超速歩法の連用で空中を駆ける様にして移動していた龍也は唐突に立ち止まり、

「よっと」

飛び降りる様にして地上へと降り立つ。
地上に降り立った龍也は軽く周囲を見渡し、

「ふぅー、やっと着いた」

やっと着いた言う台詞を零す。
そう零した通り、龍也は目指していた太陽の畑に辿り着いたのだ。

「さて……」

後は幽香を見付けるだけだと言った感じで龍也は太陽の畑の奥地に向けて足を進めて行く。
太陽の畑の奥を目指している中、

「やっぱり……」

やっぱりと言う呟きが龍也の口から紡がれた。
紡がれた言葉の通りと言うべきか、太陽の畑には向日葵が咲き誇っている。
それも辺り一面に。
ここまで大量の向日葵が咲いていると言うのであれば、

「この様子だと、多分幽香は居ると思うんだけど……」

幽香がここに居る可能性は高いと龍也は判断し、注意深く周囲を伺う様にして太陽の畑の中を探索して行く。
勿論、探索の際に向日葵を傷付けない様に気を付けながら。
そんな感じで太陽の畑を探索し始めてから幾らかすると、

「……あ、居た」

向日葵に水を遣っている幽香の姿が龍也の目に映った。
だからか、龍也は少し急ぎ足で幽香に近付き、

「おーい、幽香ー」

幽香の名を呼ぶ。
名を呼ばれた幽香は向日葵に水を遣るのを一旦止め、声が発せられたであろう方に顔を向ける。
すると、

「あら、龍也じゃない」

幽香は龍也の存在を認識した。
お互いがお互いの存在を認識した後、龍也と幽香の距離が大分縮んでいたので、

「私に何か用かしら?」

何か用かと言う問いを幽香は龍也に投げ掛ける。
問いを投げ掛けられた事で龍也は足を止め、

「ああ。幽香に聞きたい事が在るんだ」

幽香に肯定の返事をしながら聞きたい事が在ると口にした。

「私に聞きたい事?」

口にされた事を受けて疑問気な表情を幽香が浮かべた為、

「ああ。今日急に多種多様な花がこれでもかって感じで幻想郷中に咲き始めただろ。で、その事に付いて幽香なら何か知ってるんじゃないかと思ってさ」

聞きたい事の中身を龍也は幽香に伝える。

「多種多様な花……」

伝えられた内容の中に在った多種多様な花。
この部分に引っ掛かりを覚えたからか、何かを考える素振りを幽香は見せる。
そして、

「…………思い出した。もう六十年経ったのね」

考え始めてから幾らかすると何かを思い出したかの様な表情を幽香は浮かべ、もう六十年経ったのかと呟く。

「六十年?」
「ええ。多種多様な花が大量に幻想郷で咲くと言うのは異変ではなく自然現象よ」

六十年と言う部分が耳に入った龍也が首を傾げると、今回の幻想郷中に多種多様な花が咲き誇っている今回の件は異変ではなく自然現象だと言う事を幽香は龍也に教える。

「自然現象?」
「ええ。説明して上げるわ」

今回の件が異変ではなく自然現象だと教えられた龍也が良く分からないと言った表情を浮かべたので、説明すると言って幽香は一息吐き、

「そもそも、今回の幻想郷中に多種多様の花が大量に咲くと言うのは六十年周期で起きる自然現象なの」

幻想郷中に多種多様な花が大量に咲き誇ると言う現象は六十年周期で起こる自然現象であると言う答えを述べた。

「六十年周期で?」
「ええ。原因は様々だけど六十年に一度、外の世界の幽霊が幻想郷に流れ込んでくるのよ。それも大量にね」

述べられた答えだけでは分からないと言った感じで聞き返して来た龍也に、六十年周期の意味に付いて幽香は簡単に話す。

「外の世界の幽霊が大量に……」

六十年に一度、外の世界の幽霊が大量に幻想郷に流れて来ると事実を知った龍也は何かに感付いたと言った表情を浮かべながら過去の記憶を遡っていき、

「…………そう言えば、俺が幻想入りする少し前にどっかの国とどっかの国が戦争する何歩か手前の状態になってたっけか」

自分が幻想入りする少し前に何所かの国と国が戦争する何歩か手前になっていた事を思い出した。
