今日も今日とで幻想郷の何所かを歩いている龍也。
日に日に結構なハイペースで暑くなって来ている事を感じていた龍也はもう少しで夏になるのかと思い、空を見上げる。
見上げた結果、雲が一つも無くて太陽がギラギラと光り輝いている事が分かった。
空の様子を見た後、今度は周囲の様子を確認するかの様に龍也は顔を動かしていく。
顔を動かして見えるものと言ったら緑生い茂る沢山の木々に無数の草や花。
少なくとも目に見える範囲には季節外れの花が咲いていると言う事は無かった為、

「もう、完全にあの異変……と言うか現象は収まった様だな」

龍也はポツリとそう呟く。
六十年周期で起こる、異変の様な自然現象。
その中身は様々な季節の花が幻想郷中に咲き誇ると言うもの。
咲き誇っている理由は六十年に一度、外の世界から大量の幽霊が幻想郷に流れ込んで来るせいだ。
流れ込んで来た幽霊が多いせいで閻魔の所に幽霊を送る死神の仕事量が許容範囲内を超えてしまい、閻魔の所に行けずに途方に暮れた幽霊達は花に憑依する事になる。
それが、幻想郷中に様々な季節の花が咲き誇る事になった原因なのだ。
ともあれ、今は季節外れの花は見られない。
映姫曰く夏になるまでには収まるとの事だったが、その通りになった様である。
若しかしたら、映姫に思いっ切り怒れられた小町が頑張ったお陰かも知れないが。
と言う様な事を思いながら足を動かしていると、

「あれは……石段か」

長い石段が龍也の目に映った。
目に映った長い石段から、博麗神社に続く石段と白玉楼に続く石段の二つが龍也の頭に浮かんだ。
が、今龍也が居る場所は冥界では無い。
よって、この石段は博麗神社へと続く石段と言う事になる。
見えている石段が博麗神社への石段である事を理解した龍也は、

「そういや……ここ最近、博麗神社には行ってなかったな」

そんな事を呟いた。
呟かれた通り、博麗神社に龍也はここ最近足を運んではいない。
まぁ、ついこの前までアルバイトをしていた事もあってか博麗神社以外にも暫らく足を運んでいない場所はそれなりにあるが。
兎も角、折角博麗神社の近くにまで来たので、

「…………よし、博麗神社に行って霊夢の顔でも見て来るか」

博麗神社に行って霊夢の顔でも見て来る事を龍也は決め、石段を上り始めた。
石段を上っている最中、龍也は常に周囲の警戒をしていたのだが、

「……おっかしーな。何時もだったらこの石段を上って行くと途中で敵意やら殺意を感じ出して、それから暫らくすると妖怪に襲われるんだけど」

幾ら上っても全く妖怪の襲撃を受ける気配が見られなかったので、一旦足を止めて少し集中しながら周囲を見渡す。
しかし、幾ら集中しても敵意や殺意処か何の気配も感じられなかった。
勿論、妖怪等の姿も。
何時もなら襲われはしなくとも妖怪の気配を感じたり姿が見えたりするものだが、今回に限ってはそれが無いのだ。
その事に付いて疑問を抱いた龍也は少し考え始めた。
考え始めてから少し経った辺りで龍也は何かに気付いたかの様に顔を上げ、

「………………気温変化でバテたか?」

気温変化でバテたのではと言う考えを零す。
ここ最近の気温の上がり方は結構なハイペースである為、気温変化に付いていけずにバテたり体調を崩したりする者が現れても不思議では無い。
理由はどうであれ、道中が平和ならそれに越した事はないからか、

「ま、道中平和ならそれで良いか」

そう結論付けながら龍也は考え事を止め、博麗神社へと続く道を見据える。
ここに来るまで妖怪の襲撃が無かったとは言え、これから在ると言う可能性は捨て切れない。
だからか、ある一定の警戒を払うのを忘れない様にと言う事を龍也は自分に言い聞かせ、

