「あいててててて……」

朝、博麗神社の一室で龍也は頭痛と共に目を覚ました。
何故、頭痛と共に龍也は目を覚ましたのか。
その答えは龍也自身が一番良く分かっている。
答えと言うのは、昨日の宴会で開かれた酒飲み大会だ。
酒飲み大会と言う事で自分の限度を弁えずに酒を飲み続けた結果がこの有様。
つまりは二日酔いになってしまったのだ。
まぁ、端的に言って自業自得である。
ともあれ、目を覚ました龍也は体を起こしてジャケットを着込む。
そして、泊まっていた部屋を出て廊下を歩き始めた龍也の目に、

「あいててててて……」

頭を押さえながら歩いている魔理沙の姿が映った。
だからか、

「はよう」

龍也は魔理沙に近付き、軽い挨拶の言葉を掛ける。
掛けられた挨拶の言葉が耳に入った魔理沙は足を止め、

「ああ、龍也か。おはよう」

龍也の方に体を向け、返す様に挨拶の言葉を口にした。
お互い挨拶の言葉を掛け合った後、

「二日酔いか?」

二日酔いかと言う問いを龍也は魔理沙に行なう。
同時に、魔理沙も酒飲み大会に参加していた事を龍也が思い出していると、

「ああ。そう言うお前もか?」

行なわれた問いに魔理沙は肯定の返事をし、龍也も二日酔いなのかと聞く。

「ああ」

聞かれた龍也が肯定するかの様に頷いた刹那、龍也と魔理沙は同じタイミングで溜息を吐く。
酒飲み大会と言えど、二日酔いになるまでお酒を飲んだ自分自身の間抜けさに二人は呆れたのだろうか。
兎も角、自分達の状態を知れた龍也は話を変えるかの様に、

「そう言えば、酒飲み大会に参加してた奴は皆ここに泊まっているのか?」

酒飲み大会に参加した者に付いて魔理沙に尋ねみた。

「いや、確か従者持ちの奴等は従者に付き添われる様にして帰ってったと思うぜ。私の記憶が確かなら。他は知らん」

尋ねられた魔理沙は思い返す様に酒飲み大会に参加した者のその後に付いて語る。
語られた事を受けて、

「あー……そんな記憶がある様な無い様な……」

酒飲み大会時の記憶を龍也は掘り起こしていったが、

「……思い出せねぇ」

掘り起こせなかった。

「ま、宴会終盤の時には意識が殆どなかったからな。龍也は」

思い出す事が出来なかった龍也に魔理沙はフォローの言葉を掛ける。

「……それでよく部屋まで辿り着けたな、俺」

掛けられたフォローで自分の事ながら良く部屋に辿り付けたなと龍也は感心しつつ、

「ま、それより居間に行こうぜ」

居間に行こうと言ってのけた。

「だな」

龍也が言ってのけた事に魔理沙は同意し、龍也と魔理沙は居間へと向かって行く。
そして、居間へと続く襖を開いた龍也の目に、

「霊夢とアリスか……」

畳の上に突っ伏している霊夢と卓袱台に突っ伏してるアリスの姿が映った。
見るからに具合が悪そうな様子から、龍也は二人に近付き、

「おーい、大丈夫かー?」

大丈夫かと聞く。
聞かれた事に反応した霊夢とアリスの二人は顔を上げ、

「何とかね」
「取り敢えずは」

弱々しさが感じられる声色で大丈夫だと言う様な事を零す。
その瞬間、魔理沙は卓袱台の近くに腰を落ち着かせ、

「処で、水は無いのか?」

水は無いのかと言う疑問を発する。

「無いわね。井戸から汲んでこないと」

発せられた疑問に対する答えを霊夢が述べると、霊夢、魔理沙、アリスの視線が龍也へと向かう。
三人からの視線に気付いた龍也は、

「……つまり、俺に汲んで来いと?」

自分に井戸へ行って水を汲んで来いと言っているのかと言う確認を取る。

「あら、龍也は苦しんでる女の子にそんな重労働をさせる気?」

取られた確認に三人を代表するかの様に霊夢がそんな事を言ってのけた。
すると、女三人寄れば何とやらと言う言葉が龍也の頭の浮かんだ。
ここまで来たら何を言っても無駄だと言う事を龍也は悟り、

