龍也が白玉楼に赴いてから一日経った日の朝。
白玉楼の庭先で、

「はあ!!」
「たあ!!」

龍也と妖夢の二人が戦っていた。
龍也は炎の大剣を振るい、妖夢は楼観剣を振るいながら。
炎の剣と楼観剣が激突する度に火花が舞い散るが、二人は全く気にした様子を見せずに攻め続けていた。
まるで、そんな些細な事などに気は割いていられないと言わんばかりの様に。
それはさて置き、只自分の得物を振るっているだけでは埒が開かないと判断した二人は後ろに跳んで間合いを取り、

「「ッ!!」」

取った間合いを一気に詰めるかの様にして二人は突っ込んで行き、互いの得物をぶつけ合う。
互いの得物をぶつけ合った事で龍也と妖夢は鍔迫り合いをする様な形になり、力を籠めて相手を押し切ろうとする。
しかし、幾ら力を籠めても二人は相手を押し切る事は出来なかった。
だからか、二人は鍔迫り合いの様な状態を少しの間維持した後、

「「ッ!!」」

弾かれる様にして再び間合いを取る。
再び間合いを取った妖夢と龍也は息を整えながら相手の様子を伺いつつ、

「随分……腕を上げましたね、龍也さん」
「お前もな、妖夢」

軽い会話を交わす。
そもそも、何故この二人は戦っているのか。
答えは簡単。
只、互いの実力が気になったからだ。
朝、早くに目が覚めた龍也が散歩の意味合いを兼ねて白玉楼内を歩いていた。
すると、庭先で素振りをしている妖夢の姿を発見する。
そこで挨拶を交わし、雑談をしていると妖夢の方から手合わせをし様と言う申し出が在ったのだ。
断る理由も無かったし、久しぶりに妖夢と戦ってみたいと思った龍也はそれを了承。
そして、現在に至ると言う訳だ。
軽く会話を交わしながらこうやって妖夢と戦う事になった経緯を龍也が少し思い出していると、

「そう言えば聞きましたよ、龍也さん。何でも新しい力を手に入れたとか」

妖夢から龍也が新しく手に入れた力に付いての話題が出された。
新しく手に入れた力。
十中八九西行妖の力の事であろうが、その力の事を龍也は態々言い触らす様な真似はしていない。
となれば、誰かから聞いたと言う事になる為、

「……誰から聞いたんだ、それ?」

誰にその事を聞いたのかと言う事を龍也は妖夢に尋ねてみた。

「この前、紅魔館で開かれた龍也さんの全快祝いの宴会で」

尋ねられた事に妖夢は龍也の全快祝いの宴会で聞いた事を話す。
話された内容から、美鈴か咲夜のどちらかから聞いたのだろうと龍也は考えつつ、

「見たいのか?」

見たいのかと言う事を妖夢に聞く。
聞かれた妖夢は、

「はい」

一瞬の間も無く肯定の返事をする。
別に西行妖の力は絶対に見せる訳にはいかない力と言う訳では無いし、龍也としても仮面の保持時間を延ばしたい。
なので、

「……良いぜ。見たいのなら見せてやるよ」

見せると言いながら龍也は炎の大剣から左手を離し、離した左手を額の辺りにまで持っていき、

「唯、まだ完全に扱え切れてなくてな。制限時間が13秒しかないんだ」

新しい力にはまだ慣れていなく、制限時間が在ると言う事を妖夢に伝える。

「分かりました」

伝えられた内容を受けた妖夢が了承の返事と共に楼観剣を構え直した刹那、龍也は左手からどす黒い色をした霊力を溢れ出させ、

「ッ!!」

左手を一気に振り下ろす。
その瞬間、紅い瞳はその儘に眼球が黒くなって龍也の顔面に仮面が現れた。

「ッ!?」

行き成り現れた仮面に妖夢は驚くのと同時に気圧されてしまった。
仮面が現れたのと同じタイミングで変質した、龍也の禍々しい霊力に。

「いくぜ」

妖夢が気圧されてる間に龍也はいくぜと言いながら左手を炎の大剣を握っていた位置に戻し、両手で炎の大剣を持ちながら大地を蹴って妖夢へと向かって行く。
向かって来た龍也に気付いた妖夢は気圧された自分に喝を入れて楼観剣を振り被り、

