「で、どれ位で直りそうだ?」
「これはまた、随分と派手に破けたものだね」
霖之助は右腕の部分の全てが無くなり、少しボロボロになっている羽織を見てそう呟く。
現在、霊児は香霖堂に来ている。
何しに来たかと言うと、幽香と戦った時に破損した羽織を直して貰いにだ。
「しかし、どうしたらこんなにボロボロになるんだい?」
「ああ、風見幽香って言う妖怪と戦ってこうなった」
霊児は羽織りがボロボロになった経緯を説明すると、
「風見幽香……あのフラワーマスターかい!?」
霖之助が驚いた顔をしながら聞き返す。
どうやら、霊児が口にした人名に驚いている様だ。
「ああ、そうだが。知ってるのか?」
霊児が霖之助に幽香の事を知っているのかと問うと、
「うん、偶に彼女はここに買い物に来たりする事があるからね」
そんな答えが返って来る。
香霖堂に幽香が客として来る事があるので霖之助は幽香の事を知っていた様だ。
その後、霖之助は一息吐き、
「彼女は古参の妖怪であるのと同時に幻想郷でも最強クラスの妖怪だからね。その彼女と戦ってよく無事だったね」
幽香の簡単な説明をする。
「確かに強かったな」
霖之助が口にした幽香の情報を聞き、霊児は幽香と戦った時の事を思い出す。
幽香程の強さを持った相手と戦ったのは霊児としては生まれて初めての事である。
これから先、博麗としてああ言う強い相手と戦う事になるのであれば面倒臭いなと霊児が思っていると、
「それはそうと羽織りの修繕の方だったね」
霖之助が霊児の羽織をじっくりと観察していく。
「右腕の部分は見ての通りとして、それ以外にも結構痛んでいる部分があるね」
「そうなのか?」
「そうだね……直ぐにどうこうなるって訳でもないけど、気付いたら破れているって言う事態にはなりそうだね」
「ふーん……」
霊児にはよく分からないが、作った霖之助が言うのであればそうなのだろう。
「全体的な修繕を含めて……大体二、三日と言った感じかな」
「二、三日か」
二、三日で直ると言われて霊児は残りの羽織が何着あるか頭に思い浮かべる。
今着ているのを除けば、残りは三着だ。
洗濯などで回しながら着ていっても羽織を着れなくなると言う事ないであろう。
問題ないと言う結論に達した霊児は、
「分かった。頼むよ」
霖之助に修繕を頼んで自分の懐を探る。
そして、
「代金はこれ位でいいか?」
幾らかのお金をカウンターの上に置く。
「うん、十分だよ」
置かれたお金を見て霖之助はそう言い、カウンターの下にお金を仕舞う。
その後、このまま帰っても暇だしなと思ったからか、
「あ、そうだ。店の中見ていってもいいか?」
霊児は店の中を見てもいいかと霖之助に尋ねる。
「構わないよ」
霖之助から了承が取れたので、霊児は店内を見て回る事にした。
そして、
「もう少し整理整頓したらどうだ?」
店内の様子を見たからか霊児はそんな感想を漏らす。
すると、
「いいんだよ。僕は何処に何があるかは分かるしね」
霖之助は自分には何処に何があるかは分かるからいいと返す。
その霖之助の発言にはそれなりに賛同してしまう部分が多々あるので霊児はそれ以上何かを言うのを止め、店内を物色していく。
それから暫らくすると、
「これを買うよ」
霊児は幾つかの商品を持ってカウンターに戻って来る。
「これは……紙と墨かい?」
「お札などを作るのに必要な紙と墨が切れ掛かっていたからな。ここに売っていて調度良かったぜ」
霊児は紙と墨を買う理由を言い、カウンターの上に置く。
「ふむ……これ位なら……」
そう言って霖之助はカウンターの上に置いてある長方形の形をした物にくっ付いているボタンを押していく。
それを見て、霊児はあれは電卓だったかなと磨耗している前世の記憶を少し思い出していると、
「お代はこんなものだね」
霖之助は電卓に書かれている数字を見せる。
書かれている数字分のお金をカウンターの上に置くと、
