風邪を引いた霊夢の看病をしたり、霊夢の代わりに掃除や雑事などをした龍也と魔理沙。
その次の日には龍也と魔理沙が風邪を引いてしまい、全快した霊夢に二人は看病される事になった。
それからまた次の日の朝。
博麗神社の居間で、

「魔理沙、醤油取って」
「はいよ」

龍也が魔理沙に醤油を取ってくれと言う頼みをすると、はいよと言う言葉と共に魔理沙は龍也に醤油を手渡す。
手渡された醤油を受け取った龍也が焼き魚に醤油を掛け様とした時、

「龍也」

霊夢が龍也に声を掛けて来た。

「ん?」
「お醤油を掛け終わったら、次は私に回して頂戴」

掛けられた声に龍也が反応すると、次は自分に回して欲しいと言う頼みを霊夢は口にする。

「あいよ」

された頼みに龍也は了承の返事をし、焼き魚に醤油を掛けていく。
居間で霊夢と一緒に朝食を食べている事から分かる様に、龍也と魔理沙は見事全快していた。
勿論、二人の看病をしていた霊夢が再び風邪を引いたと言う事も無い。
無事、全員が健康な状態で朝を迎えられたのである。
ともあれ、焼き魚に醤油を掛け終わった龍也は、

「二日振りだな。お粥以外の物を食べるの」

醤油を霊夢に渡して焼き魚を口に運び、そんな事を呟く。

「そうだな。そのせいか、何時もより美味しく感じるぜ」

呟かれた事が耳に入った魔理沙はそれに同意しながら漬物を食べる。
龍也と魔理沙がお粥以外の食べ物を食べるのは二日振りだと言ったからか、

「それはお粥以外を作るのを面倒臭がったせいでしょうに」

焼き魚に醤油を掛け終わった霊夢は若干呆れた表情を浮かべながらそう指摘し、白米を箸で摘まむ。

「そう言うお前さんは違うのかよ」

された指摘を受けて魔理沙が霊夢は違うのかと聞くと、

「……ま、違くはないけどね」

聞かれた事を否定せずに霊夢は白米を食べ、味噌汁を啜る。

「何だ、霊夢も一緒じゃないか」
「まぁ、また別に作るのも面倒臭いしな」

霊夢から否定の言葉が出なかったので魔理沙が霊夢も一緒だと称すと、龍也からお粥を作った後に別の料理を作るのは面倒だと言う様な発言が発せられた。
その発言にはまるで自分もお粥を作ったと言う様な意味も含まれていると感じられたからか、

「一寸待て。お前は作ってないだろ」

魔理沙は反射的にその様な突っ込みを龍也に入れる。

「同意する位は良いだろ」
「まぁ、それは良いけどな。てか、龍也って料理とか全然作れそうに無いけど……どう何だ?」

入れられた突っ込みに龍也がそう返した時、龍也は料理を作れるのかと言う問いが魔理沙から投げ掛けられた。

「失敬な。切る焼く位は出来るぞ」
「……それは料理が出来ると言えるのかしら?」

投げ掛けられた問いに龍也がそう答えたタイミングで、疑問気な表情を浮かべながら霊夢は首を傾げてしまう。
確かに、切る焼くが出来る事と料理が出来るを完全なイコールで結べるかと言われたら首を傾げてしまうのも仕方が無い。

