「ん……」

若干の肌寒さを感じた龍也は目を覚まし、上半身を起す。
上半身を起こした龍也はボーッとした表情を浮かべていた。
それから幾らか経った辺りで龍也は何かに気付いたと言った感じで周囲を見渡していく。
見渡した結果、今居る場所が和室である事が分かった。
同時に、何故自分が和室の中に居るのかと言う疑問が龍也の中で芽生えたが、

「……ああ」

芽生えた疑問は直ぐに氷解される。
何故ならば、思い出したからだ。
昨日、霖之助の家である香霖堂に泊まった事を。
どうして、龍也は香霖堂に泊まったのか。
その理由は龍也が無縁塚から持ち帰った外の世界の道具の量にある。
無縁塚から持ち帰った外の世界の道具の量は相当なものである為、霖之助の知らない道具も多々在った。
当然、そんな外の世界の道具の使い方を龍也は知っている。
なので、次から次へと持ち帰った外の世界の使い方を龍也は霖之助に教えていったのだ。
そして、教え終わる頃には完全に日が落ちてしまっていた。
だからか、霖之助は龍也に提案したのである。
泊まっていかないかと言う提案を。
された提案を龍也が受け入れた結果が今の状況と言う訳だ。
さて、自分が和室の中で寝ていた事を理解した龍也は布団から抜け出し、

「えーと……そうそう、ここに置いてたんだっけ」

着替え始める。
と言っても、着る服は何時もの学ランでは無い。
昨日追加報酬と言う形で貰った服、黒いジーパンと黒を基調としたジャケットだ。
今までずっと基本的に学ラン状態だった為、これから学ラン以外の服を着続けていく事になると思った龍也は何やら新鮮な気持ちになった。
そんな気持ちを抱きながら着替え終えた龍也は軽く体を動かし、

「へぇー、意外と動き易いな」

意外と動き易い事に気付き、少し驚いた表情を浮かべる。
正直、今着ている服を龍也はデザインだけで選んだので動き易さなどは全く考慮していなかった。
多少動き難くとも龍也は我慢する積もりであったが、これならば我慢する必要は無いだろう。
ともあれ、着替え終わったと言う事で龍也は今着ている服のポケットにこれまで着ていた服のポケットに入っている物を移していく。
ジーパンの左ポケットには財布。
ベルトの部分に懐中時計の先端部分から伸びている鎖を巻き付け、レミリアから貰った紅い懐中時計を右ポケットに。
最後に、魔理沙に作って貰った傷薬が入ったケースをジャケットの内側へ。
移す物を移し終えた後、龍也は床に置いて在る学ランを左手に持って居間へと移動する。
移動した龍也が居間に着くと、

「やぁ、おはよう龍也君。もう少ししたら、起こしに行こうと思っていたよ」

居間で朝食の準備をしていた霖之助が挨拶の言葉を掛けて来た。
掛けられた挨拶の言葉に反応した龍也は、

「あ、おはようございます」

おはようと言う挨拶の言葉を返しながら霖之助に近付き、

「何か手伝いましょうか?」

手伝おうかと聞く。

「いや、もう終わるから構わないよ」

聞かれた霖之助はそう言いながら茶碗にご飯をよそい、

「その新しい服、似合ってるよ」

今着ている服が似合っている言う言葉を龍也に伝える。
自分で選んだ服装を褒められると言う経験は全くと言って良い程、龍也には無かった為、

「あ、ありがとうございます」

照れ臭そうな表情を浮かべながら霖之助に礼の言葉を掛けた。
その後、

「以前着ていたその服……確か、学ランと言ったかい? 要らないのであれば僕が買い取るけど……どうだい?」

ふと思い出したと言った感じで霖之助は学ランが不要であれば買い取ると言った提案を行なう。

「そうですね……」

行なわれた提案を受けた龍也は少し考え始めた。
新しい服が在る以上、今まで着ていた学ランは必要無いと言える。
しかし、必要無いと言って学ランを霖之助に買い取って貰ったら着れる服が今着ている服だけと言う事になってしまう。
まぁ、今までも着れる服は一着だけであったが。
兎も角、何か遭った際に予備の服は在った方が良いし学ランにもそれなりの思い入れが龍也には在る。
そこまで考えが至った瞬間、