「袋には入れるかい?」
霖之助が袋に入れるかを問い掛けて来る。
「ああ、頼む」
霊児がそう言うと霖之助は紙と墨を袋に入れる。
それを受け取った後、霊児は香霖堂から出て博麗神社に帰って行った。
「あちー……」
霊児は神社の縁側でそう漏らす。
団扇を使って自分を扇いでいても暑いものは暑い様だ。
しかし、今の季節は夏であるがそろそろ秋になるかと言う時期である。
だと言うのに暑い。
繰り返す様だが暑い。
ギラギラと光っている太陽を見ながら、
「太陽、働きすぎじゃないか?」
霊児はそんな事を愚痴る。
が、気温が下がる気配は一切見られない。
当然と言えば当然である。
霊児はこの暑さをどうにか出来ないものかと考えると、
「……あ」
ある事を思い付く。
思い付いた事と言うのは太陽の神か火や熱の神を倒せば涼しくなるんじゃないかと言う事だ。
霊児はそれ等の神を呼び寄せて倒そうかと考えるが、
「……はぁ、何考えてるんだろ」
溜息を吐き、その事を考えるのを止める。
霊児は仮にも神職に携わる人間だ。
その神職に携わる人間がそんな理由で神を倒すのは流石に不味いであろう。
まぁ、敵対し様ものなら容赦なく倒す積りではあるが。
都合よくそれ等の神が敵対してくれないかなと思いながら顔を上げると、
「……ん?」
霊児は何かが近付いて来ている事に気付く。
近付いて来たものは霊児の目の前に降り立ち、
「おお、ダレてるねぇー。霊児」
「やっほ、霊児」
そう声を掛ける。
近づいて来ていたのはにとりと魔理沙であった。
「にとりに魔理沙か。にしても……」
そう言いながら霊児は二人の格好を観察し、
「随分涼しそうな格好じゃないか」
そんな感想を口にする。
何故そんな感想を口にしたかと言うと、二人の格好は水着と言われる物であったからだ。
因みに色はにとりが青で魔理沙が黒である。
「えへへ、分かる?」
そう言って魔理沙が体を一回転させると、
「ふふん。これは私が作ったのさ!!」
にとりがこの水着は自分が作ったのだと言って胸を張る。
「にとりがか?」
水着を作ったと言う言葉を発したにとりに霊児が顔を向けると、
「うん、ここ最近ずっと暑かったらね。二人を誘って水遊びに行こうと思ってたのさ」
にとりは水着を作った理由を言う。
それで二人とも水着を着ているのかと霊児が納得していると、
「勿論、霊児の分も用意してるよ!!」
にとりはそう言って海パンを取り出す。
海パン色の基本色は白で、正面には赤い文字で博麗と二文字が書かれている。
その海パンを霊児が観察していると、
「ね、ね、霊児も一緒に行こ」
魔理沙が一緒に水遊びに行こうと誘う。
その誘いを受け、
「そうだな……」
霊児は少し考える。
このまま神社に居ても暑いだけ。
それならば魔理沙とにとりと一緒に水遊びに行った方が良いかな霊児は考え、
「行くか」
一緒に行く事を決める。
「やった!!」
霊児も一緒に行く事が決まったからか、魔理沙は嬉しそうな表情になった。
霊児はにとりから海パンを受け取り、神社の中に入って着替えていく。
そして着替えを終えた霊児が出て来ると、
「それじゃ、レッツゴー!!」
そんなにとりの掛け声を合図にし、霊児達は博麗神社を後にする。
「あー、涼しい……」
霊児は水面に浮かびながらボケーッとしている。
現在、霊児達は幻想郷の何処かの川でそれぞれが思い思いの方法で涼んでいた。
因みにこの川はにとりのお勧めの場所らしい。
静かで広く、水深もそれなりにある。
おまけに川は綺麗だ。
まぁ、幻想郷の水場の殆どは綺麗ではあるが。
兎も角、にとりが勧めるだけの事はある。
霊児はそう思いながらボケーッとしていると、
「ぶほおっ!?」
何者かに足を引っ張られて、沈み掛ける。
「ぶはあ!!」
慌てて霊児が浮上すると、
「あはは、駄目だよ油断しちゃあ」
その近くには笑っているにとりが居た。
笑っている事から、霊児は犯人はにとりだなと断定した。
