「……そろそろ焼けたかな?」

そんな事を呟きながら龍也は木の枝に刺して焼いていた魚を手に取る。
現在、龍也は霧の湖に居た。
何故霧の湖に居るのかと言うと、適当に森の中を散策していたら霧の湖に出たからだ。
その時、丁度腹が減って来ていたので龍也は魚を獲って食べる事にする。
それはさて置き、龍也の釣りの技量はそんなに高くはない。
寧ろ低いと言えるだろう。
釣りの技量の低さは、以前霧の湖で釣りをした際に龍也自身が思い知った。
釣り下手な自分がまともに魚を釣れるかどうかは疑わしいし、下手したら魚が釣れない儘日が暮れると言う事態になってしまう可能性も在る。
そう考えた龍也は釣り以外の方法で魚を獲る事を決めた。
決めた方法と言うのは青龍の力を使って湖の一部を巻き上げて回転させ、魚を飛び出させると言うもの。
これならば釣りの腕前に関係無く魚を得る事が出来るだろう。
事実、龍也はこの方法で魚を獲る事が出来たのだから。
兎も角、魚を得られた龍也は枯れ葉や木の枝を集めて朱雀の力を使って火を点けて魚を焼き始めて現在に至ると言う訳である。
ともあれ、焼けた魚を刺している木の枝を龍也は手に取り、

「いっただっきまーす」

早速と言わんばかりに焼き魚を齧り付いた。
そして、

「…………うん、しっかり焼けてるし美味い」

美味いと言う感想を龍也は零し、再び焼き魚に齧り付く。
と言った感じで焼き魚を食べ初めてから幾らかすると、

「ねぇねぇ、あたいにも頂戴」

直ぐ近くから、自分にも焼き魚を食べさせて欲しいと言う頼みが聞こえて来た。
聞こえて来た頼み反応した龍也は、

「ほらよ」

十分に焼けたと思われる魚を刺している木の枝を手に取り、手に取ったそれを声を発した者へと渡す。
渡した物を声を発した者が受け取ったのを感じ取った龍也が別の焼き魚が刺さっている木の枝に手を伸ばそうとした時、

「熱ッ!!」

熱いと訴える声が龍也の耳に入る。
だからか、何事かと思った龍也は声が発せられたであろう方に顔を向けた。
すると、

「チルノに大ちゃん?」

チルノと大妖精の姿が龍也の目に映り、

「チルノちゃん、大丈夫!?」

大妖精が涙目になっているチルノに慌てて駆け寄った刹那、

「うー……こんな物、こうよ!!」

チルノは焼き魚に向けて冷気を放つ。
放たれた冷気によって焼き魚はカチンコチンに氷り付き、

「ふふん。あたいったら最強ね」

氷り付いた焼き魚を見てチルノは勝ち誇った様な表情を浮かべて胸を張る。
そんなチルノに、

「焼き魚を氷り付けるなよ……」

ついと言った感じで突っ込みを入れながら龍也は焼き魚が刺さっている木の枝を手に取り、

「ほら、大ちゃんも食うか?」

大妖精も食べるかと問いながら、焼き魚が刺さっている木の枝を大妖精に差し出す。

「良いんですか?」
「ああ、これ位構わねぇよ」

差し出された焼き魚を見て良いのか言って来た大妖精に龍也が構わないと返したので、

「それじゃ、頂きますね」

頂くと言う言葉と共に大妖精は焼き魚を龍也から受け取る。

「あ、熱いから気を付けろよ」
「はい」

焼き魚を受け取った大妖精に龍也が軽い注意をすると、された注意を大妖精は受け入れて焼き魚に息を吹き掛けて冷まさせていく。
それを見たチルノは大妖精の方に体を向け、

「なら、あたいが氷らせて上げ様か? それならそんな熱い魚なんて一発で冷めるわ」

自分に任せれば直ぐに冷めさせられると言う主張を行なった。
された主張に対し、

「冷ますのに氷付けにするって言うのは普通しないぞ。まぁ、氷の妖精のお前ならその方が良いのかも知れないけど」

再び龍也はチルノに突っ込みを入れる。
突っ込みと言っても軽いものではあるが。
と言った感じで龍也、チルノ、大妖精の三人は少々賑やかな雰囲気の中で焼き魚を食べていった。






