「出来るって言っても切る焼く位だろ……まさか、米を石鹸で洗うって思ってたりは……」

首を傾げた霊夢に続く様な形で切る焼くが出来るだけで料理が出来る事になるのかと言う疑問を魔理沙は抱きつつ、米の洗い方に付いての話を出す。

「流石にそれはねーよ」
「だよなー」

出された話に龍也が米を石鹸で洗う事は無いと断言すると魔理沙は笑いながらそう言う。

「てか、幻想郷じゃ米を石鹸で……って言うんだな」

魔理沙が言った事に付いて少々気に掛かった龍也が米を石鹸でと言う部分に言及した時、

「あら、外の世界じゃ違うの?」

外の世界では言い方が違うのかと言う事を霊夢が尋ねて来た。

「ああ、外じゃ米を洗剤で……って言うな」
「洗剤……ああ、あれね」

尋ねられた事に対する答えを龍也が述べた瞬間、洗剤と言う単語に覚えが在ると言う事を霊夢は零した。

「何だ、洗剤ってこっちにも在るのか?」
「ええ。偶に幻想入りして来たりするからね」

霊夢の反応から幻想郷にも洗剤が在るのかと思った龍也に、霊夢は偶に洗剤が幻想入りして来たりする事を教えつつ、

「でも、あれって環境に悪いんでしょ?」

洗剤は環境に悪いのだろうと言う疑問を龍也へと投げ掛ける。

「ああ……そうだな」

投げ掛けられた疑問に洗剤が原因で起きた環境破壊が載っていた新聞記事の内容を思い出しながら龍也は肯定の返事を行なうと、

「余りにもしつこい汚れとかが在る場合は洗剤を使ったりもするけど、環境への悪影響が在るから使った後の水の処分に困るのよね」
「その時は私がマスタースパークで消し飛ばしているけどな」

洗剤を使った際の水の処理に困ると言う事を霊夢は漏らし、それに続く様にして洗剤入りの水はマスタースパークで消すと言う事を魔理沙は話す。

「あ、それなら安全か」

洗剤入りの水をマスタースパークで消し飛ばすのなら環境破壊の心配も無いと龍也が思った刹那、

「だからと言っても進んで使おうとは思わないけどね。正直、多少の汚れなら石鹸でも間に合うし」

幾ら洗剤を安全に処理出来る方法が在っても進んで洗剤を使う気は無いと霊夢は口にした。

「そうしとけ」

霊夢が口にした洗剤を進んで使う気は無いと言う主張に龍也は賛成しながらお茶を啜る。
そして、様々な雑談をしながら三人は箸を進めていった。






















朝食を食べ終えた三人が縁側でお茶を啜り、それから暫らく経った頃。
博麗神社の外で、

「じゃ、そろそろ行くな」

そろそろ行くと言う言葉を龍也は霊夢に伝えた。
そんな龍也に続く様にして、

「なら、私もそろそろ行くかな、一日余計に潰しちまったし」

魔理沙もそろそろ行くと言って箒に腰を落ち着かせる。

「何だ、何か予定でも在るのか?」
「ああ。寝込んでる間に新しい魔法薬の配合を思い付いてな。その材料となる茸を採りに行く積りだ」

箒に腰を落ち着かせた魔理沙を見た龍也が予定でも在るのかと聞くと、これからする事を魔理沙は口にした。
それを聞いた霊夢は、

「なら、今度来る時は食用の茸でも持って来てくれるかしら?」

今度来る時には食用の茸を持って来てと言う頼みを魔理沙に行なう。

「おう、良いぜ。どうせ近い内に宴会をするだろ。その時に纏めて持って来てやるよ」

行なわれた頼みを魔理沙は快く引き受けながら龍也の方に顔を向け、

「つー訳だから、お前はここ暫らくは見付け易そうな場所に居ろ」

見付け易い場所に居ろと言う言葉を龍也に掛けた。

「行き成りだな、おい」
「しょうが無いだろ、お前は幽香と一緒で全然居場所が掴めなくて宴会に誘えないって事が多々在るんだから。幽香は夏の間は太陽の畑に居る事が殆どだけどよ、
お前は春夏秋冬と一年中何所に居るか分からないだろ。幽香よりもお前の方が性質が悪いぜ」

掛けられた言葉に龍也はその様な突っ込みを入れたが、魔理沙からそう返されてしまった為、

「……まぁ、一年中居場所が掴めないって言われても否定は出来んな」

つい押し黙りながらそう呟いてしまう。
魔理沙が返して来た事に否定出来る要素が無い以上、押し黙ってしまうのも仕方が無い。
ともあれ、今度開く宴会に龍也を誘う事は決定事項であるからか、

