霊児は昨日の夜、香霖堂で受け取った短剣の入った鞘を左側の腰に装備する。
鞘の方は霖之助がサービスで作ってくれた様だ。
因みに短剣の方には既に柄の方に術式を刻み込んである。
そして、鞘に入った四本の短剣を背中に装備する。
最後に、短剣の同じく昨日の夜に受け取った赤い文字で"七十七代目博麗"と背中に書かれた羽織を着込む。
羽織りを着込んだお陰で四本の短剣は見えない様になっている。
パッと見、霊児は左腰に短剣を一本しか装備していない様に見えるだろう。
残りの五本の短剣は予備と緊急時の退避用を兼ねて霊児の部屋の壁に掛けてある。
柄頭の部分をリング状にしたお陰で非常に掛け易い。
部屋の周囲を確認して体を少し動かした後、

「よし」

霊児は外に出る。
何所に向うかと言うと幻想郷中。
今日は朝から幻想郷を回る予定だ。
目的は今代の博麗はもう既に存在すると言う事を知らしめる為である。
何故ならば、未だに今代にの博麗は不在と言う情報が強いからだ。
前に文のインタビューを受けて文の新聞には載ったが、文の新聞はあまり人気がないので霊児の存在が知られる事は殆ど無かった。
仮に文の新聞が人気があったとしても、霖之助曰く天狗の新聞の信憑性はあまり無い様なので信じられていたかは微妙であるが。
他にも霊児が男と言うの今代の博麗不在と思われている理由の一つであろう。
実際、よくお守りやお札を売りに霊児は人里行っているが、人里で霊児が今代の博麗と認識している
者の数は半分かそれ以下だ。
名乗って、力を見せて漸く霊児が博麗だと信じてくれるのだ。
それでも信じて貰えない場合が多々ある。
それだけ、男の博麗と言うのは珍しいのであろう。
まぁ、霊児が歴代初の男の博麗なので仕方がないのかもしれない。
普通に動いていても周りは霊児の事を力を持った子供位の認識しか持ってくれないが、これからは違う。
赤い文字で"七十七代目博麗"と書かれている羽織りを着る様にするからだ。
これならば、適当に空を飛んでいるだけでも信じて貰えるであろう。
空を飛べる人間なんて限られているのだから。
男の博麗と言うのが少々ネックであるが、それでも今までより少しはマシになる筈である。

「ま、何時までも今代の博麗が不在と言う情報が主流なのは不味いからな」

そう呟き、霊児は何所に行こうか考えながら神社を飛び去った。





















まず、霊児が最初にやって来たのは迷いの竹林。
若しかしたら妹紅以外にも誰かが住んで居るかもしれないと思ったからだ。
そうでなくとも、ある程度の知能を持った妖怪がいるかもしれない。
上手くいけばその妖怪から口コミで今代の博麗が既に存在すると言う情報が広まるであろう。
迷いの竹林内を適当に散策していくと、霊児の背後で草が擦れる音が聞こえて来た。
誰か居るのかと思いって霊児が振り返ると、

「……居ない?」

誰も居なかった。
気のせいかと霊児は思ったが、

「……ん?」

下の方で何かが動いているのを感じる。
それが何なのかを確認する為に霊児は視線を下の方に向けると、

「兎……か?」

白い兎の姿が目に映った。
こんな所に兎がと霊児は思ったのと同時に、

「……ん、妖力」

妖力を感じた。
発生源は何所だと霊児は探そうとすると、発生源は直ぐに見付かった。
発生源は霊児の足元に居る兎。
つまり、

「と言う事は、こいつ妖怪兎か」

霊児の真下に居る兎は妖怪兎と言う事になる。
霊児がその事を認識したのと同時に、その兎は逃げて行った。
逃げて行った兎の様子を見ながら、

「そう言えば、兎は寂しいと死ぬって言うな」

一寸した兎の話を思い出す。
この話しが事実であるならば、あの兎は群れで行動しているだろう。
ここら一帯があの兎の縄張りであるならば、当然自分の事を仲間に報告する筈。
そうすれば、妖怪達の間で霊児の事が広まるかもしれない。
そうなったら御の字だ。
霊児はそんな事を期待しながらこの場を離れ、散策に戻る。
暫らく歩くと見覚えのある人物が霊児の目に映った。
白い長い髪にもんぺを着た少女。
藤原妹紅だ。

