文との戦いを終えた龍也は霊夢と魔理沙に追い付く為に先を急いでいた。
と言っても、頂上まで一直線で進むと言うだけではあるが。
ともあれ、その道中は龍也が思っていた以上に順調なものであった。
順調である一番の理由は妖精、もっと言えば進行を邪魔して来る者が一切出て来ないからだ。
この事から今進んでいるルートは二人が、若しくはどちらかの一人が進んだルートであると龍也は感じていた。
楽に進める状況を作ってくれた霊夢と魔理沙の二人に龍也が内心で感謝していると、

「……お」

龍也の目に大きな鳥居が映り込んだ。
映り込んだ鳥居は博麗神社の鳥居よりも随分立派だなと言う感想を抱きながら龍也は足を止め、視線を落とす。
すると、石畳が目に入ったので、

「……若しかして、妖怪の山の頂上に現れたって言う神社に着いたのか?」

目的地に着いたのではと言う推察を龍也は行ないつつ、顔を上げる。
顔を上げ、鳥居の先に視線を凝らした時、

「あれは……」

少し先を誰かが飛んでいる事が分かった。
飛んでいる者の進行方向は妖怪の山の頂上であるので、飛んでいるのは霊夢か魔理沙のどちらかであろうと龍也は判断する。
そして、合流する為に今までよりも速いスピードで龍也は移動を再開し、

「おーい、魔理沙ー!!」

飛んでいる者が誰であるかを確認出来る距離にまで来た辺りでそう声を掛けた。
どうやら、龍也の前方を飛んでいたのは魔理沙であった様だ。
掛けられた声に反応した魔理沙は一旦止まって振り返り、

「お、龍也じゃないか」

声を掛けて来た者が龍也である事を認識する。
それと同時に魔理沙は観察するかの様に龍也の頭から爪先にまで視線を動かしていき、

「何だ、結構ボロボロじゃないか」

ボロボロであると称した。

「まぁ、椛も文も強いからな」

そう称された龍也が椛と文が強かった事を口にした瞬間、

「何だ、普通に戦ったのか? と言うか、文とも戦ったのか?」

少し驚いた表情になった魔理沙が戦闘方法と文とも戦ったのかと言う事を尋ねる。

「ああ、一応普通に戦って置かなきゃ体面上拙い的な事を文が言ってたしな。多分、椛もそんな感じだったんだと思うぜ。それと、文と戦う事に
なったのは途中でばったり会ったからだな」

尋ねられた事に対する答えを龍也が述べた後、

「はは、それは運が無かったな」

椛との戦いは兎も角、文とも戦った事に関して同情すると言う様な台詞を魔理沙は零す。

「俺と戦う事に関しては文も予想外だったみたいだけどな」

零された事を受けた龍也は一寸した補足の様なものをしながら魔理沙の風貌を観察していく。
観察すると自分程では無いにしても魔理沙も少しボロボロの状態だった為、

「お前もそこそこボロボロだけど、文との弾幕ごっこでそうなったのか?」

ボロボロになっている理由を龍也は問う。

「それもあるが、ボロボロになった理由の大半はこいつに有るな」

問われた魔理沙はそう言いながら自分の後ろを指でさす。
さされた指に釣られる様にして龍也が魔理沙の背後に目を向けると、魔理沙の背に体を預ける様にして気絶している一人の少女の姿が見て取れた。
気絶している少女は緑色の長い髪に蛇と蛙の髪飾りを着け、腋が露出した巫女服を着ていた。
この事から、

「こいつは……」
「多分、椛が言っていた妖怪の山の頂上に現れた神社の巫女だろうな」

気絶している少女が何者であるかを察した龍也に続ける様にして、魔理沙が気絶している少女が何者かであるかを口にし、

「それとやっぱり外の世界から来た外来人だったぜ、こいつ。幻想郷の事も弾幕ごっこの事も知らなかったしな」

序と言わんばかりに外来人である事を教える。

「まぁ、高確率でそうだとは思ってたけどな」

教えられた事に龍也はその様に返しながら気絶している少女の顔を覗き込む。

「ん? どうかしたのか?」
「いや、こいつが外の世界から来たって言っただろ。若しかしたら、顔を見たら思い出すかなって思って顔を見てたんだけど……」

急に少女の顔を覗き込んだ龍也に魔理沙が疑問を覚えたからか、龍也は少女の顔を覗き込んだ理由を魔理沙に伝える。

「それで、結果は?」
「やっぱり知らない奴だったよ」

伝えられた内容を受けた魔理沙が続きを促すと、間髪入れずに龍也から知らない奴だと言う答えが発せられた。

「だと思ったよ」
「いや、そこは残念だって言うところじゃね?」

発せられた答えは予想通りと言った反応を見せた魔理沙に龍也は反射的に突っ込みを入れる。

「はは、悪い悪い」
「……たく」

入れられた突っ込みに悪びれた様子を少しも見せない謝罪を魔理沙は行ない、行なわれた謝罪を受けた龍也は若干呆れた表情になった。
その後、どちらからともなく二人は笑みを浮かべて軽く笑い合う。
笑い合っているお陰で場の雰囲気が和やかになっていく中、

「あ、そう言えば霊夢はどうしたんだ? もう先に行ったのか?」

ふと思い出したかの様に龍也は霊夢に付いて魔理沙に聞いてみた。
すると、

「ああ、そうだ!! そうだった!! 聞いてくれよ、龍也!!!!」

少し怒り顔になった魔理沙が龍也に詰め寄り始める。

「お、おう。どうした?」
「霊夢ったら酷いんだぜ!! 私が文との弾幕ごっこを引き受け、それで勝ってこの辺りにまで来たら霊夢とこいつが相対してるのを発見したんだ。で、
霊夢に声を掛けたらどうなったと思う!?」

魔理沙の怒りに若干押されている龍也が話を聞くと言う態度を示すと、魔理沙は語気を荒げながら更に詰め寄って来た。

「ど、どうなったんだ?」
「霊夢の奴、『あら、良いタイミングで来たわね。私は先に行くから後よろしくね、魔理沙』って言って先に行っちまいやがったんだぜ!!!!」

完全に魔理沙の怒りに負けていると言った感じに成っている龍也を余所に、霊夢が何をしたかと言う事を魔理沙は語っていく。
語り切って魔理沙の気迫が若干弱まったのを感じ取った龍也は、

「そ、そうか。そう言えば、魔理沙の口振りから察するに文とは魔理沙から戦うって言ったのか?」

少し気になった事を魔理沙に尋ねてみた。

「ああ、そうだ。私もスピードに関してはチョイと自信が有るからな。そう言う訳であいつと一勝負したって訳だ」

尋ねられた事を肯定しながら魔理沙は龍也から離れ、表情を柔らかくする。
弾幕ごっこで文に勝った事を思い出したからか、幾分か機嫌が良くなった様だ。
ともあれ、魔理沙の怒りが収まった事で龍也が安心したかの様に一息吐くと、

「それで話を戻すが、そう言う事も遭ってこいつと戦う事になったんだ」

話を締め括るかの様に魔理沙はそう言うも、

「あ、そう言えば……」

自分の背に体を預ける様にして気絶している少女を見て何かを思い出した表情を浮かべる。

「どうかしたのか?」
「いやさ、こいつ水と風を操ってたんだ」

そんな魔理沙を見て龍也が疑問の言葉を投げ掛けた為、気絶している少女が扱っていた力に付いて魔理沙は口にした。

「水と風を?」

気絶している少女が水と風を操れると言う事を知った龍也は、少し興味深そうな視線を少女に向ける。
龍也自身、青龍と白虎の力を使えば水と風を操ったりする事が出来るのだ。
興味を覚えるのも当然なのかも知れない。
若しかしたら自分と同じ様な使い方をしているのかも知れないと龍也は思ったが、

「ああ……でも、龍也みたいに剣にしたりとか腕とか脚に纏わせたりと言った使い方はしなかったな。基本的に、その儘撃ち出したりする様な
使い方をしてたぜ」

思った事は魔理沙から否定されてしまった。
いや、敢てそう言う使い方をしなかっただけかも知れないが。
気絶から目が覚めたらその事に付いて聞いてみ様かと龍也が考えた時、

「後、力を上手く使いこなせていない印象を受けたな」

戦った際に気になった事を魔理沙は呟く。
呟かれた内容が耳に入ったからか、

「まぁ、それは仕方が無いんじゃないか? 外の世界じゃこう言った力を大々的に練習したりは出来ないからな。もしこう言った力を使っているのを
誰かに見られたら大騒ぎになるのは確実だ」

