ある日の朝。
紅魔館の廊下で、

「はい、今までのお給金」

そう言いながら咲夜は龍也にお金は手渡した。

「サンキュ」

手渡されたお金を龍也は礼を言いながら受け取り、受け取ったお金を財布の中に仕舞う。
その瞬間、

「次の予定は在るのかしら?」

今後の予定に付いて咲夜が龍也に尋ねて来た。
尋ねられた事に対する答えは既に在る為、

「ああ。霖之助さんにここでのバイトが終わったら来てくれって言われてるからな。香霖堂の方へ向かう積もりだ」

香霖堂に向かう積もりである事を龍也は咲夜に教える。

「そう、それは残念ね」

教えられた事を頭に入れた咲夜は残念と呟きながら溜息を一つ吐き、

「次の予定が無ければもう暫らくここで働かないかって言う提案をし様と思っていたのに。貴方がここで執事をやってくれると、私も随分楽が
出来るんだけどねぇ……」

龍也が執事をしている間は楽が出来ると言う事を残念そうな表情で語った。
妖精メイドよりもずっと使える龍也が居なくなれば、必然的に咲夜の負担は大きくなる。
今まで龍也が居たお陰で楽が出来ていた分、咲夜が残念がるのも当然と言えるだろう。
そんな咲夜を見て、

「はは、それはまたの機会と言う事で」

苦笑いを浮かべながら龍也がそう返した時、

「ええー!! 龍也もう行っちゃうの!?」

驚きの声を上げながらフランドールが咲夜の後ろから現れた。

「フランドール」
「妹様」

急に現れたフランドールに龍也と咲夜は驚くも、直ぐに二人はフランドール方に体を向ける。
そして、

「……あれ、お前ってこの時間帯は寝てるんじゃないのか?」

ふと疑問に思った事を龍也はフランドールに尋ねて見る事にした。
朝と言っても、もう何時間かすれば昼になるのが今の時間帯だ。
レミリアは勿論、フランドールもこの時間帯は基本的に寝ている。
偶に起きている事もあるが、それはあくまで偶にだ。
なので、フランドールに対して龍也はその様な事を尋ねたのである。
さて、尋ねられたフランドールは、

「少しお腹が空いて寝付けなくて……」

起きている理由を簡単に説明した。
つまり、何か食べ物を探して紅魔館の中を彷徨っている最中に龍也と咲夜の会話を聞いてしまったと言う訳だ。
ともあれ、フランドールのお腹が減っているのを知ったからか、

