終わりか冬の始まりと言える様な季節で、屋外で呑気に寝ている美鈴。
これで良く風邪を引かないと言う事を思いつつ、考える。
門番である美鈴が眠っているとは言え、勝手に紅魔館の中に入るのは不味いだろうと言う事を。
なので、龍也は大きく息を吸い込みながら美鈴に近付き、

「美鈴!!!!!!」

大きな声で美鈴の名を叫んだ。
すると、

「わひゃあ!?」

そんな声を上げながら美鈴が飛び起き、

「ち、違うんですよ!! こ、これ、そう!! 寝た振りをしていただけであって……」

慌てて言い訳を始めたが、途中で龍也の存在に気付いたからか、

「な、なんだ龍也さんじゃないですかー」

思いっ切り安心した表情になった。
取り敢えず、場が落ち着いたと言う事で、

「で、中に入りたいんだが良いか?」

改めてと言った感じで龍也は美鈴に紅魔館に入っても良いかと問う。

「あ、はい。良いですよ」

問われた事に美鈴は許可を出しながら門を開いた時、気付く。
龍也の霊力が酷く揺らぎ、不安定で、弱々しい事に。
だからか、

「……あの、大丈夫ですか?」

美鈴はつい、龍也に大丈夫かと言う声を掛ける。
そう声を掛けられた龍也は、

「ん、何がだ?」

何がだと言いながら美鈴に顔を向けた。

「何と言うか……いえ、何でもありません」

向けて来た龍也の表情を見て美鈴は何かを言おうとしたが、直ぐに言おうとした事を止める。
何故かと言うと、龍也の浮かべている表情から聞いて欲しく無さそうな雰囲気を感じたからだ。
ともあれ、龍也は来訪者である為、

「ごゆっくりどうぞ」

ごゆっくりどうぞと言う言葉を美鈴は龍也に掛けた。

「ああ」

掛けられた言葉に龍也はああとだけ返し、紅魔館の中へと入って行く。
館内に入った龍也はキョロキョロと周囲を見渡し、

「えーと……図書館の在る場所はあっちだったな」

図書館が在るであろう方向に向けて足を進め始めた。
入り口から図書館までの道のりは覚えているからか、その足取りに迷いは見られない。
と言っても、入り口以外の場所からでは案内無しで図書館には行けないであろうが。
兎も角、暫らく歩いていると図書館の入り口に辿り着いた。
その後、龍也は図書館の中に入り、

「パチュリーは居るかな? まぁ、居るんだろうけど」

パチュリーを探しながら図書館の中を進んで行く。
それから程なくすると、本を読んでいるパチュリーの姿を発見した為、

「パチュリー」

龍也はパチュリーに声を掛ける。
声を掛けられたパチュリーは本から視線を外して龍也の方に顔を向け、

「あら、龍也じゃない。いらっしゃい」

いらっしゃいと言う。

「よっ」

いらっしゃいと言われた龍也が片手を上げた瞬間、

「本を読みに来たのかしら?」

ここに来た理由は本を読む為かと聞く。

「ああ、構わないか?」
「ええ、構わないわ」

聞かれた事に龍也は肯定しながらパチュリーに図書館を使う許可を求めると、パチュリーは許可を出し、

「小悪魔、居る?」

小悪魔を呼ぶ。
呼ばれた小悪魔は、

「お呼びでしょうか、パチュリー様」

大した間を置かずにパチュリーの傍に現れた。
現れた小悪魔に、

「龍也が本を読みたいそうだから、案内して上げて」

龍也が本を読みたがっているので、案内する様に指示を出して視線を本に戻す。
そんなパチュリーを見て相変わらずだと言う事を龍也が思っていると、

「龍也さんは何の本をご所望ですか?」

何の本を欲しているのかと言う事を小悪魔が尋ねて来た。

「精神関連の本なんだが……在るか?」
「精神関連ですね……在りますよ。ご案内しますから付いて来て下さいね」

尋ねられた龍也が欲している本の内容を話すと、小悪魔はその本が在る場所に案内すると言って移動を始めた。
移動し始めた小悪魔に置いて行かれない様に、龍也は小悪魔の後を付いて行く。
二人が移動を始めてから幾らか経った辺りで、

