猛吹雪の真っ只中に居る言う状況化の中。
龍也は立ち止まり、

「何所だ……ここ?」

ポツリとそう呟いて周囲を見渡す。
しかし、どれだけ周囲を見渡しても見えるのは吹雪いている雪ばかり。
だからか、

「こんなに吹雪くとは……こんな事なら、何所かで大人しくしていれば良かったなぁ……」

一寸した後悔の言葉を零し、溜息を一つ吐いた。
そもそも、どうして龍也はこんな猛吹雪の中を出歩いているのか。
その答えは、何時も通りと言う事になるだろう。
今日も今日とで龍也は何時もの様に幻想郷の何所かを歩いていた。
のほほんとした気分で。
そんな時、突如として雪が降り出して来た。
今現在の季節は冬と言う事もあり、雪が降る事など不思議でも何でも無い思った龍也は何も気にせずに足を進めて行く。
それから暫らくすると降って来る雪の量が増え、風が強くなり始める。
この時点でビバークの準備なり旅を中断して誰かの家に避難しに向かうべきであったのだが、龍也はビバークの準備も避難もせずに足を進めて行った。
そして、気付いた時には僅か先の光景も見えな位の吹雪になっていて現在に至ると言う訳だ。
と言った感じで、猛吹雪に成るまでの経緯を一通り思い返した龍也は、

「はぁ……失敗したなこりゃ……」

つい、失敗したと言う台詞を発してしまった。
確かに、雪が降り始めた時点で一旦旅を中断していれば猛吹雪の中を歩く事も無かっただろう。
だが、降り始めた雪が途中で止んだり激しくなる事無く緩やかな儘と言う可能性も在った。
まぁ、結果論だけで言ったら雪が降り始めても気にせず歩き続けた龍也が間抜けと言う事になるが。
ともあれ、何時までも現状に嘆いていても仕方が無い。
気持ちを切り替えるかの様に息を一つ吐き、正面を向いた瞬間、

「ッ!!」

直感的に龍也は何かを感じ取り、前方へと跳ぶ。
すると、龍也がつい先程まで居た場所に何かが叩き込まれた様な大きな音が発生した。
発生した音を耳に入れた龍也は振り返る様にして地に足を着け、音が発生した原因を探ろうとする。
猛吹雪と言う状況化のせいで完全に確認する事は出来なかったが、つい先程まで自分が居た場所に自分よりも大きい体格をした妖怪が存在していると言う事が分かった。
良くこの吹雪の中で自分が居た場所に攻撃を仕掛けられたなと言う事を龍也が思っている間に、周囲から獣の唸り声の様なものが響き渡り、

「……………………………………」

一つ、また一つと周囲に気配が増えていくのを龍也は感じ取る。
増えていく気配に注意を向けつつ、

「はぁ……吹雪の時に出歩くと碌な目に合わないな」

愚痴とも言える様なものを口にしながら龍也は自身の力を変えた。
朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から紅に変化する。
力が変わった事を実感した龍也は両手から炎の剣を生み出し、何時攻撃されても対応出来る様に構えを取った刹那、

「ッ!!」

反射的に上半身を前に倒す。
すると、龍也の上半身が在った場所を何かが通過した。
何かが上方を通過して行ったのを感じ取った龍也は、おそらく妖怪の腕が通過したのだろうと考えつつ、

「しっ!!」

攻撃を仕掛けて来たであろう妖怪が居る場所に向けて炎の剣を振るう。
しかし、

「外した!?」

振るわれた炎の剣は妖怪に当たる事は無かった。
振るった炎の剣が当たらなかったのは相手の姿を視認出来ていないせいかと思った時、

「まさか……」

ある可能性が龍也の頭に過ぎる。
過ぎった可能性と言うのは、今襲い掛かって来ている妖怪は自分の姿を完全に視認出来ているのではと言うもの。
であるなば、此方の攻撃が当たらず向こうが龍也の居場所を把握しているかの様な攻撃を仕掛けて来ると言う今の状況にも一応の説明が付く。
が、過ぎった可能性が正しいと言うのであれば現状は龍也の不利と言う事になるだろう。
何せ、妖怪達は地の利を有しているだけではなく天候を味方にしているのだから。
兎も角、現状を一通り纏め終えた後、