気絶している少女が力を使いこなせていない理由を龍也は予想する。
龍也が予想した通り、外の世界で超常的な力を使っているところを誰かに見られたら大騒ぎになるのは必至。
見られるだけならまだしも、カメラ等と言った媒体にその様子を保存されたりしたら。
間違い無く世界中に広まり、普段通りの生活を送れなくなるのは確実。
下手したら自分達を排除する為に動く輩も出て来るだろう。
それを危惧したが故に気絶している少女は自分の力を扱う修行等を余り行なえなかったのではないか。
と言う想像を龍也がした辺りで、

「ふーん……何か外の世界って面倒臭そうだな」

外の世界は面倒臭そうだと言う感想を魔理沙は抱いた。

「まぁ、実際面倒臭いと言えば面倒臭いからな。色々と」

抱かれた感想に龍也が同意を示した瞬間、

「とと、話が脱線して来たな。これ以上脱線しない内に話を戻すぜ。私がさっき大半って言ったのはこいつが水やら風やら使って来て虚を付かれた事と
バランスを崩された事でこいつの弾幕……って言うかお札だな。それの直撃を幾らか貰ったからだな」

話が脱線して来た事に気付いた魔理沙は自分がボロボロになった経緯に付いて話しつつ、

「あ、でも弾幕事態は避け易かったな」

思い出したかの様に少女の弾幕が避け易かった事を漏らす。

「外の世界に弾幕ごっこは無いからなぁ。普通に弾幕が迫って来ても大した脅威にはならないだろ。余程とんでもないスピードで迫って来るんなら
話は別だろうがな」

漏らされた事に龍也はそう返した。
弾幕ごっこのルール上、回避不可能な弾幕やスペルカードは禁止されている。
故に弾幕やスペルカードを受ける側は自分も弾幕を放って相殺する以外に、抜け道や攻略法を探して避けると言った事をするのだ。
これ等以外にも己が動体視力や反射神経を頼りに避けたり直感を頼りに避けたりしたりと、避ける方法は文字通り人それぞれである。
そんな弾幕ごっこを何度も何度も何度もやり続けていれば、射線が単純な弾幕に当たる事は殆ど無いであろう。
兎も角、返された内容から気絶している少女との戦いを魔理沙は思い出していたが、

「さて、無駄話もこの辺にしてさっさと行こうぜ。でないと、霊夢に美味しい所だけを持っていかれそうだ」

これ以上話していられないと言う事で、思い出すと言う行為を止めて移動を再開した。
再び進み始めた魔理沙を追う為に龍也も移動を再開する。
そして、並走する形で二人が移動している中、

「んー……気絶している奴を乗せてるせいか、今一スピードが出せないな」

一寸した愚痴の様なものを魔理沙は零す。

「どっかに置いておける場所は無かったのか?」
「寝かせるのに良い場所は幾つか在ったんだが……ここ、妖怪の山だぜ。妖怪が大量に闊歩している場所にこいつを放置して何か遭った流石に寝覚めが
悪過ぎるだろ」

零され愚痴に反応した龍也が疑問を投げ掛けると、魔理沙からその様な返答が返って来たので、

「あー……成程」

直ぐに納得した表情に龍也はなった。
気絶し、放置された人間を妖怪が見付けたとしたら。
頭の回る妖怪ならば何かの罠かと思って警戒なりするであろうが、知恵や知能の欠片も無い妖怪にとっては只の餌にしかならいであろう。
放置した結果が妖怪の餌に成るのであれば、確かに寝覚めが悪い。
スピードが今一つ出せないと言う不満が有っても少女を放置しないでいる魔理沙に龍也が納得していると、

「まぁ、もう少し行けばこいつの神社が在る筈だろ。その中にでも入れて置くさ」

気絶している少女の処遇に付いて魔理沙が語る。

「それが無難だろうな」

語られた内容に賛成の意を示しながら改めて魔理沙に体を預けながら気絶している少女に目を向けた刹那、

「あ……」

何かに気付いたと言う表情を龍也は浮かべた。

「ん、どうかしたのか?」
「いやさ、霊夢の巫女服って腋が露出してるタイプだろ」

龍也の表情の変化に気付いた魔理沙が疑問気な声を上げると、龍也が霊夢の巫女装束に付いての話題を出す。

「まぁ……そうだな」

出された話題を受けて霊夢の全体像を魔理沙が頭に思い浮かべている間に、

「てっきり、霊夢の巫女服だけがそう言うタイプ何じゃないかと思ってたんだけど……そうじゃないみたいだな」

続ける様にして龍也はそんな事を言ってのけた。
すると、魔理沙は自然な動作で気絶している少女に顔を向け、

「……そうみたいだな」

同意する言葉を零す。
その後、巫女装束と言うのは腋を露出させたタイプが正当な物ではないかと言う考えが二人の頭に過ぎる。
だからか、移動している最中は巫女装束に付いて二人は話し合っていた。






















「しっかし……」
「何と言うか……」

龍也と魔理沙が妖怪の山の頂上に現れた神社に辿り着くと、

「博麗神社とは違って随分立派な神社だな」
「本当だな。博麗神社と比べて大分差が在るな、これ。勿論、博麗神社の方が劣ってるって言う意味で」

二人揃ってその様な感想を零した。
敷地の広さやら神社そのものの大きさやら賽銭箱の大きさやら、何もかもが博麗神社よりも妖怪の山の頂上に現れた神社の方が上回っているのだ。
二人がそんな感想を零してしまうのも仕方が無いと言える。
霊夢に聞かれたら確実に怒られる様な感想ではあるが、当の霊夢が居ないと言う事もあってか、

「そう言えば、この神社の名前って何なんだ?」
「さっき鳥居の方に守矢って言う字が在るのを見たから、この神社は守矢神社って言う名前だろ」

お気楽とも言える雰囲気を見せながら龍也と魔理沙は軽い会話を交わしつつ、神社の中に入ろうとして行く。
その瞬間、

「「ッ!?」」

少し遠くの方から大きな爆発音が聞こえて来た。
聞こえて来た爆発音に反応した龍也と魔理沙は、爆発音の発生源に向けて慌てた動作で顔を動かす。
顔を動かした二人の目には湖の方で人影らしき二つの物体がぶつかり合っている様子が映った。

「あれは……」
「多分、霊夢とこの神社の神様だな」

見えた人影に付いて何かを言おとした龍也を遮る様な形で魔理沙は見えた人影が誰かであるかを推察する。
状況から考えるに、魔理沙が推察した事に間違いは無いであろう。
だからか、龍也は納得した表情になりつつ、

「……そう言えば、お前がそいつと戦ってからどれ位経ったんだ?」

ふと思い出したと言った感じで気絶している少女を指でさし、魔理沙と少女の戦いからどれだけ経ったのかを問う。
問われた魔理沙は少し考え素振りを見せ、

「んー……結構経ったと思うぜ」

少々曖昧な答えを述べる。

「それでも決着が着かないって事は、相手の神も相当強いって事か」

述べられた答えから龍也は現れた神は強いと判断しながら戦いの様子を目で追っていき、

「一対一の戦いに手を出すのは好きじゃないが……霊夢に何か遭ってもあれだしな。援護に行くか」

霊夢の援護に行く事を決める。
そして、魔理沙の方に顔を向け、

「お前はどうする?」

魔理沙はどうするのかと聞く。
聞かれた魔理沙は自分の背中に体を預けて気絶している少女を親指でさし、

「それなら私も行くぜ。こいつを置いてからな」

そう口にした。

「分かった。じゃ、先に行ってるぜ」

口にされた事を受けた龍也は高度を上げる様にして跳躍し、ある程度の高度に達した辺りで足元に霊力で出来た見えない足場を作ってそこに着地する。
着地した龍也は心を落ち着かせるかの様に一息吐きながら目的地を見据え、湖まで一気に駆け始めた。






















「……湖に柱……御柱って言うのか? そう言うのが幾つも突き刺さってるって言うのは中々に珍しい光景だな」

湖の直ぐ近くにまで来た龍也は一旦止まり、そんな感想を漏らす。
まぁ、湖に巨大な御柱が幾つも突き刺さっている光景など普通はお目に掛かれないのだ。
そんな光景に目を奪われてしまうのも仕方が無いだろう。
とは言え、龍也としてもその光景に目を奪われてばかりではない。
目を奪われつつも龍也は霊夢の姿を捜しているのだ。
だからか、

「お……」

龍也は直ぐに霊夢を見付ける事が出来た。
見付けた霊夢は深い青色の髪をした女性と戦っている様である。
女性の風貌から、霊夢が戦っている女性は椛が話してくれた神だなと言う事を思っている間に、

