「うーん……」
博麗神社の敷地内。
霊児は外側と内側に一つずつ結界……二重結界を展開しながら正面に右手を向け、
「……しっ」
掌から霊力で出来た弾を生み出し、それを発射する。
発射された弾は勢い良く突き進んで行き、内側の結界に当たった。
すると内側の結界に当たった弾は結界に飲み込まれる様に消え、その次の瞬間には外側の結界の外側部分から弾が出て行く。
二つの結界にはそれなりの距離を設けているが、その間を通過する時間は零。
それを確認した後、霊児は更に霊力で出来た弾を何発か放つ。
今放たれた弾も内側に結界に当たると飲み込まれる様にして消え、外側の結界の外側部分から弾が出て来る。
今回の通過時間も零。
この事から外と内の結界内を移動する時間は完全に零であると霊児は確信し、これを移動方法に使えないかと考える。
勿論、今霊児が放った弾の様に霊児自身が結界にぶつかれば同じように移動できるであろう。
だが、毎回毎回二重結界を展開したのであれば幾ら何でも使い勝手が悪い。
おまけに結界の位置を調節するのも面倒臭い。
やってやれ無い事もないが、面倒臭い。
霊児は二重結界を消して縁側にまで行き、座って考える。
何か良い方法はないかと。
考え始めて少しすると、
「……そうだ、何かに二重結界の術式を刻み込んで発動させるのはどうだろう」
二重結界の術式を何かに刻み込み、それに発動させると言う方法を思い付いた。
思い付いたのと同時に霊児が考えを纏めていく。
そしてある程度考えが纏まると霊児は立ち上がって自分の部屋に向う。
部屋に着くと霊児は机の前に座って白紙の紙を取り出し、そこに筆を使って何かを書き込んでいく。
しかし、筆は中々思う様に進んではいない様だ。
だが、それも仕方がない事である。
何故ならば、霊児は基本的に無詠唱で技を発動出来る様にしているからだ。
元々言霊や詠唱、印などを用いて発動するものを霊児はそれら用いずに使える様にしている。
だが今回は言霊や詠唱、印などを術式に変えて発動する様に組み替えているのだ。
一度無詠唱に慣れてしまっているからか、この組み替えには難儀している様である。
色々と試行錯誤を繰り返しながらも、霊児は少しずつ作業を進めていく。
「で、出来た……」
二日間、寝ずに休まずに作業を続けた結果漸く完成した。
二重結界を術式に置き換え、それを刻んだものが。
苦労して完成させたからか、十分な達成感が霊児にはあった。
出来たのだから早速試してみようと霊児は思い、庭先へと出る。
庭先に出ると霊児は二重結界の術式を刻んである紙を飛ばし、
「二重結界!!」
二重結界を発動させ様とすると、今投げた紙が二重結界を発動させた。
因みに、術の発動に必要な霊力は霊児が予め紙に溜め込んで置いた霊力を消費している。
無事、術が発動している様子を見た霊児は、
「流石俺」
自画自賛な台詞を呟く。
そして、紙が二重結界を発動してから少しすると、
「…………って、違うだろ俺!!!!」
霊児は自分自身に突っ込みを入れてしまう。
「俺がしたかったのは術式を刻んで技を発動させる事じゃない!! 二重結界を応用させた移動術を作る事だ!!」
どうやら、二重結界の術式を紙に刻み込んだ時点で完成と思ってしまった様だ。
幾ら不眠不休でやっていたとは言え、本来の目的を忘れた自分の間抜けさに霊児は腹を立てつつ、
「だが、まぁ幾つかの修正点は見つかったな……」
術の発動が終わったからか紙が限界に達したかは分からないが、燃えながら消えていっている二重結界の術式を刻んだ紙を見ながらそう呟く。
一つ目は使い捨てと言う点。
