吹っ飛んで行った小町を追っていた龍也は、

「……ん?」

先程まで居た再思の道とは雰囲気の違う場所に出た。
幽香が言うには再思の道の先には無縁塚が在るとの事なので、出た場所は無縁塚なのだろうか。
そう思った龍也は小町を追っている最中に力を消したのは悪手だったかもと思いつつ、幾らか警戒した雰囲気を見せながら小町を探していく。
無縁塚と思わしき場所で小町を探し始めてから幾らかすると、

「小町!! 大体貴女は!!」
「きゃん!! すみませーん!!」

そんな言い合いが龍也の耳に入って来た。
それに反応した龍也は足を止め、言い合いがされているであろう方に顔を向ける。
顔を向けた龍也の目には紫色をした桜の近くで一人の少女に説教されている小町の姿が映り込む。
説教している少女は肩を越さない程度の長さの緑色の髪で、その髪は右側が左側よりも少し長くなっていた。
紅白色の細長いリボンを付けて変わった帽子を被り、長袖の白いシャツの上に濃い青色のベスト上の服を着込んでいる。
他には膝上までの長さの黒く、下部に紅白で刺繍を施されたスカートを身に着けていた。
一通り少女の風貌などを確認した龍也はこんな場所に居る事、小町に説教している事の二つから只者では無いと判断する。
その後、状況を確認する為に龍也は小町と少女の方に向けて足を動かして行く。
そして、龍也が二人にある程度近付いた辺りで、

「おや、貴方は……」

龍也の存在に少女は気付き、小町への説教を中断して龍也の方に体を向ける。
少女が自分の存在を認識したのを理解した龍也は一旦足を止め、

「あ、俺は四神龍也と申します」

取り敢えずと言った感じで自己紹介を行なう。

「……これはご丁寧に。私は四季映姫・ヤマザナドゥと申します」

自己紹介をされたと言う事で少女、映姫も自己紹介を行なった。
名前だけではあるが映姫の事の知れた龍也はある事を思う。
思った事と言うのは、小町に説教をしていたのだから映姫は小町の上司である閻魔ではないかと言う事。
だからか、

「若しかして、あんたは閻魔か?」

確認するかの様に龍也は映姫に閻魔なのかと聞く。

「はい、そうです」

閻魔かと聞かれた映姫が肯定の返事をした為、

「ならさ、聞きたい事が在るんだけど」

続ける様にして龍也は映姫に聞きたい事が在るのだと言う。

「何でしょう?」

聞きたい事を言う様に映姫が促して来てくれたので、

「幻想郷中に多種多様の花が一斉に咲いたのは花に外の世界に幽霊が宿っているのと六十年周期で起きるって言うのは聞いたんだけど、この現象って何時収まるんだ?」

早速と言わんばかりに、幻想郷中に起こっている多種多様の花が一斉に咲くと言う現象が何時収まるのかと言う事を龍也は尋ねる。

「そうですね……どんなに遅くても夏が来る前には収まると思いますよ。小町が仕事をサボらなければ、もっと早くに収まるでしょう。ええ」

尋ねられた映姫はそう答えながら小町を睨み付けた。
睨み付けられた小町は冷や汗を掻き、映姫から顔を背ける。
上司である閻魔からこう言われれば、小町も死神の仕事を少しは真面目にするだろう。
仮にそうならなくとも、小町以外にも死神は居るのだ。
幻想郷中に多種多用な花が一斉に咲くと言う現象が続く事を映姫は良く思っていない。
ならば、小町以外の死神も多数動員して死神一人当たりの仕事量を超えない様にする筈。
映姫が答えた内容から龍也はそう考え、この件にこれ以上首を突っ込む必要性は無さそうだと言う結論を出し、

「……そう言えばさ、紫色をした桜ってここ等一帯の特色なのか?」

話を変えるかの様に映姫に紫色をした桜に付いて問う。

「ええ、そうですよ。因みに、紫色をした桜には罪深い者の霊が宿ります」
「へぇー……」

問われた事を肯定しながら紫色をした桜に付いて映姫が教えてくれたので、龍也は興味深そうな表情を浮かべながら視線を紫色をした桜に向ける。
紫色の桜は罪深い者の霊が宿っているとの事だが、妙な美しさが有ると言う感想を龍也は抱いた。
嘗て見た桜の花を咲かせている西行妖と言いこの紫色の桜と言い、何かしらの曰く付きのものは目を惹くのだろうか。
そんな考察をしつつも、紫色をした桜から目を離さないでいる龍也に、