「……行って来る」

井戸へ行って水を汲んで来る事を仕方無く決め、井戸が在る方へと向かって行った。






















井戸に行って水を汲んだ龍也が居間に戻って来ると、

「「おかえり」」
「おかえりなさい」

霊夢、魔理沙、アリスの三人がおかえりと言う言葉で龍也を出迎えてくれた。

「おう、ただいま」

出迎えてくれた三人に龍也はそう返し、水が入った桶を卓袱台の上に置く。
そのタイミングで、霊夢は龍也に湯飲みを差し出す。
差し出された湯飲みを見て龍也は自分が水を汲みに行っている間に用意したのだろうと推察しつつ、湯飲みを受け取る。
湯飲みを受け取った後、各々がそれぞれのペースで桶から水を汲んで水を飲み始めた。
それから少し時間が経った頃、

「処で朝ご飯は?」

ふと何かを思い出したかの様な表情を龍也は浮かべ、朝ご飯に付いての話題を出す。

「悪い。流石に今の状態じゃ何かを作る気にはなれん」
「私もね。料理が出来る程体調は良くないわ」
「私もよ。今の状態だと料理を作れる様な精度では人形を操れないわね」

出された話題が耳に入れた魔理沙、霊夢、アリスの三人はそれぞれそう答えた。
すると、

「あれ? お前の人形って半自立型もある筈だから料理位は作れるんじゃないのか?」

一寸した疑問が出て来た魔理沙は、出て来た疑問をアリスに投げ掛けた。

「半自立型と言っても、結果までの過程をある程度自分で判断するってだけよ。流石に料理の様な完成までの過程が複雑な物は、途中途中で私が
命令を出さなきゃ無理よ」
「そっか……」

投げ掛けられた疑問に対する答えを述べると魔理沙はがっかりとした様に肩を落とす。
そんな魔理沙に続く様にして龍也と霊夢の二人も肩を落とした。
おそらく、この三人の中で餓えた儘で過ごすのかと言う思いが生じたのだろう。
まぁ、種族が魔法使いであるアリスと違って龍也、霊夢、魔理沙の三人は種族が人間。
食事を必要としているのだから肩を落としてしまっても仕方が無いと言える。
この儘、空腹で過ごすのかと言う思いが場の空気に流れ始めた時、

「あ、そうだわ」

霊夢は何かを思い出したと言う表情を浮かべた。

「お、何か思い出したのか?」
「ええ。林檎よ林檎」

霊夢が浮かべた表情から魔理沙が期待を籠めた目で霊夢を見ると、林檎と言う単語が霊夢の口から紡がれる。

「「「林檎?」」」

林檎と言う単語を受けて龍也、魔理沙、アリスの三人は首を傾げてしまった為、

「そうよ。確か台所に結構な量の林檎が在った筈。それなら調理せずに食べれるでしょ」

林檎と言う単語を出した理由を霊夢は説明した。
された説明で龍也、魔理沙、アリスの三人は納得した表情になり、

「なら、この子達に持って来させるわ」

そう言いながらアリスは指を動かす。
同時に、何体かのアリスの人形が台所へと向かって行き、

「お帰り」

大した時間を掛けずにアリスの人形達が台所から戻って来て、戻って来た人形達は四人に林檎を配っていく。
配られた林檎を受け取った四人は早速と言わんばかりに林檎を食べ始めた。






















林檎を食べてお腹が膨れた後、頭痛もある程度は治まったので龍也は思い出したかの様に宴会の後片付けを行なう事にする。
後片付け事態、龍也一人でやる積もりであったが霊夢、魔理沙、アリスの三人も後片付けを手伝ってくれると言って来てくれた。
頭痛もある程度は治まった事もあり、軽く食後の運動をしたいとの事。
そのお陰もあってか、宴会の後片付けは予定よりも早くに終わった。






















宴会の後片付けが終わった後、龍也達は適当に雑談を交わしていく。
その雑談に一段落が着くと四人は流れ解散の感じで、別れて行った。
皆と別れた龍也は、ある場所を目指して移動を開始する。
あると場所と言うのは太陽の畑。
太陽の畑を目指している理由は、四日後に太陽の畑で害虫駆除をすると言う幽香との約束を果たす為だ。
因みに、龍也は徒歩で太陽の畑へと向かっている。
徒歩での移動と言うのは龍也に取っては何時もの事であるので、太陽の畑にへは特に問題無く四日以内で行ける筈であった。
そう、筈であったのだ。
一体どう言う事かと言うと、

