瞳の色を蒼くした状態、つまり青龍の力を使っている状態の龍也は、

「しっ!!」

高速で妖怪の隣を駆け抜けながら二本の水の剣を振るい、駆け抜けた際に隣いた妖怪をバラバラに斬り裂いた。
因みに、今斬り裂かれた妖怪は蜥蜴を二足歩行にさせた様な風貌をしている。
さて、どうして龍也はこの妖怪と戦っているのか。
答えは簡単。
何時もの様に幻想郷の何所かを歩いていたら、突如としてこの蜥蜴型の妖怪の群れの襲撃を受けたのだ。
襲撃を受けた当初、冬なのに蜥蜴かよと言う突っ込みを龍也は入れそうになった。
が、直ぐに入れそうに突っ込みを呑み込んだ。
何故かと言うと、ここが幻想郷であるからである。
幻想郷なら、冬と言う季節に適応した蜥蜴が存在していても不思議では無い。
と言うより、妖怪なのだから普通の蜥蜴と生態などが違っていて当然だろう。
兎も角、襲撃を受けたので迎撃行動を取って現在に至ると言う訳だ。
ともあれ、一体一体確実に妖怪の数を減らして来ている為、

「……っと、後何体だ?」

残っている妖怪の数を龍也は確認しに掛かる。
確認した結果、残りは三体と言う事が分かった。
戦闘開始当初は数十体以上は居たが、今は残り三体にまで減っている。
我が事ながら良くここまで手早く片付けられたなと言う感想を抱いている時、龍也は気付く。
残っている三体の妖怪から戦意が消えていないと言う事に。
だからか、

「残り三体か……なら!!」

何かしらの決意をした表情になりながら龍也は左手の水の剣を消し、

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

力の解放を行なう。
力が解放された事で龍也の髪は蒼く染まっていき、蒼い瞳は輝きを発し始める。
完全に力を解放した状態になった龍也は、左手を額の辺りにまで持って行き、

「ッ!!」

持って行った左手からどす黒い色をした霊力を溢れ出させ、一気に左手を振り下ろす。
左手が振り下ろされた後、龍也の顔面に仮面が現れて眼球の色が黒に変わる。
そのタイミングで龍也から感じられる霊力が変化したからか、残っていた妖怪達はつい動きを止めてしまう。
妖怪達が動きを止めたのを見た龍也は、一瞬で残っている妖怪達の間を駆け抜ける。
駆け抜けた後には、バラバラに斬り裂かれた三体の妖怪が残っていた。
襲い掛かって来た妖怪達の全てを倒せた言う事で、龍也は一息吐きながら左手を再び額の辺りへと持って行く。
すると、仮面がどす黒い色をした霊力に変化し、

「……………………………………」

どす黒い色をした霊力は風に流される様にして消え、龍也の眼球の色が元に戻った。
同時に、

「く……」

結構な疲労感が襲い掛かって来た為、少々ふら付いてしまったが、

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

倒れたりする事無く龍也は息を整えながら右手に持っている水の剣を消し、力を消す。
力を消した事で龍也の髪と瞳の色が元の黒色に戻ると、

「制限時間を過ぎる前に仮面を消せば疲労困憊って言う状態になる事は無いが……それでも疲労感は在んだよなぁ……」

制限時間前に仮面を消せば、動けなくなる程の疲労感は襲って来ないと言う事を龍也は呟く。
呟いた事から龍也は仮面の保持時間を延ばす為の修行に付き合ってくれた美鈴の事を思い出しつつ、

「あれから少しは経ったから、俺の仮面の保持時間は13秒から少しは延びてる筈……だよな?」

少々大まかさと願望が含まれてはいるが、仮面の保持時間は13秒以上は在るだろう言う判断を下した。
まぁ、美鈴との修行からそこまで時間が経っている訳でも無いので精々保持時間が1秒プラスされた程度であろうが。
兎も角、どう贔屓目に見ても保持時間は短いので、

