龍也が妹紅の家に泊まった翌日。

「本当に良いの? 迷いの竹林の外まで案内しなくて?」

朝食を食べた終えた後、家の外で妹紅は龍也にそう尋ねる。

「ああ、別に急ぐ旅路でもないからな。のんびり行くさ」
「そう……まぁ、龍也の強さなら問題ないとは思うけど気を付けてね」

尋ねられた龍也がそう返すと妹紅は少し呆れた表情になりながら気を付ける様に言う。

「ああ、心配してくれてありがとな」

態々自分の事を心配してくれた妹紅に龍也は礼の言葉を掛け、妹紅に背を向けた時、

「あ、一寸待って」

何かを思い出したと言う表情になった妹紅が龍也を呼び止めた。

「どうかしたか?」
「渡し忘れてた物が在ってね」

呼び止められた龍也が再び妹紅の方に体を向け直すと、妹紅は龍也を呼び止めた理由を述べる。

「渡し忘れた物?」
「少し待ってて」

述べられた事に疑問を覚えた龍也が首を傾げたのと同時に、少し待つ様に妹紅は言って家の中に戻って行く。
それから少し経った頃、家の中から妹紅が戻って来て、

「はい、これ」

手に持っていた包みを龍也に手渡した。

「これは?」
「おにぎりよ。朝食作る時にお米が余ったから作ってみたの。良かったら、お腹が空いた時にでも食べて」

手渡された包みを見て龍也が疑問気な表情を浮かべると妹紅が包みの中身を話し、少し気恥ずかしそうな声色でその様に述べる。
包みの中身とそれを渡して来た理由を知った龍也は、

「ああ、ありがとう。腹が減ったら食べさせて貰うよ」

ありがとうと言う言葉と空腹になったら貰うと口にしながら龍也は包みを受け取った。
そして、

「それじゃ、またな」
「ええ、またね」

龍也と妹紅が別れの挨拶を交わした後、今度こそと言った感じで龍也は妹紅の家を後にする。






















龍也が妹紅の家で一泊し、妹紅の家を後にしてから数日経ったある日。
龍也は、

「お、筍発見」

未だに迷いの竹林内を彷徨っていた。
まぁ、この状況はある意味当然と言えるだろう。
迷いの竹林は素人が易々と抜け出せる様な場所では無いのだから。
ともあれ、未だに迷いの竹林内を彷徨っている状況ではあるものの、

「ま、永夜異変が終わった後に迷いの竹林に入った時は一ヶ月位は彷徨っていたからな。気長に行くか」

気にした様子を龍也は全くと言って良い程に見せず、そんな事を呟きながら近くの岩に腰を掛けた。
そして、自分の力を朱雀の力に変えてつい先程手に入れた筍を焼いて食べ様と言う予定を龍也が立てた時、

「……ん?」

近くに見える草が揺れている音が龍也の耳に入る。
この事から妖怪でも現れたのかと思った龍也が身構えた時、

「あれ、お兄さん?」

揺れていた草の中からてゐが姿を現した。

「てゐ」

現れたてゐをを見て龍也が安心した刹那、てゐが現れた草の中から妖怪兎が何体も姿を現す。
てゐだけではなく妖怪兎も現れた事に龍也が驚いたのと同時に、

「こんな所で会う何て奇遇だね」

龍也の隣に腰を落ち着かせたてゐがそんな言葉を掛けた。

「そうだな」

掛けられた言葉に同意しながら龍也は筍を岩の上に置き、てゐの方に顔を向け、

「少し前に永遠亭の方に行ったんだけど、お前居なかったよな。何所に行ってたんだ?」

永遠亭には居なかったが何所に行っていたのかと聞く。

「ふふふ……内緒」

聞かれたてゐは悪戯を企んでいる子供の様な笑みを浮かべながらそう答えた。
てゐが浮かべた笑みから、何か碌でも無い事を企んでいるのではと龍也が思った瞬間、

「処でお兄さん」

てゐは何処からか小さな賽銭箱を取り出し、

「この中にお金を入れると幸運が訪れるよ」

お約束とも言える台詞を口に出す。
ともあれ、口にされた事を受け、

「そんな事を言わなくても賽銭位は入れてやるって」

持っていた筍を近くに置きながら龍也はポケットから財布を取り出し、取り出した財布の中の小銭を何枚か賽銭箱の中に放り込む。
賽銭箱の中に小銭が入ったのを確認したてゐは、