「と、言う訳だからここ暫らくは見付け易い場所に居ろ」

改めてと言った感じで魔理沙は龍也に見付け易い場所に居ろと口にした。
宴会に参加するのに不満が無い事もあり、

「わーったよ、出来るだけ努力する」

ここ暫らくは見付け易い場所に居る様に努力すると言った事を龍也が述べる。
すると、

「ならば良し」

そう言ってのけながら魔理沙は笑顔になり、

「それじゃ、まったなー」

またなと言い残して高度を上げ、博麗神社から去って行った。
去って行った魔理沙を見送った後、

「宴会は人数が多ければ盛り上がるしね。魔理沙は賑やかなのが好きだし、諦めなさい」

半ば強制的に宴会参加を決められた龍也に霊夢がその様に言って龍也の肩に手を置いた刹那、

「そう言う霊夢も騒がしいの、結構好きだろ?」

龍也から霊夢も騒がしいのが好きだろうと言う指摘が入る。
入れられた指摘を受けた霊夢は、

「……ま、否定はしないわよ」

少し気恥ずかしそうになりながらそう呟いて龍也の肩から手を離し、

「んー……私はそろそろ掃き掃除を始めるけどあんたはどうする?」

上半身を伸ばしながら自分の予定を伝え、龍也の予定に付いて聞く。

「さっき言った通り、俺も行くよ」

聞かれた事に対する答えを返しながら龍也は前に出る。
そして、

「そ。それじゃ、またね」
「ああ、またな」

龍也は霊夢と軽い挨拶を交わし、博麗神社を後にした。






















博麗神社を後にしてから暫らく経った頃。
幻想郷の何所かに在る草原を龍也は歩きながら、

「しっかし、平和だなー」

そんな台詞を龍也は呟いた。
博麗神社から今居る場所に来るまで、妖怪などの襲撃を龍也は一度も受けなかったのだ。
今まででならば一度や二度の襲撃を受けたりするのに、今回に限ってはそれが無い。
平和だと呟いても仕方が無いだろう。
と言った感じで平和を満喫する様に足を動かしている龍也に、

「龍也さん」

何者かが声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した龍也は足を止め、声が発せられたであろう方に体を向ける。
体を向けた龍也の目には、

「椛」

椛の姿が映った。
目に映った者の姿から自分に声を掛けた者が椛であると龍也が認識したタイミングで、

「こんにちは、龍也さん」

椛からあいさつの言葉を掛けられる。

「ああ、こんにちは。椛」

掛けられた挨拶に反応した龍也も椛に挨拶の言葉を掛け、

「こんな所で会う何て珍しいな」

こんな所で会うのは珍しいと言う事を口にした。
今現在龍也と椛が居る場所の近辺、もっと言えば目に見える範囲に妖怪の山は無い。
妖怪の山で暮らしている椛と妖怪の山から離れた場所で会ったら、珍しいと言う言葉が出て来るのも当然と言えるだろう。
ともあれ、珍しいと言う言葉に否定する部分は無かったからか、

「ああ、実はですね……」

ここに来た理由の説明を椛は始める。
曰く、今日は休みなので友達の河童であるにとりと大将棋をし様とにとりの家に行った。
しかし、幻想入りした外の世界の機械を弄るのに忙しいと言う様な事が書かれた紙がにとりの家のドアに貼られていたとの事。
なので邪魔をしてはいけないと思った椛は妖怪の山から出て適当に散歩をする事にした。
その最中に龍也を見付けたので声を掛け、今に至ると言う訳だ。
一通り説明を終えた椛は何かを思い付いたと言う表情になり、

「あ、龍也さん。今暇ですか?」

何処か期待を籠めた目で龍也にそう尋ねた。

「え、ああ。暇だけど……」

尋ねられた龍也が暇である事を肯定すると、椛は目を輝かせながら龍也へと詰め寄り、

「じゃあ、私と大将棋をしましょう!!」

自分と大将棋をし様と言う提案を行なう。

「いや……別に良いけど、俺は大将棋のルールは知らないぞ。普通の将棋なら出来るんだけど……」

行なわれた提案に龍也はするのは構わないが自分は大将棋のルールを知らず、普通の将棋のルールなら知っていると言う様な事を口にすると、

「じゃあ、普通の将棋をしましょう」

ならば普通の将棋をし様と言いながら椛は将棋盤と将棋の駒を盾の裏側から取り出した。
取り出されたそれ等を見て盾の裏側に収納していたのかと言った感じで龍也が驚いている間に、椛は将棋盤に駒をセットしていく。
そして、セットが終わると椛が正座をしたので龍也も正座をし、

「「よろしくお願いします」」

一礼した後、二人は将棋を始めた。






















将棋を始めてから幾らか経った頃、

「だあ!! また負けた!!」

また負けたと言う台詞が龍也の口から発せられた。
龍也と椛は対局を五回行なったのだが、その五回全てが龍也の負けで終わったのだ。

「まぁ、大将棋とかをずっとやってますからねぇ……」

五回全て負けてしまって幾らかショックを受けている感じの龍也に、椛はそう言いながら頬を掻く。
確かに、将棋歴が相当長いであろう椛に龍也が将棋で勝て言うのは無理が在ったのかもしれない。
とは言え、全敗と言う事実は変わらないからか、