幻想入りしてから結構経っているので国名までは思い出せなかったが、おそらく国同士による戦争が起こって多くの命が失われたのだろうと龍也は推察する。
仮にその戦争が起こらなかったとしても疫病、自然災害、人的災害、天変地異などと多くの命を奪う事象は数多く存在しているのだ。
その内のどれかが自分が幻想入りした後の外の世界で起きたのだろうと言う結論を龍也が下した時、

「なら、それが原因ね。戦争が起きれば多くの命が失われるのは世の常、道理とも言えるもの」

最初に龍也が思い出した事、戦争で多くの命が失われた事で幻想郷に外の世界の幽霊が流れ込んで来たのだろうと幽香は判断しつつ、

「本来、幽霊と言う存在は三途の河で死神に渡し賃を払って閻魔の所に行ってその後の処遇を決められるの。天国に行ったり、地獄に行ったり、
冥界に行ったりと言った感じでね」

幽霊と言った存在がどう言う経緯を辿って行くのかを簡単に解説した。

「ふむふむ」
「だけど、幽霊の数が死神の仕事量の許容範囲を大きく超えてしまった。それで途方に暮れた幽霊達は花に憑依する事にし、憑依された影響で様々な花が一斉に
開花してしまった。と言うのが、多種多様な花が一斉に咲いた理由よ」

解説された内容を真剣に頭に入れている龍也を見ながら幻想郷に大量に幽霊が入って来た事、幻想郷中に多種多様の花が大量に咲いた事の二つの関係を幽香は語る。
語られた内容から、

「なら、この儘放っていたら勝手に収まるのか?」

放って置いたら幻想郷中に多種多様の花が大量に咲き誇っているこの現象は収まるのではと龍也は考えた。
幽霊の数が死神の仕事量を大きく超えているとは言え、死神が仕事をしていないと言う訳ではないだろう。
であるならば、龍也の考えた通り時間が経てば多種多様の花が幻想郷中に咲き誇ると言う現象が収まっても不思議では無い。
しかし、

「ええ。その筈何だけど……」

龍也の考えに難色を示すかの様な表情を幽香は浮かべた。

「何だけど?」
「……ねぇ、龍也。花ってどれ位咲いてたかしら?」

幽香が浮かべた表情を見た龍也は続きを言う様に促すと、幽香は龍也に花がどれ位咲いていたかと尋ねる。
尋ねられた龍也はここまでの道中を思い出し、

「無名の丘の鈴蘭畑の鈴蘭は滅茶苦茶数を増やしてたな。後、ここまでの道中の眼下には色んな花が文字通り大量に咲き誇ってた。あ、それと冥界は
こっちと違って色んな花は咲いていないらしいぞ」

思い出した事を幽香に伝えた。

「ふむ……」

伝えられた内容を受けた幽香はまた何かを考える素振りを見せ始める。
だからか、

「どうかしたのか?」

ついと言った感じで龍也は幽香にどうかしたのかと言う声を掛けた。
声を掛けられた幽香は、

「……六十年前はそこまで咲いてたって訳じゃなかった筈。何か遭ったのかしら?」

何か思い付いたと言った様な表情を浮かべながら顔を上げ、

「そうだ、ねぇ龍也」

龍也に話し掛ける。

「何だ?」
「一寸調べて来てくれないかしら?」

話し掛けられた龍也が何だと口にした瞬間、調べて来てくれないと言う頼みを幽香は龍也に行なう。
元々今回の件は解決する気であった為、

「別に良いけど……何所に行けば良いんだ?」

了承しつつ、何所に行けば良いのかと言う事を龍也は幽香に聞く。

「そうね……再思の道と無縁塚に行けば良いわ」
「再思の道と無縁塚?」

聞かれた幽香が行くべき場所を述べると龍也が首を傾げてしまったので、

「ええ、あっちの方向へ行けば再思の道に着くわ」

先ずはと言った感じで幽香はある方向に指をさし、指をさした方に再思の道が在る事を教え、

「再思の道を抜ければその儘無縁塚に着くわ。再思の道は彼岸花が大量に咲いているでしょうから、分からなくて通り過ぎてしまうって事は無いわね」

補足する様に無縁塚の行き方と、再思の道には彼岸花が大量に咲いているので通り過ぎはしないと言う二つの情報も教える。
これから行くべき場所を知れた龍也は決意新たにと言った感じの表情になり、

