幻想郷の何所か。
そんな場所を龍也は歩きながら、
「いやー、思わぬ臨時収入が入ったなー」
自身の財布の中身を見ながらホクホクとした表情でそう呟いた。
先日、太陽の畑で行なわれたプリズムリバー楽団のライブ。
そのライブで使うステージを龍也が作成、要するにアルバイトを行なった。
行なったアルバイトの報酬として、チケットの売り上げの一部が龍也の懐に入ったのである。
龍也からしたら予想外の収入と言えるものであった為、
「今度、宴会が開かれる時は少し奮発し様かな」
今度の宴会では持って行く物を奮発する事を考え始めた。
宴会に参加する際に龍也が持って行く物は人里で買ったお酒等が殆どであったので、高級肉とも言える物を買うのも良いかも知れない。
いや、それとも高級魚にすべきか。
と言った考えを廻らせながら気の向く儘に足を進めていると、
「……ん?」
突如として、龍也の目の前に霧が発生した。
発生した霧を警戒した龍也が足を止めて財布を仕舞ったのと同時に霧が少しずつ一箇所に集まっていき、
「やっほ!! 龍也!!」
集まった霧は萃香に姿を変える。
「萃香……」
行き成り現れた萃香に龍也が少し驚いている間に、
「この間神社でやった宴会以来だね」
萃香が軽い挨拶の言葉を掛けて来たので、
「そうだな」
龍也も軽い挨拶の言葉を掛けた。
そして、
「龍也は相変わらず幻想郷を旅して回ってるのかい?」
「まぁな」
「そう言う風に旅しているのって龍也位なもんだよねぇ」
「萃香は違うのか?」
「私の場合は幻想郷に散らばってるって感じだから、旅をしてるって言うのとは一寸違うかなー」
「ああ、確かに萃香の能力で幻想郷中に散らばっても旅をしているとは言えないか」
「そうそう。旅って言うのは確り自分の足で地を踏んで行かなきゃね」
「あー……それは解る」
萃香と龍也は雑談を交わしていく。
そして、交わしていた雑談に一段落付いたのを見計らったかの様に、
「そう言えば機嫌が良さそうだね。何かあったの?」
龍也の機嫌が良い事に萃香は気付き、何かあったのかと言う問いを投げ掛ける。
投げ掛けられた問いに対する答えとして、
「ああ、実は……」
機嫌が良い理由、臨時収入が入った事とその経緯を龍也は簡単に説明した。
「成程……太陽の畑でプリズムリバー楽団のライブをやって、しかもその後に宴会もした……」
された説明を頭に入れた萃香は納得した表情を浮かべるも、
「ああー、私も宴会に出たかったなー!! 何で気付かなかったかなー!!」
プリズムリバー楽団のライブ、と言うよりはその後の宴会に参加出来なかった事で直ぐに浮かべていた表情を悔しそうなものに変える。
宴会や騒がしいのが好きな萃香に取って、宴会に参加出来なかったと言うのは非常に悔やむものなのだろう。
だからか、
「ああー……今度はもっと散らせる範囲を広くし様かな……」
これからは散らす範囲を広くすると言う事を萃香は決め、改めてと言った感じで龍也の方に顔を向ける。
「ん? どうした?」
「そう言えばさ、龍也が新しく手に入れた力……使いこなせる様になった?」
自分を見て来た萃香に龍也が疑問を抱くと、萃香が龍也の手に入れた新しい力を使いこなせる様になったのかと聞く。
「ああ」
聞かれた事に龍也は迷う事無く肯定の返事をした。
映姫と戦う前ならいざ知らず、映姫と戦った後の今なら仮面の力を龍也は一戦闘の間位は維持し続けられる。
ともあれ、肯定の返事を龍也がした事で萃香は嬉しそうな顔になり、
「ならさ……」
龍也から間合いを取り、
「私と戦おうよ」
構えを取りながら宣戦布告を行なった。
突然の宣戦布告に龍也は少々呆気に取られるも
「そうだな……」
龍也はそう言いながら周囲を見渡し、
「ここなら誰かに被害が掛かる心配もないし……」
今居る場所なら戦っても問題無いと言う判断を下しながら構えを取り、
「それに……前に強くなって再びお前に挑んで勝つって宣言したからな」
そう言い放った。
すると、萃香はまた嬉しそうな顔になって、
「やっぱり、龍也は良い男だね」
龍也の事をやはり良い男だと称する。
そして、
「私ね、凄く楽しみにしてたんだよ。龍也とまた戦う時を。基本、龍也と会う時って宴会の時が多かったしね。流石に宴会の空気をぶち壊して私と戦おう……
ってな事は言えなかったし。宴会内での勝負事って言う手も在るけど……龍也とは普通に戦いたかったからね」
龍也とまた戦えて嬉しいと言う事を萃香は口にした。
口にされた中に在った宴会内での勝負事に付いて龍也は幾らか思い浮かべつつ、
「まぁ、宴会の時にガチで戦うって言うのは空気のぶち壊しになるからなぁ……」
宴会時に普通に戦うのは空気のぶち壊しと言う部分に龍也は同意を示す。
因みに、宴会時での勝負事で思い浮かんだのは早食いか酒飲み。
この他にも色々在るが少なくとも、ガチで戦闘は無いだろう。
在ったとしても、弾幕ごっこ位であろか。
一通り思い浮かんだ事を軽く整理しながら龍也は自身の力を変える。
朱雀の力へと。
それに伴い、龍也の瞳の色が黒から紅に変わった刹那、
