「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

黒い眼球に紫色の瞳、顔面に仮面を付けていると言う状態の龍也が美鈴に突撃しながら拳を放つ。
放たれた拳を美鈴は体を逸らす事で紙一重で避け、

「はあ!!」

体を逸らした勢いを利用して回し蹴りを繰り出す。
繰り出された回し蹴りが当たる直前、龍也は超速方法を使って今居る場所から消える。
龍也が居なくなってしまった事で美鈴が繰り出した回し蹴りが空を斬る結果に終わった直後、龍也は消えた場所に姿を現し、

「だあ!!」

再び美鈴に向けて拳を放った。
回し蹴りを空振った直後と言う事で隙だらけの状態の美鈴であったが、反射的に拳が叩き込まれるであろう場所を護る様に美鈴は両腕を交差させる。
そのお陰で、美鈴は龍也の拳の直撃を受けると言う事態は避けれたのだが、

「くっ!!」

交差させている両腕に走った拳撃の衝撃が強過ぎた様で、後方へと殴り飛ばされてしまう。
殴り飛ばされ、離れて行く美鈴に追い討ちを掛ける為に龍也は美鈴を追い掛ける。
追い掛けて来ている龍也に気付いた美鈴は突き刺す様な勢いで地面に足を着けて体勢を強引に立て直し、

「破!!」

目の前にまで迫って来たいる龍也に向けて正拳突きを放つ。
放たれた正拳突きが自分の体に当たる直前、龍也は美鈴の腕を掴んで自身の体を持ち上げ、

「りゃあ!!」

掴んでいる美鈴の腕を支点にしながら龍也は体を回転させ、美鈴の後頭部に向けて蹴りを当て様としたのだが、

「危なっ!!」

何かに気付いたかの様に美鈴が反射的に頭を下げた事で、龍也の回し蹴りは美鈴の後頭部に当たる事は無かった。
回し蹴りが美鈴の頭部が在った場所を通過した刹那、

「はあ!!」

掴まれている腕から美鈴は妖力を一瞬だけ解放し、龍也を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた龍也は体を回転させながら地に足を着け、大地を駆けて美鈴に突っ込んで行く。
それに応えるかの様に美鈴も大地を駆けて龍也に近付いて行った。
そして、互いが互いの間合いに入ったのと同時に龍也と美鈴の二人は拳を振り被り、

「「はあ!!」」

同じタイミングで拳を放ち、拳と拳を激突させる。
拳と拳が激突した事で大きな衝撃波と激突音が発生し、周囲の空間を幾らか揺るがす。
揺るいでいる空間を無視するかの様に二人が次の行動を起こそうとした刹那、龍也の仮面全体に罅が走り

「ッ!?」

砕け散るかの様に仮面が崩壊し、龍也の眼球と瞳の色が元に戻り、

「はぁ!! はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

膝から崩れ落ちる様に龍也は両膝と両手を地面に着け、零れ始めた汗を無視しながら息を整え様としていく。
すると、

「お疲れ様」

お疲れ様と言う言葉と共に咲夜が龍也にタオルを手渡して来た。
手渡されたタオルに気付いた龍也は顔を上げ、

「ああ、ありがとう」

ありがとうと言う言葉と共に咲夜からタオルを受け取り、汗を拭き始める。
タオルを龍也が受け取ったのを見た後、咲夜は美鈴の方に体を向け、

「はい、美鈴も」

美鈴にもタオルを手渡した。

「ありがとうございます、咲夜さん」

手渡されたタオルを美鈴も礼を言いながら受け取り、少し掻いていた汗を拭いていく。
ある程度汗を拭き終えた辺りで、

「それで、どうだった?」

龍也は咲夜にどうだったかと尋ねる。
何を尋ねたのかと言うと、仮面を出していられる時間に付いてだ。
何故、龍也は咲夜にその事を尋ねたのか。
その答えは、龍也の修行に美鈴が付き合う様になった次の日に存在している。
こうやって美鈴が龍也の修行に付き合う様になってからと言うもの、タイミングを見計らったかの様に二人が休憩に入ったのと同時に咲夜は差し入れを持って来てくれた。
で、差し入れを持って来てくれた咲夜に龍也は仮面を出していられる時間の計測を頼んだのだ。
大して時間を取られる様な事でも無いので、咲夜は龍也の頼みを了承した。
と言うのが、咲夜に龍也がそう尋ねた事の真相である。
ともあれ、仮面を出していられる時間を尋ねられた咲夜は懐中時計を見ながら、

