永遠亭に在る診察室。
そこで、

「いててててててててててててててててて!! もっと優しく!! 優しく!!」
「うるさい!! あんたみたいな馬鹿にはこれ位が丁度良いのよ!!」

龍也は鈴仙に怒られながら包帯を巻かれていた。
何故、龍也が永遠亭で鈴仙に包帯を巻かれているのか。
その答えは八雲紫に在る。
どう言う事かと言うと龍也、萃香、紫の三人で開かれたプチ宴会が終わった後、紫が龍也を隙間で永遠亭に送り込んだからだ。
余談ではあるが、萃香はこの程度の怪我は全然平気と言って永遠亭には行く事は無かった。
兎も角、永遠亭に送られた龍也が怪我を負った理由などを説明した結果、

「大体何!? こんな怪我を負った状態で酒盛りしたですって!? 馬鹿じゃないの!?」

鈴仙が怒りながら龍也に包帯を巻く、つまりは治療をする事になったのだ。
そんな風に龍也の治療をしている鈴仙を見ながら、

「うどんげ、そっちの腕に包帯を巻く前に先にそこに在る塗り薬を塗りなさい」

治療に関する指示を永琳は出す。

「あ、はい、師匠!!」

出された指示に鈴仙は了承の返事をして、塗り薬を龍也の腕に塗っていく。
塗り薬を塗られている感触を龍也は感じながら、

「そういや、何で鈴仙が俺の治療をしてるんだ?」

ふと出て来た疑問を口にした。
永遠亭で龍也が治療を受ける際、永琳から治療を受けるのが殆どだ。
だが、今回は鈴仙が龍也の治療をしている。
疑問が出て来るのも当然と言えるだろう。
ともあれ、龍也が口にした事が耳に入ったからか、

「あら、私じゃ不満?」

ムスっとした表情で鈴仙は自分では不満なのかと聞く。

「いや、別にそう言う意味じゃ無いんだけど……」

聞かれた龍也がそう言って何か言葉を続け様とした瞬間、

「それはうどんげに経験を積ませる為よ」

割り込む形で永琳が鈴仙に経験を積ませる為だと述べた。

「経験?」
「ええ、そうよ。薬の調合とかなら幾らでも経験を積ませられるけど、怪我人の治療って言うのは中々経験を積ませる事が出来ないのよね」

述べられた事を受けて疑問気な表情を浮かべた龍也に、経験の部分の説明を永琳は行なった。
そして、

「そうなのか?」
「そうなのよ。人里には置き薬を常備させているから簡単な怪我なら永遠亭に運ばれて来ないし、逆にここに運ばれて来る様な患者は私にしか
対処出来ない患者が多いしね」
「つまり?」
「つまり、うどんげに任せられる様な程好い怪我をした患者が来たからこうして任せてるって訳」
「成程。研修みたいな感じか?」
「そう言う事。まぁ、私が監督してるからミスは起こらないから安心しなさい。勿論、うどんげの研修をさせて貰っているから治療費は幾らか
安くさせて貰うわ」

龍也と永琳は軽い会話を交わしていく。
交わした会話の中で治療費が安くなる事を知って龍也がラッキーと思っている間に、

「……良し、包帯巻き終了」

先程塗り薬を塗った龍也の腕に鈴仙は包帯を巻き終えた。
その後、龍也を軽く見て、

「胴体と脚にはもう包帯を巻き終えているし、後は額だけね」

治療するべき箇所が額だけだと言う判断を下して、額に固まっている血を拭っていく。

「いてててててて、だからもう一寸優しく……」
「十分に優しくしてるわよ」
「じゃあ、もう一寸力を落として……」
「これ以上力を落としたら、固まった血が取れないわよ」
「そこを何とか……」
「何ともならないわよ」

固まった血を拭われている龍也が鈴仙と一寸した言い合いをしている間に、鈴仙は龍也の血を拭い終え、

「んー……これ位なら塗り薬だけで大丈夫ね」

額の傷を観察して塗り薬だけで良いと言う結論を下して、龍也の額の傷に塗り薬を塗っていった。
それから少し経った辺りで塗り薬を塗り終えた鈴仙が龍也の額に包帯を巻いていき、