「えへへ」

嬉しそうな表情になる。
そんなてゐを見て、

「てか、そんなに賽銭を強請るなよ。何か、お前が霊夢に見えて来たぞ」
「えー、私はあの巫女みたいに守銭奴じゃないけどなー」

その様な突っ込みを龍也が入れると、てゐは心外だと言う様な言葉を返した時、

「それはそれとして、前から気になってたんだが何だってそんなに金を集めてるんだ? 何か欲しい物でも在るのか?」

ふと思い出したと言う様な感じで、龍也はてゐにお金を集めている理由を問う。

「えへへー、内緒」

問われたてゐは可愛らしい笑みを浮かべながら内緒と答えた。
答える気が無いのであれば無理に問い質すのもあれだと龍也は考え、この話題を打ち切る事にした直後、

「そう言えば、お兄さんって何しに永遠亭に行ってたの? やっぱり怪我の治療?」
「正解。萃香……鬼と戦ってな。その時の治療だ」
「……お兄さん、良く鬼と戦う気に何かなったねぇ」
「そうか?」
「そうだよ。普通……と言うより妖怪でも進んで鬼とは戦おうとはしないよ」
「そう言や……鬼って昔は妖怪の山を支配してたんだっけか。それが戦おうとしない理由か?」
「いや、単純に鬼と言う種族が強いからだね。言ってしまえば戦っても勝ち目が薄いからだよ」
「別に俺は勝ち目が在るから萃香と戦った訳じゃ無いんだけどなぁ……」
「皆が皆、お兄さんの様な感じで戦う訳じゃ無いからねぇ」
「そう言うもんか?」
「そう言うものだよ。避けれない戦いなら兎も角ね」

てゐと龍也の二人は雑談を交わし始める。
それから暫らく経った辺りで、

「んー……良い休憩になった」

そう零しながらてゐは岩の上から降り、

「それじゃまたね、お兄さん。行くぞお前等ー」

龍也に一声掛け、妖怪兎達を引き連れて去って行った。
去って行ったてゐと妖怪兎達を見送った後、食事にし様かと思った龍也が置いておいた筍を掴んだ瞬間、

「……あれ?」

掴んだ際の感触が筍で無い事を龍也は感じ取り、握っている手に目を向ける。
すると、筍ではなく竹が握られている事が分かった。
何故、筍が竹に変わったのかと言う疑問が生じたのと同時に、

「……てゐか」

先程まで雑談を交わしていたてゐが筍と竹を入れ替えたのではと言う可能性が龍也の頭に過ぎる。
と言うより、てゐ以外に考えられないだろう。
何せ、筍を岩の上に置いてから龍也はてゐと妖怪兎以外に会ってはいないのだから。
十中八九位の確率で筍が竹に変わったのはてゐの仕業であると言う結論を出した龍也ではあるが、

「ま、いっか」

特に気にした様子を見せずに岩の上から飛び降りた。
こんな事で一々目くじらを立てても仕方が無いと言う事であろうか。
兎も角、岩の上から降りた龍也は再び足を進め始めた。






















龍也が再び歩き始めてから数十分程経った頃。

「……出れたよ」

龍也は迷いの竹林の出口に立っていた。
永遠亭を出発して以降、ずっと迷いの竹林内を彷徨っていたと言うのにこうも簡単に出れた事から、

「……やっぱ、てゐのお陰か」

そう呟きながら龍也は迷いの竹林に体を向ける。
迷いの竹林内で迷っている時にてゐと会って賽銭箱にお金を入れると、すんなりと迷いの竹林から出る事が出来た。
今回もその通りになったので、てゐのお陰で迷いの竹林から楽に出るのが可能になったと言う事に確信を龍也が得た後、

「ま、折角出られたんだ」

迷いの竹林から背を向け、

「さーて、次は何所へ行こうかなー」

次に向かう場所を決めない儘、龍也は足を動かし始める。






















龍也が迷いの竹林を後にしてか幾日か経った頃。
龍也は、

「しくじった……ここに入るべきじゃなかった……」

魔法の森の中に来ていた。
それはさて置き、龍也はどうしてそんな事を呟いたのか。
その答えは、

「……暑い」

暑いからである。
只暑いだけなら龍也も我慢出来たであろうが、現在の魔法の森にはムワッとした暑さが在るのだ。
要するに、湿度がかなり高いのである。
魔法の森は湿度が高かったり低かったり、日によってバラバラなのだと言う事を何時だったか魔法の森に住んでいる魔理沙とアリスから聞いたのを龍也は思い出す。
思い出した事から、今日は偶々湿度が高い日に当たってしまったかと言う事を連想した刹那、

