にとりが霊児に頼まれた物を作る事を了承した日からにとりは何日か博麗神社に泊まり込む事になった。
その間に魔理沙が博麗神社に遊びに来た際には当然にとりと出会う事となる。
河童は人間の盟友と言っているが、にとりは人見知りの気があるらしく魔理沙の姿を見るや否や霊児の後ろに隠れてしまう。
それを見た魔理沙が若干機嫌を悪くすると言った様な出来事がこの何日かであった。
だが、次第にこの二人は打ち解けて仲良くなっていく。
仲良くなれたのは二人とも人懐っこい部分があったからだろう。
まぁ、霊児としては神社で暴れられる様な事態がなかったので万々歳である。
そんな事など色々あったが、

「霊児ー、出来たよー!!」

霊児が頼んでいた物は無事完成したと言う声がにとりから掛かる。
同時に、完成するまで間よく畑への水遣りのモチベーションが持ったなと霊児は自分の事ながら思った。

「霊児ー、聞こえてるー!?」
「今行くー」

そう言いながら、霊児はにとりの声が聞こえて来た外に移動する。
外に出た霊児はにとりに近付き、

「で、何所にあるんだ?」

完成した物は何所にあるのかを尋ねる。
すると、

「こっちこっち」

にとりは霊児の手を引っ張って神社の裏側に移動する。
神社の裏側に着くのと同時に、

「おお……」

霊児は驚きの声を漏らす。

「ふふん。これが、にとり式自動水遣り機だ」

にとりが自分の胸を張りながら自慢する様な表情をしている間に、霊児は神社の裏側に着いて一番
最初に目に入った金属製の棒に視線を移す。
金属製の棒は全ての畑の数メートル上にそれぞれあり、その全てが一直線に伸びている。
しかし、その棒は何所まで伸びていると言う事はない。
何故ならば、畑の終わりの数メートル先で九十度に曲がって地面に突き刺さっているからだ。
あれが棒の終わりかと霊児は思い、始まりは何所だと金属製の棒を辿っていくとその棒は太い一本の管に繋がっており、その管は
神社の隅にある金属で出来た大きなタンクに繋がっている事が分かる。
因みにそのタンクは三脚の様な物で固定されており、転倒したり外れたりしない様な処置が施されている様だ。
更にはそのタンクからも金属製の棒状の物が出ており、それは神社の真上の方に三脚の様な物で固定されている一番大きな金属製のタンクに繋がっている。

霊児がそれら全てを目に収めたタイミングで、

「それじゃ、装置の説明に入るね」

にとりがそう切り出す。
その声に反応した霊児がにとりの方を向くと、

「まず、神社の真上にあるのがメインタンク。あれは取り外しが可能だから水を汲んで溜めてね」

にとりがメインタンクを指でさしながら説明に入る。

「そしてメインタンクと繋がっているのがサブタンク。サブタンクはメインタンクから流れて来た水を溜める役目があるんだ。もし、
メインタンクの水が無くなってもサブタンクの中に水あればある分だけは自動で水は撒かれるよ」

そう言って指をサブタンクの方に移動させる。

「そしてそこから伸びて、畑の上にある金属の管から畑に水が撒かれるんだ。あ、雨の日は水を撒かない様になってるから」
「ほうほう」

出来の良さに霊児が感心していると、

「じゃ、次は神社の中にある装置の説明をするね」

にとりはまた霊児の手を取って移動する。
にとりに連れられて着いた先は空き部屋になっている部屋の襖の前。
部屋の中は極々普通の部屋の筈だと霊児が記憶を辿っていると、にとりは襖を開ける。
部屋の中は、

