「はー……」
霊児は縁側でお茶を啜りながら一息吐く。
「あー……平和だ……」
霊児はそんな事を呟きながら空を見上げる。
空を見上げた霊児の目に映ったのは青い空に流れる白い雲に太陽。
それを見た後、霊児は改めて平和だなと思いながら茶を再び啜る。
同時に、こうやってのんびりマッタリしている方が自分らしいと霊児は改めて思った。
その後、霊児は博麗神社の庭先を見詰め、
「んー……そろそろ掃き掃除をした方が良いか」
掃き掃除をする事を決める。
そして、霊児は立ち上がって体を伸ばしていった。
ある程度体を伸ばすと、霊児は玄関の近くに立て掛けてある箒を取りに向う。
玄関の近くに立て掛けてある箒を手に取ると、霊児は鳥居の方から神社に続く道のりを掃除していく。
ここ最近は雨も降らなかったし掃除もしていなかったので石畳の上に土汚れなどがそれなりにある。
「やっぱり、定期的に掃除しないとダメかな……」
石畳の上にある土汚れを見て霊児はそんな事を呟き、箒でその汚れを払っていく。
「……よし、こんなもんか」
一通り掃除し終えた後、霊児は掃除して来た場所を見てそう口にする。
石畳の上にあった土汚れは殆ど払った。
まだ落ち葉や小石などがそれなりに残っているが、
「……後にするか」
残りは後回しにする事にし、霊児は箒を玄関の近くに立て掛け直して玄関から神社の中に入って居間に向う。
そして戸棚の中に仕舞って置いた煎餅が入った袋を取り出して縁側に向う。
縁側に着くのと同時に霊児は腰を落ち着かせ、袋を開いて煎餅を一枚取り出して齧り、
「お、この煎餅美味いな」
煎餅の感想を思わず口にする。
霊児が今齧っている煎餅は少し前に人里のある店で買った物だ。
次もそこで買おうと霊児は思いながら湯飲みに茶を入れ直して茶を啜り、
「はぁ……」
一息吐く。
そして煎餅を食べ、茶を飲むと言うマッタリとした時間を霊児は送っていく。
それから少しすると、霊児はそろそろ掃除を再開し様かと思って立ち上がると、
「……ん?」
空の方に何かが見えた。
何だろうと思い霊児は見えたものがある方を注視すると、黒い点の様なものが見えた。
しかも、その黒い点は少しずつ大きくなっていってる。
黒い点が大きくなっていっている事から霊児は誰かが神社にやって来たと思い、文であろうかと考えたが直ぐに違うとその考えを捨てる。
何故ならば、近付いて来る者のスピードが遅いからだ。
文ならばそれこそ猛スピードで博麗神社の敷地内に突っ込んで来る筈である。
誰がやって来たのか少し気になった霊児は空中に躍り出て近付いて確認する事にした。
人物像が確認出来る距離まで霊児が来ると、
「何ッ!?」
飛んでいた者が行き成り墜落した。
これには霊児も驚くが、直ぐにそこまで飛んで行き、
「よっ……と」
墜落していっているものを掴む。
左手に掴んでいるのは箒。
右手に掴んでいるのは、
「れ、霊児ーー!!」
「……魔理沙?」
涙目になっている魔理沙であった。
魔理沙の姿を確認するのと同時に霊児は魔理沙の服装が何時ものとは違うと言う事に気付く。
今の魔理沙の服装は黒と白の二色の色合いで構成されたエプロンドレスと言う服装であった。
頭には魔法使いが被るような帽子を被っている。
今の魔理沙の格好と空を飛べる様になった事は関係あるのかと霊児が考えていると、
「霊児ー」
魔理沙が自身の名を呼ぶ声が聞こえた。
その声に反応した霊児が魔理沙の方を向くと、魔理沙が少し落ち着かない表情をしている事が分かった。