「くそ!! 何処か雨宿り出来る場所はないのか!?」

突然のどしゃ降りが起きたのである。
のほほんと歩いている時にパラパラと雨が降り始めた時、龍也は大して気にしてはいなかった。
しかし、現在。
最早、雨で視界が全然見えないと言う有様。
おまけに風もかなり強い。
余談ではあるが、雨が強くなり始めた当初。
龍也は自身の力を青龍の力に変え、頭上に水球を生み出して傘代わりにしていた。
だが、降る雨の量が更に増えて風が強くなるとそれも意味を成さなくなってしまう。
正面から雨が当たる様になったからだ。
なので、自身の力を青龍から白虎に変えて風を体を覆う様に纏って雨を防ぐと言う方法を龍也は取る事にする。
が、纏った風に雨が絡まって視界が塞がれると言う事態が発生してしまったのでこれも意味を成さなくなってしまう。
もっと言えば絡まった雨が加速した状態で龍也自身に飛んで来ると言う事態にも成ってしまったのだ。
補足ではあるが、青龍の力を使って水で体を覆って雨を防ぐと言う方法も龍也は取ってみた。
と言っても、取ってみた方法の成果は散々。
纏った水に雨が当たって無数の波紋が生じ、視界が塞がれると言う結果に終わったからだ。
と言う様な事もあってか、現在の龍也は四神の力を使わずに雨宿りが出来る場所を求めて走っているのである。
走り始めてから結構な時間が経ったのだが、雨宿りをする事が出来る場所を龍也は見付けられずにいた。
まぁ、本降りになる前に龍也が歩いていた場所が草原だったと言うのも雨宿り出来る場所を見付けられない要因の一つであろう。
この儘では雨宿が出来る場所を探す処か本日の寝る場所も探す事が出来ないと言う思いが龍也の頭に過ぎった時、

「……ん?」

突如、地面が揺れ始めたのを龍也は感じ取る。
感じ取った揺れを不審に思った龍也は一旦足を止め、周囲を少し警戒し始めた。
龍也が警戒している間にも揺れはどんどんと大きくなり、

「なっ!?」

龍也の足元近くの地面が大きく割れる。
割れた地面に反応した龍也が後ろに跳んだ瞬間、割れた地面から何かが這い出て来た。
這い出て来たものは巨大な骸骨。
それを見た龍也は、

「あれは……がしゃどくろか?」

がしゃどくろと言う単語を零す。
同時に巨大な骸骨、龍也ががしゃどくろと称したものが薙ぎ払う様にして腕を振るって来た。

「おおっと!!」

振るわれた腕を避ける為に龍也は再度後ろに跳び、軽く考えを廻らせていく。
通常、骸骨が動く訳が無い。
更に言うのであればあんな大きな人型の骸骨、言ってしまえば巨人を見た事が無かった。
以上、二点から、

「やっぱりあれ、がしゃどくろか」

巨大な骸骨をがしゃどくろであると言う判断を龍也は下す。
そして、がしゃどくろから発せられている敵意と殺気を正面から受け止めながら龍也は自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が黒から紅へと変化した刹那、両手から炎の剣を生み出して龍也は駆け始めた。
無論、目標はがしゃどくろである。
駆けて行った龍也とがしゃどくろの距離が半分程になった時、

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

大きな雄叫びと共にがしゃどくろが手を振り下ろして来た。
振り下ろされたがしゃどくろの巨大な手が龍也に当たる刹那、

「ふっ!!」

超速歩法を使って龍也はその場から消える。
当然、目標を失ったがしゃどくろの手は地面に叩き付けられた。
地面にがしゃどくろの手が叩き付けられた事で水が宙を舞い散っている中、がじゃどくろの手の甲に龍也が現れる。
現れた龍也はその儘がしゃどくろの肩まで駆けて行き、肩に到着したのと同時に龍也は跳躍し、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおらあ!!!!!!」