「おおう……」

メカメカしい部屋になっていた。
随分と様変わりしたなと霊児が思っていると、

「あそこにあるメーターがメインタンクのメーター」

にとりが奥の方にある装置を指さす。

「あれはメインタンクの貯水量をパーセンテージで表しているんだ。10%を切ったら水を補充した方がいいね」

そう言って、また指を移動させる。

「あっちのメーターはサブタンクの貯水量を表しているから」
「ふむふむ」

にとりの説明を霊児が頭に叩き込んでいると、にとりは更に指を動かし、

「あのスイッチは電源だよ。冬の間は電源を切っておいてね。そうそう、これの動力だけど
神社の地下の方にある霊脈からエネルギーを引っ張ってるけど……問題ないよね?」

装置のスイッチに付いて説明し、今更ながら動力に付いての許可を求める様な事を口にした。

「ああ、問題ねぇよ。問題があったら直に俺が気付くしな」

霊児が問題無いと言うと、

「そう、良かった」

にとりは安堵した表情になる。
その後、

「それで……どうかな?」

にとりは上目遣いで霊児に装置の出来を尋ねると、

「十分満足だ」

満足と言い答えが返って来た。
返って来た答えを聞いたにとりは、

「そう言ってくれると作った私としても嬉しいよ」

満面の笑顔になり、

「あ」

直ぐに何かに気付いた表情になる。

「どうかしたのか?」

霊児はどうしたのかと尋ねると、

「あのね、タンクに入れる水はどうし様かと思ってね? 神社にある池と井戸じゃ全然足りないし……」

にとりは水の補充に付いて口にする。
確かに、にとりの言う通り神社にある池と井戸ではまるで足りないであろう。

「かと言って妖怪の山から持って来ると言う訳にもいかないし……」

妖怪の山から頻繁に水を汲みに行ったりすれば確実に天狗の目に止まる。
天狗の目に止まり、天狗から追われる身になってしまっては笑い話にもならない。
何所か良い場所がないかと考えていると、

「ああ、そうだ。それなら霧の湖から持って来ればいいんじゃないか?」

霊児は思い出したかの様に霧の湖を口にする。

「ああ、確かにあそこなら大丈夫そうだね」

霧の湖なら問題無いとにとりは判断する。
なので、霊児は水汲みを霧の湖でする事を決めるのと同時に早速水を汲みに行こうと外に出ると、

「ん?」

霊児は神社の直ぐ近くまで近付いている飛行物体を発見した。
その瞬間、飛行物体は霊児の前で止まる。
飛んで来たのは、

「おはよ、霊児」
「魔理沙」

魔理沙であった。
霊児に挨拶をすると魔理沙は箒から飛び降りて着地し、神社の上を見て、

「ね、ね、あれって」

何かを言いたそうにメインタンクを指さす。

「ああ、あれは……」

霊児がメインタンクに付いて説明し様とすると、

「それは私から説明しよう!!」

にとりが襖を勢い良く開いて現れる。

「あ。おはよ、にとり」
「おはよう、魔理沙」

そう挨拶し、にとりは地面に降り立つ。

「で、あれがどう言った物か聞きたい?」
「聞きたい!!」

魔理沙が元気良く聞きたいと言ったからか、

「そうだろそうだろ。なら説明して上げるね」

にとりは嬉しそうな表情をしながら魔理沙の手を取って神社の裏側に移動する。
それを見送った後、霊児は水を汲みに行く為にメインタンクの所まで移動し様とすると、

「うお!?」

霊児の目の前に超小型の竜巻が現れる。
その竜巻は直ぐに弱まり、

「どうもー!! 清く正しい射命丸文でーす!!」

中から文が現れた。

「相変わらずの登場の仕方だな……」

霊児は文の登場の仕方に若干呆れつつ、

「で、何の用だ?」

用件を尋ねる。

「実はですね、一寸した事件の匂いを嗅ぎつけたんですよ!!

