永遠亭に龍也が入院し、意識を取り戻してから幾日か過ぎた頃。
永琳から退院しても良いと言う許可が出た。
なので、龍也は使わせて貰っている部屋で入院患者が着る様な服から何時もの学ラン姿に着替え様とする。
着替える為に修繕され、洗濯された学ランを手にした時、

「しっかし、綺麗に直ってるな……俺の学ラン」

学ランが綺麗に直っていた為、龍也はつい驚いたと言った表情を浮かべてしまった。
どうやら、何のミスも無く直っていたのは龍也に取って予想外の事であった様だ。
ともあれ、綺麗に修繕してくれたので、

「輝夜に感謝だな」

龍也は輝夜に対して感謝の言葉を呟き、着替え始める。
そして、着替え終わると体を軽く動かし、

「……うん、着心地も以前と変わってないな」

着心地が以前と変わっていないと言う感想を漏らした後、体を動かすのを止めて部屋を後にした。
部屋を後にした龍也は、永琳の部屋へと向かう。
預けていると言うより預かって貰っている持ち物を返して貰う為だ。
とは言え永遠亭は紅魔館と同じで外観と中の広さが一致せず、中がかなり広い場所。
龍也一人では目的の場所へと辿り着けないと思われるだろう。
だが、実はそうでは無い。
何故かと言うと永琳の部屋の場所、及び永琳の部屋と使わせて貰っている部屋の位置が近いと言う事を教えて貰っていたからだ。
これならば、割と方向音痴気味の龍也でも永琳の部屋には行く事は出来るであろう。
そんなこんなで迷う事無く永琳の部屋の前にまで辿り着いた龍也は、足を止めて襖を軽くノックする。
すると、

「どうぞ」

どうぞと言う声が部屋の中から聞こえて来た。
入室の許可を貰えたと言う事で、龍也は襖を開いて部屋の中へと入って行く。
中に入った龍也が数歩足を進めてた辺りで、永琳は体を龍也の方に向け、

「そろそろ来る頃だと思っていたわ」

そう口にする。
どうやら、永琳は龍也が来る事を予見していた様だ。
だから、龍也はつい驚いたと言う表情を浮かべ、

「俺が来る事が分かっていたのか?」

永琳に自分が来る事が分かっていたのかと聞く。
聞かれた事に、

「ええ。貴方は一箇所に何時までも留まれる様な性格じゃないでしょ」

肯定の返事をしながら永琳は木のケースを手に取り、

「ここに貴方の持ち物が在るわ」

木のケースの中に龍也の持ち物が在ると言い、木のケースの中を龍也に見せ、

「……あ、そうそう。財布もボロボロだったから直して置いたわ」

思い出したかの様に財布を直して置いた事を伝える。
服以外にも財布と言った物もボロボロになっていたと言う事実に龍也は若干驚きつつ、

「悪いな」

悪いなと言う言葉を永琳に掛けた。
掛けられた言葉に対し、

「直したのは輝夜だから、その言葉は輝夜に言って上げなさい」

言うべき相手は輝夜だと言う軽い指摘を永琳は行なう。
まさか服だけではなく財布も輝夜が直してくれたと言う事を知った龍也はまたまた驚きつつも、

「……ああ、輝夜には改めて礼をしとく」

改めて輝夜には礼をして置く事を決め、財布をポケットに仕舞う。
それを見た永琳は傷薬が入ったケースを手に取り、

「傷薬が入ったケースは罅割れ酷かったから、ケースを換えさせて貰ったわ」

ケース自体に罅が入っていたので、ケースを換えたと言う事を話す。

「態々ありがとな」

話された内容を受けて龍也は傷薬が入ったケースを受け取り、ケースを懐に入れた瞬間、

「そう言えばその傷薬、中々の出来ね。誰が作ったの?」

興味本位と言った感じで永琳は傷薬を作ったのは誰なのかと言う事を尋ねる。
尋ねられた事は別に隠して置く事でも無い為、

「ああ、これは魔理沙に作って貰った物だ」

龍也は傷薬の製作者が誰なのかを永琳に教えた。

「へぇ、あの子が」

製作者が誰なのかを知った永琳は少し意外と言った表情を浮べる。
浮べられた表情から永琳が何を思っているのかを大体察した龍也は、

「魔理沙は主に魔法の森に生えている色々な茸を使って実験やら魔法薬の作成をしているからな。未知の茸を積極的に使ったり、時偶適当に調合したり
するせいか魔理沙にも予測出来ない物が出来る事があるらしいぜ。この傷薬もその一つだな」

魔法の森に生えている茸を使って実験やら魔法薬の作成を魔理沙がしている事を永琳に伝えた。
伝えられた内容を頭に入れた永琳は、何かを考える様な素振りを見せ、

「……ふむ、そう言う事なら彼女と交渉してみ様かしら」

魔理沙と交渉してみ様かと零す。

「交渉?」
「ええ。今現在の迷いの竹林に群生している植物などはどれが薬になってどれが毒になるかと言う事を知ってはいるけど、迷いの竹林以外はそうじゃない。まぁ、
これはあの異変を起こすまで他との接触を断っていたのが原因だけど。兎も角、迷いの竹林で群生している植物などの情報位しか把握していないから魔法の森に
群生している植物などの情報が欲しいのよ。魔法の森の植物……特に茸の種類は万を超えると聞き及んでいるわ。それだけの種類があれば作れる薬の数は大幅と
言っても差し支えない程に増える」