がしゃどくろの額に炎の剣を叩き付けた。
しかし、

「…………あれ?」

今一つ手応えを感じなったので龍也は疑問を浮かべてしまう。
そんな龍也の疑問も、がしょどくろを少し注視すれば直ぐに氷解した。
手応えを感じなかった理由は、がじゃどくろが骨であるからだ。
どう言う事かと言うと、骨と言うものは燃え難いからである。
そんな燃え難い骨に対して炎の剣を叩き付けても手応えを感じないのは当然と言えるだろう。
とは言え、相手が普通の骨ならば龍也の炎の剣なら火力を上げれば燃やしたり溶かしたりする事は可能。
だが、相手はがしゃどくろ。
骨の妖怪とも言える様な存在なので、炎に対する耐性は通常の骨よりも高い事は容易く想像出来る。
もっと言えば、今龍也が相対しているがしゃどくろはかなりの巨体。
より炎が効き難くなっていてるのも当然とも言えるだろう。
おまけに今の天候はどしゃ降り。
これでは炎属性の攻撃は余計に効き難くなっているなと言う事を龍也が思った時、

「おわ!?」

がじゃどくろが頭部を振って龍也を弾き飛ばした。
弾き飛ばされた龍也は体を回転させながら体勢を立て直し、霊力で出来た見えない足場を空中に作る。
その後、作った足場に龍也は足を着けて減速していく。
減速し始めてから少しする完全に停止したので、龍也はがしゃどくろの方に視線を向けて大きいだけあってパワーが有ると言う感想を抱きつつ、

「………………………………」

どう戦っていくかを考え始めた。
無論、朱雀の力の儘でがしゃどくろを倒すと言うのは簡単だ。
力を解放し、仮面を付ければ今の天候状態でもがしゃどくろを燃やしたり溶かしたりする位の火力は出せるだろう。
が、雄叫びを上げながら迫って来ているがしゃどくろを見た龍也の脳裏にある攻撃方法が過ぎる。
過ぎった攻撃方法と言うのはこのどしゃ降り、つまりは今の天候を利用すると言うもの。
上手くいくかはどうかは未知数なのだが、出来ると言う確信が何所からか生じて来たと言う事もあり龍也は迷う事無く自身の力を変える。
朱雀の力から青龍の力へと。
力の変換に伴って龍也の瞳の色が紅から蒼へと変化して、炎の剣が消失する。

「さて……」

完全に自身の力が青龍の力に変わったのを実感した龍也はそう呟きながら片手を上げ、集中していく。
そして、がしゃどくろが目前にまで迫って来た瞬間、

「行け!!」

行けと言う言葉と共に龍也は上げていた手を振り下ろす。
すると、降っている雨の一部ががしゃどくろへ向けて猛スピードで飛来し始めた。
そう、龍也が出来ると確信した戦い方と言うのは雨の一部を支配して攻撃に転用するというものなのだ。
龍也の四神の力の使い方と言うのは、基本的に自分自身から生み出したものを支配して操ると言う事が非常に多い。
風と地は別として、炎と水は毎回都合良く傍に在るとは限らないのでそうなるのも仕方が無いと言えるのだが。
兎も角、自分自身で生み出したもの以外を支配して操ると言うのは龍也としても久し振りな行為であったが、

「ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

攻撃する為に龍也に近付いていたと言う事も有ってがしゃどくろは飛来した雨の一部を避けれずに直撃を受け、大きな悲鳴を上げながら後方に倒れてしまった。
倒れた影響で水飛沫が舞い上がる中、

「はぁ……はぁ……はぁ……」

少々息を乱した龍也が膝に手を着け、

「……雨を操るのって、思ってたよりも集中力と体力がいるな」

ポツリとそう零す。
どうやら自分自身で生み出してはいないものを一度に、しかも大量に支配して操ると言う行為は龍也にそれなりの負担を強いる様である。
これならば雨粒大の水を無数に生み出し、生み出したそれを支配して操った方が負担は少なさそうだと言う結論を下した刹那、

「……雨を一箇所に集めて水の剣にするって方法なら負担も少ないか?」

一寸した疑問が龍也の中に生じた。
まぁ、仮に負担が無かったとしても態々雨を集めて水の剣を作る必要性は無いだろうが。
と言った感じで龍也が意識を少々思考の方に持っていっている間に、倒れていたがしゃどくろが起き上がった。