「やっぱ一時間前後は欲しいよな……」

一時間前後は欲しいと言う事を漏らしながら龍也は溜息を一つ吐く。
とは言え、一ヶ月以上修行をしていても保持時間は一分を越える事は無かった。
龍也が希望としている仮面の保持時間一時間前後に到達するには、一体どれだけの時間が掛かるか分かったものでは無い。
だからか、

「……ま、気長にやるしかないか」

気長にやるしかないと龍也は結論付け、取り敢えず目の前の方向に足を進め様とした瞬間、

「そういや、霊力の解放をしなくても力の解放が出来たな」

ふと思い出したかの様に霊力の解放を行なわなくても力の解放が出来たと言う事を龍也は零す。
朱雀、白虎、玄武、青龍の四神。
これら四神の力を使っている際に力の解放状態になるには、霊力の解放を行なう必要が在る。
だが、今回は霊力の解放をしなくても力の解放状態に移行する事が出来た。
別に、龍也には霊力の解放をしなくても力の解放が出来ると言う確信が在った訳では無い。
只、本能が理解していたのだ。
力の解放状態になるのに、もう霊力を解放する必要は無いと。
今まで必要としていた事を、今は必要としなくなった。
と言う事は、確実に成長していると言う事になるだろう。
それはさて置き、一体何時から霊力の解放無しで力の解放状態になれる様になったのか。
何となくではあるが、その時期に付いて龍也には予想が付いている。
予想と言うのは、もう一人の自分との戦いに勝利してからではと言うもの。
と言うより、これ位しか龍也に霊力の解放無しで力の解放が可能となった出来事が思い浮かばなかったのだが。
まぁ、経緯はどうであれ成長していると言う事を実感した龍也は、

「さーて、行くか」

何処か晴れやかな表情になりながら、足を動かして行った。






















ふと気付くと、

「……ん?」

雪だるまが幾つも見られる場所に龍也は辿り着いた。
それはさて置き、こんな場所に雪だるまが沢山作られたとは考え難いので、

「雪だるま型の妖怪か?」

見えているのは雪だるま型の妖怪ではと龍也は推察し、周囲を警戒し始める。
しかし、警戒してから少し経っても雪だるまが襲って来る事は無かった。
だからか、

「……若しかして……只の雪だるまか?」

雪だるま型の妖怪ではなく只の雪だるまではと思いながら龍也は警戒を解き、自分の勘違いに一寸した恥ずかしさを感じていると、

「あ、龍也」

背後の方から自身の名を呼ぶ声が龍也の耳に入って来る。
耳に入って来た自身の名に反応した龍也は、反射的に背後へと体を向けた。
体を向けた龍也の目には、

「チルノ」

チルノの姿が映る。
どうやら、龍也の名を呼んだ者はチルノであった様だ。
ともあれ、声を掛けられたと言う事で、

「よう、元気そうだな」

龍也はチルノに軽い挨拶の言葉を掛け、チルノの姿を注視する。
その時、チルノが大きな雪玉に両手を付けている事が分かった。
雪玉に両手を付けていると言う事は、つい先程まで雪玉を転がしていたと言う事になるだろう。
と言う事は、ここに在る沢山の雪だるまはチルノが作ったと考えられる。
だからか、

「なぁ、ここ等一帯にある雪だるまってお前が作ったのか?」

ここに在る雪だるまはチルノが作ったのかと言う事を龍也は尋ねる事にした。
尋ねられたチルノは胸を張り、

「ふふん、流石はあたいのライバル。良く気付いたわね」

肯定の返事をし、

「大きな雪だるまを作ってる最中なの」

補足するかの様に作っているのは大きな雪だるまである事を語る。
作っているいるのは大きな雪だるまであると言う事を語られた後、

「ん? そう言う割りには、そこまで大きい雪だるまは無いよな」

そこまで大きな雪だるまは無いなと言いながら、龍也は周囲を見渡していく。
見渡して見られる雪だるまはそこそこ大きいとは言えるが、大きな雪だるまとは言えない。
そんな龍也の疑問と言える様なものを受け、ションボリとした表情にチルノはなり、