「妹紅」

霊児がそう声を掛けると妹紅が振り返る。

「何だ、霊児か」

見るからに機嫌が悪そうな表情であったが、霊児だと気付くと幾分か表情が和らいだ。

「どうかしたのか?」

不機嫌そうな妹紅に霊児が何かあったのかを訪ねると、

「ああ、一寸ね」

そう口にする。
その後、

「そう言う霊児はこんな所に何の用?」

今度は妹紅が迷いの竹林に何しに来たのかと尋ねて来た。

「宣伝だな」

宣伝しに来たと言う事を正直に口にする。

「宣伝?」

妹紅が首を傾げると、霊児は背中を妹紅に見せた。

「七十七代目博麗……」

霊児の羽織りの背中に書かれている文字を妹紅が口にすると、

「未だに今代の博麗は不在って言う情報が強いからな。これ着て歩いていれば宣伝にはなるだろ」

霊児が宣伝の理由を口にする。

「そう……」

宣伝するにしてももう少し場所があったんじゃないかと思うのと同時に妹紅は何かに気付く。

「ねぇねぇ」
「何だ?」

「霊児って神社の御子? 斉主? 的な感じだよね?」
「まぁ……そうだな」

霊児が妹紅の問いを肯定したの同時に妹紅は霊児の腕を掴み、

「一緒に来て!!」
「え?」

有無を言わせずに妹紅は霊児を何所かに連れて行く。




















妹紅に連れられ、霊児が着いた先は普通の民家であった。
少々普通の民家よりは小さいが、普通の木造建築の家だ。

「ここは?」
「私の家」

妹紅は自分の家であると口にしながら霊児の手を引っ張って家の中に入る。
そして縁側に着くと、

「実はね……私の干し柿が盗まれたの」

唐突に妹紅がそんな事を口にする。

「は?」

霊児がよく分からないと言った表情をしながら妹紅の方を向くと、

「つまりね、干し柿を盗んだ犯人を見つけて欲しいのよ」

妹紅は干し柿を盗んだ犯人を捜して欲しいと口にする。

「えーと……」
「ほら、神職に携わる者ならこういうのもできるかなって……」

妹紅がそう言うと、霊児は合点がいった。

「犯人探しね……」
「ダメ?」

妹紅が上目遣いでダメかと問うと、

「……その前に少し聞きたい」

霊児は妹紅に聞きたい事があると言う。

「何?」

妹紅が首を傾げると、

「干し柿が盗まれたのは何時頃だ?」

霊児は干し柿が盗まれた時間帯を尋ねる。

「多分霊児に会う少し前ね。盗まれたのを発見した時は勢いに任せてつい家を飛び出して……」
「そうか……なら何とかなるか……」

そう言って霊児は干し柿が在ったであろう場所に近付いて手を翳し、集中する。

「何してるの?」

妹紅が霊児の後ろから覗き込む様にして何をしているのかを尋ねると、

「霊力とか妖力の残り香を探しているんだよ。あればそれを辿っていけるからな」

霊力や妖力と言った力の残り香を探していると説明する。
残り香と言っても日常生活の間に漏れ出す物だ。
とっくに消えている可能性は高い。
それでも欠片程度でも残っていれば霊児なら探せるが。

「……そう言えば、妹紅って霊力と妖力を持ってるんだな」

間違えない様に妹紅の力も探っていた霊児は妹紅が霊力と妖力を持っている事を口にする。

「珍しい?」
「いや、半妖じゃなくても妖力を持った人間は結構いるぞ。保有量はかなり少ないけどな。まぁ、妹紅の妖力の保有量はかなり多いみたいだけどな」
「へぇー……私の妖力ってかなり多い方なんだ……」

霊児と妹紅がそんな会話を繰り広げてから少しすると、

「…………これは」

霊児は何かを感じ取った。

「何か分かったの?」
「霊力と……妖力……が感じられた」

妹紅に霊力と妖力が感じられた事を伝えたと同時に、

「……ん? この妖力さっきどこかで……」

感じとった妖力に何か引っかかりを覚える霊児。
その引っ掛かりを探っていくと、

「…………そうか、さっき会った妖怪兎の妖力にかなり似てるんだ」

先程会った妖怪兎が頭に浮かぶ。
この妖力は妖怪兎のものである可能性がかなり高い。
霊児がそう結論付けたのと同時に、

「霊力に……妖怪兎の妖力……」

妹紅は何かに気付いた様に呟く。
そんな妹紅に気付かなかったのか、

「方向は……多分あっちだな」

霊児はこの霊力と妖力の持ち主が居る場所を指さす。
妹紅は霊児が指をさした方向を見ると、

「あいつかああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

干し柿を盗んだ犯人が誰であるかを確信した。

「うお!?」

妹紅が急に大声を上げたので霊児は驚く。

「あ、ごめんごめん」

妹紅は急に大声を上げた事に謝るが、瞳はギラ付いている。
同時に、妹紅の体中から霊力と妖力が漏れ出す。

「あ、そう言えば霊児って今代の博麗はもう存在するって事を広めに迷いの竹林に来たのよね?」
「あ、ああ」
「迷いの竹林に関しては私が広めて上げる。慧音が来た時には慧音にも言って置くから人里にも広まるわ」
「そ、そうか」
「それじゃ、私は出掛けるから」