「いえ、予備と記念を兼ねて取って置こうと思います」

龍也は霖之助に売らずに取って置く事にすると伝えた。

「うん、分かったよ」

伝えられた事を受けた霖之助は了承の返事をしながら一膳の箸を龍也に手渡し、

「それじゃ、朝ご飯を食べ様か」

朝食を食べ様と口にする。

「あ、何かすみません。朝食をご一緒させて貰って」

自分の分の朝ご飯も用意してくれた事で若干申し訳無さそうな表情を浮かべた龍也に、

「これ位構わないよ。龍也君のお陰で外の世界の道具の大量入手及び使い方が解ったからね。まぁ、電気が無ければ動かない物ばかりと言うのは残念だったけど」

外の世界の道具を龍也のお陰で沢山手に入れられ、使い方が解ったのでこれ位は構わないと霖之助は口にする。
そして、

「ま、それはそれとして。冷めない内に早く食べ様か」

早く食べる様と霖之助が促して来たので、

「そうですね」

同意すると言った返事をしながら龍也は箸を受け取って卓袱台の前に座り、

「「いただきます」」

二人揃って朝食を食べ始めた。






















二人が朝食を食べ終わった後、

「あ、龍也君。昨日の報酬だ」

霖之助は懐からお金を取り出し、昨日の報酬だと言って取り出したお金を龍也に手渡す。
手渡されたお金を見た龍也は昨日、外の世界の道具の使い方を教えるのに時間を取られ過ぎたせいで給金を貰う事を忘れていたのを思い出し、

「あ、ありがとうございます」

礼の言葉を述べながらお金を受け取り、受け取ったお金を財布の中に仕舞う。
すると、

「次の予定は決まっているのかい?」

そんな疑問が霖之助から龍也に投げ掛けられた。
投げ掛けられた疑問を受けた龍也は少し考える素振りを見せ、

「……そうですね。この学ランを無名の丘に在る俺の住んでる洞窟に置いて来て、それから適当に彷徨いながら次の働き口を探しますよ」

これからの予定を霖之助に伝える。
伝えられた事を頭に入れた霖之助は少し残念そうな表情を浮かべるも、

「そうか……大丈夫だとは思うけど、道中気を付けて」

香霖堂を後にし様としている龍也を止めず、道中気を付ける様にと言う発言を口にした。
残念そうな表情をしている辺り、霖之助としては龍也にもっと香霖堂でアルバイトをして欲しいのだろう。
何せ、龍也が居れば無縁塚から回収出来る外の世界の道具の数は大幅に増加。
更には使い方も教えて貰えると言うおまけも付いて来る。
龍也一人居るだけでこれなのだから、霖之助が残念がるのも当然と言うもの。
そんな霖之助の心中を龍也は察するも、

「はい、ありがとうございます」

その事に付いて特に言及せず、龍也はそう返した。
言及しなかったのは、自分の事を止め様としなかった霖之助の気持ちを汲んだからか。
ともあれ、これ以上ここに居てもあれであるからか、

「それでは、霖之助さんもお気を付けて」

霖之助も気を付ける様に言って龍也は立ち上がり、左手に学ランを抱えて居間を後にする。
そして、香霖堂から出て龍也は無名の丘へと向かって行った。






















空中から無名の丘を目指し、無名の丘に辿り着いた龍也は、

「到着っ……と」

走り幅跳びの要領で跳躍し、洞窟の前に降り立って自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から紅に変わった。
同時に、龍也は右手の掌から炎のを生み出して洞窟の中へと入って行く。
そして、奥に着くと近くに置いて在るランプを手に取り、

「よっと」

ランプに火を入れ、生み出している炎を消す。
その後、軽く周囲を見渡していき、

「当たり前と言えば当たり前だが、変わってないな」

そう呟く。
まぁ、変わっていないのも当然だろう。
霊夢に作って貰ったお札が結界を張っているので、一部の例外を除いて龍也が居なければこの洞窟に入る事が出来ないのだから。
例外と言うのはお札を作った霊夢、境界を自由自在に操る能力を持つ紫の二人。
霊夢が例外と言うのは龍也の推察でしかないが、紫の場合は実際に進入された。
しかも、寝ている間に。
と言った感じで少し過去の思い出しながら、アリスに作って貰った防寒具の隣のハンガーに学ランを掛ける。
学ランの掛け終えた後、

