朝、玄武の力で作った土で出来た簡易型の家の中で目が覚めた龍也は体を伸ばしながら少しずつ頭を覚醒させていく。
ある程度頭が覚醒した辺りで龍也は体を伸ばすのを止めてベッドから降り、

「さーて……」

扉まで近付き、扉を開けて外に出る。
外に出て、外の景色を見た龍也は、

「なん……だと……」

そんな言葉を漏らしながら驚きの表情を浮かべてしまう。
何故、その様な言葉が漏れてしまったのか。
答えは簡単。
見渡せる範囲全てと言って良い程に無数の花が咲き誇っている光景が龍也の目に映ったからだ。
無論、龍也の目に映ったのは只の花では無い。
もし只の花であったのなら、龍也も驚きはしなかったであろう。
では、驚いてしまった理由は何処に在るのか。
それは、咲いている花の種類に在った。
何と、春の花、夏の花、秋の花、冬の花と言った様にそれぞれ咲く季節が違う花が一斉に咲いているのだ。
花に関して龍也はそこまで詳しくは無いが、それでも春夏秋冬の季節を代表する花の一つや二つ位は知っている。
だからこそ、驚いたのだ。
そして、季節の違う花が一斉に咲くなど在り得ないと言う考えに至り、

「……異変か?」

今現在、異変が起きているのでは言う結論を龍也は出した。
とは言え、仮にこれが異変であったとしてもどう言った異変であるかまでは分からない為、

「ま、取り敢えずは動いてみるか……」

取り敢えず動いてみる事にし、準備運動も兼ねて龍也は手首足首を回していく。
準備運動をしている中、龍也は先ず何所に向かうべきかを考えていく。
考え始めてから幾らか経つと、

「先ずは洞窟の様子を確かめるか」

先ず、自分が家として使っている無名の丘の洞窟に行く事を決める。
至る所に様々な種類の花が咲いていると言うこの現状から推察するに、洞窟の中に花が咲き誇っていないとは限らない。
もし洞窟の中にも無数の花が咲き誇っていたら、洞窟の中は花粉塗れになっている事だろう。
洞窟内が花粉塗れになっていた場合、掃除が大変であるからか、

「……さっさと戻るか」

直ぐにでも無名の丘に戻る事を龍也は決める。
後で戻るよりも今戻れば洞窟内が花粉塗れだったとしても被害が少ないだろうし、掃除の手間も幾らか楽になるだろう。
ともあれ、無名の丘に戻る事を決めた龍也は自身の力を変える。
玄武の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から茶に変わると、龍也は自身の掌を土で出来た簡易型の家に向け、

「……ッ」

土で出来た簡易型の家を消し、自身の力を消す。
力を消した事で瞳の色が茶から元の黒に戻ると、龍也は跳躍を行って空中に霊力で出来た見えない足場を作り、

「よっと」

作った足場に足を着けて無名の丘が在る場所を探す様にして顔を動かしていく。
顔を動かしてから少しすると無名の丘が在る方向を発見したので、龍也は空中を掛ける様にして無名の丘へと向かって行った。






















無名の丘に戻り、洞窟内を確認し終えた龍也は、

「別に何とも無かったな」

何とも無かったと呟いた。
そう呟いた通り、洞窟内には花が一本も生えていなかったのだ。
まぁ、洞窟内は日光が殆ど差し込まない場所なので花が生えていないのは当然と言えば当然である。
結果だけ見たら無駄足を踏んだだけで終わったからか、

「無駄足を踏んだかな……」

愚痴を零して龍也は息を一つ吐き、ランプの火を消す。
ランプの火が消えた事で洞窟内が暗くなった後、龍也は己が掌から炎を生み出した。
生み出された炎のお陰で周囲が照らされて再び明るくなったのを確認した龍也は、出口に向けて足を動かして行く。
そして洞窟外に出ると龍也は掌の炎を握りつぶす様にして消し、自身の力を消す。
力を消した事で龍也の瞳の色が紅から黒に戻ると、

「ふぅ……」

龍也は一息吐いて周囲を見渡していき、

「……あれ?」

ある事に気付く。
気付いた事と言うのは、咲いている鈴蘭の数。
洞窟内の様子を確認するのを優先していた事で戻って来た当初は気付けなかったが、今改めて鈴蘭畑を見ると鈴蘭の数が普段よりも多いのだ。
今の季節には咲かない花が咲き誇っていると言う事実が既に在るからか、

