「ほら、起きなさい」
「ん……」

起きろと言う言葉と共に誰かに体を揺すられている為、龍也は目を覚ました。
そして、意識が覚醒して来た辺りで、

「ほら、もう朝よ」

もう朝だと言う言葉が耳に入り、龍也の意識は完全に覚醒して目を開く。
開いた龍也に目には、

「幽香」

幽香の姿が映った。
映った幽香の姿から、自分を起こしたのは幽香かと龍也が思ったのと同時に、

「やっと起きたのね」

幽香は龍也を揺するのを止め、龍也から手を離す。
その様子を見ながら、龍也は思い出した。
ここ一週間程、太陽の畑の整理などの手伝いで幽香の家に泊まっていた事を。
龍也が幽香の家に泊まっている理由を完全に思い出した後、

「もう朝ご飯が出来てるから、居間の方に来てね」

そう言って、幽香は部屋から出て行った。
部屋から出て行った幽香を見届けた龍也は、上半身を伸ばしてベッドから降りる。
ベッドから降りた龍也は椅子に掛けて置いたジャケットを着込んで居間へと向う。
居間に着くと幽香にテーブル前の椅子に座る様に促された為、促される形で龍也は椅子に腰を落ち着かせた。
腰を落ち着かせた龍也がテーブルの上に目を向けると、テーブルの上に並べられている料理が目に映る。
目に映った料理はどれも美味しそうだと言う感想を龍也が抱いた時、幽香も椅子に腰を落ち着かせた。
お互い、もう準備が整っている事もあり、

「「いただきます」」

早速と言わんばかりに龍也と幽香の二人は朝食を取り始める。
余談ではあるが、幽香の家で出される料理は野菜が中心な物が多い。
それに違わず、今回出された料理も野菜が中心だ。
と言っても、龍也に不満は無いが。
ともあれ、ある程度食事が進むと、

「ありがとね、龍也」

何の前触れも無く、幽香が礼の言葉を述べて来た。

「ん? 何がだ?」

行き成り礼を言われた事で龍也が疑問気な表情を浮かべてしまったからか、

「貴方が手伝ってくれたお陰で太陽の畑の整理、随分早く終わったわ」

何に対して礼を言ったのかの説明を幽香は簡単に行なう。

「こっちとしても、結構な量の金を貰ったしな。あれ位手伝うのは当たり前だ」
「あら、肥料だけ持って来てさよならって言うのも出来た訳でしょう?」

行なわれた説明を受けて報酬分の仕事をしただけだと主張した龍也に、その様な突っ込みを幽香は入れる。
アルバイト先を幽香の所に決めた際、幽香が龍也に頼んだのは肥料の買い出しだけ。
はっきり言って、太陽の畑の整理までする必要は龍也には無い。
だと言うのに、態々太陽の畑の整理まで龍也がした理由は、

「そうは言っても、あれだけの金を貰って置いてお使いで終わりって言うのもなぁ……」

幽香から貰った金額が多過ぎたと言う事に尽きるだろう。
だからか、

「ふふ、義理堅いのね」

幽香は龍也の事を義理堅いと称した。

「そうなのかねぇ?」

称された事を耳に入れた龍也はつい首を傾げてしまう。
そんな龍也に、

「自分の事って、案外自分では解らないものなのよねぇ」

軽い笑みを浮かべながら自分の事は自分では解らないものだと言う言葉を幽香は掛けた。

「……確かに」

掛けられた言葉に返すかの様に、龍也は確かにと零す。
そして、

「あら、確かにって事は身に覚えが在るのかしら?」
「まぁ……な」
「ふふ、自分の事を見詰め直すと言うのは良い事よ」
「……そういや、幽香も自分を見詰め直すってのをした事が在るのか?」
「そりゃ私は妖怪……つまりはそれ相応の年月を生きれるし、生きて来たのよ。自分を見詰め直すって言う機会は、それなりに在るわ」
「へぇー……」
「……そうだ。折角だから龍也の話、色々聞かせてくれないかしら?」
「別に良いけど……何を聞きたいんだ?」
「そうね……折角だし、今までして来たアルバイトの事でも話して貰おうかしら」
「分かった。じゃ、早速……」

幽香と龍也は雑談を交わしながら朝食を進めていった。






















朝食を取り終え、テーブルの上が片付けられた後、

「朝ご飯、ありがとな」

龍也は幽香に朝食を作ってくれた事に対する礼を述べる。

「一人分作るのも二人分作るのも大して変わらないから別に構わないわ」

述べられた礼に幽香はその様に返すも、

「……あ、そうそう」

直ぐに何かを思い付いたと言った表情になった。
そして、

「出来れば、向日葵が咲き始める頃にまた此処に来て貰えるかしら?」

一寸した頼みを龍也に行なう。

「向日葵が咲き始める頃に?」
「ええ、その頃になるとまた害虫も増えるだろうし」

行なわれた頼みを耳に入れた龍也が首を傾げると、その様な頼みをした理由を幽香は話す。
幽香が話した通り、向日葵が咲き誇る時期になれば害虫などが増えるのは確実と言っても良い。
そうなった時の為に害虫を処理する人手が幽香としは欲しいのだろう。
ともあれ、龍也に取って幽香は恩人であるしアルバイト料もかなり貰っている事もあり、