焼き魚を全て食べ終えた後、

「で、お前等は俺に何か様でも在ったのか?」

少し気になったと言う感じで龍也はチルノと大妖精の二人に、何か用が在ったのかと聞く。
聞かれた事を受けてチルノは何かを思い出したと言う様な表情になり、

「そうそう!! 龍也に聞きたい事が在ったんだ!!」

龍也に聞きたい事が在ると口にし、

「話せば長くなるんだけど……」

話せば長くなると言う前置きをする。

「ほう」

長くなると言う前置きをされた事で龍也がチルノの方に体を向けると、

「筆算を覚えたあたい達に敵はなかった。どんな足し算だろうと引き算だろうと答える事が出来た」

筆算を覚えた為、足し算引き算は完璧だと言う事をチルノは語った。

「ああ、そう言えば前に筆算のやり方を教えてやったっけ」

語られた内容を耳に入れた龍也が以前、チルノと大妖精に筆算を教えた事を思い出している間に、

「そんなある時、人間を脅かしてやろうと思いながらあたいは人間の前に姿を現した」

何やら聞き捨てならない事をチルノは言ってのけたが、

「…………少し突っ込み所が在るが黙って置こう」

ここで下手に突っ込みを入れたら話が進まなくなるので龍也は黙って置く事にする。
だからか、

「そしたら、人間があたいに足し算の問題を出して来たからあたいは答えてやった」

続ける様にしてチルノは人間から出された足し算の問題を答えてやったと言う。

「ふむ」
「そしたら、その人間は驚いたのさ」

言われた事に龍也が相槌を打ったのと同時に、チルノが足し算に答えたら人間が驚いたと言う事を話す。

「そうだろうなぁ……」

話された内容を耳に入れた龍也は納得した表情になった。
妖精と言う種族の大半は頭が良い訳では無いので、足し算とは言え正しい答えを出せたら驚きもするだろう。
そんな風に驚いた人間に対する一定の理解を示している龍也の心中を余所に、

「その儘あたいの最強っぷりを教えてやろうと思ったら……」

悔しさが感じられる声色でチルノは語り続けていた。
その最中にチルノが一旦語るのを止めた為、

「思ったら?」
「何とその人間!! 新たな問題を出して来たんだ!!」

続きを語る様に龍也が促すと、チルノは拳を握り始めながらその人間が新たな問題を出して来た事を龍也に教える。

「新たな問題?」
「そう!! 3×8っていう問題を!!」

新たな問題と言う部分を受けて首を傾げた龍也に、出された問題の中身をチルノは伝えた。
どうやら、掛け算の問題を出された様だ。
出された問題の内容を知った龍也が掛け算は教えてはいなかったけと言う事を思い出している間に、

「あたいが悩んでる間にその人間、逃げたんだ!!」

チルノは悔しそうに事の顛末を述べる。
そして、

「で、この問題を大ちゃんに聞いてみたんだけど……」
「私も分からなくて」

分からなかった問題をチルノは大妖精に聞いたが、大妖精にも分からなかったと言う答えが二人から発せられ、

「それで大ちゃんと相談したら」
「龍也さんに聞こうって言う事になったんです」

そこから相談して龍也に聞くと言う結論に達した事を二人は口にした。

「……成る程。それで俺を捜して俺を見付けたら焼き魚に目が行って現在に至ると言う訳か」

口にされた事を頭に入れた龍也がそれを聞く前に自分が焼いていた魚に目が行ったのかと推察すると、チルノと大妖精はコクリと頷き、

「で、龍也。さっきの問題の答えって分かる?」

チルノから先程の答えが分かるかと言う事を尋ねられる。

「3×8だろ。答えは24だ」

尋ねられた事に対する答えを龍也が瞬時に言ったとの同時に、チルノと大妖精が尊敬の眼差しで龍也を見詰め始めた。
掛け算、それも一桁同士のものを瞬時に答えただけで尊敬されてもなと言う事を龍也は思いつつ、