「……これも異変の影響なのか?」

ここ、無名の丘に咲いている鈴蘭の数が多いのも異変の影響なのではと龍也は考える。
となると、今回の異変は花に関する異変と言う事になるのであろうか。
だが、多種多様な花が咲いてしまったのは余波であって本当の異変は全く別のものと言う可能性も捨て切れない。
と言った感じで今回の異変に付いて悩むも、

「……悩んでも仕方が無いな。取り敢えず、ここに異変の手掛かりが無いか調べてみるか」

直ぐに悩んでいても仕方が無いと言う判断を龍也は下し、気持ちを切り替えるかの様に無名の丘を調べる事を決めて足を動かし始める。
無名の丘を歩き、鈴蘭畑の様子を見ても咲いている鈴蘭の数が多いと言う事以外に異常と言えるものは見られなかった。
若しかしたら、ここに手掛かりになる様なものは無いのではと言う考えが龍也の脳裏に過ぎった時、

「あっ!!」

鈴蘭畑の中から何かに驚いた様な声が発せられる。
発せられた声に反応した龍也は足を止め、声が発せられたであろう方向に顔を向けて注視した。
注視した龍也の目には、

「メディスン」

メディスンの姿が映った。
同時に、

「またここに来たの?」

そんな問いがメディスンから投げ掛けられる。

「またここに来たのって言われても、俺もここに住んでるんだけどな」

問い掛けられた事に龍也はそう返しつつ、メディスンに一歩近付く。
何時もなら近付いて来た龍也から離れる様にしてメディスンは一歩下がるのだが、今回は下がると言う事をしなかった。
だからか、

「お……」

ついと言った感じで、意外だと言った表情を龍也は浮かべてしまう。

「どうかした?」
「いや、別に」

龍也が浮かべている表情を見て疑問に思ったメディスンが首を傾げながらどうかしたのかと聞いて来たので、直ぐに龍也は表情を戻して別にと言いながら首を横に振る。

「ふーん……」

これと言って興味の無い事であったからか、それ以上追求すると言った事をメディスンはせず、

「処で、龍也は何してるの?」

次の話に移るかの様にメディスンは龍也に何をしているのかと聞く。
聞かれた事は別に隠さなければならない情報では無いので、

「俺か? 俺は異変の調査だな」

異変の調査をしている事を龍也はメディスンに教える。

「異変?」

教えられた内容を受けたメディスンがまた首を傾げてしまった為、

「ああ。俺の予想になるけど、色んな花が大量に咲き捲くるってのが今回の異変だ」

ああと言う言葉と共に今回の異変がどう言ったものであるかを龍也は話す。

「花が大量……」

話された内容を受けたメディスンが少し何かを考える素振りを見せた後、鈴蘭畑に目を向ける。
その後、慌てて龍也の方に顔を向け、

「……ッ!!」

龍也を睨み付けた。
メディスンから睨み付けられた龍也が、睨み付けられる理由が分からないと言った感じで少々困惑した様な表情になった瞬間、

「スーさんが一杯あるから……スーさんを持って行く気でしょ!!」

メディスンは龍也にそう言い放つ。

「いや、待て!! 違うから!! 別に鈴蘭を盗もう何て考えて無いから!!」
「させない!!」

言い放たれた事を龍也は必死になって否定し様としたが、龍也の言い分など聞きたくないと言った感じでメディスンは弾幕を放ち始める。

「おっとお!!」

迫り来る弾幕を見て、龍也は空中に躍り出て弾幕を避けた。
そして、空中に霊力で出来た見えない足場を作って龍也はそこに足を着ける。
龍也が空中に留まってから数秒程経つと、メディスンも空中に上がって来た。
空中に上がっ来たメディスンの雰囲気から、自分と戦う気である事を龍也は感じ取る。

「……………………………………」

戦う気満々と言った様子のメディスンを見て妙に好戦的だなと言う感想を抱いた刹那、ある可能性が龍也の頭に過ぎる。
過ぎった可能性と言うのは、鈴蘭の毒を過剰摂取したのではと言うもの。
メディスン・メランコリーと言う妖怪は毒をエネルギーにして動いている。
以前、龍也がメディスンと戦った際にメディスンは毒が切れたと言う理由で行動不能に陥っていた。
なので、メディスンが毒をエネルギーとしている事に間違いは無いだろう。
ともあれ、普段のメディスンはその毒を無名の丘の鈴蘭畑の鈴蘭から吸収している。
だが、今回に限っては毒を吸収する鈴蘭が何時もよりも多過ぎると言える程に咲き誇っているのだ。
多過ぎた鈴蘭のせいでメディスンは何時よりもずっと多くの毒を吸収してしまい、気分が高揚して軽い興奮状態になってしまった。
だから、メディスンは龍也の話を聞かずに戦う事を優先している。
と言うのが、龍也の頭に過ぎった可能性だ。
過ぎった可能性が正しいのであれば、ある程度戦えば毒が減って落ち着くではと言う推察を龍也が行なった時、