「きっかり13秒よ」

13秒と口にした。

「13秒か……」

伸びてるんだか伸びていないんだか良く分からないと言う思いを抱いている龍也に、

「でも、この一ヶ月で結構伸びましたよね」

仮面を出していられる時間が延びたと言う言葉を美鈴は掛け、

「最初の頃は確か……3秒位でしたよね?」

下唇に人差し指を当てながら最初の頃は3秒位だったと呟く。
呟かれた内容が耳に入ったからか、

「正確には2,8秒だけどね」

2,8秒だと言う訂正を咲夜は行なう。
2,8秒から13秒とちゃんと延びている様ではあるが、長いとは言い難い。
一ヶ月も修行していたと言うのに一分を越える事が無かったと言う事実に龍也が幾らか気落ちしていたのだが、

「私は龍也さんのその力は使えないので分かりませんが、ちゃんと伸びてる様ですし良いんじゃないですかね? それに仮面が時間切れで崩壊した際の
疲労感もマシになってる様ですし。龍也さんはちゃんと成長してますよ」

美鈴からフォロー様な言葉を掛けられた事で、龍也は美鈴の言う通りだと思い幾らか持ち直し始める。
一ヶ月前。
修行を始めてばかりの頃は、仮面が時間制限で崩壊した時は余りの疲労感で殆ど動けないと言う事態に陥ってしまった。
だが、今では仮面が時間制限で崩壊したとしても逃げる位の体力は残る様にはなっている。
改めて自分の現状を知れた龍也は何かを考える素振りを見せつつ、

「……そろそろ旅を再開しようかな」

ここで修行を切り上げ、旅を再開し様かと言う事を呟く。
現在、仮面を出していられる時間は13秒。
であるならば、旅をしながら仮面の保持時間を延ばすのも十分に現実的だ。
具体的には道中で妖怪に襲われた際、仮面を出して妖怪を倒し直ぐに仮面を消す。
妖怪の数にもよるが、13秒もあればおそらく大丈夫であろう。
旅の中で仮面の保持時間を延ばす方法を龍也が自分の頭の中で纏めていると、

「おや、もう行かれるんですか?」

少し驚いたと言う表情でもう行くのかと言う事を美鈴が龍也に尋ねて来た。
尋ねられた龍也は頭の中で纏めると言う行為を中断し、

「ああ。それに、これ以上俺の修行に付き合わせるのも悪い気がするしな」

これ以上自分の修行に付き合わせるのも悪いと言う発言を龍也は発する。
この一ヶ月、龍也は基本的に美鈴と修行ばかりしていた。
言い方を変えれば、美鈴の時間を龍也が殆ど拘束していると言う事。
美鈴自身は快く龍也の修行に付き合ってくれたのだが、龍也はその事を申し訳なく思っていた。
そんな龍也に、