ただ術式を刻み込んだと言う事が原因だろう。
何度も何度も同じ物を作ると言うは手間が掛かる。
永続的に使用出来る様にする必要があるであろう。
二つ目は使用者の制限。
今のままでは自分が術式を刻み込んだ物を使えば誰にでもこの術を使えてしまう。
流石に神社に盗みに来る輩はいないとは思うが、用心して置くに越した事は無い。
万が一、博麗の術が余所に漏れて悪用でもされたら一大事だ。
この辺は術式に自分の血を入れて、その血の所有者しか使えない様にすれば問題ないであろう。
三つ目は音声機動の排除。
別に音声機動でも良いのだが、この術を作っている時に霊児はある事を思い付いたのだ。
それは戦闘に応用出来ないかと言う事を。
例えばこれ術式を刻んだ物を相手に投げ、投げた先に跳んで攻撃を加えると言った様に。
それを行う時に一々技名を言っていては跳ぶタイミングがずれたり、狙ったタイミングで跳べないと言った事態になってしまうかも知れない。
そう言った事態を避ける為に、心で念じたら発動出来る様にするのがベストだ。
「主に気になった修正点こんなとこか?」
霊児が気になった修正点はこの主にこの三つだ。
これ以外にも修正点はあるが、他の修正点は作っている最中に修正できるであろう。
このまま再び作業を続け様としたが、
「続きは……明日にするか」
眠気がかなりあったので、寝て起きてから続きをする事にした。
そして一週間後。
「で……出来た……」
術式を刻み込んだ木の板を見ながら霊児はそう漏らす。
漸く、苦労が報われた瞬間である。
「後は……」
そう言いながら霊児は親指の腹を歯で喰い破り、木の板に刻み込んだ術式に血を流していく。
これで術の発動条件が整い、霊児以外に発動する事は不可能になった。
「……よし」
霊児は親指を治療し、外に出る。
外に出ると、霊児は術式を刻み込んだ木の板を空に投げる。
ある程度空に上がった所で術を発動。
すると、霊児はその場から消えて投げた木の板の近くに現れた。
現れたと同時に霊児は飛んでいる木の板を掴み、そのまま降下して、
「……っと」
地面に着地する。
その後、木の板を観察し、
「成功」
上手くいった事を確信した。
刻み込んだ術式から二重結界そのものを発動させるのではなく、二重結界の外側だけを発動させる様にしたのが良かった様だ。
因みに、この術の原理としてはこうだ。
木の板が二重結界の外側を発動する。
そして霊児が二重結界の内側を発動し、それを収縮し自分を押し潰す。
すると、木の板が発動した二重結界の外側に出られると言う訳だ。
「後は細かい点を修正していけば……」
完全に完成すると霊児は思った。
例えば結界その物の隠密性を高めて相手に移動する合図を見せな様にしたり、出口の数を増やして出る先を選べるようにしたりなど。
早速、その作業に取り掛かろうとしたが、
「……眠いし、明日からにするか」
眠いので明日からにする事にした。
そして、あれから三日後。
「よし、完璧」
二重結界を応用した移動術は完全に完成した様だ。
同じ術式を書き込んだ複数の木の板に飛ぶのにどれに飛ぶか選べる事も可能となり、展開する結界は視認も感知も出来ない程の隠密性を誇っている。
跳ぶ事の可能な距離は測っていないが、理論上この世界及びこの世界と繋がっている場所なら術式が刻んである場所の何処へでも跳ぶ事が可能だ。
この事から、二重結界を応用した移動術は完成の域に達したと言ってもいいだろう。
「木の板程度だったら耐久性に難があるから、戦闘で使うにはこの術式を刻んだ武器でも……」
そう言ったところで霊児は何かを感じる。
