龍也が紅魔館でアルバイトを始めてから一週間程経った頃。
龍也は、
「お嬢様、クッキーをお持ちしました」
そう言いながら少し小さめのテーブルの上にクッキーを乗せた小皿を置いた。
因みに、今現在龍也が居る場所はレミリアの私室である。
ともあれ、テーブルの上に置かれたクッキーの入った小皿を見て、
「ありがとう」
軽い礼の言葉を述べながらレミリアはクッキーを一つずつ摘まんで食べ始めた。
そして、何枚目かのクッキーを食べた後、
「ふむ……貴方が紅魔館で執事をやり始めて一週間程になるけど、大分執事が板に付いて来たじゃない」
クッキーを食べるのを止め、龍也を褒める様な台詞をレミリアは口にした。
口にされた事を受け、
「恐縮です、お嬢様」
そう返しながら龍也はレミリアに頭を下げる。
そのタイミングで、ここ一週間の事を龍也は思い出していた。
具体的に言うと部屋と言った室内の掃除の仕方の指導、そして言葉使いに対する指導だ。
尤も、前者に関しては特に問題は無かった。
何せ、一回教えただけで妖精メイドよりもずっと使える様になったと咲夜が断言したからだ。
とは言え、断言した咲夜の表情は少々複雑なものであったが。
まぁ、それも無理はない。
妖精メイドは何度指導を受けても仕事の腕が大して上がらず、勤務態度も大して良くならないのだから。
ともあれ、問題が出て来たのは言葉使いの方だ。
美鈴、咲夜、小悪魔、妖精メイドなどはバイト執事の龍也とは立場上同格であったり、龍也の方が立場が上であったりするのでこっちは問題無い。
フランドールに関しても、普段通りの言葉使いをフランドールが望んでいるので此方も問題は無いと言える。
問題なのは、レミリアとパチュリーだ。
この二人は紅魔館の主とその親友。
そんな二人についつい何時もの癖で普段通りの言葉使いをしてしまい、龍也は咲夜に度々その事で怒られていた。
と言った感じで紅魔館で執事のアルバイトをしてからの事を龍也が思い返していると、
「どう? この儘ここで執事をやってみない?」
レミリアからこの儘紅魔館で執事をやってみないかと言う提案が出される。
しかし、まだ何所かに留まると言う気は龍也には無いので、
「……それはまたの機会と言う事で」
何時もの様に断ると言った感じの返答を行なった。
「それは残念」
行なわれた返答にレミリアが何時もの様に残念と返し、またクッキーを一枚摘まんで食べる。
再びレミリアがクッキーを食べ始めてから幾らかすると、再度クッキーを食べるのをレミリアは止め、
「ねぇ、龍也」
龍也に話し掛けて来た。
「何でしょうか?」
「少し頼みたい事が在るのだけど……」
話し掛けられた龍也が反応を示したのと同時に、頼みたい事が在るとレミリアは口にする。
アルバイト執事と言えど、執事は執事。
ここで異を唱える事など有り得ない。
故に、
「お嬢様の命とあらば」
レミリアの頼みを引き受ける事を龍也は決め、
「それで、頼みというのは?」
レミリアに頼みたい事を言う様に促す。
促されたレミリアは悪戯を思い付いたと言う様な笑みを浮かべ、
「何か面白い物を探して来て」
頼みたい事を述べた。
「面白い物……ですか?」
述べられた内容を耳に入れた龍也は念の為と言った感じで確認を取る。
「ええ、そうよ」
取った確認に間違いは無いと言う事をレミリアが断言した為、無茶振りをして来たなと言う感想を龍也は抱くも、
「畏まりました」
その様に答えて一礼をし、気合を入れ直す。
バイト執事とは言え、今は紅魔館の執事である事に変わりは無い。
主の命は可能な限り遂行すべきだと言う決意をしながら龍也はテラスの方に移動する。
そして、テラスに着くのと同時に龍也は咲夜が時間を止めて移動するのを真似るかの様に、
「ッ!!」
超速歩法を使って消える様にして紅魔館を出発した。
紅魔館を出発し、空中を駆ける様にして移動している龍也は、
「それにしても、面白そうな物ねぇ……」
面白い物とは何かと言う事を考えていた。
一言に面白い物と言っても色々在る。