「あたい一人の力じゃあれ位の大きさのしか作れないの……」

自分ではあれ位の大きさの雪だるま位しか作れないと言う事を零す。
が、

「……あ、そうだ!!」

直ぐに何かを思い付いたと言う表情になりながらチルノは顔を上げ、

「ねぇ、龍也!! 雪だるま作るの手伝って!!」

雪だるまを作るのを手伝って欲しいと言う頼みを龍也にした。

「え、俺に?」
「うん、そう!!」

つい自分を指でさしながらそう聞き返した龍也に、かなり良い笑顔でチルノは肯定の返事をする。
唐突ではあるが雪だるま作成の手伝いを頼まれた龍也は少し何かを考える素振りを見せ、

「……まいっか」

まいっかと言う結論に達した。
別段、急いで何かをしなければならないとか何所かに行かなければならないと言う事も無い。
ならば、ここでチルノと一緒に雪だるまを作っても何の問題も無い為、

「じゃ、一緒に作るか。雪だるま」

チルノと一緒に雪だるまを作る事を龍也は決める。
すると、

「やった!! それじゃ、早速作ろ!!」

満面の笑顔を浮かべながらチルノは龍也に雪だるまを一緒に作る様に促して来た。
そして、早速と言わんばかりに龍也とチルノは雪だるまを作り始めていく。






















龍也とチルノの二人が雪だるまを作り始めてから数時間後。
見事、雪だるまは出来上がった。
正確に言ったら、出来上がったのは大きな雪玉は二つ乗っかった雪の塊であるが。
兎も角、その出来上がった雪だるまを見ながら、

「いやー……思ってたのよりもでかいのが出来たな……」

そんな感想を龍也は口から零す。
二人が作った雪だるまは、何と龍也の数倍程の大きさがあるのだ。
どうやら、思っていた以上に雪だるま作りに熱中していた様である。
ともあれ、この雪だるまには目やボタンと言ったものを付けなければならないので、

「さて、先ずは目とボタンを作るか」

そう呟いて龍也は自身の力を変えた。
玄武の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から茶へと変わると、龍也は跳躍して雪だるまの頭部部分に移動する。
そして、頭部部分に着くと龍也は足元に霊力で出来た見えない足場を作り、

「さてとっと……」

作った足場に足を着け、両手から土の塊を生み出し、

「よっと」

生み出した二つの土の塊を雪玉の中に埋め込む。
勿論、目として見える様に。
それが終わると龍也は高度を落とし、再び土の塊を生み出して雪だるまの胴体部分に埋め込んでいく。
こちらは、ボタンに見える様に。
取り敢えず、雪だるまの目やボタンと言ったものが出来た後、

「さて、次は帽子と鼻と腕だな」

帽子、鼻、腕と言ったものを作ろうと龍也は考える。
すると、

「それはあたいがやる!!」

龍也が考えた事は自分がやるとチルノは主張しながら飛び上がり、氷を生み出す。
生み出した氷をチルノはバケツの形に変え、氷のバケツを雪だるまの頭頂部に乗っける。
更に、氷のバケツを作ったのと同じ要領で氷の鼻と腕を作って雪だるまにくっ付けていく。
雪だるまに必要なパーツが全て揃ったと言う事で、

「「おおー……」」

見事とも言える雪だるまが完成した。
完成した雪だるまを見ながら、龍也とチルノは感慨深い気持ちを感じていく。
まぁ、これだけ大きさの雪だるまを作ったのだ。
感慨深くもなるだろう。
と言った感じで、完成した雪だるまを見ている中、

