「……あ?」
ふと目を覚ました龍也は上半身を起き上がらせ、顔を動かして周囲の様子を伺う。
すると、鈴仙の姿が龍也の目に映った。
目に映った鈴仙の姿からここは永遠亭かと龍也は考えつつ、鈴仙に声を掛け様とした瞬間、
「あんた、馬鹿?」
馬鹿と言う言葉が鈴仙の口から発せられる。
起きて早々に馬鹿呼ばわりされた龍也は少々呆気に取られたが、
「……いや、何で行き成り馬鹿呼ばわり?」
直ぐに気を取り直して鈴仙に自分を馬鹿呼ばわりして来た理由を問う。
「……はぁ、少し待ってなさい」
問われた鈴仙は溜息を一つ吐きながら少し待つ様に言って立ち上がり、部屋から出て行った。
それから少しすると鈴仙は部屋に戻って来て、
「はい、これを見なさい」
龍也の近くに腰を落ち着かせ、新聞紙を龍也に差し出す。
「新聞紙?」
差し出された新聞紙を龍也は少し疑問気な表情に成りながら受け取り、新聞紙に目を通すと、
「……これ、"文々。新聞"か」
鈴仙が渡して来た新聞紙は"文々。新聞"である事が分かった。
そのタイミングで、
「それに書かれている記事を呼んで見なさい」
"文々。新聞"を読む様に鈴仙が促して来た為、
「記事?」
促される儘に龍也は記事に目を通し、
「何々……『幻想郷を旅して回っている外来人の四神龍也さん、閻魔様相手に戦いを挑む』」
ついと言った感じでタイトルを読み上げる。
読み上げたタイトルから、文に付けられていた事を龍也は理解しつつ、
「あいつ、また勝手に俺の事を記事にしたのか」
若干呆れた様な声色でそう呟く。
またと言う言葉の通り、龍也が文に無許可で記事にされたのは今回が初めてと言う訳では無い。
初めて文が無許可で自分をメインにした"文々。新聞"を発刊したのに気付いたのは、萃香が起こした異変の真っ最中だったかと言う事を龍也が思い出した時、
「戦いの結果……つまり、どっちが勝ったのかって言う事は書かれていないみたい何だけどね。その新聞」
"文々。新聞"には龍也と閻魔による戦いの結果に付いては書かれてはいない事を鈴仙は口にする。
口にされた事に反応した龍也は記事を読み進めていき、
「あ、ほんとだ」
本当だと零す。
そう零した通り、この"文々。新聞"には龍也と閻魔である映姫との戦いの行方に着いてまでは書かれていなかった。
書かれなかった理由は戦闘途中に発生した爆風に巻き込まれて文が吹っ飛び、カメラやらネガの多数が紛失したので勝敗までは分からなかったとの事。
因みにこの"文々。新聞"に掲載されている写真は一枚だけで、その写真に映っているのは白虎の力を解放している龍也が映姫に向けて放った拳が受け止められている瞬間。
この写真だけは奇跡的に無事であったと言う事が、勝敗の結果が記されなかった理由と共に"文々。新聞"には書かれていた。
新聞に掲載出来る写真が一枚だけだったとは言え、載せれる写真が残っていた辺り文の運は良いのかも知れない。
"文々。新聞"に書かれている記事を読みながらそんな事を思い始めた龍也に、
「普通はしないわよ。閻魔様相手に戦いを挑もうだなんて」
呆れた様な声色で閻魔相手に戦いを挑む事は普通しないと言う突っ込みを鈴仙は入れて来た。
「はは、まぁ譲れないものがあって……」
入れられた突っ込みを受け、龍也は苦笑いを浮かべながら右手で後頭部を掻く。
そんな龍也の目を見て、
「……はぁ、呆れた」
呆れたと言う言葉が鈴仙の口から紡がれた。
「え? 何が?」
「リベンジを考えてるって目、してるわよ」
紡がれた言葉が耳に入って来た事で龍也が疑問気な表情を浮かべると、リベンジを考えている目をしていると言う指摘を鈴仙からされる。
された指摘は正しかったからか、
「あ、分かるか?」
分かるかのと言う問いを龍也は鈴仙に投げ掛けた。
「分かるわよ。男の子って皆そうなのかしら?」
投げ掛けられた問いを鈴仙は肯定し、男の子に付いて考え始めると、