「どうする……」

どう戦うべきかと言う事を龍也は考えていく。
不用意な攻撃は容易く避けられるだけであろうし、妖怪との距離を詰め様にもこの猛吹雪が邪魔をする。
それでも何とか攻撃を当てる方法を見付け出そうと考えを廻らせていくが、

「ぐわ!!」

突如として何かが背中に当たって爆発を起こした為、龍也は考え事を中断しながら振り返った。
妖怪の内の一体が妖力で出来た弾を発射して来たのだろうと思いながら。
さて、そう思いながら振り返った龍也ではあったが猛吹雪のせいで妖力の弾を放って来た妖怪を視認する事は出来なかった。
だからか、

「くそ……」

ついと言った感じで龍也は悪態を吐いてしまう。
そのタイミングで、

「ッ!!」

目の前に指の爪らしきものが迫って来ている事に龍也は気付き、咄嗟に顔を傾ける。
顔を傾けた事で迫って来ていた爪が龍也の顔の真横を通り抜けた直後、

「冬に出て来そうな妖怪って感じだな、お前」

相対している妖怪の風貌に付いての感想を龍也は零す。
何故、猛吹雪と言う状況化にあるのに相対する妖怪の風貌に対する感想を龍也は零せたのか。
答えは龍也と攻撃を仕掛けて来た妖怪の距離に在る。
突き出された爪先が、龍也の顔の横を通り抜ける程に龍也と妖怪の距離が近かったからだ。
これならば、幾ら猛吹雪で視界が悪かろうと妖怪の姿は確認出来るであろう。
因みに、確認した妖怪の風貌は白い体毛に筋肉質で牙を剥き出しにした二足歩行の大きな妖怪である。
ともあれ、何時までもこの距離を維持する必要は無いので一旦距離を取ろうかと龍也が考えた時、

「うお!!」

目の前に居る妖怪が龍也を頭から食おうと言わんばかりに噛み付こうとして来た。
何もしなかったら頭から噛み付かれる事は自明の理であるので、龍也は後ろに跳んで妖怪との距離を取る。
後ろに跳んで妖怪が空に噛み付いたのを見届けた龍也は、地を駆けながら噛み付いて来た妖怪に近付き、

「りゃあ!!」

顎目掛けて蹴りを放つ。
足全体に炎を纏わせると言うおまけ付きで。
炎が纏わり付いた蹴りを喰らえば一溜まりも無いと思われたが、放たれた蹴りを妖怪は大きな体格に見合わない身軽さで後ろに跳ばれて避けられてしまった。

「図体に似合わない身軽さだな……」

放った蹴りを避けた妖怪の動きを見て龍也はそんな感想を抱き、周囲の状況を探るかの様に意識を張り巡らせていく。
すると、四方八方から殺気が放たれているのを感じ取った。
どうやら、完全に囲まれてしまった様だ。
この儘では、全方位から一斉に攻撃を受ける可能性も出て来るだろう。
だが、そうなったら一斉に襲い掛かって来た妖怪達を纏めて倒すチャンスにもなる。
態々相手の有利な状況化の中で時間を掛けて戦ってリ貧になるよりも、危険を承知で短期決戦を挑んだ方が良い。
そう判断した龍也は周囲に居る妖怪達が一斉に仕掛けて来る様に仕向ける為、