「さて、後は……」

龍也は壁に貼っているお札に近付き、そのお札に手を触れて霊力を流し込む。
そして、お札への霊力補充が完了すると、

「次は……」

お札から手を離して霊力を流し込むのを止め、もう一度周囲を見渡して考える。
何か、他にするべき事は無いかと。
少しの間考えた結果、

「……何も無いな」

何も無いと言う結論に達した。
強いて言えばポストに入っているであろう"文々。新聞"を読んで置きたいが、龍也としては早い内に次のアルバイト先を見付けたいところ。
なので、"文々。新聞"を読むのは次帰って来た時にし様と言う事を龍也は決め、

「さて……」

ランプの火を消して再び右手の掌から炎を生み出して出口へと向かい、

「んー……」

外に出たのと同時に右手の掌の炎を握り潰す様に消し、両腕を伸ばしながら力も消す。
力を消すと龍也の瞳の色が紅から黒に戻る。
それと同時に龍也は伸ばしていた両腕を下ろしながら何となく何かを感じた方に体を向け、

「さて、次は何所でバイトし様かね?」

次のバイト先を何所にするか考えながら足を動かして行く。
すると、

「あ……」

鈴蘭畑から微かな声が龍也の耳に入って来た。
入って来た声に反応した龍也は足を止め、声が発せられたであろう方に体を向ける。
龍也が体を向けた先には、

「メディスン」

メディスンの姿が在った。
どうやら、声を発した者はメディスンであった様だ。
ともあれ、声を掛けられたと言う事で、

「少し久しぶり……かな? 元気にしてたか?」

龍也もメディスンに声を掛けた。

「うん……」

掛けられた声に応えるかの様にメディスンはうんと言いながら頷き、ジッと龍也を見詰め始める。
急に見詰められた事で龍也が少し照れ臭そうな表情になっている間に、

「服……変えたの?」

メディスンから服を変えたのかと言う事を尋ねられた。
尋ねられた事は隠して置くべき情報では無い為、

「ああ、霖之助さんに貰ったんだ。どうだ、似合うか?」

霖之助に貰った事を龍也はメディスンに教えつつ、似合っているかと聞く。
聞かれたメディスンは改めてと言った感じで龍也をもう一度ジッと見詰め、

「……良く、分からない」

良く分からないと言った言葉を紡ぐ。

「…………そうか」

返って来た感想を受けた龍也は落ち込んだかの様に少し肩を落としてしまう。
龍也としてはもう少し何か有って欲しかった様だ。
目に見えてと言う程でも無いが、落ち込んでいる龍也を見てもメディスンは気にも止めず、

「そう言えば……あんたって此処に住んでるんだっけ?」

確認するかの様に龍也に此処に住んでいるのかと問う。

「ああ。あんまり帰ってはいないけどな」
「……そう言えば、前にもそんな事を聞いた気がする」

問われた事を受けて龍也が肯定の返事と共にあまり帰っていないと口にすると、前にも聞いた事が在るとメディスンは呟き、

「……ねぇ。龍也から見て永遠亭ってどんな所?」

永遠亭とはどんな所かと言う疑問を龍也に投げ掛けた。

「永遠亭? 簡単に言えば医療機関……つまりは病院だ。医療技術レベルはかなり高く、人間妖怪問わずあらゆる種族を診て貰えるぞ」

投げ掛けられた疑問に対する答えを龍也は述べ、

「でも、どうしたんだ? 急に永遠亭の事を聞いて来る何て?」

行き成り永遠亭の事を聞いて来た理由をメディスンに言う様に促す。
促されたメディスンは、

「少し前からかな? 永遠亭の人がここに来て、対価を出すからスーさんを分けて欲しいって言って来たの」

永遠亭の事を龍也に聞いた理由を話した。
話された内容を頭に入れた龍也は、鈴蘭を何かの薬の材料にするのかと推察していく。
永琳程の者なら毒を薬に変える事位、朝飯前だろう。
一体、鈴蘭からどんな薬が出来るんだろうと言う事を考えつつ、