「……はい、終了」

包帯を巻き終えると鈴仙は龍也の額から手を離す。

「ありがと」

治療が終わったのを認識した龍也は礼を言いながら入院患者が着る様な服を着て、

「そう言えば、俺の怪我の度合いってどの程度だったんだ?」

少し気になっていた事を尋ねる。

「そうね……内出血に痣に裂傷に擦過傷に打撲に火傷が多数。内蔵に軽いダメージ。後は骨に少し皹が入っていた箇所が幾らか在った程度ね。折れてはいなかったわ」

尋ねられた事に対する答えを永琳は述べながら木のケースから小瓶を取り出し、取り出した小瓶の中に在る錠剤を数個出す。
その後、永琳はコップに水を入れ、

「はい」

出した錠剤と水が入ったコップを龍也に手渡した。

「これは?」

手渡された物を見て疑問気な表情を龍也が浮かべてしまったからか、

「自然治癒力を高める錠剤よ。貴方の回復力なら明日明後日には治るでしょ」

永琳は錠剤がどう言った効能を持つかを簡単に説明する。

「ありがと」

された説明を頭に入れた龍也は礼を言いながら錠剤を飲み、

「そう言えば、俺の服ってどうなってるんだ?」

自分の服がどうなっているのかを問うと、

「それなら姫様が修繕中よ」

鈴仙から問うた事に対する答えが述べられた。

「ああ、結構ボロボロになってたからなぁ……あれ」
「ま、あの子にとっては丁度良い暇潰しになって良いんじゃないかしら」

述べられた答えを耳に入れた龍也が自分の服の状態を思い返している間に、永琳はお茶を飲みながらそんな事を言ってのける。
すると、

「それにしても、良くもまぁ鬼何かとガチンコで勝負する気になったわね」

呆れた表情になった鈴仙が龍也にその様な突っ込みを入れた。

「ははは……」

入れた突っ込みに返すかの様に龍也が苦笑いを浮かべた時、

「そう言えば貴方が戦った鬼……伊吹萃香だっけ? 彼女は?」

お茶を飲み終えた永琳が一寸した確認を取って来たので、

「萃香ならこの程度の怪我は平気だって言って何所かに行ったっな」

萃香の行方に付いて龍也は話す。

「彼女、妖怪と言うか鬼でしょ。鬼の回復力なら貴方と同程度の怪我でも問題無いわ。最も、貴方が冬の時の負った様な怪我なら話は別でしょうけど」

話された事を頭に入れた永琳は萃香が負った怪我が龍也と同程度のものなら問題無いと断言しつつも、冬に龍也が負った怪我と同程度だったら問題だと口にする。

「あー……あれは酷かったですね……」

口にされた冬に龍也が負った怪我と言う部分で当時の事を思い出した鈴仙は、つい同意してしまう。
龍也が冬に負った怪我と言うのは腹部に貫通の痕、心臓の圧迫、軽度及び重度の火傷、裂傷、擦過傷、腫れ、出血多量、骨折、打撲、内出血、内臓損傷等々。
良く生きていたなと思える程の怪我である。
生きていたのは龍也の生命力が高かった事と、永琳の医者としての腕が相当良かったからであろう。
ともあれ、嘗て龍也が負った怪我に付いて思い出したからか、

「貴方は人間にしては相当回復力が高いけど、それでも妖怪には及ばない。まして私や姫様、妹紅の様に蓬莱人……不老不死と言う訳でもない。だから、
もう少し自分の体を大切にしなさい」