「たあ!!」

気合一閃と言った感じで振り被った楼観剣を勢い良く振り下ろす。
振り下ろされた楼観剣に合わせるかの様にして、

「はあ!!」

龍也は炎の大剣を振るう。
振るわれた楼観剣と炎の大剣は当然の様にぶつかり合った時、

「なっ!?」

力負けしたかの様に妖夢は弾き飛ばされてしまった。
弾き飛ばされている中で完全に力負けしたと思いながら顔を上げると、突っ込んで来ている龍也の姿が妖夢の目に映る。
追い討ちを仕掛けて来る気かと判断した妖夢は咄嗟に白楼剣を片手で引き抜き、引き抜いた白楼剣を炎の大剣が叩き込まれるであろうと思われる場所に持って行く。
同時に、炎の大剣が白楼剣に叩き込まれて妖夢は更に弾き飛ばされてしまう。
だが、吹き飛ばされている妖夢は軽い笑みを浮かべていた。
何故かと言うと、弾き飛ばされる事が妖夢の狙いであったからだ。
どう言う事かと言うと龍也の攻撃が来るまでに体勢を立て直すのは適わないと直感的に感じ取った妖夢は、更に弾き飛ばされる事で間合いを取ったのである。
ともあれ、龍也から間合いを取れた妖夢は白楼剣を鞘に収めながら体勢を立て直して地に足を着けた。
地に足を着けて正面を見据えた妖夢の目に、再び突っ込んで来ている龍也の姿が入り込む。
つい先程までと違って体勢は整っていると言う状態なので、

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

妖夢は妖力を解放し、突っ込んで来ている龍也に激突しに行くかの様に妖夢も龍也に向けて突っ込んで行く。
そして、

「はあ!!」
「せい!!」

龍也と妖夢の二人は激突する瞬間、自分達の得物を振るう。
振るわれた炎の大剣と楼観剣は当たり前の様に激突し、大きな激突音と衝撃波が発生する。
発生した激突音と衝撃波を無視しながら相手を押し切ろうしていると、龍也の付けている仮面に罅が入り、

「…………あ」

入った罅が仮面全体に広がったタイミングで仮面が砕け散る様に崩壊し、龍也の眼球の色が元に戻った。
それと同時に龍也の力が抜けてしまい、

「ぐあ!!」

妖夢に押し切られる様な形で龍也は弾き飛ばされ、地面に激突して地面を転がって行ってしまう。
意図も容易く押し切れた事で少しの間妖夢は唖然としていたが、直ぐに意識を戻し、

「だ、大丈夫ですか!?」

大丈夫ですかと言う言葉と共に妖夢は少々慌てた動作で龍也に近付いて行く。
妖夢がある程度近付いた辺りで龍也は上半身を起こしながら炎の大剣を消して、

「あ、ああ」

大丈夫であると言う意思を妖夢に示しながら龍也は自身の力を消す。
力を消した事で龍也の瞳の色が紅から元の黒に戻ると、

「とまぁ、この様に13秒過ぎると仮面が勝手に壊れて俺自身もヘトヘトになるんだ」

新しく手に入れた力の欠点と言える様なものを龍也は妖夢に教える。

「成程……完全に扱い切れていないと言うのはそう言う意味でしたか」

伝えられた内容から完全に扱い切れていないと言う意味に付いて理解した妖夢は楼観剣を鞘に収め、

「それにしても、随分変わった力を手に入れましたね」

随分と変わった力を手に入れたなと言う感想を漏らしながら龍也に手を差し出した。
差し出された手を掴みながら龍也は立ち上がり、

「ああ、まぁな」

変わった力と言う部分を肯定しながら掴んでいた手を離しながら妖夢に向き直る。
向き直った事で妖夢と見詰め合う様な形になった後、

「そう言えば、仮面を付けた俺を見て何か感じた事は在ったか?」

念の為と言った感じで龍也は妖夢に仮面を付けた自分を見て何か感じた事は在ったかと問う。
問われた妖夢は人差し指を下唇に当て、

「そうですね……龍也さんから感じる霊力の量と密度が増し、重くなったと言うか禍々しくなったと言った事を感じたましたね」

仮面が付いた状態の龍也から感じ取った事を妖夢は口にする。
やはりと言うべきか、妖夢も美鈴が感じた事と同じ事を感じた様だ。
とは言え仮面を付けた状態の霊力を感じ取っても西行妖と言う単語が出て来ない辺り、混ざり合ったと言う事で西行妖の力とは別種の力になっているのだろうか。
取り込んだ西行妖の力に付いて龍也が一寸した考察をしっている間に、