そう言って文は霊児に顔を近付ける。

「事件の匂い?」

霊児が首を傾げると、

「ええ、そうです。実はですね、少し前に椛が『大将棋をやりににとりの所に行ったら留守だった。もう何日も家に居ないみたいなんですよ』と愚痴っていましてね」

文は事件の匂いと言うのを説明し、懐から手帳とペンを取り出す。

「これは若しや妖怪を狙った異変の始まりではないかと私は睨んでいましてね!! これが異変であるならば私に独占取材権をですね……」
「にとりって凄いんだね!!」
「ふふん、河童の技術は世界一!! ってね」

文が霊児から独占取材権を得ようとしたところで、魔理沙とにとりが戻って来た。

「あれ、文さんだ」
「にとり、この人誰?」

文を初めて見る魔理沙は文が誰なのかを尋ねると、

「この人は烏天狗の射命丸文さんだよ」

にとりが説明する。

「えーと……」

文は二人の様子を見た後、霊児に顔を向ける。

「つまり、異変でも何でもないって事だ」
「くっ!! まさかこの私が偽情報に踊らされるとは!! おのれ椛!!」
「いや、自分の勘違いを椛のせいにするなよ……」

霊児が呆れた表情をしながら文に突っ込みを入れた。
そんな霊児に何かを言おうとして文は顔を上げると、

「……ん?」

文は自分の服の裾が引っ張られていると感じる。
気になった文が引っ張られている方向を見ると、魔理沙の姿が見えた。
自分に用があるのかと思い、

「何か?」

文が声を掛けると、

「初めまして。霧雨魔理沙です」

魔理沙は自己紹介をする。

「あややや、これはご丁寧に。私は烏天狗の射命丸文と申します」

魔理沙の自己紹介を受けて文も自己紹介を行う。
その後、魔理沙の格好を見て、

「魔理沙さんは格好から見るに魔法使いですか?」

文は魔法使いなのかと問う。

「うん、そうだよ」
「まぁ、まだ見習いって感じだがな」

魔理沙が肯定し、霊児が補足する様な事を言うと、

「ほうほう。つまり未来の大魔法使いであると」

文はそう言って魔理沙の写真を一枚撮る。
写真を撮られた事で魔理沙が少し照れていると、

「大丈夫、ちゃんと可愛く撮れてますよ」

文はそんな事を言い、

「処で、あれは何ですか?」

神社の真上にあるタンクに指をさす。

「ああ、あれは……」
「あれはですね!!」

霊児の言葉を遮り、にとりが説明を行う。
にとりの説明が終わると、

「ふむふむ成程……次回の"文々。新聞"の内容は、博麗神社が河童の最先端技術を取り入れる!! で、決まりですね!!」

文の中で次回の"文々。新聞"の内容が決まった様だ。
記事の内容をより充実させる為か、文はにとりに取材を始める。
何やら盛り上がっている文とにとりを放置して、霊児は今度こそ水を汲みに出掛け様とすると、

「霊児、何所かに行くの?」

魔理沙が霊児に何所かに行くのかと尋ねる。

「ああ、霧の湖まで水汲みにな」

霧の湖まで行く事を霊児が伝えると、

「あ、なら私も付いて行ってもいい?」

魔理沙は一緒に行きたいと口にする。
しかし、

「別に構わないが……霧の湖ってここと人里の距離よりあるぞ。そこまで飛べるか?」

霊児がそう言われて魔理沙は黙ってしまう。
今の魔理沙は人里と神社までの行き来はかなりギリギリなのだ。
帰りは博麗神社で十分な休息を取らなければ人里まで飛んで帰る事が出来ない。
なので、魔理沙が霊児と一緒に霧の湖に行く事は不可能であろう。

「うー……」

少ししょ気た感じのある魔理沙に、

「ま、お留守番してろ」

霊児は留守番をしている様に言う。

「……うん」

魔理沙は渋々ながら納得した様だ。
そんな魔理沙を見ながら霊児は飛び上がってメインタンクの方まで移動する。
メインタンクの形状を見ながらどうやって運ぼうか考えていると、

