幻想郷の何所かに在る草原を自由気儘に歩いている龍也。
そんな龍也の目に、

「あれは……」

大きな紅い建物が映った。
幻想郷に存在する大きな紅い建物と言ったら、紅魔館以外に在り得ない。
と言った結論に達した龍也は、

「そうか……何時の間にか紅魔館の近くに来てたんだな」

そう呟きながら軽く周囲を見渡す。
周囲を見渡した龍也は紅魔館に赴く際に良く見る景色だと言う事を思いつつ、

「折角だ。紅魔館にでも寄って行くか」

紅魔館に行く事を決め、進行方向を紅魔館の方へと変える。
それから幾らか経った頃、

「お……」

門と人影らしきものが龍也の目に映った。
十中八九目に映ったものは紅魔館の門と美鈴であろうと判断した龍也は、進行ペースを速めて紅魔館の門に近付き、

「おっす、美鈴」

軽い挨拶の言葉を口にする。
口にされた言葉に反応した人影は龍也の方に体を向け、

「こんにちは、龍也さん」

こんにちはと言う挨拶の言葉を返しながら頭を下げた。
やはりと言うべきか龍也の目に映った人影は美鈴であった様だ。
ともあれ、美鈴の近くにまで来たやって来た龍也は足を止め、

「てか、今日は普通に起きてたんだな」

美鈴が起きて門番をしているのは珍しいと言う様な事を零す。
すると、

「そんな、何時も寝てるみたいに言わないでくださいよー!!」

美鈴は両腕を振りながら心外だと言わんばかりの主張を行い、

「……それで、本日は何の御用ですか?」

話を変えると言った感じで龍也に紅魔館へとやって来た理由を尋ねる。

「用って程、大層なものじゃないさ。近くに来たから顔を見せに来ただけだ」
「そうですか。では、上がって行きますか?」

尋ねられた龍也がそう返すと美鈴が上がって行くかと聞いて来たので、

「ああ、上がらせて貰うよ」

上がらせて貰うと言う事を龍也は述べた。

「分かりました」

述べられた事を受けた美鈴が門を開こうとした刹那、

「そういや、レミリアとフランドールって起きてるのか?」

ふと思った内容を龍也は美鈴に問うてみる。

「お嬢様と妹様ですか? まだお休み中ですよ」

問われた事に反応した美鈴は門を完全に開いた後、レミリアとフランドールの二人はまだ寝ている事を龍也に教えた。
吸血鬼であるレミリアとフランドールは日が暮れ始めた辺りで起床するのが殆ど。
とは言え、日が昇り始めた辺りで起き始めると言う事が無いと言う訳ではない。
なので起きている可能性を考えてそう問うてみたのだが、その可能性は外れてしまった様だ。
となれば、レミリアとフランドールが起きてる来るのは夕方位となるだろう。
だからか、二人が起きて来るまで図書館で本でも読んでい様かと言う予定を龍也は立てる。
同時に、

「おっ、見っけ!!」

上空から明るさが感じられる声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した龍也と美鈴の二人が上空へ顔を向け様とした瞬間、

「よっと」

龍也と美鈴の間に何者かが降り立ち、

「よっ、お二人さん」

二人に軽い挨拶の言葉を掛ける。
挨拶の言葉を掛けて来た者は、

「「魔理沙」」

魔理沙であった。
降り立って来た者の正体を認識したタイミングで、

「紅魔館に何か用でも在るのか?」

龍也が魔理沙に紅魔館にやって来た理由を聞く。
聞かれた魔理沙は龍也の方に体を向け、

「ああ、明日の夜に博麗神社で宴会をする事が決まってな。そのお誘いだ」

紅魔館にやって来た理由を話す。
どうやら、以前言っていた宴会の日程が決まった様だ。
話された事を受けて思っていたよりも早くに決まったなと言う感想を龍也が抱いた時、