「お……」

起き上がったがしゃどくろに気付いた龍也は一旦思考していた事を頭の隅に追い遣り、がしゃどくろの様子を観察する。
観察した結果、所々に孔が空いたり、欠けたり、皹が入っていたりしている事が分かった。
結構大きなダメージが入っているのは、雨を使っての攻撃が効いたからであろうか。
ともあれ、そんな状態でもがしゃどくろから感じられる戦意に衰えは見られなかったので、

「根性有るな、お前」

相対しているがしゃどくろを根性が有ると龍也は称し、後ろに下がって構えを取る。
それから少しの間、睨み合いが続く。
一体何時まで続くのかと思われた矢先、突如として雷鳴が鳴り響いた。
鳴り響いた雷鳴を合図にしたかの様にがしゃどくろは口を開き、そこから妖力の塊を放つ。
放たれた妖力の塊を見た龍也は掌をがしゃどくろに向け、

「霊流波!!」

向けた掌から青白い閃光を迸らせる。
迸った青白い閃光と妖力の塊は二人の中間地帯で激突し、爆発して爆風と爆煙が発生した。
しかし、雨と風の影響もあってか爆風と爆煙は直ぐに消え去ってしまう。
だが、消えたのは爆風と爆煙だけではなかった。
何と、龍也までもが消えてしまったのだ。
消えてしまった龍也をがしゃどくろが捜そうとした瞬間、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

気合が入った声と共に龍也が水の大剣を振り被りながらがしゃどくろの頭上目掛けて急降下して来た。
急降下した来た龍也に気付いたがしゃどくろが顔を上げた刹那、がしゃどくろは真っ二つに斬り裂かれてしまう。
がしゃどくろを真っ二つにした龍也が地に足を着けたのと同時に、真っ二つに斬り裂かれたがしゃどくろは倒れ伏した。
倒れ伏したがしゃどくろを余所に龍也は周囲を警戒し始める。
暫らく警戒してもがしゃどくろが復活する事も、新たな敵が現れる事も無かった。
この事からがしゃどくろを完全に倒して増援なども来ないと判断した龍也は水の大剣を消し、自身の力も消す。
力を消した事で瞳の色が蒼から黒に戻った後、

「ふぅ……」

龍也は一息吐き、改めと言った感じで周囲を見渡していく。
見渡していくとがしゃどくろが這い出てくる際に割れた地面が塞がっている事が分かった。
自然に割れた地面が塞がっている事に龍也は驚きつつ、再び雨宿り出来る場所を探す為に移動を始める。






















がしゃどくろを倒し、再び雨宿りが出来る場所を再び探し始めてから暫らく。
龍也は、

「あー……濡れまくったせいか服が重い……」

未だ、雨宿り出来る場所を見付ける事が出来ないでいた。
おまけに日も完全に落ちてしまっている。
もう雨が止むまで彷徨ってい様かと言う考えが龍也の頭に過ぎった時、

「……お?」

何か、建物らしき物が目に映った。
なので、雨宿り出来ればラッキーだと思いながら龍也は目に映った建物に走って近付いて行く。
そして、建物が完全に目視出来る距離にまで来ると、

「これ……寺か?」

寺と言う単語が龍也から零れる。
そう、龍也の目に映った建物らしき物と言うのは寺であったのだ。
しかし、寺と言っても結構ボロボロな状態。
言ってしまえば廃寺と言えるだろう。
とは言え、雨風は凌げそうであるので、

「ま、雨宿りが出来れば良いか」

その様な事を呟きながら龍也は寺の中に入って行く。
寺の中に入った龍也は軽く周囲を見渡していき、

「お、外観とは裏腹に中はボロボロって感じじゃないな」

外観と違って中はボロボロでは無いと言う感想を抱いた。
外観がボロボロだったので中もボロボロだろうと言う先入観を持っていた龍也は虚を付かれた様な感じを受ける。
同時に、若しかしたら誰かがここに住んでいるのかもと言う可能性が頭に過ぎった為、