「さて、そろそろ良い時間なので私は朝食の準備をして来ますね。朝食が出来るまで、龍也さんは居間で寛いでいてください」

これから朝食を作って来ると言う事と、朝食が出来るまで居間で寛いでいてくれと言う事を妖夢は龍也に伝える。

「何か悪いな、俺までご馳走になって」

当たり前の様に自分の分も作ってくれると言う事を伝えられた内容から察した龍也は少々申し訳無い気分になった時、

「作る量を一人分増やしたとしても、大して手間が増える訳でも無いので気にしないでください。それに、龍也さんはお客様なのですから遠慮何てしないでください」

気にする必要など無いと言いながら妖夢は白玉楼の中へと入って行った。
白玉楼の中へと入って行った妖夢を見届けた後、

「……ま、妖夢の作る料理は美味いからな。楽しみだ」

気持ちを切り替えるかの様に妖夢の作る料理は美味いと言う事を呟き、龍也も白玉楼の中へと入って行く。






















白玉楼で朝食を取ってから暫らく。
龍也は白玉楼、冥界を後にして、

「……さて、人里に着いたはいいがどうしたものかね」

人里にやって来ていた。
無論、人里にやって来た理由はプリズムリバー三姉妹のライブを聴く為だ。
とは言え、ライブが近日中に開かれると言う事をルナサから聞いただけで正確な日を龍也は知り得てはいない。
まぁ、正確にはライブが開かれる日自体が決まっていないのだが。
ともあれ、そうなるとライブが開かれる日まで人里に滞在する必要が出て来るので、

「……ライブが始まるまで阿求の屋敷に泊めて貰うかな」

ライブが開かれるまで阿求の屋敷に泊めて貰おうかと言う事を考える。
阿求の屋敷は人里で一番大きいと言っても過言でも無い。
少なくとも、適当に人里の中を歩いても阿求の屋敷を見付ける事はそこまで難しくはないだろう。
と言う事から、龍也は泊まる場所の候補として阿求の屋敷を考えたのである。
そんな考えの下、人里内を歩いていると、

「……お」

進行方向上に阿求が居るのを龍也は発見した。
阿求を見付けられてラッキーと言う事を思いつつ、龍也は阿求に近付きながら、

「おーい、阿求」

少し大きな声で阿求の名を呼ぶ。
すると、阿求は振り返り、

「あ、龍也さん」

今気付いたと言った感じで龍也の名を口にする。
取り敢えず、互いが互いの存在を認識した後、

「あのさ、実は阿求に頼みが在るだけど……」

阿求に近付いていた龍也は足を止め、頼みが在る事を阿求に伝える。

「頼み……ですか?」

頼みが在ると言う事を伝えられた阿求は首を傾げてしまったので、

「ああ、実は……」

そう言って、人里にやって来た経緯を説明をしていき、

「と言う訳で阿求の屋敷に泊まりたいんだけど、良いか?」

説明が終わったのと同時に阿求の屋敷に泊まっても良いかと聞く。

「成程、それで当家に泊まりたいと」

龍也からの説明を受けた阿求は納得した表情になりつつ、

「ええ、構いませんよ」

構わないと言う返事をする。
泊まっても良いと言う返事を貰えた事でやったと龍也が思っている間に、

「唯、実は私の方からも龍也さんに頼みたい事が二つ程在るのですが……」

実は自分も頼みたい事が在ると言いながら阿求は龍也を上目遣いで見詰めて来た。
自分の頼みだけを聞いて貰って阿求の頼みを聞かない道理など龍也には無い為、

「ん、何だ? 俺に出来る事があれば何でも聞くぞ」

快くと言った感じで阿求の頼みを聞くと言う態度を龍也は示す。

「ありがとうございます。頼みたい事の一つは龍也さんにインタビューをしたいのです」

迷う事無く自分の頼みを引き受けてくれると言ってくれた龍也に阿求は礼を述べ、頼みたい事の一つを話す。

「インタビュー?」
「はい、幻想郷縁起に龍也さんの事を載せたいので」

インタビューと言う単語で疑問気な表情になってしまった龍也に、インタビューをしたい理由を阿求は語った。
幻想郷縁起に龍也の事を載せる為にインタビューをしたい。
これ事態、以前から約束していた事であるからか、

