妖夢と別れた後、龍也は空中を超速歩法の連用で移動しながらある場所を目指して移動していた。
目指している場所と言うのは、太陽の畑。
何故太陽の畑を目指しているのかと言うと、風見幽香に会う為だ。
風見幽香と言う妖怪は龍也と同じで幻想郷中を渡り歩いている。
それでは太陽の畑に行っても幽香に会えるとは限らないのではと思われるかも知れないが、夏と言う季節なら話は別。
夏ならば太陽の畑に咲く向日葵の鑑賞や手入れをする為か、幽香は太陽の畑から殆ど離れない。
しかし、今の季節は春。
であるならば、やはり太陽の畑に行っても幽香に会るとは限らないだろう。
だが、太陽の畑に行って幽香と会える確率は夏と大して変わらない筈だと龍也は考えていた。
何故かと言うと、今回の異変で幻想郷の至る所に多種多様な花が咲き誇っているからだ。
と言っても、無名の丘の鈴蘭畑の様に既に咲いている花が数を異様なまでに増やしていると言うケースも存在している。
ならば、今現在の太陽の畑に向日葵が沢山咲いてると言う可能性も十分に考えられるだろう。
となると、向日葵が沢山咲いていると考えられる太陽の畑に幽香が居る確率は高い。
これが、太陽の畑に龍也が向かっている理由だ。
では、何故龍也は幽香に会おうとしているのか。
答えは簡単。
今回の異変はどう言う形にしても花が係わっているのは確実である為、幽香に意見を聞くべきだと判断したからだ。
幽香は四季のフラワーマスターと言う異名を持つ妖怪。
そんな幽香なら今回の異変に付いて何かしらの情報を持っているかも知れないと考えられるので、龍也は幽香に会おうと判断したのだ。
因みに、幽香に会おうと決めた時に龍也は今回の異変の犯人が幽香なのではと言う可能性を一瞬だが頭に過ぎらせた。
"花を操る程度の能力"と言う能力を幽香は有しているので、幽香を犯人に上げたとしても仕方が無いだろう。
更に言うのであれば、幽香から自身の能力で出来る事を龍也は聞いた覚えが在った。
聞いた内容は種から一瞬で花を咲かせたり、咲いている花の向きを変えたり、枯れた花を元の状態に戻す等々。
それだけの事が出来るのであれば、季節を無視した花を一斉に咲かせる事など朝飯前だろう。
はっきり言って幽香を犯人とする要素はかなり在るのだが、頭に過ぎらせた幽香が犯人であると言う可能性を龍也は消失させた。
消失させた理由は、幽香が花を何よりも大切にしている妖怪であるからだ。
花を何よりも大切している幽香が、本来の季節を無視するかの様に多種多様な花を咲かせているのかと問われた首を傾げてしまう。
故に、龍也は異変の犯人から幽香を除外したのである。
ともあれ、太陽の畑に向かい始めてからそこそこ時間が経ったからか、

「後、どれ位かな……」

太陽の畑まで後どれ位かと言う事を龍也は呟く。
そんな時、

「おっと」

何かが龍也の胸元にぶつかって来た。
ぶつかって来た何かに反応した龍也は一旦足を止め、何がぶつかったのかを確認しに掛かる。
確認した結果、

「てゐ?」

ぶつかって来た何かはてゐである事が分かった。
龍也がてゐの存在を認識したのと同時に、

「あ、お兄さん」

てゐも龍也の存在に気付いたかの様に顔を上げる。
お互いの存在を認識した後、てゐがぶつかって来たと言う事もあり、

「大丈夫か?」

安否を確認するかの様に大丈夫かと言う言葉を龍也がてゐに掛けると、

「うん、大丈夫だよ」

大丈夫だと言いながらてゐは龍也から少し離れた。
離れて行ったてゐを見ても怪我を負っている様子は見られない。
当然、先の接触で龍也も怪我を負ってはいなかった。
お互い怪我も無くて良かったと言う事を龍也が思ったタイミングで、