「少し、良いでしょうか」

少し良いかと言う声を映姫が掛けて来た。

「何だ?」

掛けられた声に反応した龍也はそう言って視線の先を紫色をした桜から映姫に変えると、

「貴方に言わなければならない事が在る」

神妙な顔をした映姫が龍也に言わなければならない事が在ると口にする。

「俺に?」
「ええ、貴方は少し自由過ぎる」

自分に言わなければならない事とは何だと言った感じで首を傾げた龍也に、自由過ぎると言う言葉を映姫は告げる。

「自由?」
「そう。貴方は日々を自分が思うが儘、気の向く儘に生きている。それが悪い事とは言えないが、良い事とも言えない」

告げられた言葉を受けて聞き返す様な事を零した龍也に映姫はそうだと言って龍也の生き方を語り、

「だが、生きる事はそれだけでも罪」

生きると言う行為はそれだけで罪だと断言した。

「……そう言えば、何かの本で人間は生きながらにして罪人って書いて在ったな」
「この儘の生活を続けて行けば貴方は地獄に堕ちるでしょう」

断言された事から何時だった読んだ本に書かれていた事を龍也が思い出した時、この儘では龍也が地獄に堕ちる事を伝え、

「それを避ける為に貴方が積める善行は……」

地獄堕ちを避ける方法を映姫は教え様とする。
だが、

「悪い」

教え様とした事を龍也は遮り、

「あんたが俺の事を想って言ってくれているのは解る。だけど、俺は俺の生き方を変える気は無い」

自分の事を想って言ってくれているのは解るが、だとしても自分の行き方を変える気は無いと宣言し、

「俺は俺が想うが儘に、俺自身の魂に従って生きる。それが罪だって言うのであればそれでも良い。俺はこの儘生く。俺は自分に後悔する様な生き方は
したくは無い!!」

そう言い放った。
宣言し、言い放った龍也の目には強い意思が感じられたからか、

「成程……あくまで我を通すか……」

映姫はこれ以上言葉で言っても無駄だと悟り、

「それは貴方の美点であると同時に欠点だ」

右手に持っている笏、悔悟の棒を龍也に突き付け、

「生きている時に後悔しなくとも、死んで後悔する事に成っても遅い!! 罪と言うのは裁き以外で清算出来るものでは無い!! 故に、四神龍也!!
今この場で私が貴方を裁く!!」

龍也を裁くと言う宣戦布告を行なう。
その瞬間、

「ッ!?」

強大な神力を龍也は映姫から感じ取り、反射的に自身の力を白虎の力へと変える。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から翠に変わると、続ける様にして力の解放に入った。
すると、龍也の髪が黒から翠に変わって翠の瞳が輝き出す。
髪と瞳の色が変わったと言う変化と言うのに小さいものではあるが、映姫は何かに気付いた様で、

「ほう……」

若干興味深そうな視線を龍也に向ける。
こちらの様子を見ているだけで仕掛けて来ない映姫に龍也は疑問を抱くも、仕掛けて来ないのならこちらから仕掛けると言った感じで気持ちを切り替える。
そして、両腕両脚に風を纏わせ、

「ッ!!」

踏み締めている地を蹴り抜く様な勢いで龍也は映姫へと一気に肉迫し、拳を放つ。
拳が放たれたの同時に大きな激突音と衝撃波が発生する。
手応え有りと思われた一撃であったのだが、

「な……」

放たれた拳は映姫の左手の掌に受け止められてしまっていた。
しかも、拳を受け止めた映姫の表情は少しも変化していない。
つまり、今の一撃は映姫に取ってどうって事の無い一撃なのだろう。
つい先程感じ取った神力から映姫が実力者である事は龍也も予想していたが、ここまでとは龍也も予想していなかった。
だからか、驚愕とも言える表情を龍也は浮かべてしまう。
龍也が浮かべている表情を見ながら、

「我を通すにはそれ相応の力が必要です」

言い聞かせる様な感じで映姫はそう語りながら龍也の拳を掴み、

「その程度では……我を通すには程遠い!!」

斜め上空に向けて龍也を放り投げた。
放り投げられた龍也は体を回転させながら体勢を立て直し、足元に霊力で出来た見えない足場を作り、

「……っと」

作った足場に足を着け、一息吐いて顔を上げる。
顔を上げた龍也の目には、

「ッ!?」

目の前にまで迫り、悔悟の棒を振るおうとしている映姫の姿が映った。
映った光景から反射的に龍也が防御の体勢を取った刹那、悔悟の棒が振るわれ、

「ぐっ!!」

振るわれた悔悟の棒は龍也に叩き込まれ、叩き込まれた龍也は猛スピードで吹っ飛んで行ってしまう。
吹っ飛ばされた龍也に追撃を掛ける為、映姫は吹っ飛んだ龍也を追う様にして移動を開始する。
吹っ飛んでいる中で映姫が追って来ているの視界に入れた龍也は、吹っ飛んでいる状態の儘で自身の力を変えた。
白虎の力から朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の髪と瞳の色が翠から紅に変わり、両腕両脚に纏わされていた風が消失する。
完全に朱雀の力へと移行したのを感じた龍也は体中に力を籠めて体勢を立て直しながら両手を合わせ、合わせてた両手から一本の炎の大剣を生み出す。
生み出した炎の大剣を構えながら急ブレーキを掛け、減速しながら止まった龍也に目には自分の間合いに入って悔悟の棒を振るおうとしている映姫の姿が映った。
この儘では振るわれた悔悟の棒の直撃を受けるのは確実であるので、

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

龍也は半ば反射的に炎の大剣を振るう。
迫り来る炎の大剣を見た映姫は悔悟の棒を振るい、炎の大剣と激突させる。
炎の大剣と悔悟の棒が激突すると大きな激突音と衝撃波が辺り一帯を駆け抜け、

「ぐう!!」

映姫の悔悟の棒に押される形で、龍也は後ろに下がってしまう。
何故、龍也が後ろに下がってしまったのか。
その答えは、振るわれれた悔悟の棒の重さに在る。
先程吹き飛ばされた時もそうであったが、悔悟の棒による一撃が龍也の想像以上に重かったのだ。
故に、龍也は後ろに下がってしまったのである。
いや、下げさせられたと言った方が正しいであろうか。
兎も角、完全に力負けしていると言う事実を認識した龍也が悔しそうな表情を浮かべると、

「ッ!!」

龍也との間合いを映姫は詰めに掛かった。
まともにぶつかり合ったら力負けするのは目に見えているので、詰められた間合いを離すかの様に龍也は後ろに跳ぶ。
無論、只後ろに跳んだだけでは無い。
間合いを詰めて来た映姫を迎撃する様に炎の大剣を振るい、炎の大剣の切っ先に爆炎を迸らせたのである。
迸った爆炎は映姫に迫り、映姫を呑み込んだ。
これなら多少なりともダメージが入った筈と龍也が思った瞬間、