「分かった。そう言う事なら向日葵が咲く頃にでもまた来るよ」

幽香からの頼みを龍也は引き受ける事を了承した。

「ありがとう、龍也」
「どういたしまして」

自分の頼みを引き受けてくれた龍也に幽香が礼を言うと、どういたしましてと返しながら龍也は立ち上がって外に出る。
外へと出た龍也に続く様に幽香も外に出て、

「またね、龍也」
「ああ、またな」

幽香と龍也が別れの挨拶を交わすと、龍也は空中に躍り出て陽の畑を後にした。






















太陽の畑を後にしてから幾らか経った頃。
幻想郷の何所かの空中を駆けながら、

「次は何処でバイトし様かな……」

龍也は次のアルバイト先を考えていく。
しかし、

「あっ……」

突然何かを思い付いたかの様な表情を浮かべながら龍也は急ブレーキを掛けて止まり、

「そういや、どれ位貯まったのか数えてなかったな」

財布を取り出して現在の所持金を確認し始める。
確認した結果、

「…………かなり在るな」

かなりのお金が財布の中に在る事が分かった。
これだけ在ればこれ以上アルバイトをする必要は無いのではと言う考えが龍也の頭に過ぎる。
だからか、旅を再開したいと言う欲求が龍也の中で生まれ始めた。
ここ最近、ずっとアルバイトをしていたせいで気の向く儘に好きな場所に行くと言う事が出来ていなかったのだ。
そう言った欲求が出て来るのも仕方が無いと言えるだろう。
と言った感じで龍也が旅を再開し様と言う決意をした刹那、

「龍也!!」

背後から自身の名を呼ぶ声が龍也の耳に入って来た。
耳に入って来た声に反応した龍也はした決意を押さえ込みつつ、背後へと振り返る。
すると、

「穣子」

秋穣子の姿が龍也の目に映った。
映った穣子の姿から声を掛けて来た者が誰であるかを龍也が認識したのと同時に、

「こんにちは、龍也さん」

こんにちはと言う挨拶の言葉を発しながら静葉が穣子の背後から顔を出す。
穣子だけではなく静葉も居る事を認識した龍也は、

「よお、静葉」

片手を上げて静葉に挨拶の言葉を返した。
その後、

「そう言えば、以前お会いした時と服装が違いますね」

前に会った時と服装が違う事を静葉が口にする。

「あ、本当。服変えたの?」

姉である静葉が龍也の服装に付いて口にした事で、穣子も龍也の服装の変化に気付く。

「ああ。どうだ? 似合ってるか」

静葉と穣子の二柱が自分の服装の変化に気付いてくれたからか、龍也は肯定の言葉と共に二柱に似合っているかと聞く。

「似合ってますよ」
「うん、結構似合ってるわね」

聞かれた事に静葉と穣子の二柱は似合っていると答えてくれた為、

「はは、ありがとう」

少し照れ臭そうな表情になりながら龍也は後頭部を掻いて礼を言い、

「それはそうと、どうしたんだ。こんな所で?」

こんな所に居る理由を二柱に尋ねる。
尋ねられた二柱は真面目な表情になり、

「それはね……秋の良さを大々的に広めに来たのよ!!」

穣子は一歩前へと出て高らかにその様な宣言を行なった。

「……秋の良さを広めに?」

行なわれた宣言を受けた龍也はつい疑問気な表情を浮かべてしまう。
今現在の季節は春。
更に言えば、もう少しすれば季節は春から夏に変わる。
秋の良さ広めるのであれば、秋の季節にやれば良いのではないだろうか。
と言った疑問を抱いたので、

「なぁ、何で今の時期なんだ? 秋にやれば良いんじゃないのか?」

ストレートに龍也は秋姉妹に今の時期に秋の良さを広める事にしたのかを問う。

「それはね……ある噂話を聞いてしまったからよ……」

すると、穣子は声のトーンを落としながらある噂話を聞いた事を語る。

「噂話?」
「そう……それは、秋が春と大差ないと言う噂話をね!!」

語られた中に在った噂話と言う部分に幾らかの興味を龍也が示した瞬間、穣子は力強くそう言い放ちながらプレッシャーを放った。
穣子の背後に居る静葉も、黙ってはいるが穣子にも劣らないプレッシャーを放って来た。
二柱からのプレッシャーに気圧されながらも、

「そ、その噂話ってのは何処からの情報だ?」

何処からそんな噂話が出て来たのかと言う疑問を龍也は秋姉妹に投げ掛ける。

「何処って……主に妖精から」
「妖精ねぇ……」

投げ掛けられた疑問に対する答えを穣子が述べると、述べられた答えを自分の中で反復させながら龍也は少し頭を回転させていく。
妖精と言う種族は基本的に何も考えず、勢いだけで行動する事が多い。
なので、この噂話も勢いだけで出て来た可能性が高いだろう。
故に、

「でも、妖精の噂話程度なら直ぐに消えると思うけど……」

噂の出所が妖精ならば、その噂ならば直ぐに消えるのではと言う意見を龍也は出した。
しかし、

「甘いですよ、龍也さん」

出された意見は静葉の甘いの一言でバッサリと斬られてしまう。
そして、

「火の無い所に煙は立たないと言います」
「それに!! この噂話が元で秋と春は大差無いと言う概念が広まったらどうするのよ!!」

静葉と穣子の二人はプレッシャーを増大させながら龍也へと詰め寄った。
増大したプレッシャーは相当なものであった為、

「そ、そうか。俺が悪かった」

つい反射的に謝罪の言葉を発し、

「そ、それで、お前達は何をし様としてたんだ?」

話を変えるかの様に、秋の良さを広めるのに何をし様としているのかを龍也は二柱に聞く。

「決まってるでしょ!!」
「秋と言う季節の良さを広める為に幻想郷中を回るところです」

聞かれた穣子と静葉は続ける様にそう言い、静葉がプラカードを龍也に見せる。
龍也に見せたプラカードには、"秋こそ至高の季節!!"と言う文字が書かれていた。
それも、かなり気合の入った字で。
プラカードに書かれた文字を見た龍也は秋の神様である為に、秋と言う季節をを貶された事で火が着いたのだろうと推察する。
でなければ、秋以外の季節は妖怪の山から出て来る事が殆ど無い秋姉妹の今回の行動力に説明が付かないからだ。
ともあれ、秋ではない今の季節に静葉と穣子と言う秋の神様がこうも動き回っても大丈夫なのかと言う心配が龍也の中に過ぎった時、