零された事が耳に入った龍也が首を傾げると、永琳は魔理沙に交渉をし様と考えた理由を語った。
永琳が魔理沙と交渉をし様と考えた理由を知り、龍也は納得した表情になる。
八意永琳の能力は"あらゆる薬を作る程度の能力"。
この能力も有ってか永琳は自身の本業を薬師としているのだろうが、その事は今はどうでも良い。
重要なのは如何に永琳があらゆる薬を作る事が出来ても、薬の材料となるものが無ければ薬を作る事が出来ないと言う事。
今は迷いの竹林で採れるものだけで作る事が可能な薬でも問題は無い様だが、何時新しい薬が必要になるかは分かったものでは無い。
そうなる前に、作れる薬の種類を増やして置きたいのだろう。
薬の販売はまだ人里だけの様だが、何れは人里以外の場所にも広げていきたいと思っているであろうし。
兎も角、永琳が魔理沙との交渉を考えた理由を語った後、

「……っと、話がずれて来たわね。はい、懐中時計」

話を戻すかの様に永琳は会話を打ち切り、龍也に懐中時計を手渡す。
手渡された懐中時計を龍也が受け取ったのと同時に、

「その懐中時計、傷一つ付いて無かったわ」

懐中時計は傷一つ付いて無かったと言う事を永琳は口にする。
口にされた内容を受け、

「緋々色金製だからな、それ」
「それ、緋々色金で出来ていたのね。久しく見ていなかったから、気付けなかったわ」

緋々色金製であると言いながら龍也が懐中時計の鎖をズボンのベルトに括り付けていると、永琳は少し驚いた表情を浮かべ、

「何処で手に入れたの、それ」

何処で手に入れたのかと言う事を聞く。

「ああ、レミリアに貰ったんだ」
「レミリア……吸血鬼の館のお嬢様だったかしら。緋々色金製の物を渡される辺り、貴方はそのお嬢様に随分と気に入れられている様ね」

聞かれた龍也は懐中時計をポケットに仕舞いながらレミリアから貰った事を教えると、レミリアに随分と気に入られているなと言う感想を永琳は抱いた。
まぁ、緋々色金と言う極めて希少な金属で出来た懐中時計を龍也はレミリアに渡されたのだ。
気に入られていると言う感想を抱くのは当然だろう。
ともあれ、自分の荷物は全て返って来たので、

「じゃ、俺はそろそろ行くな」

龍也は永遠亭を後にすると言う事を永琳に伝える。
すると、

「なら、お見送り位はさせて貰うわ」

見送りをすると言って永琳は立ち上がった。
その後、

「何か、悪いな」
「別に良いわ、これ位」

龍也と永琳は軽い会話を交わしながら部屋を出て、玄関へと足を進めて行く。
そして、玄関に着く頃には、

「何か……増えたな」

てゐ、鈴仙の二人も見送りに来ていた。
だが、輝夜は居なかった為、

「そう言えば輝夜はどうしたんだ?」

ついと言った感じで龍也は輝夜の事を尋ねる。

「姫様ならまだお休み中よ」

尋ねられた事に鈴仙はそう言い、何処か疲れた様な表情を浮かべた。
ならば、輝夜への礼はまた今度にし様と龍也が考えたのと同時に、

「お兄ーさん」

てゐが龍也の目の前に移動し、

「ここにお賽銭入れると、お兄さんに幸運が訪れるよ」

賽銭箱を見せ付けながらお賽銭を入れる様に促す。

「また貴女は……」

相変わらずとも言えるてゐの行動に鈴仙は頭を押さえたが、

「ま、色々と世話になったからな」

賽銭箱にお金を入れる様に言われた事に龍也は文句を言わずにポケットの中から財布を取り出し、

「ほら」

財布の中から小銭を何枚か摘まんで賽銭箱の放り込み、財布を仕舞う。

「えへへ」

賽銭箱の中に小銭が入った事で嬉しそうにしているてゐを見ながら、

「それにしても、良くこいつの賽銭箱にお金を入れる気になるわね。あんた」

一寸した驚きの言葉を鈴仙は龍也に掛けた。
鈴仙から見たら、てゐの様に胡散臭い輩の賽銭箱の中にお金を入れるのは信じられないのだろう。
そんな鈴仙に向け、

「ま、霊夢の所の賽銭箱よりはずっと御利益が有りそうだからな」

霊夢本人が聞いたら怒りそうな事を龍也は述べた。
述べられた事に同意する感じで、

「そりゃそうだよ。私の賽銭箱にお金を入れたからには、幸運が訪れる事は約束するよ」

胸を張りながらてゐは賽銭を入れたのならば幸運が訪れる事を断言する。
断言された事を耳に入れた龍也は確かになと思いつつ、三人に背を向け、

「それじゃ、世話になったな」

世話になっと言う言葉を発した。

「ええ、体に気を付けてね」
「今度は怪我しない様にね」
「またね、お兄さん」

発した言葉に返すかの様に永琳、鈴仙、てゐの三人が気を付ける様にと言う言葉やまたねと言う言葉を掛けて来たので、

「おう」

おうと返して龍也は永遠亭を後にする。






















永遠亭を後にしてから数時間後、

「……思ってたよりも早くに出れたな」

龍也は迷いの竹林の出口に辿り着いていた。
元々リハビリも兼ねて迷いの竹林を歩き、もう十分だと判断したら高々度から迷いの竹林を脱出し様と考えていた龍也は少し拍子抜けした気分になってしまう。
だが、直ぐに拍子抜けした気分を持ち直させるかの様に龍也は歩いて来た道を振り返り、

