「龍也君、ありがとう。お寺の掃除まで手伝って貰って」

星はそう礼を言って龍也に頭を下げた。

「別に良いって。俺だって色々世話になったんだからさ」

そんな星に龍也は気にする必要は無い言う様な事を口にする。

「でも、丸一日掛かってしまいましたし……」
「それこそ気にするなだ。俺は元々自由気儘に幻想郷中を旅してるしな。一日潰した位、どうって事無いって。それにもう一日、泊めて貰ったしさ」

口にされた事を受けても星は気にしていると言う様な表情を浮かべていたので、龍也はその様に述べながら寺の掃除を手伝った経緯を思い返していく。
雨宿りをする為に星が住む寺に龍也がやって来た日。
龍也としては雨宿りだけで済ませる気だったのが、色々と話していたせいか気付いた時には日付がとっくに変わってしまっていた。
だからか、星は龍也に寺に宿泊したらどうだと言う提案を行なう。
行なわれた提案を龍也は受け入れ、寺に泊まる事にする。
龍也が寺に泊まり朝になった頃には雨も完全に止んでいて空には見事な晴天が広がっており、雨で濡れていた龍也の服も完全に乾いていた。
これならば直ぐに旅を再開する事が出来たのだが、食事に風呂に寝床と色々と世話になって置いて何もせずに出発するのはどうかと言う思いが龍也の頭に過ぎる。
なので、この寺の掃除を手伝おうと言う事を龍也は考えたのだ。
その考えた事を龍也が星に伝えた時、星は気にしなくても良いと言ってくれた。
だが、どうしても手伝いたいと言う主張を龍也は星にする。
だからか、折れる様な形で星は龍也の主張を受け入れる事にした。
と言った経緯で、龍也は寺の掃除を手伝う事になったのだ。
因みに、掃除自体は朝早くから行なわれた。
朝早くから掃除をしていたので昼過ぎには終わると思われていたのだが、昼を過ぎても掃除は終わらなかったのである。
では何時終わったのかと言うと、日が暮れ始めた頃。
どうしてそこまで時間が掛かってしまったのか。
時間が掛かった理由は本腰を入れて掃除をしたと言うのもあるが、一番の理由は寺の広さ。
二人掛り、更には龍也が能力をフルに使っても掃除が終わった頃には日が暮れてしまう程にこの寺は広かったのだ。
広いと言えば紅魔館もそうだが、紅魔館は咲夜の能力で広くなっている。
そう言った意味では紅魔館よりもこの寺の方が広いと言えるかも知れない。
ともあれ、そう言う事もあって龍也は星の住む寺にもう一泊する事になったのだ。
もう一泊したのは龍也に取って予想外の事であったが、まだ許容範囲内。
幽香との約束の日までまだ二日は在るので、少しペースを上げれば二日後までには余裕で太陽の畑には着くであろう。
と言った感じで寺の掃除を手伝った経緯を思い返した龍也がこれからの予定を立てていると、

「それにしても、龍也君の能力って便利ですよね」

星が龍也の能力は便利だと言う事を口にした。
口にされた事が耳に入った龍也が意識を星に向けた時、

「龍也君のお陰で水を汲んだりしに行く時間が無くなりましたし」

龍也の能力のお陰で助かった事の一つを星は上げる。
星が上げた通り、水汲みの時間が必要無くなったのは便利と言えるだろう。
が、

「俺の能力よりも星の能力の方が便利と言うか凄いと思うが……」

龍也としては星の能力の方が便利だと言う思いがあった。
"財宝が集まる程度の能力"と言うのが星の能力である。
もし、星にその気が有れば一夜で億万長者になる事も可能であろう。
とは言え、星自身は財などに然程興味を示してはいない様ではあるが。
寺に住んでいるからであろうか。
と言う様な事を龍也は思いつつ、