「流石最強のあたいとそのライバルの龍也が作った雪だるまね。正に最強の雪だるまだわ」

ご満悦と言った表情になりながらチルノは龍也と二人で作った雪だるまに称賛の言葉を掛け、

「ふふん。この雪だるまを見て、あいつ等驚くわね。あ、その前に大ちゃんに見せて上げなきゃ」

これからの予定を立てていく。
予定を立てているチルノに対し、龍也は予定を立てる事無く雪だるまを眺めていた。
対照的ではあるものの、完成した雪だるまに目を奪われていると言うのは龍也もチルノも同じ様だ。
こんな感じで、龍也とチルノの二人は完成した雪だるまの前で暫らくの間突っ立っていた。






















月が天に上った時間帯。

「そろそろ眠れそうな場所を探すべきだな」

龍也はそんな事を呟きながら足を進めていた。
玄武の力を使って簡易的な家を作る事なら、何所でも可能だ。
だが、贅沢を言うのであれば体を伸ばせてゴロゴロと転がれる位のスペースが欲しいところ。
拓けた場所ならそんな事が出来る簡易的な家を作る事は十分に可能だが、今居る場所は所々に木が生えている。
とてもじゃないが、伸び伸びと体を動かす事が出来る家を作る事は不可能だろう。
ならば、そう言った家を作れるだけの拓けた場所を探す必要があるが、

「ま、眠気がどうし様もないとこまで来たらそんな贅沢は望め無いけどな」

眠気がどうし様もなくなったらそんな贅沢は望めないと言う事を龍也は漏らす。
ともあれ、先ずはある程度の広さが在る場所を見付ける事が先決かと考え始めた時、

「……お」

龍也の目に屋台が映った。
今現在居る場所は幻想郷の何所とも知れぬ場所。
そんな場所で見付けた屋台となれば、ミスティアの屋台以外龍也には考えられ無かった。
だからか、龍也は見付けた屋台に近付き、

「やってるか?」

暖簾を潜りながらやっているかと言う声を掛ける。
すると、

「いらっしゃい……って龍也じゃない」

ミスティアが龍也の方に顔を向け、龍也の存在を認識した。
やはりと言うべきか、見付けた屋台はミスティアの屋台であった様だ。
兎も角、折角ミスティアの屋台にやって来たので、

「注文良いか?」

ここで食事をする事を決めながら龍也は椅子に腰を落ち着かせ、注文良いかと聞く。

「ええ、勿論良いわよ」

聞かれ事にミスティアが笑顔で勿論良いと言ってくれた為、龍也はメニュー表を見ながら、

「えーと、熱いの一杯と……ご飯に焼き八目鰻を何本かに……」

注文する物を口にしていき、

「……お、サラダを追加したのか」

新メニューと言える物を見付け、サラダも注文し様かと言う事を龍也は思案し始める。
思案している龍也を余所に、サラダの話を出されたからか、

「前に龍也からサラダをメニューに追加したら言う提案をされたからね。思い切って追加してみたの」

メニューにサラダを追加した理由をミスティアは龍也に教えた。
教えられた事を受けた龍也は自分の何気無い発言でメニューが追加された事に若干驚きつつ、

「そういや、何かの酒を復活させるって言うのはどうなったんだ?」

思い出したかの様に、メニュー追加の提案をした際にミスティアが言っていた酒に付いて聞く。

「ああ、あのお酒ね。あのお酒はまだ掛かるわ」

聞かれたミスティアはお酒の方はまだ掛かると言う事を述べ、

「そのお酒が出せる様になったら龍也にもご馳走して上げるから、楽しみにしててね」

何れはその酒を龍也にもご馳走するから楽しみにしていろと言う。
そう言ったミスティアの声色には自信と言えるものが感じられた。
だからか、楽しみだと言った表情を龍也は浮かべ、