「そういや、良く俺が映姫に負けたって分かったな。"文々。新聞"には勝敗までは書かれていなかったのに」
映姫との戦いの結末は"文々。新聞"にも書かれていなかったと言うのに、良く自分と映姫の戦いの勝敗が分かったなと言う疑問を龍也は鈴仙にぶつける。
ぶつけられた疑問が耳に入った鈴仙は顔を上げ、
「まぁ、閻魔様の服は少しボロボロだったけど傷らしい傷は付いて無かったからねぇ。それに比べて、あんたはボロボロの状態で気絶してたって聞いてたし。
だから、あんたが負けたと思ってたの」
疑問に対する答えを返す。
返された答えを受け、
「じゃあ、鈴仙が俺を永遠亭に運んでくれたのか?」
龍也は永遠亭に自分を運んでくれたのは鈴仙かと尋ねる。
「いえ、私じゃ無いわ」
尋ねて来た事に鈴仙は否定の言葉を返し、
「師匠が言うには薬を作っている最中に天井近くに隙間が開き、開いた隙間からボロボロの貴方が降って来たって話よ」
龍也が永遠亭に来た経緯を話す。
話された中に在った隙間が開いたと言う部分だけで龍也は誰が自分を永遠亭まで運んで来たのかを理解しながら、
「あいつ、俺が映姫と戦ってるのを見てたのか?」
若しかして紫は自分と映姫の戦いを見ていたのではと推察する。
「そうじゃない? あの妖怪なら覗き見程度、朝飯前だろうし」
推察した事を肯定するかの様にそんな発言が鈴仙から発せられた為、龍也はある事を思い出す。
もう一人の自分と戦う前の事を。
あの時、紫は見事とも言えるタイミングで現れた。
しかも、龍也の身に何が起きているのかを見抜いた状態で。
思い出した事から紫が覗き見していても何の不思議も無いと言う結論を龍也は内心で下した。
若しかしたら、今も現在進行形で覗き見されいるのか知れないと言う可能性が龍也の頭に過ぎる。
過ぎった可能性が仮に正しかったとしても打てる手は無いからか、紫が覗き見しているかどうかに付いては頭の隅に追い遣り、
「……そう言えば、何で映姫の状態まで知ってたんだ?」
ふと抱いた疑問に付いて龍也は鈴仙に聞いて見る事にした。
聞かれた疑問を受け、
「それは簡単。多分……あんたと閻魔様の戦いが終わってから少し過ぎた辺りね。私達、閻魔様に会ったの。だからか、あんたの状態だけじゃなくて
閻魔様の状態も知ってたって訳」
人差し指を立てながら鈴仙は龍也が欲しているであろう答えを述べる。
「……私達?」
述べられた答えの中に在った私達と言う部分に龍也は引っ掛かりを覚え、首を傾げてしまった。
だからか、
「色々と遇っててゐ、霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢、ミスティア、チルノ、プリズムリバー三姉妹、メディスンの十一人と今回の異変……と言うか現象ね。
それを一緒になって調べる事になって再思の道と無縁塚に行ったのよ。で、再思の道で死神の小町。無縁塚で閻魔様とこれまた色々遭って戦ったのよ。
あ、弾幕ごっこでね。そんな事が在ったから閻魔様の状態も知ってたって訳」
私達と言う部分に付いての説明を行なう。
「へぇー……結構動いている奴は居たんだな」
行なわれた説明から今回の現象を調べていた者は結構居たんだなと言う感想を抱いている龍也に、
「他に聞きたい事は在るかしら?」
他に聞きたい事は在るかと鈴仙は問うて来た。
そう問われた龍也は少し悩み、
「あー……俺ってどの位寝てたんだ?」
自分が寝ていた期間に付いて言うと、
「丸二日位ね」
丸二日位だと鈴仙は口にする。
「そんなものなのか……」
口にされた事を理解した龍也が意外そうな表情を浮べた為、
「今回は前に入院した時と違って大怪我って訳じゃなかったしね。お腹に何かが突き刺さった怪我が在ったけど、内臓損傷とかも無かったし。
まぁ、骨に皹位は在ったと思うけど」
以前大怪我を負った時と比べたらずっと軽傷だったので丸二日位寝るだけで済んだと言う様な事を鈴仙は説明し、