「……行くか」

再び博麗神社に向けて足を動かし始めた。






















博麗神社の鳥居の前にまで来た龍也は、

「……結局、妖怪には襲われなかったな」

ここに来るまでの道中で妖怪の襲撃が無かったと言う様な事を呟く。
一応とは言え警戒心を払っていたと言うのに、何も無かったので若干拍子抜けした気分に龍也はなりつつも、

「ま、良いや。賽銭箱に金を入れて来るか」

気持ちを切り替えるかの様に賽銭箱にお金を入れる事を決め、賽銭箱の方へと足を動かし始めた。
賽銭箱の前にまで着くと龍也は足を止めて財布を取り出し、取り出した財布の中の何枚かの小銭を賽銭箱の中に放り込む。
そして、適当に祈った後、

「さて、霊夢は……」

軽く周囲を見渡して霊夢を捜し始める。
しかし、

「……あれ?」

幾ら見渡しても霊夢の姿は見られなかった。
何時もなら霊夢はその辺で掃き掃除をしていたり、縁側でお茶を啜っていたりする筈なのにだ。
勿論外出している可能性も十分に在るが、妙な予感と言えるものが龍也の中に生じていた。
だからか、龍也は霊夢を捜す事を決めながら何歩か前に出て、

「よっ……と」

跳躍を行う。
ある程度の高さにまで達した辺りで龍也は足元に霊力で出来た見えない足場を作り、作った足場に着地して眼下全体を見下ろす。
見下ろした結果、

「……居ないな」

博麗神社近辺に霊夢の姿が無いと言う事が分かった。
なら次は外ではなく博麗神社内を捜そう考えながら龍也は霊力で出来た見えない足場を消し、降下する。
降下して地に足を付けた龍也は縁側から博麗神社の中に入り、再び霊夢を捜し始めた。
神社内を捜し始めてから少し経つと、

「……あ、霊夢」

龍也は廊下を歩いている霊夢の姿を発見する。
発見した霊夢の姿からやっぱり居たなと思ったのと同時に、龍也はある事に気付く。
気付いた事と言うのは霊夢が着ている服が何時もの巫女装束では無く、白い着物に成っていると言うもの。
更に言えばリボンも付けていないし髪も纏めていない。
若しかしたら起きたばかりなのかと言う考えが龍也の頭に過ぎった時、何かを感じたと言った様に霊夢が振り返り、

「……あ、龍也」

龍也の存在を認識した。
振り返った霊夢を見て、

「よっ。若しかして今まで寝てたのか? お前にしちゃ、珍しいな」

軽い挨拶の言葉を龍也は発する。
その瞬間、霊夢が体勢を崩して倒れそうになった為、

「おっと」

慌てて霊夢に近付き、腕を使って霊夢を支えて倒れるのを防ぎ、

「大丈夫か?」

大丈夫かと言う言葉を掛けながら龍也は霊夢の顔を覗き込む。
覗き込んだ霊夢の顔は全体的に赤く、おまけに息が荒い。
この二つの状態を見た龍也の頭にある可能性が過ぎり、確認すると言った感じで龍也は支えていない方の手を霊夢の額に乗っける。
そして、

