阿求の屋敷に泊まってから数日経ったある日。
人里でプリズムリバー三姉妹がライブが開かれる日が決まった。
決まった日と言うのは、当日。
つまり、今日がプリズムリバー三姉妹のライブが開かれる日になったのだ。
唐突に決まったなと言う感想を龍也は抱くも、龍也は阿求に軽い挨拶の言葉を残してライブ会場へと向かう事にする。
龍也がライブ会場に着くと、ライブ会場は既に観客で溢れ返っていた。
今日急に決まったライブだと言うのに、ここまで観客が集まっていると言う事はそれだけプリズムリバー三姉妹のライブは人気が在ると言う事だろう。
改めてプリズムリバー三姉妹のライブの人気の高さを龍也は感じつつ、空いているスペースを探していく。
そして、龍也が空いているスペースを見付けたのと同時にプリズムリバー三姉妹のライブが始まった。
ライブが始まったと言う事で龍也は空いているスペースに体を入れ、プリズムリバー三姉妹のライブに耳を傾けていく。
それから暫らくするとプリズムリバー三姉妹のライブが終わり、観客達達が余韻に浸ったり解散していく中、

「やっぱ凄いな、あいつ等のライブ」

ポツリと、プリズムリバー三姉妹のライブの感想を龍也は零す。
陳腐な感想ではあるが、凄いと言う様な言葉位しか龍也には出せなかったのである。
ともあれ、折角プリズムリバー三姉妹のライブを聴いたのだ。
プリズムリバー三姉妹に会いに行こうと言う事を龍也は考え、会場から離れて行く人達の流れに乗る形でライブ会場の裏側に向かって行く。
ライブ会場の裏側に着くとプリズムリバー三姉妹が全員揃っていたので、

「よっ」

龍也はプリズムリバー三姉妹に声を掛ける。
声を掛けられた事でプリズムリバー三姉妹は龍也の存在に気付き、

「あ、龍也。見に来てくれたんだ」

リリカが嬉しそうな声色で見に来てくれたのかと口にした。

「ああ」
「どうだったどうだった!?」

口にされた事を龍也が肯定すると、メルランは少々興奮気味な態度でライブの感想を龍也に尋ねる。

「凄いって感想しか出て来なかった」
「ありがとう。凝った感想よりもそう言うストレートな感想の方が私は良いかな」

尋ねられた龍也が凄いと言う感想しか出て来なかったと言う事を零すと、自分としてはそう言った感想の方が好みだとルナサは返す。
返された内容にはメルランとリリカの二人も同意している様だったので、龍也は何処か安心した気分になった。
洒落た様な感想が出て来ずとも、プリズムリバー三姉妹は満足してくれたのだ。
安心の一つや二つ、するだろう。
ともあれ、折角ライブ後に来たのだ。
何かライブの事でも聞いてみるかと龍也は思い、

「そういやアンコールって掛け声が良く在るけど、あれって何時も応えてたりするのか?」

アンコールには何時も応えているのかと言う問いを投げ掛ける。
投げ掛けられた問いに、

「んー……気分が乗ってたら応えるって感じかな」
「ライブ中は基本的に気分は乗り乗り何だけどねー」

リリカとメルランはそんな事を返す。
確かに、ライブ中なら気分は常時乗っている様なものだろう。
と言う事は、アンコールには何時も応えているのかと言う事を龍也は考えていたが、

「だからと言って、毎回アンコールに応えている訳でも無いけどね。毎回応えていたら、時間が幾ら在っても足りないし」

龍也の考えていた事を読んだかの様に、毎回アンコールに応えていては時間が足りないと言う事をルナサは零した。
つまり、アンコールに応えるかどうかは時間と相談した上で決めると言う事なのだろう。
外の世界のライブに行った事は無いが、若しかしたら外の世界のライブもそんな感じなのかも知れない。
と言ったどうでも良い事を龍也が考えていると、

「……さて、そろそろ帰ろうかしら」

そろそろ帰ろうかと言う台詞がルナサの口から紡がれた。
ライブが終わった以上、何時までもここに居る理由は無いと言う事なのだろう。
取り敢えず、この儘解散すると言う雰囲気が場に流れた後、