「ッ!!」

てゐは何かに気付いたかの様な表情を浮かべ、

「あ、ごめん。私、一寸急いでいるんだ」

まるで取って付けたかの様に急いでいると言い始める。
明らかに怪しい素振りを見せたてゐに疑うかの様な視線を龍也が向け様とした瞬間、

「またね、お兄さん」

またねと言う言葉と共にてゐは龍也の胸元を軽く叩き、何所かに向けて素っ飛んで行ってしまう。
現れて早々に何所か行ってしまったてゐを何処かポカーンとした表情で龍也が見送っている間に、

「あ、龍也」

何者かが龍也の名を呼んで来た。
自身の名を呼ばれたと言う事で、龍也は声が発せられたであろう方に体を向ける。
体を向けた龍也の目には、

「鈴仙」

兎耳を生やした少女、鈴仙の姿が映った。
目に映った鈴仙の姿から自分の名を呼んだ者の正体を龍也が理解した刹那、

「あ、聞きたい事が在るんだけど良い?」

聞きたい事が在ると言う言葉が鈴仙から発せられる。

「ん、何だ?」

別段断る理由も無いので、龍也は鈴仙に聞きたい事を言う様に促す。

「ありがと。それで、てゐを見なかったかしら?」

快く自分の頼みを引き受けて龍也に鈴仙は礼を言いつつ、早速と言わんばかりにてゐを見なかったと言う事を問う。

「てゐなら……あっちの方へ行ったぞ」

問われた龍也はてゐが素っ飛んで行った方を人差し指でさす。
しかし、

「…………………………………………………………」

さされた人差し指の先ではなく龍也の胸元に鈴仙の視線は向いていた。
鈴仙の視線の先が自分の胸元に向いている事を疑問に思ったからか、

「ん? どうかしたか?」

ついと言った感じで龍也は鈴仙にどうかしたのかと聞く。
聞かれ鈴仙はジト目になりながら龍也を見詰め、

「ねぇ、貴方の懐から見えてるそれ……」

龍也の懐から見えている何かに付いて言及し様とする。

「懐から見えてるそれ?」

言及され様としている事を受けて龍也は疑問気な表情になりながら顔を下げて自身の胸元に視線を移した。
視線を移した龍也の目には、胸元から服みたいな何かが零れる様にしてはみ出ているのが映る。

「何だこれ?」
「……それ、私のブレザーじゃない?」

映ったものに龍也が疑問を覚えると、鈴仙から龍也の胸元から零れているものは自分のブレザーではないかと言う発言が紡がれた。

「え?」

紡がれた発言を受けた龍也は顔を上げて鈴仙の姿を視界に収める。
視界に収め、改めて鈴仙の姿を見た龍也は鈴仙がブレザー着けていない事に気付く。
そのタイミングで、

「ブレザーが無いと思っていたら……まさかあんたが……」

鈴仙は疑いの眼差し龍也へと向けた。

「一寸待て、誤解だ!!」

衣服泥棒扱いされるのは勘弁したいからか、龍也は両手を振りながら必死になって自分の無実を訴え様とする。
無実を訴える際に両手を振るったせいか龍也の胸元から見えていたブレザーの位置がズレ始め、

「……ん?」

ブレザー以外の何かが見え始めたのが龍也の目の端に映った。
只でさえ鈴仙から自分のブレザーを盗んだ犯人疑惑を持たれていると言うのに、これ以上何が在るだと思いながら龍也は手を振るのを止めてブレザー以外の何かを手に取る。
龍也が手に取ったものとは、