「私の方も良い修行になっていたので、お相子だとは思うんですけどね」

自分も良い修行になっていると言う事を美鈴は返す。
それに続ける様にして、

「と言うより、貴方は一箇所に留まり続けられるタイプじゃないしね。まぁ、落ち着きが無いとも言えるけど」

龍也がそろそろ旅を再開し様と言い出すのは予想していたと言う台詞を咲夜は零した。
まるで自分の心中を言い当てられたかの様であった為、

「ははは……」

つい、苦笑いを龍也は浮かべてしまう。

「まぁまぁ、男の子ならそれ位の方が良いですって」

苦笑いを浮かべてしまったら龍也をフォローするかの様に、男の子はそれ位の方が良いと美鈴は口にする。
兎も角、もう龍也が旅を再開するらしいので、

「ま、そう言う事ならおにぎりでも作って上げるから一寸待ってなさい」

おにぎりでも作って上げるから少し待つ様にと言う言葉を咲夜は龍也に掛けた。

「何か悪いな」
「別に良いわよ、これ位。大した手間でも無いし」

態々道中で食べれる物を作ってくれると言う言葉を受けて幾らか申し訳無い気分に成っている龍也に、咲夜は気にする必要は無いと言う台詞を述べて姿を消す。
十中八九、時間を止めて移動したのだろう。
さて、咲夜が姿を消して二人っ切りになった龍也と美鈴は、

「……しっかし、俺ってそんなに落ち着きが無いか?」
「まぁ……その、龍也さんは活動的と言える様な人ですから」
「それ、フォローになってるのか?」
「あ、あはははは……。でもま、落ち着きが無いと言う事は少し言い方を変えればどんな時でも臆せず前に進む勇気を持っていると言う事になりますし」
「そう言うものなのか?」
「そう言うものです。と言うより、勇気が無ければお嬢様や妹様相手に戦いを挑んで戦い続ける何て真似はしないでしょう」
「ああ、言われてみたらそうかも。でも、フランドールに関しては俺は戦いを挑まれた側なんだけどな」
「おや、そうなのですか? その辺りの詳細な情報は私の方まで流れて来て無いんですよ」
「そうなのか?」
「ええ、私の紅魔館での立場は一介の門番ですからね。侵入者が居たと言うのであれば兎も角、紅魔館内部のゴタゴタを私にまで伝える必要は無いと
判断したのでしょう。それを知った私の意識が紅魔館内部に向き、門番の業務を疎かにしない様にと」
「その割には、お前結構門の前で寝てるよな」
「いや、それは、あははは……」

他愛無い会話を交わしていく。
それから幾らかすると、咲夜がおにぎりが入った包みを持って現れた。
現れた咲夜から包みを受け取った龍也は、咲夜にレミリアとフランドールに宜しく言って置いて欲しいと言う頼みをする。
本来であれば龍也が言うべき事なのだが吸血鬼であるレミリアとフランドールは、この時間帯は就寝中。
流石に別れの挨拶を言う為だけに二人を起こす訳にもいかないだろう。
かと言って、二人が起きるまで待てる程に龍也は我慢強くは無い。
以上の事から、龍也はレミリアとフランドールへの伝言を咲夜に頼んだのだ。
頼んだ事に咲夜が了承の返事をしてくれた事で、龍也は後顧の憂いが無くなったと言う感じで龍也は紅魔館を後にした。






















「美味い。おにぎりの具って言ったら、やっぱりおかかだよな」

適当な場所に腰を落ち着かせながら咲夜が作ってくれたおにぎりを食べ、龍也はそんな感想を漏らす。
紅魔館を後にした龍也は、先ず無名の丘に向かった。
無名の丘に在る家として使っている洞窟から、アリスに作って貰った防寒具を取って来る為だ。
防寒具を取った後、メディスンの顔でも見て行こうと龍也は思ったのだが残念ながらメディスンと会う事は出来なかった。
だからか、仕方なくと言った感じで龍也は無名の丘を後にする。
で、無名の丘を後にした龍也が向かった先は冥界。
何故、冥界に来たのかと言うかと言うとあるものを見る為。
あるものと言うのは、白玉楼に存在している西行妖と言う名の妖怪桜。
もう一人の自分が取り込み、今は自分の力となっている西行妖の力。
その力が元々在った場所である西行妖を見て置きたい。
そう思ったからこそ、龍也はこうやって冥界にまでやって来たのだ。
そして、冥界にやって来てから幾らか経った辺りで腹が空いたので休憩を兼ねてこうして咲夜に作って貰ったおにぎりを食べていたのである。
それはそれとして、