「上手い事ストレートに来れたのかな?」

歩いて来た道を見ながらそう漏らす。
迷いの竹林をストレートに出られたのはてゐが言っていた幸運なのかもしれないと言う事を思いつつ、

「さて……」

改めて冬の肌寒さを実感しながら龍也は体を軽く伸ばし、これからの予定を立てていく。
もう冬が来ているのであれば、龍也としては一旦無名の丘の洞窟に戻って防寒具を取りに戻りたいところ。
しかし、防寒具を取りに戻るのは先送りにするしかないと言う判断を下す。
何故ならば、もう一人の自分の力である仮面の力を使いこなす為の修行を一刻も早くにしなければならないと言う事を感じているからだ。
ともあれ、これからの予定が決まった事で、

「俺の修行に付き合ってくれそうなのは……」

自分の修行に付き合ってくれそうな者達を龍也は思い浮かべていく。
そして、

「……やっぱ、あいつかな」

思い浮かべた者達の中で一番自分の修行に付き合って貰える可能性が有る者の所に行く事を決め、龍也は跳躍を行なって空中に躍り出る。
空中に躍り出た龍也は足元に霊力で出来た見えない足場を作り、そこに足を着け、

「……よし!!」

気合を入れながら空中を駆ける様にして移動を開始した。
移動を開始してから幾らか経った辺りで、龍也の目には紅魔館が映る。
そう、龍也が思った修行に一番付き合ってくれそうな者が居る場所とは紅魔館であったのだ。
修行する事を決める前から行く事にしていた紅魔館に赴く事になったのは、偶然か必然か。
兎も角、紅魔館が見えて来たと言う事で龍也は門の辺りを注視し始める。
勿論、紅魔館で自分の修行に付き合ってくれそうな美鈴を探す為に。
少しの間探していると、門の辺りに人影らしきものを発見したので、

「よっと」

走り幅跳びの要領で龍也は跳躍し、空中に作って在った霊力で出来た見えない足場から地面へと降りる。
降りる際の勢いが良かったからか、龍也は美鈴の近くに降りる事が出来た。
だからか、

「どうも、龍也さん」

龍也の存在を気付いた美鈴は軽い挨拶の言葉を掛ける。
挨拶された龍也は起きていた美鈴に幾らか驚きつつ、

「よう、美鈴」

片手を上げて軽い挨拶を返す。
お互い、挨拶を交わした後、

「どうやら、無事に意識を取り戻せた様で何よりです」

龍也が無事に意識を取り戻せて何よりだと美鈴は言う。

「あれ、何でその事知ってるんだ?」
「それはですね……」

何故自分が意識を失っている事を知っているのかと言う疑問を抱いた龍也に、美鈴はその事に付いての説明を始める。
紅魔館に泊まっていた龍也が八雲紫に拉致られてもう一人の自分を倒して気を失った後、龍也が意識を失って永遠亭に入院してる事を紫がここに知らせに来たそうだ。
紫曰く、紅魔館に泊まっていた龍也が居なくなった事でレミリアが暴れない様にとの事。
された説明から意外とアフターケアとかはしてたんだなと言う感想を龍也が抱いたのと同時に、

「その事で妹様が凄く心配してましたよ」

フランドールが凄く心配していたと言う情報を美鈴は語った。

「あー……なら後で顔でも見せに行くか」
「是非そうしてください。それで、本日のご用件は図書館ですか?」

その事を知った龍也が後でフランドールに顔を見せに行こうと考えると、美鈴は是非そうしてくれと言いながら図書館に用が在るのかと聞く。

「いや、図書館にじゃなくて美鈴に用が在るんだ」

聞かれた事を否定しながら龍也が美鈴に用が在る事を口にすると、

「私にですか?」

若干疑問気な表情になりながら美鈴が首を傾げてしまったので、

「ああ、俺の修行に付き合って欲しいんだ。実戦形式でな。あ、出来れば長期的に」

龍也は美鈴に自分の修行に付き合って欲しいと言う頼みを伝えた。

「修行ですか? となると……また誰かへのリベンジですか?」

伝えられた内容を受け、誰かへのリベンジかと美鈴は考える。
以前、龍也が美鈴に修行に付き合って欲しいと頼んだ際の目的は妖夢へのリベンジ。
で、再び龍也に修行に付き合って欲しいの頼まれたのだ。
また誰かへのリベンジをする為なのではと美鈴が考えるのも当然であろう。
だが、リベンジ目的で龍也は美鈴に修行に付き合って欲しいと頼んだ訳では無いので、

