無名の丘を後にし、幻想郷の何所かの空中を超速歩法を連用しながら移動している龍也は、

「うーん……」

眼下を見下ろしながら異変の元凶を探していた。
それも、無名の丘を後にしてからずっと。
だが、幾ら探しても元凶のげの字も見付からなかった。
見付かるのは多種多様と言える花だけ。
だからか、

「何所へ行って花ばかりか……」

ついと言った感じで愚痴と言える様なものを龍也は零し、溜息を一つ吐く。
はっきり言って、龍也には何所へ行けば良いのか全く検討が付いていない。
やはり、何かしらの手掛かりを見付けなければ何の進展も見込めないのだろう。
とは言え、その手掛かりさえも見付かる気配は少しも見られない為、

「どうすっかな……」

どうするべきかと龍也は考え始める。
その瞬間、

「龍也さん?」

背後から自身の名を呼ぶ声が龍也の耳に入って来た。
耳に入って来た声に反応した龍也は超速歩法を止めて立ち止まり、背後に体を向ける。
体を背後に向けた龍也の目には、

「妖夢」

魂魄妖夢の姿が映った。
映った妖夢の姿から声を掛けて者が誰であるかを龍也が理解したのと同時に、

「どうも」

軽い挨拶の言葉と共に妖夢は頭を下げ、

「何所かに向うところでしたか?」

下げた頭を上げながら龍也に何所かに向かうところだったのかと尋ねる。
尋ねられた龍也は、

「何所にって言うより、この多種多様な花が大量に咲いた原因を調べてるところだ」

そう答えながら眼下を指でさす。
さされた指に釣られる様にして視線を下に向けた妖夢の目には、多種多様の花が沢山映った。
眼下に見える様々な花を確認した妖夢が視線を戻したタイミングで、

「妖夢は何しに来たんだ?」

龍也が妖夢に何しに来たんだと言う事を尋ね返すと、

「私もです。幽々子様が『地上には沢山の花が咲いているのよ。季節の花関係無しにね。だから、一寸調べて来なさい』と仰られたので」

自分もそうだと言いながら補足する様に幽々子の言葉で冥界から地上にやって来た事を妖夢は話す。

「そうか」

話された内容を受けた龍也は納得した表情になったが、直ぐに何かに気付いた様な表情になり、

「ん? 幽々子は地上に沢山の花が……って言ったのか?」

幽々子の言葉を確認しに掛かる。

「はい、そうです」
「と言う事は、冥界にはこんな風に花は咲いていないのか?」

された確認に妖夢が肯定の返事をすると、冥界には多種多様な花は咲いていないのかと問う。

「はい。冥界は地上の様に多種多様な花は咲いていませんね」
「ふむ……」

問われた事に妖夢はこれまた肯定の返事をした為、ある二つの考えが龍也の頭に過ぎった。
一つはこの異変は冥界には影響を及ばさず地上、つまりは幻想郷にのみ影響を及ばすと言うもの。
もう一つは異変の犯人が冥界に潜伏していると言う可能性。
この二つが、龍也の頭に過ぎった考えだ。
だが、後者の考えが正しかったら既に幽々子が犯人の居所位を掴んでいるだろう。
尤も、犯人が幽々子なら話は別であるが。
と言っても、この異変の犯人が幽々子であると龍也は思っていない。
何故ならば、もし幽々子が犯人であるのならば妖夢に協力させるであろうからだ。
実際、嘗て幽々子が起こした異変では妖夢に手伝わせていた。
以上の事から、幽々子は犯人ではないだろうと言う結論を龍也が下そうとした時、

「どうかしましたか?」

黙り込んでしまった龍也を不審に思ったからか、心配する様な声色で妖夢は龍也にどうかしたのかと言う声を掛ける。
掛けられた声に反応した龍也は意識を浮上させ、

「いや、何でもない」

何でもないと言いながら首を横に振り、

「処で、妖夢は何か分かったか?」

話を変えるかの様に妖夢は何か分かったかと問う。

「いえ、それが全然……」

問われた妖夢は無念さが幾らか感じさせる声色で何も分かっていない事を漏らし、

「龍也さんは?」

龍也はどうだったのだと言う疑問を投げ掛ける。

「俺もだ……」

投げ掛けられた疑問に答えるかの様に自分もだと零して溜息を一つ吐く。
どうやら、龍也も妖夢も手掛かりは何一つ得る事が出来なかった様だ。
お互い何の情報も持っていない事が分かり、二人の間に何とも言えない空気が流れ始めたが、