「甘い」

甘いと言う言葉と共に無傷の映姫が爆炎の飛び出して来た。

「な!?」

飛び出して来た映姫を見て一欠けらのダメージも与えられなかった事に龍也が驚いている間に、映姫は左手で龍也の顔面を掴み、

「この程度の炎など……温過ぎる!!」

龍也が放った爆炎は温過ぎると言いながら龍也は地面に向けて投げ付ける。
投げ付けられた龍也は体勢を立て直す事も出来ず、

「がっ!!」

背中から地面に激突し、炎の大剣を消失させてしまう。
激突した際の衝撃が強過ぎたせいであろうか。
ともあれ、地面に叩き付けられた龍也は、

「が……ぐ……くく……」

痛みを堪えながら立ち上がり、超速歩法を使って映姫と同じ高度にまで移動し、

「はぁはぁ……はぁ……」

息を整えながら顔を上げて映姫の様子を見る。
すると、余裕が感じられる雰囲気を醸し出しながら自分の様子を伺っている映姫の姿が龍也の目に映った。
目に映った映姫の姿から、ある確信を龍也は得る。
得た確信と言うのは、この儘では勝てないと言うもの。
戦い始めてからと言うもの、龍也はずっと映姫に圧倒されているのだ。
勝てないと確信するのも無理はないだろう。
では諦めるのか問われたら、勿論そんな事は無い。
ダメージが在るとは言え、まだまだ龍也は戦えるし動く事が出来る。
戦え、動く事が出来るのに諦める龍也ではないのだ。
とは言え、幾ら諦めなくてもこの儘では勝ち目が無いのは確実。
なので、覚悟を決めたと言う様な表情を龍也は浮かべ、

「保持時間に不安が在るが……」

一抹の不安を零しながら左手を額の辺りにまで持っていき、左手からどす黒い色をした霊力を溢れ出させ、

「ッ!!」

どす黒い色をした霊力を溢れ出させている左手を一気に振り下ろした。
左手が振り下ろされた龍也の顔面には仮面が現れ、眼球が黒くなると言う変化が生じる。
変化が生じた龍也の姿を見た映姫は少し驚いた表情になり、

「成程……理解しました」

ポツリとそう呟く。

「ん? 何をだ?」

急にそんな事を呟かれた為か、ついと言った感じで龍也は疑問気な表情を浮かべてしまう。
そんな龍也を見て、

「貴方を見た時、妙な親近感を抱いた理由をです」

呟いた言葉の意味を映姫は教える。

「親近感?」
「ええ。私の能力は"白黒はっきりつける程度の能力"の能力です」

自分に親近感を抱いたと言われて龍也が首を傾げると、映姫は自分の能力に付いて話す。

「それが?」
「貴方のその力……いえ、貴方は生きながらにして死を内包している。特にその仮面を出した時には仮面を出していない時に比べて死がとても強くなった。
その強くなった死で私はそう確信したのです」

親近感を得た事と映姫の能力に何の関係が在るのかと思った龍也に、仮面を出した時に龍也は生と死の両方を内包した存在である事を確信したと映姫は口にし、

「私の能力風に言うのであれば、貴方のそれは"白と黒を混在させる程度の能力"に成るでしょう」

生と死の両方を内包している龍也の状態を映姫は自分の能力風に言い換える。
"白黒はっきりつける程度の能力"と"白と黒を混在させる程度の能力"。
能力としては別種であるが、確かに似てはいるだろう。
であるならば、映姫が龍也に親近感を覚えるのは当然なのかも知れない。
取り敢えず映姫が自分に親近感を抱いた理由に付いて龍也が納得している間に、

「生と死の二つの力を拒否反応、拒絶反応無く融合させた様に扱えると言うのには驚きを隠せませんが」

生と死、この二つの力を普通に扱っている事に驚きを隠せないと言う台詞を映姫は発した。
どうやら、閻魔である映姫からしても生と死の両方の力を扱う龍也は驚くべき存在である様だ。
一応会話に一区切りが着いたし、抱いた疑問も解消された為、

「成程……だが、それを理解したからと言っても手心を加える気は無いんだろ?」

話を変えるかの様に、龍也は自分に親近感を抱いたと言っても手心を加える気は無いのだろうと言う事を映姫に尋ねる。

「ええ」
「それを聞いて……安心したぜ」

尋ねられた事に映姫は間髪入れずに肯定の返事をしたので、安心した零しながら龍也は両手を合わせて一本の炎の大剣を再び生み出す。
再度生み出した炎の大剣を龍也は構えながら空中を掛けて映姫に近付き、

「らあ!!」

構えていた炎の大剣を映姫目掛けて振るう。
振るわれた炎の大剣に合わせる形で映姫は悔悟の棒を振るった。
二人が振るった得物は当然の様に激突し、大きな激突音と衝撃波を発生させる。
これでは先の焼き回しに様も見えるが、違う点も存在していた。
違う点と言うのは、

「ッ!!」

映姫が弾き飛ばされたと言う点だ。

「……先程までとは比較にならない程のパワーとスピードですね。それに、炎の大剣の出力も上がっている」

弾き飛ばされながらも今の龍也に付いて映姫は軽い分析をしながらブレーキを掛けて停止し、体勢を立て直して顔を上げる。
顔を上げた映姫の目には直ぐ近くにまで迫り、炎の大剣を振り下ろそうとしている龍也の姿が映った。
だからか、高度を上げて振り下ろされるであろう炎の大剣を避け様と映姫は試みる。
映姫が高度を上げたのと同時に、炎の大剣はつい先程まで映姫が居た場所に振り下ろされた。
上手く龍也の攻撃を避けた映姫は、攻撃を振り切って隙だらけの龍也の頭頂部目掛けて、