「……そういや、対価に何を貰ったんだ?」

興味本位と言った感じで龍也はメディスンに鈴蘭を分ける代わりの対価は何なのかを教えてくれと言う頼みを行なう。
しかし、

「……秘密」

秘密と漏らしてメディスンは龍也から顔を背けてしまった。
どうやら、教える気は無い様だ。
その事を龍也は少し残念に思うも、これ以上聞くのは藪蛇だとも思った。
なので、この話題を龍也は打ち切り、

「それじゃ、そろそろ俺も行くな」

そろそろ行くと言って無名の丘の出口の方へと体を向ける。
すると、

「あ、龍也……」

メディスンが龍也を呼び止めて来た。

「ん?」

呼び止められた龍也がメディスンの方に顔を向けると、

「その……また……ね」

またねと言う言葉をメディスンは口にする。
口にされた事に応えるかの様に、

「おう!! またな!!」

元気の良い声でまたなと返し、無名の丘を後にした。






















無名の丘を後にした龍也は、

「さて、次のバイト先はどうするかな?」

空中を駆ける様に移動しながら次のバイト先を考えていく。
しかし、幾ら考えても次のバイト先は決まらなかった。
だからか、

「……こうやって適当に進んでいれば、誰かに会うだろ。その時、バイトさせてくれと頼めば良いか」

誰かに会ったらバイトをさせてくれと言う頼みをすれば良いと言う様な楽観的な事を龍也は零す。
そして、それから幾らか経つと、

「あら、龍也じゃない」

真横から何者かの声が龍也の耳に入って来た。
入って来た声に反応した龍也は一旦止まり、声を掛けられた方に体を向ける。
体を向けた龍也の目には、

「幽香」

幽香の姿が映った。
どうやら、龍也に声を掛けて来たのは幽香であった様だ。
龍也が幽香の存在を認識したのと同時に、

「こんにちは、龍也」

軽い挨拶の言葉を龍也に掛け、

「あら、服装変えたの?」

服を変えた事に対して言及する。
だからか、

「ああ、霖之助さんに貰ったんだ。どうだ、似合うか?」

霖之助に貰った事を教え、似合っているかと問う。

「ええ、似合ってるわ」
「そっか、ありがとう」

問われた幽香が似合っていると言う返答を返してくれたので、龍也は少し嬉しくなった。
そんな龍也を見ながら、

「そうそう。貴方に聞きたい事が在ったの」

幽香は何かを思い出したかの様な表情になり、龍也に聞きたい事が在ると口にする。

「聞きたい事?」

聞きたい事が在ると口にされた龍也が首を傾げたタイミングで、

「ええ。天狗の新聞で見たのだけど、最近色々な所でアルバイトしてるって言うのは本当?」

色々な所でアルバイトをしている事の真偽に付いて幽香が尋ねて来た。
尋ねて来た中に在った天狗の新聞。
十中八九、文の"文々。新聞"であろう。
第一、龍也はアルバイトをしている事を文以外の天狗に話してはいないのだから。
序に言えば、文に対して龍也は紅魔館でアルバイトをしているとしか言っていない。
だと言うのに他の場所でもアルバイトをしている事が"文々。新聞"に書かれている理由は、文自身が調べたからだろう。
と言った推察を龍也は行ないつつ、

「ああ」

肯定の返事と共に頷いた。
すると、

「なら、私の所でもアルバイトをしてみないかしら?」

幽香からその様な提案がされる。

「幽香の所でか?」
「ええ、そうよ。それで、どうかしら?」

された提案に龍也が少し驚いていると、幽香が早く決めろと言った感じで促して来た。
促された事もあってか、

「そうだな……俺も他の場所でバイトをし様と思ってたし。うん、幽香の所でバイトするよ」

次のアルバイト先を幽香の所にする事を決める。

「そう、ありがとう」

龍也が自分の所でアルバイトをするのを決めてくれた事に礼を言い、幽香は懐から大量のお金を取り出す。
そして、取り出したお金を龍也に手渡した。
手渡されたお金を見て、