「……ありがとう、幽香。早速行ってみるよ」

幽香に礼を言いながら跳躍し、空中に霊力で出来た見えない足場を作ってそこに足を着けた。
そして、幽香が指をさした先に在るであろう再思の道を目指して龍也は空中を駆ける様にして移動を開始する。
空中を駆ける様にして移動し、遠ざかって行く龍也を見ながら、

「ふふ……」

楽しい気な笑みを幽香は浮かべた。






















眼下に彼岸花が見え始めた事で、

「ここが……再思の道か?」

龍也はそう呟きながら進路を再思の道の奥に進む方へと変える。
進んでも眼下に見える彼岸花は数を減らしていないので、道を間違えていると言う事は無さそうだ。
だからか、進行方向に間違いが無いと言う判断を龍也は下し、

「さて……」

無縁塚まで一気にスピードを上げて進むべきかとかと言う事を龍也が考え始めた時、

「おっと、そんな若い身空で自殺とは感心しないね」

そんな言葉と共に一人の女性が龍也の進行方向上に現れた。
現れた女性は肩位までの長さの赤い髪で髪型は頭頂部に近い位置で髪をツインテールで、青と白が基調となっている和服とスカートが合わさった様な服を纏っている。
そして、大きな鎌を持っていた。
大きな得物を持ち、異変解決と言うより今幻想郷で起こっている現象の調査に赴いている龍也の前に現れた女性。
どう考えても現れた女性は只者ではなさそうであるからか、龍也は進行を止め、

「……誰だ、あんた?」

若干警戒した雰囲気を見せながら誰だと言う問いを投げ掛ける。
投げ掛けれた問いを受けた女性は、

「あたいは小野塚小町。三途の河で船頭をやってる死神さ」

軽い笑みを浮かべながら簡単な自己紹介を行なった。

「俺は四神龍也。幻想郷を旅して回っている人間だ」

自己紹介をされたと言う事で龍也も簡単な自己紹介を行なうと、

「龍也……ね。覚えた覚えた。さて、さっきも言ったけど自殺なんて感心しないね。死ぬんだったらもっと年を取ってからにしな。今死んでも船に乗せて上げないよ」

言い聞かせる様な声色で自殺などするものではないと口にする。
口にされた事を受け、どうも勘違いをされていると感じた龍也は、

「いや、俺は死ぬ為にここに来た訳じゃないって」

小町の誤解を解くかの様に死ぬ為にここに来たのでは無いと言う。

「それじゃあ、こんな所に何しに来たのさ?」
「調べものが在ってな」

言われた事を受けて疑問気な表情を浮かべながら何しに来たと聞いて来た小町に、調べものしに来たと龍也は断言した。

「調べもの?」
「ああ、多種多様な花が大量に咲いているって言うからそれを調べに」

断言された言葉を頭に入れた小町が首を傾げると、調べ物の内容を龍也は小町に教える。

「花?」

教えられた内容に引っ掛かりを覚えた小町が視線を下方へと向けた瞬間、

「あれ!? 何であんなに彼岸花が!?」

大量に咲いている彼岸花が小町の目に映り、小町は驚きの声を上げてしまう。
驚いている小町を見て、

「何でって、死神であるあんたの管轄じゃないのか?」

不思議そうな表情を龍也はあんたの管轄ではないのかと言う突っ込みを入れた刹那、

「………………………………………………………………」

小町は龍也から思いっ切り顔を背けた。
明らかに不自然な動きを小町がしたからか、

「そう言えば、幽香が六十年前よりも咲いてる花の数が思いっ切り増えている様だって言ってたけど……」

幽香から得た情報を龍也が紡いだのと同時に、小町は冷や汗を流し始める。

「まさか……」

今の小町の反応から、小町が仕事をサボっているから幻想郷中に多種多様な花が大量に咲く事になったのではと言う推察を龍也がしたタイミングで、

「違うんだよ!!」

違うと言う言葉と共に小町は龍也の方に顔を向け、

「仕事何てずっと力を入れてやっても疲れるだけだろ!? だからあたいは適度に休憩を入れながら仕事をしてたのさ!! 唯、最近は仕事の量が多くて
休憩時間を延ばしていただけで……」