自分は何を感じたんだと探っていくと、
「……あ」
霊児は前世の記憶を思い出した日の事を思い出した。
何故、その事を思い出したのかを考えていくと、
「……前世の記憶に同じ様な技を使う奴でもいたのか」
そんな結論に達した。
若しかしたら、無意識のうちに今の自分でも使える技を前世の記憶から探し出していたのかもしれない。
技が完成した時にその前世の記憶が刺激された可能性がある。
若しそうならよく磨耗した記憶で出来たものだと霊児は自分の事ながら感心しつつ、
「もしかしたら……未練があるのかな。前世に……」
前世に未練があるのではないかと思い始めた。
磨耗して殆ど思い出せなくなって来ている前世の記憶の事を考えて少しすると、
「いや……気にしたってしょうがない」
霊児はそう言って、首を振る。
「俺は、今を生きてるんだ」
そう、霊児は今を生きてるのだ。
過去ではなく今を。
今を生きている者が過去の……前世の記憶に囚われる訳にはいかない。
「俺は今代の博麗、博麗霊児だ。それで十分だ」
そう言って霊児は気持ちを切り替え、
「さて、武器と言っても俺の力に耐えられる素材で作られた武器じゃないとダメだ」
どんな素材の武器にするかを考える。
普通の鉄製の武器は論外。
何故ならば、霊児が本気で振るったりしたら霊児の力に耐え切れずに折れたりひん曲がってしまう可能性が非常に高いからだ。
そう言った自壊などを防ぐ為にもオリハルコンやら緋々色金やらを使うべきなのだが問題がある。
それはオリハルコンも緋々色金も非常に希少価値が高く、非常に手に入り難いと言う点だ。
そんな金属を何所でと霊児が考えた時、
「……蔵の方にあるかな」
若しかしたら先代の巫女辺りが何かを残しているかもしれないと言う可能性を思い付く。
あるかどうかは分からないが探さないよりはマシだろうと思い、霊児は蔵の方に向う。
そして蔵に着くと早速蔵の中に入って探してみる。
暫らく探していると、
「これは……陰陽玉か?」
霊児は陰陽玉を発見した。
陰陽玉とは歴代の博麗の巫女が使い続けて来た物で、主に使用者の傍に佇んで援護射撃などを行う物だ。
他にも色々と応用が利く優れ物でもあり、博麗の宝とも言える物である。
そんな大層な物が何故、蔵に仕舞われ埃を被っているのだろうか。
答えは一つ。
霊児が全く使っていないからだ。
陰陽玉は遠距離戦で一番効果を発揮する物。
つまり、遠距離戦主体者ならな相性がとても良い。
しかし、霊児の戦闘スタイルは接近戦寄りの万能型。
接近戦が一番得意な霊児にとっては陰陽玉の使い道はあまりなく、相性も良くない。
霊児は自分にとってあまり相性が良くない陰陽玉を見ながら、
「これを溶かして……いや、やっぱり不味いか」
これを溶かして武器に変え様かと思ったが、流石に不味いかと考え始める。
この陰陽玉は歴代の博麗の巫女達が使って来た物だ。
霊児が誰かに譲ったりするのは兎も角としても、溶かして全くの別物にするのは不味いであろう。
下手をすれば歴代の博麗の巫女達が霊児の枕元に立ってくるかもしれない。
自分の枕元に総立ちしている歴代の博麗の巫女達を霊児は試しに想像し、鬱陶しいし寝苦しいと言う結論に達した。
「……これはこのまま、ここに仕舞って置くか」
霊児は陰陽玉を仕舞い、他に何かないか探していく。
そして出て来た物は儀式用の剣。
儀式用の鏡。
お払い棒。
他にも博麗の秘宝と言った物が出て来た。
「目ぼしい物はないな……」
蔵の中を一通り見た霊児はそう感想を漏らす。
そこそこ良質そうな金属はあったが、霊児の力に耐え切れそうな金属はなかった。