「……ふぅー、食った食った」

咲夜が作ってくれたおにぎりを食べ終えた龍也は包みをポケットに仕舞って立ち上がり、白玉楼を目指して足を進めて行く。
今の季節が冬と言う事もあるが冥界は幽霊や人魂など体温と言えるものがかなり低く、喋る事が殆ど無い存在が多々居る事で現世よりも静かで寒い。
とは言え、寒くて動けなくなる程では無いが。
これに関してはアリスに作って貰った防寒具の性能が良いからであろうか。
そんな事を思いながら歩いている龍也に、

「あ、龍也だ。ヤッホー」

誰かが声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した龍也は足を止め、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた先には、

「メルラン」

岩の上に座っているメルランの姿が在った。
メルランの存在に龍也が気付いたのと同時に、

「ヤッホー」

メルランは笑顔で龍也に向けて手を振る。
取り敢えず、互いが互いの存在を認識したタイミングで、

「何やってるんだ、こんな所で」

何やっているんだと言う問い掛けと共に龍也はメルランに近付いて行く。

「今度人里でライブをやるからその練習よ。で、今は休憩中。龍也は?」

問われた事にメルランはそう答えつつ、返す様に龍也はここに何しに来たんだと言う事を問うて来た。
別に隠して置く事でも無いので、

「俺は白玉楼に行くとこだな」

白玉楼に行く途中である事を話す。

「ふーん。ね、ね。今少し暇してたのよ。だから少しお話ししない?」

龍也が冥界にやって来た理由を知った後、メルランは暇だから少し話しをし様と言う提案を行なう。
急いで白玉楼に行かなければならないと言う訳でもないからか、

「ああ、良いぞ」

良いぞと言う言葉と共に龍也は軽く跳躍し、メルランの隣に腰を落ち着かせるかの様にして着地した。
自分との話しに付き合ってくれる事を龍也が了承してくれた為、

「やった」

嬉しそうな表情をメルランは浮かべ、

「そう言えばさ、龍也が大怪我を負って入院してたって噂を聞いたんだけどほんとー?」
「ああ、本当だ」
「あらー、本当だったの。龍也ってかなり強いんでしょ。一体誰と戦ったの?」
「んー……まぁ、もう一人の俺かな?」
「もう一人の俺? えーと……確か、ドッペルゲンガーって言うのだったっけ?」
「似てると言えば……似てるかなぁ。まぁ、似てるだけで実際は違うけどな」
「ふーん、詳しい事情は良く分からないけど大変だったのねー」
「まぁな。そういや、メルランは俺が入院して間は何をしてたんだ?」
「私? 私は姉さんやリリカと一緒にライブを開いたり、演奏の練習したり、のんびり過ごしたりって感じよ」