必死な形相で言い訳の様な事を訴え始めた。
訴え掛けられている事を話半分程度に聞き流しながら、幽香から教えて貰った情報を龍也は思い出していき、

「……お前の上司って閻魔?」

思い出した事から出て来た考えに付いての正誤を確かめるかの様に小町の上司は閻魔かと問う。

「おっ、良く知ってるね」

龍也が問うた事は正しかったからか、良く知っているなと言う言葉と共に小町は感心した表情になった。

「じゃ、閻魔にお前がサボってたって報告して来る」

だからか、小町がサボっていたと言う報告を閻魔にすると言う無常とも取れる宣告の様なものを龍也は小町に告げた。
すると、

「一寸待ったー!!」

大慌てで龍也に近付き、龍也の両肩を掴みながら小町は龍也を正面から見詰め、

「頼む!! それだけは勘弁して!!」

必死な表情で上司である閻魔には報告しないで欲しいと頼み込んだ。
両肩を掴まれた際に小町は鎌を持った儘で状態であった為、首の真後ろからピリピリとした様なプレッシャーを龍也は感じつつも、

「んな事言っても……」

小町からの頼みを引き受ける事に付いて難色を示した。
龍也としては早くに今回の現象を解決したいので、小町がサボっていたと言う事を上司だと言う閻魔に報告したいところだ。
そうすれば小町も真面目に仕事するかも知れないし、補充要員として追加の死神が送られて来るかも知れない。
そんな考えを抱いたからこそ、龍也は小町の頼みを引き受けるかどうかに難色を示したのだ。
だが、ここで閻魔に報告された小町からしたら堪ったものではないので、

「じゃあ、こうしよう!! あたいと接近戦込みの弾幕ごっこで戦って、あたいが勝てば見逃すってのはどうだい!? ね!!」

龍也の両肩を大きく揺すりながら接近戦込みの弾幕ごっこで戦い、それで自分が勝ったら自分を見逃せと言った要求をした。
要求して来た小町の必死さが相当なものであったからか、

「分かった分かった、それで良いよ」

熱意に押されたかの様に龍也は小町の要求を呑む事にする。

「やった!!」

龍也が自分の要求を呑んでくれた事で小町を大喜びと言った感じで両手を大きく上げながら龍也から間合いを取り、

「こりゃ、負けられないねぇ」

鎌を構えてやる気十分と言った表情を浮かべた。
この一戦は小町に取って、自分の今後を左右する戦いになるかも知れないのだ。
やる気になるのも当然だろう。
対する龍也は不用意な事を言ったかなたと思いつつ、自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から紅へと変わる。
力が変わったのを認識した龍也は両手から炎の剣を生み出し、構えを取った。
お互い準備が整ったと言う事で龍也と小町の二人はジリジリと間合いを詰め、牽制の意味合いを籠めてか二人は自身の得物を軽く動かす。
そして、小町が龍也の間合いに入ったのと同時に、

「ッ!!」

龍也は炎の剣を振るう。
振るわれた炎の剣を小町は鎌の中央部分で受け止め、

「おっ、やるねぇ」

称賛するかの様な台詞を小町は零しながら鎌を回転させて龍也の体勢を崩させ、柄頭で薙ぎ払う様に龍也を攻撃する。
体勢を崩している状態で攻撃を繰り出された事で龍也は攻撃の直撃を受け、