「これは?」

疑問気な表情を龍也が浮かべてしまった為、

「先ず、貴方には人里の花屋に行って肥料を在るだけ買って来て欲しいの」

龍也にして欲しい事を幽香は伝えた。

「肥料を在るだけ? 何でまた?」

伝えられた事を受けて龍也はまだ疑問気な表情の儘であったが、

「もう少ししたら、夏が来るでしょう」

嬉しそうな表情を浮かべながらもう少ししたら夏が来る事を語った幽香を見て、

「ああ、成程。向日葵か」

肥料を大量に買って来て欲しいと頼んで来た理由を理解する。
した理解は正しかった様で、

「正解」

これまた嬉しそうな表情で正解と言う言葉を幽香は紡ぎ、

「向日葵の芽が出始める前に土壌の整理とか害虫駆除とかもして置きたいからね。無いとは思うけど、大量の肥料は余りにも痩せこけた土壌があった場合の保険よ」

続ける様に大量の肥料の使い道に付いて話す。

「それで在るだけ……か?」

話された内容からそれならば在るだけ買わなくても良いのではと龍也は思ったが、

「あら、向日葵が咲き始めたら本格的に使う事になるから無駄には成らないわよ」

肥料の使い道は向日葵が咲き始めてからが本番だと言う様な事を幽香が口にした。
それならば良いかと龍也が思いながら手渡されたお金を受け取った瞬間、

「それじゃ、頼んだわよ。買い終わったら太陽の畑に来てね」

買い終わったら太陽の畑に来る様にと言う指示を幽香は出す。

「分かった」
「あ、そうそう。お釣りは全部貴方の報酬にして良いわ」

出された指示に龍也が了承の返事をしたのと同時に、お釣りは報酬して良いと言って幽香は太陽の畑に向かって飛んで行った。
飛んで行った幽香を見届けた後、受け取ったお金を龍也は懐に仕舞い、

「……さて、人里に行くか」

人里へ向けて移動を開始する。






















人里に着いた後、

「さーて、花屋花屋……」

龍也は地に足を着け、地上から花屋を探していた。
しかし、幾ら歩き回っても花屋を見付ける事が出来なかったので、

「すみませーん」

近くに居た男性に声を掛け、花屋の場所を尋ねてみる事をする。
ともあれ、声を掛けられた男性は足を止め、

「はい、何でしょう?」

そう言いながら龍也の方に体を向けた。
そして、

「ここから花屋に行くには、どう行けば良いですか?」

龍也から花屋への行き方を尋ねられた男性は、

「花屋でしたらここから三つ目の角を左に曲がり、その後五つ目の角を右に曲がれば見えて来ますよ」

快くと言った感じで花屋への行き方を話す。

「お教え頂き、ありがとうございます」
「いえ、これ位構いませんよ」

話された内容を頭に入れた龍也が礼の言葉を口にすると、男性は構わないと返して去って行った。
そのタイミングで龍也は花屋を目指して足を動かし始める。
それから幾らか経った辺りで、

「お、見っけ」

花屋が龍也の目に映った。
早速と言わんばかりに龍也は目に映った花屋の中に入り、

「すみませーん」

すみませんと言う言葉を掛ける。
掛けた言葉に反応したからか、

「はい、いらっしゃいませ!!」

元気の良い声と共に店員が龍也の傍にやって来て、

「何をお求めでしょうか?」

欲している物は何だと言う事を聞いて来た。

「置いて在る花の肥料、全部ください」

聞かれた事に龍也が答えた瞬間、店員の動きが止まる。
しかし、直ぐに再起動をし、

「ぜ、全部ですか?」

少し驚いた表情を浮かべた店員は龍也に念の為と言った感じで確認を取りに掛かった。

「ええ、全部です」
「……しょ、少々お待ちください」

取られた確認に間違いは無いと言う様な断言をしたのと同時に店員は少々慌てた動作で奥の方に引っ込んでしまう。
引っ込んで行った店員を見届けた龍也は、店員が戻って来るまでの暇潰しとして店の中を軽く観察していく。
観察し始めた中で最初に龍也の目に映ったのは鉢に植えられ、ある程度まで育てられた花。
見た感じ確り育てられていると言う感想を龍也は抱きつつ、また別のものを探すかの様に視線を動かす。
視線を動かしていくと鉢に植えられていない花、花の種、鉢、如雨露、シャベル、腐葉土、肥料等々。
花だけではなく花を育てる為に必要な物も色々と置いて在る様だ。
花屋と言っても、花だけを扱っている訳では無い様である。
そんな感じで花屋の中を龍也が観察し始めてから幾らかすると、