「はあ!!」

悔悟の棒を振り下ろす。
隙だらけのところを狙った一撃であったのだが、

「ッ!!」

それに反応した龍也は炎の大剣を上部に持って行き、振り下ろされた悔悟の棒を炎の大剣で受け止めた。
攻撃した直後の隙を狙っての一撃を防がれた映姫は驚く事無く、

「ふむ、やはり反応速度も上がっている」

寧ろ想定通りだと言わんばかりの表情で反応速度も上がっていると漏らす。
その瞬間、

「はあ!!」

炎の大剣と悔悟の棒が接触している部分を龍也は爆発させた。
発生した爆発のせいで上方に弾き飛ばされた映姫は龍也から離れて行ったが、離れ過ぎる前に体を回転させて体勢を立て直して急停止を掛ける。
そして、高度を下げて行く。
高度を下げて龍也と同じ高度になると、高度を下げるのを止めて龍也の方に映姫は顔を向ける。
顔を向けた先に居る龍也は炎の大剣を構え、注意深く映姫の様子を観察していた。
自分を観察している龍也を見た映姫は攻め手を変える事を決め、悔悟の棒の龍也に突き付ける様に右腕を動かす。
すると、映姫の周囲に様々な色をした光球が無数に現れ、

「ッ!!」

現れた光球はレーザーに姿を変えて龍也に襲い掛かる。
迫り来るレーザーを見て龍也は驚くも、直ぐに超速歩法を連用して回避行動を取った。
超速歩法の連用でレーザーの直撃を避ける事は出来たものの、これではジリ貧である。
更に言えば、仮面の保持時間も心配だ。
只でさえ、最後に確認した仮面の保持時間の限界時間をとっくに過ぎている。
今は強引に仮面を維持しているが、それも何時出来なくなって仮面が崩壊するか分かったものではない。
であるならば、無理矢理にでも攻勢に移る必要が在る。
そう判断した龍也は自身の力を変えた。
朱雀の力から玄武の力へと。
力の変換に伴って龍也の髪と瞳の色が紅から茶に変わり、炎の大剣が消失した。
炎の大剣が消失すると龍也は超速歩法を止めて右手を前方に突き出し、

「玄武の甲羅!!」

玄武の甲羅を生み出す。
超速歩法を止めた事で止まった的だと言わんばかりにレーザーが玄武の甲羅に直撃したが、玄武の甲羅に傷は一つも付いていなかった。
それを玄武の甲羅の裏から感じた龍也は不敵な笑みを浮かべ、突撃を仕掛けるかの様に映姫に向けて突っ込んで行く。
放たれているレーザーが次から次へと玄武の甲羅に防がれている光景を見た映姫はレーザーを放つのを止め、身構える。
身構えた映姫に突っ込んで来ている玄武の甲羅が激突し様とした刹那、映姫は超スピードで龍也の背後に回りこみ、

「せい!!」

勢いを付けて龍也の背中目掛けて悔悟の棒を振るう。
前方に玄武の甲羅を展開していたと言う事もあり、映姫が背後に回ってきた事に気付けなかった龍也は、

「がっ!!」

振るわれた悔悟の棒の直撃を受けて、押し出される様な形で吹っ飛んで行く。
吹っ飛んで行った龍也であったが、直ぐに体勢を整えながら体を反転。
正面に在る玄武の甲羅を退けながら急ブレーキを掛けて停止し、構えを取った。

「……随分と、防御力が上がっていますね」

悔悟の棒を当てた時の感触と今の龍也の立ち直りの速さからか、龍也の防御力が随分と上がっている事を映姫は見抜き、

「戦っている時の感じから考えるに、貴方の中には四神が居るのですね。だから、四神の力を扱う事が出来る。ならば、今使っている力は玄武の力ですか?」

更には龍也の中に朱雀、白虎、玄武、青龍の四神が居る事を察し、確認するかの様に今使っている力は玄武の力かと聞く。

「ああ、そうだ」

聞かれた事に対し、バレていると言う事もあってか龍也は肯定の返事を返す。

「そしてその仮面……」

返された返事から映姫はやはりと思いながら龍也の仮面に視線を向け、

「その仮面を付けると、貴方の力もスピードも防御力も反射神経も技の破壊力も霊力も何もかも、戦闘に必要な技能が大きく上昇する様ですね。その反面、
仮面を付けている時は貴方の体に結構な負担を強いている様に見えます」

龍也が付けている仮面に付いての考察内容を伝える。
伝えられた内容を龍也が頭に入れた刹那、龍也の仮面全体に罅が走った。
それを見た映姫は、

「もう限界なのでは?」

もう限界なのではと龍也に問い掛ける。
問い掛けられた龍也は無言では左手を額の辺りにまで持って行き、

「限界? 誰がだよ」

左手からどす黒い色をした霊力を溢れ出させ、そう言い放ちながら左手を振り下ろす。
すると、仮面全体に走っていた罅が綺麗に消えてしまった。

「ほぅ……」

意図も容易く仮面の罅を直した龍也に映姫が少し驚いた言う様な表情を向けている間に、龍也はある事を考え始める。
考え始めた事と言うのは、仮面に付いてだ。
こうやって一息吐けた今の状況なら、はっきりと解る。
仮面の能力が上がっていると言う事を。
仮面全体に走っていた罅を直すのだって龍也自身、何の疑問も抱かなかった。
只、直せると言う確信が在っただけ。
少なくとも映姫と戦う前までだったら、仮面全体に走った罅など直せなかったであろうに。
他にも、仮面の能力上がっている要因として上げられるのは仮面の維持のし易さ。
龍也自身が最後に確認した仮面保持の限界時間が来た辺りで龍也は無理矢理仮面を維持していたのが、翌々考えればこれは可笑しいのだ。
どれだけ龍也が必死になって仮面を維持し様と足掻いても、限界時間が過ぎれば仮面はあっさりと崩壊してしまうのだから。
これに関しては美鈴との仮面の保持時間を延ばす為の修行で龍也が既に自身の身で確認している。