自分が欲する金属が無かった事にガッカリしながら蔵を後にすると、
「あ、人里にお守りやお札を売りに行くの忘れてたな」
人里に商売しに行く事を思い出す。
後は人里に行ってから考えるかと霊児は思い、お守りとお札を取りに自分の部屋へ向う。
「と、言う訳で何かないか?」
「うーん……」
商売の終わり頃になると当たり前の様に魔理沙が来たので霊児は質の良い金属に付いて相談してみた。
魔理沙の実家は道具屋なので何かあるかもしれないと思ったからだ。
「家の道具屋にはないかな……」
「そっか……」
自分の家には無いと言われて霊児が肩を落とすと、
「あ、でも香霖の所なら……」
魔理沙は心当たりがありそうな人名を口にする。
「香霖?」
初めて聞く名に霊児が首を傾げると、
「うん。香霖は昔お父さんの所で修行してた人で、今は自分のお店を持ってるんだよ」
魔理沙が香霖なる人物に付いて説明してくれた。
「へー」
「偶に家にも来てね、その時に香霖は色々な道具やマジックアイテムを集めたり作ったりするのが趣味だって言ってたから何か持ってたり作ってくれるかも」
「ほう」
魔理沙の話しを聞き、霊児は希望が見えて来たと感じた。
香霖と言う人物が魔理沙の言う通りの人物ならば希少性の高い金属の類を持ってるかもしれないし、その金属を使った武器も作ってくれるかもしれない。
霊児はそう思い、
「案内してくれるか?」
魔理沙に香霖なる人物が居る所に案内を頼むと、
「うん、いいよ」
魔理沙は快く了承してくれた。
同時に、
「じゃあ、今から行こ」
魔理沙は今から行こうと言う事を口にする。
それを聞いた霊児は少し考え、
「そうだな……お守りもお札も殆ど売れたし、善は急げって言うしな。今から行くか」
お守りもお札も殆ど売り終えたので今から行くと言う事を決める。
そして店仕舞いをし、風呂敷などを仕舞うと、
「ほら、早く行こ!!」
魔理沙は霊児の手を取って歩き出す。
「あ、そうだ」
歩き出して少しすると、魔理沙は何かを思い出した表情をする。
「ん? どうかしたのか?」
「あのね、香霖のお店は少し遠いの。だから、今から行くとお昼過ぎちゃうかも……」
「なら、その辺の店でおにぎりでも買ってから行くか」
「うん!!」
少し遠いとの事なので、霊児と魔理沙はおにぎりを買ってから人里を後にした。
人里を出た後、霊児と魔理沙は手を繋ぎ、雑談をしながら香霖と言う者がやっている店……香霖堂を目指して足を進めて行く。
因みに、香霖堂の場所は魔法の森の入り口近くにあると言う事らしい。
暫らくの間歩き通したからか、
「後、でれ位で着くんだ?」
香霖堂まで後どれ位かと言う事を霊児が尋ねる。
すると、
「もう少しだよ」
魔理沙からもう少しだと言う答えが返って来た。
それを聞きいた霊児は今まで歩いて来た時間を考え、結構遠い所にあるんだなと思っていると、
「ん?」
近くの草むらから草を踏み締める音が霊児の耳に届く。
その音が聞こえたのと同時に霊児が足を止めた為、手を繋いでいる魔理沙の足も一緒に止まる。
どうしたんだろうと思った魔理沙が霊児に顔を向けると、二人の前に妖怪の群れが現れた。
四足歩行タイプの妖怪だ。
現れた妖怪は皆、涎を垂らしながら唸り声を上げている。
腹を空かしているのだろうかと言う事を霊児が思っていると、
「ひっ……」
魔理沙はか細い悲鳴を上げ、手を繋いだまま霊児の後ろに隠れる。
まぁ、妖怪が怖いと言うのは普通の反応だろう。
そんな魔理沙の反応を見て妖怪達は勝った気になったのか、ゆっくりと二人に近付いて行く。
そしてある程度二人に近づいた所で、先頭に居た妖怪達飛び掛って来た。