その中でレミリアの好みに合う面白い物を見付けて来るとなると、かなり難易度が高いであろう。
だからか、ついつい表情を難しいものに龍也は変えてしまった。
そんな龍也の頭に、ふと香霖堂の存在が思い浮かんだ。
香霖堂の品揃えはかなり豊富と言っても良い。
であるならば、香霖堂にならレミリアが気に入る面白い物が在る可能性は十分に在る。
仮に無かったとしても、霖之助ならばそう言った物に対する何かしらの情報を持っている確率は高い。
ここまで利点が有るのなら、香霖堂に行かない理由は無いだろう。
そう結論付けた龍也は一旦足を止め、顔を動かして魔法の森が在る方向を探す。
魔法の森を探している理由は、香霖堂が魔法の森の入り口付近に在るからである。
魔法の森の場所さえ見付けてしまえば、香霖堂を見付ける事など容易だ。
と言った感じで魔法の森の探し始めてから少しすると、
「…………お、見っけ」
魔法の森が在る方向を龍也は発見し、発見した魔法の森が在る方に龍也は体を向け、
「……よし」
体を向けた方に龍也は移動する。
それから少しした辺りで、
「あやややや、これは龍也さん。お元気ですか?」
移動している龍也の隣を並走するかの様に飛行している文が現れた。
「文か」
現れた文に気付き、文の方に龍也が顔を向けた時、
「処で龍也さん。その格好、どうしたんですか?」
今龍也が着ている服に付いて文が尋ねて来た為、
「今、一寸金欠でな。紅魔館で執事のバイトをしてるんだ」
執事服を着ている理由を龍也は簡単に話す。
「ほうほう、紅魔館でアルバイトですか」
話された事を耳に入れた文は興味深そうな表情を浮べながら手帳とペンを取り出して、
「これは記事になりそうですね」
取り出した手帳にペンを走らせていく。
何時も通りと言える様な文を見て、
「相変わらずだな、お前……」
若干呆れた声色で龍也はそう漏らす。
漏らされた発言を聞いた文は龍也の方に顔を向け、
「龍也さんの記事は人里の子供達に結構な人気が有りますからねぇ。定期的に龍也さんの記事を作る様にしているんですよ」
龍也の記事を作っている理由を説明する。
された説明を受けて以前にも同じ様な事を言われたなと言う事を龍也は思いつつ、
「……殆ど隠し撮りみたいな物だったよな。この前の俺の記事も」
自分が記事に成っている際の写真の殆どは隠し撮りだろうと言う指摘を文に行なった。
行なわれた指摘を聞き流すかの様に、
「その方が、その儘の龍也さんを撮る事が出来ると思いまして」
シレッとした表情で文は隠し撮りの正当性の主張し出した。
その主張に龍也は物は言い様だなと言う感想を抱き、
「そういやさ。俺が映姫と戦ってた時ってさ、お前何処に居たんだ?」
ふと気になった事を文に尋ねてみる。
そう尋ねた理由は、映姫と戦いを繰り広げる少し前でも文の気配を全く感じなかったからだ。
兎も角、尋ねられた文は、
「それは御二人が戦っている場所から離れた所ですよ。正確に言うと無縁塚の入り口と龍也さんと閻魔様が戦っていた場所の間付近ですね」
龍也と映姫は戦っていた時の事を思い出しながらそう語り、
「御二人の戦闘の余波が来ない場所で撮影していたんですが……」
撮影当時の事も伝えた。
そして、
「龍也さんが放った火球の爆発の余波のせいで私は吹き飛ばされ、カメラなども壊れてしまったんですよね……」
ジト目になりながら龍也のせいでカメラなどの道具が壊れてしまったと口にする。
「いや、それを俺に言われても……」
「まぁ、それはもう過ぎた事なので良いんですが……」
口にされた事を受けて龍也はその様に返すと、話を変えるかの様に文は溜息を一つ吐き、
「実はですね。龍也さんに聞きたい事が在るんですよ」
聞きたい事が在ると言い出した。
「聞きたい事?」
「はい。閻魔様との戦い、どうなったんですか?」
聞きたい事と言われて首を傾げた龍也に、聞きたい事の中身を文は話す。
龍也として敗北の苦い記憶ではあるが、態々隠さなければならない事でもない。