その表情から、魔理沙が落ち着かないのは慣れない空中に居るからであると察した霊児は魔理沙を連れて博麗神社の縁側近くに向う。
そして縁側近くにまで来ると霊児は高度を落とす。
魔理沙が着地出来る高度まで来ると、
「到着っと」
「わっ」
右手を放して魔理沙を着地させる。
その後、
「ほい」
左手に持っている箒を魔理沙に手渡す。
「ありがと」
魔理沙が礼を言って箒を受け取ったタイミングで、
「で、どうしたんだ? その格好?」
霊児は魔理沙の格好に付いて尋ねる。
すると、
「えへへへへ、あのねあのね!!」
魔理沙が嬉しそうな表情をしながら霊児に顔を近付ける。
その表情から何か嬉しい事があったのかと霊児が思っていると、
「私ね、魔法使いになったんだよ!!」
魔理沙は魔法使いになったと言う事を口にした。
「魔法使い……」
霊児はそう呟きながらある事を思い出す。
思い出した事と言うのは自分と魔理沙の年齢だ。
霊児と魔理沙は同い年。
であるならば、魔法使いになる為には後四倍以上年を取らなければならないのではと霊児は考え、
「……いや、あれは男だけか」
直ぐにその考えを否定する。
「? どうかしたの?」
霊児の発した言葉が聞こえなかったのか、魔理沙は霊児に何を言ったのかを尋ねる。
「いや、何でもない」
霊児は何でも無いと言い、この記憶は魔法使いとは関係ないだろうと結論付ける。
しかし、何でこんな記憶が残っているのだろうと言う疑問を霊児は抱く。
前世の記憶は大半は靄が掛かっていたり磨耗していたりと思い出す事は殆ど出来ないと言うのにこの記憶だけはわりとすんなりと思い出すことが出来た。
若しかしたら、この記憶は色濃く残っていたのかも知れない。
であるならば、もっと他に残っているべき記憶があるだろうと言う愚痴を霊児は内心で吐いた。
まぁ、もう過ぎた事なので霊児はこの事を捨て去り、
「しっかし、魔法使いねぇー……」
魔理沙の姿を見詰める。
その視線を、
「あー、信じてないな!!」
魔理沙は信じてないと解釈した様だ。
「いや、そんな事はねーよ」
霊児はそんな事を無いと言う事を口にするが、
「証拠を見せてあげる!!」
魔理沙は証拠を見せると言って何も無い方に体を向け、両手を突き出す。
そして魔理沙は何やら詠唱を唱え始める。
すると、
「おお」
魔理沙の両手から星型の弾幕が幾つか放たれた。
弾幕を放ち終えた後、
「どう、凄い?」
魔理沙は振り返りながらそう言い、得意気な表情をする。
「ああ、凄いな」
霊児が凄いと口にすると、
「えへへへへ」
魔理沙は嬉しそうな表情を浮かべた。
そんな魔理沙の表情を見ながら、
「しかし、魔法なんて何時覚えたんだ?」
霊児は何時魔法を習得したのかを尋ねる。
「えっとね……」
そう言って、魔理沙は色々と話し始めた。
魔法そのものにはずっと前から憧れていたらしい。
だが、自分の年齢でちゃんと習得できるかと言う不安を魔理沙は抱いていたので中々踏ん切りが着かなかった。
そんなモヤモヤを抱えながら日々を過ごしていたが、ある日切実が起きる。
切実が起きた日と言うのは霊児を香霖堂に案内した日の事だ。
魔理沙が霊児を香霖堂に案内した日、二人は妖怪の群れに襲われたが、その妖怪の群れは霊児によって容易く蹴散らされたのだ。
それを見て魔理沙は思った。
自分と同い年の霊児があれ程の事を可能としたならば、自分にも出来るのではないかと。
そう考えた魔理沙はその日から本格的に魔法の勉強をし始める事を決意した。
しかし、そこで問題が出て来る。
どうやって魔法の事を勉強し様かと言う問題がだ。
師匠が居なければ魔導書と言った類の物もないのだから。