「ッ!!」

大量の弾幕がメディスから放たれて来た。
迫り来る弾幕を避ける為に高度を上げ、自分の真下付近を通り抜けている弾幕に目を向けると、

「……威力が低いな」

放たれた弾幕の威力が低い事を龍也は感じ取る。
威力が低い弾幕を大量に放って来ると言う事は、目晦ましか牽制。
若しくはエネルギーの浪費を抑える為か弾幕ごっこの合図。
今のメディスンの状態を踏まえるとこの四つの内、弾幕ごっこの合図であると龍也は判断し、

「弾幕ごっこでメディスンと戦うのは初めてだけど……良いぜ、やろうか」

軽い笑みを浮かべながらメディスンと弾幕ごっこをする事を決め、弾幕を幾らか放ち始める。
龍也から放たれた弾幕を見たメディスンは弾幕の射線上から逃れる様にして龍也と同じ位置に向かうかの様に高度を上げ、

「この程度!!」

龍也と同じ高度に達するとそこで高度を上げるのを止め、密度の濃い弾幕を放った。
今居る場所に留まっていては被弾するのは確実であるので、龍也は横に移動する様に回避しながら一旦弾幕を放つのを止めてメディスンの動きを観察していく。
観察していくと、以前戦った時よりもメディスンの動きが格段に良い事が分かった。
以前戦った時よりも時は流れているし、今のメディスンはエネルギーである毒を過剰摂取していると思われる状態。
動きが以前よりも良いとしても、不思議は無いだろう。
そう思いながら攻勢に入る為、龍也は再度弾幕をメディスンに向けて放つ。
龍也とメディスンの弾幕は二人の中間地点でぶつかり合い、数を減らしながら相手の方へと向かって行った。
数が減っていると言う事もあり、二人が放った弾幕は相手に容易く避けられてしまう。
撃った弾幕は相殺し合って数を減らし、数が減った弾幕を避けながら弾幕を放ち続ける。
それを何度も繰り返していくと、一向に変化する様子を見せない状況に痺れを切らしたからか、

「なら……」

メディスンは弾幕を放つのを止めて懐に手を入れ、懐からスペルカードを取り出し、

「毒符『ポイズンブレス』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動するのと同時に、メディスンは四方向に向けて密度のある弾幕を飛ばす。
四方向に飛ばされている弾幕を見た龍也は再び弾幕を放つのを止め、放たれた弾幕の観察をし始める。
すると、四方向に放たれた弾幕は風車の羽根車を思わすかの様な回転を始めた。
因みに、回転している方向は反時計回りだ。
兎も角、この儘では横っ腹に弾幕を叩き込まれる事になりかねない為、

「………………………………………………」

回転している弾幕の流れに乗る形で龍也は移動先を変更する。
そのタイミングで、

「ッ!!」

メディスンが紫色をした大きな気体を放って来たのが龍也の目に映った。
見ただけで毒性が有ると思える様な色合いをしているからか、龍也は少し嫌そうな表情を浮かべる。
出来る事ならその気体を触る事などしたくは無いが、気体を避ける為の下手に回避行動を取ったら弾幕に当たってしまう。
毒の気体と弾幕であれば、息を止めれば無効化出来る毒の気体の方がマシであるからか、

「……仕方無ぇか」

妥協したと言った感じの表情を浮かべながら龍也は息を止めて紫色をした気体に備える。
そして、紫色をした気体が龍也に触れた瞬間、

「ッ!?」

龍也の動きが鈍くなってしまった。
突如として体の動きが鈍くなった事に龍也は驚くも、直ぐにある事に気付く。
気付いた事と言うのは、紫色をした気体は呼吸ではなく皮膚接触で毒が回るのではと言うもの。
であるならば、龍也が取った息を止めて毒の気体に備えると言う方法は悪手であったと言える。
だが、今更後悔したところでもう遅い。
動きが鈍くなってしまった今の龍也のスピードは、回転している弾幕よりも遅くなってしまっている。
被弾してしまうのは確実と言って良いだろう。
こうなったら被弾した際の衝撃に備えるべきかと思ったのと同時に龍也は紫色をした気体の範囲内から脱し、