「因みにこの問題は掛け算と言うんだ」

出された問題の名称をチルノと大妖精の教えると、

「「掛け算?」」

二人揃って首を傾げてしまう。
だからか、龍也はこの二人に掛け算を教える事を龍也は決め、

「簡単に言えば、足し算を簡略化させたものかな」

近くに落ちていた木の枝を手に持って地面に簡単な数式を書いていき、

「例えば、この2+2+2+2は2×4で表す事が出来るんだ」

書き込んだ数式に付いての簡単な解説を行なう。
行なわれた解説をチルノと大妖精が真面目に聞いている間に、チルノが出された問題も龍也は地面に書き込み、

「で、さっきの問題……3×8は3+3+3+3+3+3+3+3で表す事が出来るんだ」

それに対しての解説も行なっていく。

「「ふむふむ」」

どちらの解説もチルノと大妖精は真面目に聞いていたからか、

「序だ、掛け算で使う基本公式の九九と掛け算の筆算のやり方を教えてやるよ」

九九と掛け算での筆算方法を龍也は二人に教える事にした。






















「えーと……3×3が9で3×4が12で3×5が15で……」
「うーん……後半は逆にしたものばかりとは言え、81通りを一気に全部教えたのは流石に無理が在ったか?」

教えられた九九を悩みながら口にしているチルノを見て、九九を一度に全て教えたのは無理が在ったかと龍也は零す。
すると、

「大丈夫だよ、チルノちゃん。この九九って言うの全部紙に書いて置いたから」

大妖精がそう言いながら紙に書き写した九九をチルノに見せた。

「おお!! 流石大ちゃん!!」
「確りしてるな、お前」

九九が書かれた紙を見てチルノは流石だと述べ、龍也は大妖精を確りしていると称した。
その後、

「でも、龍也は良くこんな便利なものを知ってたわね。流石はあたいのライバル!!」
「ほんと、凄いですよ龍也さん!!」

チルノと大妖精の二人は改めて龍也を尊敬する目で見る。
九九を知っているだけで尊敬された目を向けられた龍也は、

「そうかねぇ……」

少し戸惑った様な表情を浮かべながら後頭部を掻く。
と言った感じで龍也が少し戸惑っている間に、

「それはそうと、これならあの人間に仕返しが出来るわね!!」

チルノはそう言いながら立ち上がり、

「行こ!! 大ちゃん!!」

大妖精に行こうと言う言葉を掛けて何所かに向けて飛んで行った。
飛んで行ったチルノを見て、

「あ、待ってよー!! チルノちゃーん!!」

大妖精も立ち上がり、慌てて飛び上がってチルノを追い掛ける。
慌しさを感じさせる様に去って行った二人見届けた龍也が、そろそろ出発し様と思いながら立ち上がった瞬間、

「……ん?」

何か音の様なものが龍也の耳に入って来た。
入って来たそれが気に掛かった龍也は耳を澄ませ、音の発生源と正体を探っていく。
探っていった結果、

「…………森の方から聞こえて来るな。それに……これは歌声か?」

音の発生源が森である事と、音ではなく歌声である事が分かった。
いや、分かった事はそれだけでは無い。
歌声がどんどんと近付いて来ている事も分かったのだ。
と言う事は、何者かが近付いて来ているも同じ。
だからか、

「………………………………」

少し警戒した様に龍也は身構え、森を見据える。
そして、

「あれは……ミスティアか」

森の中からミスティア・ローレライが姿を現した。
どうやら、近付いて来た者はミスティアであった様だ。
ミスティアの存在を認識した龍也は身構えるのを止め、ミスティアに声を掛け様とする。
その時、ミスティアが屋台を引いている事に龍也は気付く。
ここ、霧の湖で屋台でも開くのかと龍也は考えつつ、

「おーい、ミスティアー」

ミスティアに声を掛ける。
声を掛けられたミスティアは、

「ぴゃ!?」

大きな悲鳴を上げ、慌てて屋台の影に隠れてしまった。
一寸声を掛けた程度でここまで驚かなくてもと良いのにと龍也が思っている間に、ミスティアはソーッとした動作で屋台の影から顔を出し、