「でも丁度良かったぜ。お前も居てさ」

龍也も紅魔館に居て良かったと言う事を魔理沙は零し、

「ちゃんと私が言った通り、見付け易い場所に居たな」

そんな事を言ってのける。

「ま、偶然に近いけどな」

ちゃんと見付け易い場所に自分が居た事に喜んでいる魔理沙に龍也はそう返しつつ、

「で、お前はこの後どうするんだ? 他の場所にも伝えに行くのか?」

これから他の場所にも宴会開催を知らせに行くのかと言う事を尋ねて見ると、

「ああ、その積りだ。でも、その前に……」

肯定の返事と共に魔理沙は何かを言い掛けながら紅魔館に意味有り気な視線を向けた。

「その前に?」
「図書館で本を借りて行く積りだ」

紅魔館に視線を向けている魔理沙に龍也が続きを言う様に促すと、宴会開催を知らせに行く前にするべき事を魔理沙は述べる。

「……借りてく? パクッてるんじゃなくって?」
「失敬な。私は死ぬまで借りてるだけだぜ」

述べられた事に対して直ぐに突っ込みを入れた龍也に魔理沙は胸を張りながらそう返答した。
返答した魔理沙の態度が余りにも堂々としたものであったからか、

「それよか、一人忘れてないか?」

一寸した忠告の様な言葉を龍也は魔理沙に掛ける。

「忘れて……あっ」

掛けられた言葉に魔理沙は疑問を抱くも、直ぐに何かに気付いたと言う表情になりながら美鈴の方に体を向けた。
体を美鈴の方に向けた魔理沙の目には、プルプルと体を震わせている美鈴の姿が映る。
すると、魔理沙は冷や汗を流し始めた。
まぁ、魔理沙が冷や汗を流すのも無理はない。
美鈴が近くに居るのを忘れてこれからする事を魔理沙は喋ってしまったのだ。
当然、喋った内容は美鈴の耳に入っているであろう。
と言う事は、魔理沙の紅魔館への進入を防ぐのに美鈴が動くのは必至。
しかも、魔理沙と美鈴の距離は近い。
近距離戦が得意ではない魔理沙と近距離戦が得意な美鈴。
どちらに分が有るかは語るまでもないだろう。
だからか、

「よ、よぉ。美鈴……」

魔理沙は顔を引き攣らせながらそう言い、後ろへ一歩下がる。
その瞬間、

「この距離は……私の距離だ!!」

強気な台詞を美鈴は言い放ちながら魔理沙との距離を詰めに入った。
毎度毎度紅魔館の門を突破されて進入されているし、直ぐ近くで図書館から本を持って行くと宣言されたのだ。
問答無用で美鈴が魔理沙に戦いを吹っ掛けるのも仕方が無いと言えるだろう。
ともあれ、美鈴に距離を詰められてしまった魔理沙は、

「うおおおおお!? 落ち着け、美鈴!!」

焦りながらも後ろに下がり、美鈴との距離を離そうとする。
が、

「今日と言う今日は門を越えさせたりはしないぞ!!」

離された距離を美鈴は瞬時に詰め直した。
何やら追いかけっこ様なものを始めた魔理沙と美鈴を見て、近い内に接近戦込みの弾幕ごっこが始まりそうだと言う感想を龍也は抱きつつ、

「さて……」

改めてと言った感じで紅魔館の方に体を向ける。
そして、紅魔館の中へと入って行った。






















紅魔館の中に入った龍也は軽く周囲を見渡し、

「相変わらず中は紅いな」

そんな感想を漏らす。
まぁ、紅魔館から紅が消えたらそれはそれで驚きではあるが。
ともあれ、入り口からなら図書館まで迷わずに行けるので、

「さて、早速図書館へと向うかね」

龍也は図書館に向けて足を動かそうとする。
その瞬間、

「あら、いらっしゃい」

咲夜が音も無く龍也の傍に現れた。
行き成り現れた咲夜に龍也は驚くも、直ぐに時間を止めて現れた事を悟り、

「……っと、相変わらずの登場の仕方だな。お前も」

咲夜の方に体を向けてそう返す。
返された事に対し、

「あら、これ位はメイドの嗜みですわ」

時間を止めての登場はメイドの嗜みであると咲夜は言ってのけ、

「それはそれとして、貴方はこれから図書館へと向うのかしら?」

確認すると言った感じで図書館に向かうのかと尋ねる。

「まぁ……そうなるのか? 近くを通ったから顔を出しに来たんだ。レミリアとフランドールが起きるまでは図書館で暇を潰す予定」

尋ねられた龍也は少々曖昧な感じの肯定の返事をして、序と言わんばかりに紅魔館に来た理由も話す。

「成程ね。それにしても、相変わらず彼方此方を周っているのね」

話された内容を耳に入れた咲夜は納得した表情になりながら龍也を相変わらずだと称しつつ、

「まぁな」
「貴方位じゃない? こうも幻想郷を放浪してたりするのって」
「夏以外だったら、幽香も俺と同じ様に幻想郷中を回っているぞ」
「幽香……ああ、あの花の妖怪の。そう言えば、あの妖怪は夏以外の季節は貴方と同じで幻想郷中を放浪しているらしいわね」
「だろ」
「でも、貴方達以外で幻想郷中を放浪している人間や妖怪って居るのかしら?」
「あー……俺が知る限りじゃあ、見た事は無いな」
「やっぱりねぇ。そんな物好き、そんなに居るものじゃないでしょうし」
「物好きって……」
「そうじゃない。知恵や知能の無い野良妖怪って実力差を察せずに平気で幾らでも襲って来るでしょ。龍也の実力なら問題無いでしょうけど、危険な事に
変わりはないわ。あ、男の子的には危険の中に飛び込むのは望むところなのかしら?」
「まぁ……危険だからって幻想郷中を放浪するのを止める気は無いな。楽しいし」
「男の子って、皆そうなのかしら?」
「どうだろ? まぁ、幽香の場合は色んな花を見る為に幻想郷中を回っているらしいけどな」
「確か、彼女は四季のフラワーマスターって言う異名を持っているのよね。なら、花目的で幻想郷中を旅していても不思議はないか」

