朝、目が覚めた霊児は、

「んー……」

上半身を起こし、両手を伸ばして頭を覚醒させていく。
ある程度頭が覚醒すると霊児は左腰に短剣を一本、背中に短剣を四本装備する。
短剣を装備し終えた後、背中に赤色で"七十七代目博麗"と書かれた羽織を着て神社の畑が見える場所まで移動すると、

「おお……」

霊児の目には見事に育っている野菜の数々が映った。
この分ならもう採れ頃なと霊児は考え、畑の方に近付いて行く。

「んー……もう採り頃だな」

近くで野菜を見た霊児はそう判断する。
ならば早速収穫し様と倉庫に向う。
倉庫に向った理由は収穫した野菜を乗せる為の籠を持って来る為だ。
倉庫に向う途中で、

「あ、そうだ」

霊児は何かを思い出し、進路を倉庫から食料庫へと変える。
食料庫の前に着くと霊児は食料庫の扉を開けて中に入り、周囲を見渡す。
改めて食料庫の大きさや食料を詰めている木製の箱の位置を改めて確認する。
確認が終わると霊児は中心部に移動して立ち止まって親指の腹を喰い破って膝を着き、親指の腹から溢れて出ている血を使って床に
二重結界式移動術の術式を書き込んでいく。
そして、

「……よし、完成」

術式が完成したのと同時に霊児は立ち上がり、術式を見直して間違いが無い事を確認する。
そして確認が終わると、霊児は自身の手に目を向け、

「……深く喰い破り過ぎたか?」

そんな事を呟く。
何故ならば、霊児の親指からは未だ血が溢れて出ているからだ。
流石にこの状態で野菜を収穫するのはどうかと思ったのか、霊児は親指を口に含んで出血を止め様とする。
それから少し時間が経てば、

「……お、止まった」

親指からの出血が止まった。
出血が止まると霊児は食料庫を後にして倉庫に向う。
倉庫の前に着くと扉を開けて中に入り、大きな籠を取り出すと再び畑に戻り、

「さて、収穫するか」

霊児は早速野菜の収穫に取り掛かる。
一つ一つ確実に野菜を籠の中に入れていく。
野菜を取り始めてから幾らか時間が過ぎれば、

「……っと、一杯になったな」

籠が野菜で一杯になる。
こうなってしまっては籠の中の野菜を食料庫に運んで空にしなければならない。
だが、霊児はそんな面倒臭い事はせずに籠の中にある野菜に掌を向ける。
するとどうだろう。
籠の中にあった野菜が跡形も無く消えてしまった。
何故、消えてしまったのか。
答えは簡単。
霊児が二重結界式移動術で野菜を食料庫に送り込んだからである。
そう、霊児が食料庫に二重結界式移動術の術式を書き込んだのはこの為だったのだ。
術の無駄使いの様に見えるかも知れないが、気にしたら負けである。
因みに原理としては、本来自分の体を包む様にして展開する二重結界の内側を野菜を包み込む様に展開して収縮し、食料庫に送ると言うもの。
術を発動し終えた感触から、野菜は無事食料庫に送られた事を理解した霊児は、

「さて、続き続き」

野菜の収穫を再開し始めた。
当然、籠が野菜で一杯になったら野菜を二重結界式移動術で送りながら。






















「……よし、こんなもんだな」

畑の野菜全てを収穫し終えると、霊児は一息吐いて籠の中に目を向ける。
籠の中には幾つかの野菜が入っていた。
これは本日の朝食である鍋料理に使う分の野菜だ。

「採れ立ての野菜での鍋料理って何気に初めてだな」

採れたての野菜で鍋料理を作ると言うの初めてだからか、霊児は少しウキウキした気分になっていた。
そんな気分のまま籠を持って台所に向おうとして、

「……あ」

霊児はある事に気付く。
気付いた事と言うのは野菜が土で汚れていると言う事だ。
まぁ、土の中に埋まっていた物が多々含まれているので仕方が無いと言えば仕方が無い。
台所で洗っても良いのだが、野菜の土汚れを落としたせいで台所が汚れてしまっては二度手間になってしまう。
そうなっては面倒なので、霊児は井戸の方で野菜を洗ってから台所に向う事にした。





