「こちらになります」

目的の場所に辿り着き、こちらになると言って小悪魔は足を止める。
そのタイミングで龍也も足を止め、本棚に目を向けた時、

「私はまた本の整理に戻りますが……何か有りましたら、気軽に呼んで下さいね」

何か有ったら気軽に呼んでと言う台詞を残し、小悪魔は自分の持ち場に戻って行った。
去って行った小悪魔を見送った後、龍也は本棚から本を一冊抜き取り、

「さて……」

少々ゆっくりとした動きで床に座りみ、抜き取った本を読み始める。
だが、

「…………………………………………………………」

どれだけ読み込もうとしても本の内容は中々頭に入って来なかった。
何故かと言うと、予感があるからだ。
もう、自分が自分でいられる時間が余り無いと言う予感が。
と言った予感が有るからこそ龍也は焦り、焦っているが故に本の中身が中々頭に入って来ないのだ。
今自分が抱えている問題を何とかする為の手段が欲しいから本を読んでいると言うのに、内容が頭に入って来ない。
言い替えたら、何の手掛かりも手に入っていないのである。
故に、龍也はまた焦ってしまう。
そんな悪循環に陥り、焦りから龍也の表情に不安と怯えが見え始めた刹那、

「随分と、らしくない顔をしてるわね」

何者かが龍也に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した龍也は、顔を本から声の発生源に移す。
顔を移した龍也の目には、

「咲夜……」

紅魔館のメイド長である十六夜咲夜の姿が映った。
ともあれ、本を読んでいる最中に声を掛けられたからか、

「何か用か?」

何か用かと聞く。

「用と言うより、余りにもらしくない顔をしていたから見るに見かねて……っと言ったからかしら」

聞かれた咲夜が龍也に声を掛けた理由を述べると、

「らしくない……か……」

龍也は述べられた事に納得し、俯いてしまう。
明らかに何時もの龍也なら見せない様な反応をした為、

「これは重傷ね……」

重傷だと呟き、咲夜は息を一つ吐く。
その瞬間、

「……あれ?」

龍也が読んでいた本が、龍也の手元から消えてしまった。
急に本が消えた事に驚いた龍也は立ち上がり、消えた本を探そうとしたタイミングで、

「ッ!!」

眼前に咲夜が振るったナイフが近付いて来ているのに龍也は気付き、慌てて後ろに跳ぶ事で振るわれたナイフを避ける。
振るわれたナイフを避け切った龍也は体勢を立て直し、

「行き成り何すんだ!?」

文句の言葉を咲夜にぶつけたが、

「あら、幻想郷では突然戦いを挑まれる事何て日常茶飯事じゃない」

幻想郷では突然戦いを仕掛けられる事は日常茶飯事だと言う事を返された為、龍也は押し黙ってしまう。
返された事に、思い当たる部分が多々在るからだ。
押し黙ってしまった龍也を無視するかの様に、

「それじゃ、いくわよ」

いくわよと言う言葉と共に咲夜は龍也に近付き、ナイフを振るう。
振るわれたナイフを龍也は後ろに大きく跳ぶ事で避ける。
避ける事自体は良いのだが、幾ら何でも避ける際に距離を取り過ぎであるからか、

「ほんと、らしくないわね」

らしくないと呟き、咲夜は溜息を一つ吐く。

「らしくないか……確かにそうかもな」

呟かれた内容に龍也が納得したのと同時に、

「戦い方が逃げ腰なのも有るけど、私が言っているのはその目よ」

納得している部分に少しズレが在ると感じた咲夜は、自分がらしくないと言った意味を教える。

「……目?」
「そうよ。その何かに怯え、恐怖し、戦う事を諦め、抗うことを止め、逃げる事を考え、気落ちした様なその目」

目だと言う事を教えられた龍也が疑問気な表情を浮べると、今の龍也がしている目に付いて指摘しながら咲夜は龍也に一歩近付き、

「覚えてる? 私と初めて戦った時の事を」

初めて自分と戦った時の覚えているかと聞く。

「初めてお前と戦った時の事……」

聞かれた事から、龍也が初めて咲夜と戦った時の事を思い出している間に、

「どれだけ不利な状況になっても、どれだけ追い詰められても、貴方の目は諦めず、絶望せず、勝つと言う目をしていた」

嘗て、龍也が自分と戦った時にしていた目を語りながら咲夜はまた一歩近付き、

「そして、私に勝った」

龍也の目を見て、自分に勝ったと言う。
そして、

「相手がどんな存在だろうと、どれだけ強かろうと真正面から打ち倒す。怯えず、諦めず、恐怖せずに。それが貴方じゃないの? 龍也」

更にまた一歩龍也に近付いて、咲夜は自分が抱いている四神龍也と言う存在のイメージを龍也に語り掛ける。
語りかけられた内容を受けた龍也は、思った。
一体、自分は何をしていたのかと。
相手が誰であろうと、何であろうと真正面から打ち倒す。
今まで、そうして来たのだ。
自分を信じて。
それが自分だ。
ならば、これからもそうしていけば良い。
咲夜からそう語られた事で龍也は本当にらしくなかったのを自覚し、龍也は咲夜の目を見て、