「ぐっ!!」

後方へと吹き飛ばされてしまった。
ある程度吹き飛んだ辺りで龍也はブレーキを掛けながら体勢を立て直し、小町が居る方に顔を向ける。
しかし、

「ッ!!」

顔を向けた先に小町の姿は無かった。
何処にと思いながら小町を探す為に顔を動かそうとした時、龍也は上空から気配を感じて反射的に顔を上に向けると、

「なあ!!」

鎌を振り被りながら急降下して来る小町の姿が目に映り、思わず驚きの表情を浮かべてしまう。
だが、何時までも驚いていたら鎌の直撃を受けるのは確実。
だからか、直ぐに驚きの表情を抑えて二本の炎の剣で防御体勢を取る。
その瞬間、鎌が振り下ろされて二本の炎の剣と激突した。

「ぐぅ!!」

激突したのと同時に強い衝撃が龍也の体を駆け巡ったが、龍也は体中に力を入れて駆け巡る衝撃を耐え、

「らあ!!」

二本の炎の剣を払う様にして振るい、小町を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた小町はクルクルと回転しながら龍也から離れ、龍也と同じ高度にまで来るとその高度に留まって体勢を立て直す。
それを見た龍也は今居る位置から小町に向けて炎の剣を振るい、剣先から爆炎を迸らせる。
迸った爆炎は当然の様に小町へと向かって行く。
迫り来る爆炎を見た小町は不敵な笑みを浮かべて鎌を回転させ、

「はあ!!」

振るう。
すると、振るわれた鎌から何本かの風の刃が放たれた。
放たれた風の刃は爆炎を斬り裂き、龍也目掛けて突き進んで行く。
突き進んで来る風の刃が自分の体に当たる直前で龍也は超速歩法を使って風の刃を避け、

「しっ!!」

小町の側面に移動して炎の剣を振るう。
傍から見たら不意を突いた一撃と思われるであったが、

「おっと」

まるで龍也の動きを見切っていると言う様な動作で小町は鎌を動かし、振るわれた炎の剣を鎌の刃の部分で受け止めた。

「チッ」

容易く今の攻撃を防がれてしまった事で龍也は舌打ちをしながら後ろに跳び、小町から間合いを取る。
ある程度間合いが取れた辺りで龍也は体勢を立て直し、構えを取り直しながら思う。
超速歩法での移動を完全に捉えられていたと。
初見でこれ程までの対応をされた事は殆ど無い為、

「にしても随分強いな、小町」

称賛する様な台詞を龍也は口にする。

「そりゃね。死神の仕事には天人や仙人のお迎えも入ってるしね」
「天人に仙人?」

口にされた事を受けて強いのは死神の仕事上当然だと小町が返すと、ついと言った感じで龍也は首を傾げてしまった。
だからか、

「あー……分かり易く言えば天人や仙人は寿命を大幅に超えて生きている人間と思って貰えれば良いよ」

天人や仙人がどう言った存在であるかの簡単な解説を小町は行ない、

「天人や仙人は強い奴が多いからねぇ。そう言うのと渡り合う為にも死神は強いのが多いのさ。それにあたいは結構優秀な方でね」

解説を行なった存在は強い者が多いので死神は強者が多く、その死神の中で自分は優秀な方だと言う事を自慢する様な感じで語る。

「へぇー」
「最も、天人や仙人に返り討ちに合う死神も結構多いんだけどね」

解説された内容を頭に入れながら新たな事を知れたと言う様な表情を龍也が浮かべている間に、死神を返り討ちにする天人や仙人が多い事を小町は苦笑いを浮かべながら言い、

「それで、どうする? この儘やっても勝ち目が薄いと思うよ」

話を戻すかの様に、この儘戦っても龍也の勝ち目が薄いと言う発言をした。
確かに、小町の発言は的外れと言う訳ではない。
龍也の爆炎は小町の風の刃で容易く斬り裂かれたし、超速歩法による攻撃も初見で簡単に見切られてしまった。
ならば、これから龍也が繰り出す攻撃全てを小町に対処さても不思議は無い。
しかし、それはこの儘戦い続けたらの場合。
勝ち目が薄いと言う発言を確実に覆すのであれば、この儘でなくなれば良いだけある為、