そう言って妹紅は縁側から飛び出して空中に躍り出るのと同時に霊力と妖力を一気に解放し、背中から炎の羽を生み出す。
そして、

「待ってろよ、輝夜ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

妹紅はそう叫び声を上げながら霊児が指さした方向へ猛スピードで飛んで行った。

「あー、妹紅から妖力を感じた原因はあの炎か」

霊児は飛んで行った妹紅の炎の羽を見てそう呟いた。
妹紅の出している炎は妖術の類だ。
あれを習得し様とした過程か習得した結果、妖力が身に付き妖力が強くなったのだろう。

「さて、他の場所でも回ってみるか」

迷いの竹林に関しては妹紅が広めてくれるそうなのでこれ以上ここにいても仕方が無い。
なので、霊児は別の場所に行く為に空中に躍り出て何所かへと飛んで行く。





















「ふーむ、次はどこに行こうかな……」

空を飛びながら霊児は何所へ行くか考える。
そんな時、

「これはこれは、霊児さんじゃないですか」
「文か」

霊児の目の前に文が姿を現す。

「何してるんですか? お散歩ですか?」

何をしているかと尋ねる文に、

「宣伝だな」

霊児は自分の背中を見せる。

「七十七代目博麗……」
「未だに今代の博麗は不在って情報が強いからな。これを既に存在していると言うところまで持っていきたいんだ」
「成程、それで散歩ですか」

文は納得した表情に霊児の写真を撮る。

「まぁな」

そう言いながら霊児は振り返り、

「お前の新聞の人気と信憑性が高ければこんな事をする必要はなかったかもしれないがな」

文の新聞の人気があればこんな事をする必要がなかったと言う事を口にする。

「あ、あはははは……」

その事を指摘されたから、文は苦笑いを浮かべながら霊児から顔を逸らす。
そんな文に霊児は呆れつつ、

「文は何してるんだ?」

文は何をしているのかと尋ねる。
すると、

「私はネタ集めです」

ある意味予想出来た答えが返って来た。
その答えを聞きながら、

「あ、そうだ。今代の博麗は既に存在してるって言う情報を改めて流してくれないか?」

霊児は文に改めて今代の博麗は存在していると言う情報を流す様に頼む。
天狗が情報源と言う事で信憑性は落ちそうではあるが、やらないよりはマシであろう。

「別に構いませんよ。この先、霊児さんにはお世話になりそうですし」

快く引き受けてくれたが異変が起きた時には自分に情報をくれと言外に言っている辺り、チャッカリしている。
そんな事を霊児が思っていると、

「では、私はネタ集めに向いますので失礼しますね」

文はそう言って、何所かへと猛スピードで飛んで行った。
言葉通り、ネタを探しに行ったのだろう。
そんな事を思いつつ、霊児も別の場所へと向かう。





















「ここは瘴気が凄いな……」

文と別れた後、霊児が来たのは魔法の森の中。
魔法の森に訪れた理由は霖之助に口コミで広めて貰おうと思ったからだ。
霖之助に会うのが目的なら魔法の森の中に入らずに魔法の森の入り口付近にある霖之助の店、香霖堂に行けば良い。
しかし、霊児はそれをせずに魔法の森の中に入った。
何故ならば、迷いの竹林に住んでいる妹紅の様に魔法の森にも誰か住んでいるのではないかと思ったからだ。
だが、その考えは外れてしまったかもしれない。
魔法の森には強い瘴気があるからだ。
この程度の瘴気は霊児にとって何て事もないが、普通の人間にとっては直ぐに体調を崩す程の瘴気なのである。
こんな瘴気が有る所に態々住もうとは思わないであろう。
誰かが住んでいるかもと思って霊児は魔法の森の中に入ったが、当てが外れた可能性が極めて高い。
それならばもうここに用はないと霊児は思い、魔法の森から抜け出そうとした瞬間、

「ん?」

妖怪達が現れた。
風貌は一般的な茸を大きくし、手と足と目と口をくっ付けた様な感じだ。
その数は四。
全員が全員、口を開けて涎を垂らしている。
霊児を食べる気の様だ。
その様子を見ながら、霊児はこの森特有の妖怪であろうと考えたのと同時に、