「……熱いな」

乗っけた手から結構な熱さを感じ取った龍也は、

「……お前、風邪引いただろ」

ストレートに風邪を引いただろうと言う指摘を霊夢に行なう。
行なわれた指摘を耳に入れた霊夢は数回程瞬きをし、

「……風邪?」

つい疑問気な表情を浮かべてしまった。
まるで風邪を引いている事に気付いていない霊夢の反応を見て、

「それが風邪じゃなかったら何だって言うんだよ」

呆れた表情になりながら龍也は霊夢にそう問い掛ける。

「いや……何かダルくて体が熱くて、歩くのも億劫で咳も出るから変だとは思ってたのよね」

問い掛けられた事に答えるかの様に霊夢が今の自分の状態を語ると、

「そこで気付けよ」

呆れた表情の儘で龍也は霊夢に突っ込みを入れ、

「取り敢えず、お前は部屋に戻って寝てろ。神社の掃除とかそう言った事は俺がやっといてやるから」

博麗神社の掃除などは自分がするので部屋に戻って寝る様に言う。

「……良いの?」

自分からは何も頼んでいないのに手伝うと言ってくれた龍也に霊夢は上目遣いで確認を取りに掛かる。
取られた確認に返すかの様に、

「良いも何も、今の状態のお前を放置してはいさよなら……ってのは幾らなんでも寝覚めが悪過ぎるだろ」

手伝う事を決めた理由を龍也は霊夢に教える。

「……そう。なら宜しく頼むわ」

教えられた内容に嘘が無いのを感じた霊夢は龍也に自分の代わりに掃除などをしてくれと頼み、龍也から離れて部屋に戻ろうとしたものの、

「……あ」

また体勢を崩して倒れそうになってしまう。
が、

「っと」

倒れる前に龍也が支え、序と言わんばかりに霊夢をお姫様抱っこで抱き上げた。

「ちょ、一寸……」
「お前を一人で部屋まで移動させたら途中で倒れている光景が目に浮かぶからな。この儘、大人しく運ばれてろ」

お姫様抱っこをされて恥ずかしがっている霊夢を龍也は無視し、霊夢を霊夢の部屋まで運んで行く。
運んでいる最中に霊夢は色々と文句を言っていたが、風邪で体力が落ちているせいか文句は直ぐに無くなった。
霊夢の文句が無くなってから少しすると霊夢の部屋の前に辿り着いたので、己が足を使って龍也は襖を開いて部屋の中に入る。
部屋に入った龍也は布団が引かれている場所まで移動して、

「よっ……と」

ゆっくりとした動作で霊夢を布団の上に降ろす。
その後、

「……さて、先ずは掃き掃除でもすれば良いのか?」

最初にする仕事は掃き掃除で良いのかと言う事を龍也は霊夢に聞く。

「……うん」
「了解」

聞かれた霊夢は肯定の言葉と共にコクリと頷いたので、了承の返事をしながら龍也が部屋を出ようとした時、

「……ねぇ」

霊夢が龍也を呼び止めた。
呼び止められた龍也は足を止めて霊夢の方に体を向ける。
すると、

「……その……ありがと」

照れ臭そうな声色で霊夢がお礼を言って来た。
言われた礼の言葉に軽いものは感じられなかった為、風邪を引いているせいか素直だなと言う感想を抱きつつ、

「おう」

龍也はおうと答えて霊夢の部屋から出て行き、外に向けて足を動かし始める。






















外に出た龍也が博麗神社の周辺、及び神社に続く道を掃除し始めてから暫らく経った頃、

「おっ、龍也じゃないか」

何者かが龍也の目の前に降り立つ。
降り立った者は、

「魔理沙か」

魔理沙であった。
魔理沙の存在を龍也が認識したのと同時に、

「おっす」

魔理沙は龍也に軽い挨拶の言葉を掛け、

「霊夢じゃなくてお前が掃き掃除してるとはなぁ。今度はここでバイトでも始めたのか? でも、博麗神社じゃあバイト代は出ないと思うぜ」

龍也に博麗神社でアルバイトを始めたのかと聞く。
本来掃き掃除をしている筈の霊夢が居なく、龍也が掃き掃除をしている。
ついこの間まで色々な所で龍也がアルバイトをしていた事もあり、今度は博麗神社でアルバイトを始めたと思われても仕方が無いだろう。
ともあれ、誤解された儘でいさせる必要も無いので、