「……ん?」

鈍っていた龍也の体の動きが元に戻った。
お陰で回転している弾幕に当たる事は無くなった為、取り敢えずと言った感じで龍也は分かった事を纏めていく。
先ず、先程受けた紫色をした気体。
受けたその瞬間に害が発生した事から考えるに、この気体は毒ガスと判断しても問題ないだろう。
毒ガスを受けた際に自身の動きが鈍くなった事から、毒ガスは相手の動きを鈍らせる効果が有ると言う事になる。
毒ガスは呼吸だけではなく、皮膚接触でも毒を受けてしまう。
但し、この毒ガスは毒ガスと接触している間にしか毒の影響を受けない。
と言った感じで分かった事を一通り纏めた後、龍也は改めて思う。
厄介であると。
回避行動を取ってる状態で動きが鈍くなると言う事は、はっきり言って致命的だ。
弾幕ごっこをしている今なら動きが鈍くなって被弾したとしても大した事にはならないが、通常戦闘なら下手をしたら致命傷を負う事になっていただろう。
どちらか片方だけならどうとでもなったのにと思った龍也の目に、

「ッ!!」

結構な広範囲にばら撒かれている毒ガスが映った。
これでは下手に攻勢に移ろうものなら毒ガスを受けて動きが鈍り、弾幕を喰らってしまうのは確実。
となれば、毒ガスに当たらない様に立ち回るべきなのだが、

「そうすると、弾幕の方に突っ込む事になるんだよなぁ」

毒ガスに当たらない様に立ち回ると、弾幕の方に突っ込むと言うリスクを負う事になってしまう。
しかし、動きが鈍っている状態で強力な一撃を受ける可能性を考慮すると弾幕の中に体を突っ込ませて弾幕を避け続ける方がまだマシだからか、

「……よし」

覚悟を決めた表情を浮かべて龍也は弾幕の方に移動する。
移動した龍也は弾幕の雨霰に曝される事になってしまったが、それでも直撃だけは何とか避けていた。
とは言え、何時までも避け続ける事が出来るとは限らない。
もし、弾幕を受けて動きが鈍ればその瞬間には弾幕の海に呑まれてしまうのは確実。
そうならない為にもさっさとメディスンを倒したいところなのだが、攻撃に移る隙を龍也は見付ける事を出来ないでいた。
完全に分が悪い事を認識した龍也は打開策を考え出そうとしつつ、メディスンの方に顔を向ける。
顔を向けた先に居るメディスンは自分が優位である事を自覚しているからか、余裕が感じられる表情を浮かべていた。
あの余裕が油断に繋がればと思いつつ、龍也は改めて弾幕と毒ガスのどちらか片方が無くなればと言う願望を頭に過ぎらせた刹那、

「…………あ」

気付く。
毒ガスを何とかする方法を自分が持っていると言う事に。
何で今の今まで気付けなかったのかと言う軽い後悔の念を龍也は抱きつつ、自分の体を毒ガス側に寄せながら懐に手を入れ、

「……よし」

懐からスペルカードを取り出し、

「咆哮『白虎の雄叫び』」

スペルカードを発動する。
スペルカードが発動すると龍也の瞳の色が黒から翠に変わり、龍也から超小型の竜巻が無数に放たれた。
放たれた超小型の竜巻が毒ガスに接触すると、毒ガスが吹き飛ばされてしまう。

「あ!! また風!!」

吹き飛ばされた毒ガスを見たメディスンは、以前龍也と戦った際に毒を風で吹き飛ばされた事を思い出して嫌なものを見る様な表情を浮かべる。
が、直ぐに浮かべていた表情を強気なものに変え、

「でも、そんな風何か!!」

超小型の竜巻に向けて弾幕の射線を変更した。
そして、弾幕が超小型の竜巻に当たると、

「あっ!!」

弾幕は様々な方向へ撒き散らすかの様にして飛んで行ってしまう。
飛んで行く弾幕の方向に規則性は全く見られない為、自分の方に来る弾幕を龍也は己が動体視力と反射神経で回避しながらダメ押しと言わんばかりに弾幕を放つ。
新たに龍也から放たれた弾幕も超小型の竜巻にぶつかると様々な方向に規則性無く飛んで行く。
こうなると、単純計算で龍也とメディスンに襲い掛かる弾幕量は二倍になると言える。
このスペルカードの特性を理解している龍也は慌てる事なく回避行動を取り続けているが、このスペルカードを初めて見るメディスンは慌てずに対処する事が出来ず、