「それでしたら、後で妹様のお部屋にケーキと紅茶をお持ち致します」

後程、ケーキと紅茶をフランドールの部屋に持って行くと言う事を咲夜は口にする。

「うん、お願い」

口にされた事が耳に入ったフランドールはそう言い、改めてと言った感じで龍也の方に体を向け、

「それよりも龍也。龍也はもう行っちゃうの?」

もう紅魔館から出て行くのかと聞く。

「ああ。一箇所の場所に留まり続けるって言うのは性に合わないからな」
「落ち着きが無いわねぇ」

聞かれた事に対する答えを龍也が述べると、咲夜から落ち着きが無いと言う突っ込みが入る。

「うるせい。この性分はまだ暫らくは直りそうに無いんだよ」

入れられた突っ込みに龍也はそう返しながらフランドールの方に向き直り、

「また来るから……な」

言い聞かせるかの様にまた来ると言う台詞を発した。

「うー……」

また来ると言う台詞を受けてもフランドールは不満気であったが、

「……絶対だからね」

折れる様な形で絶対にまた来ると言う発言を違えるなと龍也に釘を刺す。
元々、また紅魔館には来る積もりではあったので、

「おう、絶対だ」

軽い笑みを浮かべて絶対だと言う返答を龍也は返す。
すると、目に見えてフランドールの機嫌が良くなった。
だからか、龍也は咲夜とフランドールに、

「それじゃ、またな」

またなと言う別れの挨拶の言葉を掛け、二人に背を向ける。
そして、

「ええ、またいらっしゃい」
「またね、龍也」

咲夜とフランドールの二人はまた来る様にと言う言葉を龍也は背に受け、紅魔館を後にした。























紅魔館を後に龍也は霖之助との約束を守るかの様に香霖堂へと向かっていた。
そして、香霖堂に着くと、

「霖之助さん、居ますかー?」

香霖堂の扉を開け、そう言いながら龍也はカウンターの方に足を進めて行く。
すると、

「ああ、龍也君。待っていたよ」

カウンターの方で本を読んでいた霖之助は待っていたと言わんばかりの表情を浮かべ、

「執事服でここに来たんじゃ無いと言う事は、紅魔館でのアルバイトは終わったのかい?」

一応確認すると言った感じで紅魔館でのアルバイトは終わったのかと聞く。

「はい」

聞かれた事に肯定の返事を返しながら龍也はカウンターの目の前で足を止め、

「それで、俺は何をすれば良いんですか?」

自分は何をするれば良いのかと言う事を霖之助に問う。

「それを説明する前に、一寸した問題を出そうと思う」

問われた霖之助は龍也にやって欲しい事を伝える前に問題を出すと口にした。

「問題ですか?」
「うん。知っての通り、ここに在る商品の中には外の世界の道具が沢山置いて在る。その外の世界の道具を僕は一体どうやって手に入れていると思う?」

口にされた事を受けて龍也が首を傾げると、早速と言わんばかりに霖之助は問題を出す。

「それは……幻想入りした物を集めているんですよね?」

少々流される様な形になったものの、出された問題に対する答えを龍也が述べると、

「うん、正解だ。では、僕は主にどんな場所で外の世界の道具を集めていると思う?」

正解と言う言葉と共に霖之助は次の問題を出して来た。
香霖堂に存在する数多くの外の世界の道具。
その入手場所に付いての答えを出す為、

「それは……」

龍也は頭を回転させていく。
龍也自身、幻想郷を旅して回っている中で道中に外の世界の道具が落ちているのを何度も見た事が在る。
そうやって外の世界の道具を集めて来たのではと考えられるが、霖之助はどんな場所でと言う言葉を問題文に入れて来ていた。
と言う事は、外の世界の道具を確実に手に入れられる場所が存在すると言う事だろう。
だが、今まで旅して来た中で外の世界の道具が必ず見付かる場所を龍也は香霖堂を除いて知らない。
だからか、

「すいません、一寸分かりません」

分からないと言った言葉を龍也は零す。

「正解は無縁塚だよ」

零された発言を耳に入れた霖之助は答えを出し渋る事無く、外の世界の道具を自分が無縁塚で入手している事を龍也に教えた。
無縁塚。
龍也に取っては記憶に新しい場所である事もあり、

「無縁塚って言うと……再思の道の先にある無縁塚か……」

無縁塚が在る場所が自然と思い出されていく。
思い出された事に間違いは無いからか、

「うん、そうだよ。あそこは色々な所と繋がり易くてね。それで外の世界の道具もかなり落ちているんだ」

うんと言う肯定の言葉と共に、無縁塚と外の世界の道具の繋がりに付いて霖之助は簡単に説明した。

「へぇー……」
「だから、僕も無縁塚は良く利用しているんだ」

無縁塚の新たな情報を知れて何処か感心した様な表情を龍也が浮かべている間に、結論付ける感じで無縁塚を利用している事を霖之助は語り、

「唯、問題が在ってね」

話を変えるかの様に問題が在る事を口にする。

「問題ですか?」
「うん。知っての通り僕は大して強く無い上に空も飛べないからね。必然的に徒歩で向かう事になる」

問題と言う部分に龍也が反応すると、自分は強く無く空を飛べない事を霖之助は話しながら眼鏡を中指で押し上げ、

「僕は半妖だから普通の人間と比べて妖怪に襲われ難いがそれでも零と言う訳では無い。なので、基本的に妖怪などが出難い時間帯に出歩く事になる。
だが、それでは大した量を運べない上に残して来た道具を妖精や妖怪に持って行かれたり壊されたりと言った事態になってしまう」

無縁塚から外の世界の道具を持って来る際の事に付いて龍也に伝えた。

「……成程、分かりました。つまり、俺が無縁塚に行って落ちている外の世界の道具を拾ってくれば良いんですね?」

語られ、伝えられた事から龍也は霖之助が自分に何を求めているのかを察する。
察した事は正しかった様で、

「うん、その通りだよ。龍也君の強さなら僕よりも外の世界の道具を沢山持って帰っても来ても問題無いだろうからね」

霖之助は頷きながら龍也に無縁塚で外の世界の道具を拾って来て欲しいと言う事を言葉に出し、

「頼めるかい?」

改めて龍也に自分の頼みを引き受けてくれるかと聞く。
元々、香霖堂でアルバイトをする為に龍也はやって来たのだ。
アルバイト先の店主である霖之助からの頼みであるのなら龍也としても断る理由は無い。
故に、