だからか、
「ああ、あれは俺の負けだ」
映姫との戦いは自分の負けである事を龍也は文に教える。
「そうだったんですか……」
教えられた事を一字一句間違えない様にと言った感じで手帳にペンを走らせていく文を見ながら、
「そういやあの異変……てか自然現象の時、お前何時から俺の事を付けてたんだ?」
序と言わんばかりにもう一つ、気になった事を龍也は文に聞いて見た。
「龍也さんが再思の道へ入る少し前ですかね」
聞かれた事に対する答えを文が言った後、内心で龍也はホッとする。
もし、文が龍也を付け始めるのがもっと前で鈴仙とのやり取りを見られていたとしたら。
確実にそのやり取りを"文々。新聞"に書かれていた事であろう。
それも面白可笑しく。
まぁ、入院中に龍也が見た"文々。新聞"にそんな記事は書かれてはいなかったのだ。
今の龍也の心配は余計なものであったであろう。
ともあれ、そんな龍也の心中を無視するかの様に、
「それはそうと、龍也さんは閻魔様に負けてしまいましたがリベンジとかは考えているんですか?」
映姫へのリベンジは考えているのかと言う事を文は龍也に問う。
「ああ、もっと強くなって再び戦いを挑む積りだ。今度は俺が勝つ」
「成程、龍也さんはリベンジする気満々と……」
問われた龍也が何れ映姫にはリベンジすると言う決意を示すと文は興味深そうな表情を浮かべながら再び手帳にペンを走らせ、
「てか、閻魔様相手にリベンジを決め込もうとか考えるのは龍也さん位ですね」
ポツリとそう呟く。
「そうなのか?」
呟かれた言葉が耳に入った龍也が首を傾げると、
「そうですよ。閻魔様に逆らうとか……下手をしたら死後、天国にも地獄にも行けなくなるかも知れないんですよ」
閻魔である映姫に逆らった場合の最悪の可能性を文は提示した。
提示された内容を頭に入れた龍也は似た様な事を言われた事を思い出しつつ、
「ふーん……」
解っているのか解っていないのか判別が付かない様な表情になる。
龍也が浮かべた表情を見た文は溜息を一つ吐き、
「ま、龍也さんがそんな調子ですから私もネタには困らないんですけどね」
その様な事を言ってのけた。
「おい……」
相変わらずとも言える文の物言いを受けて龍也は呆れた表情になり、ジト目で文を見詰める。
龍也からの視線に気付いた文は苦笑いを浮かべ、
「あはは……それではまた!!」
一気に高度を上げ、何所かへと素っ飛んで行ってしまった。
素っ飛んで行き、文の姿が見えなくなった後、
「……はぁ」
龍也は溜息を一つ吐く。
そして、
「文と喋ってる間に大分進んだな。魔法の森に着いたら、グルッと回って香霖堂を探すか」
軽く今後の予定を立てながら龍也は進行スピードを上げ始めた。
無事に香霖堂に辿り着いた龍也は、
「霖之助さん、居ますか?」
そう声を掛けながら香霖堂の中に入り、カウンターの方へと向かって行く。
すると、
「やあ、いらっしゃい」
カウンターの方で本を読んでいた霖之助がいらっしゃいと言う声を掛けて来た。
そして、霖之助が龍也の方に顔を向けると、
「おや? 執事服とは珍しい格好だね」
龍也が執事服を着ている事に気付き、霖之助はその事を口にする。
口にされた事を受けた龍也は足を止め、
「ああ、この格好はですね……」
執事服を着ている理由を霖之助に話す。
「成程……それで紅魔館で執事のアルバイトか」
話された内容を頭に入れた霖之助は納得した表情になりつつ、
「それにしても……紅魔館でアルバイトとは。君も中々に命知らずだね」
龍也の事を命知らずだと称した。
人間である龍也が、吸血鬼の館でアルバイトをする。
字面だけ見たら、命知らずと称されても仕方が無いだろう。
だからか、
「ははは……」
ついと言った感じで龍也は苦笑いを浮かべ、後頭部を掻く。
そんな龍也を見ながら、
「ま、龍也君はレミリア・スカーレットに随分気に入られている様だから問題無いのかも知れないね」
その吸血鬼に気に入られているのなら、問題無いだろうと言う結論を霖之助は下し、