「……そうだ。折角だから龍也、あんたも付き合いなさい」

良い事を思い付いたと言う表情になりながら、穣子はそんな提案を言い出した。

「……へ?」
「私達は神と言ってもそんなに戦闘力が高くないのです」

行き成りそんな提案をされた事でつい唖然としてしまった龍也に向け、静葉が自分達は戦闘力に秀でた神ではない事を語り、

「だから、道中を安全に進むために用心棒が必要かなって思ってたのよ」

続ける様にして穣子が自分達に付き合う様に提案した理由を話す。
語られ、話された内容を受けて納得したと言う表情に龍也がなると、

「そんな時、龍也さんを見付けました」

穣子が話した事に続ける様にして静葉がそう口にする。
その後、

「龍也の事は度々天狗の新聞の記事にされていたから、どれ位強いかは知ってる積もり」
「おまけに、龍也さんは色々な所に顔が効きますよね」

穣子と静葉の二柱は顔と顔がぶつかりそうになるまで龍也との距離を詰め、

「勿論、私達に付き合ってくれるわよね?」
「勿論、私達に付き合ってくれますよね?」

改めてと言った感じで自分達に付き合ってくれるよねと言う言葉を龍也に掛けた。
そんな二柱から発せられるプレッシャーに気圧されたからか、はたまた二柱の迫力に押されたからかは分からないが、

「……はい、分かりました」

あっさりと龍也は折れ、二柱からの頼みを引き受ける事になる。






















さて、秋の良さを広める為の行動を始めた秋姉妹と龍也。
そんな二柱と一人が最初に向った場所は紅魔館。
紅魔館にやって来た理由は、住んでいる人数が多いからである。
しかし、龍也達は紅魔館の中に入れないでいた。
何故ならば、

「……寝てるな」
「……寝てますね」
「……寝てるわね」

門番である美鈴が立った儘の状態で幸せそうな顔をしながら寝ている姿が龍也、静葉、穣子の目に映っているからだ。
因みに、秋姉妹のヒートアップ振りから強行突破で入るのではと龍也は思っていたがそうはならなかった。
どうやら、ある程度の冷静さが秋姉妹には残っていた様だ。
ともあれ、この儘では紅魔館に入るのはあれである為、

「どうします?」

若干不安気な表情になった静葉が龍也にどうするかと言う問いを投げ掛ける。
すると、

「どうするもこうするも……」

そう言いながら龍也は美鈴の近付いて大きく息を吸い込み、

「美鈴!!!!!!」

大きな声で美鈴の名を呼ぶ。
その瞬間、

「わひゃい!?」

美鈴は飛び起き、大慌てで周囲の状況を確認しに掛かる。
そして、

「あ、何だ。龍也さんじゃないですか」

龍也の存在に気付いた美鈴は思いっ切り安心した表情になり、

「あれ? 服装変えました?」

今気付いたと言った感じで龍也に服を変えたのかと聞く。

「ああ、この前にな」
「そうなんですか。似合ってますよ」

聞かれた事に龍也が肯定の返事をすると美鈴が似合っていると言ってくれたので、

「はは、ありがとう」

少し照れ臭そうな表情になって龍也は礼を言うと、

「さて、本日はどんなご用件で?」

話を変えるかの様に美鈴は龍也に紅魔館へとやって来た理由を尋ねる。

「俺と言うより、こっちの二人がここに用が在るんだ」

尋ねられた龍也は用が在るのは自分ではないと口にし、静葉と穣子の二柱の方に顔を動かす。
龍也が顔を動かした先に居た静葉と穣子の二柱は見覚えが無かったからか、

「おや? そちらのお二方は……」

つい疑問気な表情を美鈴は浮かべてしまう。
なので、

「秋の神様の秋静葉と秋穣子だ」

龍也は美鈴に秋姉妹の事を簡単に説明した。

「神様でしたか」

された説明で秋姉妹が神である事を知った美鈴が姿勢を正した時、

「龍也、この人って……」

何か聞きたそうな感じで穣子が龍也に声を掛けた。

「ああ、ここの門番の紅美鈴だ」

掛けられた声に反応した龍也は穣子が何を知りたいのかを察し、美鈴が紅魔館の門番である事を穣子に教える。

「へぇー、門番……」

教えられた事を受けて改めて美鈴を見た穣子は、

「でも、この人さっき思いっ切り寝てたわよね。門番なのに」

門番なのに寝ていた言う指摘を行なう。

「いやー……余りに眠気を誘う雰囲気だったと言いますか……」

行なわれた指摘を耳に入れた美鈴が苦笑いをしながら後頭部を掻いた刹那、

「あら、仕事中に居眠りとは……良い御身分ね、美鈴」

龍也達の近くに咲夜が音も無く現れた。

「さ、咲夜さん……」

現れた咲夜に気付いた美鈴が、ゆっくりとした動作で咲夜の方へと顔を向けた瞬間、

「後で……じっくりと話し合いをしましょうか。弾幕ごっこと言う名の話し合いを」

冷たさが感じられる笑顔で咲夜はそう言い放つ。

「そ、そんなー」

ある種の宣戦布告を咲夜からされた美鈴はガックリと肩を落とした。
まぁ、美鈴は弾幕ごっこは余り得意ではないので肩を落とすのも無理はない。
尤も、近接戦闘込みの弾幕ごっこなら話は別であろうが。
そんな美鈴を尻目に咲夜は龍也達の方へと向き直り、

「それで、何の御用かしら?」

紅魔館にやって理由を問い掛ける。

「ああ、それはな……」

問い掛けられたと言う事で、ここまでやって来た理由を龍也は咲夜は説明し始めた。

「成程ねぇ……」

された説明で龍也達が紅魔館にやって来た理由を知った咲夜はチラリと秋姉妹の二柱に視線を向け、

「そう言うお話であれば、お嬢様に任せるのが筋だと思うのだけど……お嬢様、今はお休み中なのよね」

紅魔館の主であるレミリアがお休み中だと言う事を零す。

「まぁ、この時間帯ならな」

零された発言が耳に入った龍也が納得したと言う様な表情になる、
レミリアは吸血鬼であるので、太陽が出ている時間帯に寝ていても何の不思議も無い。
それを忘れてこんな時間帯に紅魔館へ秋姉妹を連れて来た龍也は間抜けと言えるが。
兎も角だ。
せめて話だけでも聞いて欲しいからか、龍也は咲夜に近付き、