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

力を解放し始めた。
力の解放に伴って龍也の髪の色が黒から紅に変わって紅い瞳が輝きを発し始め、二本の炎の剣が熱を増したかの様により紅くなった。
そして、更にと言った感じで龍也は左手の炎の剣を消しながら左手を額の辺りへと持って行く。
ここで力の解放に加えて仮面を出せば技の威力は大きく上がるであろうが、その代わりに妖怪達が龍也の強さに恐れ慄いて逃げ出してしまうかもしれない。
もし、ここで妖怪達が逃げ出したとしたら。
妖怪達が遠くにまで逃げてくれたのならば問題は無いであろうが、そこまで遠くに逃げなかったらまたこの妖怪達の襲撃を受ける事が考えられるだろう。
しかし、そう言ったリスクが在ると言うのに力の解放を行なって仮面を出す準備をしたのにはある理由があるからである。
理由と言うのは経験。
そう、経験だ。
経験と言うのは、旅の道中で野良妖怪の群れに襲われた際に力を見せ付けた場合にどうなるかと言うもの。
龍也の経験上、その場合は逃げるか自棄になったかの様に襲い掛かって来るのかのどちらかになる事が多い。
逃げると言う場合は単純に実力差を察したから。
自棄になったかの様に襲ってる来るのは餌如きが調子に乗るなと言う想いが在るからではと龍也は推察している。
以上、二点の事から賭けと言う要素が含まれるものの龍也は力の解放を行なったのだ。
補足になるが、仮面を出す準備をしているのは技の威力を上げると言うよりも仮面の保持時間を上げる為である。

「さて……」

準備が整ったからか、早く掛かって来いと思いながら龍也は周囲への警戒を強めていく。
すると、周囲の殺気が大きく膨れ上がったのを龍也は感じ取った。
その瞬間、龍也は左手からどす黒い色をした霊力を溢れ出させ、

「ッ!!」

どす黒い色をした霊力を溢れ出させた左手を一気に振り下ろす。
同時に、龍也の顔面に仮面が現れて眼球が黒くなり、

「だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

龍也から巨大な火柱が発生した。
発生した火柱に、突撃を仕掛けた妖怪達が呑み込まれていく。
どうやら、先程龍也が感じ取った膨れ上がった殺気は妖怪達が攻勢に入った合図であった様だ。
となると、殺気が膨れ上がった瞬間に攻撃に転じたのは良いタイミングであったと言えるだろう。
それはさて置き、火柱を発生させてから少しすると龍也は火柱を消して左手を再び額に辺りにまで持って行く。
持って行った左手が額の辺りに着くと仮面がどす黒い色をした霊力に変化し、

「ふぅ……」

風に流れる様にしてどす黒い色をした霊力は消え、龍也の眼球の色は元に戻った。
付けていた仮面が完全に消えると、大きな疲労感が龍也を襲い、

「ぐ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

龍也の息が乱れ、ふら付きそうになってしまう。
が、ふら付いたり両手を両膝に付けると言った事態になるのを阻止するかの様に龍也は下半身に力を籠める。
誰かが見ている訳でも無いのにそうしたのは只の意地か、それとも本能か。
理由はどうであれ、下半身に力を籠めて確りと地に足を着けると言う行為を取ったお陰で、

「ッ!?」

死角から迫り来る何かに龍也は反応する事が出来た。
反応した龍也は体を捻り、右手の炎の剣による刺突を繰り出す。
結果、

「痛ッ」

繰り出された炎の剣は妖怪の体を貫き、龍也は頬に一直線の傷を負う事となった。
負った傷から血が流れ始めた瞬間、龍也は炎の剣を妖怪の体から引き抜く。
炎の剣を引き抜かれた妖怪は力を無くしたかの様に膝を着き、貫かれた場所から炎が発生して燃え始め、

「……………………………………………………」

最後には灰となり、吹雪に攫われるかの様にして灰は消えてしまった。
それを見届けた後、全神経を集中させるかの様に龍也は周囲を探り始める。
頬から流れ落ちた血の何滴かが吹雪に流されて飛んで行った辺りで、