「……お」

霊児は取っ手を発見する。
準備が良いなと霊児は思いながら取っ手を掴んでメインタンクを取り外し、霧の湖へと向って行く。





















霧の湖に到着した霊児は、蓋を外してタンクを湖に沈める。
すると、

「よしよし」

タンクにどんどんと水が溜まっていくのが感じられた。
そして満タンになるのと同時に霊児はタンクを引き上げる。

「っと、思ってたより重いな」

予想以上にタンクが重かったせいか、霊児はタンク持ち上げた際に漏らす。
尤も、如何し様も無いと言う程の蓋を閉めて帰ろうとすると、

「あれ、霊児じゃない」

霊児の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
声に反応した霊児は声が聞こえて来た方に顔を向けると、釣り糸を垂らしている妹紅が目に映る。

「妹紅か」
「こんにちは」

妹紅が片手を上げて挨拶してきたので、霊児も片手を上げ返す。
その後、

「そんな大きい物持って何してるの?」

妹紅は霊児が持っている物に付いて尋ねると、

「ああ、実はな……」

霊児はここ最近で起こった事を説明する。

「……ははぁ、成程。河童の技術をねぇ」

霊児の説明を聞いた後、妹紅は物珍しそうにタンクを見詰め、

「色んな所と交流があるのね」

霊児の交友関係に驚く様な事を言う。

「ま、それなりにな」
「ふーん……あ、そうそう。この間はありがとう」
「この間?」

この間と言う単語に霊児が首を傾げると、

「ほら、干し柿泥棒見つけてくれた事よ」

妹紅は干し柿泥棒の時の事を口にする。

「ああ、あの時か」

そう言って霊児は少し前の出来事を思い出す。

「いやー、輝夜めざまぁ見ろだ。人の家の干し柿盗むからああ言う目にあうんだ」

妹紅はその時に事を思い出したからかスカッとした表情になっている。
その表情から随分と煮え湯を飲まされたんだなと霊児は思っていると、

「あ、そうだ。あの時のお礼と言っては何だけど……」

妹紅はそう言って霊児に壺を差し出す。

「これは……」
「私が釣った魚。持っていって」
「いいのか?」
「いいっていいって。また霊児の世話になるかもしれないからね」
「そっか。なら、ありがたく貰って置くよ」

そう言って霊児は魚が入っている壺を受け取る。

「それじゃ、またな」
「ええ、またね」

そう挨拶を交わし、霊児は霧の湖を後にして博麗神社へと帰って行く。





















霊児はメインタンクをセットして魚が入っている壺を持って神社の中に入り、居間の襖を開けると、

「うわあお……」

酒盛りをしている光景が目に映った。
自分に断り無く何勝手に始めているんだと思いながら霊児が声を出そうとしたところで、

「霊児ー!!」
「おおう!?」

霊児は背中から何かに抱きつかれる。
誰だと思い霊児は振り返ると、

「魔理沙か」

自分に抱き付いているのが魔理沙だと知った。
同時に、

「えへへへへ」
「ってお前赤いな……」

魔理沙の顔色がそれなりに赤い事に気付く。
その事から、魔理沙も酒を飲んだのだと霊児は判断する。
どうやってこの状況に収容を付けるか霊児が考えていると、

「あの、これは一体どう言う状況何でしょうか?」

背後からそんな声が聞こえて来た。
誰なのかを確認する為に振り返り、

「椛か」

声を掛けて来たのが椛であると霊児が知るのと同時に、

「どうも」

椛はペコリと頭を下げる。

「俺に用でもあったのか?」
「いえ、文さんが仕事の引継ぎをせずに姿を眩ましたので探しに来たのですが……」

椛はそう言いながらいい感じに盛り上がっている文とにとりを見る。

「ここに来たらこうなっていたと」
「はい」

椛は頷くのと同時に溜息を吐く。

「どうしてこうなっているのでしょう?」
「いや、俺にも分からん」

そして二人揃って溜息を吐く。
その後、結局全員で酒盛りが行われる事になった。











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