「それはそれとして、話だけでも聞いてくれないか? そうしないと、あいつ等も帰りそうにないし」

そう耳打ちをする。

「そうね……私も人里で食材を買ったりするから、あの二柱を余り邪険に扱うのもねぇ。それに、紅魔館でも野菜を育てているし」

耳打ちされた内容を受けた咲夜はそう漏らし、静葉と穣子の二柱を邪険に扱う訳にもいかないと考え、

「私が話を聞いて、それを妖精メイドに広めるのが妥当かしらね?」

自分が紅魔館の広告塔になるのが無難かと言う結論を出した。
事前連絡も無くやって来て秋姉妹の頼みを引き受ける様な結論を咲夜が出したのは秋姉妹と言うより、穣子の機嫌を損ねたくなかったからであろうか。
穣子は豊穣を司っている神。
下手に穣子の機嫌を損ねれば、不作と言う事態が紅魔館を待っている可能性が高いと言える。
ともあれ、龍也としてもその辺りが限界かと考えていたので、

「ああ、その辺りが妥当だな」

咲夜の考えに同意を示す。
そして、

「なら、中で話を聞きましょうか」

話ならば紅魔館の中で聞くと言って門を開き、

「あ、そうだ」

何かを思い出したかの様に咲夜は振り返り、

「その服装、似合ってるわよ」

龍也へ服が似合っていると言う言葉を掛けた。
不意打ち気味に言われたからか、照れ臭そうな表情に龍也はなり、

「あ、ああ。ありがとう」

ありがとうと言う言葉を咲夜に返す。
その後、咲夜に案内される形で龍也と秋姉妹は紅魔館の中に入って行った。






















紅魔館での秋広めが終わった後、龍也と秋姉妹は人里へと来ていた。
人里にやって来た理由は秋姉妹曰く、人里は今の時間帯が一番賑わっているからとの事。
静葉と穣子の二柱は人里で開かれている秋の収穫祭に毎年お呼ばれされている様なので、そう言う事を熟知しているのだろう。
事実、秋姉妹が人里にやって来て演説を始めると人里の人間が直ぐに集まって来たのだから。
演説している秋姉妹の周囲に集まっている人達を見ながら、この分なら人里で秋の良さを広めなくても良かったのではと龍也が思った時、

「あら、龍也じゃない」

後方から自身の名を呼ぶ声が龍也の耳に入って来た。
入って来た声に反応した龍也が背後に体を向けると、

「アリス」

アリスの姿が龍也の目に映る。
映ったアリスの姿から、声を掛けて来た者がアリスであると龍也が認識したのと同時に、

「こんにちは。処で、何をしてたの?」

こんにちはと言う挨拶の言葉と共に何をしていたのかと言う事をアリスが龍也に問うて来た。
別段隠して置く様な情報でもないので、

「ああ、実はな……」

今している事を龍也はアリスに教え始める。

「……成程、それで秋の神様の御付をしてるのね」

教えられた事を頭に入れたアリスは納得した表情になりながら秋姉妹の方に視線を向け、

「まぁ、神様に取っては信仰は必要不可欠なものだから仕方が無いんじゃない?」

信仰が神に必要不可欠である為、活動的なのも仕方が無いのではと言う様な事を漏らす。
漏らされた事を受けて龍也は確かにと思いながら、アリスに続く形で龍也も秋姉妹の方に視線を向けた。
視線を向けた先に居る秋姉妹は、見ただけで熱心さが感じられる様な雰囲気を醸し出しながら演説を続けている。
演説している様子を見ながら存在し続ける為にも神に取って信仰は絶対に必要なものである事を改めて理解した龍也は視線をアリスの方に変え、

「そういや、アリスが人里に居るって事は人形劇でもしてたのか?」

人里で人形劇をしていたのかと聞く。

「ええ。それと少し買い物をね」

聞かれた事をアリスは肯定しながら龍也の方に体を向け、手に持っている買い物籠を龍也に見せながら、

「そう言えば、服装変えたのね」

今気付いたと言った感じで龍也の服装に付いての話題を出す。

「ああ、少し前に」
「似合ってるわよ」

出された話題に答えるかの様に龍也がそう言うと、似合っているとアリスが口にしてくれたので、

「ありがとう」

ありがとうと言う言葉を龍也は紡いだ。
その後、改めてと言った感じでアリスは龍也の服を観察していく。

「……ん? どうかしたか?」

それに気付いた龍也が疑問気な表情を浮かべた為、

「いえ、人形の服を作るのに龍也の服が参考になるかなって思って」

アリスは龍也の服を見ていた理由を話す。
龍也が着ている服は外の世界で作られた物なので、龍也が前まで着ていた学ランと同じくアリスに取って龍也の服は珍しく見えるだろう。
しかし、アリスの作る人形は基本的に女の子タイプである事を思い出し、

「参考って……アリスの作る人形って女の子タイプだろ。俺のは男物だからなぁ……」

今、自分が着ている男物の服で参考になるのかと言う事を龍也が思案した瞬間、

「まぁ、その辺はアレンジを加えれば……」

アリスから参考にする物が男物の服でも自分がアレンジを加えると言う案が発せられた。
アリスの人形が着ている服から見るに、アリスのデザインセンスは優れていると言える。
であるならば、男物の服でも問題は無いと龍也は判断しつつ、

「何だったら、今度外の世界の服の事でも教え様か? まぁ、女物の服には詳しく無いけど」

今度、外の世界の服に付いて教え様かと言う提案をした。
すると、

「ほんと!?」

目を輝かせ、少々興奮気味な感じでアリスは龍也に詰め寄る。
詰め寄って来たアリスの迫力に押されたからか、

「あ、ああ……」

つい反射的に龍也はああと答えてしまった。
答えてしまったの同時に龍也は少し早まったかと思ったが、嬉しそうな表情になっているアリスを見て何も言えなくなってしまう。
そして、