「分かりました、任せてください」

任せろと言う宣言を龍也は行なった。

「ありがとう」

された宣言を受けた霖之助は礼を言って、カウンターの下の方から大き目の葛篭を取り出す。

「これは……葛篭ですか?」
「うん。葛篭なら蓋を閉められる分、入れた物が零れ落ちると言う可能性はグッと低くなるからね。因みに、これは背負える様に改造しているよ。勿論、
動きを阻害しない改造もしているから安心してくれ」

取り出された葛篭に龍也の目が向いている間に、霖之助は取り出した葛篭に付いて簡単に説明しながらそれを龍也に手渡した。
手渡された葛篭を龍也が受け取ったのと同時に、

「それと、報酬は持って帰れた量が多ければ多い程増やさせて貰うよ」

報酬に付いての話を霖之助は龍也に伝える。
持って帰って来た分だけ報酬が増えると言うのであれば、やる気も出て来ると言うもの。
だからか、

「分かりました」

やる気が出て来たと言う様な表情を浮かべながら龍也は葛篭を背負い、

「それじゃ、行って来ます」

善は急げと言わんばかりに無縁塚に向かおうとする。
そして、

「うん、気を付けて」

霖之助の気を付けてと言う言葉を背に受けながら龍也は香霖堂を後にした。






















再思の道の上空を龍也は突き進みながら、

「しっかし、無縁塚に外の世界の道具が良く落ちているってのは知らなかったなぁ……」

そんな事を呟く。
それだけ、外の世界の道具を必ず見付けられる場所と言うのが龍也に取って驚きであったのだろうか。
ともあれだ。
ここ、再思の道を通るのは龍也に取ってあの多種多様な花が幻想郷中に咲き乱れた異変の様な自然現象の時以来。
あの時からそこまで時間が経っている訳では無いのだが、龍也には再思の道が妙に懐かしく感じられていた。
懐かしく感じている自分の感性を龍也は少し不思議に思いつつ、軽く周囲を見渡していく。
すると、まだ今の季節に咲くべきでは無い花が咲いているのが龍也の目に幾つか映った。
目に映った花から、

「完全に落ち着くまでもう暫らく掛かりそうだな」

龍也はそう判断して前方に視線を戻す。
基本的に空中を移動している時は妖怪に襲われる事は殆ど無い。
なので、無縁塚に着くまではのんびり行こうと龍也が思った瞬間、

「ッ!!」

龍也の目の前を妖力の弾が通過した。
通過して行った妖力の弾は真下から飛んで来た為、真下からの攻撃である事を理解した龍也は急ブレーキを掛けて急停止する。
そして、眼下の方に視線を向ける。
視線を向けた眼下、つまり地上には四足歩行で爬虫類の様な風貌をした少々大きな妖怪が無数に存在している光景が在った。
存在している妖怪達は全て、龍也に向けて雄叫びを上げている。
雄叫びを上げている妖怪達を見た龍也は、先程の妖力の弾で自分を撃ち落して食べ様としていたのかと推察し、

「…………………………………………」

少し考えを廻らせていく。
無視して進む事も出来るだろうが、それをするとこの妖怪達が無縁塚にまで付いて来る可能性が発生する。
もしその可能性が現実になったら、霖之助からの依頼を達成出来なくなるかも知れない。
外の世界の道具を壊されると言う事によって。
本当にそうなったら目も当てられない為、龍也は降下をして妖怪達を倒す事を決める。
決めたのと同時に降下し、もう少しで地に足を着けれると言った所にまで来た時、

「……そうだ」

龍也はある事を思い付いた。
思い付いた事と言うのは、仮面の力。
今の仮面の力は美鈴との手合わせで確認したが、あくまで手合わせで確認したもの。
実戦ではまだ未知数だと言っても良い。
だからか、実戦での仮面の力の確認を今ここで行なう事を決意しながら龍也は左手を額の辺りに持って行き、