どうすれば良いか思い悩んでいた時、霖之助が霊児に頼まれていた羽織を作る為の布地が足りなくなったと言う事で霧雨道具店にやって来た。
霖之助がやって来た事をこれ幸いと思った魔理沙は、霖之助に魔法関連の書物が欲しいと頼む。
すると後日、霖之助が魔法関連の書物を魔理沙の下に持って来てくれたので魔理沙はその日から貰った本を見ながら魔法を習得していった。
霊児はそこまで聞き、
「魔法の練習し始めたのって何時からだ?」
魔法を練習し始めた時期を尋ねる。
「えーと……十日前……位かな」
「十日か……」
十日と言う短い日数で空を飛ぶ事が出来る様になった魔理沙に霊児は内心驚く。
同時に、霊力のよる飛行と魔力による飛行では習得難易度が違うのではと考え始める。
まぁ、霊児の場合は自身の能力である"空を飛ぶ程度の能力"で飛んでいるので霊力による飛行の習得難易度がどの程度であるかあまり分かっていないのだが。
そんな風に霊児が少し考えに耽っていると、
「空も飛べる様になったから霊児に見せに来たんだ」
魔理沙が博麗神社にやって来た理由を嬉しそうな顔で口にする。
そんなに自分に魔法を見せたかったのかと霊児が思っていると、魔理沙は神社を眺め、
「神社って意外と広いんだね」
そんな感想を漏らした。
「そうか?」
霊児はここで暮らしているからか、広いと言われても今一実感が湧かないと言った感じで首を傾げる。
「そうだよ。家のお店よりずっと広いよ」
そう言って、魔理沙は神社の周辺を歩き回り始めた。
やはり物珍しいのだろう。
一通り見終わったのか魔理沙が霊児の近くに戻り、
「ね、ね、霊児って普段は神社で何してるの?」
神社で何をやっているのかを尋ねる。
「普段か? 掃除と修行と……稀に神事かな」
「修行?」
魔理沙が首を傾げると、
「ああ、例えば保有霊力の底上げとコントロールとか筋トレとか……」
霊児はよく行う修行方法を口にする。
すると、
「底上げにコントロール……」
霊児は最初に口にした二つに魔理沙が興味を覚え始め、
「ねぇねぇ、それ私にも出来るかな?」
自分にも出来るかなと霊児に問い掛ける。
「出来るとは思うが……俺のやり方はお勧めしないぞ」
霊児がお勧めはしないと言うと、
「えー、どうしてー!?」
魔理沙は不満気な表情を浮かべた。
不満気な表情を浮かべているのは霊児と同じ修行をしたかったからであろうか。
そんな魔理沙を見ながら、
「俺がどんなやり方でやってるかと言うとだな……」
霊児は羽織の袖の部分から一本の針を取り出し、取り出した針の先端が見える様に地面に埋める。
そして霊児は右手の人差し指部分から少し霊力を放出させ、
「こんなやり方だ」
先端部分にその人差し指を乗せて逆立ちの体勢を取った。
そのまま指先一本で体全体のバランスを取りつつ、指立て伏せを行う。
それを何回か繰り返すと、
「よっと」
霊児は浮かび上がって体を反転させて着地し、地面に埋めてある針を回収する。
「とまぁ、こんな感じだな。これは放出する霊力のコントロールを間違えれば針が指に刺さるからな」
指が刺さった場面を想像したからか、魔理沙の顔が若干青くなった。
が、直ぐに顔色を戻し、
「むー、じゃあどすればいいの?」
他に何か良い修行法がないのかと言う事を尋ねる。
「んー、そうだな……霊力と魔力の違いはあれど力のコントロールだからな……」
そう言い、何かを思い付いた霊児は直径30cm程の大きさの霊力で出来た弾を生み出す。
「これと同じサイズのを出し続けるって言うのをやってみたらどうだ?」