「ああ、楽しみにしとくよ」

楽しみにしていると返し、

「それはそうと、注文はさっきのに加えてサラダな」

話を戻すかの様に注文内容は先程のものに加えてサラダだと言う事をミスティアに伝える。
注文が入ったと言う事もあり、ミスティアは笑顔になり、

「はいよ」

注文されたものを作り始めた。
それを見ながら、

「最近の景気はどうだ?」

景気はどうだと言う事を龍也はミスティアに問う。

「順調よ。最近では固定客も出来たしね」

問われた事にミスティアは笑顔で順調であると答え、

「そうそう。実は新しいサービスを始めたのよ」

新しいサービスを始めた事を零した。

「新しいサービス?」
「ええ、私が歌うって言うサービス」

新しいサービスと言う部分に幾らかの興味を引かれた龍也に、ミスティアは新しいサービス内容を教える。

「ミスティアの歌か。ミスティアの声って綺麗だから、聴き応えは有りそうだな」
「えへへ、ありがとう」

教えられた内容からミスティアを褒める様な事を龍也が口にすると、ミスティアは嬉しそうな表情になり、

「焼き八目鰻の数、サービスして上げるね」

焼き八目鰻の数をサービスすると言って、八目鰻を焼いていく。

「お、サンキュ」

棚から牡丹餅と言った感じで焼き八目鰻の数をサービスされる事になったからか、ミスティアに龍也に礼の言葉を掛ける。
そのタイミングで、

「はい、熱燗」

熱燗がミスティアから差し出された。

「来た来た」

差し出された熱燗を龍也は嬉しそうな表情で受け取り、受け取った熱燗を飲み、

「そういや、固定客も出来たって話だけど俺の知ってる奴か?」
「えっとね、前に言った紅魔館の主がそうね」
「へぇー、レミリアがねぇ」
「まぁ、屋台を出している時に毎回来てくれるって訳じゃ無いけどね。私も一箇所に留まって屋台をやってる訳じゃ無いし」
「何時も同じで場所で屋台を開いてるって訳じゃ無いのなら、仕方ないだろ」
「そうなのよねー。でも、色んな場所で屋台をやっていると色んなお客さんが来て色々な話が聞けて楽しいわよ」
「ああ、屋台ってそんな感じだよな」
「そう言うのも屋台の醍醐味よねー」
「だな。ま、楽しくやってる様で何よりだ」
「ええ、楽しくやってるわ」

ミスティアと雑談を交わしていく。
雑談を交わしている間に八目鰻が焼き上がり、

「焼き八目鰻お待ち」

焼き上がった焼き八目鰻をミスティアは龍也に差し出して来た。

「待ってました」

差し出されたそれを龍也は受け取り、早速と言わんばかりに食べ始め、

「相変わらず美味いな、これ」

相変わらず美味いと言う感想を龍也は零す。

「当然よ」

零された感想が耳に入ったからか、自信満々と言った表情を浮かべながらミスティアは胸を張り、

「焼き鳥よりもずっとずっと美味しいもの!!」

焼き鳥よりもずっと美味しいと言う主張しながら拳を作る。
焼き鳥撲滅を目的としているからか、そう主張したミスティアからは熱意と言ったものが感じられた。
そんなミスティアの熱意を感じ取った龍也はやる気満々だなと言う感想を抱きつつ、焼き八目鰻を食べていく。
すると、

「はい、ご飯とサラダ」

出来上がったご飯とサラダをミスティアは出して来た。
注文した物が全部出て来た後、龍也は焼き八目鰻を食べるのを一旦止めて新メニューであるサラダを食べ始める。
サラダを食べ始めた龍也を見て、