「…………何の気配も無し……か」

ポツリと、何の気配も無いと言う言葉が龍也の口から紡がれた。
自分で紡いだ言葉を理解した龍也は、自身の力を消す。
力を消した事で龍也の髪と瞳の色が元の色に戻り、右手の炎の剣が消失した後、

「油断した積りは無かったけど……何処かで油断してたのかな……」

反省するかの様な事を龍也は呟き、手袋を脱いで未だ流れている頬の血を手の甲で拭う。
ちゃんと敵を仕留めたと言う確信を得たと言う訳でも無いのに、周囲への警戒を疎かにしたのだ。
油断していると言われても、反論出来ないだろう。
取り敢えず、今度こそ決着が着いたからか、

「仕留め損なった……いや、あの妖怪にダメージを負っていた様子は見られなかった。と言う事は、火柱に突っ込んで来なかった妖怪か」

不意打ちをして来た妖怪の正体に付いて龍也は軽い考察をしていく。
そして、また今回の様な戦法をする場合は火柱の範囲を大きくする事を決め、

「行くか……」

気持ちを切り替えるかの様に再度手袋を着け、龍也は再び足を動かし始めた。






















猛吹雪中で妖怪の群れに襲われてから数時間程の時が流れたが、

「一向に止む気配が無いな……」

一向に猛吹雪が止む気配を見せなかった為、龍也は愚痴の様なものを零し、

「せめて、少しは弱まってくれれば良かったんだけどなぁ……」

少しは吹雪が弱まれば良かった言う願望の様なものを呟き、溜息を一つ吐いた。
とは言え、足を止めると言う事はしなかったが。
もし足を止めてしまったら、猛吹雪の中をポツンと突っ立っている事になるからだ。

「うーむ……」

何か、建物の様な物でも無いかと思いながら足と一緒に顔を動かしている龍也の目に、

「……ん?」

雪以外のものが映り込む。
映り込んだものが気に掛かった龍也は、

「……行ってみるか」

そこに行ってみる事を決め、進行方向を変える。
進行方向を変えてから少しすると、龍也は少し大きな物を発見した。
猛吹雪のせいではっきりとは見えなかったが、この猛吹雪を凌げそうな大きさが在りそうなので、

「……良し」

龍也は歩くスピードを上げ、発見した物が在る場所へとどんどん近付いて行く。
そして、発見した物が在る場所に辿り着くまで後少しと言った所にまで来た時、

「ん? 看板が在るな」

ポツンと立っている看板を龍也は発見し、

「何々……香……霖……堂……ここ香霖堂か」

立ち止まって発見した看板に書かれていた文字を読み、目に映った物は香霖堂だったのかと言う確信を得た。
得た確信から何時の間にか魔法の森の近くに来ていたんだな言う事を思いつつ、