「あー……いかんいかん、暑さで頭がボーッとした来た」

暑さのせいで頭がボーッとして来た事を自覚した龍也は軽く頭を振って意識を安定させた。
そして、着ているジャケットを脱いで肩に掛ける。
これで少しは涼しくなるかと龍也は思ったものの、

「……暑い」

残念ながら、涼しくなる事はなかった。
だからか、

「あー……この近くに魔理沙かアリスの家なかったかな?」

避暑地として魔理沙とアリスの家を求めるかの様に、一旦立ち止まってキョロキョロと周囲を見渡していく。
だが、

「そう都合よく見付かりはしないか」

周囲に二人の家らしき建物は見られなかった。
まぁ、見付からないのであれば仕方が無い。
取り敢えず二人の家を探すのを目的に行動するべきかと龍也は考え、足を再び動かし始めた。
魔法の森の中を歩いていれば魔法の森特有の妖怪などに襲われる事が在るのだが、今回はそれが無い。
妖怪に襲われないのは、妖怪もこの暑さには参っているのではないか。
その様な推察をしながらも足を動かし続け、それから幾らか経った辺りで、

「…………お?」

家らしき建物が龍也の目に映った。
だからか、龍也は早足でその建物に近付いて行く。
近付けば近付く程に建物の形がはっきりして来た為、

「……暑さのせいで見えた幻覚じゃないか」

見えている建物は幻覚の類ではないと龍也は確信する。
そして、軽く顔を上げると、

「霧雨魔法店……」

霧雨魔法店と言う看板が龍也の目に入った。
なので、魔理沙に涼ませて貰える様に頼もうと言う予定を龍也は立てながら扉の前まで移動してノックをする。
ノックをしてから大した時間を置かずに、

「誰だ?」

誰だと言う言葉と共に扉が少し開かれ、

「……っと、何だ龍也か」

ノックをした者が龍也である事を知った魔理沙は扉を完全に開く。
魔理沙が自分の存在を完全に認識したのを知った龍也は、

「今、良いか?」

先ずはと言った感じでそう尋ねる。

「おう、良いぜ。取り敢えず、上がれよ」
「お邪魔します……っと」

尋ねられた魔理沙は良いと言いながら上がる様に促して来たので、お邪魔しますと言う言葉と共に龍也は魔理沙の家に上がった。
魔理沙の家に上がり、魔理沙に連れられる形で居間に着いた瞬間、

「いやー、それにしても龍也も運が良いな」

魔理沙は龍也の方に振り返り、龍也の事を運が良いと称する。

「運が良い?」

そう称された龍也が疑問気な表情になりながら近くに在る椅子にジャケットを掛けた時、

「何せ、この魔理沙さんの画期的な実験を見る事が出来るんだからな」

何処か誇らし気な表情を浮かべた魔理沙が龍也の事を運が良いと称した理由を述べた。

「実験?」

述べられた理由の中に在った実験と言う部分を頭に入れた龍也が首を傾げてしまった為、

「ああ、ここ最近はずっと暑かっただろ」

ここ最近暑かったと言う発言を零しながら魔理沙は実験器具が置いて在る場所へと近付いて行く。

「ああ、そうだな」

零された発言に龍也は同意しつつ、魔理沙の後を追って行くと、

「おまけに、ここ最近の魔法の森は蒸し風呂状態だったからな」

ここ最近の魔法の森の状態を魔理沙は語った。

「ここ最近の魔法の森ってそんな事になってたのか」

語られた事を耳に入れた龍也が驚いている間に、

「ああ、だから私は考えた。どうすれば涼しく出来るのかをな」

近くに置いて在った椅子に腰を落ち着かせながらそう言い、

「そしてその答えが……これだ!!」

直ぐ近くに在る机の上に置かれているフラスコを指でさす。
指でさされたフラスコの中には青色の液体が入っていったので、

「これは……何かの魔法薬か?」

魔法薬かと言う推察を龍也は行なう。

「お、察しが良いな。正解だぜ」

行なわれた推察に魔理沙は正しいと言う言葉を返しながら、同じく机の上に置かれていた緑色をした液体が入った試験管を手に取り、

「後はこれをフラスコの中に入れれば完成だ。それで一気に涼しくなるぜ」

試験管内の液体をフラスコの中に入れれば完成して涼しくなると口にする。

「ほう……」

口にされた事を聞いて龍也は感心したと言う表情になりながら、思う。
丁度良いタイミングで魔理沙の家に来る事が出来たと。
その瞬間、緑色をした液体がフラスコの中に入っている青色の液体に注がれる。
そして、二色の液体が完全に混ざり合った刹那、