「ど……どうかな?」

幾らかの不安さが感じられる声色でどうかと言う事をミスティアは尋ねて来た。
少々言葉が足らなかったものの、ミスティアが何を尋ねたいのかを理解した龍也は、

「ああ、美味い」

美味いと言う感想をミスティアに返す。
返って来た感想が好意的なものであった為、

「そっか、良かった」

安心したと言った表情をミスティアは浮かべた。
ミスティアの反応からサラダを出すのは今回が初めてなのかと言う事を龍也は推察しつつ、

「後はドレッシング……まぁ、味付けだな。味付けのバリエーションを増やしたりすると良いんじゃないか。そうすりゃ、サラダの種類も増えるし」

一寸したアドバイスをミスティアに行なう。

「ふむふむ、サラダのバリエーションを増やしてメニューを増やすって事ね」

されたアドバイスを受け、サラダのバリエーションを増やしてメニューを増やす事をミスティアが考え始めた時、

「おお、やってるね」

何者かがやって来た。
おそらく客であろうと龍也は思い、やって来た者の方に顔を向ける。
顔を向けた龍也の目に、

「萃香」

萃香の姿が映った。
どうやら、やって来たのは萃香であった様だ。
やって来た萃香の存在を龍也が認識したのと同時に、

「ありゃ、龍也じゃん」

萃香も龍也の存在を認識し、龍也の隣に腰を落ち着かせ、

「あ、お酒沢山ね」

お酒を沢山と言う注文を行なう。

「はいよ」

行なった注文をミスティアが受け取った後、萃香は龍也の方に向き直り、

「へぇ……」

意味有り気な笑みを浮かべる。
だからか、

「ん? どうかしたのか?」

ついと言った感じで龍也は萃香にどうかしたのかと問う。

「いや、前に私と戦った時よりも随分強くなったと思ってね」

問われた萃香は笑みを浮かべた理由を話し、

「それに聞いたよ」

聞いたと言う事を口にする。

「聞いたって……何をだ?」
「新しい力を手に入れたって事をさ」

何を聞いたのかと言う疑問を龍也が抱くと、萃香はそう言って出された酒を飲む。
別に自分から広める様な事はしていない為、こうも自分が新しく手に入れた力に付いての情報が広まっている事に龍也は驚きつつ、

「その事、誰から聞いたんだ? 前に紅魔館で宴会を開いた時か?」

何処でその情報をを聞いたのかと言う疑問を萃香にぶつける。

「ん? 紫からだよ」
「紫か……」

ぶつけられた疑問に萃香がシレッとした表情で答えを述べると、龍也は納得した表情になった。
紫ならば、知っていても可笑しくは無いと思っているからだ。
何せ、もう一人の自分による内側からの侵食と言う龍也でも分からなかった自身の不調に対する答えを紫は知っていた。
更には、それに対する対処法も。
でなければ、紫は龍也を龍也自身の精神世界に送り込んだりはしなかったであろう。
まぁ、碌な説明も無しに自身の精神世界に送り込まれた事に龍也は思うところはあった。
だが、そのお陰で龍也はもう一人の自分に喰われて乗っ取られずに済んだ。
おまけに、大怪我を負った自分を永遠亭へと送ってくれた。
色々と胡散臭い存在ではあるが、今度会ったら礼の一つでも言って置くかと言う事を龍也が考えていると、

「うん。紫が冬眠する前にね」

補足するかの様に聞いたのは紫が冬眠する前である事を教え、

「それは兎も角、龍也と再戦する日も近いかな?」

好戦的な目を龍也に向けながらそんな事を言い出す。
萃香との再戦。
無論、その事は龍也も覚えているが、

「そうは言っても、俺はまだその新しい力を使いこなせてはいないんだよ。だから、再戦はまだ先になりそうだな」

新しく手に入れた力をまだ使いこなせていないので、再戦するのはまだ先になりそうだと言う事を龍也は萃香に伝える。

「それは残念」

伝えられた事を受けて残念と言う言葉と共に萃香は溜息を一つ吐く。
どうやら、萃香として新しい力を手に入れた龍也と早くに戦いたかった様だ。
見ただけで分かる位に萃香が残念がっているのが分かったからか、