「ああ、実は……」

博麗神社で掃き掃除をしている理由を龍也は魔理沙に説明する事にした。
そして、龍也の説明が終わると、

「……成程、霊夢が風邪を引いたから龍也が掃き掃除をしてるのか」

納得したと言う表情に魔理沙はなり、

「しっかし、霊夢が風邪を引くとはねぇ。珍しい事も在るもんだ」

珍しい事も在ると呟く。
霊夢との付き合いが長い魔理沙が珍しいと呟く程、霊夢と風邪は無縁なのかと考えつつ、

「ま、ここ最近は結構なハイペースで気温が上がったりしてたからな。それで体調を崩して風邪を引いても不思議じゃないだろ」

そう口にした時、ある事を龍也は思い付いた。
思い付いた事と言うのは魔理沙にも手伝わせ様と言うもの。
とは言え、手伝わせる魔理沙の予定を龍也は知らない為、

「なぁ、魔理沙。今日は暇か?」

取り敢えず、龍也は魔理沙に今日の予定を尋ねて見る事にした。

「ああ、暇だぜ」
「ならさ、霊夢の看病をしてくれないか?」

尋ねられた事に魔理沙が肯定の返事をしてくれたからか、期待を籠める様な声色で龍也は魔理沙に霊夢の看病を頼む。

「霊夢のか?」
「ああ。汗を拭いたり寝巻きを変えたりとかさ。流石に男の俺がそれをする訳にはいかないだろ」

頼まれた魔理沙が少し疑問気な表情を浮かべると、その様な頼みをした理由を龍也は話す。
確かに、話された内容を龍也がする訳にはいかないだろう。
だからか、

「ああ、成程。確かにな。了解したぜ」

了解と言う言葉を魔理沙は発した。

「ありがとな、魔理沙。後、序にお粥とかも宜しくな」

自分の頼みを引き受けてくれた魔理沙に龍也は礼を言い、新たな頼みを行なった。

「分かったぜ」

新たな頼みも魔理沙は引き受け、博麗神社の中に入って行く。
それを見届けた龍也は、再び神社の掃き掃除を始めた。






















魔理沙が博麗神社にやって来て、魔理沙に霊夢の看病を頼んでから暫らく。
龍也は変わらずに掃き掃除をしていた。
まぁ、博麗神社は結構広いのだ。
そう簡単に掃き掃除が終わらなくても、仕方が無いだろう。
とは言え、全く終わる気配が見られないと言う訳では無い。
もう少ししたら終わるだろうと言う見立てを龍也が立てた時、

「おーい、龍也ー」

縁側を歩いていた魔理沙が龍也に声を掛けて来た。

「何だー?」
「これからお粥作るから、裏の方から薪を持って来てくれー」

掛けられた声に反応した龍也は掃き掃除を止めて魔理沙の方に顔を向けると、薪を取って来て欲しいと言う頼みを魔理沙は口にする。

「あいよー」
「それと、霊夢が薪の数が少なくなってたら補充しといてくれってさ」

口にされた頼み事に了承の返事をした龍也に、序と言わんばかりに魔理沙は霊夢からの頼みを伝えた。

「分かった」

迷う事無く龍也は霊夢からの頼みも引き受け、再び掃き掃除を中断して博麗神社の裏手へと回る。
そして、少し探すと、

「……お、見っけ」

薪が蓄えられている場所を龍也は発見し、薪の残りを確認しに掛かる。
確認した結果、

「あー……結構少ないな」

薪の残りが少ない事が分かった。
後で補充する必要性が在ると判断しながら龍也は何本かの薪を手に取り、台所へと向かって行き、

「薪、持って来たぞー」

一声掛けて台所に入る。
すると、

「ありがと。薪はその中に入れといてくれ」

下準備をしている魔理沙が礼を言いながらある場所を指でさし、そこに薪を入れる様に指示を出す。
出された指示に従って龍也が薪を指定の場所に入れると、下準備が終わったからか魔理沙は薪が入っている場所の近くに移動する。
その後、魔理沙は薪に掌を向け、

「よっと」

薪に火を点けた。
火が点いた薪を見ながら魔理沙は料理をする時、何時もこんな感じで火を点けていたなと言う事を龍也が思い出している間に、

「さて、私はこの儘お粥を作るけど龍也はどうする?」

魔理沙からこの後はどうするのかと言う問いが龍也へと投げ掛けられる。

「薪が少なくなってるから薪の補充だな」
「分かったぜ。頑張れよ」

投げ掛けられた問いに龍也がそう返すと魔理沙が頑張れと言ってくれたので、

「あいよ」

あいよと答えて龍也は台所に去ろうとしたが、ある物を見付けて足を止めてしまう。
見付けた物と言うのは幾つかの林檎。
林檎が在る事には何の不思議も無いが、林檎から擂り林檎が連想された為、