「「ッ!?」」

少し大きめの爆発音と共に部屋中を白い煙が埋め尽くされた。
それから暫らくすると白い煙が晴れ、

「…………おい」

龍也は魔理沙に話し掛ける。

「…………何だ?」
「…………確かに涼しくはなったさ」

話し掛けた魔理沙が反応を示した為、涼しくなったのは認めると言う事を龍也は呟き、

「…………けど、何で俺達は氷り付いているんだ?」

どうして自分達は氷付けになっているのかと言う突っ込みを入れた。
龍也が入れた突っ込みの通り、龍也と魔理沙の首から下が氷り付いているのだ。
いや、それどころか部屋の至る所が氷り付いているのである。
と言う様な状況に陥っている中、

「いやー、私もこうなるとは予想外だったぜ」

お気楽そうな笑みを浮べた魔理沙が予想外であったと零す。

「この状況は俺も予想外だ」

零された事が耳に入った龍也は自分も予想外だと言いながら溜息を一つ吐いた。
同時に、涼しくさせる方法が室温を下げるのではなく氷り付けにするのは斬新な方法だと言う感想を龍也は抱く、
ともあれ、何時までも氷り付けの状態の儘でいると言う訳にもいかない。
なので、龍也は霊力を少し解放しながら体中に力を籠め、

「……ッ!!」

自分自身に纏わり付いてる氷を砕く。
しかし、まだ多少の氷が龍也の体に纏わり付いている。
だが、動きを阻害する程の量では無い。
ならば溶けるまで無視するのも手かと言う決断を龍也は下し、霊力の解放を止めて軽く手首を動かしていると、

「……なぁ」

なぁと言う言葉を魔理沙が龍也に掛けて来た。

「何だ?」
「私の氷も砕いてくれないか?」

掛けられた声に反応した龍也が魔理沙の方に体を向けた時、魔理沙から自分の氷りも砕いて欲しいと言う頼みがされる。

「何でだ? この程度だったら楽に砕けるだろ」

された頼みに龍也はついその様な返答をしてしまった。
実際、魔理沙ならば少し魔力を解放すれば龍也と同じ様に体に纏わり付いている氷を砕く事は十分に可能であろう。
だからこそ、その様な返答を龍也はしたのだ。
それはさて置き、龍也がした返答を受け、

「いや、そうなんだけどさ……」

自力で自分に纏わり付いている氷を砕く事は可能だと言いながら魔理沙は視線を下に向け、

「私と机が良い感じでくっ付いててな。無理に砕こうとすると机もバキッっていきそうなんだよ」

自分の氷も砕いて欲しいと言う頼みをした理由を口にする。
口にされた事を受けた龍也は魔理沙と同じ場所に向け、

「ああ……」

納得した表情になった。
何せ、魔理沙と机が氷で見事に繋がっている様子が龍也の目に映ったのだから。
このくっ付き具合から魔理沙が自力で砕いたら机も一緒に砕けそうだと言う事を龍也が考えている間に、