「同じサイズのを……」
霊児が生み出した霊力で出来た弾を見た後、魔理沙は自分の掌に意識を集中していく。
すると、魔理沙の掌から魔力で出来た弾が生み出される。
「お、出来たじゃないか」
「うー……霊児のより全然小さい……」
「まぁ、年季が違うからな。要練習ってとこだな」
霊児がそう言ったところで魔理沙のお腹が鳴った。
魔理沙は顔を赤くしながら霊児の方を見ると、
「昼……食べてくか?」
霊児は昼を食べて行くかと言う提案をする。
「……うん」
魔理沙は小声で肯定の意を示す。
それを合図にしたかの様に二人は生み出した弾を四散させ、魔理沙は霊児の後に続く様にして神社の中に入って行く。
「ご馳走様でした」
「お粗末様」
昼食を食べ終えて食器を片付けた後、霊児と魔理沙は二人揃って縁側でマッタリと過ごす。
「霊児って何時もお鍋で食べてるの?」
「大体はそうだな。適当に野菜切って鍋に入れるだけだから楽なんだよ」
「男の人ってみんなそうなのかな?」
「そうなんじゃないか?」
そんな会話をしつつ、二人はお茶を飲んで一息吐く。
その後、
「霊児って博麗の御子とか斉主的な立場なんだよね?」
「そうだな」
「どんな事をするの? 慧音先生は博麗の巫女は異変解決を生業にしてるって言ってたけど」
魔理沙は博麗としての霊児は何をするのかを尋ねる。
「まぁ、それも含まれるな。異変解決の為に動くのは博麗としての義務だし」
博麗としての一般的な役目を口にした後、霊児は少し昔の事を思い返す。
具体的に言うのであれば、自分が自分を思い出した日の事を。
自分が今代の博麗として何をすべきか考えた時の事を。
その時の事を思い返しながら霊児は、
「歴代の巫女達はどうかは知らないが、それとは別に俺は自身の役目は幻想郷を護る事だと思ってる」
言葉を続ける。
「幻想郷を護る事?」
魔理沙が首を傾げると、
「ああ」
霊児は頷いて更に言葉を紡ぐ。
「幻想郷は人妖のバランスで成り立っている。分かり易く言うのならこのバランスを護るって事かな。それと幻想郷そのものを護る」
この人妖のバランスがあるから両方とも腐敗が少ないのだと霊児は思っている。
「うーん……良く分からない……」
魔理沙が良く分からなそうな表情していたので、
「そうだな……もっと分かり易く言うのなら、幻想郷に侵略者が現れたら俺はそいつ等を滅ぼす。それとは別に状況次第であるならば、
俺は人間の敵にも妖怪の敵にも……若しくは人妖両方の敵になるかもしれないって事かな。幻想郷を護る為ならばな」
霊児はかなり端的に自分のすべき事を言う。
「うーん……でもそれって、霊児は一人ぼっちになっちゃうかもしれないって事?」
魔理沙は人妖両方の敵と言う言葉からそう尋ねると、
「まぁ、状況次第ならそうなるだろうな」
霊児はそれを肯定する。
すると、
「……じゃあさ!!」
「うん?」
「私はずっと……どんな時でも霊児の味方でいる!! それなら霊児は一人ぼっちにならないでしょ」
魔理沙は名案だと言わんばかりの表情でそんな事を言い、霊児に満面の笑顔を向ける。
その発言と満面の笑顔に霊児は少し呆気に取られるも、
「……そっか、ありがとな」
霊児は礼を言う。
霊児の礼を聞いた後、
「うん!!」
魔理沙は満面の笑顔のままでそう応えた。
その後二人はまた雑談をし、日が暮れる頃に霊児は魔理沙を人里まで送って行く。
次の日から、魔理沙は頻繁に博麗神社に訪れる様になった。
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