「それはそうと、色々と世話になったな。ありがとう」

改めてと言った感じで星に礼を言って頭を下げた。
すると、

「いえいえ、こちらこそ」

自分こそ礼を言う立場であると言った感じで星も頭を下げる。
そして、二人は同時に顔を上げ、

「それじゃ、またな。近くに来たらまた寄らせて貰うよ」
「はい。また会えるのを楽しみにしています」

龍也と星は軽い別れの挨拶を交わす。
別れの挨拶を交わしたと事で龍也は星に背を向けて歩き出そうとしたが、

「あ、そうだ」

何かを思い出したと言った表情で振り返り、

「もう水の入ってる桶に足を引っ掛けて一緒に転ぶ何て事、するなよー」

そんな事を言ってのけた。
その瞬間、

「それは忘れてくださーい!!」

真っ赤な顔になりながら両手を振り、そう叫んでいる星の姿が見られたと言う。






















龍也が星の住む寺を出発してから二日経った日。
龍也は、

「うっし、間に合ったな」

無事に太陽の畑に辿り付く事が出来た。
太陽の畑に辿り着いた龍也は周囲の様子を見渡し、

「さて、幽香は何処かなー?」

足を動かしながら幽香を捜し始める。
それから少しすると、

「あ、居た居た」

少し離れた場所に幽香が居るの発見しからか、

「おーい、幽香ー」

そう声を掛けながら龍也は幽香に近付いて行く。
近付いて来ている龍也に気付いた幽香はそちらの方に体を向け、

「いらっしゃい、龍也」

龍也を出迎える言葉を掛ける。
そして、

「ちゃんと来てくれたのね」
「約束したからな」

幽香と軽い会話を交わした後、龍也は改めて周囲を見渡していき、

「にしても、綺麗に咲いたな。向日葵」

綺麗に咲いたと言う感想を口にする。
口にされた感想を受け、

「そうでしょそうでしょ」

嬉しそうな表情を幽香は浮かべた。
まぁ、太陽の畑に咲く向日葵は基本的に幽香一人で手入れをしているのだ。
それを褒められたともなれば、嬉しくもなるだろう。
そんな幽香を見ながら、

「この前結構な量の雨が降ったけど、ここの向日葵は無事そうだな」

この前の雨で向日葵に被害が出てないみたいだなと言う事を零す。

「花って言うのは生命力が強いからね」

零された事を耳に入れた幽香は誇らし気な表情にながらそう語りつつ、

「それじゃ、早速害虫駆除の手伝いをしてくれるかしら?」

早速害虫駆除の手伝いをしてくれるかと聞いて来た。

「ああ、分かった」

聞かれた事に龍也は分かったと言い、

「で、何処からやれば良いんだ?」

何処から手を付ければ良いのと言う事を尋ねる。

「そうね……案内するから私に付いて来て」

尋ねられた幽香は自分に付いて来る様に言いながら龍也に背を向け、歩き出した。
歩き出した幽香の後を追う様にして龍也も歩き出す。
その後、龍也と幽香の二人は太陽の畑の害虫駆除をし始めた。






















龍也が太陽の畑にやって来て害虫駆除をした次の日。
幽香の家に泊まった龍也は幽香が作った朝食を食べた後、幽香に連れられる形で外に出た。
外に出た二人は太陽の畑を歩いて行き、それから暫らくすると龍也と幽香は向日葵が少ない場所に足を踏み入れる。
そして、

「ここで毎年コンサートをやってるの」

今居る場所でコンサートが開かれている事を幽香は龍也に教えて足を止めた。

「へぇ、ここで……」

された説明を受けた龍也も足を止め、周囲を見渡していく。
見渡していった結果、ここでならコンサートを開いても向日葵が踏み荒らされる事は無いだろうと龍也は思った。
尤も、直ぐ近くに幽香が居ると言う状況化でそんな事をする者は居ないであろうが。
ともあれ、目的地に着いたと言う事で、

「で、ここで俺はステージの作成をすれば良いのか?」

自分がここでするべき事に付いて龍也は幽香に尋ねてみた。

「ええ。もう少しすればプリズムリバー三姉妹が設計図と資材を持って来ると思うのだけど……」

尋ねられた幽香は肯定の返事をし、そう言いながら顔を上げる。
顔を上げた幽香を見て、龍也も顔を上げた。
そんな二人の目に映ったものは青い空に流れる白い雲、そして太陽。
プリズムリバー三姉妹の姿は見られなかった。
だからか、

「……まだ来てないわね」
「だな」

まだプリズムリバー三姉妹が来ていない事を幽香と龍也は口にし合う。
こうなったら、プリズムリバー三姉妹が来るまで幽香と話して時間を潰そうかと言う予定を龍也が立て始めた時、