龍也を心配する様な台詞を発した。

「そうそう。あんたの怪我の治療する身にもなりなさい」

それに続く形で鈴仙がそんな発言をした刹那、

「あらあら、心配なら心配ってはっきり言えば良いのに」

からかいの言葉を永琳は鈴仙に掛ける。

「べ、別にそんなんじゃありません!!」

そんな言葉を掛けられた鈴仙は若干顔を赤く染めながらそっぽを向いた。
ある意味お約束とも言える反応をした鈴仙を永琳は微笑ましく見ながら、

「取り敢えず、貴方の財布と懐中時計を返して置くわね。後、治療費の明細票」

財布と懐中時計と明細票を龍也に手渡し、

「財布の中から治療費だけを抜き取ってあるけど、一応確認してくれるかしら?」

財布から治療費だけ取り出したのだは、確認して欲しいと言う頼みをする。

「分かった」

頼まれた事に了承の返事をしながら明細票を見て、財布の中身を確認していく。
確認した結果、

「確かに」

治療費だけが財布の中から抜かれているのが確認出来た為、龍也は財布を仕舞う。
そして、懐中時計も仕舞った時、

「それと、大事を取って一泊位していきなさい」

一泊していけと言う提案が永琳からなされた。
包帯が巻かれた儘の状態で旅をすると言うのはあれである為、

「ああ、分かった。世話になるよ」

永遠亭に泊まっていく事を決める。
その後、

「と言う事は、今日はもう一人前余分に作らなきゃいけないのね」
「あら、一人前位なら大した手間じゃないでしょ」
「あー……何か悪いな」
「別に構わないわ。師匠の言った通り、一人前増えた位なら大した手間じゃないからね」
「あ、そうそう。一応龍也は怪我人だから、消化に良い物を作ってね」
「作る料理を俺に合わせても良いのか?」
「大丈夫よ。師匠もこう言っているし、余程不味い物を作らなければ姫様もお怒りにはならないでしょうからね」
「まぁ、姫様なら普段食べない物を食べれてラッキーと思うかも知れないわね」
「ああ……何かそんな気がする」
「前に龍也が入院した時に作った入院食、それを物珍しそうに食べたからね。強ち、間違っていないかも」
「入院患者が居ないのに、態々入院食を作る必要は無いしね」
「だよなぁ」

鈴仙、永琳、龍也の三人は雑談を交わしていく。
雑談が終わると龍也は診察室を出て、輝夜の部屋へと向う事にした。
何故かと言うと、自分の服の修繕状況は気になったからだ。
と言った感じで診察室を出た龍也は大した時間を掛ける事無く、輝夜の部屋の前に辿り着けたので、

「輝夜ー、居るかー?」

そう声を掛ける。

「入って良いわよー」

それから少しすると部屋の中から入室許可の返事か部屋の中から発せられた。
許可が出されたと言う事で龍也が襖を開き、輝夜の部屋の中に入る。
部屋の中に入った龍也は輝夜に近付き、

「俺の服の修繕状況はどうだ?」

早速と言わんばかりに自身の服の修繕状況を尋ねた。

「ジーパンの方は終わったから、後はジャケットとシャツだけね」

尋ねられた輝夜は服の修繕を続けた儘の状態で、そう答える。
もうそこまで修繕が進んでいる事に龍也は驚きつつも、

「ありがとな」

態々自分の服の修繕をしてくれている輝夜に礼の言葉を掛けた。

「別に良いわよ。私としても良い暇潰しになってるし」

礼を言われた輝夜はどうって事無いと言う表情でその様に返しつつ、

「でも、この事に恩義を感じているのなら……先ずは肩でも揉んで貰いましょうか」

肩が凝っていると言う動作をしながら自身の肩を揉む様に要求する。
服の修繕以外にも輝夜には色々と世話になっている事もあるからか、

「はいはい」

嫌な顔を一つせずに輝夜の要求を龍也は呑み、輝夜の背後に回って輝夜の肩を揉み始めた。

「やっぱり、結構上手いいわね」
「そういつはどうも」

肩揉みが上手いと言う褒め言葉を輝夜が発すると、龍也はどうもと返答する。
そんな風に穏やかと言える時間を過ごし始めてから幾らか経った頃、

「んー……一寸お腹が空いてきたわね」

お腹が空いて来たと言う事を輝夜は呟き、

「と言う訳で龍也、何か持って来なさい」

龍也に何か持って来る様に命令を出す。

「はいはい、仰せの儘に」

出された命令を龍也は了承して輝夜の肩揉みを止め、小腹を満たせる類の物を探しに向った。
余談ではあるが、龍也のこの日の大半は輝夜の小間使いをする事で終わったと言う。





