「と言う訳で、砕いてくれるか?」

改めてと言った感じで自分の氷を砕いて欲しいと言う頼みを魔理沙はして来た。

「あいよ」

された頼みを引き受けたと言う返事をした龍也は魔理沙と机を繋げている氷に手を乗せた瞬間、

「ああー……冷たくて気持ち良い……」

当初の目的を忘れたかの様に龍也は気持ち良さそう表情を浮かべてしまう。
だからか、

「うおーい、早く砕いてくれ」

早く氷を砕いて欲しいと言う突っ込みを魔理沙が入れて来た。

「ああ、悪い悪い」

入れられた突っ込みで意識を現実に戻した龍也は力を籠め、

「……そら」

魔理沙と机を繋げている氷を握り砕く。
机との繋がりが無くなったので魔理沙は魔力を少し解放して全身に力を籠めていき、

「……よっと」

自身に纏わり付いてる氷を砕いた。
その後、魔理沙は軽く体を動かして、

「……おっかしーなー、どうしてこうなったんだ?」

疑問気な表情になりながら首を傾げてしまう。
そんな魔理沙を見て、

「本当なら、どんな風になるんだったんだ?」

本当ならどの様になるのかと言う事を尋ねる。

「本来の予定ではフラスコから冷気を発生させ、部屋全体を冷やす筈だったんだが……」

尋ねられた事に対する答えを魔理沙は述べながら氷り付いたフラスコに視線を向け、

「どうしてこうなったんだ?」

再び首を傾げてしまった。
そして、

「……茸を液状にする過程で性質変化が起きた? それとも混ぜ合わせる前に不純物が入った? いや、室温で性質変化が起きたと言う可能性も捨てきれん……」

何故この様な結果になってしまったのかの考察を行なう。
しかし、幾ら考察しても答えが出そうに無かった為、

「まぁ、これを考えるのは後にするとしてだ」

話を変えるかの様に魔理沙は龍也の方に体を向け、

「この氷り付いた部屋の片付けを手伝ってくれ」

氷り付いた部屋の片付けを手伝って欲しいと言う頼みをする。

「……あいよ」

若干疲れたと言う雰囲気を醸し出しながら、魔理沙からの頼みを龍也は引き受けた。






















氷り付いた部屋の片付けが終わった頃、

「ふぃー、やっと終わったぜ」

氷の殆どが除去された部屋を見ながら魔理沙は疲れを吐き出しながらそう漏らす。

「まぁ、一番頑張ったのは俺だけどな」

漏らされた事を耳に入れた龍也はそう返しながら自身の力を消した。
力を消した事で龍也の瞳の色が紅から黒に戻ったタイミングで、

「だって、こう言う時ってお前の能力が一番便利だからさ」

軽い笑みを浮かべた魔理沙がそんな事を言ってのける。
確かに、龍也の能力ならば氷の除去など楽に出来るだろう。
朱雀の力を使えば氷を簡単に溶かせるし、氷が溶けた事で湿度が高まってムワッとした空気が発生したら白虎の力で家の外へ吹き飛ばせる。
だからか、

「まぁ、お前の言う通りだから否定は出来んがな」

魔理沙が言った事を認めると言う発言を龍也は零しつつ、少し微妙そうな表情を浮かべながら後頭部を掻く。
微妙そうな表情を浮かべているのは、力の変換を連続で行い続けた事で変な疲労が出たからであろうか。
ともあれ、そんな表情を浮かべた龍也を見て、

「そんな顔すんなって。後でご飯とか作ってやるからさ」

後でご飯を作ると言う約束を魔理沙はする。
その約束を耳に入れた龍也は、なら良いかと思って表情を元に戻した。
何とも釣られ易い男である。
それはさて置き、今後の予定が決まった後、

「でもま。部屋全体が氷り付いたのは予想外だったが、結構な収穫だったぜ」

何処かご機嫌と言った感じで魔理沙はその様な台詞を零す。

「収穫?」

零された発言が耳に入った龍也が首を傾げると、

「ああ、これを上手く使えば新しい魔法が出来そうだしな。後は新しいスペルカードとか」

収穫と零した理由を魔理沙は口にした。

「スペルカードか……」

口にされた中に在ったスペルカードと言う部分を受け、龍也が何かを考え始めた為、

「何だ? スペルカードがどうかしたのか?」

ついと言った感じで魔理沙は龍也はスペルカードがどうかしたのかと言う疑問を投げ掛ける。
すると、

「いやさ、俺のスペルカードの枚数って多いのか少ないのか良く分からないなと思ってさ」

自分の所持しているスペルカードの枚数に付いての話を龍也は出した。

「龍也ってスペルカードを何枚待ってるんだ?」
「えーと……遠距離用が五枚、近距離用が五枚、広域殲滅型が四枚の計十四枚だな」

出された話から魔理沙が龍也の所持しているスペルカードの枚数に付いて聞くと、龍也から所持しているスペルカードの枚数が語られたので、

「んー……少ないと言えば少ないかな」

少し考える様な素振りを見せながら魔理沙は少ないと述べ、

「やっぱ最低でも二十枚は在った方が良いと思うぜ。思い付いたらさっさとスペルカードにしたりする奴も多いからな」

最低でもスペルカードは二十枚は在った方が良いと言い、直ぐに新しいスペルカードを作る者も多いと言う様な事を教える。

「そうなのか?」
「ああ、弾幕ごっこは遊びだからな。思い付いたのを直ぐにスペルカードにしてさっさと試すって言う奴も結構いるぜ」

教えられた事の真偽の確認を龍也が取ったのと同時に、魔理沙からそんな返答がされた。

「ふーん……」

魔理沙からの返答を受けた龍也は、

「んじゃ、何枚か作ってみるか」

新しいスペルカードを作る事を決める。
そして、魔理沙の方に顔を向け、

「と言う訳だから手伝ってくれ」

スペルカード作成の手伝いを頼んだ。

「別に良いが、何でだ?」

頼まれた事を引き受ける意思を魔理沙は示すも、何故スペルカードの作成を手伝って欲しいのかと疑問を抱く。
スペルカードの作成など、難しくも無いのだから。
魔理沙が疑問を抱いたのを感じたからか、