「……そう言えば、お前等は霧の湖方面に在る廃洋館に住んでるんだっけか?」

ふと思い出したかの様に龍也はプリズムリバー三姉妹に、三姉妹の家は霧の湖方面に在る廃洋館だよなと言う確認を取る。

「そうそう」
「結構奥地で見付け難いけどね」

取られた確認をリリカは肯定し、補足する様な台詞をルナサは言う。
奥地で見付け難い場所と言う部分を耳に入れた龍也は、

「まぁ、見た事は無いな」

見た事は無いなと呟く。
霧の湖方面を歩いていると、紅魔館は目立つ為か良く見付けると言うか見掛ける事が出来る。
だが、プリズムリバー三姉妹が住んでいると言う廃洋館を龍也は見掛けた事を龍也は一度も無かった。
プリズムリバー三姉妹の家に行く為には、進んで奥地に入り込む必要が在ると言う事だろうか。
また霧の湖方面に行く事があれば、プリズムリバー三姉妹の家を探す事を重視してみ様かと龍也は考える。
今龍也が考えている事を知ってか知らずか、

「近くに来たら寄ってってねー」
「その時は歓迎するよ」
「ま、居るかどうかは分からないけどね」

メルラン、リリカ、ルナサの三人は自分達の家に来る事があったら歓迎すると言う発言をした。
された発言を受けた龍也は考えていた事を頭の隅に追い遣り、

「その時はよろしくな」

龍也はプリズムリバー三姉妹にそう返す。
そして、龍也とプリズムリバー三姉妹は一言二言交わした後に流れ解散の思わせる形で別れた。






















プリズムリバー三姉妹と別れた龍也は、人里の中を歩きながらこれからの予定を考えていく。
阿求にはプリズムリバー三姉妹のライブに聴きに行く際、人里を後にする事を伝えている。
なので、これから阿求の屋敷に戻ってその事を伝える必要は無い。
となれば、この儘旅を再開するかと言う結論を龍也が出そうとした時、

「龍也兄ちゃーん」

何処からか、自身の名を呼ぶ声が龍也の耳に入って来た。
なので、龍也は足を止めて声が発せられたであろう方に体を向ける。
体を向けた先には、

「お前等か」

人里に住む子供達の姿が在った。
その中には、以前人里の外で妖怪に襲われていた所を龍也が助けた子供達の姿も見られる。
ともあれ、声を掛けられたと言う事で龍也は目線を子供達に合わせる様に片膝を地面に着け、

「どうしたんだ?」

どうしたのかと聞く。
聞かれた事に対し、

「あのね、皆で雪合戦をする事になったの。それで広場に向かっている時に龍也お兄ちゃんを見付けたから、龍也お兄ちゃんも誘おうと思って」

先頭に居る子供が龍也に声を掛けた理由を口にする。

「雪合戦か……」

雪合戦と言う単語を口にされた事で、龍也は何時だったか妖精達と雪合戦したのを思い出す。
あの雪合戦では雪玉以外にも弾幕と言ったものが飛び交ったが、流石に人里に住まう子供達の雪合戦で弾幕が飛び交ったりはしないだろう。
思い出した事をからそんな事を龍也が考えている間に、

「ほら、龍也兄ちゃんも行こ!!」

子供の一人が龍也の手を掴んで引っ張り、龍也を広場に連れて行こうとする。
手を引っ張られた事で半ば強制的に立ち上がり、足を動かす事になった龍也は、

「お、おい……」

何か声を掛け様としたが、その前に子供達は移動を開始していた。
どうやら、子供達の中では既に龍也は自分達と一緒に雪合戦をする事が決定事項になっている様だ。
子供達のパワーに逆らえぬ儘、広場へと連れて行かれている龍也は内心でまいっかと呟く。
どうせ、これから何か予定が在ると言う訳では無いのだ。
子供達と雪合戦に興じるのも一興かもしれない。
と言った感じで、こうやって子供達に連れられて行くと言う現状に龍也が納得している間に、

「……っと、着いたみたいだな」

龍也達は広場に着いた。
広場に着き、雪合戦をする為のチーム分けをする事になったのだが、

「龍也兄ちゃんはこっちー!!」
「違う、こっちー!!」

チーム分けの最中に、両チームのリーダーと思われる子供が龍也を自分のチームに引き入れ様と龍也の奪い合いを始める。
それぞれ龍也の腕を掴んで引っ張り合うと言う形で。

「……うん、まぁこうなる事は予想出来た」

普通の人間の子供の力で両腕を引っ張られたところで龍也にはどうって事は無い為、呑気とも言える様な事を呟く。
とは言え、幾ら平気だと言っても何時までも両腕を引っ張られていると言う状況の儘でいる訳にもいかないので、