「お、お待たせしました」

お待たせしたと言う言葉と共に店員が大きなカートを押しながら戻って来た。
戻って来た店員が押している大きなカートを見て紅魔館にも在ったが人里にも在ったのかと言う事を龍也は思いつつ、カートに乗っかっている物に目を向ける。
カートには肥料が入っているであろう袋が幾つも積み重ねられており、それ等は縄で固定されていた。
積まれている肥料の列の長さと高さから沢山在るんだなと言う感想を龍也が抱いている間に、店内に在る肥料が入っている袋も店員はカートの上に乗っけていく。
そして、店内に在る肥料を全てカートの上に乗せてまた縄で固定して後、

「こ、これで全部です」

少し息を切らした店員がこれで全部だと言う事を龍也に告げる。
告げられた事を受けた龍也は疲れている店員を見て、

「あ、ありがとうございます」

取り敢えず、礼の言葉を述べた。
すると、

「そ、それで代金の方なのですが……」

肥料代に付いての話を店員が出して来た為、

「ああ、はい。幾らですか?」

懐から幽香から貰ったお金を懐から取り出し、代金が幾らか聞く。
聞いたのと同時に代金を店員が言ったので、代金分のお金を支払って余ったお金を財布の中に仕舞う。
余ったお金は結構な額であった為、幽香は最初から自分に結構な額のお金を渡す積もりあったのではと龍也が考えた時、

「あの、量が量ですので人を呼びましょうか?」

店員から人を呼ぼうかと言う提案が出された。
確かに、今回買った肥料の数は相当なもの。
これを一人で運べると普通は思えないので、人を呼ぼうかと提案をした店員は正しいと言えるだろう。
だが、

「あ、いえ。お構いなく」

その提案を龍也は断り、カートを押しながら外に出る。
外に出た龍也を追う様に店員も外に出て、ある予想をした。
予想と言うのは、カートを押して肥料を運ぶのかと言う事。
しかし、店員がした予想は外れてしまった。
どう言う事かと言うと、積み重なっている肥料を固定している縄の隙間に龍也が指を引っ掛けて持ち上げたからだ。
あれだけの量の肥料を一人で持ち上げる事は全くの予想外であった為、店員は驚いたかの様に目を丸くしてしまう。
その間にも龍也は肥料を固定している縄に指を引っ掛けていき、次々と肥料を持ち上げ、

「……よし」

全て肥料を固定している縄に指を引っ掛け終えると空中に踊り出て、

「肥料、ありがとうございました」

軽い礼の言葉を述べて人里を後にし、太陽の畑へと向かって行った。






















太陽の畑に着いた龍也が地に足を着けたのと同時に、

「お帰りなさい」

幽香が出迎えてくれた。

「ただいま」

出迎えてくれた幽香に龍也はそう返し、

「この肥料、何処に置けば良い?」

買って来た肥料を何処に置けば良いかと言う事を尋ねる。
すると、

「鍵は開いているから、私の家に置いて来てくれるかしら」

そう口にして幽香は自分の家を指でさした。

「分かった」

指でさされた先に在る幽香の家を見ながら龍也は了承の返事をして、幽香の家へと向かう。
そして、幽香の家に肥料を置いた龍也は幽香の元に戻り、

「次に何かやる事は在るか?」

次にやるべき事に付いて聞く。
聞かれた幽香は下唇に一指し指を当てて少し考える素振りを見せ、

「そうね……なら、私と一緒に土壌整理とか害虫駆除をして貰おうかしら」

龍也にやって欲しい事を伝える。

「了解。お釣りが思っていたよりも多かったから、気合入れて手伝わせて貰うぜ」

伝えられた内容を頭に入れた龍也が了承の返事と共にそう主張したのと同時に、

「あら、それなら頼りにさせて貰うわね」

嬉しそうな表情を浮かべ、頼りにさせて貰うと幽香は零す。
こうして、太陽の畑の土壌整理や害虫駆除の手伝いを龍也はする事となった。
因みに、この手伝いは太陽の畑が広い事もあって一週間程続いたと言う。























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