「……………………………………………………」

一通り仮面に付いて考えた龍也の頭にある疑問が出て来た。
出て来た疑問と言うのは、どうして急に仮面の能力が上がったの言うもの。
今までの仮面の保持時間を上げる為の修行の成果が映姫との戦いの最中に実を結んだのか。
生と死を内包している龍也は映姫曰く自分自身の能力と似通っているとの事なので、映姫の能力に反応する形で上がったのか。
はたまた全く別の要因が在ったのか。
パッと疑問に対する幾つかの答えが龍也の頭に出て来たが、出て来た答えの中に正解が在るのか全部間違っているのかは龍也にも分からない。
分かっているのは戦いはまだ続くと言うだけ。
だからか、考え事と疑問に対する答えを出すのを龍也は止めて改めて映姫の様子を伺う。
様子を伺うと映姫は何か仕掛けて来ると言った雰囲気を見せず、自分を観察している様に龍也は感じた。
向こうが攻めて来る気が無いのであれば此方から仕掛けるかと龍也は思い、攻め手を変えると意味合いを兼ねて自身の力を変える。
玄武の力から白虎の力へと。
力を変更した事で龍也の髪と瞳の色が茶から翠に変わり、玄武の甲羅が消失する。
そして、龍也の両腕両脚に風が纏わされると、

「やはり……まだ続けますか」

そんな言葉が映姫の口から紡がれる。

「当然だ」

紡がれた言葉に返す様に龍也は当然だと言って構えを取った。
構えを取った龍也を見て、

「……貴方のそれが勇気であるのか蛮勇であるのか……それとも別の何かであるのか私が見極めて上げましょう」

戦おうとする姿勢が勇気、蛮勇、それ以外の別の何かであるのかを見極める事を映姫は決め、龍也に突撃しながら悔悟の棒による突きを放つ。
放たれた突きを龍也は紙一重で避け、

「りゃあ!!」

お返しと言わんばかりに拳を放つが、放った拳を映姫に容易く避けられてしまう。
しかし、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

避けられた事などお構いなしと言った感じで龍也は連撃を繰り出し始めた。
目にも映らぬ様なスピードで次から次へと放たれる拳や蹴りを映姫は回避や悔悟の棒で払うと言った方法で防いでいく。
ある程度そんな状態が続くと映姫は後ろに跳んで龍也から大きく距離を取りながら再び無数の光球を生み出し、生み出した光球をレーザーに変えて放った。
放たれたレーザーを龍也は先程と同じ様に超速歩法で避けて行くが、今回は避けるだけでは終わらない。
何と、レーザーを掻い潜る様にして映姫へと近付いて行ったのだ。
劇的にと言う訳では無いがレーザーを掻い潜りながら自分との距離を確実に詰めて来る龍也を見て、

「スピードが上がっている……成程、今度は白虎の力か」

スピードが上がっている事から今の龍也が白虎の力を使っている事を映姫は見抜き、レーザーを放つのを止めて龍也から距離を取ろうとする。
その瞬間、龍也は両手を合わせて突き出し、

「大嵐旋風!!」

両腕に纏わせている風を一時的に合わせ、合わせた風を竜巻にして映姫に放った。
放たれた竜巻は映姫を容易く呑み込んだ。
だが、映姫は呑み込まれた竜巻の中から直ぐに脱出し、

「はあ!!」

超スピード龍也に近付いて悔悟の棒を振るう。
今回振るわれた悔悟の棒は今までとは比べ物にならない程に鋭かった為、

「ッ!!」

龍也は反射的に回避行動を取る。
回避行動を取った事で辛うじて直撃を受けるのは避けられたものの、

「痛ッ!!」

仮面の右目付近の部分が砕かれ、右側の米神に近い部分から龍也は血を流してしまった。
米神部分から感じる痛みを認識した龍也は掠っただけでこれからと内心で軽い悪態を吐きながら後ろに跳んで映姫から間合いを取り、映姫の様子を観察する。
観察した結果、服などが多少ボロボロに成って被っていた帽子が無くなっていると言う事が分かった。
大嵐旋風の直撃を受けてもこの程度かと龍也が思っている間に、

「……先ずは謝罪致します」

謝罪すると言う言葉を映姫は述べる。

「正直、貴方の事を見縊っていた」

行き成り謝罪された龍也が少し驚いた様な表情を浮かべている間に、謝罪の言葉の意味を映姫は龍也に伝え、

「これは貴方に対する侮辱に当たるでしょう」

見縊ると言う行為は龍也に対する侮辱だろうと言い、構えを取って体中から神力を解放させながら、

「ですので、ここからは……私も本気でいきます」

ここからは本気でいくと言う宣言を行なう。
された宣言と解放された映姫の神力から龍也は警戒した様子を見せながら龍也は自身の力を変える。
白虎の力から朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の髪と瞳の色が翠から紅に変わり、両腕両脚に纏わさっていた風が消えた。
そして映姫を迎え撃つかの様に両手を合わせて炎の大剣を生み出して構えを取り、解放された神力に対抗する形で龍也も霊力を解放する。
解放された霊力と神力がぶつかり、押し合うかの様に鬩ぎ合いをしている中、

「ッ!!」

一瞬よりも短い一瞬で龍也の眼前に映姫は迫り、悔悟の棒を振るう。
迫って来た映姫に反応した龍也は炎の大剣を盾の様にして構え、振るわれた悔悟の棒を炎の大剣で受け止める。
お陰で悔悟の棒が直撃する事も体に掠る事も無かったが、悔悟の棒を振るって来た映姫の力が余りにも強過ぎた為、