龍也と雑談を交わし始める。
のんびりとした雰囲気の中で雑談を始めてから幾らか経った時、

「あ、居た居た」
「メルラン姉さん見っけー」

ルナサとリリカの二人がやって来た。

「あ、姉さんにリリカ」
「よっ」

やって来た二人に気付いたメルランと龍也の二人がルナサとリリカの方に顔を向けると、

「あら、龍也も一緒なの」
「やっほ」

二人は龍也の存在に気付く。
新たにやって来た二人も自分に気付いた事を確認した龍也は、

「そう言えば、今度人里でライブするんだって?」

メルランと話している時に出た人里でのライブに付いて聞いてみる事にした。

「うん。まだ正確な日は決まってないけどね」
「一応、予定は近日中よ」

聞かれた事にリリカとルナサの二人がライブに付いての情報を出して来てくれたからか、

「それで冥界で練習か」

仕上げと言う意味合いも冥界で練習しているのかと言う推察を龍也は心中で行なう。

「ええ、ここは静かだから集中して練習出来るし」

行なった推察を察したからかどうかは分からないが、同意するかの様にルナサは冥界では練習に集中出来ると言う事を語る。
すると、

「それにしても……」

何処か意味有り気な視線をリリカは龍也に向けた。
リリカからの視線に気付いた龍也は、

「ん? 何だ?」

何だと言う言葉と共に龍也がリリカの方に顔を向ける。
その瞬間、

「いやー、龍也も良く何度も冥界に来れるなと思って。ここに来るまでに襲われたりしなかったの?」

リリカがそんな事を言ってのけた為、

「んー……ここに来るまでに妖怪やら幽霊やらに襲われたりはしたな。まぁ、普通に撃退したけど」

ここに来るまで妖怪、幽霊と言った存在に襲われて撃退したと言った事を龍也は語る。
シレッとした感じで妖怪や幽霊を撃退した事を龍也が語った為、プリズムリバー三姉妹は驚きの表情を浮かべたが、

「……ああ、龍也の強さならそこんじょそこ等の妖怪やら悪霊やら怨霊やらに襲われても何の問題も無いか」

龍也の強さなら襲撃者を撃退出来ても当然と言う結論に達し、ルナサは表情を戻す。
ルナサが達した結論にはメルランとリリカも同意した様で、二人も表情を元に戻し、

「龍也だけじゃなく、前に来た巫女やら魔法使いやらメイドも強かったけどね」

連想するかの様にリリカは冬が異様に長かった異変を解決する際に冥界にやって来た霊夢、魔理沙、咲夜の三人を思い出す。

「あの三人も龍也に負けず劣らずって感じで強かったわねー」

思い出された事にメルランも同意を示した刹那、

「あ、そうだ」

良い事を思い付いた言う表情になりながらリリカは龍也の方に顔を向け、

「ねぇねぇ、一曲聴いてかない?」

一曲聴いていかないかと言う事を口にする。

「一曲?」
「そうそう。やっぱり観客が一人でも居るとリハーサルもビシッってなるからね」

そう口にされた龍也が少し驚いた表情になると、一曲聴いて欲しいと口にした理由をリリカは述べた。

「また勝手に決めて。ま、異論は無いけど」
「そうねー。観客が居れば気の入り方も違うしー」

述べられた事を受け、ルナサとメルランが好意的な反応を示している中で龍也は少し考えを廻らせていく。
プリズムリバー三姉妹の演奏は、音楽に詳しい訳では無い龍也でも素晴らしいものだと言える程のもの。
であるならば、ここでプリズムリバー三姉妹の演奏を聴く事が出来ると言うのはラッキーであるので、

「ああ、聴かせて貰うよ」

聴かせて貰うと言う事を龍也はリリカに伝えた。

「オッケー!! それじゃ、プリズムリバー楽団のライブが始まるよー!!」

自分達の演奏を聴いて行くと言う事を龍也が決めたのと同時に、リリカは号令を掛ける。
合図が掛けられたのと同時にルナサ、メルラン、リリカの三姉妹は楽器を構え、プリズムリバー三姉妹の演奏会が始まった。






















プリズムリバー三姉妹の演奏が終わってから暫らく。
龍也は、

「しっかし、相変わらず良い曲だったな」

白玉楼へと続く異様に長い石段を上がりながら、先程まで聴いていた演奏を思い出していた。
相変わらず良い曲であったと言う感想を抱きつつ、

「ライブが始まるまで人里に居ようかな?」

ライブが開かれるまでは人里に居ようかと言う事を考え始めた。
その場合、阿求か慧音にライブが開かれるまで泊めて貰える様に頼む必要が出て来るが。
ともあれ、考え事に集中していた間に、

「……おっ」

白玉楼の門の前に龍也は辿り着いていた。
だからか、意識を切り替えるかの様に龍也は考え事を中断して門を開いて白玉楼の敷地内に入って行く。
敷地内に入り、足を進めてから少し経った辺りで龍也は庭掃除をしている妖夢を発見する。
だからか、龍也は一旦足を止め、