「つっても、あそこまで手も足も出ないとなぁ……」

そう呟きながら落ち込んだ様に龍也は肩を落とす。
そんな龍也を見て、

「あ、でも龍也さんは将棋のセンスが有りましたよ」

慰めるかの様に将棋のセンスが龍也には有ると言う事を椛は述べる。

「……あんがとよ」

述べられた事に龍也は礼を言いながら気分転換をするかの様に上半身を伸ばし、

「しっかし、結構長い時間将棋をやってたから体が少し硬くなったな」

体が少し硬くなっている事を零した。
すると、

「でしたら、これから体を動かしませんか?」

椛から体を動かさないかと言う提案がされる。

「体を?」
「ええ、久しぶりに私と手合わせをしませんか?」

された提案を受けて疑問気な表情になった龍也に向け、体を動かすと言った意味を椛は説明する。
椛との手合わせは久し振りになるからか、

「そうだな。久しぶりにやるか」

乗り気な様子を見せながら龍也は了承の返事をした。
その後、将棋盤と将棋駒を龍也と椛は片付け、

「それじゃ……」
「ええ」

片付けが終わると二人は立ち上がり、同時に間合いを取る。
間合いを取った椛が太目の刀と紅葉のマークが入った丸い盾を装備すると、龍也は自身の力を変えた。
朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から紅に変わったタイミングで、両手から炎の剣を生み出して龍也は構えを取った。
構えた龍也に応える感じで椛を構えを取り、

「「………………………………………………」」

ジリジリと二人は間合いを詰めて行き、

「「ッ!!」」

ある程度二人の間合いが詰まった辺りで龍也と椛は同時に駆け、中間地点で互いが右手に持っている得物を振るう。
振るった得物は当然の様に激突し、周囲に激突音が響き渡って衝撃波が発生する。
響き、発生したそれ等を無視しながら二人は鍔迫り合いをする様な形になった。
少しの間その状態を維持していたが、状況を変えるかの様に、

「しっ!!」

龍也は左手の炎の剣による刺突を椛に向けて繰り出す。
しかし、

「甘い!!」

繰り出された刺突は椛には読まれていた様で、刺突が来るであろう場所に椛は盾を向かわせた。
すると、こちらも激突して周囲に激突音を響かせて衝撃波を発生させる。
炎の剣と太目の刀に続き、炎の剣と盾による激突も二人は維持する事にした。
それから暫らくは激突している状態を維持していたが、

「「ッ!!」」

唐突に激突状態を中断させる様に二人は同時に後ろに跳んで間合いを取る。
間合いを取っている時、まだ体勢が整っていない隙を突くかの様に椛は弾幕を放つ。
放たれ、迫り来る弾幕を見た龍也は強引に両脚を伸ばして地に足を着け、

「はあ!!」

両手を伸ばしながら二本の炎の剣を柄頭を合わせて回転させ、炎の盾を作り出す。
作られた炎の盾に椛の弾幕は次々と命中していった為、放たれた弾幕が龍也の体に当たる事は無かった。
と言った感じで炎の盾で椛から放たれる弾幕を防ぎ切ってから少し経った頃、弾幕が炎の盾に当たる感触を龍也は感じなくなる。
この事から、椛からの弾幕が止んだと判断した龍也は炎の盾を二本の炎の剣に戻す。
そして、椛の姿を捜そうとした刹那、