「そう言う約束だったしな。インタビューを受けるよ」

そう言う約束だったしなと言う前置きをしながら、インタビューを受ける件を龍也は了承する。

「あ、覚えていてくださったんですね。って、こんな会話は前にもしましたっけ」

今の会話に覚えは在ったものの、インタビューの件を龍也がこの場で了承してくれた事で阿求は嬉しそうな表情になった。
別に大した事をする訳でも無いのにここまで喜ばれた事に龍也は幾らかの気恥ずかしさを覚えつつ、

「で、二つ目の頼み事って何だ?」

話を変えるかの様に二つ目の頼み事の内容を言う様に阿求を促す。
促された阿求は表情を戻し、

「私を永遠亭に連れて行ってくれませんか?」

二つ目の頼み事を述べる。

「永遠亭……それも幻想郷縁起関連か?」
「はい。永夜異変が終わってから永遠亭とそこに住まう住人が明らかになりましたので、そこの方達も記載したいと考えていまして」

永遠亭に連れて行って欲しいと言う頼みをされた事で幻想郷縁起関連かと推察した龍也に、阿求は肯定の返事をして軽い説明を行なう。
余談ではあるが、永夜異変と言うのは永遠亭の面々が起こした異変の名称である。
兎も角、永遠亭まで連れて行って欲しいと言う頼みから、

「ああ、俺に其処までのボディガード……用心棒を?」

つまり、用心棒をして欲しいのかと言う結論に達した龍也に、

「はい。それと、龍也さんは永遠亭の方達と面識が在ると慧音先生からお聞きしたので」

用心棒以外にも永遠亭の面々との橋渡し的な事をして欲しいと言う意味合いが含まれる言葉を阿求は漏らす。
漏らされた事からちゃっかりしているなと言う感想を龍也は抱きつつ、

「分かった、任せとけ」

二つ目の頼み事も引き受けた。

「ありがとうございます」

インタビュー、用心棒二つの頼みを引き受けてくれた龍也に阿求は礼の言葉と共に頭を下げる。
こう何度も礼の言葉を言われて少々気恥ずかしい気分に龍也はなったが、

「で、今から向かうって事で良いのか?」

そんな気分に表に出す事無く、今から向かうのかと言う事を阿求に聞く。

「はい」

聞かれた事を肯定しながら阿求は顔を上げた後、龍也は阿求に背を向けて軽く屈む。
屈んだ龍也の背中に抱き付く様な形で阿求が密着したのと同時に、龍也は阿求を背負って立ち上がり、