「妖夢」

掃除をしている妖夢に声を掛けた。
急に声を掛けられたからか、

「ッ!?」

思いっ切り背筋を伸ばし、妖夢は慌てて振り返る。
振り返った妖夢の目には龍也の姿が映った為、

「あ、何だ。龍也さんじゃないですか」

ホッとした表情に妖夢はなり、

「それで、何か御用ですか?」

何か用が在るのかと言う事を龍也に聞く。

「いや、一寸遊びに来ただけだ」

聞かれた事に、一寸遊びに来たと言う答えを出した。
何故そう言った答えを出したのかと言うと、西行妖を見ただけで帰ると言うのは味気無いと思ったからだ。
ともあれ、龍也が白玉楼にやって来た理由を知った事で、

「あ、そうでしたか。でしたら、お茶とお茶菓子をお持ちしますね」

納得した表情になりながらお茶とお茶菓子を持って来ると言う事を妖夢は口にする。

「いや、そこまでしなくても……」
「いえいえ、気にしないでください」

お茶とお茶菓子を用意し様としている妖夢に龍也は遠慮の言葉を言おうとしたが、気にしないでと言いながら妖夢は白玉楼の中に入って行ってしまった。
白玉楼の中に入って行った妖夢を見届けた後、何か悪い事をした気分になりつつも、

「……っと、妖夢が戻って来る前に西行妖を見て置くか」

白玉楼へとやって来た元々の目的を果たすかの様に龍也は西行妖が在る方に向けて足を動かし始める。
足を動かし始めてから幾らかすると、龍也は巨大な枯れ木の前にまでやって来ていた。
巨大な枯れ木。
そう、この巨大な枯れ木こそが西行妖なのである。
ともあれ、西行妖の前まで来たと言う事で、

「…………………………………………………………」

真剣さが感じられる表情で西行妖を見詰めていく。
しかし、

「…………何の反応も無いし、何も感じ無いな」

幾ら西行妖を見詰めても龍也の体に何の反応も無く、何かを感じる事は無かった。
だからか、龍也は手を伸ばして掌を西行妖に押し当てる。
押し当てた際の感触は普通の木とそこまで変わらないものであったが、

「…………やっぱり何の反応も無い」

やはりと言うべきか、龍也の体には何の反応も無かった。
てっきり取り込んだ西行妖の力と何かしらの共鳴反応を起こすものだと思っていた龍也は拍子抜けした気分になりつつ、

「力を使いこなす切欠になるかもと思ったけど……そう上手くはいかないか」

溜息を一つ吐きながらそう呟くと、ある可能性が龍也の頭に浮かんだ。
浮かんだ可能性と言うのは三つ。
一つは取り込んだ西行妖の力は全て自分の支配下にあると言うもの。
二つ目は取り込んだ事で西行妖の力が別の力に変質したのではと言うもの。
最後の三つ目は西行妖から力の全てを取り込んでしまったのではと言うもの。
以上、三点が頭に浮かんだ可能性である。
兎も角、何の反応も無かったのは頭に浮かんだ可能性のどれかが当て嵌まっていたからではと龍也が思った瞬間、

「……いや、下手したら力が暴走したかも知れないからこれで良かったのかもな」

もし何かしらの反応が在ったら暴走していたかもと言う考えが頭に過ぎった為、反射的にこれで良かったと漏らす。
若しかしたら、結構危ない事をしていたのかも知れないと言う事を思いながら龍也は西行妖から手を離した。
そして、頬を指で掻いていると、