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
龍也は力を解放した。
力が解放された事で龍也の紅い瞳は輝き出し、黒い髪は紅く染まっていく。
その変化していく様子を見ながら萃香は口元を釣上げ、龍也の変化が完了した瞬間、
「これ以上、御託は……」
「いらないよなぁ」
萃香と龍也の二人は同じタイミングで駆けながら拳を引き、
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」
引いた拳を突き出して激突させた。
拳が激突したのと同時に大きな激突音と衝撃波が発生する。
発生している激突音と衝撃波を無視する様に拳を激突させた儘の状態で力比べをしている中、
「へぇ……随分と力を上げたね、龍也。紅い髪と紅い瞳の状態でも、前に戦った時の龍也なら吹き飛んでいる位の力で殴ったのに」
不敵な笑みを浮かべながら萃香はそう言い、
「嬉しいよ、龍也」
嬉しいと言う言葉を零す。
「そいつは……」
零された言葉を耳に入れた龍也も不敵な笑みを浮かべ、
「どうも!!」
蹴りを放つ。
「おっと!!」
放たれた蹴りを萃香は空いている腕で防御し、
「とりゃ!!」
お返しと言わんばかりに蹴りを放った。
「くっ!!」
萃香から放たれた蹴りを龍也は萃香と同じ様に空いている腕で防御した。
拳と拳をぶつけ合い、空いている腕で相手の蹴りを防御する。
と言った様な状態を二人が維持してから幾らか経った頃、
「「ッ!!」」
何の前触れも無く、二人は弾かれる様にして距離を取った。
萃香との距離を取った龍也は両手から二本の炎の剣を生み出し、駆ける。
そして、萃香が自身の間合いに入った刹那、
「ッ!!」
龍也は右手の炎の剣を振り下ろす。
その瞬間、萃香は両手の拳に炎を纏わせ、
「はあ!!」
炎を纏わせた右の拳で炎の剣を迎撃する。
「チィッ!!」
振り降ろした炎の剣を迎撃された事で龍也は舌打ちしつつ、もう一本の炎の剣を振るう。
しかし、新たに振るわれた炎の剣も炎を纏わせた萃香の拳に迎撃されてしまった。
二本の炎の剣による攻撃を防がれてしまった龍也は、防がれてしまった二本の炎の剣を萃香の拳から離し、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
今度は連撃で言った感じで二本の炎の剣を連続で振るい始める。
次から次へと振るわれる炎の剣を萃香は迎え撃つ様にして、
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
己が拳を連続で放つ。
剣と拳によって繰り広げられる嵐。
そんな言葉が似合う様な勢いで二人は剣と拳をぶつけ合う。
幾度と無く剣と拳のぶつかり合い、そのぶつかり合いが何百回かを超えたタイミングで、
「ッ!!」
突如として萃香は後ろに跳んだ。
萃香が急に後ろに跳んだ事で龍也の炎の剣は空を斬り、攻撃を空振った隙を付く様にして萃香は拳を引き、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃ!!!!」
引いた拳を突き出すのと同時に、拳から巨大な炎の塊を飛ばす。
「ッ!!」
放たれた炎の塊を見た龍也は慌てて二本の炎の剣を交差させた防御の体勢を取るも、
「づあっ!!」
交差した二本の炎の剣に激突した炎の塊の威力が強過ぎた為、押し出される様な形で吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされてしまった龍也は自身の炎の剣に接触している炎の塊を、炎の剣に吸収させていく。
吸収されていく過程で炎の塊はどんどんと小さくなっていき、最終的に萃香が放った炎の塊は消失してしまった。
萃香の炎の塊を完全に吸収したのを理解した龍也は地に足を着けて停止し、顔を上げたタイミングで、
「ッ!?」
驚愕したかの様に目を見開いてしまう。
何故かと言うと、直ぐ目の前に拳を振り被っている萃香の姿が在ったからだ。
目の前に居る萃香に龍也は攻撃を加え様としたがもう遅く、攻撃する前に萃香の拳が龍也の頬に突き刺さり、
「がっ!!」
龍也は殴り飛ばされてしまった。
殴り飛ばされた衝撃の炎の剣が二本とも消失してしまうも、体勢を立て直そうと龍也は体を動かしたが、
「ずがっ!?」
体を動かし切る前に頭部が地面に激突し、転がる様にして吹き飛んで行ってしまう。
吹き飛んでから地面を数十回転程、転がった後、
「ッ!!」
地面に手を着けながら龍也は体勢を立て直して減速していく。
そして、完全に止まるのと同時に龍也の体に影が掛かる。
掛かった影の正体を知る為に顔を上げた龍也の目には、拳を振り被っている萃香の姿が映り、
「どーん!!」
勢い良く萃香の拳が振り下ろされた。
傍から見れば萃香の拳は龍也に直撃したと思われたが、
「……あれ?」
振り下ろされた萃香の拳の先に龍也の姿は無く、在るのは地面に拳を叩き付けた事で生まれたであろうクレーターだけ。