「……ッ!!」

左手からどす黒い色をした霊力を溢れ出させ、左手を一気に下ろす。
その瞬間、龍也の顔面に仮面が現れて眼球が黒くなり瞳の色が紫に変わる。
同時に、龍也は地に足を着け、

「らあ!!」

一番近くに居た妖怪の顎を蹴り上げた。
蹴り上げた妖怪を見ながら、上手く先制攻撃をする事が出来たのを確信した龍也は他の妖怪に狙いを定め様とする。
しかし、狙いを定め切る前に妖怪の内の一体が龍也に向けて妖力で出来た弾を放って来た。
妖力で出来た弾が放たれた事に気付いた龍也は他の妖怪に狙いを定めるのを止め、

「しっ!!」

直ぐ近くにまで迫って来ていた妖力で出来た弾を手の甲で弾き、妖力で出来た弾を放って来た妖怪に掌を向けて霊力で出来た弾を発射する。
発射された霊力で出来た弾は見事妖力で出来た弾を放って来た妖怪に命中し、爆発した。
爆発に付随する形で爆風が発生して周囲に流れていく中、周囲に居る妖怪達全てが一斉に龍也へと飛び掛かる。
今までの一連の流れこの儘では不利だと思ったのか、それとも一斉に掛かれば一体位は食い付けると思ったのか。
どちらにせよ、妖怪達が取った行動は間違いであった。
どう言う事かと言うと、妖怪達が龍也の間合いに入ったのと同時に妖怪達が全て吹っ飛んだからだ。
何故吹き飛んだのか。
答えは簡単だ。
自身の間合いに妖怪達が入ったの同時に龍也は目にも止まらぬ速さで拳や蹴りを連続で放ち、妖怪達を殴り蹴り飛ばしたからである。
取り敢えず眼前の脅威を一掃出来た事で一息吐こうとした刹那、上空から気配を感じて龍也は顔を上に向ける。
顔を上に向けた龍也の目には降下して来ている何体から妖怪の姿が映った。
どうやら、先程飛び掛かって来た妖怪達は残り全てでは無かった様だ。
真実はどうであれ、攻撃される前に気付けたのは良かったと思いながら龍也は右手を天へと向ける。
すると、龍也の右手の掌に青白い光が集まっていき、

「霊流波!!」

巨大な青白い閃光が右手の掌から迸った。
今迸った青白い閃光、霊流波は加減なく放った本気の一撃。
だからか、迸った青白い閃光は降下して来ていた妖怪達を何の抵抗も無く呑み込んで消滅させた。
妖怪達が消滅したのを感じ取った龍也が霊流波を放つのを止めると青白い閃光がどんどん弱くなり、最後には消失する。
上空からの脅威も一掃出来たので今度こそと言った感じで龍也は一息吐き、龍也は周囲を見渡す。
見渡した結果、まだ生き残っている妖怪が何体か居る事が分かった。
残っている妖怪達に龍也が睨みを効かせると、残っていた妖怪達は悲鳴を上げてその場から逃げて行った。
逃げて行った妖怪達の姿が見えなくなった後、まだ残っている妖怪が居ないかを調べる為に龍也は少し周囲に意識を集中させていく。
周囲に意識を集中させても何の気配も感じなかったので、これで終わったみたいだなと判断して龍也は左手を額の辺りへと持って行く。
丁度そのタイミングで龍也の付けている仮面がどす黒い色をした霊力に変わり、龍也が左手を軽く動かすとどす黒い色をした霊力は風に流される様にして消え、

「ふぅ……」

龍也の眼球と瞳の色が元に戻る。
通常状態に戻ったのを実感しつつ龍也は左手を下ろし、下ろした左手をジッと見詰め始めた。
そして、左手を握ったり開いたりと言った動作を何回か繰り返し、

「……やっぱり上がった儘だ」

小さな声量でそう零す。
どうやら、仮面の力は手合わせでも実戦で変わらない様である。
実戦で仮面の力を使ってそう言った確信を得た龍也は、

「さて……」

軽く首を回しながら前方を見据えて気持ちを入れ替えた。
ここまで来た理由は仮面の力を実戦で確認する為では無い。
霖之助からの依頼を完遂させる為だと。
そう気持ちを入れ替えた龍也は戦闘で取られた時間を取り戻すかの様に、今までよりもペースを上げて無縁塚に向かって行った。






