「それは……どうかな?」

不敵な笑みを浮かべながら龍也はそう零し、

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

力の解放をする。
すると、龍也の髪の色が紅く染まっていって紅い瞳が輝き出した。
更に、炎の剣がより紅く染まっていく。
そこまで大きい変化と言う訳ではないが、変化した龍也を見た小町は、

「ッ!!」

警戒心を抱いたと言った様な表情を浮かべて構えを取り直す。
何故かと言うと、龍也から感じていた威圧感や霊力が跳ね上がったからだ。
少なくとも、今までの龍也とは別人だと思える程に。
そして、

「いくぜ」

いくぜと言う言葉と共に龍也は空中を駆ける様にして小町へと肉迫する。
肉迫して来た龍也のスピードが想像以上であったからか小町は驚きの表情を浮かべるも、反射的に鎌で防御の体勢を取った。
同時に龍也は炎の剣を振るい、振るわれた炎の剣は小町の鎌に激突して、

「くっ!!」

小町を弾き飛ばす。
弾き飛ばした小町が体勢を立て直す前に攻撃をするべきだと龍也は判断し、弾き飛ばされた小町に追撃を仕掛ける為に小町を追う。
弾き飛ばされている小町よりも追っている龍也の方が速く、龍也が小町に追い付くのも時間の問題と思われた瞬間、

「ッ!!」

唐突に龍也と小町の距離が開いてしまった。
どうしてと言う疑問を龍也は抱くも、抱いた疑問に対する答えを出す前に距離を詰めて小町に攻撃を加える方が重要だと龍也は考え、

「なら……」

超速歩法を使って小町との距離を一気に詰め、炎の剣を振るう。
が、振るわれた炎の剣は何時の間にか体勢を立て直していた小町の鎌に防がれてしまった。
しかも、今度は弾き飛ばされたりせずに。

「くそ……」

追撃が上手くいかなかった事に龍也は悪態を吐きながら後ろに跳んで小町から距離を取る。
再び龍也と小町の間合いが離れた後、

「いやー、参ったね。髪の色が変って瞳が輝きだした位でここまで強くなるなんて思わなかったよ」

龍也の強さを称賛する言葉を小町は述べた。

「そいつはどうも」
「それにさっきの移動術。能力使って距離を開けたのに一瞬で詰められるとはね」

述べられた称賛に龍也はどうもと応えつつ構えを取り直すと、愚痴の様なものを小町は零す。

「さっきのあれ……能力だったのか」
「そうさ。あたいの能力は"距離を操る程度の能力"。仕事の最中に良く使う能力何だけどね」

零された内容を頭に入れた龍也が先程突如として距離が開いたのは能力のせいかと推察した時、推察した内容を小町は肯定しながら能力の簡単な解説を行なう。

「……良いのか? 態々俺に自分の能力を教えて」
「構いやしないさ。もう戦闘中に能力を使う気は無いしね」

能力を使ったかどうかは兎も角として能力の詳細まで言って来た小町に疑問を抱いた龍也に、小町はもう能力は使わないので詳細を教えても問題無いと口にし、

「戦闘中に開ける距離には限界が在るからね。そんな事をしても一瞬で距離を詰められると分かった以上、使っても意味がないだろ」

教えても問題無い理由を語る。
語られた事が嘘か本当かどうかは龍也には分からない。
だが、これからやるべき事に変わりはないと言わんばかりに龍也は突っ込む様な体勢を取った。
取られた体勢を見た小町は真っ向から迎え撃つと言わんばかりに、小町も突っ込むような体勢を取る。
お互い似た様な体勢を取ってから少しの間は静寂が周囲を包んでいたが、その静寂を撃ち破るかの様に龍也と小町の二人は同じタイミングで駆け、