龍也と軽い雑談を交わしていく。
そして、雑談に一段落着くと、

「そう言えば、お昼は食べたかしら?」

咲夜からお昼は食べたかと言う問いが投げ掛けられた。

「昼? いや、まだだけど」
「だったら貴方の分も作って上げましょうか?」

投げ掛けられた問いに龍也はまだだと答えると咲夜から龍也の分も作ろうかと言う提案を行なわれる。

「良いのか?」
「ええ。そろそろパチュリー様の所へ昼食を持って行く時間だからね。その序よ」

行なわれた提案に龍也が良いのかと言う確認を取った刹那、パチュリーに昼食を持って行く序だと咲夜は答えた。
だからか、

「そっか、ありがとう」

咲夜からの提案を受け入れる様な形で龍也は礼の言葉を口にする。

「別にこれ位、構わないわ」

口にされた事に構わないと返して厨房へと足を運ぼうとした咲夜を、

「あ、一寸待って」

龍也は呼び止めた。
呼び止められた咲夜は時間を止めるのを中止し、

「何かしら?」

呼び止めた理由を龍也に聞く。

「魔理沙からの伝言……って言うのかな? それが在ってさ」
「魔理沙からの伝言?」

聞かれた龍也が呼び止めた理由を言うと咲夜が首を傾げた為、

「ああ。明日の夜、博麗神社で宴会をするってさ」

簡潔に魔理沙の伝言内容、明日の夜に博麗神社で宴会する事を龍也は伝える。

「宴会……分かったわ。お嬢様にも伝えて置くわね」

伝えられた内容を頭に入れた咲夜はレミリアにも話を通すと言った事を呟き、

「それよりも、その伝言を伝えに来た魔理沙は?」

伝言内容を伝えて来た魔理沙の所在に付いて龍也に問う。

「ああ、魔理沙なら……」

問われた事に答えるかの様に龍也が魔理沙の居場所を咲夜に教え様とした刹那、

「「ッ!?」」

外から大きな爆発音が聞こえて来た。
聞こえて来た爆発音の正体を確かめる為に龍也と咲夜の二人が外に出ようとした時、

「あー……良いのを何発か貰っちまった……」

そんな事を言いながら魔理沙が紅魔館の中に入って来て、一息吐く。
入って来た魔理沙の服は幾らかボロボロになっており、埃や泥なども少し付着している。
その様な状態の魔理沙を見てそれなりの戦いをして来たのかと言う事を龍也と咲夜が思っている間に、魔理沙は二人に気付き、

「お、良い所に居たな。実は……」

何かを口にし様としたが、

「宴会の件なら俺が伝えたぞ」

口にし切る前に龍也が宴会の件は自分が伝えた事を話した。
すると、

「何だ、そっか」

少し残念そうな表情を魔理沙は浮かべてしまう。
自分の口から宴会の事を伝えたかったのだろうか。
と言う様な予想をしつつ、

「それより、さっきの爆発音は何だ?」

先程聞こえて来た爆発音に付いて龍也は魔理沙に尋ねてみた。
尋ねられた魔理沙は懐に手を入れ、

「ああ、それはこれだぜ」

これだと言いながら一枚のスペルカードを取り出す。

「スペルーカードか?」
「そう。私の新スペルカード、魔廃『ディープエコロジカルボム』だ」

取り出されたスペルカードに龍也が目を向けている間に、魔理沙は新しいスペルカードである事を語り、

「これは私が研究の末に生み出した魔法薬型爆弾だな。威力も結構有るんだぜ」

自慢気な表情で少しだけ新しいスペルカードに付いて説明した。

「爆弾って……」
「おっと、どんな素材で作ったかは教えないぜ」

説明された中に在った爆弾と言う部分に龍也が反応を示すと魔理沙は爆弾作成に使った素材は教えないと断言する。
だからか、

「別にそれを聞く気は無いが、それよかそれを喰らった美鈴は大丈夫なのか?」

一応と言った感じで龍也は素材に付いて聞く気は無いと断言して爆弾を受けた美鈴の安否に付いて問う。

「スペルカードを通して使ったからな。其処までの威力は無いぜ」

問われた魔理沙はスペルカードを通して使ったので威力自体は無いと言いながらスペルカードを仕舞い、

「まぁ、私は上手い事爆風に乗れたが美鈴はこれの直撃を受けたからなぁ。気絶位はしてるかもしれんな」

美鈴の状態に付いて予想しながら咲夜の方に体を向け、

「色々と汚れたから風呂を借りたいんだが良いか?」

風呂を借りたいと言う要望を言い出した。

「貴方も大概図々しいわね」

言い出された内容を頭に入れた咲夜は魔理沙の事を図々しいと称するも、

「まぁ、良いわ。序だから貴女の服の洗濯と修繕もして上げましょうか?」

仕方が無いと言った感じで魔理沙からの要望を受け入れつつ、その様な提案をする。

「良いのか? それやったら結構時間が……掛からないな。お前の能力なら」

された提案に魔理沙は喰い付きながらも少し悩んだが、直ぐに咲夜の能力を思い出したからかその悩みも消え、

「それじゃ、宜しく頼むぜ」

そう言いながら魔理沙は風呂場へと向かって行った。
風呂場へと向かって行った魔理沙を見送った後、

「そう言えば魔理沙は美鈴が気絶してるって言ってたけど、放って置いても良いのか?」

気絶していると予想される美鈴は放って置いても良いのかと言う事を龍也は咲夜に聞く。

「美鈴なら後で昼食を持って行く時にでも起こすわ」

聞かれた事に対する答えを咲夜は述べ、姿を消す。
咲夜の姿が消えた事から時間を止めて移動したのだろうと龍也は考え、

「……さて、行くか」

気持ちを入れ替える様にして図書館へと向かって行った。






















紅魔館の地下に存在する巨大な図書館。
その図書館に着いた龍也は、パチュリーを捜す為に図書館内を探索していた。
パチュリーを捜している理由は顔見せと言う理由もあるが、この図書館を使わせて貰う為に許可を得ると言う目的も存在している。
ともあれ、図書館内を探索し始めてから幾らか経った頃、