直撃させる気で振るった拳を避けられた事に驚きながらも龍也を捜そうとした瞬間、
「ッ!?」
萃香は蹴り飛ばされてしまった。
蹴り飛ばされた萃香は一体何が起きたのかと思いながら、蹴りが放たれたであろう場所に顔を向けた。
顔を向けた萃香の目には髪と瞳を翠にし、両腕両脚に風を纏った龍也の姿が映る。
まさかあの短時間で自身の力を変えて自分の攻撃を避け、逆に自分に攻撃を放って来たのかと言う事を萃香が考えた刹那、
「ッ!!」
龍也の姿が消えていた。
それを認識した萃香は無理矢理体勢を立て直し、
「はああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
己が本能の指し示す方へと拳を放つ。
同時に、激突音と衝撃波が発生した。
どうやら、萃香が放った拳は龍也が放った拳に当たった様だ。
不意打ちを防げた事で萃香が一安心した直後、
「零距離突風!!」
激突している龍也の拳から突風が放たれた。
「しまっ!!」
放たれた突風をまともに受けた萃香は上空へと吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされながら萃香が体勢を立て直した時、真横で自分と並走する様にして空中を駆けている龍也の姿が萃香の目に映った。
並走している龍也の存在を萃香が認識したタイミングで、龍也が拳を放つ。
放たれた拳は萃香に直撃すると思われたが、
「甘い!!」
龍也の拳を萃香は体を捻って回避した。
そして、体を捻った際の勢いを利用して、
「そら!!」
鋭い蹴りを龍也の後頭部に向けて叩き込む。
「がっ!!」
後頭部に蹴りを叩き込まれた龍也はその儘一直線に地面に向かって行き、地面に激突する。
叩き落される様な形で地面に激突した事で砂埃が宙を舞うが、萃香は気にせずに追い討ちを掛ける為に龍也が激突したであろう場所へ突っ込んで行く。
が、
「ッ!! 居ない!?」
突っ込んだ先に龍也の姿は無かった。
消えてしまった龍也を萃香が捜そうとした刹那
「ッ!!」
本能的に何かを感じ取った萃香は咄嗟に裏拳を放つ。
放った裏拳の感触から何かを破壊したと言う確信を得ながら、萃香は裏拳を放った方に顔を向ける。
すると、
「これは……水?」
萃香は裏拳を放った自身の手に水が付着している事に気付いき、少し距離が離れた場所に髪と瞳を蒼くしている龍也が居る事にも気付いた。
と言っても、それだけではない。
今の龍也の両手には龍の手を模した形をした水が纏わさっていた。
そんな龍也を見て、髪と瞳を蒼くした龍也は殺傷力が非常に高い技を使えると言う事を萃香が思い出している間に、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
龍也は萃香へと肉迫し、連続で水の爪を振るい始める。
次から次へと振るわれる水の爪を萃香は体を逸らしたり体の位置をずらしたりて回避していく。
暫らくの間、そんな状態が続いたからか、
「どうした? 避け続けるだけか?」
軽い挑発の言葉を龍也は萃香に掛けた。
挑発された萃香は、
「……確かに避け続けるだけって言うのは……私らしくないね!!」
不敵な笑みを浮かべながら龍也の挑発に乗る事を決め、両手を伸ばして龍也の両手を掴む。
龍也の両手を掴んだ際に水の爪が刺さって萃香の手から血が流れたが、萃香はその事を気にせず、
「はあ!!」
ここで流れを変えると言う様な勢いで龍也の胴体に蹴りを叩き込んだ。
「ぐうっ!!」
蹴りをまともに受けた龍也は蹈鞴を踏む様にして数歩後ろへと下がってしまう。
後ろに下がった事で生まれた隙を突くかの萃香は龍也の手から自身の手を離し、右手で龍也の顔面を掴みながら跳び上がり、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
力を籠めながら龍也を地面に向けて思いっ切り投げ飛ばす。
投げ飛ばされた龍也はその儘地面に激突して、地面を削る様にして吹き飛んで行く。
吹き飛んだ龍也を追う様にして萃香は飛行を始める。
飛行を始めて少しすると吹き飛んでいる龍也が萃香の真下に来たので、
「どーん!!」
力が籠もったドロップキックを萃香は龍也に叩き込んだ。
叩き込まれたドロップキックは龍也に直撃し、
「かっ!!」
龍也は地面に叩き付けられ、叩き付けられた場所に大きなクレーターが発生する。
後方に跳ぶ形で萃香は発生したクレーターの近くに降り立ち、クレーターの中をジッと見つめ始めた。
何故そんな事をしているのかと言うと、この程度で龍也を倒す事は出来ないと言う確信が萃香の中に有るからだ。
しかし、幾らクレーターの中を見ても龍也の姿は萃香の目に映らなかった。
若しかしたら地面に減り込んで脱出に手間取っているのではと言う考えが萃香の脳裏に過ぎった刹那、
「ッ!!」
背後から何かが飛び出して来る音が萃香の耳に入り、萃香は慌てて背後へと振り返る。
振り返った萃香の目には、髪と瞳の色が茶になって土で出来た巨大な脚を振り上げている龍也の姿が映った。