「魔理沙、序に擂り林檎も作ったらどうだ?」

擂り林檎を作ったらどうだと言う提案を龍也は魔理沙にした。

「擂り林檎か……確かに良いかもな」

された提案を魔理沙は受け入れ、擂り林檎を献立に加える事を決める。
魔理沙がお粥だけではなく擂り林檎も作る事を決めている間に、龍也は薪が置いて在る場所へと戻り、

「さて……」

軽く周囲を見渡す。
見渡して行くと丸太が置いて在る場所と斧が突き刺さっている場所を龍也は発見した。
なので、先ず切り株の上に丸太をセットして地面に突き刺さって斧を引っこ抜き、

「やりますか」

引っこ抜いた斧を構え、構えた斧を龍也はセットした丸太に向けて振り下ろす。






















丸太に斧を振り下ろし、薪を作成する作業を始めてから暫らく。
かなりの数の薪を龍也は作成していた。
これだけ薪を作れば十分かと龍也が思ったのと同時に、

「おーい、お粥と擂り林檎が出来たから運ぶの手伝ってくれー」

台所の方から作った物を運ぶのを手伝って欲しいと言う魔理沙の頼みが発せられる。

「分かったー」

魔理沙からの頼みを龍也は引き受けながら斧を地面に突き刺し、作った薪を薪入れ庫に入れ、

「さて、行くか」

台所へと戻って行く。
そして、龍也が台所に着くと、

「龍也はこっちのお粥を運んでくれ。私は擂り林檎を運ぶからさ」

龍也に運んで欲しい物を魔理沙が伝えて来た。

「了解」

伝えられた事に龍也は了承の返事をしながらお粥が入った食器を手に持つと、魔理沙も擂り林檎が入った食器を手に持つ。
その後、龍也と魔理沙は霊夢の部屋へと向かい、

「霊夢ー。生きてるかー?」

魔理沙はそんな事を言いながら霊夢の部屋へと続く襖を足で開く。
すると、

「生きてるわよ」

生きていると返しながら霊夢が上半身を起こした。
ちゃんと受け答えが出来る様だからか、

「それは何よりだぜ」

軽い笑みを浮かべながら魔理沙はそう言って部屋の中に入り、魔理沙に続く形で龍也も部屋の中に入って行く。
部屋に入った二人は霊夢の近くに腰を落ち着かせて持って来た物を床に置き、

「顔色……結構良くなったな」

上半身を起こしている霊夢の顔を龍也は覗き込み、顔色が良くなっていると呟く。

「ま、ゆっくり出来たからね」

呟かれた事が耳に入った霊夢はゆっくり出来たからだと答える。
そんな霊夢の様子から病人が良くなるのはゆっくり休ませるのが一番だなと龍也は思いつつ、

「お粥と擂り林檎持って来たんだが、食べられるか?」

持って来たお粥と擂り林檎は食べられるかと言う事を霊夢に問う。

「作ったのは私だけどな」

問うた事に補足する形で自分が作ったと言う事実を魔理沙が主張したタイミングで、

「そうね……頂かせて貰うわ」

持って来られたお粥と擂り林檎を食べると言う発言を霊夢はする。
された発言が耳に入った魔理沙は何かを思い付いたと言う表情になり、霊夢が散蓮華を取る前に自身の手で散蓮華を取ってお粥を掬い、

「風邪を引いてつらいだろ。アーンで食べさせてやろうか?」

からかう様な声色でそんな事を言い出す。

「なっ!! 一人で食べれるわよ!!」
「またまた、一人じゃ食べづらいだろ?」

言い出された事に対して一人で食べれると言う主張を霊夢は行なったが、行なわれた主張を無視する感じで魔理沙は霊夢にお粥をアーンで食べさせ様とする。
軽い言い合いの様なやり取りをしている二人を見て龍也はある事を思い付き、