「丁度いいや」

この短剣の性能を確かめる良い機会であると思った。
思い立ったら何とやら。
霊児は左腰に装備している短剣の柄頭のリング状の部分に左手の中指を引っ掛け、弾き飛ばす様に短剣を抜き放つ。
抜き放たれた短剣を左手で掴んで構え、有無を言わずに駆けて行く。
猛スピードで突っ込んで来た霊児に茸型の妖怪が警戒を抱いた瞬間、霊児と茸型の妖怪が交差する。
同時に、

「!?」

茸型の妖怪の一体が細切れになってしまった。
一瞬で仲間が細切れに事に茸型の妖怪は驚き、動きを止めてしまう。
霊児はその動きを止めた隙を逃さず、一番近くに居た茸型の妖怪を蹴りを放つ。
その蹴りを受けた茸型の妖怪は為す術も無く蹴り砕かれてしまう。
霊児は的を蹴り砕いた感触を感じ取ったのと同時に蹴りを放った体勢のまま、持っている短剣を放つ。
放たれた短剣は茸型の妖怪に当たり、そののま貫通する。
短剣が貫通した茸型の妖怪の後ろにいた茸型の妖怪は貫通して来た短剣を咄嗟に避けるが、

「遅い」

既にその背後に霊児が現れていた。
その事に気付いた茸型の妖怪が振り向こうとするがそれよりも早くに霊児は飛んでいる短刀を掴んで振るい、茸型の妖怪を一刀両断にする。

「……よし」

妖怪を仕留めたのと同時に霊児は一息吐き、短剣を見て満足そうな表情を浮かべた。
短剣は霊児の力に十分に耐えられたし、二重結界式移動術も問題なく発動出来たからだ。
霊児は短剣の仕上がりに満足しつつ短剣を鞘に収めると、

「あら、若しかして先客?」

そんな声が聞こえて来た。
声が聞こえて来た方に振り向くとそこには金色の髪を肩位の位置に揃えた少女が居り、その傍らには幾つかの人形が佇んでいる。
近くに人形が居る事から人形遣いかと霊児は思いながら、

「先客って何の事だ」

先客と言う言葉に付いて問う。

「あら、貴方はあれが目的でここに来たんじゃないの?」

そう言って、少女はある方向を指をさす。
少女が指さした方向に霊児は顔を向けると、切り株に茸が生えているのが見て取れた。
少女が言っているのはあの茸の事かと思い、

「あの茸がどうかしたのか?」

霊児は茸がどうかしたのかと尋ねる。

「あれは非常に貴重な茸なのよ」
「へぇー……」

そんな霊児の様子から茸が目的ではないと察した少女は、

「あれが目当てじゃないとすれば、貴方は何しにここに来たの?」

霊児に魔法の森に来た理由を問い掛けた。

「ああ、俺は……」

霊児が理由を話そうとしたところで、不意に二人に影が掛かる。
霊児は何だと思って顔を上げると、

「おおう……」

上の方に超巨大な茸の妖怪がいた。
あんな巨大な妖怪も居るのかと霊児が思っていると、その妖怪は二人を踏み潰そうと近付いて来る。
それを見た少女はその場から離れるが、霊児は動こうとしない。

「……ッ!! 一寸、何やってるの!? 早く逃げなさい!!」

霊児が逃げない事に気付いた少女はそう声を荒げる。
しかし、霊児は動かない。
その間にも超巨大な妖怪は近付き、容赦なく霊児を踏み潰そうと足を振り上げた。
このままでは霊児が踏み潰されると思った少女は霊児を無理矢理動かそうと地を駆け、人形を操ろうとする。
が、