再思の道で一度妖怪に襲われはしたものの、それ以降龍也は妖怪に襲われずに無事無縁塚に着く事が出来た。
そして、無縁塚に辿り着いたのと同時に龍也は探索を始める。
それから少し経つと、

「お、またまた見っけ」

またまた見付けたと言う言葉と共に龍也は落ちている外の世界の道具を拾い、拾った道具を葛篭の中に放り込みながら思う。
無縁塚には外の世界の道具が本当に沢山落ちているなと。
映姫と戦った時に無縁塚に来た際、龍也は無縁塚の様子を大して確認すると言う様な事をしていなかった。
しかし、こうやって真剣に無縁塚を探索すると分かる。
外の世界の道具がここ、無縁塚には沢山落ちていると言う事が。
だからか、

「霖之助さんがここを利用する理由が分かった気がするなぁ……」

ついと言った感じで龍也はそんな事を呟きつつ、新たな外の世界の道具を探す為に移動を開始し様とする。
その瞬間、

「おやぁ? こんな所に生きてる者が来るとは感心しないねぇ。死ぬんならもっと年を喰ってからにしな」

背後から何処かで聞いた様な台詞が龍也の耳に入って来た。
入って来た声に反応した龍也は背後へと体を向ける。
体を背後に向けた先には、

「小町」

小町の姿が在った。
龍也が小町の存在を認識したのと同時に、

「おや、何処の葛篭を背負った老人かと思ったら龍也じゃないか」

小町も龍也の存在を認識し、

「どうしたんだい、その葛篭? どっかの雀から貰ったのかい?」

疑問気な表情を浮かべながら小町は龍也に背負っている葛篭に付いて問い掛ける。

「ああ、これは……」

別に隠して置く事でも無いので、葛篭を背負っている理由を龍也は話す。
話された事を受け、

「成程、あそこの店主の依頼か……」

納得したと言う様な表情を小町は浮かべた。
そんな小町の反応を見て、

「小町って霖之助さんの事を知ってるのか?」

ついと言った感じで龍也は小町に霖之助の事を知っているのかと聞く。

「知ってるよ。あたいも偶にあそこの店を利用したりするからね」

聞かれた小町はそう言いながら懐に手を入れ、

「例えばこれとかね。これ、あの店で買ったんだ」

懐からある物を取り出し、取り出した物を龍也に見せる。
取り出された物を見て、

「それは……知恵の輪か?」

知恵の輪と言う単語が龍也の口から零れた
零れた単語は正しかった様で、

「正解。これ、結構熱中出来て暇潰しに最適でね」

少し嬉しそうな表情を浮かべながら小町はそう語る。
語られた事を受けた龍也は未だ季節に合わない花が咲いている事を思い出し、

「暇潰しって……お前、仕事はどうした?」

何処か呆れた様な声色でそんな突っ込みを小町に入れた。

「休憩中さ、休憩中。ちゃんと休憩を入れないと仕事の能率も下がるだけだからね」

入れられた突っ込みに返すかの様に小町があははと笑いながら言い訳の様な事を述べた瞬間、

「ほう……貴女の言う休憩と言うのは一体どれ位の時間を差すのでしょうか? 是非とも教えて貰いたいものです」

感情が感じられない声が小町の背後から発せられる。
発せられた声が耳に入った小町は表情を固まらせ、ギギギと言う音が聞こえる様な動作で背後に向けて体を動かす。
背後へと体を動かした小町の目には、