「すみませーん!! 誰か居ませんかー!?」

誰か居るのかどうかの確認を龍也は取る事にした。
それから少しすると奥の方から何者かが近付いて来る足音が龍也の耳に入って来る。
そして、

「どなたでしょうか?」

一人の少女が現れた。
現れた少女は虎を思わせる様な髪の色をしている。
服は袖の部分がゆったりしていて色は白く、それ以外の部分は赤くてスカートも赤い。
腰周りには虎柄模様の布地が巻かれている。
全体的に虎を感じさせる者だと言う印象を龍也は抱きつつ、現れた少女から妖力が感じられたので妖怪かと推察しつつ、

「夜分遅くにすみません。俺……私は四神龍也と申します。実は突然の豪雨に見舞われまして。御迷惑で無ければ、雨が止むまで雨宿りをさせて貰えませんか?」

軽い自己紹介と共にここにやって来た理由を少女に伝えた。

「あ、そうでしたか。どうぞお上がりください」

伝えられた事を受けた少女は龍也に寺の中に入る許可を出す。

「ありがとうございます」

寺に入る許可を出してくれた少女に龍也が礼を言い、靴を脱いで廊下に上がった瞬間、

「申し遅れました。私は寅丸星と申します」

少女、寅丸星が簡単な自己紹介と共に頭を下げる。
だからか、

「あ、御丁寧どうも」

つい龍也も頭を下げた。
その後、二人が同時に頭を上げた刹那、

「宜しければ、湯殿の準備をしましょうか?」

星から湯殿の準備をし様かと言う提案がされる。

「良いんですか?」
「はい。それにその儘の状態ですと風邪を引いてしまいますよ」

された提案を受けた龍也が良いのかと聞き返すと、星は肯定の言葉と共に風邪を引いてしまうと指摘を行なう。
行なわれた提案を耳に入れた龍也は視線を落とし、今の自分の状態を軽く確認する。
確認した結果、ビショビショに濡れている事が分かった。
まぁ、豪雨と呼べる天候の中を龍也は傘も刺さずに戦ったり駆け抜けたりしたのだ。
びしょ濡れになるのも当然と言うもの。
おまけに、この儘では廊下を水で汚してしまうだろう。
そうなったら星に悪いだろうと龍也は思い、

「それでは、ご好意甘えさせて頂きます」

星からの申し出を受ける事を決めると、

「分かりました。では、少々お待ちください」

そう言って星は急ぎ目に廊下を駆けて行った。
星が駆けて行ってから少し経った辺りで、星が戻って来て、

「湯殿の準備が終わりました」

湯殿の準備が終わったと言う言葉を口にする。

「随分早かったですね」
「私もそろそろ身を清め様と思ってましたから」

想像以上に湯殿の準備が早く終わった事に龍也が驚くと、早くに湯殿の準備が終わった理由を星は話す。

「すみません、一番風呂を貰う形になってしまって……」

話された事を頭に入れた龍也は家主である星を差し置いて一番風呂を貰う形になった事に対して申し訳無い想いを抱いてしまう。
そんな龍也の想いを察したからか、

「構いませんよ。貴方が風邪を引いてしまう方が大変ですから」

びしょ濡れの龍也が風邪を引く方が大変だと言って星は龍也に背を向け、

「それでは、湯殿にまで案内しますので着いて来て下さい」

湯殿まで案内するので着いて来る様に口にして歩き出した。
歩き出した星を追う形で龍也も歩き出す。
歩いている中で龍也が興味深そうに表情で寺の中を見渡していく。
それから少し経った辺りで星は足を止め、

「この先が脱衣所、更にその先が湯殿となっております」

この先に脱衣所、湯殿が在る事を龍也に説明し、

「少々古いですが中に代えの衣服を御用意しましたので」

着替えを用意している事も伝えた。

「あ、ありがとうございます」
「いえ。それとお召し物は入って左側に在る籠の中に入れて置いてください。後で洗濯して置きますので」

色々と用意してくれた星に改めて礼を言った龍也に、今着ている龍也の服を洗濯して置くので脱いだ服は籠に入れてくれと星は述べる。

「何から何まですみません」
「お気になさらず。ごゆっくりどうぞ」

本当に色々と世話になってしまっている星に龍也が謝罪したからか、気にする必要は無いと言って星は去って行った。
去って行った星を見送った龍也は脱衣所の中に入って服を脱ぎ始める。
脱いでいく過程でポケットの中に仕舞っている物を全て取り出し、脱いだ服を星に述べられた籠の中に入れて龍也は湯殿の方に足を入れ、