「お……」

椅子に座って本を読んでいるパチュリーの姿を龍也は発見した。
なので、

「パチュリー」

そう声を掛けながらパチュリーに近付いて行く。
声を掛けられたと言う事でパチュリーは本から視線を外して龍也の方に顔を向け、

「あら、龍也じゃない。丁度良かったわ」

そんな事を言ってのけた。

「丁度良かった?」

丁度良かったと言う部分に疑問を覚えた龍也が足を止めて首を傾げてしまう。
だからか、

「ええ、話をするからそこに座ってくれる?」

その疑問を解消させると言わんばかりの表情を浮かべながらパチュリーは龍也に椅子に座る様に促す。

「あ、ああ」

促される儘にと言った感じで龍也は椅子に腰を落ち着かせた。
そして、

「で、丁度良かったって言うのは?」

龍也は何が丁度良かったのかと言う事を尋ねる。

「その前に、貴方は外来人よね?」

尋ねられた事に対する答えを言う前にパチュリーが龍也は外来人かと言う確認を取って来た。

「ああ、そうだけど」
「だったら、ロケットの事を知ってるかしら?」

取られた確認が正しい事を龍也が口にすると、ロケットに付いての話題をパチュリーが出す。

「ロケットって……あのロケットか? 宇宙まで行くやつの?」
「ええ、そうよ。知ってる?」

出された話題のロケットのと言うのは宇宙に行くやつなのかと聞いた龍也に、そうだと言いながらパチュリーは知っているかと問う。

「まぁ、一応は」

パチュリーから問われた事に少々曖昧な声色で龍也が一応と言う発言をした刹那、

「だったら教えてくれるかしら?」

身を乗り出しながらロケットに付いて教えて欲しいと言う頼みをパチュリーはして来た。

「別に良いけど……何でまた?」
「前に起きた永夜異変。あれ以来、レミィが月に興味を持ってね。尤も、直ぐに飽きたんだけど最近になってまた興味を持ったのよ。外来人の貴方なら
ロケットに付いて知ってるんじゃないかと思って聞いてみたの。調べた限りでは、ロケットと言う物は筒状の形をしているって言う事だけは分かったの
だけど……」

頼まれた事に別に良いと返すもどうしてロケットに付いて聞いて来たのかと言う疑問を龍也が抱くと、パチュリーはロケットの事を問うた理由を話す。
話された理由の中にロケットに付いてある程度は調べたと言うのが在った為、

「んー……ロケットで一般的なのは多段式ロケットかな……」

取り敢えずと言った感じでロケットの形状に付いて龍也は口にした。

「多段式ロケット?」
「ああ、多段式ロケットって言うのは……」

口にされた事に聞き覚えが無かったからかパチュリーが首を傾げてしまったので、龍也が多段式ロケットに付いて説明し様とした瞬間、

「失礼します、お昼をお持ちしました」

音も気配も無く咲夜がパチュリーの傍に現れる。
行き成り現れた咲夜に龍也が内心で驚いている間に、

「ご苦労様。そこに置いておいて」

パチュリーは咲夜に労いの言葉を掛け、軽い指示を出す。

「畏まりました」

出された指示に咲夜はそう返してパチュリーと龍也の前に昼食を置いていく。
置かれた昼食に視線を向けた龍也の目に、スパゲッティが映った。
どうやら、昼食はスパゲッティの様だ。
スパゲッティを食べるのは久し振りだと龍也が思っている間に咲夜は昼食を並べ終え、

「それでは、失礼します」

失礼しますと言う言葉と共に咲夜は音も無く消える。
それを合図にしたかの様に龍也がスパゲッティを食べる為にフォークへと手を伸ばそうとした時、

「それで、多段式ロケットと言うのは?」

パチュリーから多段式ロケットに付いての説明を求められた。
だからか、手を伸ばすのを龍也は一旦止め、

「ああ、多段式ロケットって言うのは三段で構成されているんだ」

多段式ロケットがどう言ったロケットであるかを簡単に説明する。

「三段で?」
「そう。解り易く言えば……打ち上げて、第一エンジンの燃料が空になったらそれを切り離して第二エンジンに火を着ける。そして第二エンジンの燃料も
空になったらそれを切り離して第三エンジンに火を着ける。そうやって宇宙へ上がるタイプのロケットだな」