「いや、リベンジじゃない」

否定の言葉と共に首を横に振り、

「新しい力を手に入れたから、それを使いこなせる様に修行をしたいんだ」

正直に新しく手に入れた力を使いこなせる様にしたいからと言う事を述べる。

「ほう、新しい力ですか……」

述べられた新しい力と言う部分に、美鈴は興味を引かれたと言う表情を浮かべた。
この分なら自分の修行に付き合ってくれそうだと言う事を感じつつ、

「で、どうだ? 頼めるか?」

改めて修行に付き合ってくれないかと言う頼みを龍也は美鈴に行なう。

「ええ、私は構いませんよ。基本的に私は暇ですし……それに、龍也さんが手に入れたと言う新しい力に興味も有りますし」

行なった頼みを美鈴は快く引き受けてくれた為、

「そっか、ありがとう」

ありがとうと言う礼の言葉を龍也は発した。

「いえいえ、これ位構いませんよ」

発せられた礼に美鈴は構わないと返し、

「それでは、早速始めますか?」

早速始めるかと聞く。

「ああ、頼む」

聞かれた事は龍也に取って願ったり叶ったりであるので、龍也は頼むと言いながら後ろに跳んで美鈴から間合いを取る。
間合いを取った龍也を見た美鈴が構えを取ったのと同時に、龍也も構えを取った。
二人が構えを取ってから少しの間は睨み合いが続いたが、

「ハッ!!」

睨み合いを終わらせるかの様に美鈴は龍也に一気に近付いて拳を振るう。
振るわれた拳を龍也は体を傾ける事で回避し、

「りゅあ!!」

反撃と言わんばかりに龍也は美鈴に向けて蹴りを放つ。
放たれた蹴りを美鈴は腕で防ぎ、

「はあ!!」

気合で龍也は弾き飛ばす。

「ッ!?」

蹴りを放っている状態で弾かれた事で、龍也は思いっ切りバランス崩してしまう。
バランスが崩れて隙が出来た龍也を美鈴が見逃す筈は無く、一息で龍也の懐に入り込み、

「はあ!!」

鉄山靠を繰り出す。
繰り出された鉄山靠は吸い込まれるかの様に龍也の胴体に叩き込まれ、

「がっ!?」

鉄山靠の直撃を受けた龍也は吹き飛ばされ、美鈴から離れて行ってしまった。
吹き飛ばされた龍也に追撃を掛ける為、美鈴は地を駆ける様にして龍也を追い掛ける。
追い掛け、龍也との距離が大分縮まった辺りで、

「ッ!?」

龍也は強引に体勢を立て直して地に足を着け、地を蹴って美鈴に近付きながら肘打ちを放った。
ここまで早くに龍也が体勢を立て直して来るとは思わなかった美鈴は驚きの表情を浮べるも、直ぐに表情を戻しながら急ブレーキを掛けて防御の体勢を取る。
攻撃を中断して防御を優先した事で肘打ちの直撃を受けるのは避けれたが、

「ぐっ!!」

衝撃までは避ける事が出来なかった様で、今度は美鈴が吹き飛ばされてしまう。
ある程度吹き飛ばされた美鈴は地に足を着けて体勢を立て直し、正面に目を向ける。
すると、拳を振り被っている龍也の姿が美鈴の目に映り、

「らあ!!」

振り被られている龍也の拳が放たれた。
放たれた拳に反応した美鈴は、

「くっ!!」

反射的に体を回転させて拳を避け、体を回転させた勢いを利用して龍也の背後に回り込む。
そして、

「しっ!!」

龍也の後頭部に向けて蹴りを放つ。

「ッ!!」

放たれた蹴りを龍也は頭を下げる事で回避し、頭を下げた体勢の儘でお返しと言わんばかりの勢いで美鈴に蹴りを放った。
回避と同時に繰り出された蹴りを美鈴は脚で防ぎ、繰り出された蹴りの勢いを利用する形で龍也から距離を取って行く。
美鈴が離れて行ったのを蹴りを放った足の感触から感じ取った龍也は振り返り、地を蹴って一気に美鈴へと肉迫し、

「らあ!!」

美鈴に向けて拳を放つ。
放たれた拳を美鈴は掌で受け止めながら地に足を着け、

「はっ!!」

反撃と言わんばかりに美鈴も拳を放って来た。
美鈴から放たれた拳を、龍也は美鈴に倣う様に己が掌で受け止める。
お互い拳を放ち、放たれた拳を受け止めている中、

「「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」

龍也と美鈴は霊力と妖力を解放し、力比べをし始めた。
解放された霊力と妖力がぶつかり合って鬩ぎ合っているのを無視するかの様に、龍也と美鈴は相手を押し込もうと全身に力を籠める。
籠めた力が強過ぎたからか、龍也と美鈴の両足は地面に減り込んでしまう。
その刹那、

「「ッ!!」」

二人は弾かれたかの様に間合いを取る。
間合いが取れた後、

「いやー、龍也さん相当腕を上げましたね」

美鈴は妖力の解放を止めて称賛の言葉を龍也に掛けつつ、

「一ヶ月以上も寝ていたとの事なので身体能力が衰えていると思っていたのですが、そんな事は無かった様ですね」

一ヶ月以上も寝ていたと言うのに龍也の身体能力に衰えが見られなかった事に驚いたと言った台詞を零す。

「そいつはどうも」

零された台詞に龍也が霊力の解放を止めてどうもと返すと、

「でしたら、もっと早く強く打ち込んでも平気ですね」

そんな事を言いながら美鈴は一瞬で龍也の間合いに入り込み、連続で拳を振るって来た。
次から次へと振るわれる拳を龍也は両腕で防ぎながら後ろに下がって行くも、

「舐めるな!!」

攻撃と攻撃の合間に存在していた一瞬の隙を突いて美鈴の顎目掛けて蹴りを放つ。
この儘攻撃を続けていたら龍也の蹴りの直撃を受けてしまうと美鈴は判断し、攻撃を中断して顎を引く。
顎を引いた事で空振った龍也の蹴りを目に入れた美鈴は、仕切り直すと言った感じで大きくバク転をして間合いを取る。
ある程度間合いが取れた辺りで美鈴は地に足を着け、龍也が居る方に顔を向けたが、