「ぐお!!」

後方に向けて龍也は勢い良く吹っ飛ばされてしまう。
吹き飛ばされた龍也は体勢を立て直しながら急ブレーキを掛けて顔を上げ、映姫を視界に入れ様とする。
が、

「居ない!?」

つい先程まで映姫が居た位置に映姫の姿は無かった。
自分が体勢を立て直している間に移動したのかと龍也が思った刹那、

「ッ!!」

龍也は背後から気配を感じ取り、本能に従うかの様に振り返りながら炎の大剣を振るう。
振り返りながら炎の大剣を振るった龍也の目には、映姫の姿が映った。
どうやら、龍也が吹っ飛ばされている間に龍也の背後に映姫は回っていた様だ。
龍也としては何時背後に回られたのか気付けなかったが必然か偶然か、振り返りながらの攻撃を龍也は行なった。
これならば映姫の狙いを阻めると思われたが、龍也が振るった炎の大剣を映姫は軽々と避け、

「せい!!」

カウンター気味に龍也の右頬に向けて蹴りを放つ。

「がっ!!」

放たれた蹴りは見事に命中して仮面の右側半分を完全に砕き、龍也は蹴り飛ばされてしまう。
蹴り飛ばされた龍也は一刻も早くにと言った感じで体勢を立て直し、吹き飛びを止める為にブレーキを掛け様としたタイミングで、

「体勢の立て直しが遅い」

何時の間にか龍也の目の前に迫って来ていた映姫が踵落しを繰り出して来た。
繰り出された踵落しは龍也の頭頂部に叩き込まれ、

「かっ!!」

真っ逆さまに成りながら龍也は地面に向けて一直線に落下して行ってしまう。
落下して行っている龍也を見ながら映姫は無数の光球を生み出し、生み出した光球をレーザーに変え、

「行け」

レーザー全てを龍也に向けて一斉に射出した。
射出されたレーザーは龍也が地面に激突するのと同時に着弾。
龍也が激突した場所とその近辺が次から次へと爆発していき、爆煙が発生していく。
爆発は全てのレーザーが着弾するまで続き、レーザー全てが着弾し終えると、

「……………………………………………………」

追撃を掛けると言う様な事を映姫はせず、経過を見守るかの様に爆発と爆煙が見える箇所をジッと見詰める。
見詰め始めてから少しすると爆発と爆煙が消え、レーザー着弾地点に居た龍也の姿が露になった。
露になった龍也は、

「はぁ……はぁ……はぁ……」

息も絶え絶えで服もボロボロ。
ボロボロの服の素肌が見えている箇所からは血を流している部分が幾つも見られ、仮面も左目付近しか残っていない、
おまけに先の攻撃のせいか炎の大剣は消失しており、霊力の解放が消えていて見ただけ立っているのもやっとと言う状態。
そんな状態の龍也を見た映姫は神力の解放を止め、

「まだ……やりますか?」

まだやるかと問う。
問われた龍也は息を大きく吸い込み、

「たり……めぇだろうが!!」

大きな声でそう答えながら自身の力を変える。
朱雀の力から青龍の力へと。
力の変換に伴って龍也の髪と瞳の色が紅から蒼に変わり、両手に龍の手を模した水を纏わせた。
両手に水を纏わせた事から今度は青龍の力かと映姫が考えている間に、龍也は両手を映姫に向け、

「水流!!」

両手から膨大な量の水流を放つ。
放たれた水流を見た映姫は悔悟の棒を下に構え、放たれた水流が目の前にまで迫って来た時、

「しっ!!」

悔悟の棒を下から上に向けて振るい、水流を真っ二つする。
それから少しすると水流が消えたので映姫は改めて龍也の姿を確認し様としたが、

「……居ない?」

消えた水流と共に龍也の姿も消えていたのだ。
一体何所にと思った映姫が龍也を捜す為に顔を動かそうと瞬間、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

雄叫びと共に龍也が映姫に真横に迫って来た。
迫って来た龍也に映姫は気付き、龍也の方に体を向けたの同時に、

「ッ!!」

龍也は己が爪を振るって映姫の傍を通り抜ける。
通り抜ける際に振るった爪は映姫に命中したが、映姫に傷を付ける事は出来なかった。
ともあれ、龍也の姿を確認出来たのだ。
また見失わない為にと言った感じで龍也の方に体を向けた映姫の目には、

「なっ!!」

目の前にまで迫って来ている龍也の姿が映った。
しかも、髪と瞳の色を蒼から翠に変えた状態で。
目に映っている龍也の髪と瞳の色の変化から四神の力の変換を行ったのは理解出来ていたが、ある一つの事実に映姫は驚いていた。
驚いた事と言うのは、力の変換スピードに付いてだ。
明らかに今までよりも変換スピードが速いのである。
先の今で一体何がと言う疑問を映姫は驚きと共に抱いたが、蹴りを放って来ている龍也の姿が目に映ったので、

「ッ!!」

驚きと疑問を頭の隅に追い遣り、蹴りが来るであろう場所に左手を置く。
その瞬間、映姫の左手の掌に龍也の蹴りが叩き込まれる。
上手く防いだと映姫が思った刹那、

「ッ!!」

蹴りを放っている龍也の脚に纏わされている風が炸裂した。
風が炸裂すると言うのは完全に予想外であったからか、炸裂した風に乗せられる形で映姫は上方へと吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされてから少しすると映姫は体を回転させて体勢を立て直し、急ブレーキを掛けて減速していく。
急ブレーキを掛けてから数秒後に止まる事が出来た映姫は次の行動を起こそうとしたが、