「ジャンケンで勝った方のチームに俺は入るから……な」

必死になって自分の両腕を引っ張っている子供達に言い聞かせる様に、ジャンケンで勝った方のチームに入ると言う提案を龍也は行なう。
された提案を受け入れたからか龍也の両腕を引っ張っていた子供達は、

「「………………………………………………………………」」

何か決意をしたかの様な表情になりながら龍也の両腕から手を離す。
そして、

「「ジャーンケーン……」」

雪合戦をする前の一勝負が、

「「ポン!!」」

二人の子供達の間で開始された。






















子供達との雪合戦が終わり、子供達と別れた龍也は蕎麦屋にやって来ていた。
その蕎麦屋で蕎麦を食べながら、

「……にしても、あいつ等元気一杯だったな」

雪合戦をしていた時の感想を零す。
人里に住まう人間の子供との雪合戦。
割と平和なものになるだろうと龍也は思っていたのだが、その思いは外れる事となった。
別に、飛び交うものの中に雪玉以外に弾幕が混じっていたと言う訳では無い。
何と言うか、熱意や勝つと言う気持ちが凄まじかったのだ。
無論、普段の戦闘でも勝負事でも龍也にしろ相手にしろそう言った気持ちや想いを抱いて挑んでいる。
だが、今回の雪合戦ではそれとは別のベクトルと言うか子供特有のパワーが含まれていたと言うか何と言うか。
まぁ、端的に纏めると無尽蔵とも言える子供の体力に翻弄されて疲れたと言った感じである。
激戦を終えて疲れたと言うのとは別の疲れを龍也は実感しつつも、

「まっ、子供が元気なのは良い事だな」

子供が元気なのは良い事だと呟き、蕎麦汁を啜っていると、

『龍也兄ちゃーん!!』

突如として、雪合戦をしていた子供達の一部が大慌てで龍也の名を叫びながら蕎麦屋にやって来た為、

「ぶふう!?」

啜っていた蕎麦汁を龍也はつい噴き出してしまう。
噴き出した事で蕎麦汁が気管に入り、

「ゲホ……ゲホゲホ!! 何だどうした?」

咳き込んでしまったが、直ぐに咳き込みを押さえ込んで龍也は子供達の方に顔を向けてどうしたのかと問う。
問われた事に、一番先頭居る子供が、

「大変なんだよ!! 龍也兄ちゃん!!」

大慌てでやって来た理由を説明し始める。
子供の説明が終わった後、

「……つまり、雪合戦をした後に鬼ごっこをして遊んでいたら一人居なくなったと言う事か」

説明された事を龍也は端的に纏め、

「居なくなったのは誰だ?」

居なくなったのは誰だと言う事を聞く。

「あのね……」

聞かれた事に対し、子供の一人が居なくなった子供の風貌を述べる。
述べられた事を受け、居なくなったのは雪合戦の時に一番好奇心旺盛であった腕白坊主かと龍也が思った瞬間、

「まさか……」

ある可能性が龍也の脳裏に過ぎる。
過ぎった可能性と言うのが、その子供が一人で人里から抜け出したと言うもの。
好奇心旺盛な腕白坊主なら鬼ごっこの最中に人里外付近を通り、人里外に興味を抱いて人里に外に出たとしても不思議では無い。
となれば、人里の外で野良妖怪に襲われていると言う可能性も十分に考えられる。
だからか、龍也は立ち上がり、

「お前等、慧音先生が何所に居るか分かるか?」

子供達に慧音が何所に居るか分かるかと尋ねる。

「慧音先生なら……寺子屋に居ると思うよ」
「なら、慧音先生にその事を伝えて来い。俺は人里の外を探す」

尋ねられた事に子供一人が慧音は寺子屋に居ると言うと、龍也は子供達にこの事を慧音に伝える様に言い、

「勘定、ここに置いておくぞ」

テーブルの上に小銭を置き、蕎麦屋の外に出る。
外に出た龍也は跳躍を行なって空中に躍り出て、足元に霊力で出来た見えない足場を作ってそこに足を着け、

「よし……」

超速歩法を使って人里の外へと向かって行った。






















人里から人里外に出た龍也は、超速歩法を連用しながら人里から抜け出したと思われる子供を捜していた。
空中を駆け、眼下を注視しながら。
そんな感じで人里の子供を捜し始めてから幾らか経った辺りで、