「萃香、次……戦う時は俺が勝つぜ。今度こそ、納得できる形でな」

ある種の宣戦布告と言えるものを龍也は萃香に行なう。
嘗て、萃香が起こした異変の際。
その異変を龍也は解決したのだが、解決した龍也は解決させて貰ったと感じていた。
何故ならば、萃香との戦いで勝ったとは思えていないから。
だからこそ、異変の後の宴会で龍也は萃香に再戦を申し入れて勝つと宣言したのだ。
そして、今も再戦の暁には勝つと言う宣言した。
あの時の約束を忘れず、気持ちも変わっていない事を知れた萃香は、

「……分かっていたけど、やっぱり龍也は良い男だ」

改めてと言った感じで龍也の事を良い男だと称し、龍也の目を見る。
龍也の目を見た萃香は、自分が起こした異変の後に自分に勝つと宣言した時よりも強いものになっている事に気付く。
それだけ、あれから強くなったのだろう萃香は思い、

「私も楽しみにしてるよ。龍也と再び戦う時を」

何処か色っぽさを感じさせる笑みを浮かべながら龍也と再び戦う時を楽しみにしていると零し、杯を二つ取り出す。
取り出した杯に萃香は瓢箪の中に入っている酒を注いでいき、

「はい」

酒を満たした杯の一つを龍也へと差し出した。

「ん?」
「良いから良いから、取って取って」

差し出された杯を見て疑問気な表情を龍也は浮かべたが、萃香が笑顔で杯を取る様に促して来た為、

「あ、ああ」

言われるが儘に龍也は杯を受け取る。
すると、

「ほら、乾杯しよ。乾杯」

乾杯し様と言いながら萃香は自分の杯を突き出して来た。
ここまで来たら萃香が何をしたがっているのかを理解した龍也は受け取った杯を突き出し、

「「乾杯」」

突き出されていた萃香の杯に合わせる。
杯と杯と突き合わせた後、二人が杯に入っている酒を飲んだ瞬間、

「あのー……自前のお酒を飲むのはご遠慮願いたいんですけど……」

ミスティアから自前のお酒を飲むのは遠慮して欲しいと言われてしまった。
確かに、飲食店で自前の飲み物を飲んだり食べ物を食べたりするのはマナー違反だろう。
だからか、

「ああ、それもそうだね。ごめんごめん」

萃香は謝罪の言葉を口にし、

「お詫びと言っては何だけど、今度美味しいお酒の作り方を教えて上げるから勘弁してくれないかな?」

美味しいお酒の作り方を教えるので勘弁してくれと言う。

「うーん……まぁ、そう言う事なら」

言われた事を受けてミスティアは納得したかの様な表情を浮かべる。
そんな二人を見た龍也は、

「そういや、二人は知り合いなのか?」

ミスティアと萃香は知り合いなのかと言う問いを二人に投げ掛けた。
投げ掛けられた問いに、

「んー……知り合いと言えば知り合いかな。霧になって幻想郷を漂っている時にこの屋台を見付けてね。それから、ちょくちょくこの屋台に顔を出しているのさ。
中々に美味しいお酒を出してくれるしね」

ミスティアとの関係に付いて萃香は軽く語った後、

「最初は驚いたわねー。幻想郷でも見なくなったと言われている鬼が客として来るとは思わなかったし」

お気楽さが感じられる声色で萃香が客として来た時は驚いたと言う事をミスティアは零す。
まぁ、今まで居ないと言われていた存在が客として現れたのであれば驚きもするであろう。
ともあれ、ミスティアと萃香の関係を知った龍也は、

「そうだ。ミスティア、何か歌ってくれないか?」

話を変えるかの様にミスティアに歌ってくれと言う頼みをする。

「歌ね。オッケーよ」

頼まれた事をミスティアは快く引き受け、歌い始めた。
ミスティアの歌を聴き、

「やっぱ、綺麗な声だな」
「良い歌声だね」

龍也と萃香はミスティアの歌に好意的な感想を抱く。
そして、ミスティアの歌を肴に龍也と萃香は飲み食いを始めた。























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