「……下着?」

下着であった。
しかも、女性物の。
何故、自分の胸元から鈴仙のブレザーだけではなく女性物の下着が出て来たのかと言う疑問を龍也が抱いていると、

「それ……私の下着……」

ポツリと、感情が感じられない様な声色で今龍也が手にしているのは自分の下着である事を鈴仙は呟いた。
呟かれた事が耳に入ったからか、

「……え?」

自然な動きで龍也は顔を鈴仙の方に向ける。
顔を向けた龍也の目には、顔を赤く染めて右手を拳銃の様な形にしながら自分の方に向けている鈴仙の姿が映った。
以前、鈴仙と戦った事がある龍也は直ぐに理解する。
これから何が起ころうとしているのかと言う事を。
そして、

「こんの……下着ドロボー!!!!」

怒号とも取れる叫びと共に、鈴仙の指先から銃弾型の弾幕が幾らか放たれた。
放たれた弾幕を視界に入れた龍也は、

「うお!!」

反射的に体を逸らして放たれた弾幕を避け、

「待て!! 落ち着け!!!! 誤解だ!!!!!!」

先程の時よりも必死になりながら自分の無実を訴え様とする。

「じゃあ、何で私のブレザーと下着があんたの懐から出て来るのよ!?」

訴えられた内容を半分位耳に入れた鈴仙は龍也の懐から自分のブレザーと下着が出て来た理由に付いて言及し始めた。

「んな事言われて…………あ」

言及されたところでそんな理由など分かる訳が無かったのだが、龍也は唐突に先程会ったてゐの事を思い出す。
先程会ったてゐは龍也と別れる際、龍也の胸元を軽く叩いた。
若しかしてあの時、てゐが自分の懐に鈴仙のブレザーや下着を入れたのではないか。
そんな考えが自身の脳裏に過ぎった後、

「鈴仙!! 俺の話を……」

脳裏に過ぎった考えを龍也は鈴仙に伝え様としたが、

「聞く耳持たん!!!! この変態!!!!」

聞く耳持たんと言い放ちながら鈴仙は再び弾幕を放ち始めた。
どうやら、今の鈴仙は頭に血が完全に昇ってしまっている様だ。
これでは、鈴仙に話を聞いて貰う事は不可能であろう。
だが、何としてでも自分の話を鈴仙に聞いて貰わなければならないと言う想いが龍也にはあった。
何故ならば、ここで鈴仙の誤解を解かなければ龍也は下着泥棒と言う汚名を一生背負う事になるからだ。
無実だと言うのにその様な汚名を背負う事は龍也としては御免である。
とは言え、今の鈴仙に龍也の話をちゃんと聞くだけの冷静さは有りはしないだろう。
となれば、取れる手段は一つ。
戦って鈴仙に冷静さを取り戻させる。
そう言った方法を龍也は取る事にし、鈴仙から放たれた弾幕を避ける様にして間合いを取り、

「そら!!」

お返しと言わんばかりに龍也も弾幕を放って応戦を始めた。
龍也と鈴仙の二人から放たれた弾幕は二人の中間地点でぶつかり合い、その大半が相殺し合っていく。
相殺されなかった弾幕はそれぞれ龍也と鈴仙の方に向かって行ったが、数が減っていると言う事もあってか弾幕が二人に当たる事は無かった。
暫しの間、そんな感じで弾幕を撃ち合っている中、

「……………………………………………………」

鈴仙が放っている弾幕の狙いが以前戦った時と比べて粗いのではと言う事を龍也は感じる。
まぁ、それも仕方が無いだろう。
頭に血が昇っているのだから。
が、頭に血が昇っているせいか狙いが粗い代わりに弾速に関しては以前戦った時よりも速いとも龍也は感じていた。
そうなると、総合的に見たらプラマイ零であろうか。
兎も角、弾幕を撃ち合っていても一向に状況が動く気配を見せないからか、

「くっ!!」

イライラして来たと言った表情を鈴仙は浮べ始めた。
普段と違って頭に血が昇っているせいか、今の鈴仙は沸点がかなり低い様だ。
そして、イライラが頂点に達したと思われる刹那、