龍也が永遠亭に一泊してから次の日。

「ありがとう、世話になったな」

何時もの服装に戻った龍也が永遠亭の玄関の前でそう口にした。
口にした先に居た鈴仙は、

「幾ら師匠の自然治癒力を高める薬を飲んだと言っても、あの怪我をたった一日で歩き回って問題無い程にまで回復するなんてねぇ……」

少し呆れた表情になりつつも、

「今度は怪我しない様にね」

また怪我をしない様にと言う言葉を掛ける。
その後、一緒に居た永琳は周囲を見渡していき、

「あら、てゐは何処かしら?」

てゐの居場所は何処かと呟いた。

「そう言えば……今日は見てませんね」
「ああ、だから何か足りなかったのか」

呟かれた事が耳に入った鈴仙がそんな事を言うと、納得したと言う表情になった。
何時もであれば昨日の夜か今の時点で『お金を入れると幸福になれるよ』と言いながら賽銭箱を見せてくる筈なのに、今回はそれが無い。
ともあれ、てゐが居ない事が分かったからか、

「ま、てゐの事だから迷いの竹林で遊んでるんでしょうけど」

自分なりの推察を鈴仙は述べた。
すると、

「なら、後で貴女に探して来て貰おうかしら」
「え!? 私がですか!?」

てゐ探索の命令を永琳が鈴仙に出した為、驚いた表情を浮かべながら鈴仙は永琳の方に顔を向ける。

「貴女以外誰が居るのよ?」
「うう……はい、了解しました」

顔を向けられた永琳はシレッとした表情をしながらその様に言うと、がっくりと肩を落としながら了承の返事をして鈴仙は思う。
不用意な発言は控え様と。
そんな二人の様子を見ながら、

「それじゃ、またな」

またなと言う声を掛けながら龍也は二人に背を向ける。

「ええ、またね」
「さっきも言ったけど、怪我しない様にね」

それに気付いた永琳と鈴仙が別れの挨拶を掛けた後、龍也は永遠亭を出て旅を再開した。






















龍也が永遠亭を出発し、旅を再開してから暫らく。
日も暮れそうと言う時間帯になった頃。
龍也は、

「ここ……何処だ?」

迷いの竹林の中を迷っていた。
何時もならば、永遠亭から迷いの竹林の出口まですんなりと行ける筈なのに。
そう思いながら龍也は周囲を見渡し、

「てゐの賽銭箱に金を入れなかったせいか?」

迷っているのはてゐの賽銭箱にお金を入れなかったせいかと考える。
永遠亭に居る時、若しくは出る時に龍也はてゐの賽銭箱にお金を入れている。
そのお陰か、龍也は今まで永遠亭を出る時は迷いの竹林の出口まで迷った事が無い。
だが、今回は見事に迷ってしまった。
だからか、

「ま、初めて一人で迷いの竹林に入った時も思いっ切り迷ったしな。やっぱり、今まではてゐのお陰で迷わなかったのかな?」

龍也はそう考えつつ、足を進めて行く。
適当に彷徨ってて、てゐに会えればそれで良し。
会えなかったとしても、それはそれで良いのだ。
別段、急ぐ旅路では無いのだから。
会えなかったら会えなかったで迷いの竹林を自力で、且つ徒歩での脱出に挑戦するだけ。
と言う様な予定を立てながら龍也は歩き続ける。
それからまた暫らくすると、完全に日が落ちてしまった。
ここまで日が落ちてしまったのなら寝床となる場所を探し始めた方が良いなと言う判断を龍也がした刹那、