「それじゃ、今度私の家に来た時にじっくり聞かせて貰うわね」

外の世界の服に付いては今度自分の家に来た時に聞かせて貰うとアリスは言ってのけた。
半ば強制的に自分の予定を決められてしまった感じではあるものの、

「ああ、分かった」

アリスが言ってのけた事を受け入れる発言を龍也は行なう。
行なわれた発言を受け、

「出来るだけ、早くに来てね」

ご機嫌と言った感じでアリスは龍也に早くに自分の家に来る様に言い、

「まだ買う物が在るから、私はもう行くわね」

買い物途中である事を伝え、

「それと秋の神様のお付き、頑張ってね」

静葉と穣子のお付きを頑張る様に軽く激励をし、去って行った。
去って行ったアリスを見届けた龍也は、出来るだけ早くにアリスの家に行った方が良いかと思い始める。
秋姉妹の秋の良さを広める活動が終わったらアリスの家に向かうかと言う予定を龍也が立て様とした時、

「龍也」
「龍也さん」

穣子と静葉の二柱が龍也の名を呼んで来た。
自身の名を呼ばれた事で立て様としていた予定を頭の隅に追い遣り、秋姉妹の方に体を向ける。
体を向けた先に居る秋姉妹は既に演説を終えている様子であったので、

「お、終わったのか?」

一応と言った感じで演説は終わったのかと言う確認を龍也は取った。

「はい、それで次へ向かいたいのですが……」

取られた確認に静葉は肯定の返事をして次に向かいたいと言う事を口にする。

「次って……次の目的地は決めたのか?」
「ええ、次は永遠亭とやらに行く積もりよ」

口にされた事を耳に入れた龍也が次の目的地は決めたのかと聞くと、穣子から次の目的地は永遠亭に決めたと言う事が語られた。

「永遠亭?」

秋の良さを宣伝する場所として永遠亭を選んだのが意外であった為、龍也は驚いたと言う様な表情を浮かべてしまう。
そんな龍也を見て、

「はい、永遠亭も紅魔館と同じく住んでる人数も多いと聞きまして」
「それに、去年の秋頃から活動を始めたって言うしね。折角だから加護でも授けて来ようと思って」

静葉と穣子は永遠亭に向かう事を決めた理由を龍也に教える。
人数が多いと言っても永遠亭に多いのは妖怪兎であるが、妖精メイドが多い紅魔館とて似た様なもの。
得られる信仰の数が多ければ種族は問わないと言う事であろうか。
ともあれ、次に向かう場所が決まったと言う事もあり、

「それでは案内をお願いしますね、龍也さん」

上目遣いで永遠亭までの案内を静葉は龍也にお願いした。

「永遠亭までねぇ……」

お願いされた龍也は、少し考えを廻らせていく。
永遠亭は迷いの竹林の中に在る。
迷いの竹林は非常に迷い易い場所。
はっきり言って、普通に永遠亭を目指しても永遠亭に辿り着く事は出来ないであろう。
余り外出す事の無い永琳や輝夜の霊力を探しながら行けば辿り着ける可能性は高いであろうが、龍也の探査能力は高いと言う訳で無い。
おまけに迷いの竹林ではそう言った探査能力が大きく阻害されると、この前永遠亭でバイトした時に龍也は鈴仙に聞かされていた。
つまり、輝夜や永琳の霊力を探って永遠亭を目指すと言うのは極めて難しい方法なのだ。
龍也一人であるならば永遠亭に着くまで気儘に迷いの竹林をブラブラとしていれば良いが、今回はそうもいくまい。
それ故にどうすべきかと言った感じで龍也が悩み始めると、

「あら? 龍也に……秋の神様達?」

何者かが龍也達に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した龍也は、声を発した者が居る方に向けて体を動かす。
体を動かした龍也の目には、

「妹紅」

妹紅の姿が映った。
映った妹紅の姿から声を掛けて来た者が誰であるかを龍也が理解したのと同時に、秋姉妹も妹紅の方に顔を向ける。
そして、妹紅の姿を見て安心した表情になった。
その後、

「珍しい組み合わせね。何かあったの?」

龍也達を珍しい組み合わせだと妹紅は称し、何かあったのかと問う。

「ああ、実はな……」

問われた事で龍也は妹紅に事情を話し始める。

「成程、それで人里に来て今度は永遠亭にと……」

事情を知った妹紅は納得した表情になって秋姉妹の方へと視線を移す。
妹紅からの視線に気付いた秋姉妹は、期待を籠めた目で妹紅を見詰め返した。
秋姉妹と妹紅が見詰め合ってから幾らか経った辺りで、