「まぁまぁ、落ち着けよ二人とも」

仲裁する様に霊夢と魔理沙の間に入り、

「霊夢が嫌がってるんなら、しょうがない」

そう言いながら魔理沙の手からお粥が掬われた散蓮華を取り、

「俺がアーンで食べさせてやるよ」

自分がアーンして食べさせると言い出した。
要するに、龍也が思い付いた事と言うのは悪乗りし様と言うものだ。
魔理沙だけではなく龍也もアーンで食べさせ様として来た為、

「ちょ、一寸!! 一人で食べれるって……」

霊夢は少し慌てながら抵抗をしたが、

「良いから良いから」
「そうだぜそうだぜ」

風邪で体力等が落ちている現状では抗う事が出来ず、龍也と魔理沙の二人にアーンでお粥と擂り林檎を食べさせられる事になった。






















霊夢に食事を取らせた後、空になった食器を持ちながら龍也と魔理沙は台所へと向かっていた。
そんな中、

「そういや、俺らのご飯はどうなってんだ?」

ふと思い出したかの様に龍也は魔理沙に自分達のご飯に付いて尋ねる。

「お粥だぜ」

尋ねられた魔理沙が間髪入れずにお粥だと答えると、

「お粥か……」

少しがっかりとした様な雰囲気を龍也は見せた。
その様な雰囲気を見せたのは、お粥では余りお腹が膨れないからであろうか。
ともあれ、龍也のがっかりとした雰囲気を感じ取ったからか、

「文句を言うなよ。量だけは確保してるからさ」

量だけは確保していると言う事を魔理沙は口にする。
まぁ、お粥とは別に他の料理を作るのは手間が掛かるもの。
魔理沙がお粥以外のご飯を作らなかったのも仕方が無いと言えるだろう。
更に言えばご飯を作っていない龍也に文句を言う資格は無い。
と言う様な事を思った龍也はがっかりとした雰囲気を四散させ、

「じゃ、味付けは醤油とバターで頼むぜ」

お粥の味付けに付いてのリクエストを行なった。

「醤油とバター? 結構変わった味付けだな」
「そうか?」

されたリクエストを受けて変わった味付けと称した魔理沙に、つい疑問気な表情を龍也は向けてしまう。
幼少期の頃、風邪を引いた時に近くのコンビニで温めるだけで食べられるお粥を龍也は買っていた。
とは言えそれだけでは味気無いと感じた龍也は冷蔵庫の中を漁り、冷蔵庫の中に在った醤油とバターをお粥の中に投入。
結果、案外美味しかった。
以来、お粥を食べる時は醤油とバターで味付けをする事に龍也はしたのだ。
兎も角、自分の味付けに付いて話したので、

「そう言う魔理沙はどんな味付けをするんだ?」

龍也は魔理沙にお粥の味付けに尋ねてみた。
すると、

「私か? 私は梅干しか茸を入れるな」

魔理沙から梅干しか茸を入れると言う答えが発せられた。
お粥に梅干しを入れると言うのは良く聞くが茸を入れると言うのは聞いた事が無かった為、

「茸?」

ついと言った感じで龍也はそう聞き返してしまう。

「ああ、茸だぜ」

聞き返した事に間違いは無いからか、茸で合っている言う返事を返す。
茸入りお粥を龍也は食べた事は無いが、魔理沙が好んでいるのなら美味しいのだろうと龍也は思いつつ、

「まぁ、良いや。そう言えば、林檎ってまだ残ってるか?」

話を変えるかの様にまだ林檎が残っているのかと言う事を問う。

「ああ、残っているぜ」
「それじゃ、林檎も追加してくれ」

問われた事に魔理沙が肯定の返事をしたので龍也は林檎も追加して欲しいと頼む。

「あいよ」
「やった」

林檎の追加を魔理沙が了承してくれた事で龍也は喜びの表情を浮かべた。
そして、台所に着いた龍也と魔理沙の二人は食器洗いを始める。
それが終わると、二人は少し遅めの昼食を取り始めた。






