「……ん?」

何かしら行動を起こす前に影が自分に掛かっている事に気付いた。
どうして自分に影がと言う疑問を抱いた映姫が顔を上方に向けると、

「なっ!?」

髪と瞳を茶にし、土で出来た巨大な拳を振り被っている龍也の姿が映姫の目に映る。
土で出来た巨大な拳を振り被っていると言う時点で何が起こるかを理解した映姫は回避行動を取ろうとしたが、その前に土で出来た巨大な拳が映姫に叩き込まれた。
映姫に土で出来た巨大な拳が叩き込まれたのと同時に、土で出来た巨大な拳を龍也は崩壊させながら自身の力を変える。
玄武の力から朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の髪と瞳の色が茶から紅に変わると、龍也は両手を天に向けて伸ばす。
両手が伸ばされた先の上空に炎の玉が生み出され、生み出された炎の玉はどんどんと大きくなっていく。
そして、炎の玉が巨大と言える程の大きさになると龍也は上半身を反らしながら映姫に狙いを付ける。
土で出来た巨大な拳が命中したと言うのに映姫を叩き落せてはいなかったが、ダメージは在るのか攻撃が命中した場所から映姫は動いていなかった。
動かないで居る映姫を視界に入れた龍也は当たると言う確信を抱き、

「豪炎……」

反らしていた上半身を勢い良く戻すかの様に前方に倒しながら、

「火球!!!!」

巨大な炎の玉を映姫に向けて投げ飛ばす。
投げ飛ばされた巨大な炎の玉は映姫に着弾し、大爆発を起こして巨大な火柱が発生した。
今投げ飛ばした炎の玉に龍也は渾身の力を籠めたが、これで倒せたとは全く思っていない。
何時火柱の中から映姫が飛び出して来ても良い様に身構えていた龍也の耳に、

「今のは……良い一撃でしたよ」

直ぐ近くからそんな言葉が耳に入って来た。
入って来た言葉に反応した龍也は、言葉が発せられたあろう方に顔を向ける。
顔を向けた龍也の目には自分に密着する様な形でくっ付いている映姫の姿、そして自分の腹部に突き刺さっている悔悟の棒が映った。
一体何時の間にと言う疑問を龍也が抱いている間に悔悟の棒が龍也の腹部から引き抜かれ、引き抜かれた箇所から血が零れ始める。

「ぐ……」

血が零れ始めたのと同時に鈍い痛みが龍也を襲う。
襲って来た痛みに龍也は若干顔を歪めながら抱いた疑問を頭の隅に追い遣り、血が零れている部分を左手で押さえながら後ろに下がって行く。
ある程度下がった辺りで龍也は後ろに下がるのを止めて右手を映姫の方に向け、

「霊流波!!!!」

右手から渾身の力を籠めて大きな青白い閃光を迸らせる。
迸った閃光は映姫に向けて突き進み、大きな青白い閃光が映姫を呑み込んだ。
大きな青白い閃光が映姫を呑み込んでから少しすると青白い閃光が消え、映姫の姿が露になる。
露になった映姫は青白い閃光に呑み込まれる前と変わらない姿で佇んでいた。
もっと言えば、服の一部が少し焼け焦げてはいるが映姫自身にダメージが入っている様には見えない。
つまり、渾身の力を籠めて放った豪炎火球も霊流波も映姫には大したダメージを与えられなかったと言う事になる。
その事実を理解した龍也が、

「ちく……しょう……」

無念だと言う様な台詞を漏らすと、まるで全身の力が抜けたかの様に龍也は膝から崩れ落ちた。
崩れ落ちた際に残っていた仮面が砕け散り、龍也の眼球が元の白に戻る。
それに続く様にして髪と瞳の色も元の色である黒色に戻り、龍也は意識を失って地上に向けて落下して行ってしまった。






















落下した龍也が地面に激突する直前、

「おっと」

何者かが龍也を両腕を受け止めた。
龍也が地面に激突する前に掬い上げ様と急降下していた映姫はそれを見て降下を止め、龍也を受け止めた者の姿を確認に掛かる。
確認しに掛かった映姫の目には、

「貴女は……風見幽香」

風見幽香の姿が映った。
名を呼ばれた幽香は映姫の方に顔を向け、

「はぁい、お久しぶりね。閻魔様」

ご機嫌と言った感じで映姫に挨拶の言葉を掛ける。
掛けられた言葉とご機嫌と言った感じの幽香の表情から、

「……貴女の差し金ですか?」

ここに龍也が来たのは幽香の差し金かと映姫は聞く。

「差し金とは人聞きの悪い。私は仕事をサボっているであろう死神の居場所を教えて上げただけよ」

聞かれた幽香は笑顔でそんな事を口にし、

「まぁその後、貴女と会って戦う事になるのは予想していたけど」

龍也と映姫の戦いは予想していたと言う補足を行なう。

「貴女は……」

補足された事を受けた映姫が幽香に何か言いた気な表情を浮かべると、

「龍也と戦ったんなら解ったでしょ。龍也の本能が強くなる事と戦う事を望んでいると言う事を」

話を変えるかの様に幽香は龍也の本能に付いての話題を出す。

「確かに……」

出された話題に対し、映姫は納得したと言う様な表情を浮かべた。
すんなりと幽香の出した話題に納得出来たのは、戦っている最中に映姫自身が何となくではあるが龍也の本能を感じ取ったからだ。
ともあれ、映姫が浮かべた表情を見た幽香は体全体を映姫の方に向け、

「それに、龍也の強さはまだまだ発展途上。龍也はもっともっと強くなる」

龍也の強さが発展途上である事、強くなる余地を十二分に残している事を伝える。

「……成程。貴女は龍也の成長の為に彼をここ来る様に仕向けましたね。ここに来れば私と戦う事になり、勝敗がどうであれ龍也の強さが上がると予想して」
「さて、それはどうかしら?」