「やっぱ、鍋だよな」

霊児は適当に切った野菜を鍋に突っ込んだ鍋料理を食べながら霊児はそう漏らす。
鍋物は夏である今の季節に食べる様な物ではないだろうが、生憎霊児はこれ位しか作れない。
後はおにぎりとかそう言った物だ。
因みに、目玉焼きの成功率は半々と言った感じである。
とまぁ、霊児がまともに作れるのは鍋料理だけだが別に食うのには困らないし鍋料理は好きなのでずっとこのままなのだ。
ほぼ毎日鍋料理である事を気にせず、今日も今日とで霊児は鍋料理に箸を進めていく。
そして半分程食べた頃、

「おっはよー!! 霊児!!」

スパーンと言う音を立てながら襖が開かれる。
霊児は誰だと思いながら目を向けると、にとりの姿が目に映った。

「にとりか、おはよ」

取り敢えず朝の挨拶をし、

「どうしたんだ? こんな朝早くから?」

朝早くにやって来た理由を尋ねる。
すると、

「ねぇねぇ、霊児」

にとりは顔を緩ませながら霊児に近付く。
そして、

「私の予想だとそろそろ胡瓜が採れる頃だと思うんだけど……」

にとりはそんな事を言い出す。
どうやら、胡瓜が採れた頃だと思ってこんな朝早くにやって来た様だ。
勘が良いなと霊児は思いつつ、

「ああ、今日採れたばかりだぞ」

今日、胡瓜が採れた事を教える。
胡瓜が採れた事を聞いたにとりは、

「それじゃあ、約束通り……」

何かを期待をした目で霊児を見詰める。
にとりの視線に気付いた霊児は、

「分かってる分かってる。食い終わるまで待ってろ」

霊児はそう返し、箸を進めていく。
何を食べているのか気になったにとりは卓袱台の上に目を向け、

「……こんな時期に鍋?」

霊児が食べている物を見て首を傾げてしまう。
そんなにとりに、

「別に良いだろ。そもそも俺はこれ位しか作れないしな。それに楽だぞ、鍋は」

霊児は鍋の良さを口にしながら食事を進めていく。
それから少しすると、

「ご馳走様」

朝食を食べ終わる。
食べ終わったのと同時に霊児は立ち上がって左腰に装備してある短剣を抜き、抜いた短剣を卓袱台の上に置いて二重結界式移動術を発動して食料庫に跳ぶ。
食料庫に着くと霊児は胡瓜が入っている木箱を持ち上げ、再び二重結界式移動術を発動して居間に戻り、

「ほれ、約束通りの胡瓜だ」

木箱に入った胡瓜を畳の上に置く。
その瞬間、

「胡瓜!!」

にとりは目を輝かせながら木箱の中の胡瓜に顔を近付ける。
河童であるにとりにはこの胡瓜が宝の山に見えている様だ。
自分にとって胡瓜は食べ物の一つであるが、河童にとっては違うんだなと霊児が思っていると、

「美味しいー!!」

にとりは幸せそうな顔をしながら胡瓜を食べていた。
こうなっては胡瓜を食べ終わるまで他の事は目に入らないであろう。
霊児はにとりを暫らくはこのままにして置く事に決め、卓袱台の上に置いてある短剣を鞘に仕舞い、鍋を洗いに台所へと向かって行く。
鍋洗いが終わった後の霊児は、

「はぁー……」

縁側でお茶を啜りながらのんびりとしていた。
平和で緩やか時間を楽しみ始めてから少し経った頃、

「……ん?」

霊児は誰かが近付いて来ている事を感じ取る。
誰が来たのかを確認する為に霊児が顔を上げると、

「おはよ、霊児」

魔理沙が霊児の目の前に降りて来た。

「おはよ、魔理沙」

空になった湯飲みを置き、霊児が挨拶を返したタイミングで、

「あ、あのね、その……今日も……良い……かな?」

魔理沙が上目遣いで霊児を見詰め、何か許可を求める様な事を口にする。
何の許可を求めているかと言うと飛行訓練に付いて。
ここ最近、魔理沙は霊児に自分の飛行していられる時間を延ばす為の訓練に付き合って貰っているのだ。
若干、不安そうな顔をしている魔理沙に、