「いらっしゃい、龍也」

いらっしゃいと言う言葉と共に幽々子が龍也の隣に現れる。
現れた幽々子に気付いた龍也は頬を掻くのを止め、

「ああ、邪魔してるよ」

幽々子の方に顔を向けて邪魔していると言う言葉を発した。
軽い挨拶を交わした後、幽々子は西行妖に目を向け、

「龍也もこれが満開になっているのを見たいの?」

龍也も西行妖が満開になった状態が見たいのかと問う。

「いや、そう言う訳じゃ……」
「あら、残念。それなら龍也にも協力して貰ってまた春度を集め様と考えたのに……」

問われた事を龍也が否定すると、残念そうな表情になりながらサラッと龍也を巻き込む様な発言を幽々子は発する。
発せられた発言が耳に入ったからか、

「おい……」

つい、龍也はジト目を幽々子に向けてしまう。
そんな目で見られた幽々子は、何時の間にか取り出した扇子を口元へと持って行き、

「ふふ、冗談よ冗談」

冗談だと言いながら扇子を開いて口元を隠した。
口元を隠した幽々子を見て、半分位は冗談には聞こえなかったと言う感想を龍也が抱いた時、

「あ、そうそう」

意味有り気な表情になりながら幽々子は龍也の顔を見詰め、

「貴方の中に入って行ったその力は、既に貴方の力と混ざり合って貴方だけのものになっている。正確に言うのなら、その力を使ったら貴方本来の力と
混ざり合う様な形で表に出て来ると言った感じね。因みに、普段その力は貴方の力の奥底に存在しているわ」

龍也が取り込んだ西行妖の力に付いてと思われる話しをし始める。
突如として幽々子がその様な話しを始めた事で、龍也は驚きの表情を浮かべてしまう。
が、驚いて龍也を無視するかの様に、

「唯……その力が反応する様な強い何かが貴方に向けて放たれた時、若しくは貴方のその力が反応する様な瘴気などが充満している空間に入った場合。
貴方のその力は貴方の意思に関係無く表に出て来るでしょう。それだけなら問題は無いでしょうけど、問題はその力が貴方の意思と切り離されると言う
事態になった時。先程、私はその力は貴方の力と混ざり合ったと言った。けど、それは言い方を変えれば混ざり合っただけで融合したと言う訳では無い
と言う事。つまり、そう言った事態になったら貴方の力はその力に染め上げられる可能性が在るの。具体的に言うのなら貴方の力にその力が加わったと
言う状態から、その力だけが貴方の力も含めた全てを支配すると言っても良い状態になるわ。簡単に言ったら、力の暴走ね」

警告とも忠告とも取れる言葉を発し、

「長々と語ったけど、私が言いたい事は只一つ。力に呑まれない様にしなさい。力に呑まれた者の最期なんて、大抵無様なものよ」

力に呑まれない様にと言う発言で締め括った。
そのタイミングで、龍也は理解する。
間違い無く、幽々子は自分が取り込んだ西行妖の力に付いての詳細な情報を持っていると言う事を。
なので、

「なぁ……」

もっと教えて欲しい言う事を龍也は口にし様としたが、口にし切る前に、

「紳士なら、女の秘密を聞きたがったら駄目よ」

幽々子の人差し指が龍也の唇に押し当たり、龍也が口にし様とした事を強制的に中断させながら幽々子はそう述べる。
述べられた事を受け、龍也は幽々子の言いたい事を察した。
要するに、何でもかんでも聞いて答えを得るなと幽々子は言っているのだ。
自分が言いたい事を龍也が察したと感じた幽々子は龍也の唇から人差し指を離し、

「頑張りなさい、男の子」

激励の様な言葉を龍也に掛け、

「それじゃ、妖夢がお茶とお茶菓子を持って来るまで二人でこの西行妖を見ていましょうか」

雰囲気をお気楽なものに変えながら妖夢がお茶とお茶菓子を持って来るまで一緒に西行妖を見てい様と言う提案を行なう。
行なわれた提案から、

「……お前、俺と妖夢の会話を聞いていただろ」

自分と妖夢の会話を聞いていただろうと言う突っ込みを入れたが、

「あら、盗み聞き何て言うはしたない真似を私がする訳無いじゃない。主と言う者は、従者の行動をある程度は把握しているものなのよ」

入れられた突っ込みを幽々子はシレッとした表情の受け流してしまった。
だからか、何度目かになる口では幽々子に勝てそうに無いと言う事を龍也は思いつつ、

「そうだな、そうするか」

諦めたかの様に龍也は幽々子の提案を受け入れ、西行妖に視線を向ける。
こうして、龍也と幽々子は妖夢が来るまで西行妖をのんびりと見る事となった。
























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