「……あ、そうだ!!」

そんな空気を払拭するかの様に妖夢は何かを思い付いた様な表情になり、

「どうでしょう、気分転換がてらに私と手合わせをしませんか?」

自分と手合わせをしないかと言う提案を龍也に行なう。

「手合わせ?」
「はい。一回頭の中をリセットして、体を動かせば何か良い案が浮かぶかも知れませんし」

行なわれた提案を受けた龍也が疑問気な表情を浮かべると、妖夢は手合わせを提案した理由を説明し始めた。
された説明内容を頭に入れた龍也は確かに気分転換も必要だと考え、

「そうだな、手合わせするか」

妖夢との手合わせする事を決めて自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から紅へと変わり、それと同時に龍也は両手から二本の炎の剣を生み出して構えを取った。
構えを取った龍也の姿を見た妖夢は楼観剣を鞘から抜き、引き抜いた楼観剣を両手で握りながら同じ様に構えを取った。
戦う準備が二人共整ったからか、

「「………………………………………………」」

龍也と妖夢は相手の様子を伺いながら距離を少しずつ詰めて行く。
そして、

「「ッ!!」」

ある程度距離が縮まった辺りで龍也と妖夢は同時に駆け、

「はあ!!」
「やあ!!」

自身の得物を振るう。
振るわれた得物は相手の得物と激突し、二人は鍔迫り合いの様な形に移行する。
鍔迫り合いの様な形に入った二人は力で相手を押し切ろうとしたが、それは僅かな時間だけで二人は直ぐに間合いを取った。
弾かれる様にして。
間合いが取れ、一息吐くと思われた瞬間、

「しっ!!」

物凄い勢いで龍也は妖夢に肉迫し、右手の炎の剣で突きを放つ。

「ッ!?」

間髪入れずに攻勢に入って来た龍也に妖夢は驚くも、反射的に体を逸らして炎の剣による刺突を避ける。
だが、龍也の攻撃はこれだけでは終わらなかった。
何と、炎の剣による刺突を避けられたのを見た龍也は一歩踏み出しながら左手の炎の剣を振るって来たのだ。
新たに振るわれた炎の剣をその場で回避するのは不可能だと妖夢は直感的に感じ取り、

「くっ!!」

後ろへ跳ぶと言う方法で振るわれた炎の剣を回避した。
回避している中で只後ろに跳んだだけでは追撃を喰らってしまうと予測した妖夢は楼観剣から左手を離し、離した左手で白楼剣を鞘から引き抜き、

「はあ!!」

引き抜いた白楼剣を楼観剣と一緒に振るい、斬撃を飛ばす。
飛んで来た斬撃を見た龍也は、

「ちっ」

舌打ちをしながら追撃を仕掛けるのを止め、右手の炎の剣を振るって飛んで来た斬撃を斬り払う。
目先の脅威を排除した後、改めて龍也は妖夢に視線を向けたが、

「居ない!?」

龍也が向けた視線の先に妖夢の姿は無かった。
一体何処にと思った刹那、

「ッ!?」

龍也は背後から気配を感じ、慌てて背後に体を向ける。
すると、楼観剣を両手で振り被りながら突っ込んで来ている妖夢の姿が龍也の目に映った。
つい先程飛ばして来た斬撃を隠れ蓑にして背後に回ったのかと推察しながら龍也は理解する。
迎撃、回避は無理だと。
ならば、取れる手段は防御のみ。
そう判断した龍也は反射的に二本の炎の剣を交差させる。
そのタイミングで妖夢の楼観剣は振り下ろされ、振り下ろされた楼観剣は交差された二本の炎の剣に激突し、