「ああ、別にいいぞ」

霊児は別に構わないと返す。
すると、魔理沙は物凄く嬉しそうな顔をする。
そんな魔理沙の表情を見ながら、

「そうだ、にとりはどうする?」

霊児は思い出したかの様ににとりの方を見て、どうするかを問う。
だが、にとりに霊児の声は聞こえてはいない様だ。
正確に言うのであれば、胡瓜を食べるのに夢中で他の事は目にも耳にも入らない状態なのだが。

「……まいっか」

霊児はにとりに留守番させる事を勝手に決め、

「それじゃ、少し休んだら行くか」

魔理沙が少し休んでから訓練を行う旨を伝えると、

「うん!!」

魔理沙はまた嬉しそうな顔をしながら霊児の隣に腰を落ち着かせる。





















「よっと」

魔理沙の飛行時間延長の訓練を始めて暫らく時間が経つと、霊児は高度を落として草原の上に着地する。
それに少し遅れる様にして魔理沙も高度を落とし、箒から降りて地に足を着けた。
魔理沙が着地したのと同時に霊児は魔理沙に顔を向け、

「疲れたか?」

疲れたかと問い掛ける。

「うん……少し……」

魔理沙は強がったりせず、素直に疲れた事を言う。
まぁ、息も少し切れているし顔に疲労感が見えているので隠しても意味は無いであろうが。

「じゃ、一旦休憩にするか」

魔理沙の疲労度合いから休憩を入れた方が良いと判断した霊児はそう言って草原の上に座る。
霊児に続く様にして魔理沙も草原の上に腰を落ち着かせ、

「あ、そうだ」

何かを思い出したかの様に被っている帽子を取って帽子の中を探っていく。
そして、

「はい、これ」

魔理沙は帽子の中から少し小さめの箱を取り出し、

「お弁当作って来たんだ。一緒に食べよ」

そのうちの一つを霊児に手渡す。
中にご飯が入ってる様だ。

「そうだな、そうするか」

お腹が空いているからか、霊児は早速魔理沙が作った弁当を食べ始める。
弁当を食べてる霊児を見ながら、

「ど、どう? 美味しい……かな?」

魔理沙が少し不安気な表情で美味しいかと問う。
問われた事に、

「ああ、美味い」

霊児は箸を進めながら率直な感想を漏らす。

「えへへ、良かった」

霊児の感想を聞いた魔理沙は安心し、嬉しそうな表情になる。
自分の作った物を美味しいと言ってくれたのが嬉しかった様だ。
そして弁当を食べ終わると、霊児と魔理沙は二人並んで空を眺めていく。
それから少し時間が経った時、

「こんにちは」

唐突に何者かの声が聞こえて来る。
その声に反応した霊児と魔理沙は声を掛けられた方に顔を向けると、肩口付近で揃えられた緑色の髪をし、傘を持っている
少女と女性の中間位の年頃の女の人の姿が二人の目に映った。
因みに服装は赤いチック柄のベストと赤いスカート、そして白いワイシャツの様な物と言った感じだ。
目の前の人物を観察した後、

「こんにちは」
「こ、こんにちは」

霊児と魔理沙は取り敢えず挨拶を返す。
すると、

「私は風見幽香。貴方達は?」

その女の人は突如自己紹介を始める。
自己紹介されたからか、

「……博麗霊児」
「き、霧雨魔理沙です」

霊児と魔理沙も自己紹介を行う。
霊児は若干警戒し、魔理沙は少しオドオドしながら。

「霊児に魔理沙ね」

幽香は二人の名を呟きながら霊児を見る。
幽香の視線に気付いた霊児は、

「何か用か?」

何の用かと尋ねた瞬間、

「ふふ、天狗の新聞も偶には本当の事を書くのねと思って……ね」

幽香は天狗の新聞に本当の事が書かれていた事を口にした。
そして、

「貴方は歴代の博麗の中で唯一の……初めての男の博麗。そして歴代最年少で博麗の名を継いだ者……」

続ける様にして霊児の簡単な情報を言った瞬間、幽香の傘を持っている手がぶれる。
幽香の傘を持っている手がぶれたタイミングで霊児は左腰に装備している短剣を左手で抜き放つと、大きな激突音と衝撃波が発生した。

「え、え?」

魔理沙は何が起こったか分からないと言った表情で霊児と幽香を見る。
魔理沙の瞳に映っていた光景は傘を振り下ろしている幽香と、それを短剣で受け止める霊児の姿であった。