「……あ、何だ。龍也じゃない」

自分に声を掛けて来た者が龍也である事を知り、安心したかの様な表情になって屋台の影から完全に体を出して、

「もう、脅かさないでよね」

脅かさないでと言う文句の言葉を龍也にぶつける。

「悪い悪い」

ぶつけられた言葉に龍也は軽い謝罪を返しながらミスティアに近付いて行き、

「屋台を引いてたって事はここで開店するのか?」

この辺りで屋台を開くのかと言う事を尋ねた。

「ええ。ここでならいざと言う時にあそこから魚を獲れるし」

尋ねられた事をミスティアは肯定しながらここなら魚を獲れると言って湖に指をさす。
ミスティアの屋台で出される魚と言ったら八目鰻と言う印象がある為、

「何だ、霧の湖にも八目鰻って居るのか?」

霧の湖にも八目鰻が居るのかと言う事を龍也はミスティアに聞く。
聞かれたミスティアは少し悩んだ様な表情になり、

「うーん……居るとは思うけど何時も獲ってる場所に比べると数は少ないと思うわ」

八目鰻も獲れるには獲れるが、他と比べると獲れる数は少ない事を口にする。
口にされた事から龍也は焼き八目鰻以外の物も出す気なのかと考えた。
まぁ、ミスティアの屋台は焼き八目鰻がメインと言うだけで他の食べ物とて普通に出されているのだ。
考えた事が実行に移されたとしても、何の不思議も無い。
若しかしたら新メニューが出て来るのではと言う期待を龍也はしつつ、

「そういや、何時もは何所で獲ってるんだ?」

興味本位でと言った感じでミスティアに何時も八目鰻を獲っている場所を聞いてみる。
が、

「内緒」

可愛らしい声色で内緒と言う言葉がミスティアの口から紡がれた。
八目鰻はミスティアの屋台のメインと言える物なので、教える気は無いと言う事だろう。
八目鰻が獲れる場所に興味は在るが、教えてくれないのなら仕方がない。
だからか、

「ま、いっか」

聞いた事を龍也は頭の隅へと追い遣る。
すると、

「あ、そうだ!! 龍也、今暇?」

突如、何かを思い付いたと言う表情にミスティアはなりながら暇かと言う事を龍也に聞く。

「あ、ああ。暇だけど」
「ならさ、屋台の下準備を手伝って!!」

聞かれた龍也が肯定の返事をした刹那、屋台の下準備を手伝って欲しいと言う頼みをミスティアがして来た。

「下準備を?」
「そうそう」

頼まれた事に龍也が確認を取るとミスティアがそうだと言ったので、

「でも、何で俺なんだ?」

何故自分に手伝いを頼んだのかと言う疑問を龍也はミスティアに投げ掛ける。

「それはこれを見たからよ」

投げ掛けられた疑問に答えるかの様にミスティアは屋台の中に入り、

「確かこの辺に……」

屋台の中の下の方に在る棚を漁り始めた。
それから少しすると、

「……あ、在った在った」

何かを取り出しながらミスティアは龍也に近付き、取り出した物を龍也に見せる。
ミスティアが見せた物と言うのは、

「これは……"文々。新聞"か?」

"文々。新聞"であった。
見せられた"文々。新聞"と自分に手伝って欲しいと言う部分にどう言う繋がり在るのかと言う疑問を龍也が抱いた時、

「そう!! で、この記事を見て!!」

"文々。新聞"のある記事をミスティアは指でさす。

「これは……俺か……」

さされた記事には龍也の写真、正確に言うと朱雀の力を使って炎の剣を振り切っている龍也の写真が載っていたのだ。
見た記事からまた自分の写真を文は勝手に取ったのかと言う事を龍也が思っている間に、