数は五体。
霊児は飛び掛って来た五体の妖怪を目に入れながら魔理沙と繋いでいない方の手を動かし、五本の指先を妖怪達に向ける。
そして、五本の指先からレーザー状の霊力を放つ。
放たれたそれは妖怪達に命中し、爆発する。
その爆発の影響を受けた様にレーザーが当たった妖怪達は吹き飛んで行く。
吹っ飛んで行った妖怪達を見た残りの妖怪達は皆一様に信じられない顔になる。
だが直ぐに表情を戻して霊児の方を睨む。
そして、残りの妖怪達が正面から突っ込んで来る。
迫って来る妖怪を見ながら霊児はレーザーを放った手を拳の形にし、
「そら」
妖怪達が自分の間合いに入った瞬間に拳を放ち、妖怪達を殴り飛ばす。
そしてその次の瞬間に手を拳から拳銃の形に変え、指先から直径3m程の霊力で出来た弾を発射する。
放たれた弾は殴り飛ばされた妖怪に追い付いて命中し、爆発を起こす。
爆発に巻き込まれて吹っ飛んで行く妖怪を見ながら、
「終了っと」
霊児はそう言って手を降ろし、魔理沙の方を見ると、
「……………………」
魔理沙はポカーンとした表情になっていた。
そんな魔理沙に霊児が声を掛けようとすると、
「凄ーーい!! 霊児ってこんなに強かったんだ!!」
突如、魔理沙が目を輝かせながらそう叫ぶ。
霊児としては妖怪やら自分の力を見て恐れを抱いたのかと思ったが、どうやら違った様だ。
中々肝が据わった奴だなと霊児は思った。
その後、魔理沙は霊児に色々と質問をしていく。
さっきの指先から出したの何なのとか自分もあんな風に強くなれるかなとか色々と。
霊児はその質問に答えながら足を進めて行くと、何やら様々な物が放置された建物の前に着いた。
序に言うと、この建物の近くには森がある。
この事から、
「ここが香霖堂か?」
霊児は魔理沙にここが香霖堂であるかを尋ねると、
「うん。ここが香霖のやってる香霖堂だよ」
魔理沙から肯定の返事が返って来た。
香霖堂の外観を見ながら大丈夫なんだろうなと言う不安が霊児の頭に過ぎる。
その間に魔理沙が香霖堂の中に入る為に動いた為、魔理沙と手を繋いでいる霊児も必然的に中へ入って行く事になってしまった。
店の中に入ると、
「色んな物が並んでいるな……」
霊児はそんな感想を抱く。
同時に魔理沙が霊児を引っ張る様にして進んで行くと、銀色の髪で眼鏡を掛けた男性が見えて来た。
彼がこの店の店主かと霊児が思っていると、
「香霖!!」
魔理沙が香霖と言う名を口にする。
すると、その男性は二人の方に振り向き、
「魔理沙に……そっちの君は誰だい?」
霊児が誰なのかを訪ねる。
「今代の博麗、博麗霊児だ」
霊児が自己紹介をすると、
「ほう、君が……」
霊児の名を聞くと、その男性は驚いた表情を浮かべる。
「天狗の新聞には今代の博麗は男と言う眉唾物の情報があったが……いやはや、天狗の新聞も馬鹿にできない物だね」
その新聞とはおそらく文が書いた物であろう。
分かっていた事だが信憑性が薄かった様だ。
「で、あんたは香霖でいいのか?」
「魔理沙からはそう呼ばれているね。一応自己紹介しておくけど、僕の名前は森近霖之助だ」
そう言って霖之助は自己紹介をする。
「それで、本日はどの様な用件かな?」
「あのね、霊児が欲しい物があるんだって」
「君がかい?」
霖之助が霊児に顔を向けると、
「ああ、まずは武器が欲しい」
霊児は欲しい物を口にする。
「武器かい?」
「ああ。両方に刃の付いた短剣タイプのだ。素材はオリハルコンや緋々色金と言った非常に頑丈な物が
いい。柄の部分は木製で、これも非常に頑丈な物がいい。あ、それで柄頭の部分はリング状で。数は十」