「なっ!?」

美鈴の目には龍也の姿は映らなかった。
一体何処にと思いながら美鈴が龍也を探そうとした瞬間、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

上方から気合の入った声が美鈴の耳に入る。
耳に入って来た声に釣られる様にして顔を上げると、踵落しをする体勢で龍也が落下して来ている事が分かった。
だが、迫り来る踵落しも避けれないと言う事も分かってしまったので、

「ッ!!」

反射的に両腕を頭の上辺りで交差させ、

「ぐう!!」

踵落しの直撃を美鈴は防いだ。
防いだ際に踵落しが予想以上に重かった事に美鈴が驚いている間に龍也は体を捻り、回転させながら、

「らあ!!」

踵落しを叩き込んでいない方の脚で美鈴の頬に膝蹴り叩き込もうとする。
まだ踵落しを防いだ状態の儘であった為か、

「ぐう!!」

叩き込んだ膝蹴りは見事美鈴の頬に直撃した。
膝蹴りの直撃を受けて美鈴が体勢を崩している間に龍也は地に足を着け、更なる攻撃を加え様としたが、

「があ!!」

頬に強い衝撃が走り、体勢を崩してしまった事で更なる攻撃を加える事が出来なくなってしまう。
崩れた体勢を戻し、何があったのかを確認する為に顔を動かしていく。
その中で美鈴の脚が目に映った事で、龍也はある推察を行なった。
行なった推察と言うのは膝蹴りで体勢を崩した美鈴が、体勢を崩した勢いを利用して死角から蹴りを叩き込んだのではと言うもの。
そう考えるならば、こうして全く反応出来ずに美鈴の蹴りを喰らった事にも納得出来る。
可能であればこの事に付いて考察したいところだが、生憎今は戦闘の真っ最中。
だからか、龍也は行なった推察を頭の隅に追い遣りながら美鈴の方に意識を向け、

「はあ!!」

拳を美鈴に向けて放つ。
しかし、

「せい!!」

龍也が拳を放ったのと同時に美鈴も拳を放って来た為か、龍也の拳は美鈴の拳に当たってしまう。
拳と拳がぶつかり合った事で衝撃波と激突音が発生し、

「ぐっ!!」
「くう!!」

龍也と美鈴は弾かれる様にして離れて行ってしまった。
ある程度離れた辺りで二人に地に足を着け、息を整えながら構えを取り直す。
そして、

「……さて、体も大分温まった事ですし見せてくださいよ。新しく手に入れた力とやらを」

仕切り直しをすると言った感じで、美鈴は龍也に新しく手に入れた力を見せてくれと言う。
美鈴の言う通り、体も温まって来ている。
頃合と言えば頃合ではあるので、

「良いぜ。元々これを使いこなせる様にする為にここに来たんだからな」

美鈴に乗せられる形で龍也は左手を額の辺りにまで持って行き、左手からどす黒い色を霊力を溢れ出させて一気に振り下ろす。
すると、龍也の顔面に仮面が現れて眼球が黒くなり紫の瞳になると言う変化が起こった。
突然とも言える龍也の変化に美鈴は驚きつつ、

「ッ!?」

変化した龍也の霊力を感じ取った事で驚愕の表情を浮かべてしまう。
何故かと言うと、今の龍也から感じられる霊力が濃く、重く、禍々しいからだ。
はっきり言って、人間が発する霊力では無い。
いや、もっと言えば悪霊とてこんな霊力を発せさせはしないであろう。

「…………………………………………………………」

今感じている霊力が龍也の新しく手に入れた力だと言うのなら、龍也は一体何の力を手に入れたのか。
そんな事を思ったのと同時に、

「なっ!!」

龍也が美鈴の目の前に迫る。
意識を幾らか思考に割いていたとは言え、龍也の接近に気付く事が出来なかった。
この事実に美鈴は驚きながら反射的に両腕に交差すると、交差した両腕に強い衝撃が走り、

「ッ!!」

美鈴は吹き飛ばされたしまう。
吹き飛ばされ、両腕に走った衝撃の感触から殴られたかと言う推察をしながら美鈴は顔を上げる。
顔を上げた美鈴の目には、飛び蹴りを放って来ている龍也が映った。
反応出来ない程の速度での接近、強烈の拳撃。
以上、二点の事柄だけでつい先程までの龍也とはまるで別人だと言う判断を美鈴は下し、

「…………………………………………」

飛び蹴り状態で近付いて来ている龍也に意識を集中させ、カウンターを叩き込もうと身構え、

「……せい!!」

タイミングを見計らって蹴りを放つ。
その瞬間、龍也の付けている仮面全体に罅が入り、

「……え?」

弾け飛ぶかの様に仮面が崩壊し、龍也の瞳や眼球の色が元に戻った。
同時に、龍也から感じられていた霊力も元の感触に戻ったが、

「あがっ!!」

放たれていた美鈴の蹴りが龍也の顎に突き刺さり、龍也は思いっ切り吹っ飛んで行って背中から滑り込む様にして地面に落下してしまう。
仮面の崩壊、霊力の感触の戻り、容易く直撃した蹴りと言う事態が立て続けに起きたからか、