「うん、やっぱり本当だった」
「……何するんだよ」

霊児は若干の殺意を混ぜながら何故行き成り攻撃して来たのかを尋ねる。

「私はね、四季の妖怪ともフラワーマスターとも呼ばれているの」
「……それで?」

霊児はそれがどうしたと言った事を口にすると、幽香は左手である場所を指さす。
それを追う様に霊児は目線を移動させ、魔理沙もそれに続ける様に体を動かして目線を移動させる。
二人の視線に押し潰されている花があった。
押し潰しているのは魔理沙だ。
座った時に気付かずに潰してしまったんだろう。
押し潰された花を見て、霊児はこうなった理由はそれかと思い、

「……子供のやった事だ。大目に見てやってくれないか?」

何とか許して貰う様な事を口にする。

「自分も子供なのにそんな台詞を言うのね」

幽香は少し呆れた表情を見せながらそう言い、

「でも、そうね……」

何かを考える素振りを取った後、

「許して欲しかったら……私と戦って貰いましょうか」

許して欲しければ自分と戦えと言い、幽香は傘を持っている手に力を籠める。
幽香が力を籠めた事で均衡が崩れ、幽香の傘に霊児の短刀が押されてしまう。
だが、それも一瞬。
霊児も力を籠めて幽香の傘を押し返し、

「はあ!!」

短剣を振るって幽香を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた幽香は別段驚いた表情をせずに空中で一回転し、優雅な動きで着地する。
その様子を見ながら、

「何で……俺と戦いたい?」

霊児は立ち上がり、構えを取って自分と戦いたい理由を聞く。

「単純に興味があるからよ。今代の博麗である貴方がどれだけ強いかが……ね」
「そうかい」

霊児は面倒な相手に目を付けられたなと思いながら幽香を観察し、理解した。
目の前の相手は、今まで自分が倒してきた妖怪達と比べ物にならない程に強いと言う事に。
面倒な事になりそうだなと思いつつ、

「……魔理沙」
「は、はい」
「空に上がってろ」

魔理沙に空に上がる様に言う。

「え、で、でも」
「いいから」
「う、うん」

霊児に少し強く言われたからか、魔理沙は箒に跨って言われるがまま空に上がる。
魔理沙が空中に上がると、霊児と幽香は互いに睨み合う。
睨み合いが続き、何時状況が動くかと思われた時、

「ッ!!」

霊児が動いた。
左手に持っている短剣を幽香の顔面目掛けて投擲する。
投擲された短剣を幽香は涼しい顔で避けるが、

「ッ!?」

直ぐに驚愕の表情を浮かべてしまう。
何故ならば、目の前にいる筈の霊児が跡形も無く消えていたからだ。
一瞬たりとも目を離していないのにどう言う事だと思った瞬間、

「ッ!?」

幽香は後方に何かを感じて反射的に上半身を前方に倒す。
すると、幽香の髪の毛が数本宙に散ったのと同時に顔があった場所に何かが走る。
走った物の正体とは、

「ちっ!!」

霊児が振るった短剣であった。
霊児は投擲した短剣の近くに二重結界式移動術で跳んで、飛んでいる短剣を左手で掴み、そのままその短剣で斬り掛かったのだ。
完璧とも言えるタイミングで攻撃を外した事に霊児が舌打ちをした瞬間、幽香から蹴りが放たれる。
その蹴りが自分に当たる直前に霊児は幽香の足首を掴む。
そして蹴りの衝撃を利用して霊児は幽香から足首から手を離して距離を取る。
ある程度離れた所で霊児が着地し、体勢を立て直した時には、

「ッ!!」

幽香が霊児の目の前まで迫って来ており、傘を振るっていた。
直撃を受ける気はないので、霊児は振るわれる傘を受け止める様に短剣を振るう。
短剣と傘が激突した後、霊児は距離を取ろうと後ろに下がる。
が、距離を取らせまいとするかの様に幽香は霊児との距離を詰めながら傘を振るう。
振るわれた傘を霊児は短剣で防ぎ、後退していく。
そんな攻防が暫らくの間続くと、