「吹雪が止むまで留まらせて貰える様に頼んでみるか」

そう口にしながら体に乗っかっている雪を払いながら香霖堂に近付き、扉を開いて香霖堂の中へと入る。
暖が焚かれているからか、香霖堂の中は暖かかった。

「ここには外の世界の物が多いから、ストーブとかで暖を取ってるのかもな」

香霖堂の中が暖かい理由を軽く推察しながら龍也は店の奥に進んで行き、

「霖之助さん、居ますか?」

店主である霖之助の名を呼ぶ。
すると、

「ああ、龍也君か。いらっしゃい」

カウンターの方で本を読んでいた霖之助は龍也の存在に気付き、龍也の方に顔を向ける。
取り敢えず、互いが互いの存在をはっきりと認識した後、

「行き成りで悪いんですが、吹雪が止むまでここで休ませて貰っても良いですか?」

吹雪が止むまで香霖堂で休ませて欲しいと言う頼みを龍也は霖之助に行なう。

「うん、構わないよ」

龍也からの頼みを霖之助は二つ返事で引き受けて読んでいた本をカウンターの上に置く。
その時、

「おや、頬に怪我をしている見たいだね」

霖之助は龍也の頬に傷が在る事に気付いた。
頬の怪我に付いて言われた事で、龍也は何かを思い出したかの様な表情になり、

「あ、はい。さっき妖怪に襲われたのでその時に……」

傷を負った原因に付いて龍也は簡単に説明する。
説明が終わると霖之助は納得した表情になり、

「成程。なら、良い物が在るよ」

良い物が在ると言いながらカウンターの下を探し始めた。

「良い物ですか?」

良い物と言われて龍也が疑問気な表情を浮かべている間に、霖之助はカウンターの下を探すのを止め、

「これだよ」

これだと言う言葉と共にカウンターの上に何かの箱を置く。
置かれた箱に反応した龍也は箱を注視し、

「……良い物って言うのは絆創膏ですか?」

箱のパッケージから、霖之助の言う良い物とは絆創膏の事ではと考える。
考えた事は合っていた様で、

「うん、その通りだよ」

肯定と言える返事を霖之助は返す。
絆創膏を見る事など幻想入りしてからずっと無かったからか、少し懐かしい気分になりつつ、

「それじゃ、一枚使わせて貰いますね」

一声掛けながら龍也は手袋を脱いで箱の中から一番大きな絆創膏を取り出し、取り出した絆創膏を頬の傷の部分に張る。
かなり簡易的ではあるものの、龍也の治療が完了したのを見て、

「実は、龍也君に聞きたい事が在るんだ」

本題に入ると言わんばかりの雰囲気を醸し出しながら霖之助は龍也に聞きたい事が在ると言う。

「俺に聞きたい事ですか? 構いませんよ」

言われた事を快く引き受けると言った言葉を龍也は発した為、

「それは良かった。少し待っててくれ」

嬉しそうな表情を浮べながら霖之助は少し待っていてくれと言う言葉を残し、立ち上がって店の奥へ移動した。
店の奥に引っ込んで行った霖之助を見て、言われた事と浮かべた表情から外の世界の道具で自分に何か聞きたいのかと在るのだろうと龍也は推察する。
そんな推察をし始めてから幾らかすると、霖之助が店の奥から戻って来て、