「よっと」

大きく跳躍して空中へと躍り出てる。
空中に出た龍也は霊力で出来た見えない足場を足元に作り、作った足場に足を着け、

「えーっと、迷いの竹林は……っと」

顔を動かして迷いの竹林が在る場所を探していく。
その最中、

「相変わらず凄いですね、龍也さん。一瞬でこんな高い場所にまで来れる何て」

ポツリと言った感じで、阿求はそんな事を漏らす。
漏らされた内容が耳に入ったからか、

「そうか? これ位だったら霊夢、魔理沙、咲夜だって普通に出来ると思うぞ」

今やった事程度なら霊夢、魔理沙、咲夜も出来ると言う事を口にする。

「確かに……って、その三人は龍也さんと同じで異変解決に携われる人間じゃないですか」

口にされた事を受けて阿求は納得し掛けたが、直ぐに龍也が口にした三人は異変解決に携われる人間だろうと言う突っ込みを入れた。

「はは、それもそうか」

入れられた突っ込みに苦笑いを浮かべたのと同時に迷いの竹林が在る方向を見付けたので、

「んじゃ、そろそろ行くから確り掴まってろよ」

出発するので確り掴まっている様にと言う注意を龍也は阿求に行なう。
すると、

「は、はい」

阿求から返事が返って来た為、早速と言わんばかりに龍也は空中を駆ける様にして迷いの竹林へと向かって向かって行った。






















人里を出てから少し経った時間帯。
龍也と阿求の二人は迷いの竹林の前に降り立っていた。
これから迷いの竹林に入ろうと言う雰囲気が見られる中、

「以前、幻想郷縁起に迷いの竹林の事を記載する為に慧音先生と一緒にここに入った事が在ったんです。が、その時は永遠亭には行けなかったんですよ」

以前迷いの竹林に来た事は在ったのだが、その時は永遠亭に行けなかったと言う事を話す。
話された内容を受け、

「聞いた処、異変前は意図的に永遠亭の存在を隠してたって話だからな。辿り着けなくても仕方が無いさ」

永夜異変が起きるまでは永遠亭の存在は隠されていたので、以前迷いの竹林に来た時に永遠亭に辿り着けなかったのは仕方が無いと言う言葉を龍也は阿求に掛ける。
そして、

「さて……」

改めとて言った感じで龍也は迷いの竹林を見詰め、少し考えを廻らせていく。
普通に迷いの竹林に入った場合、二人揃って迷子になるのは確実と言って良いだろう。
では、どうやって迷わず永遠亭に行くのか。
その方法は永琳や輝夜の霊力、てゐや鈴仙の妖力に在る。
要するに永遠亭に住まう者達の霊力や妖力を感じ、感じたそれ等を辿りながら永遠亭を目指すと言うものだ。
永遠亭と言う存在が隠されていた時と違い、今の永遠亭は存在が隠されていると言う訳では無い。
となれば、霊力妖力を辿って永遠亭を目指すと言うのも十分に可能であろう。
唯、問題が一つ存在している。
問題と言うのは、ちゃんと霊力妖力を感じ取れるのかと言うもの。
戦闘時なら距離や力の高まりの関係で霊力や妖力と言った力は普通に感じ取れるが、平常時で離れた場所に存在している霊力や妖力を感じ取るのは難しいと言えるだろう。
とは言え、永遠亭に連れて行って欲しいと言う阿求の頼みを龍也は引き受けたのだ
何としてでも、阿求を永遠亭にまで連れて行かなくてはならない。
と言った決心をしながら精神を集中させ、永遠亭の面々の霊力か妖力を感じ取ると言う事を龍也がし様とした時、

「あら、龍也に……阿求?」

何者かが龍也と阿求の名を呼んだ。
呼ばれた自身の名に反応した龍也と阿求の二人は、声が発せられたであろう場所に顔を向ける。
顔を向けた龍也と阿求の目には、

「妹紅」
「妹紅さん」

妹紅の姿が映った。
どうやら、二人の呼んだのは阿求であった様だ。
龍也と阿求の二人が妹紅の存在を認識している間に、

「二人共、迷いの竹林の前でどうしたの?」

迷いの竹林の前のどうしたのかと言う問いが妹紅から投げ掛けられた。
投げ掛けられた問いに対する答えとして、

「ああ、実は……」

龍也は阿求と一緒にここまでやって来た経緯を説明する。

「成程、それで迷いの竹林までやって来たのね」

された説明で妹紅が納得したと言う雰囲気になった後、

「……あ、そうだ。妹紅、永遠亭まで案内してくれよ」

良い事を思い付いた言う表情になりながら龍也は妹紅に永遠亭まで案内してくれと言う頼みを行なう。

「私が?」

行なわれた頼みを受け、妹紅は少し嫌そうな表情を浮かべた。
永遠亭には妹紅に取って不倶戴天の敵とも怨敵とも言える存在、蓬莱山輝夜が居る。
この二人は顔を合わせれば殺し合いをする様な中ではあるが、積極的に顔を合わせる気は無いと言う事であろうか。
妹紅が浮かべた表情から龍也はそんな推察をしつつ、