三段で構成されていると言われても今一つピンと来ないと言う様な表情をパチュリーが浮かべたので、龍也がもう少し詳しい説明をすると、

「成程……つまり、ロケットと言うのは唯の筒で構成されているのではなくて三段の筒で構成されているのね。だから上手くいかなかったと言う訳か」

納得した言う表情になりながらパチュリーはそんな事を零す。

「その口ぶりだと、ロケットを作った事があったのか?」
「ええ。でも、作ったと言っても今じゃあ只の置物みたいな感じになってるけどね。一応、その事であの天狗の取材を受けたりもしたわ」

零された内容を受けて既にロケットを作ったのかと言う推察をした龍也に向け、その事に付いての軽い解説をパチュリーは行なう。
行なわれた解説を頭に入れた龍也は今度無名の丘の洞窟に戻ったら"文々。新聞"の記事を確認して見ようと言う予定を立てながらフォークを手に取ってスパゲッティを食べ、

「でも、ロケット何て作ってどうするんだ? 本当に月にでも行く気か?」

ロケットを作って月にでも行くのかと言う疑問をパチュリーに投げ掛けた。

「……どうかしらね」

投げ掛けられた疑問にパチュリーは少々曖昧な返答をしながらスパゲッティを食べ始め、

「でも、まだまだ時間が掛かりそうなのよね。モデルの様な物でも在れば、もう少しは早くなったりするんだろうけど」

モデルでも在れば予定よりも早くにロケットを作れるのにと言う愚痴の様なものを漏らす。

「モデルの様な物ねぇ……」

漏らされた中に在ったモデルの様な物と言う部分を受けて龍也は食べるのを止めて少し考える素振りを見せつつ、自身の力を変える。
玄武の力へと。
力を変えた事によって龍也の瞳の色が黒から茶へと変化した。
そのタイミングで龍也は掌から土を生み出し、生み出した土の形を変えていく。
すると、生み出された土はミニチュアサイズの多段式ロケットに形を変え、

「これで良いか?」

そう言いながら龍也は完成したそれをパチュリーの近くに置いた。
置かれた土製の多段式ロケットのミニチュアを見たパチュリーは少し驚いたと言う様な表情を浮かべ、

「貴方の能力、色々と応用性が高いわね」

改めてと言う様な感じで龍也の能力を応用性が高いと称しつつ、

「何か、悪いわね。気を使わた見たいで」

軽い謝罪を行なった。

「それ位別に良いって。ここの図書館は結構使わせて貰ったりしてるしさ。そのお礼代わりみたいなもんだ」

行なわれた謝罪に龍也は図書館を使わせて貰っているお礼代わりみたいなものだと返し、力を消す。
力が消えた事で龍也の瞳の色が元の黒色に戻った刹那、

「そう言う事なら、ありがたく受け取って置くわ」

それならばありがたく受け取って置くと言ってパチュリーは食事を中断して土製の多段式ロケットのミニチュアを手に取り、観察を始める。
熱心な表情で土製の多段式ロケットのミニチュアを観察しているパチュリーを余所に龍也は再びスパゲッティを食べていく。
そして、

「ご馳走様」

スパゲッティを龍也が食べ終わると、

「あら、もう食べ終えたの?」

驚きの感情が少し感じられる声色でもう食べ終わったのかと言う発言がパチュリーから発せられた。

「ああ。てか、お前もそれを見てないで食べた方が良いぞ」

発せられた発言を肯定しながら龍也はパチュリーに早くスパゲッティを食べた方が良いと言う言葉を掛ける。
確かに、何時までも出されたスパゲッティを放置する訳にもいかないので、

「それもそうね」

納得した表情になりながらパチュリーは土製の多段式ロケットのミニチュアを机の端の方に置き、

「それはそうと、貴方は本を読みに来たのよね?」

スパゲッティを食べる前に一応と言った感じで龍也にここへやって来た理由を確認しに掛かった。

「ああ」

確認された事は正しいと言う様に龍也が肯定の言葉を発した瞬間、

「小悪魔ー、一寸来てー」

パチュリーは小悪魔を呼ぶ。

「お呼びでしょうか、パチュリー様」

パチュリーに呼ばれた小悪魔が現れたのと同時に、

「龍也が本を読みたい様だから案内して上げて」

かなり簡潔な指示をパチュリーは小悪魔に出した。

「畏まりました」

出された指示を引き受けた小悪魔は龍也に近付き、

「それで、龍也さんはどんな本をご所望ですか?」

どんな本を求めているのかと問う。

「んー……小説とかそう言うのは在るか?」
「在りますよ」

問われた龍也は少し悩むも小説は在るかと言うと小悪魔から在ると言う返答が返って来た為、

「そうか。じゃあ、案内を頼めるか?」

小説が在る場所までの案内を小悪魔に頼む。

「分かりました」

頼まれた小悪魔が了承の返事をしたのを受けて龍也は立ち上がり、小説が収められている本棚に移動し様としたタイミングで、

「あ、一寸待って」

突如としてパチュリーが二人を呼び止め、

「小悪魔、本の整理は終わったの?」

本の整理は終わったのかと言う確認を小悪魔に取る。

「それでしたら、もう少しですね」
「だったら龍也を案内し終わったらお昼を食べなさい。さっき咲夜がお昼を持って来たから」

取られた確認に小悪魔がそう答えるとパチュリーは少し離れた場所に在る机の上に乗っているスパゲッティを指でさし、龍也の案内後に昼食を取る様に言う。
指でさされた方に小悪魔は顔を向け、