「ッ!!」

少し離れた場所から草と草が擦れる音が龍也の耳に入って来る。
時間帯が時間帯なので妖怪かと推察しながら龍也は足を止め、音が発せられたであろう方に体を向けた。
体を向けた先に居るであろう音の発生源はどんどんと龍也に近付いて行き、   

「あれ? 龍也?」

草むらから妹紅が姿を現す。

「……妹紅?」

現れた妹紅を見た龍也が警戒心を解いたタイミングで、

「こんな時間にこんな所で何をやっているの?」

ここで何をしているのかと言う問いを妹紅は投げ掛けて来た。

「ああ、実は……」

投げ掛けられた問い対する答えを龍也が話すと、

「成程、それで迷いの竹林を彷徨っていたと……」

妹紅は納得した表情になり、

「でも、良くもまぁ鬼とガチンコ勝負をし様と思ったわね」

少し呆れた顔をしながらそう言う。
そして、

「男の子はやんちゃな位が丁度良いって言うけど、龍也のはやんちゃを超えてるんじゃない? この前の六十年周期の異変の時も閻魔様相手に戦ったって言うし」

龍也の場合はやんちゃを超えているのではと言う指摘を行なった。

「ははは……」

行なわれた指摘を受けた龍也は苦笑いを浮かべながら後頭部を掻くと、

「ま、良いわ。ここで会ったのも何かの縁。私の家に泊めて上げるわ」

龍也を自分の家に泊めて上げると言う提案を妹紅はして来たので、

「良いのか?」

つい良いのかと龍也は聞き返してしまう。

「ええ。付いて来て」

聞き返された妹紅は肯定の言葉と共に自分に付いて来る様に言って歩き出したので、龍也も妹紅を追う形で歩き出す。

「そう言えば、妹紅は何処へ行ってたんだ?」
「一寸慧音と会ってたのよ。そしたらこれを貰ってね」

歩いている中で龍也が妹紅にその様な問いを投げ掛けると、慧音と会っていた事を妹紅は話しながら大き目の包みを龍也に見せた。

「それは?」
「おにぎりとか野菜炒めとかよ。私の住んでる場所が場所だからね。筍や魚ばかりじゃ健康に悪いって言ってこう言うのをくれたよ。慧音、私が不老不死
だって事を忘れてるのかしら?」

見せられた包みを見て疑問気な表情を浮かべた龍也に妹紅が包みの中身と誰から渡されたのかと言う事を教え、一寸した疑問を零した瞬間、

「それだけ妹紅の事を心配してるんじゃないのか?」

零された疑問に対する答えの様なもの龍也は口にする。
すると、

「……ま、一応ありがたくは思ってるけどね」

妹紅は少し照れ臭そうな表情になりながらそう呟いた。
そんな妹紅を少し微笑ましく龍也が思ったのと同時に、妹紅は龍也の方に顔を向け、

「何か言いたそうね」

龍也の心中を察したかの様な言葉を掛ける。

「いや、別に」

掛けられた言葉を受けた龍也はドキリとしながらも、それを表に出さずに別にと言う言葉を発する。

「ふーん……」

発せられた言葉を耳に入れた妹紅は今一つ納得していないと言う感じであったが、

「まぁ、良いわ」

この話はこれで終わりと言った様に妹紅は顔を正面に戻し、

「この辺りは少し滑り易いから、転ばない様に注意してね」

転ばない様にと言う注意をした。

「ああ、分かった」

された注意を了承しながら龍也は地面に意識を集中させ、妹紅の後を追って行く。
それから少し経った辺りで、

「ここが私の家よ」

そう言いながら妹紅は足を止めた。
足を止めた妹紅に続く形で龍也は足を止めて顔を上げ、

「へー……ここが」

妹紅の家を視界に入れる。
視界に入った妹紅の家は、木造建築の一軒家と言った感じだ。
家自体の大きさはそれなりにある為、龍也一人泊まっても何の問題も無さそうである。
と言う様な事を龍也が思っている間に、