「ぐお!!」

龍也を弾き飛ばした。
予想よりも遥かに重い一撃に龍也は驚くも、直ぐに体勢を立て直しながら新たに霊力で出来た見えない足場を作ってそこに足を着け、

「ぐうぅぅ……!!」

着けた足に力を籠め、ブレーキを掛けて減速させて行く。
減速して行く中で顔を上げると、龍也の目に楼観剣を振り被りながら突っ込んで来ている妖夢の姿が映った。
やはりと言うべきか、妖夢は追撃を仕掛けて来た様だ。
とは言え、先程までと違って龍也と妖夢の距離には幾らかの余裕が存在していた。
だからか、この距離ならば迎撃は可能であると龍也は判断して両手を合わせて二本の炎の剣を一本の炎の大剣に変える。
そして、減速が停止に変わった瞬間、

「らあ!!」

炎の大剣を龍也は思いっ切り振るう。
思いっ切り振るわれた炎の大剣に合わせるかの様にして、

「はあ!!」

妖夢も楼観剣を振るった。
振るわれた炎の大剣と楼観剣は激突し、大きな激突音と衝撃波が発生する。
発生した激突音は兎も角、衝撃波は二人の体を突き抜けたが、

「ぐうううぅぅぅぅ……!!」
「くうううぅぅぅぅ……!!」

龍也と妖夢は突き抜けた衝撃波を無視するかの様に再び鍔迫り合いの様な状態に入り、力で相手を押し切ろうとし始めた。
まるで戦い始めの焼き回しの様に見えるが、一つだけ違う点が在る。
違う点と言うのは鍔迫り合いをしている時間。
始めの時とは違い、この鍔迫り合いを二人は維持し続けているのだ。
今回は力で押し切ってやると言う意気込みが感じられる程に。
しかし、そんな鍔迫り合いも、

「ッ!?」

妖夢が押され始めたと言う事態により、終わりを見せた。
だが、これはある意味当然の結果と言える。
何故かと言うと、戦っている場所が地上ではなく空中だからだ。
通常飛行で空を飛んでいる妖夢に対し、龍也は霊力で空中に見えない足場を作ってそこに足を着けている。
足場に足を着けていない妖夢は踏ん張りが効かないが、足場に足を着けている龍也は踏ん張りが効く。
どちらが優位なのかは説明するまでも無いだろう。
ともあれ、この儘では完全に押し切られるのも時間の問題であると妖夢は思い、

「くっ!!」

若干悔しさが感じられる表情を浮かべながら妖夢は大きく後ろに跳び、鍔迫り合いを強制的に中断させた。
強制的に鍔迫り合いを中断させられた事で龍也は幾らかバランスを崩してしまったが、直ぐに体勢を立て直して妖夢へと突っ込んで行く。
時同じくして、妖夢も龍也へと突っ込んで行った。
突っ込んで行った二人は交差し、大きな激突音が辺り一帯に響き渡って衝撃波が発生する。
響き渡った激突音も発生した衝撃波も無視するかの様に交差した二人は離れて行ったが、ある程度離れた辺りで龍也と妖夢は急停止しながら振り返り、

「「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」

より一層気合を入れながら再び相手に向けて突っ込んで行き、再度交差して離れて行った。
無論、激突音と衝撃波を発生させながら。
交差して離れて行き、また突っ込んでは交差して離れて行く。
こんな行為を龍也と妖夢は何度も繰り返していった。
何度も、何度も。
どちらかが仕留められるまでこの繰り返しは終わらないと予想されたが、

「はあ!!」
「やあ!!」

それも龍也と妖夢が三度目の鍔迫り合いの様な形に入った事で終わりを告げた。
が、これでは二度目の時の様に妖夢は龍也に力負けしまうのではないか。
そう思われたが、そうはならなかった。
何故ならば、鍔迫り合いの様な形に入ったのと同時に妖夢が楼観剣を引きながら一歩後ろに下がったからだ。
そのせいで龍也は少し前のめりになりながらバランスを崩してしまう。
勿論、その隙を見逃す妖夢ではない。
生じた隙を突くかの様に妖夢は楼観剣で刺突を放つ。
放たれた刺突を目で捉えた龍也は、