「これを見てくれないかい?」

店の奥から持って来たであろう物をカウンターの上に置く。
カウンターの上に置かれた物は、

「これは……デジカメ……デジタルカメラですか? 外の世界の」

デジタルカメラであった。
置かれたデジタルカメラの名を龍也は一目で言い当てたからか、

「やはり、これは外の世界の道具だったか」

デジタルカメラが外の世界の道具であると言う確信を得たと言う事を霖之助は零し、

「君の言う通り、これはデジタルカメラだよ。だけど、カメラと言う割には天狗が持っているカメラと色々と違っていて使い方が良く分からなくてね」

天狗の所持しているカメラとは構造などが違うせいもあり、デジタルカメラの使い方が分からないと言う事を龍也に伝える。
伝えられた内容から、

「つまり、俺にデジタルカメラの使い方を教えて欲しいと」

霖之助が自分に何を求めているのかを龍也は理解した。

「うん、そうなんだ」
「分かりました。取り敢えず、それを貸してください」

理解した事を霖之助が肯定したので、龍也はデジタルカメラを手に取り、

「えーと……」

手に取ったデジタルカメラを軽く調べていく。
軽く調べただけでデジタルカメラの使い方を把握した龍也は指を動かし、

「バッテリーが残ってれば点くと思うんですが……」

デジタルカメラの電源ボタンを押す。
すると、

「あ、点いた。これなら写真を撮る事が出来ますね」

デジタルカメラが起動した。
無事起動した事で龍也が一安心した刹那、

「おお!!」

少々興奮気味な感じで霖之助はカウンターから身を乗り出して、

「それで、どうやって写真を撮るんだい!?」

龍也に写真の撮り方を尋ねる。
若干霖之助の熱意に押されたものの、

「一寸待ってください。先ずバッテリーの残量を確認しますから」

先ずバッテリーの残量を確認する必要が在ると言って、デジタルカメラを操作して龍也はバッテリーの残量を確認しに掛かった。
確認した結果、

「あー……残り37%か。これなら一通りの事は説明出来そうだな」

バッテリー残量が37%であった為、一通りの説明が出来そうであると龍也は判断しつつ、

「写真撮りますんで、何かポーズを取って下さい」

先ず写真を撮る事を決めて霖之助にポーズを取る様に頼む。

「こ、これで良いかい?」

急にポーズを取る様に頼まれた事で霖之助は少し恥ずかしそうにしながら、一寸したポーズを取った。
そのタイミングで、

「それで良いですよ。はい、チーズ」

龍也はシャッターを切り、

「撮れました」

撮れたと言う事を霖之助に伝える。

「その辺りは天狗が持っているカメラと変わらないんだね」

写真の撮り方に関しては天狗の持つカメラと変わらなかった事で霖之助は肩透かしを喰らった様な気分になりながらポーズを取るのを止めた瞬間、

「あ、今撮ったの見ます?」

今撮った写真を見るかと言う問いが龍也から発せられた。
撮ったばかりの写真を今見る事が出来るとは全く思っていなかったからか、

「そんな事が出来るのかい!?」

再び霖之助はカウンターから乗り出し、デジタルカメラを覗き込む。
だからか、龍也はデジタルカメラを操作していき、

「はい。ええと……これです」

画面に今撮った写真を表示させ、霖之助に今撮った写真を見せる。

「おお、これは凄い……」

デジタルカメラに映っている自分の写真を見て、霖之助の口から凄いと言う言葉が零れた。
まぁ、天狗が持つカメラに撮ったものをカメラ自体に写す機能は無いのだ。
凄いと言う言葉が零れても仕方が無いだろう。
暫しの間、デジタルカメラに映っている撮られたものを見続けた霖之助は、

「それで、どうやったら写真を出せるんだい?」

どうすれば写真を出す事が出来るのかと言う事を龍也に尋ねる。

「写真をですか?」

尋ねられた龍也は改めてと言った感じでデジタルカメラを調べ、

「このデシカメのタイプですと……パソコンとプリンターが必要ですね。前に言った電化製品ですよ」

写真にするにはパソコンやプリンターと言った様な電化製品が必要である事を話す。

「電化製品……」

話された事を受け、霖之助が頭の中に今所持している電化製品を思い浮かべている最中に、

「電化製品を動かすには、基本的に電気が必要です。電気の問題……解決出来ました?」

電化製品を動かすには電気が必要である事を龍也は話し、電気の問題は解決したのかと言う事を龍也は霖之助に聞く。
聞かれた事が耳に入った霖之助はハッとした表情になり、

「……いいや」

首を横に振って否定の言葉を紡いだ。
と言う事は、電気を確保する手段はまだ無いと言う事になる。
電気が無ければパソコンもプリンターも動く事は無いので、

「なら無理ですね」

一言、龍也は無理とだと口にした。

「そうか……」

口にされた内容を受けた霖之助は思いっ切り肩を落とす。
一目見ただけで霖之助が落ち込んでいるのが分かったからか、

「まぁまぁ、このデジタルカメラで出来る事や使い方を全部教えますからね。後、他にも分からない物が在ればそれも」

このデジタルカメラで出来る事と、他にも使い方の分からない物が在ればそれの使い方を教えると言う発言を龍也は発した。

「このデジタルカメラは写真を撮り、撮ったものをカメラに映すと言った事以外にも出来るのかい? 僕の能力では普通のカメラと同じで、写真を撮る為の
道具と言う事しか分からなかったんだが……」

発せられた発言に霖之助は疑問を覚えたかの様に、自分の能力では写真を撮る以外の用途が分からなかったと言う事を漏らす。
霖之助が漏らした言葉から、霖之助の能力で分かるのは名前と用途だけである事を龍也は思い出し、