「あんたが寝ている間、あんたの包帯を換えたり、薬を塗ったり、着替えさせたり、汗を拭いたりしてたのは私なんだから。感謝してよね」
寝ていた龍也の面倒を見ていたのは自分であると言う。
言われた事が耳に入った龍也は視線を落とすと自分が入院患者が着る様な服を身に着けて、自分の体の幾つもの箇所に包帯が巻かれている事が分かった。
今の自分の状態を確認した龍也は、
「ありがとな、鈴仙」
ありがとうと言う言葉を鈴仙に掛けて軽く体を動かす。
しかし、体を動かしても痛みを感じなかった。
だからか、
「んー……骨に皹が入ったって言う割には痛みは全然感じないな」
疑問気な表情を龍也は浮かべてしまった。
骨折ではないにしても骨に罅が入っているのなら、多少の痛みは感じると思ったからだ。
そんな龍也の疑問を察した鈴仙は胸を張り、
「それはそうよ。師匠が作った特性の薬だもの。もう治っているわ。骨の罅も傷もね」
何処か自慢する様な表情で師である永琳が作った薬を使ったのだから、骨の罅と傷の両方が治っている事を教える。
「相変わらず凄いな、永琳は」
たかだか二日程で骨の罅を含めた怪我が治ったと言う事実を知り、永琳を凄いと称した龍也に、
「そりゃねぇ。頭脳もさる事ながら、師匠は"あらゆる薬を作る程度の能力"を持っているからね」
頭脳も優れているが有している能力故に龍也の怪我を二日程で治せたのだと言う事を鈴仙は語った。
「薬師ってのは知ってたけど、そんな能力を持っていたのか」
「でも、材料の関係上作れない薬も多いんだけどね」
語られた事から永琳の能力を知って驚いた龍也に向け、補足するかの様に鈴仙は材料の関係上作れない薬も多い事を伝える。
「そうなんだ」
伝えられた事を頭に入れた龍也は何処か拍子抜けした表情を浮べてしまう。
だが、翌々考えればそれは当たり前の事だ。
永琳の能力は無から有を生み出す能力ではないのだから。
それでも龍也の怪我を二日程で完治させる様な薬を作ったのは流石としか言えないが。
ともあれ、薬を作ってくれた永琳にも礼はし様と言う事を龍也は考えつつ、
「あ、そうそう。俺ってどれ位で退院出来るんだ?」
思い出したかの様に自分は何時退院時期に付いて鈴仙に尋ねる。
尋ねられた鈴仙は人差し指を下唇に当て、
「そうね……師匠にあんたが目を覚ました事を伝えた後、師匠があんたの退院の日程を決められる事になると思うから……多分数日後位じゃないかしら?
幾ら怪我が治っていると言っても、二日は寝っ放しだったからねぇ。それに、閻魔様との戦いで閻魔様の神力が幾らかあんたの体に溶け込んでいたみたい
だし。その影響も調べないといけないもの。まぁ、溶け込んだ神力はあんたの霊力に押される様な形で消滅したみたいだけど」
退院まで数日は掛かる事を述べた。
「そっか……」
意外と早くに退院出来そうなので何処か安堵したかの様な表情を龍也は浮かべ、
「俺の事、看病してくれてありがとな」
改めてと言った感じで鈴仙に礼を言って頭を下げる。
先程された流す様な礼とは違って確り礼を言われた鈴仙は、
「べ、別に良いわよ、お礼なんて。あんたは入院患者なんだし、師匠にあんたの看病を任されてただけだし」
若干顔を赤くしながら照れ臭そうな声色でそんな事を口にし、龍也から顔を背け、
「兎に角、師匠にあんたが目を覚ましたって言う報告をして来るから」
立ち上がって永琳に龍也が目覚めた事を報告しに行くと言い、
「そうそう、晩ご飯が出来るまでは寝てなさいよ。この前の時みたいに出歩いて無理されても困るし」
背けていた顔を戻して晩ご飯が出来るまで寝ていろと言う注意を行なう。
「ははは……」
注意された龍也は苦笑いを浮かべ、鈴仙から顔を背けた。
まるで、注意されなかったら出歩いていたと言う様に。
だからか、鈴仙は龍也をジト目で見詰め、
「くれぐれも、大人しくね」