「とと、霊夢が押されているな」

霊夢が神の攻撃を受け止め切れなかったせいか弾かれ、大きく間合いを離されてしまう光景が龍也の目に映った。
映った光景はそれだけでは終わらない。
追撃を掛ける為に神は霊夢との距離を詰め様としているではないか。
見えている光景からさっさと助太刀に向った方が良いと龍也は判断し、駆けながら自身の力を変える。
朱雀の力へと。
力の変換に伴い、龍也の瞳の色が黒から紅に変わる。
瞳の色が変わるのと同時に龍也は力の解放も行った。
力が解放された事で龍也の髪の色が紅に染まり、紅い瞳が輝き出す。
同時に駆けるスピードが一気に上がる。
駆けるスピードが上がったのは力を解放した事で龍也の基本能力が大きく上がったからだ。
そして、龍也は両手を合わせながら炎の大剣を生み出し、

「よぉ、大丈夫か? 霊夢」

霊夢と神の間に割り込む様にして入り込み、神が霊夢へと突き出していた御柱を炎の大剣で受け止めた。

「りゅ、龍也!?」

突然現れた龍也に霊夢は驚きの表情を浮かべる。
そんな霊夢とは対照的に、

「へぇ……」

自分の一撃を止められたからか、感心したと言う様な表情を神は浮かべていた。
先程まで戦っていた霊夢と神の間に流れていた空気が第三者である自分が現れた事で変わったのを感じ取った龍也は、

「らあ!!」

変わった空気に慣られる前に仕切り直させると言った感じで炎の大剣を振るって御柱を弾き飛ばす。

「おっと」

御柱を弾き飛ばされた神は大きく後ろに跳び、龍也達から少し離れた場所に佇む。
間合いが取れた事で場が少し落ち着いたからか、龍也は炎の大剣を構えながら目の前の神を少し観察していく。
肩口位の長さの深い青色をした髪をし、赤を基調とした服で袖口の色は白になっている。
アクセサリーとしてか胸元に丸い鏡を着け、背中の方には大きな注連縄を着けて自身の周囲に何本かの御柱を浮かび上がらせている女性。
一通り神の風貌を見た龍也は、警戒している雰囲気を見せながら顔を背後に居る霊夢に向け、

「どうした、随分と手古摺っていたな」

からかう様な口調でそんな事を言ってのける。

「な!? 別にそんな事は無いわよ!!」

挑発する様な言動を受けた霊夢は間髪入れずに強気な声色でそう返した。
返された台詞から、これなら全然大丈夫そうだなと思いながら内心で少し安心している龍也に向け、

「でも……ま、助けてくれた事には礼を言うわ。ありがとう」

霊夢は照れ臭そうにしながら礼を述べる。

「おう」

述べられた礼に龍也は短い返答をして顔を神の方に戻すと、

「やるじゃないか、私の一撃を受け止めるなんて。そこの巫女と言いあんたと言いここ……幻想郷の人間ってのはどいつもこいつもそんなに強いのかい?」

神はそんな事を尋ねて来た。

「さぁな。只、俺から言える事は一つだけだ」

尋ねられた龍也は素っ気無い態度でそう言いながら炎の大剣を右手だけで持ちながら神に突き付け、

「俺の名前は四神龍也。お前を倒す男の名だ!! よろしく!!!!」

宣戦布告の言葉を叩き付ける。
行き成り宣戦布告された事で神は一瞬ポカーンとした表情になるも、

「ふふふ……私相手に人間が勝つと言うか。随分とまぁ、男気の有る男じゃないか。日ノ本の男児たる者、やっぱりそうでなくちゃね……」

直ぐに何所か嬉しそうな表情になった。
そして、

「そこまで気合の入った名乗りと宣戦布告をされちゃぁ……こっちも名乗らない訳にはいかないね!!!!」

神は神力を解放する。
解放された神力の巨大さに龍也と霊夢が少し押されていると、

「折角だ、お前さんに合わせてやるよ!! 我が名は八坂神奈子!! お前達を打ち倒す神の名だ!!!!」

神、八坂神奈子は腕を払いながら威厳溢れる声色で名乗りを上げた。
その瞬間、龍也は炎の大剣を再び両手で持って一気に駆ける。
対する神奈子は動かない。
どうやら、龍也がどう動くかを見る積りの様だ。
それを知ってか知らずか、龍也は神奈子の姿を正面に捉え、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

炎の大剣を振り降ろす。
振り下ろされた炎の大剣を神奈子は御柱で受け止め、

「おや、小細工無く正面から来たのかい。随分と思いっ切りが良い男だね」

正面から仕掛けて来た龍也を思いっ切りが良い男と称した。

「そりゃどうも!!」
「けど、それは少し不用心過ぎないかい? 私が何か罠を仕掛けていたらどうする積もりだったんだい?」

称された事に龍也は投げやりな礼を返しながら押し込もうとしていると、不用心ではないかと言う問いが神奈子から投げ掛けられる。

「そん時はその儘罠ごと叩き潰すさ!!」

投げ掛けられた問いに対する答えを言い放ちながら龍也は力を籠めて押し切ろうとしたが、

「ッ!!」

寸前で何かに気付き、慌てて後ろへと跳ぶ。
すると、つい先程まで龍也が居た場所に何かが激突して激突音が辺り一帯に響き渡る。
一体、何が激突したのか。
激突したものの正体は御柱だ。
もし、龍也が後ろに跳ばなかったら。
両サイドから突っ込んで来た御柱を龍也はまともに受けていたであろう。
この事から攻撃する際は周囲にも警戒が必要だと思いながら龍也は更に後ろへと跳び、霊夢の近くにまで下がった。
神奈子だけでは無く、周囲に在る幾つもの御柱を視界に入れる為に。
少なくとも、これで既に展開されている御柱による不意打ちは防げるであろう。
とは言え、下手な攻撃を仕掛ければ神奈子が御柱を使って再び不意打ちを仕掛けて来るのは確実。
ならば、先ずは神奈子の出方を伺うべきかと龍也が考えた刹那、

「下がるわよ!!」
「うお!?」

突如、霊夢が龍也の襟首を掴んで大きく後退した。
行き成り襟首を掴まれて後退させられた事に驚きながら龍也が霊夢の方に顔を向けた直後、

「ドラゴンメテオ!!!!」

龍也達が居る位置よりも高い位置から放たれた極太レーザーが神奈子を呑みこんだ。
放たれた極太レーザーに反応した龍也が神奈子の方に目を向けると、既に極太レーザーの照射は止んでいた。
代わりに大量の水蒸気が極太レーザーが照射されていた場所を蔽っている。
水蒸気は極太レーザーが湖に激突した事で生まれた様だ。
兎も角、放たれた極太レーザーに見覚えが在った為、

「今の極太レーザーを放ったのは……」
「間違い無く、龍也が想像している人物よ」

軽い確認の様なものを龍也と霊夢がし始めたタイミングで、

「いよう、お二人さん」

箒に腰を落ち着かせた魔理沙が二人の傍にやって来た。

「お前なぁ……行き成り危ない事するなよ……」

下手したら巻き込まれていた可能性も在ったからか、やって来た魔理沙に龍也が突っ込みを入れる。
が、

「大丈夫だって。霊夢が私に気付いてたから、龍也も一緒に下げてくれると思ってたし」

当の魔理沙は悪びれた様子が少しも見られない表情でそう返しながら霊夢の方に体を向け、

「やい霊夢!! さっきはよくも自分が戦おうとしていた相手を私に押し付けてくれたな!!」

守矢神社の巫女と思われる少女の相手を自分に押し付けた事に関する文句をぶつけた。
しかし、

「ああ、あれね。お陰でここまで楽が出来たわ。ありがとね」

ぶつけられた文句に思うところは何も無い様で、悪びれた様子を全く見せずに霊夢は軽く手を振って投げやりな感じの礼の言葉を口にする。

「お前な……」

そんな霊夢の態度に腹を立てたのか、魔理沙が文句に言葉を更にぶつけ様とした瞬間、

「「「ッ!!」」」

発生していた水蒸気が吹き飛んだ。
同時に力強い神力を感じた事で三人は一斉に神奈子が居るであろう場所に目を向ける。
すると、

「本当にここ……幻想郷の人間は強いねぇ。まさか、そんな強い人間と今日だけで三人も出会えるとは思って無かったよ」

無傷で佇んでいる神奈子の姿が三人の目に映った。
それを見て、

「……神力を解放して水蒸気を吹き飛ばしたのか」

龍也がポツリとそう呟き、

「それよりも私のドラゴンメテオを喰らってノーダメージとか……一寸ショックだぜ」

続く形で神奈子がノーダメージである事に少しショックを受けた様な事を魔理沙が言うと、

「そうでも無いみたいよ」

霊夢は魔理沙が言った事を否定しながら神奈子の頭上を指でさす。
さされた指に釣られる様して視線を神奈子の頭上へ移した龍也と魔理沙の目に、

「あれは……」
「御柱……か? かなりボロボロになってるけど……」

ボロボロの状態に成った幾つもの御柱が映り込んだ。
そして、

「あれで魔理沙のドラゴンメテオを防いだんでしょうね。そうでなきゃ無傷では済まないでしょ。私だってあんたのマスタースパーク系統の魔法を
受けるとなったらかなり強固な結界を張らなきゃ無傷で防ぎ切る何て出来ないし」