映った龍也の姿から髪と瞳が茶なら土等を操れると言う事を萃香は思い出しつつ、両腕を頭上辺りにまで持って行って交差させる。
その瞬間、交差していた萃香の腕に土で出来た龍也の脚が踵落しの要領で叩き込まれた。
「ぐ!! く……くく……」
予想以上に龍也が繰り出した一撃は重かった為、萃香は歯を食い縛って耐え様とする。
すると、突如として土で出来た脚が崩壊してしまった。
崩壊していく土で出来た脚を見ながら萃香が疑問を抱いた直後、
「ぐう!?」
萃香の頬に衝撃が走る。
頬に衝撃が走る事となった原因を考える前に、その答えが萃香の目に映った。
映ったものと言うのは龍也の拳。
そう、龍也の拳が萃香の頬に突き刺さった事で衝撃が走ったのだ。
崩壊した土の脚を隠れ蓑にし、自分の一瞬の隙を付いて拳を叩き込んだのだろうと萃香は推察しつつ、
「はあ!!」
強引に拳を放つ。
放たれた拳は龍也に直撃するが、
「痛ッ……らああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
直撃した萃香の拳を無視する様にして龍也は再び拳を放った。
「くっ!!」
再び放たれた拳の直撃を受けながら萃香は二つの確信を得る。
髪と瞳の色が茶の時は龍也の防御力が格段に上がっていると言うのが一つ。
もう一つは、
「防御力は上がっている様だけど、力そのものは炎、水、風の時より落ちてるよ!!」
純粋な力、パワーは炎、水、風の時よりも落ちていると言うもので、それを指摘する言葉と共に萃香は殴られた儘の状態で龍也を殴り返す。
された指摘は確かに正しいと言える。
玄武の力を使用している時は朱雀、白虎、青龍の力を使用している場合と比較してパワーが劣っている事を龍也自身自覚しているのだから。
故に、玄武の力を使用している時はパワー不足を補う為に土で出来た巨大な拳や脚で攻撃するなどの重量を活かした攻撃を行うのが龍也の基本である。
では、何故今の龍也は土で出来た巨大な拳や脚を使わずに戦っているのか。
その答えは、
「確かに力は劣っているがそれで早々に沈む程……俺は脆くはねぇぞ!!」
自信が有るからだ。
萃香、つまりは鬼の力で殴られても沈まないと言う自信が。
なので、隙を見付けながら重い一撃を叩き込むと言う戦法ではなく殴り合いと言う勝負を龍也は仕掛けたのである。
ともあれ、龍也の自信有る主張を受けた萃香は、
「成程ねぇ……」
ニヤリと言った感じの笑みを浮かべて口元を吊り上げ、
「私と我慢比べをする気か。その勝負……乗った!!」
龍也との殴り合いに応じる意思を見せ、龍也を殴っている拳を引いてもう片方の拳を放った。
放たれた拳を龍也はその身で受けつつ、殴り返す様にして萃香に放っている拳を引いてもう片方の拳を振るう。
振るわれた拳は萃香に直撃したが、当の萃香は直撃を受けた事を気にせずにまた拳を放つ。
勿論、萃香が放った拳は龍也に直撃したが、
「らあ!!」
直撃した拳など知った事かと言わんばかりに龍也も拳を放った。
お互い、防御を考えない殴り合い。
そんな殴り合いを何度も何度も繰り返していくと、龍也と萃香の二人は何時の間にか霊力と妖力を解放している状態になっていた。
そして、一体どれだけの拳を放ったのかが分からなくなった頃、
「「はあ!!」」
龍也と萃香の拳が相手の体ではなく相手の拳と激突し、大きな激突音と衝撃波が発生する。
激突音と衝撃波が発生した数瞬後、
「チィッ!!」
弾かれる様にして龍也は舌打ちをしながら後ろに跳んだ。
舌打ちをしているのを見るに、後ろに跳んだのは龍也の意思では無かったのだろうか。
となると、パワーで押し負けて龍也は後ろに跳んでしまったと言えるだろう。
兎も角、龍也が萃香から距離を取ったからか、
「はぁ……はぁ……いやー、流石だよ龍也」
若干息を切らせた萃香が妖力の解放を止めてそんな事を言い出す。
現在の萃香の風貌は服が多少ボロボロになり、所々から血を流していたり痣が出来ていると言う状態。
だが、萃香自身の戦意と言ったものは欠片も衰えてはいなかった。
それを感じ取った龍也はやはりと言った事を思っている間に、
「同じ鬼ならいざ知らず、私とここまで殴り合えた人間なんて龍也が初めてだよ」
萃香はそう言いながら口端から流れていた血を手の甲で拭う。
「はぁ……はぁ……そいつはどうも」
言われた事にそう応えながら龍也も霊力の解放を止めて口端から流れていた血を手の甲で拭った。
因みに、龍也も萃香と同じ様な状態である。
お互い、相手の状態を目で確認し合っている中、
「それはそれとして……」
場の流れを変えるかの様に萃香は数歩前に出て、
「体も十分に温まったから……そろそろいくよ」
不敵な笑みを浮かべ、
「ミッシングパープルパワー!!!!」
巨大化した。
巨大化した萃香の大きさは、龍也が以前戦った時よりも大きい。
少なくとも、パワーだけなら以前戦った時よりも上だなと言う予測を龍也がしている間に、
「さあ、私は見せたよ!! だから、龍也も見せてよ!! 新しく手に入れた力をさ!!」
萃香が龍也に手に入れた新しい力を早く見せる様に促した。
