今日も今日とで幻想郷の何所かを歩いている龍也の耳に、

「春ですよー!!」

そんな声が入って来た。
入って来た声に反応した龍也は一旦足を止め、声が発せられたであろう方に顔を向ける。
顔を向けた龍也の目に、

「リリーホワイト」

リリーホワイトの姿が映った。
映った姿から先程の声の発生源はリリーホワイトであると龍也が認識したのと同時に、リリーホワイトは何処かへと飛んで行ってしまう。
それを見た後、軽く周囲を見渡し、

「そうか……もう春か」

周囲の光景から今の季節が春であると言う事を龍也は認識し、ここまでの道中で雪を殆ど見なかった事を思い出す。
となると、何日も前から季節は冬から春に変わっていたのだろうと言う事を考えつつ、

「んー……」

龍也は軽く上半身を伸ばしていく。
上半身を伸ばしてから少しすると龍也は上半身を伸ばすのを止め、

「そろそろ防寒具を仕舞いに戻るべきか戻らないべきか……」

今着ている防寒具を見ながらそう呟く。
冬から春に変わってまだ間もないとは言え冬の様な寒さは感じ無い。
かと言って、防寒具を着ているせいで暑いと訳でも無かった。
何とも微妙な感じの気温である。
どうせこれから暖かくなるのだから今戻ろうと言う思いと、また寒くなるかも知れないから何日か待とうと言う思い。
この二つの思いが龍也の中で鬩ぎ合い、幾らから経った後、

「……よし、戻ろう」

家として使っている無名の丘に戻る事を龍也は決め、跳躍を行う。
跳躍を行った龍也は足元に霊力で出来た見えない足場を作り、作った足場に足を着け、

「えーと、ここから無名の丘に行くには……」

顔を動かしながら無名の丘が在る場所を探して行き、

「……あっちだな」

無名の丘が在る方向を見付け出し、空中を駆ける様にして無名の丘へと向かって行った。






















無名の丘が眼下に見えた辺りで、

「よっと」

龍也は走り幅跳びの要領で降下し、

「到着っと」

地に足を着け、洞窟が在る方に向けて足を動かして行く。
足を動かしている中で龍也は周囲を見渡しつつ、

「この辺も大分雪が溶けたな……」

無名の丘に在った雪が殆ど溶けている事を呟き、思う。
僅かに残っている雪と言うのも中々に風情が在ると。
全ての雪が溶けてしまうまではこの風情を楽しむ様にして幻想郷を廻ろうと言う予定を立てている間に、

「……お、着いた着いた」

家として使っている洞窟の前に着いた為、龍也は一旦足を止めて洞窟の方に体を向ける。
その瞬間、

「お、居た居た」

背後からそんな声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した龍也が振り向くと、近付いて来ている魔理沙の姿が目に映る。
この事から声を掛けて来たのは魔理沙であると龍也が認識したのと同時に、龍也の直ぐ近くにまで来た魔理沙が箒から降り、

「よっと」

地に足を着けた。
そして、

「よっ」

片手を上げ、龍也に対して軽い挨拶を魔理沙は行なう。

「よっ」

行なわれた挨拶に返すかの様に龍也も片手を上げる。
取り敢えず、お互い挨拶の言葉を交わし終えた後、

「で、俺に何か用か?」

上げていた片手を下ろし、龍也は魔理沙に何か用かと言う問いを投げ掛けた。
投げ掛けられた問いに反応した魔理沙は龍也と同じ様に上げていた片手を下ろし、

「ああ、宴会のお誘いに来たんだ」

用件を口にする。

「宴会?」
「ああ。博麗神社に咲いてる桜を見ながらな」

口にされた事から何の宴会だと言う感じで疑問気な表情を浮かべると、魔理沙が簡単に宴会の中身を説明した。
要するに、花見と宴会を複合させたものを開催し様と言う事だろう。
ともあれ、説明された内容からもう桜が咲き始めている事を知って何処か感慨深い気持ちに龍也がなっている間に、

「いやー、運が良いぜ。龍也は何所に居るか分からなかったから、先ず龍也の家が在るここに来たんだ。そしたら大当たりだったぜ」

先ずここに来て正解だったと言う台詞を魔理沙は零し、笑みを浮かべた。
まぁ、魔理沙が笑みを浮かべるのも無理はない。
何せ、年がら年中幻想郷の何所かをブラブラしているのが龍也なのだ。
今回の様に宴会のお誘いをし様にも、見付からない事が多々在る。
だが、今回に限っては直ぐに見付ける事が出来た。
魔理沙が笑みを浮かべるのも当然と言えるだろう。
兎も角、無事に龍也を宴会に誘う事が出来たと言う事で、