「そうだ。龍也君、少し良いかい?」
何かを思い付いたと言う様な表情を浮かべ、龍也に少し良いかと言う事を尋ねる。
「何ですか?」
「紅魔館でのアルバイトが終わった後、ここでもアルバイトをしてみないかい?」
尋ねられた龍也は首を傾げると、紅魔館でのアルバイトが終わった後に香霖堂でアルバイトをしないかと言うお誘いを霖之助はして来た。
「ここでですか? 俺としては願ったり叶ったりですが……」
「それは良かった。アルバイト内容はその時に教えるよ」
アルバイトのお誘いに好意的な反応を龍也が示したからか、龍也が次のアルバイト先に香霖堂を選ぶと言う事が霖之助の中で決まってしまう。
何やら勝手にアルバイト先を決められている様だが、龍也としても紅魔館の次のアルバイト先をまだ決めてはいない。
更に言えば香霖堂でアルバイトするする事に不満は無いので、
「……分かりました。紅魔館での執事のバイトが終わったらまた来させて貰いますね」
紅魔館でのアルバイトが終わった後、香霖堂でアルバイトをする事を龍也は決める。
ともあれ、龍也が香霖堂でアルバイトする事を決めた後、
「うん、よろしく頼むよ。それで、本日は何の御用かな?」
話しを変えるかの様に霖之助は龍也にやって来た理由を聞く。
そう聞かれた龍也は香霖堂に着た理由を思い出し、
「ああ、そうでした。実は……」
レミリアから頼まれている事を霖之助に伝える。
「うーん……面白い物ねぇ……」
伝えられた事を受けた霖之助はそう呟きながら考え込み、
「……あ、そうだ。これ何かどうかな」
考え込んでから少しすると霖之助はカウンターの下に置いてある物を取り出した。
取り出された物と言うのは花の置物。
だが、只の花の置物と言う訳では無い。
どう言う事かと言うと、花の中心部と思わしき部分にサングラスが付けられているのである。
幻想郷では中々見られない様な造形ではあるが、龍也には見覚えが在った様で、
「これはあれですか? これの前で音を立てるとこの花が踊り出すって言う……」
花の置物がどう言った物であるかを龍也は零す。
「何だ、知っていたのかい。と言う事は、やはりこの花の置物は外の世界の物だった様だね」
零された事が耳に入った霖之助は、花の置物は外の世界の物であると言う確信を得る。
霖之助が得た確信に間違いは無い為、
「ええ、まぁ。にしても、懐かしい物だな」
軽く肯定しつつ、懐かしさを感じながら龍也は花の置物を見詰めていく。
「それで、どうする?」
「そうですね……」
そんな龍也を見ながら霖之助がどうするのかと聞いて来たので、龍也は少し悩むも、
「……これ、買います」
花の置物を買う事を決め、財布を取り出してお金を支払う。
「毎度」
支払われたお金を受け取り、霖之助が毎度と言うと龍也は財布を仕舞って花の置物を受け取った。
買う物は買ったと言う事で龍也が香霖堂を後にし様とした時、
「それじゃ、紅魔館でのアルバイトが終わったらよろしくね」
念を押すと言った感じで香霖堂でのアルバイトをよろしくと言う言葉を霖之助は掛ける。
掛けられた言葉に、
「ええ」
龍也はそう返し、香霖堂を後にした。
香霖堂でレミリアから頼まれた物を買い、紅魔館に戻って来た龍也。
龍也は買って来た物をレミリアに届ける為、紅魔館の廊下を歩いてレミリアの部屋を目指している。
もう幾らかすればレミリアの部屋に辿り着くと言った辺りで、
「あら、お帰り」
前方から歩いて来た咲夜が龍也に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した龍也は足を止め、
「ああ、ただいま」
ただいまと返し、
「レミ……じゃなかった。お嬢様はお部屋か?」
一応と言った感じで咲夜にレミリアの居る場所を尋ねる。
すると、
「お嬢様は寝室でお休みになっているわ」
寝室で休んでいると言う返答が咲夜から返って来た。
「そうか……」
レミリアが寝ているとなれば、買って来た物を渡すのはレミリアが起きてからになるだろう。