「ッ!?」

背後から何かの気配を龍也は感じ取り、慌てて背後へと振り返る。
振り返った龍也の目には、

「はあ!!」

刀による刺突を繰り出して来ている椛の姿が映った。
繰り出された刺突が龍也の体に命中する直前、

「くっ!!」

反射的と言った動作で龍也は左手の炎の剣を盾の様に構え、繰り出された刺突を炎の剣の腹で防ぐ。
取り敢えず背後からの一撃を龍也は何とか防いだものの、龍也の体勢は万全とは言い難い。
その事に気付いた椛は龍也に体勢を立て直す隙を与えまいと言う様に、連撃を繰り出した。
繰り出された連撃と言うのは猛スピードで放たれる刺突。
宛ら突きの雨と形容出来そうなそれを、龍也は後ろに下がりながら二本の炎の剣を使って防いでいく。
攻める椛に守る龍也と言う状況になっている中、あるチャンスを龍也は待っていた。
チャンスと言うのは椛がこの攻防を一変させる様な行動を取って来ると言うもの。
椛頼りのチャンスの待ち方ではあるが、そのチャンスが来る事を龍也は確信していた。
辛抱強くチャンスが来るのを龍也が待ち始めてから幾らか経った頃、ついにそのチャンスが到来する。
連続で刺突を繰り出すと言う攻撃を椛は突如として止め、盾を突き出すと言う攻撃に切り替えて来たのだ。
突然攻撃方法が変わる。
普通であれば虚を突かれた事で反応が遅れたり防御方法が同じだったり、何も出来なかったりと言う事態なるであろう。
そう、普通であれば。
椛が攻撃方法を変えて来るのは龍也に取って予想済みの事であった為、欠片も動揺した様子を見せずに龍也は蹴りを放つ。
放たれた蹴りは突き出された盾と激突し、大きな激突音と衝撃波が発生する。
そんな中、

「なっ!?」

ついと言った感じで椛は驚きの表情を浮かべてしまう。
どうやら、盾の突き出し攻撃に龍也が反撃して来るのは椛に取って予想外の事であった様だ。
驚いている椛から僅かとは言え隙を感じ取った龍也は、

「はあ!!」

蹴りを放っている足の裏から炎を放つ。
放たれた炎は盾を押し返すだけには留まらず、盾処か椛までも呑み込んだ。
放った炎が椛を呑み込んでから少しすると龍也は炎を放つのを止める。
すると、

「なっ!!」

炎で呑み込んだ椛の姿は無く、盾だけが地面に転がっている事が見て取れた。
見て取れた光景から避けられたと判断した龍也が慌てて椛を捜そうとした刹那、

「ッ!!」

上空から何かの気配を龍也は感じ取り、咄嗟に顔を上に向ける。
上空に顔を向けた龍也の目には刀を両手で持ち、両手で持った刀を振り被りながら急降下して来ている椛の姿が映った。
急降下している椛は龍也に気付かれた事に驚くも、それも一瞬。
直ぐに表情を戻し、

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

気合を入れながら椛は力を籠めて刀を振り下ろす。
振り下ろされたそれを見て、回避行動は間に合わないと判断した龍也は二本の炎の剣を頭上に持って行き、

「ぐうっ!!」

二本の炎の剣で椛の斬撃を受け止める。
受け止めた際の衝撃で龍也の足が地に沈み、地面に罅が生じた。

「ぐううぅぅ……」

何とか堪えているものの、この儘では押し切られると感じた龍也は両腕に力を籠め、

「だあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

気合が入った声を上げながら二本の炎の剣を振り切って椛を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた椛が体を回転させながら体勢を立て直している間に龍也は二本の炎の剣を合わせて一本の炎の大剣を作り、

「しっ!!」

空中で体勢を立て直している椛が着地するであろう地点を予想し、予想した地点に向けて駆ける。
駆けている最中に椛が予想した地点に着地したので龍也は軽い笑みを浮かべ、一気に加速して炎の大剣の振るう。

「くっ!!」

振るわれた炎の大剣に反応した椛は咄嗟に刀で防御したものの、着地したばかりと言う事もあってか体勢を崩してしまった。
その隙を龍也は見逃さず、畳み掛けると言った感じで龍也は炎の大剣を嵐を思わせる様な勢いで振るっていく。
次から次へと振るわれて来る炎の大剣を、

「くうっ!!」

椛は刀で防いでいくも、押させる様な形でどんどんと後ろに下がって行ってしまう。
攻める龍也と守る椛。
奇しくも、先程とは逆の状態になっていた。
重く、速い攻撃を何度何度も受け止めていたせいか、

「しまっ!!」

遂に椛が体勢を崩してしまう。
それを見た龍也は決着を着けるかの様に炎の大剣を大きく振り被り、振り下ろす。
しかし、

「外した!?」

龍也の一撃は外れてしまった。
何故外れたのか。
外れた事に対する答えは、椛にある。
どう言う事かと言うと、体勢が崩れた勢いを利用して椛は地面を転がって回避行動を取ったのだ。
決着を着ける為の一撃を避けられた事で大きな隙を龍也が見せている間に椛は立ち上がり、