「おお……」

つい感嘆とした声を漏らす。
何故かと言うと入った湯殿が余りにも見事であったからだ。
正直、湯殿に入るまで龍也は一人二人が入れる位のスペースしかないのだろうと想定していた。
しかし、実際に入ってみた湯殿は一度に十人前後が軽く入浴出来るスペースがあるのだ。
更に言えば、作りも豪華。
感嘆とした声を漏らすのも無理はないだろう。
ともあれ、何時までもボケッとしていても仕方が無い。
なので、気持ちを切り替える様に龍也は首を横に振って体を洗い始める。
体を洗い終えると龍也は早速と言わんばかりに湯船に浸かり、

「……はぁー、生き返るー」

ついつい気の抜けた声を発してしまった。
その様な声を発してしまったのは、それだけ疲れていたからであろうか。
と言った感じで湯船に浸かっている龍也は、この湯殿の作りは阿求の屋敷の湯殿と少し作りが似ていると言う感想を抱いた。
まぁ、寺と阿求の屋敷は同じ和で構成された建物。
無論、寺と屋敷では色々と違う部分があるだろう。
が、似た様な部分だって存在する。
その似た様な部分と言うのが湯殿なのだろうと言う様な推察をしつつ、龍也は湯船に浸かりながらのんびりと過ごしていった。






















湯殿から出た龍也は寺の廊下を歩きながら、

「一寸長湯し過ぎたかな?」

そんな事を呟く。
星に迷惑を掛けぬ様にさっさと上がる積りであったが、余りの気持ち良さに龍也はついつい長湯をしてまったのである。
因みに、龍也が今着ているのは和服で色は深い青。
星は少々古いと言っていたが、龍也には新品同然に思えた。
その事に龍也は内心で星に感謝しつつ、風呂から上がった事を伝える為に星を探していると、

「あ、こちらに居ましたか」

廊下の曲がり角から星が現れる。

「すみません。何だか長湯をしてしまって」
「いえ、お気になさらず。それより、湯加減はどうでしたか?」

現れた星に気付いた龍也は足を止めて長湯をしてしまった事に対する謝罪を行なうと、星は気にするなと言いながら湯加減に付いて尋ねて来た。

「あ、凄く良かったです」
「それは良かったです」

尋ねられた事に龍也がそう答えると星は安心したかの様な表情を浮かべ、

「それと、精進料理ですがお夕飯を用意しました。宜しければどうぞ」

食事を用意したので良ければ食べてくれと言う事を口にする。

「あ、すみません。ご飯まで用意して貰って」
「お気になさらず。一人分作るのも二人分作るのも大した手間ではありませんから」

態々自分の分の食事まで用意してくれた星に申し訳無い気持ちを抱いた龍也に、星は気にする必要は無いと言い、

「えっと……それでご飯食べます?」

改めてと言った感じで龍也にご飯を食べるかと聞く。

「はい、食べます」
「分かりました。それでは、付いて来てくださいね」

聞かれた龍也がご飯を食べると言う主張をした為、自分に付いて来る様に言って星は龍也に背を向けて歩き出す。
それを追う様に龍也も歩き出した。
歩き出してから大した時間を掛けずに二人は目的の場所に辿り着き、