霊夢から神奈子が無傷でいられた理由が説明される。

「成程なぁ。どの道、一筋縄ではいかないって訳か。あの神様……えっと……」

された説明で納得した魔理沙はまだ現れた神の名を知らない事を思い出し、名前を教えてくれと言う様な視線を龍也と霊夢に向けた。

「八坂神奈子って言う名前だ」
「そっか、ありがとな」

向けられた視線に応える感じで龍也が神奈子の名前を教えると、魔理沙は礼を言いながら改めて神奈子の方に向き直り、

「そういや……私達の賭けは全員外れたな」

ふと思い出したと言った感じで、自分達がしていた賭けに付いての話題を零す。
零された話題を耳にした事で、

「ああ……」
「そう言えばしてわね、そんな賭け」

龍也と霊夢は賭けの事を思い出した。
妖怪の山に現れた神がどんな存在なのかを当てると言う賭けを。
正確に言えばどんな存在かと言うよりは、どんな見た目をしているのかと言う内容ではあるが。
ともあれ、賭けの結果は全員外れのノーゲームに終わってしまった。
だからか、三人揃って何とも言えない溜息を吐いてしまう。
その直後、

「……そう言えばあいつ、一向に仕掛けて来ないわね」

霊夢から神奈子が仕掛けて来ない事に関する疑問が口にされた。
こうやって三人が話していた姿は神奈子から見れば結構な隙だらけだと言える筈。
だと言うのに神奈子は仕掛けて来ない。
故に霊夢は疑問を抱いたのだ。
そんな霊夢の疑問に、

「多分……こっちの出方を伺ってるんじゃないか?」

龍也は自身の考えを述べた。

「こっちの出方をか?」

龍也の考えを聞いた魔理沙が疑問気な表情をしながら龍也の方を向く。

「ああ。さっき『そんな強い人間と今日だけで……』って言ってたからな。俺達がどう動くか楽しみ何だろ」
「要は戦闘狂って事か?」

顔を向けられた龍也がそう述べた理由を軽く解説すると、魔理沙がうへーって言う様な表情を浮かべた。

「まぁ、神奈子は戦いの神かもしれないって言うのをここに来るまでに会った奴等が言ってたからな。それが正しいのならそう言う側面が少しは
在っても可笑しくはないだろう。まぁ、神奈子の強さを見るに戦いの神って言う情報は正しいと思うぜ」

何やらテンションが幾らか下がった感じの魔理沙に龍也が神奈子をフォローする様な事を言った時、

「それで、どうする?」

霊夢からどうするかと言う問いが投げ掛けられる。
無論、問いの中身はどう戦うかに付いてだ。
兎も角、問われた事に応える様にして、

「どうするも何も、斬り込まなきゃ如何し様もないだろ」

両手で持っている炎の大剣を龍也は二本の炎の剣に分け、

「先ずは俺が斬り込むから、その間の援護は任せた」

それだけ言って神奈子に向って駆ける。
龍也と神奈子の距離が半分程になると神奈子はボロボロになった御柱を消し、代わりとだと言わんばかり新しい御柱を幾つも生み出した。
そして、新たに生み出した御柱を龍也に向けて一斉に射出する。
射出された御柱はその儘龍也に命中するかと思われたが、そうはならなかった。
何故ならば、御柱が龍也に当たる前に叩き落されたからだ。
一体何に叩き落されたのかと言うと、弾幕である。
そう、霊夢と魔理沙が龍也に当たりそうな御柱を弾幕で叩き落したのだ。
二人が何とかしてくれると信じていたからか、龍也はスピードを少しも落とさずに神奈子の懐に入り込み、

「はあ!!」

右手の炎の剣による刺突を繰り出す。
が、

「おっと危ない」

龍也が繰り出した刺突は、その進行を阻む様にして現れた御柱に防がれてしまう。
防がれる事は想定済みだったからか、防がれた事を気にせずに龍也は続ける様にして左手の炎の剣で刺突を繰り出した。
新たに繰り出された刺突を、

「本当、思いっ切りが良い男だねぇ」

神奈子は龍也の手首を掴む事で防ぎ、

「そら!!」

龍也を明後日の方向へと投げ飛ばす。

「くっ!!」

投げ飛ばされた龍也は体勢を立て直しながらブレーキを掛けて顔を上げると、神奈子の死角から攻撃を仕掛け様としている霊夢の姿が見えた。
神奈子の視線は投げ飛ばした龍也の方を向いており、死角から迫って来ている霊夢に気付いた様子は無い。
霊夢もその事に気付いているからか、神奈子を自身の間合いに入れたのと同時に勢い良くお払い棒を振るう。
しかし、

「おっと残念」

まるで全て分かっていたと言う動作で神奈子は振るわれたお払い棒を自身の手で受け止め、

「きゃ!!」

お払い棒を掴んでいる手から神力を僅かに放って霊夢を弾き飛ばした。
その瞬間、

「メテオニックシャワー!!」

大量の星型の弾幕が神奈子に降り注いだ。
直ぐにでも回避行動を取らなければ大量の弾幕が神奈子に命中する事になるであろう。
だと言うのに、神奈子に動く気配は全く見られない。
まかさ弾幕の雨に身を曝すのかと思われた矢先、神奈子は頭上に一本の御柱を生み出し、

「そら!!」

生み出した御柱を回転させる事で降り注いで来た弾幕を防いだのだ。

「なっ!?」

そんな方法で防がれるとは思わなかった魔理沙は驚き表情を浮かべてしまう。
とは言え、驚きも一瞬。
完全に防がれてしまっている以上、これ以上弾幕を放っても魔力の無駄遣いにしかならないだろう。
そう判断した魔理沙が弾幕を放つのを止め様としたタイミングで、

「はあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

超速歩法で神奈子の側面に回った龍也が炎の剣を振るう。

「ッ!!」

回り込んで来た龍也のスピードが想像以上に速かった事で神奈子は驚くも、直ぐに表情を戻しながら新たな御柱を生み出して炎の剣の一撃を防ぐ。
不意打ちとも言える一撃を防いだ事で神奈子が一安心した刹那、

「なっ!?」

炎の剣と御柱が接触している部分が突如として爆発を起こす。
爆発が起きた事で弾き飛ばされた御柱が神奈子の体に当たり、神奈子の体勢が崩れてしまう。
因みに爆発が起きた原因は、御柱と接触している炎の剣の一部を龍也が爆発させたからだ。
体勢を崩した神奈子を二人よりも高い位置で見ていた魔理沙はチャンスだと思った。
今の神奈子は龍也と魔理沙の二人を相手にしている。
つまり、魔理沙が弾幕を放つのを止めなければ神奈子の向けるべき意識を分散させ続けられると言う事。
向ける意識を分散させ続けられれば、何所かでミスを誘発させる事が出来るかもしれない。
であるならば、この儘弾幕を放ち続けるのが得策と魔理沙が考えたのと同時に、

「げっ!?」

頭上から降り注ぐ弾幕を防ぐ為に回転している御柱が魔理沙の居る場所目掛けて急上昇して来たのだ。
これには魔理沙も驚きながら、これから直ぐ先の未来で起こる出来事を予測してしまった。
上昇して来た御柱に自分が弾き飛ばされると言う未来が。
だからか、魔理沙は舌打ちをしながら弾幕を放つの止めて回避行動を取る事にした。
頭上からの攻撃を止めさせる事は出来たものの、

「はああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

崩れた体勢を見て好機と思い、攻め立てて来ている龍也を神奈子は止める事が出来ないでいた。
次から次へと振るわれる炎の剣を神奈子は全て御柱で受け止めているが、

「く……」

受ける度に神奈子は後退を強いられていた。
何故か。
それは炎の剣が御柱に接触する度に、接触している部分が爆発を起こしているからである。
先程の時のみたいに御柱が弾き飛ばされない様にはしているが、爆発の衝撃はその儘神奈子を襲っていく。
もし、下手に攻め様としたら。
襲って来る爆発の衝撃を受け止め切れずに体勢を崩し、そこを龍也に突かれると言う可能性が出て来る。
故に神奈子は龍也の斬撃を御柱で受け止めながら後退する事にしたのだ。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「ぐ……」

攻める龍也と守る神奈子。
現時点での構図はこうなっている。
しかし、これだけでは勝負を決する事には成らないし状況が動く事も無い。
そう考えた神奈子は今まで生み出していた御柱よりも小さいサイズの御柱を生み出し、生み出した御柱を右手で掴んで龍也が振るった炎の剣を迎撃する。
当然、御柱と激突した炎の剣の一部が爆発を起こす。
これまで通りならこの爆発に耐えたり何なりして吹っ飛ばされない様にするであろうが、神奈子は今回それをせずに吹き飛んで行く。
吹き飛んでしまった神奈子に龍也が疑問を抱いた直後、

「ッ!!」

気付く。
態と吹き飛ばされて強引に間合いを取ったのだと言う事を。
自身の狙いに気付いた龍也を見ながら神奈子はこの儘間合いを離して仕切り直そうと言う予定を立て始めた瞬間、

「ッ!?」

背中に何かが当たり、神奈子はこれ以上間合いを離す事が出来なくなってしまった。
一体何がと言う疑問と共に顔を後ろに向けると、

「結界!?」

青白い光を放っている大きな結界が神奈子の目に映る。
更にその結界の先には霊夢の姿が在る。
となると結界を張っているのは霊夢であろう。
神奈子としてはもっと間合いを離したいので、結界を破壊し様とした刹那、

「ふふ」

霊夢が笑みを浮かべた。
浮べられた笑みを不審に思ったの同時に、

「ッ!!」

何かに気付いた神奈子は顔を慌てて前方へと戻すと、右手の炎の剣を突き出す様にして突撃して来ている龍也の姿が目に映った。
しかも、それだけでは無い。
何と、龍也の後方斜め上空にはミニ八卦炉を両手で持ちながら突き出した体勢で居る魔理沙の姿が在ったのだ。
背後の結界を破壊する時間は無く、結界が邪魔でもう下がる事は出来ない。
上手く体を動かして龍也の一撃を避けたとしても、避けた隙を突いた魔理沙の強力な一撃が叩き込まれるであろう。
何となくではあるが三人の狙いを察した神奈子は防御と回避を選択肢の中から捨て、前方を見据える。
前方を見据えた時、龍也と神奈子の目と目が合った。
目が合った事で龍也は神奈子が何か仕掛けて来るものだと感じ取り、神奈子から目を逸らさない様にしながら接近して行く。
そして、龍也の炎の剣が神奈子の体に突き刺さる直前、

「「ッ!?」」

突如、龍也の体が浮かび上がった。
行き成りの事態に霊夢と魔理沙が驚きの表情を浮かべた一瞬の後、

「か……は……」

龍也は浮遊感と共に腹部に強い衝撃を感じ、口から空気を吐き出しながら二本の炎の剣を消失させてしまう。
吐き出してしまった空気を反射的に戻そうとしながら龍也は視線を下に向ける。
すると、

「御……柱?」

自分がかなり大きい御柱に上に立っており、自分の腹部に小さな御柱が減り込んでいる事が分かった。
分かった事から一体何がと言う疑問が出て来たが腹部のダメージで膝を着き、減り込んでいた御柱が落ちた時に出て来た疑問は氷解する。
何故氷解したのかと言うと、何が起こったのかを龍也はぼんやりとではあるが理解したからだ。
先ず湖に突き刺さっている巨大な御柱を使って龍也の高度を不意打ち気味に上げる。
急に高度が上がり、龍也が状況を理解し切る前に小さな御柱で強力な一撃を叩き込む。
これが龍也が理解した事の中身だ。
それはさて置き、膝を着いてしまった龍也は倒れ込むのを堪えるかの様に全身に力を籠め始めた時、

「意識を眼前の敵にだけ集中させるから、そこ以外からの攻撃に弱くなるのさ。好機やチャンスと言った時にこそ、視野を広く持たなきゃね。
でもま、惜しかったよ」

忠告する様な声と共に龍也に影が掛かる。
掛かった影に気付いた龍也が視線を上に向けると、

「溺死しない内に引き上げてやるから、少しの間寝てるんだね」

神奈子はそう言って龍也の側頭部に向けて手に持っている御柱を叩き込んだ。

「がっ!!」

御柱を側頭部に叩き込まれた龍也は吹っ飛ぶ様な形で巨大な御柱の上から離れ、

「ごっ!!」

離れた直後に空から降って来た一本の御柱が龍也の頭頂部に激突し、龍也は真っ逆さまの状態で湖に向けて一直線に叩き落されてしまった。
頭部に大きいタメージが二回入った事で朦朧とし始めた意識を繋ぎ止めながら龍也は顔を動かして上空の様子を伺う。
伺った結果、

「「龍也!!」」

叩き落された龍也を助ける為に急降下して来ている霊夢と魔理沙の姿が見て取れた。
しかし、神奈子からの妨害が入った事で二人は龍也を助ける事が出来なくなってしまう。
何とか妨害から抜け出して二人は龍也を助け様としたが、残念ながら間に合わずに龍也は湖に中へと沈んでしまった。






















湖に沈んでしまった龍也は意識が朦朧としていた事もあり、気を失ってしまうと思われたが、

「ッ!!」

椛との戦いで斬られた肩口から水が染みた事で意識が覚醒した。
どうやら、肩口から感じる痛みは龍也にとって良い気付けになった様だ。
兎も角、意識が覚醒した龍也は体を回転させて体勢を立て直す。
そして、龍也は顔を水面に向けながら自身の力を変える。
朱雀の力から青龍の力へと。
それに伴い、龍也の瞳と髪の色が紅から蒼へと変化する。
力の変換が完了すると、水が龍也の動き等を阻害する事は無くなった。
と言っても、神奈子との戦いで水中戦をする訳でも無いので水が龍也の動きを阻害しなく無っても余り意味は成さないが。
ともあれ、準備が完了した龍也は神奈子が居る位置を見据えて一気に上昇する。
すると、湖を爆発させた様な勢いで龍也は湖から飛び出した。
飛び出して来た龍也に気付いた霊夢、魔理沙、神奈子は三人はそちらに目を向け、

「やっぱり平気だったわね」
「ま、あれ位でどうにかなる様な奴でもないしな」
「へぇ……あれで気を失わないとは……中々に根性が有るじゃないか」

思い思いの感想を口にする。
その間に龍也は三人より高い位置に行き、両手を合わせて一本の水の大剣を生み出し、

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

神奈子へと一気に肉迫し、水の大剣を振り下ろす。
振り下ろされた水に大剣を神奈子が右手の御柱で受け止めた瞬間、

「なっ!?」

神奈子は驚きの表情を浮かべてしまった。
何故かと言うと水の大剣を受け止めた御柱に斬り込みが入り、入った斬り込みがどんどんと深くなっていっているからだ。
自身の御柱に易々と斬り込みを入れられた原因を探る為に神奈子が水の大剣へと目を向けると、

「摩擦音に刃の部分の水が高速で流れている……そう言う事か!!」

直ぐに理解した。
要はチェーンソーと同じ原理で自分の御柱に斬り込みが入れられたと言う事を。
尤も、神奈子が直接持っている御柱でなければ一瞬で真っ二つにされた可能性もあったが。
それはそれとして、この儘では御柱が真っ二つにされるのも時間の問題だと言う事を感じた神奈子は右手に持っている御柱を手から放して後ろへと下がる。
同時に御柱が真っ二つとなり、力を失くしたかの様に湖へと落ちて行く。
落ちて行った御柱を目の端に入れながら後ろに下がった神奈子を龍也は追おうとしたが、

「……おっと!!」

自身の真横から神奈子に向けて弾幕が飛んで来た為、追うのを中断する事にした。
飛んで来た弾幕の見た目から弾幕を放って来たのは霊夢と魔理沙であるのを龍也が確信すると、弾幕が神奈子に激突して爆発と爆煙が発生する。
発生した爆発と爆煙を少し警戒しながら見ている龍也の傍に、