「新聞に書いて在ったけど、龍也は炎以外にも水とか風とか地とかも操れるんでしょ?」

念の為と言った感じでミスティアは龍也に出来る事に付いて尋ねる。

「ああ、そうだ」
「龍也が手伝ってくれたら、下準備も大分早く終わると思うんだけど……」

尋ねられた事に龍也がそう答えると、龍也を上目遣いで見詰めながらミスティアはその様に言い、

「手伝ってくれたら今夜は只で飲み食いしていっても良いよ」

手伝ってくれた今夜の飲み食いは只で良いと言う対価を出す。
只で飲み食いと言う部分に釣られたからか、

「分かった、手伝うよ」

悩む事も無く、下準備を手伝う事を龍也は決める。
龍也が手伝いを確約してくれた為、

「やった!! それじゃ、早速お願いね!!」

全身で喜びを表現しながらミスティアは龍也の手を掴み、屋台の中へと向かって行った。






















龍也がミスティアの屋台の下準備を手伝い始めてから暫らく。
そろそろ日が暮れ始めると言った時間帯になった頃、

「こんなものか?」
「こんなものね」

下準備も終わり、龍也とミスティアはストレッチをするかの様に体を動かす。
その後、

「後は私がやるから、のんびりしていて良いわよ」

残りは自分がやるので龍也は休んでいて良いと言う言葉をミスティアに掛けた。
開店への本格的な準備ともなれば、自分が手伝っても足手纏いにしかならないなと考えた龍也は、

「分かった」

分かったと言う言葉と共に屋台から離れ、湖の近くにまで移動する。
そして、湖の近くに腰を落ち着かせて少しの間ボケーッとしていると、

「……ん?」

光る何かが龍也の目の前を通った。
通った何かが気になった龍也がそれを目で追おうとした時、

「お?」

再び龍也の目の前を光る何かが通る。
しかも、通る何かの数はどんどんと増えていっているのだ。
だからか、光る何かの一つを龍也は注意深く観察していく。
観察した結果、

「これは蛍……か」

光る何かは蛍である事が分かった。
蛍を見る機会は外の世界では無かったなと言う事を龍也が思っている間に、

「あれ……龍也?」

真横から自身の名を呼ぶ声が龍也の耳に入って来る。
入って来た声に反応した龍也は、声が発せられた方に顔を向け、

「お前は……リグル」

自分の名を呼んで来た者の名を零す。
どうやら、龍也の名を呼んだ者はリグルであった様だ。
ともあれ、ここに居る理由を龍也が尋ね様とするとリグルは何かを思い出したかの様に周囲を伺い、

「あの怖いお姉さんは?」

そんな事を龍也に聞いて来た。

「怖いお姉さん……ああ、幽香の事か」

聞かれた怖いお姉さんと言う部分を受けて永遠亭の面々が起こした異変を解決する為の道中で、リグルが幽香に苦手意識を持った事を龍也は思い出し、

「幽香なら居ないぞ。と言うか、幽香は夏の間は太陽の畑に居る事が殆どだ」

ここに幽香が居ない事をリグルに教える。
幽香が近くに居ないと言う事を知れたリグルが安心した表情を浮かべたタイミングで、

「で、お前は何してたんだ?」

何してたんだと言う問いを龍也はリグルに投げ掛けた。

「あ、この子達と一緒に一寸散歩をね」

投げ掛けられた問いにリグルはそう答えながら飛んでいる蛍に目を向ける。
蛍へと目を向けたリグルに釣られる様にして龍也も蛍へと目を向け、

「そういや、幻想郷には蛍ってどの位居るんだ?」

興味本位と言った感じで幻想郷に存在する蛍の数に付いて龍也はリグル聞いてみた。

「うーん……沢山かな。でも、どうしてそんな事を聞くの?」

聞かれたリグルは沢山と返しつつ、そんな事を聞いて来た龍也に疑問を抱く。

「いや、外の世界じゃ見た事無かったからさ」
「外の世界じゃって……龍也って外来人?」

抱かれ疑問に対して外の世界では見た事が無かったと言う情報を龍也がリグルに教えたのと同時に、リグルは驚いた表情を浮かべる。

「あれ? 言ってなかったけ?」
「うーん……聞いた事が在る様な無い様な……」

驚いたリグルの表情を見て自分が外来人なのをリグルに伝えていなかったかと言う事を龍也が零すと、過去の事をリグルは思い出そうとする。
しかし、思い出す事が出来なかった為、