「……お?」

龍也の目に白い熊の様な妖怪達が人間の子供に襲い掛かっている光景が映った。
やはりと言うべきか、行方不明となっていた子供は人里の外に出ていた様だ。
ともあれ、この儘では子供が妖怪に殺されてしまうのも時間の問題なので、

「ッ!!」

超速歩法を使って龍也は襲われている子供に向けて一気に近付く。
そして、子供を仕留め様と妖怪が強靭とも言える腕を振り下ろした刹那、

「……セーフ」

龍也が子どもを横から掻っ攫った。
そのお陰で振り下ろされた腕は子供に当たらず、地面に当たった。
振り下ろされた腕が地面に当たった事で雪が周囲に舞い散る中、龍也に掻っ攫われた子供は龍也の左腕の中で何が起こったのか分からずに目をパチクリさせて顔を動かす。
顔を動かすと子供の目に龍也の顔が映った為、

「りゅ、龍也兄ーぢゃーん!!!!」

泣きそうな表情になりながら子供は龍也の名を口にする。
取り敢えず、子供が無事である事を確認出来たので龍也は安心しつつ、

「ったく、好奇心旺盛なのは結構な事だが……」

そう言いながら体を屈めて背後から攻撃して来た妖怪の一撃を回避し、

「一人で人里の外に出るのはまだまだ早過ぎるぞ。冬なんだから、腹を空かせた野良妖怪がウヨウヨ居るし」

軽い忠告の様な言葉を子供に掛けながら周囲を見渡す。
見渡した事で今この場に居る妖怪の数を把握した龍也は、

「さーて……どうするかな……」

どうするべきかと考えていく。
現在の状況は白い熊の様な妖怪に囲まれていると言うもの。
囲んでいる妖怪は全て、唸り声を出しながら涎を垂らしている。
分かっていた事ではあるが、龍也と子供の両方を食べる気満々の様だ。
さて、龍也一人ならこんな状況など楽に突破出来る。
だが、今は戦えない普通の人間の子供を抱えている状況。
抱えている子供に負担や衝撃がいく様な戦い方は避けるべきだろう。
更に言えば、仮面を出すのは論外。
今の状況は仮面の保持時間を延ばす為の良い修行になりそうだが、問題は仮面を付けた際の龍也の霊力。
龍也自身は仮面を付けた自分の霊力を余り自覚してはいないが仮面を付けた龍也の霊力を感じた者曰く、仮面を付けた龍也の霊力は濃く、重く、禍々しいとの事。
明らかに普通の霊力じゃない霊力を、普通の人間の子供が居るこの状況で発せさせる訳にはいかない。
はっきり言ってそんな霊力は普通の人間の子供に取って悪影響になりそうだし、耐えられるとは考え難いからだ。
序に言えば、霊力の解放と言った行為も子供には負担になりそうである。
少々大雑把ではあるが、今回の戦闘での禁止事項を龍也が頭の中で纏めている中、

「ごめんね、龍也兄ちゃん。僕のせいでこんな事に……」

妖怪に囲まれていると言う状況下であるからか、龍也が抱えている子供が諦めたかの様にそう呟いた。
呟かれた内容を受けた龍也は何かを思い付いた表情になり、

「……これに懲りたら、もう勝手に人里から抜け出さないと誓えるか?」

もう勝手に人里から抜け出さないと誓えるかと尋ねる。

「うん……」
「人里に帰ったら、慧音先生の説教を受けると誓えるか?」

尋ねた事に子供が肯定の返事をした為、続ける様にして慧音の説教を受けれるかと言う事も尋ねた。

「うん……」
「なら、この状況を何とかしてやるよ」

再び尋ねた事にも子供は肯定の返事した事で、ならば今の状況を何とかしてやると龍也は言い切る。

「え……?」

この状況を何とかする言い切った龍也に子供が何処か唖然とした表情をなっている間に、龍也は自身の力を白虎の力へと変えた。
力を変えた事に伴い、龍也の瞳の色が黒から翠へと変化する。
同時に、目の前に居る妖怪が龍也に向けて殴り掛かって来た。
殴り掛かって来た妖怪の攻撃を避けるかの様に龍也は数歩後ろに下がり、右手首を軽く上げる。
すると、龍也に殴り掛かって来た妖怪の居る場所に小型の竜巻が発生した。
突如として自分の居る場所に竜巻が発生した事で、龍也に殴り掛かって来た妖怪は何の抵抗もする事出来ずに竜巻に呑まれて何所かへと吹っ飛んで行ってしまう。
先ず妖怪を一体排除出来た事に安心する暇も無く、