「ねぇ、龍也」

幽香が龍也に声を掛けて来た。
掛けられた声に反応した龍也は立てていた予定を頭の隅に追い遣り、

「何だ?」

幽香に続きを話す様に促す。
すると、

「噂で聞いたんだけど、何でも新しい力を手に入れたって言うらしいじゃない。それが本当なら見せてくれないかしら?」

龍也の手に入れた力を見せて欲しいと言う頼みをして来た。
別に隠して置く事でもない為、

「ああ、別に良いぞ」

幽香からの頼みを引き受ける事を龍也は決め、左手を額の辺りにまで持って行く。
その後、龍也は左手からどす黒い色をした霊力を溢れ出させて一気に振り下ろす。
左手が振り下ろされると龍也の顔面に仮面が現れて眼球を黒くなり、瞳の色が紫に変わる。

「へぇ……これが……」

変化した龍也を見た瞬間に幽香は理解した。
理解した事は二つ。
一つは仮面を付けた状態の龍也は戦闘能力が大幅に上がっていると言う事。
もう一つは今の龍也から感じる霊力は、普段の龍也の霊力と永夜異変の時に龍也から一瞬だけ感じた霊力が合わさったものだと言う事。
同時に、この前の六十年周期で起こる異変でもこの力を使って映姫と戦ったのだろうと推察した。
あの当時の龍也の実力と映姫が受けていたダメージ状態から幽香は自分の推察は間違っていない筈だと考えつつ、思う。
楽しみだと。
そして、龍也と戦う日が早まったと言う事を。
はっきり言って、龍也がこんな力を手に入れる事を幽香は全く予想していなかった。
故に、早まったのだ。
龍也が幽香と同等以上の実力を得る日が。
自分と同等以上の存在になった龍也と戦うと言うのが、龍也と初めて出会った日に幽香が抱いた想い。
更には龍也が自分と同等以上の存在になる事を確信した日でもある。
龍也の成長スピードならそう遠くない未来にその日が来るだろうと想像していたが、龍也が新たな力を手に入れた事でその日は確実に早くなった。
だから、幽香は思わず笑みを零してしまう。
零された笑みに気付いた龍也は、

「ん? どうかしたか?」

つい、どうかしたのかと言う問いを幽香に投げ掛ける。

「いえ、何でもないわ」

投げ掛けられた問いに幽香は何でもないと返し、

「それにしても、随分と変わった力を手に入れたものね」

随分変わった力を手に入れたなと称した。

「そうか?」

称された事を受けた龍也は疑問気な表情を浮かべながら左手を再び額の辺りにまで持って行き、仮面をどす黒い色をした霊力に変える。
同時に振り払う様にして手を動かして、どす黒い色をした霊力を風に流させる様にして消す。
仮面と言うかどす黒い色をした霊力が消えた事で龍也の瞳と眼球の色が元の色に戻る。
それを見計らったかの様に、

「そうよ。普通なら、その力を維持する事なんて出来ないわ」
「あー……そういや、似た様な事を映姫が言ってたな」
「霊力、妖力、魔力、神力。これ等を合わせたりして使うって言う方法、技法と言うのは昔から存在するわ。けど、貴方のそれは今言った方法や技法とは
全くの別物。言ってしまえば、何の技術も無しに自然な状態でその力を維持しているのよ」
「……確かに、何らかの技を使っている訳じゃないな。あの仮面は」
「でしょう。だから、貴方のその力には色んな者が興味を示す筈よ」
「そういや、これを見せた奴は皆それなりに興味を示していたな」
「やっぱりね。それと、その力を自分のものにし様と企てる様な輩が現れるかも知れない。気を付けなさい」
「ああ、そうするよ」

幽香は龍也と雑談を交わしていく。
二人が雑談を交わし、雑談に一段落が着いた辺りで、

「お待たせー」

お待たせと言う言葉と共にプリズムリバー三姉妹が龍也と幽香の近くに降り立った。
降りて来た者達に気付いた龍也と幽香は、プリズムリバー三姉妹の方に顔を向ける。
顔を向けた二人の目には束ねられた大量の木材を背負っているプリズムリバー三姉妹の姿が映った。
映った物を確りと自身の目に入れた龍也は、