「まぁ、良いや」

リグルは思い出す事を直ぐに諦め、

「それより、外の世界って蛍とか全然居ないの?」

改めてと言った感じで龍也に外の世界には蛍が居ないのかと尋ねる。
尋ねられた龍也は外に世界で過ごしていた時の事を思い返していき、

「まぁ……蛍が住める環境が少なくなって来たからなぁ。少なくとも、俺が居た地域には蛍なんて居なかったな」

自分が居た地域では蛍を見なかったと言う事を話す。

「そう……」

話された内容を頭に入れたリグルはションボリとした表情になってしまった。
蛍の妖怪であるリグルとしては、蛍の数が減っていると言うのはショックな出来事なのだろう。
見るからに落ち込んでいるリグルを見て、

「でも外の世界で見なくなった分、幻想郷には蛍が増えたんじゃないか?」

慰めるかの様に外の世界で蛍の数が減った代わりに、幻想郷では蛍の数が増えているではと言う言葉を龍也は掛けた。

「……そうかも。年々増えていってる感じがするし」

掛けられた言葉に思い当たる部分があるからか、リグルの表情から落ち込みが幾らか消える。
その瞬間、

「ん?」

真っ黒で、それなりに大きい球体が龍也とリグルに近付いて来た。
近付いて来た球体に龍也とリグルの意識が向いたのと同時に真っ黒い球体は進行を止める。
そして、真っ黒い球体が消えて中身が露になった。
露になった中身に顔を向けた龍也の目に、

「ルーミア」

ルーミアの姿が映る。
龍也がルーミアの存在に気付いた瞬間、

「ねぇねぇ。私、お腹空いてるんだけど、お兄さんを食べても良い?」

ルーミアから龍也を食べても良いかと言う発言が発せられた。
態々食べられる気は無い為、

「駄目だ」

迷う事無く龍也は駄目だと言う断りを入れる。

「えー」

断られたルーミアは思いっ切り不満気な表情を浮かべるも、直ぐに近くを飛んでいる蛍に目が行き、

「じゃあ、あそこの光ってる虫は食べても良い?」

蛍ならば食べても良いかと言う事を口にした。
すると、

「それも駄目ー!!」

大慌てでリグルが止めに入り、

「えー」
「えーじゃないよ!!」
「私、お腹空いてるのに……」
「幾ら妖怪でお腹が空いてるからって、目に付くもの全て食べ様とするのはどうなのよ?」
「どうなのかー?」
「いや、誤魔化そうとしないでよ。と言うか、龍也の時は直ぐに引き下がったのに何で私の時はこうも引き下がらないの?」
「だってお兄さんは強いし。その点、貴女なら私でもどうとでもなりそうだしさ」
「何だとー!!」

ルーミアとリグルの二人は口喧嘩を始めてしまう。
この儘では口喧嘩だけで終わらない可能性が在ると龍也は感じ、

「腹が減ってるんならミスティアの屋台で何か食って行ったらどうだ? そろそろ開店すると思うぞ」

そろそろ開店するであろうミスティアの屋台で何か食べたらどうだと言う提案を行なった。
行なわれた提案を受けたルーミアとリグルの二人は口喧嘩をピタリと止め、

「じゃあ、今日はお兄さんの奢りなのかー」

そんな事を言いながらルーミアはミスティアの屋台へと向かって行く。

「は?」

何時の間にか自分が奢ると言う事態になった事でつい間の抜けた表情を龍也が浮かべてしまっている間に、

「それじゃ、ご馳走になります」

リグルも龍也に奢って貰うのを前提しながらミスティアの屋台へと向って行った。

「おい……」

向かって行った二人を龍也は呼び止めたが、当の二人は屋台の椅子に座ってミスティアに注文していると言う有様。
だから、

「……どうしてこうなった」

龍也はポツリとそう呟き、ミスティアの屋台へと足を動かす。
結局、ルーミアとリグルの飲み食い代は龍也が払う事になったと言う。























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