「……うっし、これで廊下の雑巾掛けは終わりっと」

そう零しながら、龍也は廊下を見渡していく。
昼食を食べ終わった後、龍也と魔理沙の二人は手分けをして神社内の掃除を始める事にした。
神社内の掃除をしている理由は、神社内を綺麗にして置けば霊夢の風邪も少しは早く治るのではと考えたからだ。
因みに廊下の雑巾掛けは青龍の力を使ったお陰か、大した時間を掛けずに終える事が出来た。
ともあれ、廊下の雑巾掛けを終えた龍也は、

「後はっと……」

掌全体を覆う様に水を生み出し、生み出した水を使って汚れた雑巾を洗い始める。
洗い始めてから少しすると雑巾が綺麗になったので、生み出した水球と雑巾の水分を消す。
後は消し切れなかった雑巾の水分を白虎の力を使って乾かす様に消して、掃き掃除を再開するかと言う予定を龍也が立てた時、

「おーい、龍也ー」

魔理沙から自身の名を呼ぶ声が龍也の耳に入って来た。
入って来た声に反応した龍也は魔理沙の方に体を向け、

「どうした?」

どうしたと問い掛ける。
問い掛けられた魔理沙は、

「いやさ、霊夢が風呂に入りたいって言うから風呂を沸かしてくれないか? お前なら直ぐに沸かせられるだろ」

龍也の名を呼んだ理由を話した。
話された理由から確かに自分なら直ぐに風呂を沸かせられるなと言う事を龍也は思いつつ、

「風呂を沸かすのは別に構わないけど、霊夢を風呂に入れても大丈夫なのか?」

霊夢を風呂に入れても大丈夫なのかと言う事を魔理沙に聞く。
その様な事を聞いたのは、風邪を引いている者を一人で風呂に入れると言うのに龍也が不安を覚えているからであろう。
そんな龍也の心中を察したからか、

「私が見た感じだと、顔色も大分良く成ってたから大丈夫だと思うぜ。それに、私も一緒に入るから入浴中に倒れてその儘って事は無いだろうし」

自分も一緒に風呂に入るので大丈夫だと言う事を魔理沙は口にした。
魔理沙が霊夢と一緒に風呂に入るのならば心配は無いだろうと龍也は判断し、

「了解。じゃ、代わりにこれを片付けて置いてくれ。一寸だけ濡れてるけど、これ位なら直ぐに乾くだろうし」

了承すると言う言葉と共に龍也は雑巾の片付けを魔理沙に頼む。

「分かったぜ」

頼まれた事に魔理沙が了承の返事をして雑巾を受け取ると、龍也は湯殿へ向けて移動を開始する。
そして、湯殿に着くと龍也はジャケットを脱いで肩に掛けながら浴槽に右手を向け、

「そら」

向けた右手の掌から水を放つ。
放たれた水はそれなりの出力で放った為、直ぐに浴槽は水で一杯になった。
浴槽が水で一杯になったのと同時に龍也は水を放つの止めて自身の力を変える。
青龍の力から朱雀の力へと。
それに伴い、龍也の瞳の色が蒼から紅へと変化する。
無事に力の変換が完了した後、龍也は水の中に手を突っ込み、