「あ、スパゲッティ。美味しそう」

美味しそうだと言う感想を抱き、

「それでは、龍也さんを案内した後に頂かせて貰いますね」

言われた通りに龍也の案内後に昼食を食べると口にして、

「龍也さん、私の後に付いて来てくださいね」

自分の後に付いて来る様にと言う言葉を龍也に投げ掛けて歩き出した。
歩き出した小悪魔に続く形で龍也も歩き出す。






















「……んあ?」

ふと目を覚ました龍也は数回程瞬きをし、ボーッとしている頭を覚醒させていく。
ある程度頭が覚醒した辺りで龍也は寝てしまう前までの事を思い返し始めた。
小悪魔に案内される形で本棚に小説が収められているコーナーに辿り着いた龍也は、小悪魔が昼食を取りに戻ったのを見届けた後に本棚から一冊の小説を引き抜く。
その後、本棚を背に座りながら龍也は引き抜いた本を読み始める。
それから幾らか経った辺りで急な眠気に龍也は襲われてしまった。
活字を読むのは久々であったからか疲れたのかと龍也は考えつつ、本を本棚に戻してて一眠りする事にする。
そして、つい先程目を覚まして現在に至ると言う事だ。
ともあれ、目を覚ました龍也は、

「俺、どれ位寝てたのかな?」

そう呟きながらポケットに仕舞っている懐中時計を取り出す為に左腕を動かそうとする。
しかし、

「……ん?」

動かそうとした左腕に重さを感じた為、一旦左腕を動かすのを止めて左腕に目を向けた。
目を向けた龍也の目に、

「フランドール?」

自分の左腕に引っ付いて眠っているフランドールの姿が映る。
眠っているフランドールを見てどうして自分の腕に引っ付いているのかと言う疑問を抱いたのと同時に、

「……ん?」

鈍い痛みを龍也は左腕から感じた。
感じた痛みの正体を確認する為に龍也が自身の左腕を注視すると、フランドールが自分の左腕に噛み付いている事が分かった。
いや、正確に言うと噛み付いていると言うより牙を突き立てていると言った方が正しいであろう。
兎も角、鈍い痛みの正体を知った龍也は何でこんな事をしているんだと言う疑問を抱く。
丁度その時、何かを吸い出す様な音が龍也の耳に入って来た。
何でこんな音が耳に入って来たのかと言う事を龍也は思ったが、

「……ああ、そう言えばフランドールもレミリアも吸血鬼だっけか」

直ぐに音の正体に気付く。
フランドールもそうだが、姉であるレミリアも種族は吸血鬼。
であるならば、フランドールが龍也の血を吸ったとしても不思議では無い。
だが、フランドールもレミリアも今まで龍也の血を吸ったり吸おうとした事は無かった。
だからか、何で今更と言う様な疑問が龍也の中に生じる。
そんなタイミングで、

「あ、龍也さん。起きられましたか」

近くを通り掛かった小悪魔が龍也にそう声を掛けた。
掛けられた声に反応した龍也は小悪魔の方に顔を向け、

「ああ。それよか、何でここにフランド−ルが居るか知ってるか?」

軽い肯定の返事と共にフランドールがここに居る理由を尋ねる。

「妹様ですか? 何でも早くに目を覚まされて図書館内を散歩してると寝ている龍也さんを発見し、起きるまで待つって仰られてました」

隠す必要も無いからか、フランドールがここに居る理由を小悪魔は龍也に教えた。
教えられた事を頭に入れた龍也は自分が起きるのを待っている間に寝てしまったのだろう言う推察を行なう。
すると、

「あ、それと龍也さん」

真面目な表情になりながら小悪魔が改めてと言った感じで龍也の名を呼ぶ。

「何だ?」
「その……妹様の事を嫌いにならないで上げてください」

小悪魔の表情から何か在ると感じた龍也が少し姿勢を正してそう言うと、小悪魔からフランドールの事を嫌いにならいで欲しいと言う頼みをされた。
フランドールを嫌いにならないで欲しいと言う頼み。
どうして小悪魔がその様な頼みをして来たのかが龍也には分からなかった為、