「わ……っと」

尻餅を付く形で美鈴は地面に落っこちてしまう。
が、美鈴は直ぐに立ち上がり、

「だ、大丈夫ですか!?」

大丈夫かと言う声を掛けながら慌てて龍也に近付いて行く。
美鈴が龍也の傍にまで来た辺りで、

「あ、ああ……」

息を切らせ、汗を流しながら龍也はああと言い、

「み、見ての通り……これの制限時間が非常に短く……制限時間を過ぎると……勝手に仮面が崩壊して疲労困憊の状態になるんだ……」

新しく手に入れた力である仮面に付いて簡単な説明をする。
された説明を受けた美鈴は、

「確かに、数秒程でしたからね。あの仮面を出していられた時間は」

同意する様な事を口にして龍也の隣に腰を落ち着かせ、

「それにしても、随分と変わった力を手に入れましたね」

随分変わった力を手に入れたなと言う言葉を掛けた。

「まぁ……な」

掛けられた言葉に龍也がまぁなと返すと、

「あの仮面が出た時にはパワーやスピードと言った戦いに必要な能力が大幅に強化されてましたが、龍也さんの霊力の質が一番変わってましたね」

龍也の顔面に仮面が付いた後に自分が感じた変化に付いて美鈴は語る。
語れた中に在った霊力の質と言う部分に引っ掛かりを覚えた為か、

「……質?」

つい、龍也は首を傾げてしまった。
だからか、

「ええ、あの仮面を出した瞬間に龍也さんから感じる霊力の質が変わりました。単純に霊力の量が多くなった以外にも霊力の濃度が濃くなり、霊力の重圧と
言えるものが重くなり、霊力が霊力とは思えない程に禍々しくなってましたね」

美鈴は霊力の質と言う部分に付いて簡単に説明する。

「へぇー」

説明された内容を受け、龍也は感心したと言った様な表情を浮かべた。
自分では霊力の質の変化などが今一良く分からないものであったからだ。
取り敢えず、仮面を付けた際の自身の霊力の変化に付いて知れた事で龍也がもう一人の自分の力を改めて考察し様とした時、

「よっ、お二人さん」

上空からそんな声が掛かって来た。
掛かって来た声に反応した龍也と美鈴の二人は、声が発せられたであろう方に顔を向ける。
顔を向けた先には箒に腰を落ち着かせた魔理沙が居り、

「よっ」

片手を上げながら降下して来た。
降下して来た魔理沙が地に足を着けたタイミングで、

「魔理沙!!」

勢い良くと言った感じで美鈴は立ち上がり、

「今日と言う今日は通さないぞ!!!!」

強気な声色でそう言い放ち構えを取る。
美鈴からしたら、魔理沙は何度も何度も紅魔館の図書館に進入して行く存在。
ならば今度こそ進入を防いでみせると言う意気込みを抱いても不思議では無いだろう。
ともあれ、美鈴から敵意を向けられているからか、

「おいおい、酷いぜ」

自分に敵意は無いと言う事をアピールしながら魔理沙は箒を手に持ち、

「最初は何時も通り図書館に行こうと思ってたんだが……」

いけしゃあしゃあと図書館に行くのを予定していた事を話す。
話された内容を受け、苛付いたかの様に美鈴は全身に力を籠める。
だが、全身に力を籠めた美鈴が何か行動を起こす前に魔理沙は龍也の方に顔を向け、

「無事に意識を取り戻して退院出来たみたいだな」

無事意識を取り戻して退院出来たみたいだなと言う。
そう言われた龍也は、

「あれ、何でお前も俺が入院してた事知ってるんだ?」

どうして自分が入院していた事を知っているのかと聞く。
すると、

「ああ、前にここに来た時に咲夜から聞いたんだ」

咲夜から聞いたと言う台詞が魔理沙から返って来た。
まぁ、龍也が永遠亭に意識不明の状態で入院していたのは紅魔館では知られている事。
その紅魔館の者である咲夜がその事を魔理沙に教えたとしても別に不思議は無いだろう。
兎も角、魔理沙から返って来た台詞から説明は必要無さそうだと言う事を龍也が思っている間に、