「はあ!!」

隙有りと言わんばかりの勢いで龍也に向けて刀を振るう。
刀が振るわれた事に気付いた龍也は反射的に後ろへ跳ぶも、

「痛ッ!!」

完全に避け切る事が出来ず、腹部を僅かに斬られてしまった。
斬られた事に気付いた龍也は地に足を着けたのと同時に超速歩法を使って椛から距離を取り、腹部に手を当てて掌を見る。
すると、血が掌に付着している事が分かった。
と言っても付着している血の量は大して多くはなく、腹部からの痛みも気になる程でも無い。
この事から深い傷では無いと龍也は判断しながら椛の方に顔を向けると、妖力を解放しながら自分の方に突っ込んで来ている椛の姿が見えた。
突っ込んで来ている椛の姿から勝負を仕掛けに来たと思った龍也は炎の大剣を再び両手で持ち、

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

霊力を解放しながら炎の大剣を振り上げる。
そして、互いが互いの間合いに入ったのと同時に、

「「はあ!!!!」」

龍也と椛は自身の得物を振るい、得物同士をぶつけ合う。
二人の得物がぶつかり合った瞬間、大きな激突音と共に衝撃波が発生した。
暫らくの間、押し切ろうと二人は力を籠めていたが、

「「ッ!!」」

突如、弾かれる様にして龍也と椛は間合いを取る。
間合いを取った二人が息を整え、それから少しすると、

「流石ですね、龍也さん。前に手合わせした時よりも、相当腕を上げましたね」

称賛する言葉を龍也に掛けて椛は戦闘体勢を解いた。

「椛も相変わらず強いな」

掛けられた称賛の言葉に龍也はそう返しながら炎の大剣を消し、力も消した。
力が消えた事で龍也の瞳の色が紅から黒に戻った刹那、

「と言うか、すみません。只の手合わせで龍也さんに刀傷を負わせてしまって」

椛は龍也に近付き、刀傷を負わせてしまった事に対する謝罪を行なう。

「これ位別に良いって。気にするな」

行なわれた謝罪に龍也は気にしていないと言う返答をしつつ、斬られ服はアリスに直して貰おうかと考えたタイミングで、

「あの……宜しければ私が傷の治療と服の修繕をしましょうか?」

椛から傷の治療と服の修繕を自分がし様かと言う提案がされた。

「今ここで?」
「はい」

今ここでそんな事が出来るのかと言う疑問を抱いた龍也に、椛は肯定の言葉と共に懐から裁縫道具と小さ目の医療キットを懐から取り出し、

「私達白狼天狗の主な役目は哨戒ですから、色々と動き回ったりします。その過程でどっかこっかに引っ掛けて着ている物が破けてしまったりって言う事が
在ったりしますからね。裁縫道具を持っているのはその為です。医療キットに関しても似た様な感じですね。哨戒と言っても戦いが在る時は在りますし」

裁縫道具、医療キットを持っている理由を説明する。

「成程」

された説明で龍也は納得した表情になり、

「それじゃ、お願い出来る?」

改めと言った感じで椛に治療と服の修繕を頼んだ。

「はい。任せてください」

頼まれた事に椛は任せろと言う返事をして、

「それでは、先ず傷の治療をしましょう。脱いでください」

先ず治療をするので龍也に服を脱ぐ様にと言う指示を出す。
出された指示に従って龍也がジャケットとシャツを脱いでいる間に、椛は医療キットの中から包帯を取り出した。
取り出された包帯の色に緑色が混ざっていた為、

「その包帯、緑色が混ざっているな」

ついと言った感じで龍也はその事に付いて口にする。
口にされた事を受け、

「この包帯……と言うより、白狼天狗に支給されている医療キットに入っている包帯には幾つかの薬草が塗り籠められているんです。効果としては止血、消毒、治癒力促進、
痛み止めと言ったものが有ります。あ、ちゃんと人間にも効果は有りますよ」

取り出した包帯がどんな物であるかの説明を椛は行ない、

「それでは、包帯を巻きますので両手を上げてください」

包帯を巻くので両手を上げてくれと龍也に言う。
そう言われた龍也が両手を上げると、椛は龍也の腹部に包帯を巻いていく。
そして、包帯が巻き終わると椛は龍也のジャケットとシャツの修繕に入る。
それと平行する様にして、椛と龍也の二人は雑談を交わしながら過ごしていった。























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