「嫌いにって……何で? 別に嫌いになる理由何て無いだろ」

つい、嫌いになる理由とは何だと言う疑問を小悪魔に投げ掛けた。

「何でって……その、龍也さんは人間ですから吸血鬼に血を吸われる事に嫌悪感を感じたりはしないんですか?」

投げ掛けられた疑問に対する答えを恐る恐ると言った感じで小悪魔が述べた瞬間、

「いや、別に」

別にと言う否定の言葉が龍也の口から紡がれる。
否定の言葉を紡いだ龍也の目から嘘は感じられなかった。
だからか、

「龍也さんって、本当に変わってますね」

小悪魔は何処か遠くを見る様な笑みを浮かべ、龍也の事を本当に変わっていると称する。

「そうか?」

変わっていると称された龍也は右手で後頭部を掻きながら良く分からないと言う様な表情を浮かべ、

「別に吸血鬼何だから血を吸う位は普通だと思うけどな」

その様な事を零しながらフランドールの方に顔を向け、

「だからフランドールは俺の血を吸う素振りを見せなかったのか」

フランドールが自分の血を吸う素振りを今まで見せなかった理由に気付いたと言う様な事を呟く。
龍也に嫌われたくないから、フランドールは今まで龍也の血を吸おうとはしなかった。
今回フランドールが龍也の血を吸っているいるのは、誰かの血を吸う夢を見ているからかも知れない。
と言う様な考察をしながら龍也は小悪魔の方に顔を戻し、

「レミリアも同じ理由で俺の血を吸わないのか?」

レミリアもフランドールと同じ理由で自分の血を吸わないのかと聞く。

「いえ、お嬢様は契約の証として吸血をしたい様です」

聞かれた事に小悪魔は否定の言葉と共にどう言う状況下で龍也の血を吸いたいのかを話す。

「契約の証?」
「はい。龍也さんを自分のものにした時にその契約の証としてって仰られていました」

話された中に在った契約の証と言う部分を聞いた龍也が疑問気な表情を浮かべてしまったので、契約の証の部分に付いて小悪魔は簡単に解説した。

「成程」

された解説で納得した表情になりつつ、もしその時が来たら結構な量の血を吸われそうだと言う事を龍也は予想しつつ、

「……今思い出したんだけど、吸血鬼に血を吸われると吸われた対象も吸血鬼になるって話を聞いた事が在るんだけど本当か?」

今思い出した事を小悪魔に問う。

「確かに、吸血鬼が吸血した対象を吸血鬼にしたりグール……まぁゾンビですね。そう言った存在にする事は出来ます。ですが、妹様は吸血した相手をそう言った
存在にする方法を知りません。お嬢様は知っているでしょうが……お嬢様は小食ですからね。お嬢様の場合でも、積極的に吸血した対象を吸血鬼にしたりグールに
したりと言った事はしないでしょう」

問われた小悪魔はフランドールやレミリアに吸血されても種族が変わる事は無いだろうと言い、

「まぁ、龍也さんの場合は強いと言うか保有霊力が相当なものですからね。その様な方は抵抗力と言ったものが強いので、そう簡単には種族が変化したりはしない
と思いますよ」

一寸した補足も行なった。

「ふーん……」
「うーん……」

された説明と補足を龍也が頭に入れている間にフランドールは目を覚まし始める。
龍也と小悪魔の会話で目を覚ましたのだろうか。
ともあれ、フランドールが目を覚ましたと言う事で、

「お、起きたか」

龍也はフランドールの方に顔を向けてそう声を掛ける。
掛けられた声に反応したフランドールは目を龍也の方に目を向け、

「……あ」

自分が何をしていたのか理解し、慌てて龍也の腕から口を離す。
そして、フランドールが何かに怯えた様な表情を浮かべた刹那、

「フランドール、別に俺の血を吸いたかったら吸っても良いぞ」

自分の血を吸いたいのなら吸っても良いと言う言葉を龍也はフランドールに掛けた。

「……え?」

掛けられた言葉が全くの予想外であった為かフランドールは唖然とした表情になりつつ、

「その……怒ってないの?」

恐る恐ると言った感じで龍也に怒っていないのかと聞く。

「フランドールは吸血鬼何だから、俺の血を吸った位で怒ったりはしねぇよ」

聞かれた龍也は怒ってない事を口にし、

「但し、俺が貧血を起こしたり失血死したりするまで吸ったりはしない事」

血を吸う際の注意点を述べる。
口にされ、述べられた事を耳に入れたフランドールがポカーンとした表情になった時、

「どうだ、約束出来るか?」

約束出来るかと言う発言が龍也から発せられる。
すると、フランドールは満面の笑顔を浮かべ、

「うん!!」

大きな声でうんと宣言した。






















フランドールが寝惚けて龍也の血を吸うと言う一件が穏便に済んでから暫らく。
フランドール、小悪魔の二人と一緒に龍也はパチュリーの居る所にまで戻って来た。
すると、

「あら。いらっしゃい、龍也」

何時の間にか図書館に来ていたレミリアが龍也に軽い挨拶をする。
起きた後、パチュリーが居る図書館に遊びに来ていたのであろうと言う予想を立てつつ、

「ああ。お邪魔してるぜ、レミリア」

龍也はレミリアに挨拶の言葉を返す。
その直後、

「……フラン。何か良い事でも在ったの?」

フランドールへと視線を向けたレミリアが、フランドールの表情を見て良い事でも在ったのかと尋ねる。

「えへへ……一寸ね」

尋ねられたフランドールは嬉しそうな表情で少し曖昧な返事をした。
だからか、

「良い事が在ったのなら、それで良いわ」

そう言って、これ以上追求する事をレミリアは取り止める。
嬉しそうな表情を浮かべている自身の妹を見て、これ以上の追求は無粋であると判断したのであろうか。
ともあれ、フランドールが嬉しそうにしている理由を追求するのを止めたレミリアは顔を龍也の方に向け、