「妹紅が案内してくれた方が早く、安全に着くだろうしさ」

妹紅に案内を頼んだ理由を述べる。

「うーん……」

述べられた理由は尤もであるからか、妹紅は何かを考え様な素振りを見せ、

「……分かったわ。永遠亭まで案内して上げる」

顔を龍也と阿求の方に顔を向け、永遠亭までの案内を引き受ける旨を示す。

「ありがとな、妹紅」
「ありがとうございます、妹紅さん」

永遠亭までの案内を引き受けた妹紅に龍也と阿求が礼の言葉を述べると、

「別に良いわ。私から逸れない様にね」

別に構わないと言いながら妹紅は二人に背を向け、自分から逸れない様にと口にして歩き出す。
歩き出した妹紅を追う様にして、龍也と阿求も歩き始めた。






















妹紅に案内される形で龍也と阿求が迷いの竹林に入って少し経った頃、

「はい、着いたわよ」

着いたと言う言葉と共に妹紅は足を止めた。
足を止めた妹紅に釣られる様に龍也と阿求も足を止め、

「ここが永遠亭……」

阿求は何処か興味深そうな視線を永遠亭に向ける。
竹林が生い茂る中に存在する和風の屋敷と言うのが、阿求の興味を引いたのだろうか。
兎も角、無事に永遠亭にまで辿り着いたと言う事で、

「それじゃ、私はこれで」

そう言って、妹紅は再び迷いの竹林の中へと入って行ってしまう。
そんな妹紅に気付いた阿求は龍也の方に顔を向け、

「あれ、妹紅さんは御一緒しないんですか?」

ここまで一緒に来たと言うのに妹紅は一緒に来ないのかと言う疑問を龍也に投げ掛ける。

「妹紅はここの主である輝夜と相当仲が悪いらしいからな。一緒に行って、喧嘩でもしたら俺達に迷惑が掛かると思ったんだろ」
「へぇー……そうだったんですか。妹紅さんは永遠亭への道案内をしていると聞き及んでいたので、永遠亭の方達と仲が良いと思っていたのですが」

投げ掛けられた疑問に対する答えを龍也が述べると、阿求は少し驚いた言った表情を浮べる。
表情が変化する際に阿求が漏らした言葉に反応した龍也は、

「一応言って置くと、妹紅と仲が悪いのが確定しているのは輝夜だけだからな。他は知らんけど」

軽い注意と言えるものを阿求に行ない、

「そういや、迷いの竹林からここまでずっと歩いて来たけど疲れて無いか?」

話を変えるかの様に疲れていないのかと言う事を問う。

「少し疲れましたが、まだまだ平気です」

問われた事に阿求はまだまだ平気だと返す。
平気と返した阿求の表情を見て、嘘は言ってい無いと感じた。
阿求は人里内の散歩を良くしている様なので、そこそこ体力に自身が有るのだろう
そう思いながら龍也は永遠亭の扉をノックする。
ノックしてから少しすると、

「どちら様?」

どちら様と言う言葉と共に扉が開かれた。
扉が開き、開いた扉の先に居る者の姿が、

「永琳」

龍也の目に映る。
目に映った永琳の姿から、扉を開いたのは永琳かと龍也が思っている間に、

「龍也と……そちらの子は?」

来訪者が龍也である事を永琳は認識しつつ、龍也の隣に居る阿求は誰だと言う疑問を抱く。
抱かれた疑問を受け、

「初めまして。私は稗田家当主の稗田阿求と申します」

軽い自己紹介の言葉と共に阿求は永琳に頭を下げた。
自己紹介の中に在った稗田と名字から、

「稗田……ああ、あの人里で一番大きなお屋敷の……」

人里で一番大きな屋敷を永琳は思い出す。
同時に阿求が下げていた頭を戻した為、

「それで、何の御用かしら?」

改めてと言った感じで龍也と阿求に何の用かと尋ねる。

「実はですね……」

尋ねられたからか、阿求は永遠亭に赴いた理由を説明していく。

「ふむ、幻想郷縁起ね……」

説明が終わると永琳は何かを考える素振りを見せ、

「その幻想郷縁起に載せたい者と言うのは姫様、私、鈴仙、てゐの四名で良いのね」

確認を取るかの幻想郷縁起に載せる者は輝夜、自分、鈴仙、てゐの四名かと尋ねる。

「はい、そうです」
「なら、そのインタビューを受けさせて貰うわ」

尋ねられた事に肯定の返事を阿求がすると、永琳はインタビューを受ける旨を口にした。
インタビューを受ける事を了承してくれた永琳に、

「ありがとうございます」

阿求は礼の言葉の共に頭を下げる。
その後、

「鈴仙にお茶とお茶菓子を用意させるから、中に上がって頂戴」

中でインタビューを受けると言う様な事を言いながら永琳は永遠亭の中に入って行ったので、龍也と阿求も永遠亭の中に入って行った。






















永遠亭でのインタビューが終わった後、龍也と阿求は永遠亭を後にして人里に戻った。
人里に戻った二人は阿求の屋敷に向かい、そこで阿求は龍也に対するインタビューを開始する。
そして、龍也へのインタビューが終わると、