「お陰で幻想郷中を飛び回らなくて済んだぜ」

幻想郷中を飛び回って龍也を探さずに済んで良かったと魔理沙は零し、

「で、参加するよな?」

改めてと言った感じで宴会に参加するよなと言う言葉を龍也に掛ける。
別に断る理由も無いからか

「ああ、参加するよ」

参加する事を龍也は決め、

「で、宴会は何時開始するんだ?」

宴会開始は何時だと魔理沙に聞く。

「今日の昼頃だぜ」

宴会開始時刻を魔理沙から教えられた龍也はポケットから懐中時計を取り出して今現在の時刻を確認しに掛かる。
確認した結果、

「後、大体二時間位か」

宴会が開かれるまで二時間程の時間が在る事が分かった。
二時間も在るのなら幾らかのんびり出来そうだと言う事を思いながら龍也は懐中時計をポケットに仕舞い、

「……っと、そうだ。行く時には酒とか持って行った方が良いか?」

ふと思い出したかの様に博麗神社に向かう際には酒を持って行った良いかと問う。

「ああ、頼むぜ」

問われた事に魔理沙は間髪入れずに頼むと言って箒に腰を落ち着かせて空中に浮かび上がり、

「あ、そうそう。神社に来るまで誰か見たら誘って置いてくれ」

それだけ言って何所かに向けて素っ飛んで行った。
素っ飛んで行った魔理沙を見送った後、龍也はポストの前に移動し、

「よっと」

ポストの中に入っている"文々。新聞"を取り出し、取り出した"文々。新聞"を左腕に抱え、

「やっぱ、結構溜まってたな」

"文々。新聞"が溜まっていた事を呟き、自身の力を朱雀の力へと変える。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から紅に変わると、龍也は右手から炎を生み出して洞窟の中に入って行く。
洞窟に入り、奥に着くとテーブルの上に"文々。新聞"を置いてカンテラに火を灯して右手の炎を消す。
そして、貼ってあるお札に近付いてお札に霊力を籠める。
その後、防寒具をハンガーに掛けてテーブルの上に置いた"文々。新聞"に目を向け、

「宴会が開かれる時間を考えたら……読んでる時間は無さそうだな」

宴会が開かれる時間を考えたら、"文々。新聞"を読んでいる暇は無さそうだと龍也は判断し、

「……"文々。新聞"は今度帰って来た時にでも纏めて読むか」

"文々。新聞"は今度帰って来た時に纏めて読む事を決めてカンテラの火を消した。
すると、真っ暗になってしまったので龍也は再び右手から炎を生み出す。
炎が生み出された事で再度明るくなった後、龍也は外に出て、

「さて……」

握り潰す様に生み出している炎の消しながら自身の力を消した。
力を消した事で龍也の瞳の色が紅から黒に戻ると、

「そうだ。メディスンに声でも掛けてくか。若しかしたら宴会に誘えるかもしれないし」

無名の丘を後にする前にメディスンに声を掛けて置こうと考え、周囲を見渡すかの様に龍也は顔を動かしていく。
しかし、

「……あれ? 居ないのか?」

幾ら顔を動かしてもメディスンの姿を見付ける事が出来なかった。
無名の丘には居ないと言う事だろうか。
となると、メディスンとは会えそうにない。
メディスンと会え無い事を少々残念に思いつつ、

「……ま、またここに戻って来た時にでも会えるだろ」

直ぐに気を取り直した表情になり、

「酒は……人里で酒樽を買えば良いか」

人里で酒を買おうと言う予定を立てながら龍也は跳躍し、足元に霊力で出来た見えない足場を作ってそこに足を着け、

「行くか」

空中を掛ける様にして人里へと向かって行った。






















人里に着いた龍也は、

「さってと、酒屋酒屋……」

酒屋を探す様にすて人里を散策していた。
そんな中、

「……ん?」

人だかりが出来ている場所が龍也の目に映る。
だからか、

「何か在るのか?」

興味が湧いたかの様に龍也は人だかりが出来ている方へと進路を変更した。
そして、人だかりが出来ている場所にある程度近付いた辺りで、

「アリス」

人形劇をしているアリスの姿が龍也の目に入る。
同時に、ある事を思い出す。
思い出した事と言うのは、アリスが人形劇で金銭を稼いでいる事。
となれば、今人形劇をしているのは金銭を得る為なのかも知れない。
だとするなら、邪魔をする訳にはいかないだろう。
なので、アリスの邪魔にならない様に龍也は少し離れた場所でアリスの人形劇を見る事にする。
少し間人形劇を見ていると、やっぱりアリスの操る人形は生きている様に見えると言う感想を龍也は改めて抱く。
アリスの人形を操る技量が相当なレベルである事自体、龍也は既に知っていたが、