「デジタルカメラも普通のカメラと同じで写真を撮る為の道具です。只、写真を撮る為の様々な機能が付いてるんですよ。このデジタルカメラですと
ズームインアウト機能、手ぶれ補正機能、逆光補正機能、カラー白黒切り替え機能、夜間撮影機能、顔認識機能、クロップ機能、フレーム機能などが
有りますね。写真を撮る以外でも撮った写真を千枚以上保存可能、撮った写真を簡単な編集で加工、単純に見る以外にもスライドショーで見る……と
言った機能も有りますね」

一通り、今手にしているデジタルカメラで出来る事を霖之助に教える。

「この大きさで、そんなに出来る事が多いのかい!?」

デジタルカメラで出来る事を知った霖之助は元気を取り戻したかの様に龍也へと詰め寄って来た。
デジタルカメラの使い方を教えると言い、機能の説明をしただけでここまで元気を取り戻した霖之助に驚きつつ、

「ええ。取り敢えず、それぞれの機能の使い方などを教えますね」

このデジタルカメラに備わっている機能の使い方を龍也は説明し始める。






















「いやー、ありがとう。龍也君」

ご機嫌と言った感じの表情で霖之助は龍也に礼の言葉を述べた。
礼の言葉を述べられた龍也は、

「いえ、お構いなく」

そう返しながら疲れを吐き出すかの様に息を一つ吐いた。
デジタルカメラの説明をしただけで疲れるのかと思うかもしれないが、実はデジタルカメラだけの説明で終わった訳では無い。
何と、デジタルカメラ以外にも様々な電化製品の使い方を龍也は霖之助に教えていたのだ。
まぁ、これに付いては約束通りと言う事になる。
と言っても教えたのはバッテリーが内蔵されていてバッテリーが生きている物だけであったので、そこまで数が多いと言う訳では無かったが。
兎も角、息を一つ吐いた龍也は軽く体を動かしていく。
その時、

「……あれ、何時の間にか吹雪止んでますね」

吹雪が止んでいる事に龍也は気付き、視線を窓の方へと固定する。
それに反応した霖之助も視線を窓に移し、

「おや、本当だね」

窓から見える外の光景から吹雪が止んでいる事を認識した。
デジタルカメラを含めた電化製品の説明している間に吹雪が止んだんだなと龍也は思いつつ、

「それじゃ、俺はそろそろ行きますね」

そろそろ香霖堂を後にすると言う事を口にする。

「おや、もう行くのかい? デジタルカメラを含めた色々な電化製品の使い方や機能を教えて貰ったから何かお礼をし様と考えていたんだが……」

口にされた事を受け、霖之助がお礼を考えていた言う事を零すと、

「なら、今度ここで買い物する際にサービスしてくださいよ」

お礼ならば今度香霖堂で買い物をした際にサービスして欲しいと言う要望を返す。

「分かった。それじゃ、今回のお礼代わりと言う事で龍也君がここで買い物をする時はサービスさせて貰うよ」

龍也からの要望を霖之助が受け入れた後、龍也は霖之助に背を向け、

「それじゃ、俺は行きますね」

もう行くと言う事を霖之助に伝える。

「道中、気を付けてね」

そんな霖之助の声を背に受けながら外に出た龍也は、

「おお、随分と積もってるな。ま、さっきまで猛吹雪だったんだから当然と言えば当然か」

随分雪が積もっていると言う感想を零す。
どれだけ積もっているのかと言うと、龍也の胸元辺りにまで。
ここまで積もったら雪掻きも大変だなと言う事を龍也は思いつつ、

「……ま、これだけ積もっている雪の中を歩くって言うのも一興だな」

何処かワクワクとした表情を浮かべながら手袋を着け、積もりに積もった雪に向けて足を踏み出した。























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