「ありがとな、咲夜」

礼の言葉を口にする。
そう口にした龍也の目は何時も通りのものに戻っていたからか、咲夜は軽い笑みを浮かべ、

「別に礼を言われる程の事じゃ無いわ。貴方がそんなんじゃ、貴方にリベンンジし様としている私が惨めみたいじゃない」

その様に返した。






















少し離れた場所から立ち直った龍也と、その龍也を立ち直らせた咲夜を見ていたレミリアは、

「あらあら、龍也を慰める役目を咲夜に取られちゃったわ」

一寸残念そうな声色でそんな事を漏らす。
パチュリーに会いに図書館にやって来たレミリアは、パチュリーから現在の龍也の様子を聞いた。
だからか、レミリアは龍也を慰めてやろうかと考えていたのだ。
だが、慰めると言うよりは立ち直させると言う役目を自分の従者である咲夜に取られてしまった為か、

「……少し不満ね」

つい、不満だと言う台詞をレミリアは零してしまった。
零された台詞が耳に入ったパチュリーは顔を本からレミリアの方に向け、

「あら、そう言う割りには結構嬉しそうな顔をしてるわよ。レミィ」

零した発言とは裏腹に嬉しそうな顔をしている事を指摘する。
すると、レミリアはパチュリーの方に顔を向け、

「そりゃね。何かに怯え、恐怖し、気落ちしていた龍也もあれはあれでそそられるものがあったけど……」

そう言いながら再び龍也の方に顔を戻し、

「やっぱり、龍也はああでなくっちゃ」

嬉しそうにしている理由を簡潔に語って紅茶を一口飲み、

「あれでこそ、私のものにしたい龍也よ」

今の龍也こそ、自分のものにしたい龍也だと口にした。
口にされた内容から、

「成程……」

レミリアの機嫌が良い理由を理解したパチュリーは、納得した表情を浮かべながら紅茶を一口飲み、

「それにしても、意外だったわね」

意外だったと呟く。

「何がかしら、パチェ?」
「咲夜が龍也に渇を入れた事よ」

呟かれた内容が少々気になっているレミリアに、パチュリーは意外と言った部分に付いて説明しながら龍也の方の目を向ける。
すると、何時の間にかやって来ていたフランドールが龍也の腕を引っ張っている光景がパチュリーの目に映った。
遊んでくれとせがまれているのだろうか。
その様子を見たパチュリーが、そう言えば龍也はフランドールにかなり懐かれていたなと言う事を思い出している間に、

「ああ、それなら簡単よ。龍也が人間だからね」

咲夜が龍也に喝を入れたのは、龍也が人間であるからだと言う事をレミリアは語る。

「人間だから?」
「そう。龍也に限らず、霊夢や魔理沙にも甘いみたいだけど」

語られた事にパチュリーが疑問を覚えたからか、レミリアは龍也以外にも咲夜は霊夢や魔理沙に甘い事を話し、

「咲夜、自分の能力のせいで人間との交友関係が殆ど出来なかったからね」

咲夜自身が有している能力のせいで、咲夜は人間との交友関係が殆ど持てなかった事を言う。
咲夜の能力は"時間を操る程度の能力"。
それのお陰で、咲夜に近寄って来る人間が殆ど居なかったと言う事をレミリアはパチュリーに教え、

「龍也に限らず、霊夢と魔理沙もそんな能力関係ないっと言った感じだからね。咲夜の能力に怯えたり、恐怖と言った様な感情を抱いていないし」

そんな人間達と龍也、霊夢、魔理沙の三人は違うと言う事を述べ、紅茶を再び飲み始める。

「成程」

教え、述べられた事から、咲夜が龍也に喝を入れた理由をパチュリー理解した。
序に、『死ぬまで借りてくぜ』と言いながら本を持っていく魔法使いを積極的に迎撃したりしないのはそのせいかとも思いながら。
それから暫らくの間、レミリアとパチュリーは雑談を交わしていく。
その後、フランドールがレミリアとパチュリーに一緒に遊ぼうと言って来た。
別に断る理由は無かったので、フランドールと遊ぶ事をレミリアとパチュリーは決める。
こうして、龍也、咲夜、フランドール、レミリア、パチュリー、小悪魔の六人でトランプで遊ぶ事となった。























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