柄頭の部分をリング状にする様に頼んだのは壁に掛ける為だ。
「ふむ……」
霖之助が何か考える様な表情をすると、
「それと羽織が欲しい。長さは俺の膝の部分位までで襟が立っているタイプの物。基本色は白で、縁の方を
赤くして、背中に赤い文字で"七十七代目博麗"と言う染め抜きを入れて欲しい。こっちは五着あればいい」
霊児は続けて欲しい物を口にする。
羽織に関しては香霖堂に来るまでに思い付いた物だ。
何故これを霊児が欲したかと言うと、未だに今代の博麗が不在と言う情報が強いからである。
一々今代の博麗が居ると言う事を実演込みで説明するのは面倒な事この上ない。
なのでそう言った事をしなくても既に今代の博麗は存在すると言う尤も楽な方法を模索していくと、常に今代の博麗が存在している証明を背負っていれば
良いのではと言う考えに行き着いたので霊児は羽織を欲したのだ。
「ふむ……羽織の方は問題ないが、武器の方は……」
霊児が欲する物を口にすると、霖之助は少し難色を示す顔色になる。
霖之助の口振りから察するに、武器の方に問題がある様だ。
「駄目なの、香霖?」
魔理沙に駄目なのかと問われ、
「う……何とかならない事もないが、緋々色金は希少価値が高いからね。それ相応のお金は掛かるよ」
それ相応のお金があれな何とかなると言う。
「ふむ……金があればいいのか?」
「まぁ、そうだね」
霖之助がそう言うと、霊児は魔理沙と繋いでいる手を離してポケットに手を入れる。
そして、ポケットの中からから術式を刻んだ木の板を取り出してカウンターに置く。
「これは?」
「唯の目印だ」
霖之助の疑問に答えると、霊児が消える。
「消えちゃった!?」
そう言って魔理沙は周囲を見渡す。
それから少しすると、
「これでいいか?」
霊児は少し大きな袋を持って再び現れ、それをカウンターに置く。
袋の中身を確認する為に霖之助がその袋の中を開けると、
「これは……大金じゃないか!!」
霖之助が驚きの声を上げる。
「どっから持って来たんだい?」
「博麗神社から」
「博麗神社? どうやってこの短時間で?」
霖之助がどうやってこの短時間で博麗神社に言って来たのかと尋ねると、
「俺の作った術でだ。名付けるなら……二重結界式移動術……かな」
霊児は自分の作った術で行ったと言う。
「このお金は……」
「先代の巫女達が残してくれた遺産。もう俺には定期的な収入があるからあまり必要のない物だ。ま、取って置いてよかったぜ」
「うーむ……」
大金を見ながら霖之助は再び何かを考え込む。
その表情を見て、
「若しかして、まだ足りないかい?」
霊児はまだ足りないのかと問う。
もし足りないのであれば、今度は蔵の中から金に成りそうな物を持って来る必要がある。
霊児は蔵の中から金に成りそうな物を思い浮かべていくと、
「負けたよ。これだけあれば十分だ」
霖之助が今持って来た大金で引き受ける事を口にする。
「良かったね、霊児」
霊児の欲する物が手に入る事になったからか。魔理沙が笑顔でそう言う。
「ああ」
霊児はそう返して安堵する。
折角作った術なのだ。
やはり有効利用はしたいものだ。
「どの位掛かる?」
どの程度で完成が見込めるかと霊児が問うと、
「そうだね……大体一週間と少しかな?」
一週間と言う答えが返って来た。
「分かった」
そう言い、少し店内を見た後に霊児は魔理沙を人里まで送ってから博麗神社に帰っていった。
一週間後を楽しみにしながら。
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