「はあ!!」
「せい!!」

二人は激突させるかの様に自身の得物を振るい、二本の炎の剣と鎌による鍔迫り合いの様な形に入った。
力を籠めて二人が相手を押し切ろうとしている中、

「何てね」

可愛らしさが感じられる声色で発せられた台詞と共に小町は自然な動きで後ろに下がる。
力比べと言える様な事をしている最中に行き成りその様な事をされたら、

「うお!?」

予定調和と言わんばかりに龍也は前のめりになる様な形で体勢を崩してしまう。
当然、その隙を見逃す小町ではなく、

「はあ!!」

龍也の足元を薙ぐ様に鎌を振るった。
それに気付いた龍也は咄嗟に跳躍を行って振るわれた鎌を避けながら二本の炎の剣を振り上げ、

「はあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

降下と共に龍也は二本の炎の剣を小町に向けて振り下ろす。
振り下ろされた二本の炎の剣を小町は鎌の刃が付いていない部分で受け止めたが、

「ぐっ!!」

斬撃に落下速度がプラスされていたせいか受け止め切る事が出来ず、力負けするかの様に小町は地面に向けて吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされて地面に向けて落下して行っている小町を追う様にして龍也は急降下する。
上手く行けば小町は地面に激突してそれ相応のダメージを負うだろうが、そう上手く事が運ぶ筈は無く、

「ッ!!」

落下中に小町は体を回転させて体勢を立て直しながら地面に両足を着けて着地し、後ろに大きく跳ぶ。
その少し後に龍也は地面に着地し、小町の方に顔を向ける。
顔を向けた龍也の目には懐からスペルカードを取り出している小町の姿が映り、

「舟符『河の流れのように』」

取り出したスペルカードを小町は発動させた。
スペルカードが発動すると何処からか小船が現れ、現れた小船に小町は乗り、

「さぁ、行っくよー!!」

現れた小船に呼応する形で簡易的な川が現れ、川の流れに乗る形で小町は小船による突撃を龍也に仕掛ける。

「その小船と川はどっこから出て来たんだ!?」

行き成り現れた小船と川に突っ込みを入れながら龍也は自身の力を変えた。
朱雀の力から玄武の力へと。
力を変えた事で龍也の髪と瞳の色が紅から茶に変化し、炎の剣が消える。
炎の剣が消えたのを自身の目で確認した龍也は両手を開きながら前方に突き出し、両手から大量の土を生み出す。
生み出された土は巨大な土の壁と成り、出来上がった土の壁に小町の小船は激突した。
これで倒せていれば御の字だったのだが、そうなる事はなく、

「うわっとお!?」

激突した際の衝撃を利用したのか、小町は龍也を飛び越える様にして龍也の後方へと飛んで行く。
飛んで行った小町の方に龍也が体を向けると、小町は龍也から結構離れた位置で無事着地する。
無事に着地する事が出来た小町は小船や川を出現させず、鎌を構えながら地を駆けて龍也に向けて突っ込んで来た。
再度小船や川を出現させなかったのは一発限りのスペルカードだったのか、それともスペルカードの発動を止めたのか。
どちらかなのかは分からないが、武器持ちの相手が接近戦を仕掛けて来るのであれば、

「なら!!」

こちらも得物を持って相手になると言った感じの意気込みで龍也は背後に在る土の壁を消し、自身の力を玄武の力から朱雀の力に変える。
力の変換に伴って龍也の髪と瞳の色が茶から紅に変わると龍也は両手から再び二本の炎の剣を生み出し、構えを取る。
二本の炎の剣で構えを取った龍也を見た小町は構う事無く自身の間合いに龍也を入れ、

「そら!!」

思いっ切り鎌を振るう。
振るわれ、迫り来る鎌を龍也は二本の炎の剣を使って防ぐ。

「やれやれ、結構良いタイミングで放ったと思ったんだけどねぇ……」

己が一撃を容易く防がれた事に対する愚痴の様なものを小町は零したが、そこに悔しさと言ったものを龍也は感じる事が出来なかった。
防がれるのも想定の範囲内であったと言う事であろうか。
今一つ小町の真意が読めないでいる龍也を余所に小町は鎌を一旦引き、