「……凄ぇ」

それでもアリスの人形劇を見ていると凄いと言う言葉が自然と出て来た。
そんな感じで龍也がアリスの人形劇に目を奪われてから幾らかすると、アリスの人形劇が終わったからか大きな拍手の音が聞こえ始める。
聞こえ始めた拍手の音で意識を戻した龍也は人だかりが無くなるまで待ち、人だかり無くなったのを見計らい、

「よう、アリス」

龍也はアリスに声を掛けた。
掛けられた声に反応したアリスは顔を上げ、

「あら、龍也じゃない」

声を掛けて来た存在が龍也であった事に気付く。
そのタイミングで、

「凄かったな、さっきの人形劇。人形が生きている見たいだったぜ」

先程までアリスがやっていた人形劇を称賛する言葉を龍也は漏らす。

「あら、見てたの。知り合いに見られるのって少し恥ずかしい感じがするわね」

漏らされた言葉を受けたアリスは若干気恥ずかしいと言った表情になるも、

「それは兎も角、何か御用かしら?」

直ぐに表情を元に戻し、自分に何か用かと尋ねる。
尋ねられた龍也は魔理沙から頼まれたと言える様な事を思い出し、

「ああ、この後暇か?」

取り敢えず、本題に入る前にと言った感じでこの後暇かと言う問いをアリスに投げ掛けた。

「ええ、特に何かをやらなければならない事は無いわ」

投げ掛けられた問いにアリスがこれからすべき事は無いと返す。
アリスにこの後の予定が無い事を知った龍也は、

「ならさ、宴会に参加しないか?」

早速と言わんばかりにアリスを宴会に誘おうとする。

「宴会?」
「ああ。博麗神社での桜を見ながらの宴会」

宴会と言う単語を聞いてアリスが首を傾げてしまった為、どう言った宴会を開くのかを龍也はアリスに簡単に説明した。

「桜か……そう言えば、もうそんな季節だったわね」

桜を見ながらの宴会と言う言葉でアリスは少し感慨深いと言った様な表情になりながら空に視線を向け、

「そうね……参加させて貰うわ」

空に向けていた視線を戻して宴会に参加する旨を龍也に伝え、

「それで、この儘博麗神社に向うのかしら?」

この儘博麗神社に向かうのかと聞く。

「いや、酒屋で酒樽を買ってから向う積もりだ」
「そう……なら、それに私も付き合うわ」

聞かれた事に酒屋で酒を買ってから博麗神社に向かうと言う事を龍也が言うと、ならばそれに自分も付き合うとアリスは口にした。
別に断る理由も無い為、

「分かった。なら行こうぜ」

行こうと言う言葉と共に龍也は歩き出し、歩き出した龍也を追う形でアリスも歩き始める。
そして、

「……っと、そういや酒屋への道ってこっちで合ってるよな?」
「ええ、合ってるけど……若しかして酒屋の場所が分からないの?」
「いや、分かんないって訳じゃないぞ。一寸自信が無いってだけで……」
「はいはい。そう言う事にして置いて上げるわ」
「あー……そういやさ、アリスは酒屋に良く行ったりするのか?」
「お酒は偶に買うって程度だから、酒屋にはそんなに足を運んだりはしないのよ。前にも言った気がするけどお酒も好きだけど、ワインの方が好きだしね」
「ああ、成程。酒屋にはワインは置いて無いもんな」
「そう言う事」
「となると、ワインはどうやって手に入れてるんだ? やっぱ、自分で作ってたりするのか?」
「自分で作ったりもするけど、紅魔館で買ったりもするわね。ほら、咲夜は手軽に年代物のワインを作れるし」
「そういや、何時だったか咲夜が言ってな。時間を加速させて年代物のワインを作ってるって。確かに、紅魔館なら色んなワインを手に入れられそうだな」
「と言うか、実際手に入るのよ。あそこのワインセラーに貯蔵されているワインの種類、とんでもないし」
「らしいな。何時だったか、パチュリーがそんな事を言ってたよ」
「私も自分のワインをワインセラーに保管してるけど、単純な数でも種類でも紅魔館のには負けるわ」