「なら!!」

鈴仙は弾幕を放つのを止めて懐に手を入れ、懐からスペルカードを取り出した。
取り出されたスペルカードを見た龍也は一寸した驚きの感情を抱く。
今の鈴仙の状態なら致命傷を与える様な攻撃を仕掛ける来ると思っていたからだ。
だと言うのに、鈴仙は直撃したとしても大した怪我を負う事の無いスペルカードによる攻撃を行なおうとしている。
若しかしたら医療に携わる人間、と言うより妖怪の一人として頭に血が昇ってい様とも相手に致命傷を負わせる事を嫌ったのかもしれない。
ともあれ、スペルカードを使おうとしている理由はどうであろうが、

「波符『赤眼催眠(マインドシェイカー)』」

取り出したスペルカードを鈴仙は発動させた。
スペルカードが発動すると、鈴仙は円を描く様にして弾幕を放ち始める。
鈴仙から放たれた弾幕がある程度進むと、

「なっ!!」

突如として景色が歪んで弾幕の位置が変わり、弾幕が数を増やしたのだ。
景色の歪みと数を増やした弾幕に龍也が驚いている間に、歪んでいた景色が元に戻り、

「くっ!!」

迫り来る弾幕を避ける為に龍也は弾幕を放つのを止め、慌てて回避行動に専念し出す。
回避行動に専念し出した事で何とかと被弾は避けられたが、直ぐに第二波が放たれてしまった。
新たに放たれた第二波も途中で景色が歪んで弾幕の位置が変わり、弾幕の数を増やした為、

「くそっ!!」

悪態を吐きながら龍也は体を動かしていく。
しかし、

「ぐあ!!」

回避し切る事が出来ずに龍也は鈴仙の弾幕の直撃を何発か受け、体勢を崩してしまう。
その隙を突くかの様に鈴仙から第三波が放たれてしまった。
崩れた体勢を立て直す前に第三波が放たれた事で、龍也は崩れた体勢の儘で強引に体を動かして回避行動を取るが、

「づあ!!」

崩れた体勢の儘で回避行動を取ったせいか、第二波の時よりも多くの弾幕を龍也は受けてしまう。
どう見ても状況が悪化していっているからか、少しずつではあるが龍也は冷静さを欠いていく。
冷静さを欠いていっている事を自覚出来た龍也は、

「くっ……落ち着け……落ち着けよ……俺……」

落ち着けと言う言葉を自分に言い聞かせる様に口にする。
そう、冷静さを欠いて変な動きをして負ける訳にはいかないのだ。
もし、ここで龍也が鈴仙に負けてしまったら。
変態やら下着泥棒やらと言った汚名を一生背負う事になってしまう。
そんな事態になったら、死んでも死に切れない。
無論、龍也としても死ぬ気は無いが。
とは言え、幾ら龍也に負ける気も死ぬ気も無くとも戦況が鈴仙に傾いている。
状況が悪い方に向かって行っていると言う事もあり、龍也の思考にネガティブなものが湧き始めた。
そんな時、

「…………はっ、何考えてんだか。俺」

何かに気付いたかの様な表情を龍也は浮かべ、苦笑いを浮かべながら思う。
何をやっているんだと。
今までの戦いとて、勝てる確信が在ったから龍也は戦って来た訳では無い。
勝つと言う確固たる意志を持ち、どの様な相手とも龍也は戦って来たのだ。
どれだけ相手が強く、強大な力を有していたとしても。
この想いは、変わらないであろう。
これまでも、これからも。
だと言うのに、今の体たらくは何だ。
こんな様では、

「これじゃ、また咲夜にらしくないって言われるな」

咲夜にまたらしくないと言われるなと龍也は零し、

「ウジウジ考えるのは止めだ!!」

気合を入れ直すかの様に両頬を叩き、改めてと言った感じで鈴仙が放って来る弾幕を視界に入れる。
弾幕の数は多く、景色は定期的に歪み、弾幕の位置はずれて弾幕の数が増え、弾幕到達地点の予測は非常に難しい。
視界に入れたものから分かった事を纏めてみた龍也は、やはり厄介なスペルカードだと思った。
時間を掛ければ攻略法の一つ位は出そうではあるが、生憎と攻略法を出す為の時間が無い。
となれば、龍也としては取れる方法は一つだけであるからか、