「え、映姫様……」

上司であり、幻想郷の閻魔である四季映姫・ヤマザナドゥの姿が映った。
目に映った映姫の姿から小町は何とか弁解し様としたが、

「ここ最近の幽霊量がやけに減ったなと思い、様子を見に来て見れば……」

弁解する前に映姫は静かな声で言葉を紡ぎ始める。
紡がれた言葉を聞きながら小町は速く弁解しなければ不味いと感じ、

「え、映姫様。これは違うんです、その……」

早速と言わんばかりに弁解をし出した。
しかし、

「小町!!!!」
「きゃん!! ごめんなさーい!!!!」

し出した弁解は映姫の怒号によって掻き消され、小町の謝罪の声が辺り一帯に響き渡る。
そして、映姫の説教が始まった。






















映姫の説教が始まってから幾らか時間が経った頃。
説教も漸く終わり、

「さっさと仕事に行ってきなさい!!」
「はい!! 行ってきます!!」

映姫は小町に仕事に行く様に指示を出し、指示を出された小町は大慌てで何所かへと素っ飛んで行った。
素っ飛んで行った小町を見送りながら、

「全く、初めて見た時はもっと真面目な子だと思ったのに……」

愚痴とも言えるものを映姫は漏らし、龍也の方に体を向ける。
映姫が小町に説教している間は意識の半分が何所かに行っていた龍也であったが、そのタイミングで龍也の意識は完全に戻った。
そして、

「少し、久しぶりですね。龍也」

軽い挨拶の言葉を映姫は龍也に掛けた。
だからか、

「そうだな、映姫」

龍也も映姫に軽い挨拶の言葉を返す。
その後、

「貴方は相変わらずですか?」

優しさが感じられる声色で相変わらずかと言う事を映姫は龍也に聞く。

「ああ、相変わらずだ」

聞かれた事に龍也が相変わらずだと答えると、

「そうですか。ま、それが貴方の美点なのでしょう」

柔らかい笑みを浮かべながら映姫はそう口にする。
が、直ぐに映姫は表情を戻し、

「……と、いけないいけない。貴方に親近感を抱いてからと言うもの、どうも貴方に対してだけは甘くなってしまう」

つい龍也には甘くなってしまっている事を呟き、

「貴方が何れ死に、私の所に来た際に判決を甘くすると言う事は在りませんからね」

自分にも言い聞かせると言った様に、龍也が死して自分の所に来ても判決を甘くする事はしないと断言した。
無論、そんな事は龍也も承知している事なので、

「ああ、分かってるよ」

驚く事無く龍也は分かっていると言って頷く。
自分と仲良くして置けば死後は安心だと言う感情が龍也から感じられなかった為、

「なら良いです」

なら良いと映姫は零す。
そんな映姫を見ながら龍也は真面目だなと思いながら、映姫と小町を足して二で割ったら丁度良くなるのではと考える。
まぁ、閻魔ともなれば真面目な者で無ければ勤まらないのであろうが。
と言った様な事を龍也が押し黙って頭の中で廻らせていると、

「ん? どうかしましたか?」

押し黙った龍也を不審に思ったからか、どうかしたのかと言う問いを映姫が龍也に投げ掛けた。
投げ掛けられた問いを受けた龍也は頭の中で廻らせていた事を忘却の彼方へと追い遣り、

「いや、何でも無い」

首を横に振って何でも無いと答える。
特に何かが在ると言う様な表情を龍也は浮かべてはいなかった。
なので、この話はこれで終わりと言った様に、

「そうですか」

映姫はそうですかと言う言葉と共に会話を打ち切り、龍也の目をジッと見詰める。
行き成り見詰められた事で龍也が少し狼狽えそうになった刹那、

「貴方に対してどうこう言った処で、これからも在り方を変える気は無いのでしょう?」

解っている事を確認すると言った様に映姫は龍也はこれからも在り方を変える気は無いのだろうと聞く。
そう聞いて来た映姫の目に真剣さが宿っていたのを感じた龍也は、表情を真剣なものに変え、

「ああ、そうだな。俺は俺の魂が想うが儘に、俺の信じた道を進むだけだ」

はっきりとした口調でそう宣言した。
宣言した龍也の声に欠片の揺らぎも入っていないのを感じ取った映姫は、

「……そうですか。なら、私が言える事は一つだけです」

龍也の目を見詰めた儘、龍也に自分から言える事は一つだけだと伝える。

「一つ?」
「ええ。貴方は貴方が信じた道を進み続けなさい。その道は言うは易し。しかし、行うは難し」

一つだけと伝えたい事が在ると言われた龍也が首を傾げると、伝えたい事を映姫は語り始めた。

「そうかねぇ……」
「分からないのなら、それでも良いです」

語られた内容に良く分かっていないと言う反応を示した龍也に対し、分からないのならそれでも良いと言って一息吐き、

「歩みを止めても良い。膝を着いても良い。しかし、ずっとその儘ではいない様に。その様な状態になったとしても、必ず再び歩み始める事。
私から言えるのはこれ位です」

再び語り始める。
映姫が語った事は、自然と龍也の心の中に刻まれていった。
自然と心に刻まれた映姫が閻魔であるからか、それとも映姫が龍也の事を想って言ってくれているからか。
若しくはその両方。
ともあれ、映姫が語った事は心に刻まれたので、