伝えられた事から幽香の狙いを映姫は推察したが、クスクスと笑いながら幽香は推察内容が合ってるかどうかは教えないと言う様な事を映姫に返す。

「貴女は……」

小馬鹿にするかの様な幽香の態度に腹を立てたのか、映姫は幽香に何かを言おうとしたが、

「あら、説教がてらに私とも戦ってみる? 私の記憶が確かなら昔貴女と戦った時は私の圧勝だったわね。貴女はズタボロなのに私は掠り傷一つ
負わなかったし」

昔を思い出すかの様に幽香が嘗て映姫と戦った時の話題を出すと、映姫は押し黙ってしまう。
何故ならば、幽香が語った内容に間違い無いからだ。
とは言え、幽香に手も足も出なかったと言うのは過去の話。
少なくとも、今の自分ならば幽香相手に手も足も出ないと言う事態には成らないと言う自信が映姫には在る。
そうであるなら閻魔、個人の両方として幽香を今この場で裁こうかと考えた時、

「と言うか貴女、龍也と随分楽しそうに戦ってたじゃない」
「うっ……」

幽香から龍也と楽しそうに戦っていたと言う突っ込みが入った為、考えていた事を実行に移す事を忘れたかの様に言葉を詰まらせて映姫は一歩後ろに下がってしまう。
実際、龍也に抱いた親近感の理由を理解した後の戦いは閻魔としての本分を忘れていたと言われても否定する事が出来ない程に映姫は戦いを楽しんでいた。
と言うより、裁くと言うのであれば通常戦闘ではなく弾幕ごっこでも良かった筈。
戦いの最中に弾幕ごっこに切り替える事も出来たであろうに、映姫はそれをしなかった。
これは戦いを楽しんでいたと言う証拠になるだろう。
閻魔の本分を忘れていたと言われても仕方が無い為、

「確かに、それは反省しなければ成らない事です」

反省しなければ成らないと零して俯く様に顔を下げる。
落ち込んでいると言う様な雰囲気を見せ始めた映姫に、

「別に反省しなくても良いとは思うけどね。今は閻魔として霊を裁いている訳でも無いんだし」

反省する必要は無いのではと言う声を幽香は掛け、気絶している龍也に視線を移す。
そして、

「さっきも言ったけど、龍也はまだまだ強く成る。必ず私と対等以上の存在に成るわ。その時こそ……」
「彼と戦う……ですか?」

自分と対等以上の存在に龍也がなる事を確信している幽香に、映姫は確認するかの様に龍也が自分以上の強さを得たら戦うのかと尋ねる。

「ええ、そうよ」

尋ねられた事に幽香は笑みを浮かべながらそう答え、

「さて……紫、居るんでしょう?」

ここには居ない筈の紫に声を掛けた。
すると、幽香の隣に隙間が現れ、

「あら、ばれちゃってたわ」

現れた隙間の中から八雲紫が姿を現す。

「やはり居ましたか、八雲紫」
「お久しぶりです、閻魔様」

現れた紫を見てやはり居たかと言う表情を浮かべている映姫に、丁寧な挨拶を紫は行ない、

「それで、私に何か用かしら?」

幽香の方に顔を向けて自分に何か用かと問う。

「龍也を永遠亭に運んで置いてくれるかしら。急所も外れている傷も深くは無いけど、一応お腹から血を流してるし」
「分かったわ」

問われた幽香が紫に頼みたい内容を伝えると、了承の返事をしながら紫は幽香の目の前に隙間を開く。
目の前に開かれた隙間に幽香が龍也を放り込む。
放り込まれた龍也が完全に隙間の中に入ったのと同時に紫は隙間を閉じ、

「あーあ、それにしても残念だったわ。若しかしたら、閻魔様が負ける姿が見れるかもって思ったのに」

からかう様な声色でそんな事を述べる。

「丁度良い。八雲紫。貴女には言わねばならない事が……」

紫が述べた事が耳に入った映姫が何かを言おうとした刹那、

「それじゃ、私はお暇させて貰うわね。閻魔様、御機嫌よう」

お暇させて貰うと言う台詞と共に紫は出て来た隙間に身を入れ、隙間を閉じた。
見事と言わんばかりの紫の逃げっぷりに映姫がつい唖然とした表情を浮かべてしまった間に、

「私も用が済んだから帰るわね」

自分も帰ると言う事を幽香は映姫に伝え、去って行く。
風見幽香と八雲紫と幻想郷の中でも特に強力な妖怪が去って行った後、

「……はぁ」

疲れを吐き出すかの様に映姫は息を一つ吐いた。
その時、思い出したかの様に映姫は小町の気配を探る。
気配を探った結果、この近辺に小町は居ない事が分かった。
おそらく、自分と龍也が戦っている間に逃げたのだろうと言う事を映姫は考えつつ、

「初めて会った時は真面目な子だと思ったんだけどなぁ……」

愚痴とも言える様なものを零す。
零した事から若しかしたら自分には人を見る目、と言うより死神を見る目が無いのではと言う不安を抱いたタイミングで、

「……ん?」

再思の道方面が騒がしく成っている事を映姫は感じ取った。
それが気に掛かった映姫は感知範囲を再思の道まで広げる事にする。
感知範囲を広げると再思の道には小町、人間、妖怪、妖精、半霊、霊と言った存在が居る事を映姫は知った。
小町は兎も角、他の多種多様な存在が同時に再思の道に来ている事に映姫は疑問を抱いたが、

「……ああ」

直ぐに抱いた疑問に対する答えを得る。
得た答えと言うのは、六十年周期で起こる今回の現象を調べに来たと言うものだ。
でなければ、多種多様な存在が一度に再思の道にやって来たりはしないだろう。
そう考えながらこの現象の事をやって来ている者達に教える必要が在ると映姫は判断し、再思の道に向けて足を進め始めた。
まだまだ帰れそうにないなと思いながら。























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