「やるべき事は……」

不敵な笑みを浮かべながら龍也は右手を懐に手を入れ、

「これしかねぇよな!!」

懐からスペルカードを取り出し、

「憤怒『青龍の怒り』」

スペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると龍也の髪が蒼く染まり、瞳の色が蒼に変わって輝き出す。
そして、

「なっ!?」

大量とも言える水の弾幕が鈴仙に向けて降り注ぎ始めた。
相対している相手から弾幕を放たれると言う事は良く在るが、弾幕が相対している相手以外の場所から放たれると言うの比較的珍しいと言える。
だからか、降り注いで来る水の弾幕を見て鈴仙は驚いた表情を浮かべてしまう。
だが、

「こ、これ位!!」

浮かべていた表情を直ぐに元に戻してスペルカードの発動を止め、回避行動に専念し出す。
降り注いで来る水の弾幕を避けると言う行為を鈴仙はやり難そうにしていたが、掠りはしているものの直撃だけは避けていた。
暫らくの間、そんな風に降り注ぐ水の弾幕を鈴仙が避けていると、

「……ッ」

唐突に、降り注いでいた水の弾幕が止んだ。
この事から鈴仙はスペルカードの制限が過ぎたのだと判断し、反撃に転じる為に新たなスペルカードを取り出そうと懐に手を入れた瞬間、

「ぶふう!?」

斜め上空から突っ込んで来た青龍を模した水の塊が鈴仙に激突し、鈴仙は地面に向けて吹っ飛んで行ってしまった。
吹っ飛んでいる中で勝負を急ぎ過ぎた事を鈴仙は反省しつつ、そう遠くない内に地面に激突する事を予想して身構える。
しかし、

「……あれ?」

何時まで経っても地面に激突した衝撃は鈴仙に襲い掛かっては来なかった。
もう地面に激突しても可笑しくはないのにと思いながら鈴仙が周囲の様子を伺おうとした刹那、

「大丈夫か?」

大丈夫かと言う言葉が鈴仙の耳に入る。
耳に入った言葉に反応した鈴仙は声の発生源を探る様に顔を動かすと、龍也が自分の腕を掴んで落下を防いでいる事が分かった。
地面に激突しなかった理由に付いて鈴仙が理解している間に龍也は降下し、鈴仙を少しゆっくりとした動作で鈴仙を地面に下ろす。
鈴仙が地に足を着けたのと同時に龍也も地に足を着け、一息吐く。
すると、龍也の髪と瞳の色が元の黒色に戻り、

「あ、あのな、俺はお前のブレザーや下着を盗んだりは……」

恐る恐ると言った感じで龍也は再び鈴仙に自分の無実を訴えに掛かる。
これで駄目なら戦闘続行だなと無実を訴えながら一抹の不安を龍也が抱いている間に、

「……そうよね」

何処か悟ったかの様な表情を鈴仙は浮かべ、

「翌々考えれば、あんたはそんな事する様な奴じゃ無いし」

そう口にした。
どうやら、鈴仙の誤解が解けた様だ。
戦っている最中に鈴仙の頭に昇っていた血が下がり、冷静さを取り戻してくれたのであろうか。
理由はどうであれ、変態やら下着泥棒と言った汚名を一生背負う事態にならなくて良かったと言った感じで龍也が安堵の息を一つ吐いたタイミングで、