龍也とアリスは酒屋に着くまで雑談を交わしていった。






















酒屋で幾つかの酒や酒樽を買った龍也とアリスは、博麗神社へと向かって行く。
二人が博麗神社に着いた頃にはもう殆どの者が博麗神社に集まっていた。
だからか、龍也とアリスの二人は既に集まっている者達へ軽い挨拶の言葉を掛けていく。
それから少しすると宴会に参加するメンバーが集まったからか、宴会が始まった。
すると、皆が皆好きな様に騒ぎ始める。
まぁ、これは何時も通りと言えば何時も通りではあるが。
兎も角、宴会が始まったと言う事で龍也は酒を飲みながら咲いている桜に目を向ける。
そして、白玉楼に咲いている桜も見事だが博麗神社に咲いている桜も見事だと言う感想を抱く。
そんな感じで桜を見ながらの宴会を楽しんでいる龍也の目に、

「……ん?」

キョロキョロと顔を動かして周囲の様子を伺っているリグルの姿が映った。
宴会に参加している事に不思議は無いが、キョロキョロとしているのは気に掛かったからか、

「よ、リグル」

龍也はリグルに近付き、リグルに声を掛ける。
声を掛けられたリグルは、

「ひゃあ!?」

思いっ切り吃驚したと言う反応を示し、声が発せられた方に体を向け、

「あ、何だ龍也か」

龍也の姿を確認したリグルは安心したかの様な表情になり、

「あの……さ。宴会に参加したのは良いんだけど……あの怖いお姉さん来てるの?」

恐る恐ると言った感じで龍也に怖いお姉さんは来ているのかと聞く。
怖いお姉さんと言う単語を受け、

「怖いお姉さん……ああ、幽香の事か」

大した時間を掛けずに龍也は怖いお姉さんが幽香を指して事に気付いた。
どうやら、永遠亭の面々が起こした異変を解決する時に会った際でのやり取りですっかり幽香に対して苦手意識が付いてしまった様だ。
ともあれ、幽香の事を聞かれので龍也は周囲を見渡し、

「んー……どうやら、来てない見たいだな。まぁ、幽香は夏以外は俺と同じで何所に居るのか分からないからなぁ。連絡が付かなかったんだろ」

幽香が来ていない事をリグルに伝え、幽香が居ないのは連絡が付かなかったのではと言う推察を龍也がしていると、

「ほ……」

安心したと言う表情をリグルは浮かべた。
だからか、

「随分と苦手意識が付いたんだな」

つい、随分と苦手意識が付いたんだなと言う言葉を龍也は零してしまう。
その瞬間、

「だってだってぇ!!」

リグルは涙目になりながら龍也に訴え始める。
曰く、あの時の幽香は笑顔だったのに滅茶苦茶怖かった。
言葉の一つ一つで震えそうになった等々。
訴えて来た内容は幽香から受けた恐怖と言える様なものであった。
何やらリグルの愚痴に付き合う形になってしまって迂闊に声を掛けてしまった自分に龍也は若干後悔しつつ、適当に相槌を打っていく。
それから少しするとリグルは満足したかの様な表情を浮かべ、他の者達が居る方へと向かって行った。
再び一人になった龍也は一息吐き、腰を落ち着かせながら酒を一口飲んで桜の木に視線を戻すと、