「ええい!!」

進まない状況に痺れを切らしたのか幽香は傘を大きく振り上げる。
どうやら、強い攻撃で状況を動かす積りの様だ。
だが、得物を大きく振り上げたと言う事はそれだけ隙が出来ると言う事。
霊児はその隙を突こうと幽香の傘の動きに目を向ける。
そして、幽香の傘が振り下ろされるの同時に霊児は傘の範囲内からギリギリ外れた場所に下がり、傘を振り切った直後に反撃に移ろうとしたがそれは出来なかった。
何故ならば、

「ぐうっ!!」

傘が振り下ろされた地面は陥没し、そこから発生した地割れで足を取られて体勢を崩してしまったからだ。

「ちっ!!」

直ぐに体勢を直そうとしている霊児に突如、影が掛かる。
顔を上げると、上空に傘を振りかぶりながら急速に降下して来ている幽香の姿が見て取れた。
霊児はまだ体勢を立て直している最中なので回避と防御はとても間に合いそうにない。
なので霊児は攻撃を選ぶ。
霊児は右手の人差し指の先に瞬時に霊力を集め、指先から幽香に向けて霊力で出来た大きな弾を放つ。
猛スピード迫って来る弾に幽香は驚くものの、直ぐに回避行動を取って放たれたそれを回避する。
その後、幽香は霊児の方に顔を向け、

「……ちっ」

既に体勢を立て直している姿を見て舌打ちをしてしまう。
これでは急降下による攻撃は無意味だと悟ってしまったからだ。
仕方が無いので幽香は攻撃する事を止めてそのまま地に足を着け、改めて霊児の姿を見て観察し、

「歴代の博麗の巫女達とは随分と違った戦い方をするのね。歴代の博麗の巫女達はお払い棒を片手にお札を飛ばして来たのに」

歴代の博麗の巫女達とは戦い方が全然違うと言う事を口にする。

「攻略法が通じなくて残念か?」

霊児が挑発する様な事を言うが、

「まさか」

幽香はその挑発に乗る事はなかった。
そう易々と乗ってはくれないかと霊児が思っていると、幽香の姿が消える。
それに反応するかの様に霊児の姿も消えた。
二人は何所に消えたのかと思われた時、二人は同時に現れる。
互いの得物を激突させながら。
ある程度均衡させた後、二人は弾かれる様にして間合いを取って再び激突して互いの得物をぶつけ合い、交差する。
それから、二人は再び近付いて互いの得物を激突させながら交差と言う事を何度も繰り返す。
何度も何度も何度も。
そして何回目の交差の後、幽香は接近せずに傘を霊児に向ける。
幽香が接近してこない事に気付いて霊児が足を止めたのと同時に傘の先端から妖力で出来た弾が数発発射された。
放たれた弾を霊児は短剣で全て斬り払ったところで、

「しまっ!!」

幽香が自分の目の前に迫って来ている事に気付く。
どうやら、霊児が弾幕に気を取られていた隙に近付いて来た様だ。
霊児がその事に気付いた時にはもう遅く、幽香がフルスイングで放った傘が胴体に当たってしまい、

「がっ!!」

空中に吹き飛ばされてしまう。
空中に吹き飛ばされた霊児を追う様に幽香も空中に躍り出る。
幽香が近付いて来た事に気付いた事に気付いた霊児は体を回転させて体勢を立て直し、両手を広げて、

「夢想封印!!」

己が技の一つを放つ。
霊児の体中から七色に光る弾が次々と放たれ、それら全てが幽香に向かって飛んで行く。

「ッ!?」

幽香は慌てて回避行動を取るが、距離が近かったせいか回避が間に合わずに全弾まともに喰らってしまう。
その瞬間に爆発が起き、爆煙が発生する。
爆煙が発生してから少しすると、爆煙を抜ける様にして幽香が地上へと落下していく。
何もせずに落下した事と服がボロボロになっている事からそれなりのダメージがあったと霊児は判断し、追い討ちを掛ける為に幽香の後を追う。
幽香はそのまま落下して地面に激突すると思われていた。
だが、地面に激突する瞬間に幽香は体勢を立て直して着地して傘の先端を霊児に向ける。
ただ、傘の先端を向けている訳ではない。
傘の先端には膨大とも言える程の量の妖力が物凄い早さで集まっていっているのだ。
それに気付いた霊児は慌てて急ブレーキを掛けて降下を止め、回避行動に移ろうとする。
が、その前に幽香の傘の先端から極太のレーザーが発射されてしまった。
発射されたレーザーの大きさは霊児を余裕で呑み込める程だ。
レーザーの大きさと速さから回避が不可能だと判断した霊児は右手を突き出し、