「こちらになります」

星は襖を開き、部屋の中へと入って行く。
部屋の中に入って行った星に続く形で部屋の中に入った龍也に、

「どうぞ、御掛けになってください」

座る様にと言う言葉を掛けて星は卓袱台の前に腰を落ち着かせる。
掛けられた言葉に反応した龍也は星と対面の位置になる場所に腰を落ち着かせた。
そして、

「「いただきます」」

いただきますと言う言葉と共に二人は卓袱台の上に乗っている精進料理を食べ始める。
同時に、

「あ、美味しいですね」

美味しいと言う感想が龍也の口から紡がれた。

「お口に合った様で何よりです」

紡がれた感想を耳に入れた星は少し安心したかの様な表情になり、箸を更に進めていく。
箸を進め、次々と精進料理を口を運んでいる中、

「そう言えば、妖怪が寺に住んでいるって言うのも珍しいですね」

ふと思った事を龍也は星に聞いてみた。
聞かれた星はビクリとした感じで箸を止め、

「…………どうして私が妖怪だと?」

動揺が感じられる声色で星は龍也にどうして自分が妖怪だと言う判断をしたのかと尋ねる。

「貴女から妖力を感じたからですけど……」
「そうですか」

尋ねられた龍也が星を妖怪と判断した理由を述べると星は箸を置き、

「それでどうしますか? 私を討伐しますか?」

少し目を鋭くさせながら自分を討伐するかと問う。

「え? どうしてですか?」
「……え?」

問われた龍也は疑問気な表情になりながらどうしてかと零した為か、星は目を点にしてしまった。
が、直ぐに意識を取り戻したかの様に星は軽く咳払いをして、

「えと……貴方は人間ですよね?」

一応と言った感じで龍也は人間だろうと言う確認を取りに掛かる。

「はい」
「それで、私は妖怪です」

取られた確認を龍也が肯定すると星は自分が妖怪である事を断言した。

「そうですね」
「だと言うのに貴方は私を討伐し様とは思わないのですか?」

断言された事に龍也が同意した刹那、自分が妖怪だと知っても自分を討伐しないのかと言う疑問を星は龍也に投げ掛ける。

「思いませんね。それ以前に貴女は俺……私の恩人。恩妖? まぁそんな感じですし」

投げ掛けられた疑問に龍也はそう答え、

「そりゃ、貴女が俺……私に敵意とか殺意とか向けたり……俺……私を殺そうと襲い掛かって来たりするのであれば話は別ですけどね」

但し、自分に害を加えるのであれば話は別だと言う補足を行いながら箸を置き、

「それに俺……私は人間に限らず妖怪とか妖精とか妖獣とか半妖とか魔法使いとか幽霊とか半霊とか吸血鬼とか悪魔とか不老不死とか天狗とか鬼とか神とか
死神とか閻魔とか。まぁ、色々な存在と交友関係が有りますからね。貴女が妖怪だからと言ってどうこうする気は有りませんよ」

様々な存在と交友関係が有る事から、妖怪と言うだけ星をどうこうする気は無いと語る。
語った後に龍也は今更ながら自分の交友関係は凄い事になっているなと思った時、

「……あ、貴方はそんな多種多様な存在と交友関係が有るのですか!?」

思いっ切り驚いた言う表情を浮かべた星が今語った内容は本当なのかと言う確認を龍也に投げ掛けた。

「え、ええ。そうですが……」

確認を投げ掛けて来た星に押されながらも、語った内容は本当だと言う事を龍也は肯定しながら頷く。
すると、

「そうですか」

安心し、救われた想いと報われた想いを合わせた様な表情を星は浮かべた。
だからか、

「あの……星さん、どうかしましたか?」

様子を伺うかの様にどうかしたのかと言う事を龍也は星に聞く。

「いえ、何でもありません」

聞かれた星は意識を戻したかの様な表情になりながらそう答え、

「それと、私の事は星で構いません。後、喋り易い口調で構いませんよ」

自分の呼び方と口調に付いてもっと楽にして良いと言う事を龍也に伝える。

「良いんですか? お……私としてはその方が楽ですけど……」
「ええ、構いませんよ」

伝えられた事を受けて本当に良いのかと言う確認を龍也が取って来たので、構わないと星は断言した。

「じゃあ……星、これでいいか?」
「はい、それで良いですよ。龍也君」

星が構わないと断言したので龍也は普段通りの言葉使いをすると、星は笑顔を浮かべる。
そして、

「それと龍也君。良ければ、龍也君の話を聞かせて貰えないかな」

星が龍也の話を聞かせて欲しいと言う頼みをして来た。

「俺の話?」
「はい。勿論、龍也君が良ければですが」

頼まれた内容に龍也が少し驚きの感情を見せると、星は龍也が良ければだけどと言う補足を行なう。
別に断る理由も無いので、

「ああ、良いぞ。それじゃ……」

早速と言わんばかりに龍也は星に自分の事を話し始めた。





































前話へ                                                                    戻る                                                      次話へ