「……解った。その言葉、心に留めて置くよ」

龍也も確りと映姫の目を見詰めながら心に留めて置くと返した。
ちゃんと龍也が自分の語った事を聞き入れてくれた為、

「なら、良いです」

何処か満足気な表情を浮かべながら映姫はそう言い、

「全く、他の者も貴方の様に私の話を聞いてくれれば良いのに」

軽い愚痴の様なものをものを零す。

「ははは……」

映姫の愚痴が耳に入った龍也は苦笑いを浮かべつつ、

「でもよ、ちゃんと映姫の話を聞き入れてる奴も居るんだろ?」

フォローするかの様にそんな事を映姫に尋ねてみる。
尋ねられた映姫は少し昔を思い出す様な表情を浮かべ、

「そうですね……人里ではご年配の方、幼い子供は私の話を良く聞いてくれますね」

ちゃんと自分の話を聞いてくれている者達を口にし、

「善行を積むと言う事は地獄堕ちを避ける以外にも、これからの生を豊かなものにするものだと言うのに……」

またしても愚痴の様なものを零した。
だからか、出す話題を間違えたかと龍也は思ってしまう。
しかし、同時にどれだけ愚痴を零す事になっても映姫は善行を積む様に皆へ言い続けると言う予感が龍也にはあった。
何故らならば、地獄に堕ちて欲しくないと言うのは映姫の優しさであると龍也は感じたからだ。
と言った様な事を映姫の愚痴を話半分程度に聞きながら龍也が頭の中で纏めている間に、

「……そう言えば、龍也。貴方は何をしに無縁塚に来たのですか?」

ふと出て来た疑問を映姫は龍也に投げ掛けた。
投げ掛けられた疑問を受けた龍也は映姫には無縁塚に来た理由を話していない事に気付き、

「ああ、それは……」

映姫にも無縁塚にやって来た理由を教える。

「……成程。あそこの店主の依頼でしたか」

教えられた事を受けて映姫は納得した表情を浮かべた。
そんな映姫を見て、

「映姫も霖之助さんの事を知ってるんだな」

映姫も霖之助の事を存じているのを知って龍也は一寸した驚きの感情を抱く。
龍也が抱いた感情を察した映姫は、

「彼のお店は外の世界の道具も扱っていますからね。八雲紫もそうですが、一部の妖怪などに取って森近霖之助と言う名はそれなりに有名なんですよ」

霖之助の事を知っている理由を簡単に話す。
話された内容を耳に入れた龍也は納得したと言う表情になった。
外の世界の道具は扱い方や処理の仕方を間違えれば、大きな自然を汚染を齎す恐れが在るからだ。
もし幻想郷の一部自然汚染が起ころうものなら、下手したらその汚染が幻想郷中に汚染が広がる恐れがある。
汚染を齎している物によっては、それだけで幻想郷に致命的なものを残すのは確実。
それ故に、森近霖之助の名は一部の妖怪達などに知られているのだろう。
と言った感じで自分の中で結論を龍也が下した後、

「あ、そうそう」

重要な事を思い出したと言った感じで龍也は軽く姿勢を正し、

「映姫。今はまだ俺はお前には適わない。だが、必ず俺はお前より強くなってお前に勝つ」

堂々とした態度で今度は自分が勝つと言う宣言をした。
したのは宣言と言うよりは宣戦布告と言えるものであったが、当の映姫は少し驚いたものの、

「……そうですか。なら、その時が来るのを楽しみにしていましょう」

直ぐに柔らかい笑みを浮かべて龍也が自分よりも強くなるのを楽しみに待っていると口にする。
そして、

「何か余裕そうだな」
「ふふ、閻魔と言う役職は弱くては勤まりませんからね」
「……と言う事は、映姫に勝てたら閻魔に成れるって事になるのか?」
「ええ、そうですね。私に勝てれば戦闘能力と言う面だけなら閻魔に成るに相応しいと言えるでしょう」
「ふーん……」
「おや、閻魔に興味がお在りですか?」
「興味が無いと言えば嘘になるけど……別に閻魔に成りたいって訳じゃないな」
「でしょうね。貴方は閻魔に成るより、今の様に幻想郷中を旅してる方が似合っていますよ」