「くっ!!」

慌てて炎の大剣を盾の様にして構える。
防御が間に合うかどうか微妙なところであったものの、

「ぐっ!!」

何とか間に合った様で、楼観剣による刺突は龍也の体ではなく炎の大剣に叩き込まれた。
一見防御に成功している様に見えるが、崩れたバランスの儘で防御をしたせいか、

「ぐお!!」

突き飛ばされる形で龍也は後方に吹っ飛んで行ってしまった。
吹っ飛ばされた龍也に追撃を掛ける為、妖夢は吹っ飛んで行った龍也を追う。
追って来た妖夢に気付いた龍也は体を回転させて体勢を立て直し、妖夢を迎え撃つかの様に急停止しながら炎の大剣を構え直す。
炎の大剣を構え直して迎撃準備万端と言った龍也を見た妖夢は警戒したかの様に楼観剣を強く握り、自分の間合いに龍也が入ったタイミングで、

「しっ!!」

楼観剣を思いっ切り振るう。
振るわれた楼観剣を迎え撃つかの様に龍也も炎の大剣を振るった。
そして、楼観剣と炎の大剣は激突する。
激突した影響で発生した大きな激突音と衝撃波を無視するかの様に二人は自分の得物を相手の得物から離し、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

龍也と妖夢は超高速で自身の得物を何度も振るい、二人は自分の得物を相手の得物にぶつけ合う。
得物がぶつかり合う度に激突音が響き渡り、衝撃波が発生して火花が舞い散ちるが二人は全く気にした様子を見せずに得物を振るい続けていく。
何度も。
何度も、何度も。
何度も、何度も、何度も。
未来永劫続くかと思われた剣戟も、

「くっ!!」
「ッ!!」

龍也と妖夢が弾かれたかの様に離れた事で終わりとなった。
弾かれる様にして離れたお陰で間合いが取れたからか、二人は構えを取り直しながら息を整えていく。
そんな中、

「流石ですね、龍也さん。前に手合わせをした時よりも随分と腕を上げた様で」

ふと、龍也を称賛する言葉を妖夢は口にする。
口にされた事を受けた龍也は、

「そう言うお前もな、妖夢。妖夢だって、前に手合わせした時よりもずっと強くなってるぜ」

妖夢も強くなっていると返す。

「ありがとうございます」

そう返された妖夢は礼の言葉を述べ、

「それはそうと、こうやって龍也さんと剣を合わせるのはやはり楽しいですね」

話を変えるかの様に龍也と剣を合わせるのは楽しいと零した。
零された言葉が耳に入ったからか、

「そうだな、我武者羅に剣を振るって相手の剣と合わせるってのは楽しいな」

それに同意するかの様な台詞を龍也は漏らす。
どうやら、龍也と妖夢は自分の剣を相手の剣と合わせると言う行為を楽しんでいた様だ。
ある意味、自分達が似た者同士である事を実感した龍也と妖夢は、

「ふ……」
「ぷ……」

ついと言った感じで軽い笑みを浮かべた。
何やら、戦いを続ける雰囲気ではない空気が流れ始めたが、

「龍也さんと何度も剣を合わせた事で気分が乗って来ましたが、この気分の儘の状態で技を放つと手合わせのレベルの超えてしまうでしょう。ですから、
これを使わせて貰います」

流れた空気を無視する様に妖夢は戦いを続行する旨とこの儘では手合わせのレベルを超えてしまう事を龍也に伝え、左手を楼観剣から離して懐に入れる。
懐に手を入れた妖夢を見た龍也が幾らかの警戒をし始めた瞬間、妖夢は懐からスペルカードを取り出し、