「その大量に束ねている木材が会場設営に使う物か?」

一応の確認と言う事でプリズムリバー三姉妹に持っている木材の用途に付いて問う。

「ええ、そうよ」

問われた事に三姉妹を代表するかの様にルナサが肯定し、プリズムリバー三姉妹は持って来た木材を降ろし、

「あー重かったわー」
「もう、女の子にこんな重い物を運ばせて。迎えに来てくれても良かったのに」

メルランとリリカは愚痴の様なものを零しながら龍也を見る。

「悪かったって」
「はいはい、そんな事より」

二人からの視線を受けて取り敢えずと言った感じの謝罪を龍也がすると、話を変えるかの様にルナサは龍也に近付き、

「はい、これ」

紙切れを手渡した。
手渡された紙切れ龍也は反射的に受け取り、受け取った紙切れを軽く見た結果、

「これは……設計図か?」

この紙切れは設計図なのかと考える。
考えた事は正しかった様で、

「そう。これの通りにステージを作って欲しいの。龍也は男の子だし、こう言うの得意でしょ?」

肯定の言葉と共にルナサがこの設計図の通りにステージを作って欲しいと言う頼みをした。
された頼みを耳に入れながら龍也は設計図を注意深く見ていく。
設計図に描かれているステージの作りは単純なものであった為、自分でも十二分に作れると言う確信を龍也は得た。
まぁ、その様な確信を得れたのはそう言った工作の類を龍也がそれなりに得意としているからではあるが。
兎も角、ステージ作成を頼まれた龍也は、

「おっけ。じゃ、早速作りに掛かるか」

今から作成に取り掛かると言う事を口にした。

「お願いね。私達はその間、幽香さんと一緒に色々と打ち合わせをするから」

龍也が口にした事を耳に入れたルナサはそう言ってメルラン、リリカ、幽香の三人と打ち合わせを始める。
そんな四人に続く様にして龍也はステージ作成を開始した。






















龍也が太陽の畑でコンサートの会場を作った次の日。
コンサート開始前の会場に来ていた龍也は、

「流石だな……」

流石だなと言う言葉を呟いた。
何故ならば、まだコンサート開始時刻前だと言うのに太陽の畑はプリズムリバー三姉妹のライブを見に来た客で賑わっていたからだ。
この事から改めてプリズムリバー楽団の人気の高さを龍也が感じていると、

「あ、居た居た」

そう言いながら幽香は龍也に近付いて来た。
近付いて来た幽香に龍也は気付き、

「どうした?」

どうしたのかと言う声を掛ける。
すると、

「これを渡しに来たのよ」

幽香は龍也の目の前に立ち止まり、チケットを差し出す。

「チケットか」
「最前列のね」

差し出されたチケットを見て、これがチケットである事を龍也が認識したのと同時にチケットは最前列のものだと幽香は口にする。

「ああ、報酬のか」

口にされた事を受けて龍也は報酬の件を思い出し、チケットを受け取った。
その瞬間、

「それと、お金の方はライブが終わったら渡すって」

プリズムリバー三姉妹からの報酬の話を幽香は出す。

「分かった」

出された報酬の話を龍也が了承した後、

「それにしても、相変わらず凄い人気ね。プリズムリバー三姉妹のライブは」
「だよなぁ。ライブが始まるまで、まだ時間が在るって言うのに」
「それだけ早く、プリズムリバー三姉妹に会いたいんでしょ」
「確か、ファン倶楽部が存在してるんだっけか」
「ええ、確かそうだった筈よ。まぁ、向日葵を踏み荒らしたりする様な真似をしなければ私からは何も言わないけど」
「まぁ、流石にそんな奴は居ないだろ」
「そうね。もし居たりしたら、その時はそれ相応の目に遭って貰うけどね。それ相応のね……ふふ……」
「はは……」

幽香と龍也が軽い雑談を交わしていった。
そして、ライブが始まりそうになると二人は雑談を中断して会場内に入って行く。
会場内に二人が入ってから少しするとライブが始まる。
ライブが始まってから何曲かすると約束を守るかの様に、プリズムリバー三姉妹は龍也がリクエストした曲を演奏してくれた。
約束だったとは言え本当に自分がリクエストをした曲を演奏してくれたプリズムリバー三姉妹に龍也は内心で感謝しつつ、思う。
やはり、プリズムリバー三姉妹の演奏は素晴らしいと。
当然ではあるが、プリズムリバー三姉妹のライブは大いに盛り上がったと言う。
因みに、ライブの後には宴会が開かれた。





































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