「さぁ、入って」

妹紅が龍也に自分の家へ入る様に促す。

「お邪魔します」

促された龍也はそう言いながら妹紅の家に上がる。
その瞬間、妹紅は指先から炎を生み出して蝋燭に火を着けた。
蝋燭に火が灯ったのを確認した妹紅は生み出していた炎を消し、蝋燭を持ちながら居間へと移動する。
そして、蝋燭の火を使ってランプに火を着け、

「ふぅー……」

妹紅は息を吹き掛けて蝋燭の火を消した。
ランプに火が着いた事で居間全体が明るくなると龍也は部屋の中を見渡していき、

「へー……結構綺麗にしてるな」

結構綺麗にしていると言う感想を抱く。

「そりゃね。油虫とか出たら嫌だし」

抱かれた感想に妹紅は綺麗にしている理由を話しながら妹紅は座布団と箸を持って来て、

「そこに座って」

持って来た座布団を引いて、龍也に引いた座布団に座る様に言う。

「ああ」

言われた事に了承の返事をした龍也が座布団の上に座ったのと同時に、何時の間に自分の分の座布団を引いていた妹紅が腰を落ち着かせて包みを床に置いて開く。
開かれた包みの中にはおにぎりが包まれた包みと、大きな鍋が出て来た。
出て来た鍋の蓋を開くと野菜炒めが入っている事が分かり、

「さ、冷めない内に食べましょうか」

一応中身を確認した妹紅が食べ様と口にする。

「今更だけど、俺も貰っても良いのか?」

口にされた事を耳に入れた龍也がつい今更ながらの事を漏らした刹那、

「ええ、良いわよ。私一人じゃ食べきれないしね。慧音、私の胃袋の大きさ分かってるのかしら?」

漏らされた事を妹紅は肯定しながら龍也に箸を手渡す。

「そっか。そう言う事なら、ありがたく頂かせて貰うな」

手渡された箸を受け取りながら龍也は食事を頂く事を決め、早速と言わんばかりに箸を野菜炒めに伸ばした。
そんな龍也を見て、

「男の子って、食い意地を張っている子が多いのかしら」

男の子は食い意地を張っているのが多いのかと言う事を思いながら、妹紅も野菜炒めに箸を伸ばす。
二人揃って野菜炒めを食べ始めた瞬間、

「美味い」

美味いと言う感想が龍也の口から零れたのを合図にしたかの様に、

「慧音は料理が上手だからね」
「確かに。慧音先生の作る料理って美味いよな」
「そう言えば、龍也は慧音の家に泊まった事が在るんだっけ。それなら、慧音の料理の上手さを知っていても当然か」
「人里に泊まる時は慧音先生の家か阿求の屋敷に泊まってるからなぁ。本当、世話になってるよ」
「慧音の家は兎も角、阿求……稗田家の屋敷に平然と泊まれるって言うのも凄い話ね」
「そうなのか?」
「そうよ。稗田家……と言うよりは阿求ね。阿求は色々と大切な存在だから、そう易々と宿泊は許可されないわ」
「あ、それは聞いた事はある」
「慧音から聞いたけど、龍也は人里の子供達を助けた事が在ったんでしょ? それで信用を得たんじゃない?」
「俺が初めて阿求の屋敷に泊まった時は、まだ子供達を助ける前だったぞ」
「なら、外来人と言う理由だけで宿泊の許可を出したのかしら? あの子、好奇心が結構旺盛だから」
「あー……言われてみればそんな感じがするな」
「その好奇心で余計な事に首を突っ込んで、痛い目を見たりしなければ良いけど」
「まぁ、そこは一寸心配だな」