となると、レミリアが起きるまで龍也はフリーと言う事になる。
更に言えばこの後は特に何かをする様にレミリアからは言われていない。
つまり、これから龍也は暇と言う事になっている。
なので、レミリアが起きるまでの暇潰しを龍也が考え様とした時、
「貴方、これから暇なのかしら?」
暇なのかと言う問いが咲夜から投げ掛けられた。
「ああ。お嬢様に頼まれてた物を渡すのはお嬢様が起きてからになるからな。それまで暇と言えば暇だ」
別に隠して置く事でも無いので暇である事を肯定すると、
「それなら、パチュリー様の所へ向ってくれないかしら」
パチュリーの所へ向かって欲しいと言う頼みを咲夜がして来たので、
「パチュリー……様の所へか?」
ついと言った感じで龍也は首を傾げてしまう。
そんな龍也を見ながら、
「ええ。先程パチュリー様の所へ紅茶を届けに行った時に、暇が出来たら自分の所へ来てと仰られてたから」
頼みたい事の内容を咲夜は述べる。
口にされた事から龍也は咲夜にはまだ仕事が残っているのだろうと思い、
「分かった。これから向うよ」
これからパチュリーの所へ向かう事を決めた。
「ありがとう。貴方の持ってるお嬢様への荷物は、貴方の部屋に運んで置くわ。貴方からお嬢様に渡した方が良いでしょうし」
自分の頼みを引き受けてくれた龍也に咲夜は礼を言い、龍也が持っている荷物を部屋に運んで置くと口にする。
どうやら、龍也へと出したレミリアの頼みと言うか命令内容は咲夜の耳にも入っている様だ。
兎も角、事情を知っているのなら話は速いと言ったかの様に、
「頼むよ」
香霖堂で買って来た物を龍也は咲夜に手渡す。
手渡された物を受け取った咲夜は幾らか興味深そうな表情を浮かべ、
「ふーむ……それにしても、随分と変わった形をした花の置物ね」
率直な感想を零す。
まぁ、サングラスを掛けた花の置物を見たらその様な感想が漏れるのも仕方が無いだろう。
ともあれ、折角だからか、
「それ、目の前で音を鳴らすと花が踊り出すぞ。まぁ、今は底に在るスイッチをオフにしているから音を鳴らしても踊らないけどな」
買って来た花の置物がどう言った機能を有しているかを龍也は咲夜に教える。
「へぇ……」
教えられた事を頭に入れた咲夜は興味深そうな視線を花の置物に向けた。
咲夜が花の置物に興味を惹かれている間に、龍也は軽く周囲を見渡す。
軽く周囲を見渡すとここからなら迷わずに行ける事が分かり、
「それじゃ、俺は図書館の方に行くな」
図書館の方に行く事を咲夜に伝えた。
伝えられた事を耳に入れた咲夜は、
「分かったわ。パチュリー様には私の代わり来たと伝えて置いて頂戴ね」
パチュリーに自分の代わりに来た事を伝えて置く様にと言う注意をする。
「ああ、分かったよ」
された注意を了承しながら龍也は図書館の方へと向かって行った。
図書館にやって来た龍也はパチュリーの下に向かい、
「パチュリー様。メイド長、十六夜咲夜の代わりに参りました」
パチュリーにそう声を掛けた。
掛けられた声に反応したパチュリーは顔を上げ、
「あら、貴方が来たの」
若干驚い表情を浮かべながら読んでいた本を閉じ、
「まぁ、力仕事になるだろうから咲夜よりも貴方の方が良いかもね」
咲夜よりも龍也の方がこれから頼む事は向いていると言う様な事を零す。
「力仕事……ですか?」
「ええ。あれの整理を手伝って」
零された中に在った力仕事と言う部分に龍也が反応したのと同時に、パチュリーはそう言ってある一角を指でさした。
指でさされた方に顔を向けた龍也の目には、大量なまでに積み重なった本が映り込んだ。
パッと見た感じ数千冊は在るだろうと言う判断を龍也は下しつつ、
「あれは?」
大量の本に付いてパチュリーに尋ねてみる事にした。
「幻想入りして来た物を私の魔法で召喚……一箇所に纏めたと言った方が正しいかしら? ともあれ、魔導書と外の世界の本よ」
尋ねられた事にパチュリーはそう返し、
「小悪魔一人じゃ時間が掛かり過ぎると思って助っ人を咲夜に頼んだのよ」