「……はぁ、分かったわ。私が永遠亭まで案内して上げる」

仕方が無いと言った感じで妹紅は龍也達を永遠亭まで案内する事を決める。

「え、良いのか」

永遠亭までの案内役を買って出てくれた妹紅に龍也はついと言った感じで良いのかと聞く。

「良いわよ、別に。特に何か用事が在るって訳でも無いしね」

聞かれた妹紅がそう返してくれた為、

「そっか。ありがとな、妹紅」
「ありがとうございます、妹紅さん」
「ありがとね、妹紅」

龍也、静葉、穣子の一人と二柱は妹紅に向けて礼を言う。
すると、妹紅は龍也達に背を向け、

「どういたしまして。善は急げと言うし、今から永遠亭に向かうわよ」

そう言って永遠亭に向けて歩き出す。
歩き出した妹紅に付いて行く形で龍也達も歩き出した。






















妹紅に案内される形で龍也達が永遠亭を目指し始めてから幾らか経った頃。

「はい、着いたわよ」

着いたと言う言葉と共に妹紅は足を止めた。
どうやら、無事に永遠亭に着いた様だ。
ともあれ、足を止めた妹紅に続く様にして龍也達も足を止めると、

「それじゃ、私はこれで」

もう用は済んだと言った感じで妹紅は回れ右をし、

「おう、ありがとな」
「ありがとうございます」
「ありがとねー」

龍也、静葉、穣子の三者三様のお礼を背に受けながら去って行った。
去って行った妹紅を見送った後、龍也は永遠亭の扉をノックする。
それから少しした辺りで、

「どちらさん?」

そんな声と共に扉が開かれた。
その瞬間、

「よう、てゐ」

龍也は扉の先に居る者に向けて軽い挨拶の言葉を掛ける。
そう、扉を開けたのはてゐであったのだ。
てゐもてゐでノックして来た者が龍也であるのを知ったからか、

「ありゃ、お兄さん」

何処か気の抜けた様な表情になりつつ、

「後ろに居るのって秋の神様だよね? どうしたの?」

秋姉妹と一緒に居る理由に付いて龍也に尋ねて来た。

「ああ、実はな……」

尋ねられた龍也は秋姉妹と一緒に居る理由をてゐに話す。

「……成程、それで秋の良さを広めにね来たって訳ね」

話された理由から龍也が秋姉妹と一緒に居る理由を知り、てゐが納得した表情を浮かべている間に、

「ああ。でさ、話だけでも聞いてやってくれないか? 加護もくれるらしいし、そっちにとっても損な話じゃないと思うんだけど……」

せめて話だけでも聞いて上げて欲しいと言う頼みを龍也は行なう。
すると、

「良いよ」

即答と言える様な速さで良いよと言う返答がてゐの口から紡がれた。

「……良いのか? そんな即答で」
「うん。姫様も暇してたし、丁度良いんじゃないかな」

即答された事で龍也がつい驚いてしまうと、永遠亭の主である輝夜が暇しているので良いだろうと言う事をてゐはお気楽そうな表情で言ってのけ、

「それじゃ、姫様の部屋まで案内するから付いて来て」

自分に付いて来る様に述べて永遠亭の中に戻って行く。
戻って行ったてゐに続く様にして龍也達も永遠亭の中に入り、前方を歩いているてゐの後を追う。
そして、龍也達がてゐの後を追い始めてから幾らか経った辺りで、

「ここが姫様の部屋だよ」

輝夜の部屋の前まで辿り着き、てゐは足を止めながら今居る場所の目の前に在る部屋が輝夜の部屋である事を龍也達に教え、

「姫様、宜しいでしょうか?」

襖をノックして輝夜に声を掛ける。

「良いわよー」

てゐが声を掛けてから直ぐに部屋の中からその様な返答が発せられ、

「失礼します」

一言断りを入れたてゐが襖を開く。
同時に輝夜は開かれた襖に目を向け、

「てゐと龍也に……後の二人は初めて見る顔ね」

てゐと龍也の事は知っているが、秋姉妹の二柱は見覚えが無いと言った言葉を零す。
零された発言を受け

「ああ、この二柱は秋の神様の静葉と穣子と言って……」

龍也は輝夜に秋姉妹の事を簡単に説明し、秋姉妹を永遠亭にまで連れて来た理由を話し始めた。
これで何度目になるかと思いながら。
兎も角、龍也の話しが終わると、

「ふーん、それでここに来たのね……」

成程と言った感じの表情になりながら輝夜は秋姉妹の方に顔を向け、

「良いわ。丁度退屈していたところだし、話位聞いて上げる」

秋姉妹の話を聞く事を即決した。
だからか、静葉と穣子は嬉しそうな表情を浮かべながら輝夜に近付き、

「それではお話しましょう」
「秋の素晴らしい話をね」

秋に付いて語り始める。
こうなったら自分に出来る事は無い為、こっそりと龍也は輝夜の部屋から離れて行った。
それに続く様にしててゐも輝夜の部屋を離れ、

「あの様子じゃあ、長くなりそうだね」

長くなりそうだと呟く。

「そうだな」

呟かれた事に龍也が同意を示した時、

「そうそう、お兄さん」

良い事を思い付いたと言った感じでてゐは龍也の方に顔を向ける。

「何だ?」
「その新しい服装、似合ってるね」

自分の方に顔を向けて来たてゐに龍也が反応すると、服が似合っている言う言葉がてゐの口から発せられた。

「お、そうか?」
「だ・け・ど」

服を褒められた龍也が少し照れ臭そうな表情になったタイミングで、てゐは賽銭箱を取り出し、

「これにお賽銭を入れるともっと似合う様になるよ」

賽銭箱の中にお金を入れる様に促して来た。

「しっかりしてるよ、お前」

そう促して来たてゐを龍也はしっかりしていると称しながら財布を取り出し、財布の中に入っている小銭を何枚か賽銭箱の中に放り込む。
大人しくてゐの賽銭箱に龍也がお金を入れたのは、てゐが齎す幸運の効果を龍也自身知っているからであろう。
ともあれ、小銭とは言え賽銭箱の中にお金が入った事で、

「えへへ……」

嬉しそうな表情をてゐは浮かべた。
そして、

「あ、そうだ。姫様達の話しが終わるまで、あっちの部屋でのんびりしてい様よ」

その様な提案をてゐは龍也に行なう。
確かに、秋姉妹と輝夜の話しが終わるまで廊下で立って待っていると言うのもあれである。
だからか、行なわれたてゐの提案を受け入れる事を龍也は決め、

「そうだな、そうするか」

決めた事をてゐに伝え、龍也とてゐの二人は永遠亭の一室に向かって行く。
向かって行った二人が永遠亭の一室に着くと、秋姉妹と輝夜の話しが終わるまで二人はそこでのんびり過ごしていった。






