「断命剣『成仏得脱斬』」

スペルカードを発動させた。
スペルカードが発動した瞬間、妖夢は龍也との距離を詰めながら左手で白楼剣を抜いて楼観剣と同時に振るう。

「ッ!!」

振るわれた楼観剣と白楼剣を見た龍也は、反射的に後ろに下がる。
これで何とか回避したと思うも束の間、妖夢が楼観剣と白楼剣を振り切った場所から大きなエネルギー体の柱が発生した。
発生したエネルギー体が大き過ぎたせいか、龍也はエネルギー体の直撃を受けて上空へと舞い上げられてしまう。
舞い上げられた龍也は、舞い上げられながら理解する。
妖夢がスペルカードを使った理由を。
その理由と言うのは、自分に大怪我を負わせない為と言うもの。
何故そう言った理由が出て来たのかと言うと、二人の戦いが手合わせであるからだ。
今の気分が乗っている妖夢では強力な技を放った場合、上手く加減が出来ないと言う可能性が出て来る。
もし加減出来ていない状態の技の直撃を龍也が喰らったら。
間違い無く、それ相応の怪我を負う事になるだろう。
只の手合わせで大きな怪我を負わせる訳にはいかないので、スペルカードによる攻撃を妖夢は行なったのだ。
スペルカードは弾幕ごっこと言う遊びの為に作られた物である為、例え直撃したとしてもそれ相応の衝撃が在るだけでダメージ自体は殆ど無い。
故に、妖夢はスペルカードによる攻撃を行なったのである。
と言った感じで妖夢がスペルカードを発動した理由に付いて推察している間に、自分を追って来ている妖夢の姿が龍也の目に映った。
態々追撃を掛けさせる必要は無いと思いながら龍也は体を回転させて体勢を立て直しながら炎の大剣から左手を離し、離した左手を懐に入れる。
そして、懐からスペルカード取り出し、

「炎爆『爆発する剣の軌跡』」

取り出したスペルカードを発動させる。
スペルカードを発動させたのは妖夢のスペルカードに合わせたと言う理由も在るが、龍也自身も気分が乗って来ているからだ。
現在の気分が乗っている状態で普通に技を放った場合、手合わせのレベルを超えた威力で技を放ってしまうと言う可能性が龍也にも出て来る。
だから、スペルカードによる攻撃を龍也も選択したのだ。
兎も角、スペルカードを発動した龍也は炎の大剣を両手で握り直して妖夢に向けて突っ込んで行く。
龍也を追っていた妖夢と、妖夢に向けて突っ込んで行く龍也。
二人が相手を自身の間合いに入れた瞬間、龍也と妖夢は自身の得物を振るう。
振るわれた二人の得物は当然の様に激突する。
しかし、それだけでは終わらなかった。
何と、振るわれた炎の大剣の軌跡が爆発を起こしたのだ。
突如として発生した爆発は発生し様としていたエネルギー体を呑み込み、大爆発を起こした。
発生した大爆発の爆風に当てられた妖夢は吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされた妖夢は体勢を立て直しながら急ブレーキを掛け、強引に停止し、

「しまった……」

若干表情を歪めながら自分の失態を悔やむ様な発言を零す。
今、龍也が発動したスペルカードを妖夢は見た事が在る。
だと言うのに、妖夢は振るわれた剣の軌跡が爆発すると言う事を失念していた。
悔やむ様な発言を零しても仕方が無いだろう。
ともあれ、何時までも自分の失態を悔やんでいても仕方が無い。
気持ちを切り替えるかの様に妖夢は軽く頭を振り、龍也を探そうと周囲を伺っていく。
が、幾ら探しても龍也の姿を見付ける事は出来なかった。
若しやあの爆発で倒せたかと言う考えが一瞬妖夢の頭に過ぎったが、直ぐに過ぎった考えを妖夢は頭から追い遣る。
龍也がスペルカードでの技のぶつけ合いで発生した爆発で倒せる程度の男では無いと言う事を、今までの手合わせや戦いで妖夢は解っているからだ。
必ず、龍也は何処からか攻撃を仕掛けて来る。
そんな確信とも言える何を感じながら周囲を警戒している妖夢の首元に、

「……え?」

炎の大剣が突き付けられていた。

「一体何処から……」

警戒外の場所から接近された事に気付けなかったから、一体何処からと言った疑問を龍也に掛ける。
掛けられた疑問に返すかの様に、

「爆発の中を突っ切って来た」

シレッとした表情になりながら龍也は爆破の中を突っ切って来た事を話す。
話された内容から力尽な戦い方を好んでいる龍也なら爆発の中を突っ切って来ても不思議では無いと言う判断を妖夢は下し、

「私の負けですね」

自分の負けを宣言した。
妖夢からの敗北宣言を受けた龍也は炎の大剣を消し、自分の力も消す。
力を消した事で龍也の瞳の色が紅から元の黒に戻ると、妖夢は楼観剣と白楼剣を鞘に収め、