「おっと」

背後から他の妖怪が腕を振るって来たので、振るわれた腕を屈んで回避する。
回避した次の瞬間には龍也から少々離れた位置に妖怪が口から妖力で出来た弾を放って来たので、迫り来る弾を龍也は大きく跳躍する事で避けた。
大きく跳躍した龍也が降りて来た所を袋叩きにするかの様に一箇所に集まり始める。
妖怪達が一箇所に集まったのを見た龍也は体の位置を反転させ、右手を地面に向けた。
そのタイミングで、妖怪達が密集している地点に竜巻が発生する。
発生した竜巻は妖怪達を全て呑み込み、明後日の方向へと吹き飛ばしていく。
最後の竜巻で残っていた妖怪達も全て一掃出来たからか、残っていた竜巻を消しながら龍也は体の位置を戻しながら着地し、

「ほら、もう大丈夫だぞ」

抱えている子供を降ろしながらもう大丈夫であると言う事を口にする。
そう口にされた事で緊張の糸が切れたからか、

「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!」

子供は大声で泣きながら龍也に抱き付いた。
わんわんと泣いている子供に、

「あーよしよし、もう大丈夫だから」

宥める様な言葉を掛けていく。
そして、子供が泣き止むと龍也は子供を連れて人里に戻って行った。






















人里に戻った龍也は、取り敢えずと言った感じで寺子屋に向かう事にした。
今回の件は子供達を通して慧音に伝わっている筈。
となれば、人里を抜け出した子供を無事に保護した事を慧音に報告する必要が在る。
と言った理由から、龍也は慧音が居ると思われる寺子屋に向かう事にしたのだ。
しかし、寺子屋に慧音が居るとは限らない。
何故ならば、行方不明となっている子供を捜す為に慧音が人里中を駆け回っている可能性が在るからだ。
その場合、慧音が戻って来るまで待つ事になるなと思いながら龍也は子供を連れて寺子屋の中へと入って行く。
寺子屋の中に入ると、可能性は所詮可能性と言葉を再現するかの様に慧音の存在が龍也の目に映った。
慧音が人里内を駆け回っていた事を考えていたので、龍也はその事を慧音に尋ねる。
尋ねられた慧音は探し回っていたが龍也が戻って来ているかも知れないと思い、一旦寺子屋に戻って来たと言う事を返す。
返された内容から良いタイミングで戻って来れたと言う事を龍也は思いつつ、その件は既に解決した事を伝える。
伝えられた事を受けて慧音が安心すると、慧音の目に龍也の防寒具の一部を掴んでいる姿が映った。
映った子供を認識した慧音は全てを理解する。
その瞬間、雷が落ちた。
無論、慧音の。
ともあれ、雷が落ちたのと同時に慧音は行方不明となっていた子供に説教を始めた。
直ぐ近くに居た龍也がつい気圧されてしまう程の苛烈さで。
それだけ、心配していたのだろう。
まぁ、龍也が気圧される様な説教を受けている子供は堪ったものでは無いだろうが。
兎も角、行方不明となっていた子供を見付けて人里まで連れて来たのだ。
もう龍也の役目は終わっている。
終わっているのだが、この儘寺子屋を後にすると言うのは少々礼に欠けるだろう。
だからか、龍也は部屋の隅に移動して説教が終わるのを待つ事にする。
幸いと言って良いかはあれだが、説教される時に驚いて龍也の防寒具から子供が手を離していたので移動事態は容易に出来た。
そんなこんなで部屋の隅に移動した龍也は腰を落ち着かせる。
腰を落ち着かせてから結構な時間が経ち、日が暮れ始めた頃。
漸く、慧音の説教が終わった。
説教されている間、龍也は半分位意識を飛ばしていたのでどれだけの時間が説教に費やされたかを把握していない。
故にやっと終わったかと言う感じで龍也は上半身を伸ばす。
上半身を伸ばしながら色々とあったなと今日の出来事を思い返していると、子供の母親が迎えに来た。
もう事の次第は知っていたからか、やって来た母親は涙混じりに礼の言葉を述べながら慧音と龍也に何度も頭を下げていく。
何度も頭を下げられた事で若干居心地が悪くなった龍也は上半身を伸ばすのを止めて立ち上がり、慧音と一緒にもう十分だと言う様な事を口にする。
そう口にされた事でこれが最後だと言った感じで母親は礼の言葉と共に頭を下げ、子供に拳骨を入れて子供と一緒に帰って行った。
これで子供行方不明事件が無事に解決されたと言う雰囲気が場に流れた辺りで、