「あ……」

風が吹き、吹いた風に流される様にして舞う何枚かの桜の花びらが龍也の目に映る。
映った光景に龍也が幻想的なものを感じている間に、幽々子が桜の木の傍に現れ、

「お隣、良いかしら?」

隣良いかと言う事を尋ねて来た。
尋ねて来た幽々子を見て、桜と幽々子と言う組み合わせは絵になるなと言う事を龍也は思いつつ、

「ああ、良いぞ」

隣に座っても構わないと言う返答を幽々子に返す。

「そ。ありがと」

そう返された幽々子は礼の言葉を述べて龍也の隣に移動して腰を落ち着かせ、

「んー……こうやって白玉楼以外の場所で桜を見るのも良いものね」

白玉楼以外の場所で見る桜も良いものだと呟く。
呟かれた事を受け、

「一言に桜と言って大きさやら枝の付き方やら何やら違うからなぁ。更に言えば桜に限らず何かを見る時って場所によって感じ方も違うし」

同意する様な事を龍也は口にし、

「あら、解ってるじゃない」
「ま、それなりにな」
「と言う事は、歌を詠んだりとかも出来るのかしら?」
「いや、そっちの方は全然だな」
「残念ねぇ。こう言う時に歌の一つや二つでも詠めれば、女の子のハートを鷲掴みに出来るって言うのに」
「そうなのか?」
「そう言うものよ。何だったら、歌の詠み方でも教えて上げましょうか?」
「……いや、遠慮しとく」
「一寸悩んだでしょ」
「悩んでねぇよ」
「またまたー。男の子何だから、女の子にモテモテになりたいって言う願望は在るでしょ」
「無い」
「もう、照れちゃって。ま、そう言うところを可愛いと思えるのが女の度量よね」
「だから……」
「はいはい、私は解ってるから」

幽々子と雑談を交わしていった。
正確に言うと、幽々子による龍也のからかいが始まったであろうが。
兎も角、そんな会話を交わした後、

「女の子にモテモテになっても、油断しちゃ駄目よ。一人の子だけに優しくしていると、他の子が怖いからね」

忠告するかの様に女の子皆に優しくした方が良い的な事を幽々子は述べ、

「それじゃ、私はそろそろ行くわね」

立ち上がってそろそろ行くと言う事を龍也に伝える。
そして、

「そうか。それじゃ、またな」
「宴会に参加している以上、また会う事も在るでしょ。その時は、またお話でもしましょうね」

龍也と軽い別れの挨拶の言葉を交わし、幽々子は他の場所へと向かって行った。
去って行く幽々子を見送った龍也は再度桜の木に目を向けて酒を飲む。
宴会と言う事で周囲が騒がしい中、一人静か酒を飲むと言うのも中々に良いものだと思っている龍也に、

「あら、一人でどうしたの?」

何者かが声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した龍也は、一旦酒を飲むのを止めて声が発せられたであろう場所に顔を向ける。
顔を向けた龍也の目には、

「霊夢」

霊夢の姿が映った。
同時に、霊夢は龍也の隣に腰を落ち着かせ、

「一人で飲んでる何て珍しいわね」

一人で飲んでる姿が珍しいと言う。
そう言われた龍也は宴会の時は誰かと一緒になって話したり騒いだりしている事が多いなと思いつつ、

「ま、偶には皆が騒いで中で一人酒を飲みたい気分になる時も在るさ」

一人で飲みたい気分になる時も在ると返し、

「そう言う霊夢はどう何だ?」

霊夢はどうなのかと言い返す。
言い返された霊夢は持って来ていた酒を一口飲み、

「……そうね。私も皆が騒いでいる中で一人お酒を飲みたい気分になる時も在るわ」

自分も龍也と同じ気分になる事も在ると呟き、

「それにしても、桜を見ながらの宴会なら白玉楼でも良いと思うんだけどねぇ。どうして私の所でやるのかしら」

一寸した疑問と言える様なものを霊夢は零した。
確かに、桜を見ながらの宴会であるのなら白逆楼でも問題は無い。
いや、桜の数も敷地面積も白玉楼の方が上。
ならば、宴会をする場所は白玉楼で良いと思われるだろう。
だと言うのに、今回の宴会に宴会場に博麗神社が選ばれている。
宴会会場に博麗神社が選ばれた理由として、