「わ、わ、わ!!」

あたふたとした動作で回避行動を取っていく。
しかし、次第にどう避けて良いか分からなくなり、

「きゃあ!!」

何発もの弾幕をメディスンは受けてしまい、墜落して行ってしまう。
メディスンが放っていた弾幕と毒ガスの消失と共に。
墜落して行っているメディスンを見た龍也は、弾幕と毒ガスが消えた事から気絶したのではと思いスペルカードの発動を止める。
スペルカードの発動が止まると超小型の竜巻と放たれていた弾幕が消え、龍也の瞳の色が翠から黒に戻った。
同時に、龍也は急降下して墜落して行っているメディスンを追う。
急降下していると言う事もあり、メディスンとの距離を龍也はどんどんと縮めていく。
これなら地面に激突する前に掬い上げる事が出来そうだと龍也が思った時、メディスンは体を回転させて体勢を立て直してその場に留まった。
それを見た龍也はメディスンと同じ高度に達した辺りで降下を止め、メディスンに目を向ける。
目を向けた先に居るメディスンは、少しバツが悪そうな表情を浮かべていた。
浮かべていた表情を視界に入れ、戦意を感じなかった事から、

「……落ち着いたか?」

確認の意味合いを籠めて龍也はメディスンにそう問い掛ける。
問い掛けられたメディスンは龍也をジッと見詰め、

「…………ほんとにスーさんを持って行ったりはしない?」

本当に鈴蘭を盗みに来たのでは無いのかと聞く。

「持ってったりしないって。第一、俺は野に生えた花とかを見る方が好きだしな」

聞かれた龍也が迷い無くそう答えると、

「………………分かった、信じる」

結構小さ目な声量でメディスンは信じると呟いた。
取り敢えず信じてくれた様で龍也は安心したと言った感じで一息吐き、改めて周囲を見渡していく。
周囲を見渡した結果、やはりと言うべきか鈴蘭の数が多いと言う以外に異常は見られなかった。
もし、ここに異変の犯人かそれに係わる者が居たとしたら龍也とメディスンの弾幕ごっこが終わった今の段階で現れる筈。
だと言うのに、現れる処か何のアクションも起こして来ないと言う事はここに異変の関係者が居ると言う可能性は低いだろう。
だからか、

「……ここに異変の元凶が居そうに無いな」

無名の丘に異変の元凶は居ないと言う結論を出した。
そして、他の場所へと向かおうと龍也が決めた瞬間、

「ね……ねぇ、龍也」

恐る恐ると言った感じでメディスンは龍也に声を掛ける。
声を掛けられた龍也はメディスンの方に顔を向け、

「ん? どうした?」

どうかしたのかと聞く。

「え……えっとね。花が大量に咲いてるって言ってたけど、それってスーさん以外の花も沢山咲いてるって事?」

聞かれたメディスンは龍也に鈴蘭以外の花も沢山咲いているのかと言う事を尋ねる。
基本的に無名の丘かその近辺にしか行かないメディスンに取って、鈴蘭以外の花を沢山見る事が出来ると言うのは興味が惹かれる事なのだろう。
ともあれ、隠さなければならない情報でも無いので、

「ああ、少なくとも俺がここに来るまで通って来た場所には色んな花が咲いてたぞ」

取り敢えず確定している情報を龍也はメディスンに教える。

「へー……」

教えられた内容を受けたメディスンは興味深そうな表情を浮かべた。
メディスンが浮かべた表情を見た龍也は興味が有るんだなと思いつつ、ある考えを抱く。
抱いた考えと言うのは、異変解決にメディスンを連れて行こうかと言うもの。
異変解決に行くともなれば様々な場所に赴く事になるので、メディスンの興味も満たせるだろう。
中々良い考えだと龍也は自画自賛する様な事を思ったが、直ぐに抱いた考えを頭の隅に追い遣る。
何故かと言うと、異変解決を主としている自分と花の観賞を主とするであろうメディスンとでは途中でペースなどが合わなくなる事が予期出来るからだ。
それが花の観賞と言った何かの鑑賞を目的とするのであれば尚更だ。
だからか、

「……じゃ、俺はそろそろ行くな」

特に何かを言うと言った事を龍也はせず、メディスンにもう行くと言う事を伝える。
すると、

「えと、その、あの……また……ね」

恥ずかしいのか、少々言葉を詰まらせながらまたねと言う言葉をメディスンは発した。
発せられた言葉を受けた龍也は、

「ああ、またな。それと、矢鱈滅多らと喧嘩を売る様な事はするなよ」

同じ様にまたなと返しながら軽い忠告をし、メディスンに背を向け、

「さて……」

軽く遠くの方を見渡す。
遠くを見渡してから少しすると何となく気に掛かった方に龍也は体を向け、空中を掛ける様にして無名の丘を後にした。























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