「ねぇ、龍也。一寸頼みが在るんだけど」

龍也に頼みが在ると口にした。

「頼み?」
「ええ。少し話は古くなるけど、貴方が手に入れたって言う新しい力を見せてくれないかしら?」

行き成り頼みが在る言われたしまった事で龍也が首を傾げてしまうと、頼みたい事の中身をレミリアは話す。

「新しい力って言うと……仮面の事か?」
「ええ」

話された事を受けて龍也は新しい力に付いての確認をするとレミリアは肯定の言葉と共に頷き、

「咲夜と美鈴から話は聞いていたんだけど、まだ直接見てはいなかったからね。貴方がここで執事をやってた時に頼めば良かったんだけど、あの時は
忘れていたし」

今になって仮面の力を見せて欲しいと言う頼みをした理由を説明する。
された説明で仮面の力を直接見せた者は咲夜、美鈴、妖夢、映姫の四人だけだったなと言う事を龍也は思いつつ、

「良いぜ。見せてやるよ」

レミリアに仮面を力を見せる事を決め、左手を額の辺りにまで持っていく。
そして、左手の掌からどす黒い色をした霊力を溢れ出させ、

「ッ!!」

左手を一気に振り下ろす。
左手が振り下ろされたタイミングで龍也の顔面に仮面が現れて眼球が黒くなり、瞳の色が黒から紫に変化した。

「ほう……これが……」

仮面を付けた龍也をレミリアが興味深そうな表情で見ている間に、

「ふむ……霊力の量が多くなり、濃度が濃くなり、霊力の質そのものが禍々しくなっているわね……」

一寸した分析をしながらパチュリーは龍也の仮面に手を触れ、

「これは……霊力そのものが物質化している……のかしら? 何はともあれ、非常に興味深いわね」

仮面は霊力が物質化しているのではと言う推察を立てていく。
そんな二人を余所に、

「と言うより、そんな禍々しい霊力を放っていて良く龍也さんは自分を保っていられますね。正直凄いですよ」

禍々しい霊力を放っていると言うのに自分を保っていられる龍也を小悪魔は少し唖然とした表情で凄いと称した。

「そうか?」
「そうですよ。普通でしたらその禍々しさに呑まれて簡単に暴走すると思いますよ」

凄いと称された龍也がつい疑問気な表情を浮かべると、普通なら暴走するだろうと言う事を小悪魔は口にする。
暴走と言う単語が気に掛かった龍也は、その事に付いて少し考えていく。
もう一人の自分を自身の精神世界で倒し、西行妖の力を自身の糧にするまで龍也はもう一人の自分にジワジワと乗っ取られそうになっていた。
乗っ取られると言う様な兆候はもう無いが、下手をしたら乗っ取られる恐怖で小悪魔が口にした通りに暴走していた可能性も在ったであろう。
考えた事から、小悪魔が口にした事も的外れでも無いなと言う結論を龍也が出した時、

「ねぇ、貴方のその仮面を研究してみたいから一欠けら程譲ってくれないかしら?」

研究したいから仮面の一欠けらを譲って欲しいと言う頼みがパチュリーからされる。

「うーん……それは一寸無理だと思うぞ」
「どうして?」

された頼みに無理だと言う返答を龍也がするとパチュリーがどうしてと言う疑問を投げ掛けて来たので、

「この仮面さ、俺の体から離れて少しする離れた部分が勝手に崩壊して消えるんだ」

無理だと言う返答をした理由を龍也はパチュリーに伝えた。
余談ではあるが仮面が時間制限などで崩壊した際には、崩壊した仮面は一欠けらも残さずに消えてしまう。
ともあれ、龍也の仮面の研究は無理だと言う事が分かった為か、

「それは残念」

そう零してパチュリーは溜息を一つ吐く。
パチュリーの研究が始まる前から終わってしまった後、

「それにしても、やっぱり良いわね。貴方は」

やっぱり良いと言う事をレミリアは龍也を見ながら述べ、

「ねぇ、私のものにならない?」

何時もの様に自分のものにならないかと言う誘いを龍也に掛けた。

「悪いが、断る」

された誘いをこれまた何時もの様に龍也は断りながら左手を額の方に持って行き、仮面をどす黒い色をした霊力に変える。
そして、龍也が左手を軽く振るとどす黒い色をした霊力は風に流される様にして消えていく。
龍也の顔面から仮面が消えた事で、龍也の眼球と瞳の色が元の色に戻る。
何時もの様に断られてしまったレミリアは紅茶を一口飲み、

「そう。それは残念」

残念と呟く。
呟かれた残念と言う言葉の中に、必ず自分のものにしてやると言う自信が感じられたからか、

「はは……」

一寸した苦笑いを龍也が浮かべてしまうった時、

「ねぇ、龍也。さっきの仮面、格好良かったね」

フランドールから仮面が格好良かったと言う感想が発せられた。

「お、そうか?」

仮面を褒められたと言う事で少し照れ臭そうな表情を龍也は浮かべる。
その後、龍也はレミリア達と雑談をしながら過ごしていった。





































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