永遠亭で秋の良さを広めると言う行為を終えた後、龍也達は冥界にやって来ていた。
冥界にやって来ている理由は、白玉楼へと向う為だ。
では、何故白玉楼へ向う事になったのか。
答えは簡単。
輝夜の入れ知恵だ。
どう言う事かと言うと、輝夜が秋姉妹に白玉楼にも沢山の者が住んで居ると言う事を教えたのである。
その結果が、冥界への進行なのだ。
龍也としては永遠亭でお終いと思っていたものだから、この冥界への進行は寝耳に水であった。
一応、冥界へと行く事を知った際に龍也は秋姉妹に信仰を得る対象は霊でも良いのかと尋ねたのだが問題無いと言う返答を返されている。
やはり、神に取って信仰が得られれば信仰して来る対象は問わないと言う事だろうか。
ともあれ、冥界にやって来てからそれなりの時間が経った事もあり、

「龍也さん、後どれ位ですか?」

白玉楼までどれ位かと言う事を静葉が龍也に問うて来た。

「もう少しすれば石段が見えてくるから、後少しだな」

問われた事に龍也がそう返すと、穣子と静葉は前方を見据え、

「早く着かないかなー」
「冥界には初めて来ましたけど、冥界って広いんですね」

そんな会話を交わしていく。
と言った感じで、穏やかな雰囲気の中で龍也達が進んでいると、

「オオオオォォォォ…………」

何やら呻き声の様なものが辺りに響き渡った。
響き渡った声に反応した龍也は、

「ん? 誰か何か言ったか?」

静葉と穣子に向けて何か言ったかと聞く。

「いえ、私は何も」
「私じゃないわよ」

聞かれた二柱が否定の言葉を口にした瞬間、龍也達の進行方向に一体の怨霊が現れる。

「「ひっ!?」」

それと同時に、静葉と穣子二柱は悲鳴を上げて龍也の後ろに隠れた。
自身の背後に隠れた秋姉妹に気付いた龍也は足を止めながら背後に顔を向け、

「……おい」

ジト目になりながら秋姉妹に向けて突っ込みを言葉を入れる。
入れられた突っ込みに対し、

「言ったでしょ!! 私達はそんなに戦闘力は高くないって!!」
「弾幕ごっこなら兎も角、通常戦闘となると……」

穣子と静葉は言い訳の様な事を口にした。
理由がどうであれ、神が人間の後ろに隠れると言うのはどうなのかと龍也は思いつつ、

「あーはいはい、わーったわーった。お前等の事は俺が護ってやるよ」

投げやり気味にそう言って怨霊の方へと向き直る。
通常、冥界で怨霊などに襲われた場合は霊力の解放で威圧して追い払うのが常道だ。
だが、今回は龍也の直ぐ近くに静葉と穣子の二柱が居ると言う状況。
この二柱は本人曰く戦闘力はそんなに高くないと言う事なので、龍也の霊力解放に耐えられるのかと言う疑問が残る。
仮面を出すのは確実にアウトであろう。
ならばどうするかと龍也は考えていき、

「……威嚇するか」

威嚇するかと言う結論を出して右手を怨霊に向ける。
そして、

「霊流波」

右手の掌から青白い閃光を迸らせた。
迸った閃光は怨霊の真横を通過する。
その数瞬後、怨霊は大急ぎでその場から消え去った。
どうやら、今の一撃で怨霊は龍也との実力差を完全に悟った様である。
兎も角、無事に脅威が去ったと言う事で、

「いやー、流石ね」
「龍也さんが強いと言う事は知ってましたが、これ程とは……」

隠れていた穣子と静葉が龍也の背から顔を出し、龍也を称賛する言葉を発した。
発せられた事が耳に入った龍也が秋姉妹の方に顔を向けた刹那、

「それはそうと、ありがとうございます」
「ありがとね」

静葉と穣子から礼の言葉が龍也に掛けられる。
掛けられた礼は怨霊を追い払った事に対するものではないと言うのが感じられた為、

「ん? 何がだ?」

何に対しての礼なのかと言う疑問を龍也は抱く。
龍也が抱いた疑問に答えるかの様に、

「私達の事を気遣って力を余り出さない様にしてくれたでしょ」

礼の意味を穣子から述べられた。
述べられた事を頭に入れた龍也は驚いた言う表情を浮かべてしまう。
そんな龍也の表情を見て、

「何でって顔をしてますね。私達はこれでも神です。それ位の事は解りますよ」

静葉は胸を張りながら笑顔でそう語る。
簡単に自分の心中を見抜いたのは神だからかと龍也が思ってる間に、

「ほら、早く先へ行きましょう」

何時の間にか龍也の前方に来ていた穣子が早く進む様に促して来たので、

「あ、ああ」
「はいはい、今行きますよ」

龍也と静葉は穣子に急かされる形で再び移動を再開した。






















途中で怨霊に襲われると言ったアクシデントが遭ったものの、龍也達は無事白玉楼に辿り着き、

「へぇー、ここが……」

白玉楼の大きな門を目にした事で、穣子は感嘆とした声を漏らす。

「じゃ、開けるぞ」

そんな穣子と似た様な感じで白玉楼の門に若干目を奪われている静葉に龍也はそう声を掛け、門を開いた。
門を開いて白玉楼の中に入った龍也達は庭園の方に向けて足を動かしていき、