「良いぜ……見せてやるよ」
促された事に応えるかの様に龍也は見せると言いながら左手を額の辺りにまで持って行き、左手からどす黒い色をした霊力を溢れ出させ、
「ッ!!」
一気に左手を振り下ろす。
すると、龍也の顔面に仮面が現れて眼球の色が白から黒に変化した。
変化した龍也を見て、
「へぇ……それが……」
好戦的な笑みを萃香は浮かべる。
浮べられた笑みに応えるかの様に、
「ああ、俺が手に入れた新しい力だ」
今見せたのが萃香が見せる様に促して来た手に入れた新しい力である事を口にした。
その後、
「随分……変わった力を手に入れたもんだ」
「良く言われるよ」
萃香と龍也は軽く笑い合い、
「それじゃ……」
「第二ラウンドを……」
同じタイミングで駆け、萃香が体当たりの体勢を取ったのと同時に龍也は跳躍を行ない、
「始め様か!!」
「始めるか!!」
中間地点でぶつかり合う。
ぶつかり合った際の衝撃で砂煙が舞い上がった刹那、
「しっ!!」
萃香は龍也目掛けて拳を放つ。
が、放った拳から手応えと言ったものを萃香は感じなかった。
この事から避けられたのかと言う判断を萃香は下しつつ、
「上か!!」
放った拳を引っ込めながら反射的に顔を上げる。
顔を上げた萃香の目には、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
土で出来た巨大な拳を振り下ろしながら降下して来ている龍也の姿が映った。
映った龍也の姿を見た萃香は拳を引き、
「てりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
迫り来る土で出来た拳に向けて拳を繰り出す。
土の拳と萃香の拳は当たり前の様に激突し、大きな激突音と衝撃波が発生した。
暫らく間、土の拳と萃香の拳はぶつかり合っていたが、
「ッ!!」
突如として、ぶつかり合っていた土の拳が崩壊していくのが萃香の目に映る。
目に映った光景から先程と同じ様に崩壊した土の拳を隠れ蓑にする気かと萃香は考え、龍也を捜す為に顔を動かす。
顔を動かし始めてから直ぐに、
「正面!!」
龍也が居る場所を発見し、正面へと意識を集中させる。
自身の居場所がバレた事に龍也は気にした様子を見せずに右脚から土を生み出して、生み出した土を巨大な土の脚に変え、
「てええええええええええええりゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
変えた巨大な土の脚で回し蹴りを放った。
「っとお!!」
放たれた回し蹴りを萃香は左腕で防ぎ、
「らあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
右ストレートを繰り出す。
繰り出された右ストレートは龍也の胴体部に叩き込まれ、
「がっ!!」
龍也は殴り飛ばされ、殴れらた衝撃で土で生み出した巨大な脚は崩壊してしまう。
殴り飛ばされた龍也を追う様にして萃香が地面を駆けた時、
「痛ぅぅぅぅ……」
殴られた痛みを堪えながら龍也は顔面に手を持って行き、
「……仮面は無事か」
触れた仮面の感触から仮面に損傷が無い事を確認した。
おそらく、反射的に頭部を引いた事で無事だったのだろうと龍也は考える。
何せ、サイズ差がサイズ差だ。
萃香の攻撃を体の中心で受けるのは、全身で受けるのと同じと言えるだろう。
兎も角、今の自分の状態を確認した龍也は顔を正面に向ける。
すると、迫り来る萃香の姿が龍也の目に映った。
迫り来る萃香を見て、まだ自分の間合いに入るまで少しは時間が在ると感じた龍也は自身の力を変える。
玄武の力から白虎の力へと。
力を変換した事で龍也の髪と瞳の色が茶から翠へと変化して、両腕両脚に風が纏わさった。
力の変換が完了すると龍也は体勢を立て直し、猛スピードで萃香に向けて突っ込んで行く。
突っ込んで来た龍也を見た萃香は足を止め、
「はあ!!」
突っ込んで来ている龍也に合わせる様にして拳を放つ。
しかし、放たれた拳は龍也に当たる事は無かった。
何故かと言うと、拳が当たる直前に龍也が姿を消してしまったからだ。
「ちぃ!!」
物の見事に攻撃を避けられてしまった事で舌打ちをしながら萃香が拳を引いた直後、
「ッ!!」
連続した衝撃が萃香の腹部に走り始めた。
走り始めた衝撃の正体を確かめる為に萃香が顔を腹部に向けると、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
今までとは桁違いのスピードで自身の腹部に拳を叩きこんでいる龍也の姿が萃香の目に映る。
あの一瞬で自分の腹部にまで移動したのかと思いつつ、萃香は両手を使って龍也を捉え様としたが、
「ッ!!」
捉える前に萃香の体が龍也の拳撃の影響で宙に浮いてしまった。
宙に浮かんでしまった萃香はどんどんと高度を上げて行ってしまう。
高度を上げさせられている中で、ある一定以上の高さに達すると自分を叩き落す気だなと言う推察をした萃香は、
「そう思い通りにはさせないよ!!」