「いやさ、どのラインを超えたらルール違反になるのか未だに良く分からなくてな」

手伝いを求めた理由を龍也は語った。

「基本的に回避不可能なのはルール違反になるが、その辺は個人個人の物差しで変わって来るからな……」

語られた事に一理有ると言う事を魔理沙は感じ、

「まぁ、私も一緒に作っているのを見てればルール違反のスペルカードは出来ないだろ」

ルール違反のスペルカードが出来ない様に見ている事をメインにする事を決める。

「自分から言って置いて何だが、良いのか?」

簡単に自分の頼みを引き受けてくれた魔理沙に龍也がつい良いのかと言う言葉を掛けると、

「別に良いぜ。龍也のスペルカードを作ってるところを見て何か新しい魔法を思い付くかも知れないからな」

龍也の頼みを引き受ける事に対する利点を魔理沙は出し、

「今、白紙のスペルカードを持って来てやるからそっちのテーブルの所に在る椅子に座ってろ」

そう言って自分の部屋に向かって行った。

「分かった」

向かって行った魔理沙を見届けた後、言われた椅子に龍也は腰を落ち着かせる。
それから少しすると魔理沙が白紙のスペルカードを持って来たので、早速と言う感じで龍也はスペルカードの作成に取り掛かった。






















新たなスペルカードの作成を龍也が始めてから数時間後。
日が暮れ始めた頃、

「ふぃー……やっと終わった」

スペルカード作成が終わった事で、龍也が一息吐いた。

「結構時間が掛かったな」

その手伝いをしていた魔理沙は時間が掛かったと言う事を零しながら上半身を伸ばす。
今回、新たに作成したスペルカードの枚数は八枚。
内訳は遠距離用四枚、近距離用四枚の計八枚だ。
ともあれ、スペルカードが完成したと言う事で、

「早速で悪いんだが、これのテストに付き合って欲しいんだが……」

新スペルカードのテストに付き合って欲しいと言う頼みを龍也は行なう。

「おう、良いぜ。どんなスペルカードかは分かってはいるが、実際に使ってみないと解らん事も在るだろうしな」

行なわれた頼みを魔理沙は快くと言った感じで引き受けながら立ち上がり、

「唯、もう少ししたら晩ご飯の準備もしなけりゃならんからな。テスト出来るのはどっちか……遠か近の片方だけになると思うぜ」

テスト出来るのは遠距離用か近距離用のスペルカードだけになると言う注意をする。
された注意を耳に入れた龍也は少し考える素振りを見せ、

「……なら遠距離用の方を頼めるか?」

遠距離用のスペルカードのテストを頼む事にした。
因みに遠距離用にした理由は魔理沙が得意とする距離は遠距離なので、遠距離用のスペルカード方が使い勝手や使い易さなどを掴めると判断したからだ。
近距離用は後日、魔理沙に頼むなり別の人に頼めば良いであろう。
と言う様な事を龍也が考えている間に、

「分かったぜ。それじゃ、外に出ようぜ」
「おう」

魔理沙が外に出る様に促しながら外へと向かって行ったので、おうと言う言葉と共に龍也も外へと向かって行く。
外に出た二人は魔理沙の家から少し離れた場所で空中へと躍り出た。
空中へと上がり、ある一定の高度に達すると二人は上昇するのを止めて間合いを取る。
十分に間合いが取れると二人は停止し、

「それじゃ、いくぜ」

いくぜと言う言葉と共に魔理沙は自分の周囲に赤、青、黄、緑の色をした光る弾を四つ生み出した。
そして、これが弾幕ごっこ開始の合図だと言わんばかりに生み出された弾からは星型の弾幕が繰り出される。
繰り出され、迫り繰る弾幕を龍也は的確に避けていきながら、

「何だ、それ?」

光っている弾を見ながらそれは何だと言う疑問を口にした。

「何って私の使い魔だぜ。龍也に見せるのは初めてだったか?」
「使い魔?」

龍也が口にした疑問に対する答えを魔理沙が述べると、龍也は首を傾げてしまう。
想像していた使い魔のイメージとは大分違うなと言う事を思いながら。
そんな龍也の疑問に気付いたからか、

「まぁ、私のこれは一般的な使い魔とは違うがな」

魔理沙はそう零しつつ、

「これは私の魔力の塊……言うなればオプション兵装だな」

生み出した光る弾がどう言ったものであるかを簡単に語る。

「へぇ……」

語られた内容を耳に入れた龍也が便利だなと言う感想を抱いた時、

「ほらほら!! ボケッとしてると沈んじまうぜ!!」

光る弾から放たれる弾幕が激しくなった。
激しくなった弾幕を見て、気合を入れ直した龍也は回避行動と共に弾幕を放ち返す。
龍也から放たれた弾幕を魔理沙は避けて行き、互いが互いの放っている弾幕を避けながら弾幕を放つと言う状態に二人はなった。
それから少しすると、