「何はともあれ、ありがとう。龍也君」

礼の言葉と共に慧音は龍也に頭を下げる。
再び礼の言葉と共に頭を下げられた龍也は、

「いえ、気にしなくても良いですよ。俺も偶々でしたし」

偶々助けられただけなのだから気にしなくて良いと言う。
もし、プリズムリバー三姉妹のライブの後にさっさと人里を後にしていたら。
もし、雪合戦の後に食事を取らずに人里を後にしていたら。
もし、捜しに行く際に正反対の方向に向かっていたら。
龍也は子供を助ける事が出来なかっただろう。
言ってしまえば偶然の産物で子供を助けられたのだ。
だと言うのに、先程もそうであったが何度も礼を言われて頭を下げられた。
偶然の結果にこうも感謝され、先程の時と同じ様に若干居心地が悪くなっている龍也に、

「それでもだ。君のお陰で子供一人の命が助かったんだ。例えそれが偶然の結果だとしても、誇って良い事だと私は思う」

例え偶然の結果だと子供一人の命を助けたのだから、それは誇って良い事だと慧音は語る。
語られた事を受け、

「まぁ……そう言う事でしたら」

指で頬を掻きながら納得したかの様な表情を龍也は浮かべると、

「それで、龍也君はこれからどうするんだい?」

話を変えるかの様に慧音は龍也にこれからどうするのかと言う事を尋ねる。

「どうしますかね? もう日も暮れてしまいましたし……」

尋ねられた龍也は腕を組みながらどうするべきかと考え始めた。
もう日が暮れ始めた今の時間帯に出発したとしても、余り遠くまで行く事は出来ないだろう。
下手をしたら人里を離れてから早々に寝床を探す事になり兼ねない。
これならば、今日は人里で一泊すると言う選択肢もありだろう。
が、その場合一つの問題が出て来る。
問題点と言うのは、人里の何所で宿泊するのかと言うもの。
もう人里を後にすると言う事を伝えている以上、再び阿求の屋敷に泊めて貰う様に頼むのは却下だ。
となれば、人里で一泊すると言う選択肢を選ぶなら阿求以外の誰かに宿泊する許可を得る必要あるだろう。
そこまで考えが達した瞬間、

「お礼代わりと言う訳では無いが、良かったら私の家に泊まりに来るかい?」

慧音から自分の家に泊まらないかと言う提案が出された。

「え、良いんですか?」
「ああ、龍也君さえ良ければだが」

出された提案を聞いて龍也は慧音に良いのかと聞くと、龍也さえ良ければと言う返答が慧音からされる。
だから、

「それじゃ、今日はお世話になります」

慧音の家に泊まる事を龍也は決め、お世話になると言って頭を下げた。
その後、龍也と慧音は寺子屋を出て慧音の家に向って行く。






















「さぁ、着いたぞ。上がってくれ」

家に着くと、慧音が上がる様に促して来たので、

「お邪魔します」

お邪魔しますと言う言葉と共に龍也は慧音の家に入る。
家の中に入った後、龍也は慧音に連れられる形で居間へと向かって行く。
居間に着くと、

「さて、これから夕食を作るから龍也君は寛いで待っていてくれ」

そう言いながら慧音は台所に入って行ってしまったので、龍也は言われた通り腰を落ち着かせて寛ぐ事にした。
寛ぐと言っても、勝手にそこ等に在る物に手を付ける訳にもいかないのでボケーッとしているしかないのだが。
それから暫らくすると夕食が出来たからか、慧音が台所から戻って来た。
その後、卓袱台の上に出来た料理を龍也は慧音と一緒に並べていく。
そして、龍也と慧音は夕食を取り始めた。
雑談を交えながら。
こうして、色々あった一日が過ぎていった。























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