妹紅と龍也は雑談を交わしつつ、食事を進めていった。
雑談しながらの食事であったからか、

「「ご馳走様」」

大した時間を掛ける事無く二人は食事を終える。
その後、

「さて、この鍋は洗って慧音に返さないと」

空になった鍋を洗わなければと言いながら、妹紅は鍋を持って立ち上がった。

「手伝おうか?」
「別に良いわ。龍也はのんびりしていて」

鍋洗いを手伝おうかと口にした龍也に妹紅はのんびりしている様に言って台所に向かって行く。
客と言う立場である龍也の手を煩わせたくは無いのだろうか。
ともあれ、のんびりしていろと言われたのだ。
言われた通りにのんびりしてい様と思いながら龍也は壁に背を預け、特に何かを考えると言う事をせずにボケーッとした表情で天井を見詰める。
それから少しした辺りで台所から戻って来た妹紅は洗った鍋を部屋の隅の方に置き、同じく部屋の隅の方に置いて在った布団を手に持ち、

「布団はこれを使って」

龍也に近付きながらそう述べ、

「布団を使う事なんて殆ど無かったから綺麗なものよ」

布団が綺麗であると言う補足を行なう。

「殆ど使わないって……寝る時はどうしてるんだ?」
「それは壁を背にして」

行なわれた補足の中に在った布団を殆ど使わないと言う部分に龍也が疑問を抱くと、普段どんな方法で寝ているのかを妹紅は龍也に教えた。

「それで良く寝れるな……」
「幻想郷に来る前は、私も龍也の様に旅をしてたからね。その殆どが野宿だったから、夜中に山賊や野盗や妖怪の襲撃とかも在ったのよ。で、そう言う時に直ぐ
戦闘に入れる様に木を背にして寝る様になったの。そんな事を長年続けていたら、自然とそう言う体勢で寝れる様になったって訳」

妹紅の寝方を知ってその様な感想を龍也が抱くと、壁を背にして寝る様になった経緯を妹紅は語りつつ、

「と言うか、幻想郷中を旅して回ってる龍也にもこの手の技能は必須技能だと思うけど?」

どうして幻想郷中を旅しているのにこの手の技能を持っていないのかと言う様な事を龍也に問う。

「あ、俺の場合は能力を使って簡易型の土の家を作ってるからな」

問われた事に対する答えを龍也が発すると妹紅はポカーンとした表情になるも、

「ああ……そう言えば貴方の能力って炎、風、地、水を自由自在に操れたりするんだっけ。便利な能力よね」

直ぐに龍也の能力を思い出し、納得した表情になった。
そして、

「龍也の能力なら火を起こすのに火打石などを使う必要も水場を探す必要も無いし、おまけに寝る場所の準備をする必要も無いのよね。おまけに服な等が
濡れても直ぐに乾かせるみたいだし」
「実際、寝る時はこの能力のお陰で楽だと思える事が多々在るからなぁ。特にさっさと寝たい時とか」
「私の場合だと、火を起こすのは私自身の力で済んでいるけどそれ以外は探したり何なりをしないといけなかったかのよねぇ」
「あー……聞いただけで大変だって言うのは分かった」
「実際、大変だったわよ。まぁ、あの頃はこうやって一箇所に留まり続ける様になるとは思わなかったけど」
「そうなのか?」
「そうよ。私は蓬莱人……不老不死。何十年も姿形が変わらない者が一箇所に留まっていたら、怪しく思われるって話だけじゃ済まないでしょ」
「成程。怪しく思われる処か、村八分になりそうだな。時代が時代そうだし」
「村八分で済めば良い方だけどね」
「……幻想郷に来るまで、妹紅には相当な苦労が在ったって事は分かった」
「まぁ、これでも長い時を生きて来たからね。色々在ったのよ」
「俺も幻想郷に来てからは色々と経験したと言えるけど、妹紅には負けるよ」
「色々と経験ねぇ……そうだ。折角だから、幻想郷を旅している龍也の話を聞かせてくれないかしら?」
「俺の話を?」
「ええ。私は基本的に迷いの竹林と人里位しか行き来しないから、この二つの場所以外に少し興味が有るなのよ」
「それで俺の話を聞きたいと。別に良いぞ」
「ありがと、龍也」
「妹紅には色々と世話になってるからな。これ位別に良いって」

妹紅と龍也は雑談を交わしていく。
そして、龍也は眠くなるまで妹紅に幻想郷を旅して見聞きした事等に付いて色々と話していった。






































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