「単純に冥界に在る白玉楼よりも幻想郷に在る博麗神社の方が近いからじゃないか? 宴会に参加してる奴等って妖夢と幽々子を除いたら幻想郷に住んでるのばかりだし」

冥界の白玉楼よりも幻想郷の博麗神社の方が近いからだろうと言う予想を龍也は上げた。
上げられた予想内容を受け、

「あー……成程ねぇ。だったら、感謝の意味も籠めて宴会の後片付けを毎回手伝ってくれるとかしてくれれば良いのに」

納得した表情になりながら霊夢は龍也に意味有り気な視線を送る。
送られた視線に気付いた龍也は霊夢が何を言いたいのかを察し、

「分かってるって。宴会の後片付け位、手伝ってやるよ」

後片付けは手伝うと言う確約を行なう。
すると、

「ありがとう、龍也」

霊夢は笑顔になって礼の言葉を龍也に掛けた。
手伝うと言っただけでこうも嬉しそうになった霊夢に現金な奴と言う感想を抱く。
が、直ぐに抱いた感想を頭の隅に追い遣り、

「手伝うのは良いけど、俺一人に押し付けずにお前も後片付けをしろよ」

後片付けをする際にはちゃんと霊夢も参加しろと言う忠告の様な言葉を掛ける。
掛けられた言葉に対し、

「あら、今日はどうせ家に泊まってくんでしょ? 龍也の分のご飯、用意するのは私なんだけどなー」

そんな返答を霊夢は返した。
その瞬間、

「うぐ……」

ついと言った感じで龍也は言葉を詰まらせてしまう。
宴会で騒ぎ、宴会後の後片付けを含めたら疲労感やら何やらでとてもじゃ旅を再開する気分にはなれない。
となると、今日博麗神社に泊まると言う選択肢を龍也が取る可能性は高いだろう。
博麗神社に泊まった場合、龍也のご飯を用意するのは霊夢になる。
ここで霊夢の機嫌を損ねたら今日の晩ご飯、若しくは明日の朝ご飯が無くなってしまうのは確実と言っても良い。
ご飯抜きと言う状況になるのは龍也として勘弁したいので、

「……お前、良い性格してるよ」

苦し紛れと言った感じで龍也は霊夢を良い性格していると称する。
龍也としては皮肉を籠めてそう称したのだが、霊夢は言葉通りの意味で受け取ったらしく、

「当然。私の様な素敵な巫女は滅多に居る者じゃ無いわ」

ご機嫌と言った表情に霊夢はなり、

「あ、そうそう。素敵な賽銭箱にお賽銭入れてくれたら宴会の後片付け、私は手伝うんだけどなー」

賽銭箱に賽銭を入れたら後片付けを自分は手伝うと言う事を言ってのけた。
博麗神社の賽銭箱に賽銭を入れる事自体、博麗神社来ると何時もやっている事である為、

「分かってるって。後で入れてやるよ」

後で賽銭を入れると言う事を龍也は口にする。
これで賽銭箱の賽銭が入る事が確定したからか、

「ありがとう、龍也」

満面の笑みで霊夢は龍也に礼の言葉を掛けた。
掛けられた礼の言葉に、

「おう」

おうと龍也は返し、

「……ともあれだ。話はこの辺にしてのんびりと桜でも見ようぜ」

これからはのんびりと桜を見ようと言う提案を行なう。

「そうね、お喋りはこの辺にしてお酒を飲みながら桜でも見ていましょうか」

行なわれた提案に霊夢は賛同の意を示し、酒を飲む。
こうして、龍也と霊夢の二人はのんびりと桜を見ながらの酒盛りを始めた。






















霊夢と一緒に桜を見ながら幾らか経った頃。
龍也は霊夢と別れ、宴会場内を歩き回っていた。
何故かと言うと、酒ばかり飲んでいて小腹が空いて来てしまったからだ。
ともあれ、食べ歩きの様な感じで龍也が宴会場を回っていると、

「……ん? 隙間?」

突如として、進行方向上に隙間が現れた。
行き成り現れた隙間に反応した龍也は一旦足を止め、隙間を注視する。
その瞬間、

「御機嫌よう、龍也」

背後から紫の声が発せられ、

「うおわあ!?」

思いっ切り驚いた声を上げながら慌てて振り返る。
振り返った先には良い笑顔を浮かべた紫が居り、

「あら、そんなに驚いてくれて嬉しいわ」

紫は龍也の反応に満足がいったと言う表情を浮かべていた。
そんな紫を見て幾らか冷静になれた龍也は、

「あんた、普通に登場出来ないのか?」

普通に登場出来ないのかと言う疑問を紫にぶつける。
すると、

「あら、それじゃ面白くないでしょ」

ウインクをしながら紫は普通に登場したのでは面白くないだろうと言ってのけた。
これでは何を言っても無駄だと龍也は判断し、

「……はぁ」

溜息を一つ吐き、

「ありがとな」

一言、ありがとうと言う言葉を紫に向けて発する。

「あら、何がかしら」
「冬の時の事だよ。あんたのお陰で、俺は喰われずに済んで今こうして日々を過ごす事が出来ている。だから、ありがとう」

急に礼を言われた事で一体何に対しての礼かと言う疑問を抱いた紫に、礼を言った理由を伝えながら龍也は頭を下げてもう一度礼の言葉を発した。
取り敢えず、礼の言葉の意味を理解した紫は、

「そうね……そこまで言われたのならば、どういたしましてと返して置きましょう」

そう返し、酒を飲む。
礼の言葉を受け入れられたと言う事で、龍也は顔を上げる。
顔を上げた龍也の目には、酒を飲んでいる紫の頬が若干赤くなっているのが映った。
この事から、紫は礼を言われ慣れていないのではと龍也は考える。
まぁ、八雲紫は胡散臭い事で有名な妖怪だ。
誰かから礼を言われる事に慣れていなくても、仕方が無いだろう。
と言った事を龍也が思っていると、