「ッ!?」

霊児を助け様とした少女は霊児に掌を向けられてしまった。
来なくていいと言う意思表示だ。
同時に妖怪の足が霊児に迫るが、

「茸だからか、思ってたより軽いな」

妖怪の足は霊児の片手に受け止められていた。
容易く止められた事に妖怪が驚いている間に霊児は掌から霊力を放出し、霊力で妖怪を消滅させる。
妖怪が消滅した後、

「……貴方、何者?」

少女は唖然とした様子で霊児が何者かを尋ね来た。

「今代の博麗、七十七代目博麗、博麗霊児」

今代の博麗である事を霊児が口にすると、

「博麗……貴方が!?」

少女が驚きの表情を霊児に向ける。

「言わんとしてる事は分かる。男の博麗は俺が歴代初だ。そして歴代最年少で博麗の名を継いだのも多分俺だ」

少女が疑問に思っているであろう事を霊児は口にし、

「そう言うお前は?」

少女が誰なのかを訪ねる。

「あ、自己紹介がまだだったわね。私はアリス。アリス・マーガトロイド。魔法使いよ」

霊児が名乗った事により、アリスも自分の名を名乗ってくれた。

「それにしても、もう新しい博麗は決まってたのね。ここ暫らくは魔法の森に篭りっぱなしだったから気付かなかったわ」

アリスの篭りっぱなしと言う台詞から、

「篭りぱなしって、アリスはここに住んでるのか?」

霊児はアリスに魔法の森に住んでいるのかと問うと、

「ええ、そうよ」

アリスはそれを肯定する。

「よく住んでられるな。この瘴気の中で」
「魔法使いにとってはここの環境は最適なのよ。魔力が強くなったりとか魔力の総量が上がったりとかするからね」
「へぇー」

魔法の森の瘴気にそんな効果があったとは意外な事実だ。
魔法使いではない霊児には関係の無い事ではあるが。

「それで、貴方は何しにここまで来たの?」

アリスが霊児に魔法の森のやって来た理由を改めて尋ねると、

「ああ、実はな……」

霊児は事情を話し始める。

「へぇー……大変みたいね」

霊児の事情を聞いたアリスは少し同情する視線を霊児に向ける。

「まぁ……な」
「ま、幻想郷じゃ情報の伝達は遅いから気長に行くしかないんじゃない?」
「やっぱ、そうなるのかな?」

アリスの発言で霊児は急いては事を仕損じるとも言う言葉をは思い出した。
これからはのんびり行くべきかと考えていると、

「ま、私の方からも今代の博麗は既に存在していると言う事をそれとなく広めて置いて上げるわ」

アリスはそんな事を口にする。

「ありがとな」

霊児は礼を言った後、アリスと軽い雑談を交わす。
それが終わった後、霊児は当初の予定通り香霖堂へ向って行った。




















「香霖、居るかー?」

そんな声を共に霊児は香霖堂の扉を開け、中へと入って行く。
そしてカウンターの前に辿り着くと、

「やあ、いらっしゃい」

本を読んでいた霖之助が本から目を離し、霊児の方を向く。

「それで、何の用かな?」
「実は、一寸頼みがあるんだ」
「頼み?」

霖之助が首を傾げると、

「ああ、実は……」

霊児は事情を説明する。
説明が終わると、

「その程度の事なら御安い御用だよ」

霖之助は快く引き受けてくれた。

「ありがとな」

霊児は礼を言い、

「それはそうと、短剣は満足のいく仕上がりだったぜ」

短剣の感想を口にする。

「そりゃね。貴重な緋々色金を大量に使ってその短剣を十本も作ったんだ。満足して貰わなければ困るよ」

霊児の感想を聞き、霖之助は満足して貰わなければ困ると言う事を言う。

「序に言うと、柄の部分に使われている木は樹齢数万年の霊木を使ってるんだ」
「そうなのか?」
「そうだよ。緋々色金に見合う木何て僕のコレクションの中にはそれしかなかったんだよ。まぁ、木の方は緋々色金に比べたら結構な数があるんだけどね」

霖之助はそう言い、

「非常に貴重な物を二つも使って作ったんだ。大切にしてくれよ」

短剣を大切にする様に言う。

「努力はするよ」
「まぁ、緋々色金を破壊する様な存在なんて居るとは思わないから大丈夫だとは思うけどね」

霖之助は緋々色金の頑丈性から破壊される事はないと思っている様だ。
その後、霊児は霖之助は雑談をし、博麗神社へと帰って行った。




















翌日、霊児は昨日の成果が気になり、人里で情報を集めに向うと人里では霊児の事ではなく昨日に見えた物が話題になっていた。
見た人物が多かった事から人里ではその話題で持ちきりの様だ。
何が見えたのかと言うと、迷いの竹林から上がった大きな火柱と魔法の森から上がった青白い閃光。
前者は知らないが、後者は霊児が超巨大な茸の妖怪を倒す時に放ったものだ。
これでは霊児がやった事など霞んでしまっている事だろう。
文字通り事を仕損じた結果となった。
その事に霊児はガックリと肩を落とし、これからはアリスに言われた通りのんびりいく事を心に決める。

「霊児、何で落ち込んでるのか分からないけどお団子上げるから元気だそ」
「……ありがと」

因みに、その日の収穫は魔理沙から貰った団子だけであった。











前話へ                                      戻る                                          次話へ