龍也と映姫は軽い雑談を交わしていく。
雑談が終わると映姫は人里の方に向かって行った。
おそらく、地獄に堕ち無い様に善行を積めと言う事を言いに行くのだろう。
そう考えながら龍也は意識を切り替える様に周囲を見渡し、再び外の世界の道具を探し始めた。






















日が暮れ始めた時間帯。
龍也は無縁塚から香霖堂へと戻り、

「只今戻りましたー」

そう声を掛けながら香霖堂の扉を開き、香霖堂の中に入ってカウンターの方へと向かって行く。
そして、カウンターまで後少しと言った所にまで来た辺りで、

「お帰り、龍也君」

カウンターの方で本を読んでいた霖之助は、本を読むのを止めながら龍也の方に体を向け、

「それで、外の世界の道具などは見付かったかい?」

期待していると言った感じの表情で外の世界の道具は見付かったのかと問う。
問われた龍也は、

「はい、結構見付かりましたよ」

肯定の返事をしながら背負っている葛篭をカウンターの上に置く。
結構見付かったと言う言葉を受け、

「どれどれ……」

楽しみだと言わんばかりの表情になりながら霖之助は葛篭の蓋を開く。
蓋を開いた葛篭の中にビッシリ入った外の世界の道具が霖之助の目に映り、

「おお、思っていた以上だよ」

思っていた以上だと言いながら葛篭の道具を手に取りながら、

「……これはドライヤーと言う道具だね。用途は主に髪を乾かすのに使うっと」

自分自身の能力を使ってその道具の名前と用途を調べる。
使い方は分からないものの、名前と用途の二つが分かるだけでも便利だなと言う感想を霖之助の能力を見て龍也が改めて抱いた時、

「こんなに持って来てくれるとは……龍也君に頼んで正解だったね」

無縁塚で外の世界の道具の回収を頼んで良かったと霖之助は零しながら、他の外の世界の道具も手にって調べていった。
と言った感じで龍也が拾って来た外の世界の道具を次から次へと手に取っていく中で、霖之助はある事を思い出す。
思い出した事と言うのは、龍也が寺子屋でアルバイトをしていた際に香霖堂へやって来た時の事。
あの時、ボールを探しに龍也は香霖堂にやって来ていた。
やって来た際、目的のボールを手に入れた後に龍也は外の世界の服に興味を示していたのだ。
それはさて置き、龍也が無縁塚から持って来た外の世界の道具の数はかなりのもの。
であるならば、バイト代と言う名の報酬に色を付ける以外にも何か別の報酬が必要だと霖之助は判断し、

「……そうだ、前に来た時に外の世界の服を欲しがっていたね。追加報酬になるかは分からないが、好きな服を持って行くと良いよ」

追加報酬として店内に置いて在る外の世界の服を持って行って良いと口にする。

「良いんですか?」
「うん、構わないよ」

思わぬ報酬が舞い込んで来た事に龍也は驚きながら確認をすると、構わないと言う返答を霖之助は返した。
なので、龍也は遠慮はしないと言った感じで外の世界の服が置かれておる場所へと向かい、

「さーて……」

外の世界の服を物色し始める。
物色し始めてから幾らかした辺りで、龍也は気に入った服を発見した。
発見した服と言うのは黒っぽい色をしたジーパンに黒いジャケット。
黒いジャケットの首周りには白いフサフサとした毛が着いており、両腕の二の腕部分と背中には銀色をした十字架の染め抜きが入っている。
これを貰って行こうと言う事を龍也は決め、決めた服を手に取った。
その瞬間、

「おーい、この道具はどうやって使うんだい?」

道具の使い方を教えて欲しいと言う頼みの声が霖之助から発せられる。
発せられた声に反応した龍也は、

「今行きまーす」

今行くと言う言葉と共に霖之助の方に向かい、霖之助に外の世界の道具の説明をしていく。
こうして、今日最後の龍也の仕事は外の世界の道具の使い方を霖之助に説明すると言う事になった。























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