「一応私も見舞いに行ったんだが、お前寝てたからなぁ」

一応見舞いに行ったと言う事が魔理沙の口から発せられた。
態々見舞いに来て貰ったと言うのに、礼の一言も言えなかったので、

「そうだったのか……何か悪かったな」

軽い謝罪の言葉を龍也は魔理沙に掛ける。

「良いって良いって、気にすんな」

掛けられた謝罪の言葉に魔理沙は気にするなと言いながら片手を振り、

「あ、そうだ。宴会やろうぜ宴会」

良い事を思い付いたと言った表情を浮かべながら宴会をし様と言い出した。

「宴会?」
「そ。龍也の退院祝いって事で紅魔館でさ」

急に宴会をし様と言い出された事で少し疑問気な表情になった美鈴に、宴会内容は龍也復活祝いだと魔理沙が述べた瞬間、

「宴会ね……それならもう準備を始めた方が良いかしら?」

そんな事を言いながら咲夜が現れた。
咲夜が現れた気付いた龍也は咲夜の方に顔を向け、

「よう、咲夜」

軽い挨拶の言葉を掛ける。
掛けられた挨拶の言葉に反応した咲夜は仰向けになって倒れている龍也の方に顔を向け、

「意識はちゃんと戻ったみたいね。元気……って訳じゃ無さそうだけど」

余り元気では無いなと言う感想を抱く。
それはさて置き、何時の間にやら紅魔館で宴会を開く事が決まったかの様な雰囲気になって来た為、

「咲夜さん咲夜さん、勝手にここで宴会を開く企画をしても良いんですか?」

当然とも言える疑問を美鈴は咲夜に投げ掛けた。
紅魔館の主であるレミリアの許可を得ずに、紅魔館で宴会を開こうとしているのだ。
美鈴から投げ掛けられた疑問は当然と言うもの。
だからか、

「問題は無いと思うわ。お嬢様は龍也の事を気に入っているもの。龍也の為の宴会を開くと言えば、直ぐにお嬢様の許可が取れるでしょうし」

別に問題無いと言う事とその理由を咲夜は美鈴に伝える。
伝えられた内容は魔理沙の耳にも入り、それを宴会開催を確定させるものだと判断した魔理沙は、

「そうこなくっちゃ!!」

指を鳴らしながらそう言って箒に腰を落ち着かせ、

「それじゃ、私は色々と声を掛けて来るぜ」

色々と声を掛けて来ると言う言葉を残して空中に躍り出て、何所かに向けて素っ飛んで行った。
去って行った魔理沙を見届けた後、咲夜は龍也に近付いてしゃがみ込み、

「で、何で貴方はそんな疲れた状態で倒れているのかしら?」

どうして疲れた状態で倒れているのかと言う事を尋ねる。
別段隠して置く事でも無いので、

「あ、ああ。実は……」

龍也は咲夜に疲れ果てた状態で倒れている理由を説明していく。
説明が終わると、

「要するに、新しく手に入れた力の反動でそうなったと言う訳ね」

咲夜はされた説明を自分の中で纏め、

「実際のところ、どれ位強くなったの?」

龍也と手合わせをしていた美鈴に、龍也が新しく手に入れた力とはどれ程のものなのかと言う事を聞く。

「そうですね……単純な基本能力の大幅な上昇、感じられる霊力の量の大幅な上昇がありましたね。序に言えば霊力が濃く、重く、禍々しくなってました。
後は……殺気や戦意と言ったものも上がっていたり。まぁ、端的に言えば純粋にかなり強くなった……ですかね」

聞かれた美鈴は思い出すかの様な表情になりつつ、純粋にかなり強くなったと言う発言を零した。

「ふむ、成程。となると、龍也へのリベンジを果たすには私も純粋に強くなる必要が有る様ね」
「今の俺なら、楽に勝てると思うぞ」

零された発言から龍也へのリベンジを果たす為には純粋に強くなる必要が有ると考えている咲夜に、今の自分になら楽に勝てると言う軽口を龍也は叩く。

「何言ってるのよ。万全の状態の貴方に勝たなきゃリベンジを果たしたとは言えないわ」

叩かれた軽口に咲夜はそう返しながら立ち上がり、

「後で温かい飲み物と食べ物を持って来て上げるわ。まだ動ける程に体力が戻っている様には見えないし」

暖かい飲み物と食べ物を後で持って来ると言い、続ける様にして、

「それと、今日は暖かい方だけど季節は冬。何時までも仰向けで倒れていたら風邪を引くわよ」

何時までも仰向けで倒れたいたら風邪を引くと言う忠告を行なう。
そう忠告された龍也は、

「ああ、そうだな」

そうだなと言いながら龍也は何とかと言った感じで上半身を起こす。
龍也が上半身を起こしたのを見た咲夜は何かを思い出した様な表情になり、

「あ、そうそう。日が暮れ始めたら妹様に会いに行って上げてね。妹様、貴方の事を凄く心配してたから」

日が暮れ始めたらフランドールに会いに行って上げてと言う頼みを龍也にする。
フランドールに会いに行って欲しいと言うのは美鈴にも頼まれていた事でもあるので、

「分かった」

考える事無く龍也は分かったと口にして頷く。
それを見届けた咲夜は、何の前触れも無く姿を消した。
おそらく、時間を止めて移動したのだろうと思いながら龍也は体力の回復に勤めていく。
温かい飲み物と食べ物に期待しながら。






















日が暮れ始めた時間帯、龍也は、

「しっかし、相変わらず地下に部屋が在る儘なんだな」

フランドールに会う為に紅魔館の地下を彷徨っていた。
とは言え、未だに龍也はフランドールの部屋に辿り着けずにいた為、

「……たく、何だってここの地下は迷路みたいになってるんだ」

つい、軽い愚痴の様なものを零してしまう。
だからと言って足を止める事をしても仕方が無いので、龍也は足を進め続けて行く。
足を進めながら前にフランドールの部屋に行った時の事を思い出していると、曲がり角が龍也の目に映った。
この儘昔の事を思い出しながら歩いて壁に激突したら只の間抜けなので、思い出していた事を頭の隅に追い遣り、