「そらそら、次々といくよ!!」

連続で鎌を振るい始めた。
再び小町が攻勢に移ったのに気付いた龍也は少々慌てた動作で次から次へと振るわれて来る鎌を炎の剣で防いでいく。
何度も。
何度も何度も。
防いだ回数を数えるのも馬鹿馬鹿しくなった辺りで小町は鎌を振るうのを止めて後ろに跳び、懐に手を入れる。
行き成りを攻撃を止められて龍也の反応が若干遅れている間に、小町は懐からスペルカードを取り出し、

「死符『死者選別の鎌』」

取り出したスペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると小町は鎌を大きく振り上げ、思いっ切り振り下ろした。
間合いが離れている今の状況で鎌を振り上げて振り下ろすと言う行動を取った小町に龍也は疑問を抱く。
別に斬撃を飛ばすと言う様な事を小町はして来ていないので、龍也が疑問を抱くのも当然だ。
そんな龍也の疑問を晴らすかの様に、

「ぶふう!?」

龍也の頭上から何かが龍也に激突し、龍也を地面に叩き付けた。
しかも、叩き付けられた衝撃で二本の炎の剣が消失してしまう。
行き成り地面に叩き付けられた龍也は、

「何が起こった……」

何が起こったのかを確認し様としたが、確認する前に自身に体に影が掛かっている事に気付く。
だからか、先に気付いた事を確認し様と龍也は影の正体を探る様に顔を動かす。
すると、鎌の柄頭を自身に叩き付けようとしている小町の姿が目に映った為、

「うおおおおおおおおおおおおおおおおう!?」

龍也は大慌てで体を横に転がして鎌の柄頭による攻撃を避ける。
これで一安心と思うのも束の間、

「おっと、逃がさないよ!!」

再度鎌の柄頭を叩き付け様と小町が攻撃を仕掛けて来た。
新たに仕掛けられた攻撃を避ける為に龍也は再び体を横に転がしたが、体を転がして逃げて行く龍也を小町を追い掛けて鎌の柄頭を叩き付け様とする。
逃げる龍也と追う小町。

「……ッ」

今の状況がイタチごっこに成り掛けていると感じた龍也は、埒を開かせてやると思いながら体を横に転がした儘の状態で自身の力を変えた。
青龍の力へと。
力を朱雀から青龍に変えた事で龍也の髪と瞳の色が紅から蒼へと変わり、龍也は自身の両手に龍の手を模した水を纏わさせる。
そして、体を横に転がしている勢いを利用しながら己が腕を振るい、

「水爪牙!!」

水で出来た五本の斬撃を小町に向けて飛ばした。
突然龍也から飛んで来た水の斬撃を見た小町は、

「おっとお!?」

反射的に急ブレーキを掛けて上半身を後ろに倒す。
そのお陰で小町は水の斬撃の直撃を受けずに済んだが、代わりに龍也は小町からそれなりに離れて位置で立ち上がって体勢を立て直していた。
龍也が離れて行ったのを感じた小町が上半身を戻すと、両手に纏わせていた水を消して懐に手を入れている龍也の姿が小町の目に映る。
目に映った事から龍也がスペルカードを使おうとしていると判断した小町は、スペルカードの発動を止め様と地を蹴って龍也へと近付いて鎌を振るう。
振るわれた鎌を龍也は体を屈めて回避しながら懐からスペルカードを取り出し、

「風拳『零距離突風』」

取り出したスペルカードを発動させた。
スペルカードが発動すると龍也の髪と瞳の色が蒼から翠に変化し、龍也は体を屈めた儘の体勢で拳を放つ。
放たれた拳は小町の胴体に叩き込まれ、拳から突風が放たれて小町を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた小町は見えなくなったが、直ぐに戻って来るだろうと思って龍也は構えを取って様子を見る事にする。
しかし、

「……あれ?」

幾ら待っても小町は戻って来なかった。
小町程の実力者なら今の一撃を喰らっても気絶したりはしない筈。
だと言うのに、小町は戻って来ない。
となると、吹っ飛んだ先で何か遭ったと考えるのが妥当であろうか。
とは言え、答えは小町の様子を見ないと出て来ないだろう。
だからか、小町が吹っ飛んで行った方に龍也は進み始めた。























前話へ                                          戻る                                             次話へ