「よっし、直撃だな」

魔理沙が現れ、

「これで終わってくれれば、楽なんだけどね」

続く様にして霊夢も龍也の隣に現れた。
現れた二人の位置を龍也は軽く顔を動かして確認し、

「ま、そう都合良くはいかないだろうな」

これで終わりにはならないと言う様な事を口にしながら水の大剣を構え直した瞬間、爆煙が晴れる。
爆煙が晴れた場所には袖口を若干ボロボロにしただけの神奈子の姿が在った。
やはりと言うべきか、神奈子はまだまだ健在の様である。
自身の目で神奈子が健在な姿を直接見た事で三人が改めて気合を入れ直したタイミングで、

「中々に良いコンビネーションじゃないか」

独り言を言うかの様に三人を褒める言葉を神奈子は呟き、

「一寸、攻め手を変えてみ様か」

口端を吊り上げながら自身の周囲に幾つもの御柱を生み出した。
今までの戦い方から生み出した御柱を飛ばして来るのではと言う予想を三人は立てたが、

「さて……こいつを避ける事が出来るかい?」

立てた予想は大外れだと言わんばかりに生み出された御柱からビームが一斉に放たれたのだ。

「「「ッ!?」」」

御柱からビームが放たれる事を予想していなかったからか、三人は驚いた表情を浮かべてしまう。
が、直ぐに表情を戻して三人は散開する様にしてビームを避けていく。
しかし、ビームは最初の一発では終わらなかった。
何と、ビームが次から次へと絶え間無く放たれて来たのである。
放たれて来るビームの量と密度のせいで三人は回避行動を取る事を余儀無くされていた。
そんな中、どうやって神奈子に近付くかと言う考えを龍也は廻らせていく。
下手に近付けばビームの雨に晒され、撃墜されるのは確実
かと言って弾幕で相殺して近付こうにも、下手な威力では相殺する処かビームに呑み込まれてしまうだろう。
であるならば、

「あ……」

威力の高い遠距離攻撃を放てば良い。
と言う考えに至った龍也は善は急げと言った感じで水の大剣を消しながら右手を突き出し、突き出した右手に霊力を集中させて圧縮していき、

「霊流波!!!!」

己が技を放つ。
放たれた技、青白い閃光は迫り来るビームと激突した。
激突した青白い閃光とビームは一瞬の拮抗の後、青白い閃光がビームを押し込み始める。
その光景を見た龍也は霊流波の方がビームよりも強いと言う事を理解し、霊流波を盾にする様にして神奈子へと突っ込んで行く。
突っ込んで来た龍也を見た神奈子はビームの威力を上げ、ビームが青白い閃光に押されるのを拮抗状態にまで戻すのに成功するも、

「もう一発!!」

龍也が左手からも霊流波を放った為、また直ぐに押され始めてしまう。
そして、龍也が神奈子の眼前付近にまで近付いた刹那、

「「ッ!!」」

龍也に向けてビームを放っていた御柱が突如として爆発を起こてしまし、龍也と神奈子は爆発に呑み込まれてしまった。
爆発の原因は至近距離で龍也の霊流波にビームが押され、逆流したせいであろう。
それはそれとして、爆発のせいで機能不全でも起こしたのかビームを放っていた全ての御柱が力を失くしたかの様に湖に向けて墜落して行く。
兎も角、爆発に呑み込まれてしまった二人ではあるが、

「くっ!!」

大した時間を置かずに爆発の中から神奈子が飛び出して来た。
飛び出した神奈子を追う様にして龍也も爆発の中から直ぐに飛び出し、

「しっ!!」

右手から水の剣を生み出して一閃。
繰り出された一撃は神奈子の腹部を僅かに斬るだけに終わってしまう。
僅かとは一撃を入れらたからか、次の一撃を警戒する様な動きで神奈子は龍也から距離を取る。
当然、神奈子を逃がす龍也はでは無い。
距離を取った神奈子を超速歩法で追い、自身の間合いに神奈子を入れた瞬間、

「らあ!!」

水の剣を振るう。
しかし、

「ッ!!」

振るった水の剣は神奈子の体に当たる前に崩壊してしまう。
崩壊してしまった理由は、

「思った通り。その剣は殺傷力が高い反面、耐久性は低い様だね」

神奈子が水の剣が自分の体に当たる直前、水の剣の側面に手刀を放った為だ。
水の剣の弱点をこうも早くに見破られた事に龍也は驚くも、直ぐに水の剣を再び生み出そうとする。
だが、

「遅い!!」
「がっ!!」

水の剣を再び生み出される前に神奈子が龍也の脇腹に蹴りを叩き込み、龍也を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた龍也が体勢を立て直そうとしている間に、

「夢想封印!!」

七色に光る弾が神奈子に向って次々と飛んで行く。
どうやら、龍也との戦いで生じた隙を霊夢は利用した様だ。

「ちぃ!!」

距離的に回避も御柱による防御も無理であると判断にした神奈子は咄嗟に両腕を交差させる。
その直後、七色に光る弾は次々と神奈子に着弾していって爆発と爆煙が発生した。
七色の弾が全て着弾し終えると、

「はあ!!」

神奈子は両腕を振り払う様にして防御体勢を解き、爆発と爆煙を吹き飛ばす。
爆発と爆煙の中に居た神奈子の両腕の袖口の部分は完全に消失、両腕は傷付いていた。
ダメージを受けた事もあってか神奈子は両腕の調子を確かめ始める。
確かめた結果は戦闘行動に支障は無いと言うものだったので、攻撃を仕掛けて来た霊夢に反撃を行おうとしたが、

「おっと、私を忘れてないか!?」

反撃する前に魔理沙が大量の弾幕を放って来た為、霊夢への反撃を中止して神奈子はこの場を離れて回避行動を取る事にした。
回避行動を取りながら神奈子は反撃の機会を伺っているが、中々その機会が得られない。
弾幕が濃い為、下手に弾幕を放って魔理沙の弾幕を相殺しても爆煙で視界が遮られて思わぬ一撃を喰らう事になり兼ねないだろう。
かと言って御柱を生み出して盾にし様としても、弾幕が濃過ぎて御柱を生み出す隙が作れない。
そんな神奈子に対して状況を有利に進めている魔理沙であるが、当の魔理沙は余り余裕の在る表情をしてはいなかった。
何故かと言うと、単純に弾幕が当たる気配が一向に無いからだ。
この儘弾幕を放ち続けても魔理沙の魔力が尽きる事はないであろう。
が、神奈子の程の実力者相手に無駄に魔力を浪費すると言う事は魔理沙としても避けたいところ。
何故ならば、いざと言う時にパワー負けしてしまう可能性が出て来るからだ。
だからか、魔理沙は弾幕を放つのを止め、

「なら……」

弾幕の代わりだと言わんばかりにスカートの中に手を入れ、スカートの中から怪しい感じがする液体が入ったフラスコを幾つも取り出し、

「おりゃ!!」

取り出したフラスコを神奈子の周囲に向けて投げ付け、投げ付けてから数秒後にフラスコ目掛けて幾つかの弾を放つ。
放たれた弾がフラスコに着弾した瞬間、フラスコは爆発して神奈子は爆煙に包まれる。
爆煙に包まれた事で自分達の姿を見失っていると判断した魔理沙は箒の柄頭を神奈子が居るであろう場所に向け、

「ルミネスストライク!!」

金色の光球を放つ。
放たれた光球は一直線に爆煙の中へと向って行き、爆音が辺り一帯に響き渡る。
響き渡った爆音から直撃したと思っていた魔理沙であったが、

「なっ!?」

御柱が爆煙の中から飛び出して来た為、驚きの表情を浮かべながら理解した。
爆音は神奈子ではなく御柱に当たったので発生したと言う事を。
とは言え、何時までも驚いている暇は無い。
飛び出して来た御柱の速度を見るに、距離を取っての回避は避けるのが無難。
であるならば、横に動いて回避するべきだと魔理沙が思った刹那、

「らあ!!」

超速歩法で魔理沙の真正面にやって来た龍也が水の大剣で御柱を叩き斬った。
叩き斬られて真っ二つになった御柱が龍也と魔理沙の真横を通り抜けた後、龍也は構えを取り直し、