「ここにはどんな方が住んでいらっしゃるのですか?」
「冥界の管理人の西行寺幽々子にその付き人の魂魄妖夢。後は人魂とか幽霊とかだな」
「凄い人が住んでるのね」

静葉、龍也、穣子の一人と二柱は軽い会話を交わしていく。
それから少しすると、

「あ、幽々子発見」

縁側で饅頭を食べている幽々子の姿が龍也の目に映った。
だからか、

「おーい、幽々子ー」

龍也は幽々子の名を呼び、幽々子に近付いて行く。
自身の名を呼ばれた事で幽々子は龍也の存在に気付き、

「あら、龍也じゃない」

龍也に向けて軽い挨拶の言葉を掛け、

「……服、変えたの?」

少し気になったと言う感じで服を変えたのかと言う疑問も投げ掛けて来た。

「ああ」
「前の服装も良かったけど、その服装も似合ってるわよ」

投げ掛けられた疑問に龍也が肯定の返事を返すと、似合っていると言う言葉を幽々子は口にする。

「お、ありがとな」

着ている服を褒められた龍也が礼の言葉を述べた後、

「それで、貴方がここに来た理由……貴方の後ろに居る二柱の神様が関係しているのかしら?」

幽々子から白玉楼にやって来た理由は秋姉妹が関係しているのかと聞いて来た。
聞かれた事を受けてお見通しかと龍也は思いつつ、

「ああ、実は……」

秋姉妹を白玉楼に連れて来た理由を幽々子に説明する。

「成程、それで遥々冥界までね……」

説明が終わると幽々子は納得した表情になりながら静葉と穣子の方に視線を移し、

「良いわ、折角冥界まで来てくれたんだもの。話位聞いて上げるわ」

秋姉妹の話を聞く事を決め、

「取り敢えず、ここで話を聞くのもあれだから中に入りましょ」

話は中でと言って龍也達を白玉楼の中へ入る様に促す。
そして、幽々子に促される形で龍也達は白玉楼の中に入って行った。
白玉楼の中に入った龍也達が居間に通された後、幽々子のお茶を持って来た妖夢が居間にやって来る。
だからか、秋姉妹は幽々子だけではなく妖夢にも秋の素晴らしさを伝え始めた。






















冥界と言うより、白玉楼で秋姉妹が秋の良さを広め終えてから暫らく。
龍也達は幻想郷の方に戻って来ていた。
そして、幻想郷に戻って来た龍也が秋姉妹を妖怪の山近くにまで送ると、

「今日はありがとね、龍也」
「本日はありがとうございました、龍也さん」

穣子と静葉が龍也に礼の言葉を述べる。

「別に良いって」

述べられた礼に龍也は気にしていないと言った感じでそう返す。
急ぎ足ではあったものの、龍也としても色々な所に顔を出せて中々に楽しかったのだ。
だからこその別に良いと言う返答なのだろう。
ともあれ、静葉と穣子としては世話になった龍也に何もしないと言うのはあれであるからか、

「それはそうと、最後まで御付き合いしてくださったのでお礼を差し上げますね」
「そうね。それ位はしないと神の名折れだわ」

龍也に礼をすると口にする。
その瞬間、龍也の目の前に大量の秋の珍味が現れた。
秋と言う季節にはまだまだ先だと言うのに、秋の珍味を容易く生み出したのは流石は秋の神と言ったところか。
それはさて置き、行き成り現れた秋の珍味に龍也が目を奪われている間に、

「それでは、また今度」
「またねー」

静葉と穣子の二柱は軽い別れの挨拶の言葉を龍也に掛け、妖怪の山へと帰って行った。
帰って言った秋姉妹を見送った後、

「これ……どうするかな」

大量なまでの秋の珍味をどうするべきかと龍也は考える。
玄武の力を使って土で出来た荷車の様な物を作れば運ぶ事は出来るであろうが、それでは機動性に欠けてしまう。
更に言えば戦いになった場合、この秋の珍味に被害が出るのは確実。
であるならば、ここで秋の珍味を食べると言うのが得策だろう。
だが、これを食べ切るには相当な時間が掛かるだろうと言う結論を龍也が出した時、

「ありゃ、龍也じゃん」

何者かが龍也の名を呼んで来た。
呼ばれた自分自身の名に反応した龍也は、自分の名を呼んだ者が居る方に体を向ける。
体を向けた龍也の目には、

「萃香」

伊吹萃香の姿が映った。
映った萃香の姿から、自分に声を掛けて来た者が誰であるかを龍也が理解したのと同時に、

「それにしても、この大量の食べ物どうしたの? て言うかこれ、春の食べ物って訳じゃないよね」

大量に在る秋の珍味に付いて萃香が龍也に尋ねる。
尋ねられた事は隠して置く必要も無い為、

「ああ、実はな……」

秋の珍味が沢山在る理由を龍也は萃香に説明していく。

「成程。秋の神様の御付きをしたお礼に秋の珍味を貰ったって訳か」

された説明で萃香は納得した表情になりながら秋の珍味を注視し、

「それにしても、秋の神様もサービスが凄いね。春の今の季節に、秋の珍味を大量にプレゼントだなんて」

秋姉妹もサービスが凄いと称した。
そして、萃香は龍也の方に体を向け、

「それはそうと、流石に龍也一人でこの量は食べ切れないでしょ。私が何とかして上げ様か?」

大量なまでに在る秋の珍味の消費を手伝おうかと言う提案を行なう。
行なわれた提案を受け、

「若しかして、食べるのを手伝ってくれるのか?」

食べるのを手伝ってくれるのではと考えた龍也に、

「違う違う。ここに皆を集めて宴会を開こうって言うのさ」

食べるのを手伝うのではなく、皆を集めて宴会を開くのだと萃香は言ってのけた。
皆を集める。
確かに、皆を集めてここで宴会を開けば大量に在る秋の珍味を無駄なく消費出来るだろう。
しかし、ここに皆を集めるのは結構な手間に成りそうだと言う事を龍也が口にし様とした瞬間、

「……ッ」

龍也は思い出す。
嘗て、短い期間に連続して博麗神社で宴会を開かさせると言う異変を萃香は起こした事が在った。
その際に皆を集めるのに萃香自身の能力を使ったと言う事を、異変解決時に龍也は萃香本人から聞いた事が在る。
であるならば、あの時の異変に倣う様な形で皆を集めるのかと言う結論を龍也が出した刹那、

「お、その顔は気付いた様だね。その通り。私の能力で皆を集め様って訳さ」

龍也が出した結論は合っていると言いながら自分の能力で皆を集めると述べ、

「それじゃ、早速……」

能力を発動した。
萃香が能力を発動してから幾らかすると龍也が知っている者達が集まり始める。
集まり始めた人数がそれなりの数になった辺りで、宴会が開催された。
因みに、この宴会は三日三晩続いたと言う。























前話へ                                          戻る                                             次話へ