「ッ!!」

レーザーを受け止める。
しかし、受け止めたはいいものの右手が少しずつレーザーに押され始めた。

「ぐううぅぅ……」

このままでは霊児はレーザーに飲み込まれてしまう。
それを避ける為、

「ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

霊児は右手に籠める力を上げ、霊力を解放しながら掌で受け止めている極太レーザーを押し返しつつ、

「はあ!!」

握り潰す。
その瞬間、霊児が握り潰した箇所を中心に極太レーザーが四方向に分かれる。
×の形を描く様に。
地上に向ったレーザーは地面に穴を、空に向ったレーザーは雲に孔を開けていく。
それ程の威力を誇っているレーザーも次第に弱まって消滅する。
極太レーザ−が消えた後、霊児は己が掌に視線を移す。
霊児の右手は酷く焼け爛れた様になっており、更には極太レーザーの余波で霊児の右腕から右肩までにあったシャツと羽織りの部分が吹き飛んでいた。
自分の右腕の状態と現状を確認した後、霊児は痛みに耐えながら拳を作って地面に着地する。
そして幽香と睨み合い、同時に地を駆け様としたところで、

「あ、あの!!」

唐突に魔理沙の声が聞こえて来た。
何だと思った二人は魔理沙の方に顔を向けると、盛り上がった土に支えられている花の姿が目に映る。
どうやら、魔理沙なりに必死にこの状況を何とかしようとした様だ。
土で支えられた花を見た幽香は毒気が抜けた様な表情になり、唐突に傘を開いて霊児に背を向けた。

「お、おい」

突然の幽香の行動に霊児は何か声を掛け様とすると、

「興が削がれたわ」

幽香はそれだけ言ってこの場から立ち去ろうとする。
何歩か歩いた後、幽香は何かを思い出したかの様に霊児の方に振り返り、

「そうそう、私は歴代の博麗の巫女達と何度も戦った事があるけど……貴方の力は歴代のどの巫女よりもずっと上。しかもその巫女達は今の貴方よりも年齢は上だった」

そんな事を口にする。
そして幽香は誰もが惹き付けられ、可憐さを覚える様な笑みを浮かべながら、

「本当に、先が楽しみね」

先が楽しみだと言う。
それだけ言って、幽香は今度こそ去って行った。

「……厄介なのに目を付けられたな」

幽香の姿が見えなくなった後、霊児は溜息と同時にそう呟く。
そして左手に持っている短剣を鞘に戻して一息吐くと、

「れ、霊児!!」

魔理沙から声を掛けられる。

「ん?」

その声に反応した霊児は魔理沙の方に顔を向けた瞬間、

「だ、大丈夫!?」

魔理沙が凄く心配そうな表情で霊児の容態を尋ねる。
魔理沙の視線が自分の右腕に向いている事に気付いた霊児は、

「ああ、大丈夫だ」

右腕を上げて大丈夫だと言う。

「で、でも手……」
「ああ、これか。大した事ねぇよ。こんなもん、数日で治るって」

霊児はそう言って拳を作って見せる。

「腹減ったし帰ろうぜ」
「う、うん」

そして、霊児と魔理沙は空中に躍り出て博麗神社に向う。
それから少した時、

「ごめんね、霊児」

魔理沙から謝罪の言葉を発する。

「何がだ?」

謝られる理由が分からないと言う様な表情をしながら霊児が魔理沙の方を見ると、

「だって……霊児、私のせいで怪我しちゃったし……」

魔理沙が目を伏せがちにそう言う。
確かに、魔理沙の言う通り霊児が怪我をした原因は魔理沙にある。
魔理沙が罪悪感を覚えるのも無理は無い。
そんな魔理沙の表情を見た霊児は左手を動かす。
魔理沙は殴られるものだと思って目を瞑る。
だが、

「……え?」

魔理沙の予想は外れた。
された事は、霊児に額を指で少し小突かれただけであった。

「気にすんな。大体怪我なんて博麗をやってる時点で何時かはするものだしさ」

そう言って霊児は魔理沙の額から指を離し、

「お互い大した事なかった。それで良いだろ」

笑顔になる。
その笑顔を見て魔理沙は、

「うん!!」

元気良く返事をし、笑顔になった。























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