「大丈夫か、魔理沙」

顔を後ろに向けてそう尋ねる。
急に龍也が現れた事で魔理沙は驚くも、直ぐに笑顔になり、

「ああ、助かったぜ。ありがとな、龍也」

礼を言う。
言われた礼で魔理沙の無事を確認出来た龍也は顔を神奈子の方へと戻す。
すると、爆煙が吹き飛び、

「ッ!!」

自身の周囲に御柱を展開して体勢を立て直し終えた神奈子が姿を現した。
既に体勢を立て直している神奈子を見て仕切り直しかと龍也が思った時、

「中々決定打が決まらないわね」

霊夢がそう言いながら龍也と魔理沙の近くに現れる。
近くに現れた際に霊夢が言った事に龍也は内心で同意しつつ、考えを廻らせていく。
その結果、ある方法が龍也の頭に思い浮かんだ。
思い浮かんだ方法と言うのは受けるダメージを無視して一気に斬り込むと言うもの。
途中で撃ち落される可能性は在るが、上手くいけば決定打とも言える一撃を神奈子に叩き込む事が出来るかも知れない。
ならば、賭ける価値は十分だろう。
そう判断した龍也が斬り込もうとしたタイミングで、

「なぁ、一寸作戦を思い付いたんだが……」

魔理沙から作戦を思い付いたと言う発言が発せられた。

「「作戦?」」

発せられた発言が耳に入った龍也と霊夢は、二人揃って魔理沙の方へと顔を向ける。
龍也と霊夢の反応から自分の作戦を聞く気が有ると言う事を感じた魔理沙は、

「ああ、作戦だ。一寸耳を貸せよ」

悪戯を思い付いたと言う様な笑みを浮かべながら二人に近付き、小さな声で思い付いた作戦を話し始めた。

「……って言う様な作戦何だがどうだ?」

思い付いた作戦を話し終えた魔理沙がどうかと聞くと、

「ふむ……悪く無いわね」
「確かに悪くは無いとは思うが……」

霊夢は肯定的な反応を示したが、龍也は今一つと言った様な反応を示す。
だからか、

「ん? どうかしたか?」

ついと言った感じで魔理沙は龍也に疑問気な表情を向けた。

「いや……この作戦、明らかに俺の危険度だけが高くないか?」

魔理沙の疑問に対する答えとして、龍也はこの作戦の自分の危険度だけが高い事を訴える。
しかし、

「何言ってるのよ。龍也は私達の様なか弱い女の子にそんな事をしろって言うの?」
「そうだぜ。こう言う時、龍也の様な男の子は私達の様なか弱い女の子を護ってくれるものだろ?」

訴えられた内容など知った事かと言う様に、霊夢と魔理沙はシレッとした表情でそんな事を言ってのけた。

「お前等、か弱いって言葉を辞書で引いて調べて来い」

あんまりだと言える様な二人の物言いに龍也は突っ込みを入れながら溜息を一つ吐き、

「……ま、別にお前の采配に不満はねぇよ。俺が一番上手くやれるだろうしな」

作戦には賛成だと言う様な事を口にしながら神奈子の方に目を向けた。
結構長々と話していたと言うのに、神奈子は龍也達に攻撃を仕掛ける素振りすら見せていない。
やはり、龍也達がどう動くかを見たいのだろうか。
だとすれば、作戦開始までは邪魔される事は無いだろうと言う事を龍也が考えた時、

「取り敢えず、初手は任せたわよ」
「私達は龍也がちゃんと繋げてくれるって信じて動くからな」

霊夢と魔理沙がそんな事を言って来た。
言外から二人の信頼を感じたからか、

「任せろよ。ここで繋げられなかったら、男じゃねぇしな」

龍也はその信頼に応えると言った感じで返しつつ、自身の力を変える。
青龍の力から白虎の力へと。
力の変換に伴い、龍也の髪と瞳の色が蒼から翠へと変わる。
そして、水の大剣が崩壊するのと同時に龍也の両腕と両脚に風が纏わさった。
それを合図にしたかの様に、霊夢と魔理沙は移動を開始する。
神奈子は二人が移動した先に幾らかの意識を割き、動かなかった龍也に目を向けると、

「へぇ……」

人差し指を自分の方に向けてクイクイっと動かしている龍也の姿が映った。
あからさま過ぎる挑発。
余程激昂していなければ乗らない様な挑発ではあるが、その挑発に神奈子は敢て乗る事にした。
何故かと言うと龍也、霊夢、魔理沙の三人がどう言う作戦を立ててどう攻めて来るかに興味が在るからだ。
兎も角、挑発に乗る事にした神奈子は何が起こるのか楽しみだと言う笑みを浮かべながら展開している御柱を全て龍也に向け、

「そら!!」

向けた御柱の全てからビームを発射した。
発射され、迫り来る無数のビームを龍也は軽やかな動きで避けていき、

「どうしたどうした、当たらないぞ!!」

更なる挑発を行なう。

「言うじゃないか!!」

再度行なわれた挑発に応える様に神奈子はビームの発射速度を上げ、おまけにビーム自体のスピードも上げる。
しかし、それでも神奈子が放ったビームは龍也の姿を捉える事は出来なかった。
一向にビームが当たらない様子を見て今の龍也は先程までよりも速くなっていると言う感想を神奈子は抱きつつ、ビームを放っている御柱の配置を変える。
その後、湖に突き刺さっている一本の大きな御柱を浮かび上がらせて自分の頭上へと持って行き、

「これは避けられるかい?」

好戦的な笑みを浮かべながら頭上の御柱の先端に神力を集中させ始めた。
神奈子がしている事を見て強力な一撃を放つ積りであるのを察した龍也は、回避行動を取りながら大きな御柱の射線上に移動する。

「態々これの射線上に来るとはね……」

態々大きな御柱の射線上に移動して来た龍也に神奈子は少し驚くも、

「まぁ、勇気と取れなくもないが……それで防ぎ切る程……これの威力は低くはないよ」

直ぐに驚きを収めて既に放っている幾つものビームの射線を龍也を取り囲むものへと変え、大きな御柱から特大のビームを放った。
放たれた特大のビームは龍也を呑み込んでも余り有る。
普通ならば回避するべきなのだが、幾つものビームに取り囲まれているせいで避ける事は出来ない。
となれば必然的に特大のビームを受ける事となる。
かと言って、今の状態で特大のビームを受け切れるとは龍也も思ってはいない。
なので、龍也は自身の力を変えた。
白虎の力から玄武の力へと。
力の変換に伴って龍也の髪と瞳の色が翠から茶に変わり、両腕両脚に纏っている風が四散したタイミングで、

「玄武の甲羅!!」

龍也は右手を迫り来る特大のビームに向け、自身の最強の盾である玄武の甲羅を右手の先へと生み出す。
その瞬間、

「ぐう!!」

特大のビームが玄武の甲羅に激突した。
玄武の甲羅に特大のビームが激突した事で発生した衝撃が龍也を襲うが、玄武の甲羅が貫かれたり破壊されたりする様子は微塵も見られない。

「あれは……玄武の甲羅か!?」

自身が放った特大のビームを防いでいる甲羅が玄武の甲羅である事を見抜いた神奈子が驚いている間に、

「うう……ぅぅぅうううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

龍也は霊力を一気に解放しながら玄武の甲羅で特大のビームを防いでいる状態を維持した儘、神奈子に向かって突っ込んで行く。
突っ込んで来ている龍也から感じられる霊力の大きさから、近付かせるのは拙いと判断した神奈子は放っている特大のビームの出力を上げる。
特大のビームの出力を上がった事で、神奈子へと突っ込んでいる龍也の進行スピードがどんどんと落ちていく。
スピード低下が止まらない事から上手くいけば押し返せると思った神奈子は移動した霊夢と魔理沙を捜し始める。
一方、

「ぐ……ぐぐ……」

落ちていっているスピードを戻そうと龍也は足掻いているが、足掻きは空しくスピードはどんどんと落ちていってしまった。
この儘では魔理沙が立案した作戦が実行出来なくなってしまう。
作戦失敗と言う未来が現実味を帯びて来たからか、

「く……くそ……」

諦めにもにた感情が龍也の心に芽生え始めた。
だが、次の瞬間には『それで良いのか』と言う言葉が龍也の心に響き渡る。
当然、響き渡った言葉を、

「良い訳あるか!!」

龍也は否定した。
そう。
諦める何て事は出来ない。
諦めたら、霊夢と魔理沙の信頼を裏切る事になる。
何より、誓ったのだ。
自分自身の魂と霊夢と魔理沙に。
必ず次に繋げると。
ならば、

「ぅぅぅぅううううぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

何が何でも繋げねばなるまい。
そんな龍也の想いに応えたのか、龍也から解放されている霊力は更に勢いを増して溢れ出た霊力の一部は玄武の姿を型作った。

「ッ!?」

突如跳ね上がった龍也の霊力を感じた神奈子は、慌てて龍也の方に顔を向ける。
顔を向けた神奈子の目には最初の時よりも速いスピードで迫って来ている龍也の姿が映った。
放っている特大のビームを防ぎ切り、更には迫って来れると言う事に神奈子は驚くも、