「よっと」

龍也は曲がり角を曲がる。
すると、

「あ……」

曲がった先にフランドールが居る事が分かった。
フランドールの存在を龍也が認識したのと同時に、フランドールも龍也の存在を認識し、

「りゅ……」

フランドールは、

「りゅぅぅぅぅううううううううううううううううううやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

大きな声で龍也の名を呼び、飛び込む様にして龍也へと突っ込んで行く。
突っ込んで来たフランドールに反応した龍也は両手を広げ、

「うおおう!?」

突っ込んで来ているフランドールを抱き止める。
が、突っ込んで来たフランドールの勢いを零にする事は出来なかった為、

「あだっ!!」

フランドールに押し出される様な形で龍也は壁に激突し、減り込んでしまった。
壁に減り込んだけで済んで良かったと思うべきかと龍也が考えている間に、フランドールは顔を上げ、

「起きて歩いてるって事は、もう大丈夫何だよね!?」

心配気な表情でもう大丈夫なのだろうかと言う事を聞く。

「ああ、もう平気だ」
「そう、良かった」

聞かれた事に龍也が大丈夫と返すとフランドールは安心した表情になったので、

「てか、飛び込んで来るにしても力を落としてくれ。普通の人間だったら、潰れて死んでるぞ」

飛び込んで来るのなら力加減をしてくれと言う言葉を龍也はフランドールに掛ける。

「はーい」

掛けられた言葉にフランドールは了承の返事をしなから龍也から一歩離れ、満面の笑みを浮かべた。
それだけ龍也に会えたのが嬉しかったのだろう。
そんなフランドールを見て龍也は一寸した既視感を覚えつつ、減り込んだ壁の中から抜け出そうとしたが、

「……あれ?」

抜け出す事が出来なかった。
変な所に嵌ってしっまたのだろうか。
とは言え、何時まで壁の中に居る訳にもいかないので龍也が抜け出す為に体を動かしている中、

「ねぇ、何やってるの?」

何をやってるのかと言う問いがフランドールから投げ掛けられる。
そう問いを投げ掛けられた事で龍也はフランドールに手伝って貰うと言う事を思い付き、

「壁の中から抜け出そうとしてるんだが、抜け出せなくてな。悪いんだけど、俺の腕を引っ張ってくれないか?」

壁の中から抜け出そうとしている事を話し、自分の腕を引っ張って壁の中から抜け出せる様に手伝ってくれと言う頼みを行なう。

「うん、良いよ」

龍也からの頼みを二つ返事で了承したフランドールが龍也の腕を引っ張ると、龍也は壁の中から抜け出せる事が出来た。
やっと自由の身になれた言った感じで壁の中から出られた龍也は軽く体を動かし、

「ありがとな、フランドール」

ありがとうと言う礼の言葉をフランドールに掛ける。
そして、

「今日の夜辺りにここで宴会が開かれるんだけど、フランドールはどうする」

夜に紅魔館で開かれるであろう宴会に参加するかと言う事を聞く。

「参加する参加する!! 私も参加する!!」

聞かれた事に、フランドールは大きな声で参加する意思を表明した。
少し前のフランドールだったら、ここまで宴会に参加する事に乗り気では無かっただろう。
だが、今のフランドールは宴会に参加する事に何の躊躇いも無かった。
フランドールも、少しずつ変わっていっているのだろう。
ともあれ、フランドールも宴会に参加すると言う事なので、

「んじゃ、上に行くか」

上に行こうと言いながら龍也はフランドールに背を向けて歩き出す。
歩き出した龍也を追う様にしてフランドールも足を動かし、

「宴会かぁ。どんな料理が出るか楽しみ」
「咲夜は大体の料理は作れるみたいだからなぁ。フランドールは何が食べたいんだ?」
「宴会の時って見た事の無い料理とか出るから、私は何でも良いかな。あ、でもにんにくが使われてる嫌」
「吸血鬼だもんな」
「あ、でも血の滴るステーキとかは好きだよ。後、血が入ったケーキとかクッキーも」
「吸血鬼だもんな」
「龍也も食べてみる? 血が入ったケーキとかクッキー」
「いや、俺人間だからな。積極的に血が入ったものを食いたくはないぞ」
「えー、美味しいのに」
「美味しくてもだ」
「好き嫌いしてたら大きくなれないって本に書いてあったよ」
「そう言うお前だって、にんにくを食べ様としないだろ」
「あう……」
「ま、出て来る料理はかなり在るだろうから余り一つの料理に拘らなくても良いんじゃないか」
「うん、そうだね」

上層部に辿り着くまで龍也と会話を交わしていった。






















予定通りと言うべきか、夜になったら紅魔館で宴会が開かれた。
更に言えば、宴会に参加している者の数はかなりのもの。
参加している理由は龍也の回復祝いと只騒ぎたいので半々と言ったところか。
とは言え、自分の為に集まってくれたと言う事で龍也は少々気恥ずかしい気分になってしまった。
最も、そんな龍也を見ても宴会に参加している面々は何も気にする事なく騒ぎ始めたが。
まぁ、これは予想通りと言うか想定通りなのだが。
兎も角、久し振り宴会に参加して騒げたと言う事で龍也は楽しい気分で紅魔館にやって来た一日を終える事が出来た。
























前話へ                                          戻る                                             次話へ