「よっと」

突っ込んだ手から炎を生み出す。
すると、当然の様に水が温まり始める。
ある程度温まった辺りで龍也は炎を生み出すのを止め、

「うーん……こんなもんかな? 風邪を引いてる時はぬるま湯が良いって聞くし」

今現在のお湯の温度を確認しながらこれ以上温めるかどうかを思案している間に、

「お。もう沸いたのか」
「便利よねぇ。あんたの能力」

魔理沙と霊夢が湯殿の中に入って来た。
二人が入って来た事に気付いた龍也がお湯の中から手を引っこ抜き、魔理沙と霊夢の方に体を向けた時、

「んー……温くない?」

浴槽に張られているお湯に霊夢は手を突っ込み、温いのではと言う言葉を呟く。

「風邪を引いてる時はぬるま湯が良いって聞いた事が在ったからそうしたんだけど……駄目だったか?」
「……まぁ、良いわ。温かったら温めて貰えば良いだけだし」

呟かれた内容を受けて龍也が温くした理由を説明した瞬間、温かったら温めれば良いと言いながらお湯から手を引っこ抜いて霊夢は龍也の方に顔を向ける。

「つまり……」
「外に出て火の管理をしなさい」

自分の方に向いてきた霊夢の顔を見た龍也が何かを察したのと同時に、霊夢から龍也に外で火の管理をする様にと言う指示が出された。
出された指示は予想出来ていたからか、特に驚く事無く、

「へいへい」

龍也は了承の返事をする。
風邪を引いてる事だし、その程度の我侭位は快く引き受けてやろうと言う気持ちで。
その後、ジャケットを着直して龍也が湯殿を出ようとした刹那、

「あ、そうそう」
「一つ言い忘れてた事が在ったぜ」

何かを思い出したと言う様な表情になりがら霊夢と魔理沙は龍也の方に体を向け、

「覗かないでね」
「覗くなよ」

覗かない様にと言った忠告を二人は行なう。
もし覗いたら夢想封印とマスタースパークが飛んで来る事を容易く予想出来る為か、

「はいはい、分かってるよ」

分かっていると返しながら龍也は今度こそと言った感じで湯殿を後にした。






















龍也が湯殿を後にしてから少し経った頃。

「一寸、温いわよー」
「もう一寸熱くしてくれー」
「へいへーい」

霊夢と魔理沙からのお湯を熱くする様にと言う指示に応えるかの様に、竹筒を使って火に空気を送り込む龍也の姿が在った。






















霊夢が風邪を引き、龍也と魔理沙が代わりに掃除をしたり看病したりと言った事をしてから次の日。
龍也と魔理沙の看病が良かったのか、霊夢は見事全快した。
しかし、

「ヘックシュン!!」
「……クシュン!!」

全快した霊夢の代わりと言わんばかりに、龍也と魔理沙の二人が風邪を引いてしまったのだ。
看病された者が治り、看病していた者が風邪を引くと言うのはある種のお約束をしてしまったのである。
兎も角、そんな龍也と魔理沙は博麗神社のある一室で並べられた布団で横になっている状態だ。
只布団の上で横に成って寝ているのも暇だなと言う事を二人が思っていたら、

「お粥と擂り林檎持って来たわよー」

霊夢が二人分のお粥と擂り林檎が入った食器を大き目のお盆に乗せ、部屋に入って来た。

「お、ありがとな」

態々ご飯を持って来て霊夢に龍也が礼を言うと、

「別に良いわよ。昨日は私が看病されたんだしね」

お互い様だと言う様な事を口にしながら霊夢は二人の近くに腰を落ち着かせ、持って来たお盆を床に置く。
その瞬間、何かを思い付いたと言う様な表情になりながら霊夢は龍也と魔理沙の顔を見ながら、

「アーンして食べさせて上げましょうか?」

そんな事を言い出した。
言い出された事に対し、龍也と魔理沙は、

「一人で食えるわ!!」
「一人で食えるぜ!!」

一人で食べれると言う主張を少し大き目の声でそう主張する。
が、

「あら、風邪を引いててつらいでしょ? 遠慮をするものじゃないわ」

残念ながら霊夢は二人の主張を受け入れなかった。
自分達の主張を受け入れなかった霊夢の表情を見た龍也と魔理沙は、同時にある事を思う。
こいつ、昨日の事を根に持ってやがると。
まぁ、因果応報とも言えるかも知れないが。
ともあれ、風邪を引いて体力が落ちている龍也と魔理沙では霊夢に抗う事は出来ず、

「はい、アーン」

霊夢からアーンでお粥と擂り林檎を食べさせられる事になる。
こうして、風邪を引いてしまった龍也と魔理沙の二人は霊夢に看病されながらその日を過ごす事になった。























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