力尽くと言った感じで両腕を動かして龍也を掴んだ。
「しまっ!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
掴まれた龍也が動揺したの同時に萃香は急降下をし、龍也を地面に叩き付けた。
龍也が地面に叩き付けられた事で地響きと砂煙が舞う中、萃香が追撃の一撃を叩き込もうした瞬間、
「っとお!?」
突如として萃香が居る場所に竜巻が発生した為、萃香は弾き飛ばされてしまう。
弾き飛ばされた萃香が急ブレーキを掛けながら体勢を立て直した時、発生した竜巻は消えてそこから龍也が姿を現す。
現れた龍也は左目付近部分の仮面が割れ、額から血を流している状態だ。
が、まだまだ健在の様子。
そんな事を思いながら萃香が地面に手を着けて着地した刹那、龍也は萃香に両手を向け
「大嵐旋風!!」
両手に纏う風を合わせ、合わせた風を竜巻にして放った。
「ぐっ!!」
着地したばかりで防御の体勢が取れていなかった萃香は放たれた竜巻をまともに受け、吹っ飛んで行ってしまう。
吹っ飛んで行った萃香を視界に入れながら龍也は左手を左目付近に持って行き、左手からどす黒い色をした霊力を溢れ出させながら自身の力を変える。
白虎の力から青龍の力へと。
力を変換させながら龍也が左手を払う様に動かして仮面の修復を完了させたタイミングで、龍也の髪と瞳の色が翠から蒼に変わって両腕両脚に纏わさっていた風が消えた。
その瞬間、龍也は両手を上げて水球を生み出す。
生み出された水球はどんどんと大きくなり、相当な大きさになると龍也は上半身を後ろに逸らし、
「豪水球!!!!」
巨大な水球を萃香目掛けて投げ飛ばした。
迫り来る水球を見た萃香は地に足を着け、減速しながら腕を回転させ、
「そら!!」
拳を振るうのと同時に拳の先から巨大な炎の塊を撃ち出したのだ。
水球と炎の塊が激突すると、水蒸気爆発が発生した。
発生した爆発の衝撃で吹き飛ばされない様に踏ん張っている龍也の目に、腕を交差させて爆発の中を突っ切る様にして突っ込んで来ている萃香が映り、
「なっ!?」
映った萃香は更には腕の交差を解いて拳を繰り出して来た。
あの爆発を物ともしていない萃香に龍也は驚きながらも後ろへと跳んだ。
後ろへと跳んでいる最中に龍也は萃香が正面から突っ込んで来た事に納得していた。
何せ、今の萃香はかなりの巨体。
それだけ巨体ならば、龍也が踏ん張れねばならい状況でも今の萃香は踏ん張りを必要としないのであろう。
ともあれ、何とか攻撃を回避した龍也に、
「良い反応をするね!!」
良い反応をすると言う言葉を萃香は掛けながら拳を引き、
「もういっちょ!!」
引いた拳を突き出すのと同時に再び炎の塊を撃ち出した。
新たに撃ち出された炎の塊を避けるのは無理だと言う事を直感的に感じ取った龍也は両手を前へ突き出し、炎の塊を受け止めたが、
「ぐうううううううぅぅぅぅぅぅぅ……!!」
受け止めた掌がどんどんと焼けていってしまう。
掌が焼けていく痛みに龍也は耐えつつ、この儘では炎の塊が消える前に自分の両手が使い物にならなくなると言う事を予測した。
ならば、そうなるよりも前にこの状況を何とかする必要がある。
そう決断した龍也は覚悟を決めたかの様な表情になりながら両手から水の剣を生み出し、
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
生み出した水の剣を強引に掴んで上下に振るい、炎の塊を真っ二つに斬り裂いた。
真っ二つに斬り裂かれた炎の塊が龍也の両サイドを通って墜落し、爆発した刹那、
「がっ!?」
龍也は右頬に衝撃を感じながら吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされながら頬に走った感触から右半分の仮面が砕かれたのを感じ取った龍也の目に、仮面の破片が宙を舞いながら崩壊していく様子が映った。
目に映った光景から自分の感覚は間違っていなかったと言う確信を得た龍也は、視線を前方に向ける。
すると、近くに左腕を振り切った状態の萃香の姿が在る事が分かった。
どうやら、炎の塊を隠れ蓑にして近付いて来た様だ。
そんな推察をしながら先程自分がやった事をやられたと言う事と、右頬に走った衝撃は萃香に殴られたからかと言う事を龍也は理解した。
兎も角、この儘では萃香の追撃を受けるのは自明の理なので、
「水爪牙!!」
吹き飛ばされた状態の儘で二本の水の剣を消しながら連続して腕を振るい、指先から水で出来た五本の斬撃を龍也は連続して放ち始めた。
次から次へと迫り来る水の斬撃を見て、
「おりゃあ!!」
刃で言う側面に拳を叩き込み、水で出来た斬撃を崩壊させながら萃香は龍也との距離を詰めに掛かった。
どんどんと近付いて来る萃香を見て、
「くそ!!」
これでは碌な効果も無いと龍也は判断して、自身の力を変える。
青龍の力から朱雀の力へと。
力を変換した事で龍也の髪と瞳の色が蒼から紅に変わった。
力の変換が完了すると龍也は吹き飛ばされた状態を維持しながら両手を上げ、上げた両手の先に火球を生み出す。