「そろそろいくぜ」

流れを変えると言った感じで龍也は弾幕を放つのを止めながら懐に右手を入れ、

「誕生『炎より生まれし炎鳥の群れ』」

スペルカードを懐から取り出し、取り出したのと同時にスペルカードを発動させる。
スペルカードが発動すると龍也の瞳の色が黒から紅に変わり、龍也は両手を前方に突き出した。
すると、龍也の両手から大きな炎の塊が生み出される。
生み出された炎の塊は魔理沙の弾幕を打ち消しながら突き進んで行き、龍也と魔理沙の中間地点で炎の塊は止まった。
その刹那、炎の塊から炎鳥が次々と飛び立って魔理沙へと向かって行く。
向って来た炎鳥を見た魔理沙は少し驚いた表情を浮かべたものの、

「おっと!!」

直ぐに弾幕を放つのを止めて回避行動を取り始め、思う。
意外と範囲とスピードが有るなと言う事と、百聞は一見にしかずとはこの事だなと。
今使われたスペルカードの作成には魔理沙も係わっていた為、どんなスペルカードなのかを魔理沙には解っていた。
だが、実際に自身の目で見ると魔理沙が想像していたものとは結構違っていたのだ。
ともあれ、想像していたものとは違ったと言う事で魔理沙は用心したかの様に炎鳥を避けながら龍也から距離を取って行く。
距離を取った事で回避に余裕が出て来たものの、中々反撃に転じる事が魔理沙には出来なかった。
そろそろ反撃に転じないと場の主導権を暫らく龍也に握られそうだと言う事を魔理沙が考え始めた時、ある物を魔理沙の目が捉える。
捉えた物と言うのは、新たに取り出された龍也のスペルカード。
今発動している龍也のスペルカードの発動時間にはまだ余裕が在るのに、と言う疑問を魔理沙が抱いたタイミングで、

「隆起『飛翔する大地の欠片』」

二枚目のスペルカードを龍也が発動した。
新たなスペルカードが発動された事で一枚目のスペルカードによって出現していた炎鳥が消え、龍也の瞳が紅から茶に変化して、

「うおっ!!」

地上、それも魔理沙の真下から無数の土の塊が急上昇して来たのだ。
真下から飛んで来る土の塊を魔理沙は慌てながらも避け、

「弾幕ごっこで真下からメイン攻撃が来るってのは余り無いから結構避け難いな」

そんな台詞を漏らす。
これは回避だけに集中した方が良いかも知れないと言う事を魔理沙は思案して、回避行動に集中していく。
回避行動に集中してから少しすると真下から迫って来ていた土の塊が止んだ。
攻撃が止んだ事で一安心と言う感じで一息吐く暇も無く魔理沙は上空に顔を向け、

「昇って行った物が落ちて来るのは……自明の理だな!!」

読んでいたと言う様に上空から降り注いで来た土の塊を避けて行った。
下と上で攻撃して来るスペルカードも面白いものだと言う感想を魔理沙が抱いている間に、

「風檻『縦横無尽の風』」

三枚目のスペルカードを龍也が発動する。
また新たなスペルカードが発動された事で降り注いでいた土の塊が消え、その代わりと言わんばかりに瞳の色を翠にした龍也が魔理沙に向けて真正面から突っ込んで行く。

「っとおお!?」

突っ込んで来た龍也に寸前で気付いた魔理沙は反射的に自分の位置をずらし、体当たりとも突撃とも言える龍也の攻撃を回避した。
回避した後、魔理沙は龍也の姿を目で追いながら移動を開始する。
何故、移動も行なったのか。
答えは龍也が通った軌跡に在る。
どう言う事かと言うと、龍也が通った軌跡には竜巻が残っているからだ。
そう、これこそがこのスペルカードの真骨頂。
龍也が通った場所には竜巻が残り、どんどんと移動範囲が狭まっていく。
回避先を考えて移動しなければ、直ぐに追い詰められてしまうだろう。
故に周囲の状況をキチンと目に入れ、回避先を考えながら魔理沙は繰り返し行なわれる突撃を避け続けていった。
と言った感じで数十回目程、龍也の突撃を避けた辺りで、

「ッ!! またか!!」

魔理沙の瞳がある物を捉えた。
捉えた物と言うのは龍也の手に握られているスペルカード。
まだスペルカードを発動していられる時間は半分程残っているのに、再び龍也は新たなスペルカードを使おうとしているのだ。
何故と言う疑問の答えが出ぬ儘、