「……貴方、今何か変な事を思わなかった?」

ジト目になった紫が何か変な事を思ってなかったかと問うて来たので、

「いや、何も」

シレッとした表情で龍也は何も思っていないと口にする。
口にされた事を受けた紫は息を一つ吐き、

「……まぁ、良いわ」

この話題を打ち切り、

「どう? 私と一緒に飲まない?」

自分と一緒に飲まないかと言う誘いを龍也に掛けた。
紫と一緒に飲むと言う事は余り無かったからか、

「そうだな、一緒に飲むか」

龍也は紫と一緒に飲む事を決める。
そして、龍也は紫と二人で酒を飲み始めた。






















紫と一緒に酒を飲んでから幾らかすると、龍也は紫と別れて再び宴会場内に繰り出していた。
再び宴会場内に繰り出した主な理由は、小腹を満たす為。
結局、紫とは桜を見ながら酒を飲みながら雑談をしていただけ。
小腹を満たす事が出来なかったので、小腹を満たす為に宴会場を歩き回るのも仕方が無いと言えるだろう。
ともあれ、そんな感じで宴会場内を歩いていると、

「お……」

果物の盛り合わせが乗った皿が置いて在るのを龍也は発見した。
これならば小腹を満たす事も十分に可能であるで、

「いっただっきまーす」

早速と言わんばかりに龍也は果物の盛り合わせを食べ始める。
それから少しすると皿は空になり、

「ふー……結構腹は膨れたな」

満足気な表情を浮かべながら腹が結構膨れた事を龍也は呟く。
そして、また別の場所に向かおうとした時、

「御機嫌よう、龍也」

何者かが龍也に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した龍也は、声が聞こえて来た方に顔を向ける。
顔を向けた龍也の目には、

「レミリア」

傘を刺しているレミリアの姿が映った。
映ったレミリアの姿から、声を掛けて来たのはレミリアであると龍也は判断し、

「お前も来てたんだな」

お前も来ていたんだなと言う。
言われた事に対し、

「ええ、魔理沙に誘われてね」

魔理沙に誘われて来たとレミリアは返す。
レミリアを誘ったと言う事は、魔理沙は紅魔館にも足を運んだと言う事になるだろう。
これを念頭に置きながら、今回の宴会で会って来た面々の姿を龍也は思い浮かべ、

「やっぱ色々とフットワーク軽いよな、あいつ」

浮かべた結果、フットワークが軽いと言う言葉が自然と龍也の口から零れた。
零れた言葉に反応したレミリアは、

「貴方がそれを言う? 年がら年中幻想郷を旅して回っているのに」

軽い突っ込みを龍也に入れ、

「それはそれとして、龍也。私のものにならない?」

何時もの様にと自分のものにならないかと言う誘いを掛ける。
掛けられた誘いに対し、龍也はこれまた何時もの様に、

「悪いが断る」

断ると言う返答をレミリアに返す。

「あら、それは残念」

自身の誘いを断られたと言うのに、レミリアは口では残念と言ってはいるがその表情に残念さは見られなかった。
何れ必ず龍也を自分のものにすると言う自信が在るからであろうか。
兎も角、お約束とも言えるやり取りを行なった後、

「そういや、何時も咲夜に傘を刺させているけど今日はそうじゃないんだな」

ふと疑問に思った事を龍也はレミリアに尋ねてみた。
尋ねられたレミリアはシレッとした表情で、

「ああ、咲夜なら今日は自由にして良いって言ってあるの。あの子だって好きに羽を伸ばしたい時だって在るでしょうし」

咲夜は自由にさせている事とその理由を言ってのける。

「成程なぁ……」

取り敢えず、咲夜が居ない事に龍也が納得していると、

「龍也が執事長になったら私が外出する際、咲夜との交代制で私に傘を刺せると言う栄誉も手に入るわよ」

龍也を自分ものにした場合に付いての待遇の一部をレミリアは語り始める。
仮に自分がレミリアのものになって紅魔館の執事長になったとしても、掃除と簡単な雑用位しかまともに出来ない執事長が出来そうだと言う事を龍也は思いつつ、