生み出された火球はどんどんと大きくなり、大きくなっていく火球を見た萃香は足を止めて身構える。
身構えた萃香を見てここ儘火球を投げ飛ばしても当たりそうには無いと言う事を龍也は思いながら上半身を後ろに逸らし、
「豪炎火球!!!!」
大きくなった火球を萃香に向けて投げ飛ばした。
何時火球が来ても避けれる様な心構えでいた萃香であったが、
「あれ?」
ある疑問を抱いてしまう。
抱いた疑問と言うのは、投げ飛ばされた火球の軌道。
どう言う事かと言うと、火球の軌道が下方へと向かっているのだ。
これでは火球は自分ではなく自分の足元付近の地面に着弾すると言う事を、火球の軌道から萃香は予測した。
その瞬間、
「ッ!!」
萃香は龍也の狙いに気付いて慌てて後ろに跳んで距離を取った時、火球は龍也と萃香の中間地点の地面に激突に大爆発を起す。
「ぐう!!」
「くっ!!」
起きた大爆発に龍也と萃香は呑まれ、大きなダメージを受けながら二人は吹き飛んで行く。
そう、龍也の狙いと言うのは自爆覚悟で萃香にダメージを与えると言うものだったのだ。
幾ら投げ飛ばした火球が避けられそうだったとは言え、自爆覚悟のこの攻撃が吉と出るか凶と出るか。
ともあれ、結構な距離を吹き飛ばされた辺りで体勢を立て直せた龍也は強引な動作で地に足を着け、
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
少し地面を削りながら停止して息を整え、体中に走る痛みを堪えながら今の自分の状態を軽く確認する。
確認した結果、着ている服はボロボロ。
仮面に関しては左目付近にある物以外全て砕け散っている。
体の至る所に傷が出来ており、出来ている傷から大なり小なりの血が流れていた。
一見すると重傷に見えるが、体はまだまだ動く。
自身の状態を確認し終えた龍也はそう結論付けながら萃香を注視する。
距離が離れているせいではっきりとした状態までは分からなかったが、まだまだ健在と言う事を目に映った萃香の様子から龍也はそう判断した。
そして、この儘普通に戦っていても分が悪いと言う事を思った龍也は自身の力を変える。
朱雀の力から白虎の力へと。
力が変換され、龍也の髪と瞳の色が紅から翠に変わったのと同時に、
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
龍也は霊力を解放する。
解放された事で龍也の体中から霊力が溢れ出て、溢れ出た霊力の一部が白虎の姿を型作った。
龍也から解放された霊力を感じ取った萃香は龍也が勝負に出たと言う事を悟り、好戦的な笑みを浮かべながら口端を吊り上げ、
「やっぱりね……」
そう呟く。
やっぱりと言うのは龍也の底力に付いて。
以前、自身が起した異変で萃香が龍也と戦った時もそうであった。
ズタボロにされ、これ以上は無理と思える様な状態になっても龍也は立ち上がって戦ったのだ。
そんな状態の龍也から解放された霊力は、ズタボロの状態の者が出せる様なものとは思えない程に大きかった。
嘗ての戦いを思い返しながら四神龍也と言う男は追い詰められれば追い詰められる程に、想像以上の力を発揮する。
今までその様に考えていたが、考えていた事は正しいと言う確信を萃香は得た。
何故ならば、今の龍也から感じられる霊力は仮面を付けた時よりも上であるからだ。
普段から無意識の内に力を抑えているのか、潜在能力が漏れ出しているのかは萃香にも分からない。
だが、分かろうが分からなかろうが萃香にはどうでも良い事であった。
何故ならば萃香としては今この時、今この瞬間を、
「楽しむだけ!!」
楽しむだけだから。
萃香はその様に言い放ちながら妖力を解放し、右腕を回しながら右手に炎を纏わせる。
どうやら、龍也の攻撃を真っ向から迎え撃つ気の様だ。
本来であれば、萃香はその様な方法を取る必要は無かった。
萃香の能力、"密と疎を操る程度の能力"を使って小型のブラックホールを作り、龍也が体勢を崩したところに渾身の一撃を叩き込めば良いからだ。
が、そんな真似は、
「無粋だよねぇ……」
萃香に取っては無粋そのもの。
と言う事を萃香が零した刹那、龍也は猛スピードで萃香に向けて突っ込んで行った。
突っ込んで来た龍也を見た萃香が身構えた時、龍也と萃香の距離が半分程になる。
この事から思っていた以上に速いと言う事を萃香が思ったタイミングで、龍也は自身の力を白虎から青龍に変えた。
力を変えた事で龍也の髪と瞳の色が翠から蒼に変わり、白虎の姿を型作っていた霊力が青龍の姿に変わる。
そして、両足の裏に大きめの水球を生み出してから龍也はまた自身の力を変える。
青龍の力から朱雀の力へと。
力が変わった事で龍也の髪と瞳の色が蒼から紅に変わり、青龍の姿を型作っていた霊力が朱雀の姿に変わった。
水球を生み出している状態で青龍の力から別の力に変えた為、生み出した水球は崩れ落ちそうになってしまう。
しかし、水球が崩れ落ちる前に龍也は両足の裏から炎を生み出した。