「お見事です、龍也さん」

改めてと言った感じで龍也を称賛する言葉を述べる。

「お見事って程でも無いけどな。一歩間違えれば、妖夢が勝ってただろうし」

述べられた称賛に返すかの様に、そう口にしながら軽く息を一つ吐く。
そんな龍也を見て、

「それにしても、やっぱり便利ですね。龍也さんの飛行方法」

龍也との手合わせを思い返しながら妖夢は龍也の飛行方法が便利だと言う発言を漏らした。
漏らされた発言が耳に入ったからか、

「俺の飛行方法って言うと……空中に足場を作るやつの事か?」

確認するかの様に龍也は妖夢に自分の飛行方法と言うのは空中に足場を作るやつかと聞く。

「はい、そうです」

聞かれた事に妖夢は肯定の返事をしつつ、

「空中に足場を作れれば、空中での近接戦がかなり優位になりますからね。例えば、龍也さんもやっていた様に鍔迫り合いで踏ん張りを入れるって感じで」

空中に足場を作ると言う事に付いての利点を挙げる。
妖夢としては龍也の飛行方法が羨ましい様だが、

「俺としては、普通に飛べる方が便利だと思うけどな」

自由自在に空を飛ぶ事が出来ない龍也には妖夢の飛び方が羨ましく思える様だ。
要するに、龍也と妖夢は隣の芝生が青く見える状態であると言う事であろうか。
ともあれ、接近戦を得意としている妖夢に取って空中に足場を作ると言うのは是非とも習得したい技術である為、

「空中に足場を作る練習、してみ様かな」

少々真剣な表情を浮かべながら妖夢は空中に足場を作る練習をし様かと考え始めた。
そして、

「練習か……俺も偶に普通に空飛ぶのを練習してるけど、全然出来る気配が無いんだよなぁ。空中に上がって空を飛ぶ練習すると、決まって落ちるし」
「空中で飛行練習って、無茶しますね。地上で飛行練習した方が良いんじゃないですか?」
「それはあれだ。危機的状況に陥った方が普通に空を飛ぶのも成功しそうだろ」
「自分から危機的状況を作るとか、危険な事をしますね。それ、一歩間違えたら墜落死ですよ」
「まぁ、それはさて置きだ。妖夢ってどうやって空を飛んでるんだ?」
「え? えーと……こう、飛んでやるぞって気持ちを抱きながら……ですかね?」
「んー……確か前にもそう言う気持ちを抱きながら飛ぼうとしたけど、飛べなかったんだよなぁ」
「あ、そう何ですか」
「やっぱり、感覚的な話って個人個人で違うからかなぁ」
「参考までに聞きたいのですが、龍也さんはどうやって空中に足場を作っているんですか?」
「えーと……こう……足裏に力を籠めるって感じ?」
「……試しにやってみましたけど、足場が出来る気配は全く見られないですね」
「あ、そう?」
「やはり、自分の感覚的なものを誰かに伝えると言うのは難しいと言う事でしょうね」
「ははは……」

龍也と妖夢は軽い雑談を交わしていく。
交わしていた雑談に一段落付くと、

「処で、今回の異変を解決するに当たって何か良い案は出ましたか?」

ふと思い出したと言った感じで妖夢は龍也に今回の異変解決をする為の良い案は出たかと問う。
問われた龍也は何かを思い出したかの様な表情になり、

「ああ。一回頭の中を空にしたからか、良い案と言うか行くべき場所を思い付いたよ」

良い案り言うよりは行くべき場所を思い付いた事を龍也は述べ、

「妖夢の方はどうだ?」

妖夢はどうだと問い返す。
問い返された妖夢は、

「はい、私の方も調べてみたい場所が思い付きました」

自分も調べてみたい場所を思い付いたと断言した。
上手い事、お互い進むべき道と言うのが見えたからか龍也と妖夢は軽い笑みを浮かべつつ、

「それじゃ、またな」
「ええ、また」

そう言い合い、二人はそれぞれが思い付いた場所に体を向ける。
その後、龍也と妖夢の二人は思い付いた場所へと向かって行った。























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