「ははは……」

苦笑いを浮かべた。
そんな時、

「おや、お兄さんと吸血鬼のお姉さんじゃないか」

その様な声が龍也とレミリアの耳に入って来る。
入って来た声に反応した二人は、声が発せられたであろう方に顔を動かす。
二人が顔を動かした先にはてゐの姿が在った。
この事から声を発した者はてゐであると龍也は判断し、

「てゐも来てたんだな」

そう口にする。

「うん。魔理沙が永遠亭に宴会の誘いに来てね」

口にされた事を受け、魔理沙に誘われた事をてゐ話す。
永遠亭まで行けたと言う事は、魔理沙は迷いの竹林を迷わず突破したと言う事になる。
何らかの魔法を使ったのか、それとも運が良かったのか。
どちらにせよ、迷わずに迷いの竹林を突破出来たのは称賛するに値する事だろう。
と言った様な事を龍也が考えている間に、

「永遠亭に住まう只の小兎妖怪……って訳じゃなさそうよね、貴女」

てゐに対して探る様な視線をレミリアは向けていた。
レミリアの目には、てゐが只の兎の妖獣に見えなかったのだろうか。
てゐを探っている様なレミリアを見て龍也はそう思案しつつ、ある事を思い出す。
思い出した事と言うのは、幽香がてゐに対して何かしらの可能性を思い浮かべていたと言うもの。
あの時はてゐの名前が気に掛かっただけと幽香は言っていた。
だが、幽香に続いてレミリアまでてゐに対して何かしら思案する事があったのは事実。
だから、

「実はお前って、大妖怪だったりするのか?」

ついと言った感じで龍也はてゐに大妖怪なのかと言う問いを掛ける。
問い掛けられたてゐは龍也の方に顔を向け、

「まっさかー。私が大妖怪な訳無いじゃん。私は只の可愛くてか弱い兎の妖獣だよ」

満面の笑みを浮かべながら自分は只の兎の妖獣であると言い切った。
どう見てもそう言い切ったてゐは胡散臭かったのだが、

「……ま、そう言う事ならそう言う事にして置いて上げましょうか」

レミリアはその事に追求せずにこの話題を打ち切る言葉を述べる。
追求を止めたレミリアに意外だと言う感想を龍也が抱くと、

「無理に追求する程の事じゃないし、本人が言いたくないのならそれで良いのよ」

龍也の抱いた感想を見抜いたかの様にレミリアは龍也に追求を止めた理由を話し、

「それに、女の秘密を聞きたがるのは紳士として失格よ」

序と言わんばかりにからかう様な声色でそう語り掛けた。
まぁ、確かに別段追求する事でも無いので、

「それもそうだな」

龍也もこの話題は忘却の彼方へと追い遣る事にする。
一応この話は流れたが、自分の事を大妖怪ではと言う疑問を抱いた二人に対し、

「警戒するなら私より姫様かお師匠様だと思うんだけどなー」

自分よりも輝夜と永琳を警戒するべきだろうと言う事を零す。

「あら、あの二人が実力者である事は一目で分かったわよ。只、貴女が実力者かそうでないかの判別が付かないだけ」

零された発言が耳に入ったレミリアは、零された発言にそう返答しながら周囲を軽く見渡していく。
すると、

「……あ、見っけ」

近くのテーブルの上に乗っかっているワイン瓶を手に取り、

「さて、このお話しはこれ位にワインでも飲まない? 紅魔館から持って来た物だから味は保障するわよ」

ワインでも一緒に飲まないかと言う提案を行なう。

「……そうだな。一緒にワインでも飲むか」
「お、良いねー。永遠亭ではお酒ばかりだから、ワインは楽しみー」

行なわれた提案を龍也とてゐは受け入れ、レミリアと一緒にワインを飲みながら雑談を交わしていった。






















結局、この宴会は夜になるまで続けられた。
そして、龍也の以外の面々は宴会が終わると流れ解散の感じで帰ってしまう。
となれば、当然宴会の後片付けをするのは残っている龍也と霊夢だけ。
まぁ、こうなる事を龍也は予想していたが。
兎も角、当初の予定通り龍也は宴会の後片付けをする事になる。
因みに、宴会中に賽銭箱の中に賽銭を入れて置いたお陰か霊夢も約束を守って後片付けに参加してくれた。
と言っても、半ば龍也のおまけの様な感じの働きしかしなかったが。
ともあれ、後片付けが終わると龍也は博麗神社で一泊する事にする。
その次の日、龍也は博麗神社で朝食を取った。
無論、朝食を作ったのは霊夢であるが。
それはさて置き、霊夢が作ってくれた朝食を取った龍也は博麗神社を後にした。
























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