「処で、私のブレザーと下着は?」

自分のブレザーと下着は何処だと言う問いを鈴仙は龍也に投げ掛ける。

「ああ、それなら……」

投げ掛けられた問いに答えるかの様に龍也は己が懐に目を向けたが、

「……あれ?」

目を向けた先の懐には鈴仙のブレザーや下着と言った物は存在してはいなかった。
確かに自分の懐に在った筈なのにと思った龍也は、

「……多分、さっきの戦いでどっかに飛んで行ったんだと思う」

懐に在った鈴仙のブレザーと下着は先の戦いで何所かに飛んで行ってしまったのではと言う推察を述べる。
述べられた推察は納得出来る事であったからか、鈴仙はその推察を信じる事にし、

「探して来るわ」

軽く周囲を見渡して自分のブレザーと下着を探して来ると言う事を決意した。

「あ、俺も手伝おうか?」

何所に飛んで行ったか分からない物を探すとなればかなり骨が折れる事になるのは予想出来るからか、自分も探すのを手伝おうかと言う提案を龍也はする。
された提案を受けた鈴仙は少し意地が悪そうな笑みを浮かべ、

「何? そんなに私の下着をじっくり見たいの?」

からかう様な声色でそんなに自分の下着を見たいのかと言う事を龍也に聞く。

「すいませんでした」

聞かれた事を理解した龍也は、反射的に土下座をして謝罪の言葉を発した。
こうも容易く土下座をしたのは、変態や下着泥棒と言う汚名を背負う事になるのを恐れたからであろうか。
兎も角、土下座しながら謝って来た龍也を見て、

「別に良いわよ、そんな事をしなくても」

何処か呆れた様な表情を浮べながら鈴仙はそこまでする必要は無いと零しつつ、

「下心が有って言った訳じゃないって分かってるし。それでも……ねぇ」

若干顔を赤く染め、龍也から顔を背ける。
男の龍也に自分の下着を見られるのは恥ずかしいと言う事だろう。
何となくではあるが鈴仙の言いたい事を理解した龍也は土下座を止めて立ち上がり、

「分かった。俺は手伝わないよ」

自分は探索を手伝わない事を鈴仙に伝える。
伝えられた内容から自分の言いたい事を龍也が理解したと判断した鈴仙は、軽く姿勢を正しながら龍也に向き直り、

「取り敢えず、龍也。貴方を疑ってごめんなさい」

頭を下げながら龍也を疑った事に対する謝罪を行なった。

「いや、別に良いって。誤解も解けたし、俺自身も大した被害は受けてないしさ」

鈴仙の謝罪を受けた龍也はその様に返すとこれ以上頭を下げていても仕方が無い感じたからか、鈴仙は下げていた頭を上げる。
そして、

「そういや、てゐを追っていたのはやっぱり……」
「ええ、龍也の想像している通りよ。てゐの奴が私のブレザーを持ち出したの。勿論、私の許可を得ずにね」
「何か大変みたいだな」
「てゐの悪戯は割りと良く在る事だけど、まさか私の下着を持ち出すとはね……」
「それも良く在る事なのか?」
「そっちは良く在る事じゃ無いわね。てゐの悪戯って落とし穴を掘ったり、脅かして来たりって言うのが主だし」
「へぇ……」
「それで永遠亭や姫様、師匠に被害が出ると何故か私が怒られるし……」
「あー……お疲れ様」
「……うん、ありがとう」

龍也と鈴仙は軽い会話を交わし始めた。
と言っても、途中から龍也が鈴仙の愚痴を聞くと言う事になっていたが。
ともあれ、一通り話して幾分か気が晴れたからか、

「それじゃ、私はそろそろ行くわね」

何処か晴れやかな表情を浮かべながら鈴仙はそろそろ行くと言って空中に躍り出て、何所かに向けて飛んで行った。
飛んで行った鈴仙を見届けた龍也は尻餅を着く様な形で地面に座り込み、

「あー……何か変に疲れた」

今までの疲れを吐き出す様な台詞を漏らす。
その後、変とも妙とも言える疲れが抜けるまで龍也は雲の流れを観察する事にした。























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