大人しくしていろと念を押し、部屋から出て行った。
部屋から出て行った鈴仙を見送った後、龍也は上半身を後ろに倒す。
そして、天井を見ながらある事を考え始めた。
考え始めた事と言うのは仮面の力に付いて。
映姫との戦闘中、保持時間の増加や扱い易さなど仮面の力が上がっていた。
上がった要因と修行の成果、映姫の能力に反応した結果等々。
可能性としては幾らでも挙げられるが、問題なのは今も仮面の力が上がっているかどうか。
戦闘中に上がっている積もりで仮面を出し、仮面の力が映姫と戦う前に戻っていたら目も当てられない。
これに関しては近い内に確かめる必要が在るだろう。
まぁ、流石に今ここでする訳にはいかないが。
龍也自身に自覚は無いが仮面を出すと龍也の霊力は濃く、重く、禍々しくなるからだ。
そんな霊力を発しったら、永遠亭の面々に変な迷惑を掛ける事に成りかねない。
取り敢えず、仮面の確認に付いは後に回す事を決めた後、
「俺は……映姫に負けた」
ポツリと、映姫に敗北したと言う事実を呟く。
呟かれた事は決して覆らないだろう。
どんな方法を用いたとしても。
ならば、する事は一つだけ。
即ち、
「俺はもっと強くなる。そして次は……必ず勝つ!!」
強くなり、次は映姫に勝つ。
誰に誓うでも無く、龍也は自分自身の魂にそう誓った。
「あ、トランクスの柄が変わっている……」
少し汗ばんでいたので着替えようとした龍也は、自分のトランクスを見て何とも言えない表情でそう漏らした。
そして、時が少し流れて夕食の時間帯。
もう動き回れると言う事で、龍也は永遠亭の居間で夕食を御馳走になっているのだが、
「はい、あーん」
何故か、龍也は輝夜にご飯を食べさせられていると言う状況になっていた。
因みに永琳、鈴仙、てゐの三人は止める気は無いらしい。
まぁ、その三人は輝夜の従者や部下と言える立場。
そんな立場の三人が永遠亭の主である輝夜の行動を止めたりは出来ないのだろう。
ともあれ、輝夜にご飯を食べさせられている龍也は、
「何だって俺にそう構うんだ?」
自分に構う理由に付いて輝夜に尋ねる。
「前にも言ったでしょう。貴方が私に求婚して来た男共とは全然違うタイプだからよ」
尋ねられらた輝夜がそう言うと、龍也は思い出す。
以前、同じ様な事を尋ねてそう返された事を。
過去を思い出したかの様な表情を浮かべている龍也を見て、
「ほらほら、もっと嬉しそうな顔をしなさいよ。輝夜姫である私にこんな事をして貰える男なんて貴方が初めてよ」
もっと嬉しそうにしろと言う事を輝夜が口にしながら箸で摘まんだ卵焼きを差し出して来たので、
「あー、はいはいそうですね。私は天下一の幸せ者でございます」
何処か投げ遣りな感じの声色で龍也はそう語りながら差し出された卵焼きを食べる。
「あら、素直に食べたのね」
すんなりと差し出された物を食べた龍也に輝夜が意外そうな表情を向けた時、
「どうせ、今回も俺の学ランを直してるんだろ」
もう知っていると言った感じの表情で龍也は自分の学ランを直しているのは輝夜なのだろうと言う指摘を行なう。
「あら、良く分かったわね」
「そりゃ……な」
された指摘が正しかった事で少し驚いた表情を浮べた輝夜に龍也はそう返し、話を変えるかの様にお茶を啜り、
「で、何時までこれを続けるんだ?」
何時までこれを続けるのかと言う事を聞く。
聞かれた輝夜は非常に可愛らしい笑みを浮かべ、
「私が飽きるまで」
自分が飽きるまでだと言ってのけた。
そう言ってのけた輝夜の笑みを見て、龍也は改めて思う。
数多の男に求婚されるのも納得だと。
同時に、今まで輝夜に求婚して来た男達の中に本当に自分の様な男は居なかったのかと言う疑問を抱きつつ、
「はぁ……」
少々大きな溜息を一つ吐いた。
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