生み出された炎が水球に接触したのと同時に水蒸気爆発が起こり、起こった水蒸気爆発を利用して龍也は一気に加速する。
「ッ!!」
一気に加速して来た龍也を見た萃香は、つい驚きの表情を浮かべてしまう。
萃香としては加速するにしても以前の様に炎を爆発させて来るものだと思っていたので、水蒸気爆発で加速して来る事は予想外であった様だ。
とは言え、何時までも驚いている萃香ではない。
直ぐに驚きの感情を抑えて龍也を注視する。
注視した萃香の目には髪と瞳が茶になり、溢れ出ている霊力の一部が玄武の姿を型作っている状態の龍也が映り、
「ううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
映った龍也は土で出来た巨大な拳を右手から生み出し、生み出した拳で殴り掛かっていた。
それに反応した萃香は迫り来る土の拳に合わせるかの様にして
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
炎の纏わせた拳を放つ。
そして、土で出来た拳と炎を纏わせた拳は激突して巨大な激突音と衝撃波を発生させるだけには留まらず、
「「ッ!?」」
大爆発が発生して、龍也と萃香を呑み込んだ。
大爆発が発生してから幾らかすると、爆発が晴れる。
爆発に呑み込まれた龍也と萃香の二人は、
「ぐうううぅぅぅ……」
「いつつつつつつ……」
無事、生きていた。
龍也と萃香の二人は前のめりの状態で倒れてはいるものの、生きている。
とは言え、二人共これ以上戦う事を出来ない様だ。
何せ龍也の仮面は完全に砕けてしまっており、眼球も髪も瞳の色も元の色に戻って霊力の解放も止まっている。
萃香にしては、妖力の解放が止まって体の大きさが元に戻っていた。
ともあれ、そんな感じの状態の中、
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えの龍也は体を動かして仰向けになると、
「はぁ……はぁ……はぁ……いやー……やっぱ龍也と戦うのは楽しいねぇ」
何時の間にか胡座を掻いて座っていた萃香が息を切らせながら龍也にそう声を掛ける。
既に起き上がれる程に体力を回復していた萃香を見て、
「……俺の負けか」
ポツリと自分の負けかと龍也は零す。
「んー……ダブルノックダウンみたいな感じだったから、引き分けだと思うけどねぇ」
「つっても、俺は起き上がる体力も無いのにお前は起き上がって座ってるじゃねぇか……」
零された内容の耳に入れた萃香は引き分けだと主張したが、自分と萃香の状態ではどちらが勝ちは分かるだろうと言う事を龍也は口にする。
「ほら、私は妖怪って言うか鬼だからね。体力とかタフさとか回復力には自信が有るのよ」
「種族の差なんて言い訳にはならねぇよ。俺が地に伏せ、お前が立ってる……て言うか座ってる。それが真理だろ」
龍也が口にした事に萃香がそう返すと、種族の差など関係無いと龍也は断言した。
「んー……龍也って結構頑固だねぇ」
断言された事を受けた萃香は龍也の事を頑固だと称しながら寝っ転がって両手の上に顎を乗せ、
「でも、やっぱり龍也は良い男だね。ほんと、攫って私のものにしたくなる位」
小さな声でそう呟く。
「ん? 何か言ったか?」
呟かれた事が聞こえなかったからか、龍也はついと言った感じで萃香に何か言ったかと聞く。
「何だろうね?」
聞かれた萃香は誤魔化すかの様な台詞を発して、
「それはそうとこの勝負。龍也は自分の負けだと思ってるし、私は引き分けだと思ってる。けど、龍也は自分の負けを撤回する気は無いよね?」
改めと言った感じで龍也にそう尋ねる。
「ああ」
「やっぱりね。でも、私も引き分けと言うのを撤回する気は無い」
ああと言う断言で尋ねられた事の答えとした龍也に、自分も今回の戦いの勝敗を引き分け以外で考える気は無いと萃香は言ってのけ、
「だからさ、また私と戦おうよ」
龍也の目を見ながらまた自分と戦おうと言う誘いを掛け、
「三度目の正直って言うでしょ。次に戦った時は私と龍也の意見が合致すると思うよ」
そんな誘いをした理由を述べた。
「……良いぜ。俺は今よりもっともっと強くなる。そして……次こそ萃香、お前に勝つ!!」
述べられた再戦の誘いを龍也は受け入れ、次は勝つと言う宣言を行なう。
「ふふ……」
行なわれた宣言を耳に入れた萃香は嬉しそうな表情を浮かべた。
それから暫らくした辺りで、立ち上がれる程に龍也の体力が回復する。
なので、龍也は立ち上がろうとしたのだが直ぐにそれを中断する事となった。
何故かと言うと龍也と萃香の近くに隙間が現れ、現れた隙間から八雲紫が出現したからだ。
聞くところによると、龍也と萃香の戦いを紫は観戦してたらしい。
龍也と萃香の二人がまたかと言う感想と相変わらずだと言う感想を抱いた刹那、紫はお酒を取り出した。
同時に取り出したお酒が超高級な物で在る事を紫が語ると、萃香は目を輝かせる。
そして、龍也、萃香、紫での三人でのプチ宴会が開かれた。
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