序と言わんばかりに図書館に来て欲しいと言う指示を咲夜に出した理由を話す。
「成程」
話された事を受けて龍也が納得した表情を浮かべると、
「それで、頼まれてくれるかしら?」
改めてと言った感じでパチュリーは龍也に頼まれてくれるかと聞く。
「ええ、お任せください」
聞かれた龍也は頭を下げながら任せろ口にし、下げていた頭を上げて本の整理に取り掛かろうとする。
その瞬間、
「おー、こりゃまた大量の本が在るな」
何処からか、そんな声が発せられた。
発せられた声に龍也は気付き、声が発せられた方に体を向ける。
龍也が体を向けた先には、
「よっ」
魔理沙の姿が在った。
行き成り現れたとも言える魔理沙に龍也が若干驚いている間に、
「貴女……一体何処から入って来たのよ?」
呆れた表情になったパチュリーが魔理沙にそう尋ねる。
「何処からって……正面からだぜ」
「あの子は一体何をやってるのかしら……」
尋ねられた魔理沙は少しも悪びれていない表情で答えを返すと、パチュリーはそう呟いて頭を押さえた。
頭を押さえる事になった要因は魔理沙に有るのか、それとも魔理沙を素通りさせた美鈴に有るのか。
おそらく、両方であろう。
ともあれ、そんなパチュリーを余所に魔理沙は龍也を見詰め、
「処で、龍也は何でそんな格好をしてるんだ?」
龍也に執事服を着ている理由を問い掛けた。
「ああ、これは……」
問われた龍也は良くこの話題を聞かれるなと思いながら、執事服を着ている理由を魔理沙に教える。
「それで執事のバイトをしてるのか」
教えられた内容を頭に入れた魔理沙が納得した表情になった時、
「本の整理の前に、鼠狩りを龍也に頼もうかしら」
先ず本の整理の前に魔理沙の排除を龍也に頼もうかと言う事をパチュリーは考え始めた。
その後、
「おいおい、そりゃは酷いぜ」
「あら、鼠と言う自覚は有るみたいね」
「有る訳無いだろ。今までの流れから鼠と言う単語が私を指していると判断しただけだぜ」
「成程、少しは頭が回る様ね」
「……お前、私の事を馬鹿にしてるだろ」
「私の本を盗んで行く様な輩に対しては、丁度良い呼称じゃない?」
「私は死ぬまで借りてるだけだぜ」
「ほう。なら、今ここで貴女を始末すれば私の本は返って来ると言う事ね」
「何だ、妙にやる気満々じゃないか」
「そうね。龍也にやらせるべきと言う思いより、私が直々に魔法使いとしての格の差を貴女に教えて上げると言う思いの方が強くなったわね」
「格の差ねぇ。図書館に籠もってばかりの魔法使いにそれを教えられるのか?」
「パワー馬鹿の魔法使いには十分過ぎるでしょ。それに、私は貴女が魔導書を一冊解読し切る間に百冊以上の魔導書を解読し切る自身が有るし」
「それは幾ら何でも見栄を張り過ぎじゃないか?」
「見栄かどうか……貴女の目の前で教えて上げましょうか?」
魔理沙とパチュリーの二人が言い合いを始める。
言い合いを始めた当初はその儘戦闘に入りそうな雰囲気であったが、次第にその雰囲気も薄れていった。
まぁ、これから龍也と小悪魔が本の整理をし様としているのだ。
もし戦いを始めたらどうなるかが分かっているからこそ、パチュリーは戦いの雰囲気を薄れさせたのだろう。
戦いになれば、整理中の本に被害が出るのは確実なのだから。
と言った感じで戦闘では無く言い合いをしている二人を余所に、龍也は小悪魔と一緒に本の整理を始める。
本の整理を龍也と小悪魔の二人で始めてから幾らかすると、魔理沙も本の整理の手伝いに加わった。
魔理沙も本の整理をしている理由は、本の整理を手伝えば魔導書を何冊か借りても良いと言う許可がパチュリーから出たからだそうだ。
何時もの魔理沙なら勝手に本を持って行きそうなものではあるが、それをしないのを見るに今はそう言った気分では無いからか。
兎も角、本の整理は龍也、小悪魔、魔理沙の三人で進めていく事になった。
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