「人間の底力……って言うのも馬鹿に出来ないね……いや、それでこそ人間だ……と言うべきだね。これは」

ポツリと小さな声でそう呟き、笑みを浮かべる。
そして、大きな御柱と幾つもの御柱からビームを放つの止めた。
大きな御柱からビームを放つのを止めた理由は、近い所でビームを防がれれば先程の時の様に御柱が破壊される可能性があるからだ。
幾つもの御柱からビームを放つのを止めた理由は神力の無駄使いになると考えたからである。
兎も角、急に特大のビームが止んだ事で龍也は勢い余って前のめり様な体勢になってしまう。
神奈子との距離が大分縮まった状況でこれは拙いからか龍也は慌てて体勢を立て直し、特大のビームを防いでいた玄武の甲羅を消した直後、

「ぐう!!」

龍也の頬に神奈子の拳が突き刺さり、口端から血が流れ落ちた。
手応え有りと言う感想と殴った感触が少し硬いと言う感想を神奈子が抱いていると、龍也は顔を動かして神奈子の拳を押し返す。
その後、頬に突き刺さっている神奈子の拳を龍也は左手で掴んで無理矢理引き離しながら力を籠めて押し込もうとする。
当然、押し込まれない様にする為に神奈子も力を籠めた。
奇しくも力比べの様な状態になると、

「まさか、玄武の甲羅を生み出すとはね。あれには本気で驚いたよ。あんた、一体何者だい?」

ふと、龍也が何者であるかと言う事を神奈子は尋ねる。
尋ねられた龍也は不敵な笑みを浮かべ、

「只の……旅人だ」

旅人であると返す。

「只の旅人にしては随分と強いじゃないか」

龍也のから返って来た返答を受けた神奈子は空いている手で拳を放ったが、

「そいつはどうも」

新たに振るわれた拳は龍也の空いている手に受け止められてしまった。
片手から両手による力比べに移行した中、

「で、どうするんだい? この儘力比べといくのかい?」

世間話をする感じで神奈子は龍也にそんな事を問う。

「それでも良いんだが……俺の役目は霊夢と魔理沙に繋げる事なんでね。力比べは遠慮させて貰うぜ」
「なっ!?」

問われた龍也がそう言うや否や、龍也の手から大量の土が一気に生み出されて神奈子の体を覆い始めた。

「ッ!!」

土で拘束する気かと思った神奈子が抵抗し様とするも、その前に神奈子の首から下が土で覆われてしまう。
それを見た龍也は神奈子から離れる様にして後方へと跳ぶ。
後方へ跳んで神奈子との距離が取れると、巨大な土の塊が浮いている様に見えると言う感想を龍也が抱いている間に、

「これで動きを封じた積りかい? だとしたら、それは少し私を甘く見過ぎているよ」

少し目を細めた神奈子が全身に力を籠め始めた。
すると、神奈子を拘束する形で覆っている土の塊に皹が入り始める。
この儘では神奈子が拘束を破るのも時間の問題であろう。
だと言うのに龍也から焦りと言ったものは少しも感じられなかった。
焦っていない龍也を神奈子は少し不審に感じつつも、拘束から逃れる為に力を籠め続けていく。
時間が経つにつれて皹は広がって行き、最後には全体が皹で覆われる。
土の塊が砕け散るまで後僅かだと思われた時、

「八方鬼縛陣!!!!」
「なあ!?」

突如として発生した陣に神奈子は縛られ、動きを封じられてしまった。
陣に縛られてしまった神奈子が驚いていると、

「あの土の塊、一寸大き過ぎない?」

愚痴とも言える言葉と共に霊夢が龍也の隣に現れた。
現れた霊夢に驚く事無く龍也は顔を動かし、

「そうは言うがな、あれ位の大きさじゃないと簡単に抜け出されたと思うぞ」
「その大きさのせいで私は陣を引くのに苦労したんだけど」
「お前、普段はグータラ何だからこう言う時位は頑張れよ」
「失礼ね。私は何時も頑張ってるわよ」

霊夢と場違いとも言える様な会話を繰り広げる。
そんな二人の会話が耳に入って来ている中、

「そうか……これが狙いか……」

神奈子は二人が何を狙っていたのか理解した。

「そう言う事だ」
「そう言う事」

龍也と霊夢は神奈子の方に顔を向けながら理解した事は正しいと言う台詞を投げ掛け、

「予め言って置くけど、その陣は鬼をも縛る効果が有るの。幾らあんたがかなりの力を持った神様であっても、その陣から抜け出すには相当な時間を有する筈よ」

続ける様な形で霊夢は張った陣に付いての簡単な説明を行なう。

「成程……確かにその通りだね」

張られている陣の感触と読み取った構成から霊夢の説明が正しい事を神奈子は理解しつつ、

「けど、私の動きを封じたのは良いがこの先どうするんだい? 私に攻撃を当てる為にはこの陣を退かさなければならない。けど、それをしたら私は直ぐに
自由の身になるよ」

これからどうすのかと言う指摘をする。
霊夢が張った八方鬼縛陣は対象を縛る以外にも一寸した障壁にもなる。
つまり、神奈子に攻撃を通すには張った陣を退かせなければならない。
かと言って張った陣を退かせば指摘された通り、神奈子が自由になってしまう。
仮に何もしなかったとすれば、時間は掛かるが八方鬼縛陣を破って神奈子は自由になる。
この事から只の時間稼ぎかと言う可能性が神奈子の脳裏に過ぎった刹那、

「勿論、分かっているわよ」

霊夢は胸を張りながら自信満々な表情を浮かべ、

「あんたに確実に攻撃を当てる為には……陣諸共攻撃すれば良いのよ!!」

そう言い放ちながら龍也と一緒に上昇して行き、太陽を背負う様にして宙に浮かんでいる魔理沙の傍に移動した。
移動した先に居る魔理沙は箒の上に立ちながら両手を神奈子に突き出している。
突き出している両手の右手にはミニ八卦炉が握られており、両手からは力強い魔力が溢れ出ていた。
溢れ出ている魔力の感じから魔理沙が何をし様としているのかを理解した神奈子は慌てて神力を解放して陣を破壊し様とする。
解放された神力は今までとは桁違いであるからか、湖全体の大気が震え始めた。
その様子を見るに張られている陣は大した時間を置かずに破壊されそうな感じだ。
だが、破壊される前に、

「ダブルスパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアク!!!!!!!!」

魔理沙から二本の極太レーザーが放たれる。
放たれた二本の極太レーザーは陣を容易くぶち抜いて神奈子を土の塊諸共呑み込んだ。
それから少しすると、レーザーの照射が終わったのかレーザーの出力が落ちていき、

「ッ!!」

出力が落ちたレーザーの中から神奈子は勢い良く飛び出し、

「……御柱の防御が間に合わなかったらかなり拙かったね」

先程まで居た場所から離れた場所に移動して一息吐いた。
どうやら陣が破壊されたのと同時に土の塊から抜け出し、目の前に盾となる御柱を幾つも生み出して魔理沙のダブルスパークを防いだ様だ。
しかし、完全に防ぎ切れた訳では無かった様である。
神奈子の服などはかなりボロボロになり、背中に着けている注連縄も半分以上破損している。
更に言えば、神奈子自身もかなりのダメージを負っていた。
が、もう戦えないと言う程ではない。
今の自分の状態をある程度確認し終えた神奈子が二本の極太レーザーのせいで見失ってしまった龍也、霊夢、魔理沙の三人を捜そうとした瞬間、

「動くな」

背後から動くなと言う声が発せられた。
発せられた声に反応した神奈子が顔を僅かに動かして背後を確認すると、髪と瞳の色を紅にした龍也が自身の背中に炎の大剣を突き付けている様子が目に映る。
そして、

「勝負有りね」

龍也に続く形で霊夢が神奈子の首にお払い棒を突き付けながらそう言ってのけた。
同時に、

「撃つと動く……間違えた、動くと撃つ」

三人が居る位置よりも高い位置、丁度神奈子の頭上を陣取っている魔理沙がミニ八卦炉を両手で構えながらその様に言い放つ。
何か在れば何時でもマスタースパークを放つ積りなのだろう。
完全包囲とも言える様な状況となり、自分が何かする前に叩き潰されると判断した神奈子は、

「……参った、降参だ」

大人しく負けを認める。
こうして龍也、霊夢、魔理沙と神奈子との戦いは龍也達の勝利で幕を閉じた。






































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