「ありがとうございました、龍也さん」

礼の言葉と共に阿求は頭を下げた。

「どういたしまして」

礼と下げた頭に返すかの様に龍也はどういたしましてと返しながら、思う。
インタビューと言うの疲れるなと。
以前、文から取材を受けた時も疲れはしたが今回程では無い。
これが取材とインタビューの違いなのだろうかと言う事を考えている間に、阿求は下げていた頭を上げ、

「龍也さんのお陰で、思っていたよりもずっと早くに幻想郷縁起を出版する事が出来そうです」

笑顔を浮かべながら龍也のお陰で予定よりも早くに幻想郷縁起を出版出来そうだと言う事を口にする。

「そうなのか?」
「はい。特に冥界関連の方が思っていたよりも早くに纏められたのが幸いでした。正直、冥界関連の事を纏めるのはもっと苦戦すると思っていましたし」

口にされた事を受けて龍也がそうなのかと聞くと、幻想郷縁起の発刊が早くに出来そうになった理由を説明し、

「それに人里の周辺なら兎も角、それ以上の距離となると結構な数の護衛の方や慧音先生が居ないと行けませんからね。仮に私一人で行ったら、野良妖怪に
襲われて殺される事でしょう。と言う事なので遠出をする時は護衛を頼むのですが、そう上手く私と皆さんの都合が付いたりはしませんからね」

護衛との都合が上手く付いたりはしないと言う事を話す。
話された内容から、

「そう言う護衛との都合が付かない時に俺が来たりしたと?」

阿求と護衛の都合が付かない時に自分が来たりしたのかと推察した龍也に、

「はい、そうです。私って運が良かったりするんですかね?」

肯定の言葉を言いながら、自分は運が良いのかと阿求は問う。

「かもな」

問われた事に龍也はかもなと返しつつ、

「そういや冥界とか迷いの竹林以外の場所や住んだりしてる者達の所には普通に行けたり、インタビュー出来たのか?」

興味本位と言った感じで冥界と迷いの竹林以外の場所はどうだったのかと言う事を聞いて見る事にした。

「他の場所ですか? 人里近辺の場所は護衛の方達と。人里から離れた場所は慧音先生と一緒に行きましたね。そこで地名の事を書き込んだり出会った妖怪や妖精に
インタビューを。魔理沙さん、アリスさんのお二人は人里に来た時に魔法の森の事を含めてインタビューを。本当は直接魔法の森に赴きたかったのですが……私では
魔法の森の瘴気には耐えられないそうで。あ、魔理沙さんと言えば魔理沙さんに香霖堂に連れて行って森近霖之助さんにインタビューをしました。紅魔館の方々は、
咲夜さんが人里に来た時に紅魔館にまで連れて行って貰ってインタビューをしました。紫様や藍さん、橙さんは紫様が当家に来た時にイタビューを。それと、人里に
やって来た神や妖怪と言った方達にもインタビューもしました」

聞かれた阿求は何かを思い出す様な表情を浮かべながら、インタビューをして来た経緯などを龍也に教えていく。

「……何か、大変だったんだな」
「そうですね。赴いても幻想郷縁起に載せたい方が居るとは限りませんし、載せたい方が人里に来ていたとしても私がその方と会えるとは限りませんし」

話された事から大変だったんだなと言う感想を漏らした龍也に、肯定の言葉と共に阿求は苦労話の様なものを語る。
幻想郷縁起作成と言うのも、大変な事の様だ。
と言う事を龍也が思っていると、

「そうだ、それよりも龍也さんのお話を聞かせてください。幻想郷を旅している時に在った面白かった事とか、武勇伝とか」

阿求から龍也の旅での話を聞かせて欲しいと言う頼みをして来たので、

「旅での話か? そうだな……」

龍也は昔を思い出す様な表情を浮かべながら、龍也は今までの出来事の中で阿求が喜びそうなものも選んで話し始める。
そして、龍也と阿求は夕食が出来る雑談を交わしていった。























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