「乱斬『水爪牙』」

最後と言える四枚目のスペルカードを急停止した龍也は発動する。
また新たなスペルカードが発動された事で龍也の瞳の色が翠から蒼に変わり、竜巻が消えるのと同時に龍也の両手は水に包まれた。
因みに、両手を包んでいる水は龍の手を模している。
兎も角、新しいスペルカードが発動されたと言う事で魔理沙は龍也を注意深く観察する事にした。
丁度そのタイミングで龍也を両手を広げ、連続で両手を振るい始める。
振るわれた手からは水で出来た斬撃が五本放たれた。
五本一セットの水の斬撃が次々と放たれて来る光景を視界に入れつつ、斬撃と斬撃の間に体を滑り込ませて回避すると言う方法を魔理沙は取る。
その様な方法で回避行動を取ってから暫らく経ち、もう少しでスペルカードの制限時間が来ると魔理沙が思った刹那、

「あっ!!」

水の斬撃の一部が魔理沙の帽子に当たり、魔理沙の帽子が吹き飛んでしまった。
吹き飛んでしまった帽子に魔理沙が一瞬とは言え気を取られてしまった為、

「げっ!!」

放たれている水の斬撃の接近を魔理沙は許してしまう。
間に合うかどうかは微妙な所ではあったが、魔理沙は回避行動を取ろうとする。
何とか間に合ってくれと言う願いを魔理沙が抱いた瞬間、

「……あれ?」

迫って来ていた水の斬撃が突如として消えてしまったのだ。
行き成り消えてしまった水の斬撃に魔理沙は疑問に思うも、一瞬で思った疑問に対する答えが出た。
スペルカードの制限時間が来たのだと言う答えが。
答えが出たのと同時にこれでテストも終わりかと言う事を魔理沙が考えると、

「付き合ってくれてありがとな、魔理沙」

背後からスペルカードの試運転に付き合ってくれた事に対する礼を龍也が言って来た。
言われた礼に反応した魔理沙が背後へ振り返ると、吹っ飛んで行った自身の帽子を差し出している龍也の姿が目に映る。
因みに、今の龍也の瞳の色は元の黒色に戻っていた。
ともあれ、スペルカードのテストが終わったと言う事で魔理沙は龍也から自身の帽子を受け取り、

「しっかし、あれがスペルカードじゃなかったら私の帽子は真っ二つになってたな」

そんな事を呟いて、

「そういや、何でスペルカードを連続して使ったんだ?」

気になっていた事を龍也に尋ねてみる。

「ああ、あれか。思考が切り替わる前に連続して使えば上手い事当たるんじゃないかと思ってさ」
「ああ……確かに避け難かったな」

尋ねられた事に対する答えを龍也が述べると魔理沙は確かになと思い、中々有効的な方法だと言う判断を下すも、

「でも、弾幕ごっこのルール上スペルカードを使い切ったら負けだからな。諸刃の剣だと思うぜ」

それは諸刃の剣だと言う指摘を行なった。

「ああ、お前に全部避けられてそう思ったよ」

行なわれた指摘に龍也はそう返しながら溜息を一つ吐き、

「さて、腹も減ったし戻ろうぜ」

戻ろうと言う提案をする。

「そうだな」

された提案に魔理沙が賛成した為、二人は同じタイミングで降下して行く。
そして、

「今日の晩ご飯って何だ?」
「茸のシチューだぜ」
「シチューか。他には?」
「後はサラダを予定してるぜ」
「ほうほう」
「龍也は良く食うからな。食料を溜め過ぎた時、腐らせる前に消費出来て助かるぜ」
「つまり、今は食料を溜め過ぎていると」
「正解だぜ」
「なら、俺は良いタイミングで来たって事になるのか」
「そうなるかな。もし龍也が来なかったら、今度の宴会の時にでも余っている食料を持ってく積もりだったけどな」
「そういや、宴会の時に持ってく物って俺は酒が殆どだからな。俺も、食べ物とか持ってった方が良かったりするか?」
「んー……食べ物は紅魔館や白玉楼の方が沢山持って来る事が多いからなぁ。余り多いと、食い切れなくなるかも知れないぞ」
「あー……それは確かに」
「でも、多少食べ物が多くても食べ切る奴なら居そうだけどな」
「普通に居そうだな。少なくとも、約一名」
「約一名なら、私も思い付いたぜ。まぁ、思い付いた一名ってのは同じだろうけどな」
「違いない」
「だよなぁ」

龍也と魔理沙は雑談を交わしながら家の中に入って行った。





































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