にとりは河童だ。
水中を自由自在に動き回る事など朝飯前だろう。
水中を自由自在に動き回るにとりにどう仕返しをしてやろうかと霊児が考えていると、
「ぶふう!?」
背中に何かが当たり、再び沈みそうになる。
が、霊児は直ぐに体勢を立て直して、
「誰だ!?」
振り返ると、
「ご、ごめんね霊児。飛び込もうとしたらぶつかって」
魔理沙から謝罪の声が聞こえて来る。
どうやら、霊児の背中に当たって来たのは魔理沙であった。
霊児がその事を認識した瞬間、
「……ん?」
霊児の背中に水が当たる。
何だと思って霊児は体を動かして後ろを見ると、水を掬い上げる様な動作をしているにとりの姿が見えた。
霊児の背中に水が当たった原因はにとりにある様だ。
その事を知った霊児は、
「……ふ」
不敵な笑みを浮かべながら拳を振り上げ、
「らあ!!」
拳を水面に叩き付ける。
すると水飛沫が舞い上がり、
「わっ」
「きゃ」
にとりと魔理沙に水に濡れてしまう。
「ははは、どうだ見たか!!」
霊児の復讐が炸裂したところで、
「やったなー!!」
再びにとりから水が掛けられ、
「私も負けないもん!!」
それに続く様にして魔理沙も水を掛ける。
そして、三人はそのまま水を掛け合いながら遊んでいく。
水の掛け合いが一段落着くと、
「あややや、楽しそうですね」
上空から文が現れる。
「文か」
霊児が文の存在に気付くと、
「こんにちは」
魔理沙は文に挨拶を行う。
「はい、こんにちは。それにしてもここは涼しそうでいいですね」
文は挨拶を返しながら水面の真上まで降下する。
「何だ、涼みに来たのか?」
霊児が文に涼みに来たのかと問うと、
「避暑ともいいますね。ほら、私って髪の色も羽の色も黒じゃないですか」
文はその事を肯定しつつ、自分の髪と羽が黒い事を言う。
「ああ、黒って熱くなり易いからな」
「ええ、ですから冬場はいいんですけど夏場となると適度に休憩を取らないとモチベーションを維持出来ないんですよね」
それ故に文は適度に休憩を取らないとやっていけないんだと言うと、
「あんまり休憩の回数が多いと椛が怒りますよ?」
にとりがそんな事を口にする。
「ここで休憩を取って置かないと後の仕事に支障が……」
文が何かを言おうとした時、
「そうだよねぇ、休憩は大事だよねぇ」
また誰かが現れる。
全員、誰だと思いながら声が聞こえた方に顔を向けると、四人の目には和服を着た赤い髪をした少女と女性の中間位の年頃の女の人が目に映った。
そして、その手には変に歪んだ形をした鎌を持っている。
「……誰だ?」
霊児が誰なのかを尋ねると、
「アタイは小野塚小町。死神さ」
女の人……小町は簡単な自己紹介を行う。
「死神……」
死神と言う単語を聞いて、魔理沙は思わず霊児の後ろに隠れる。
魔理沙の怯え様を見たからか、
「あはは、怯えなくてもいいよ。死神と言っても別に命を狩り来た訳じゃないからさ」
小町は魔理沙を安心させる様な事を言う。
「と言うか、貴女は三途の河の船頭ですよね? 何故ここに?」
文が小町にここに居る理由を尋ねると、
「あんたと同じだよ。暑くてやる気が出ないから涼しくなるまで休憩さ」
小町は文と同じだと口にする。
「いいのか?」
三途の河の船頭がそう易々と三途の河を離れてもいいのかと言う様な事を霊児が問うと、
「いいのいいの、一寸位」
小町はあっけらかんと構わないと言う。
そして、
「そうそう、文は知っているけどあんた達は?」
小町は霊児達の方を向くと、
「私は河城にとり」
「私は霧雨魔理沙です」
にとりと魔理沙が自己紹介をする。
「にとりと魔理沙ね。そっちの男の子は?」
「博麗霊児」
「博麗霊児……若しかして今代の博麗かい?」
霊児の名前を聞いて小町が驚いた顔をすると、
「ああ、そうだ」
霊児は自分が今代の博麗である事を言う。
「文の新聞に今代の博麗は男と書いてあったけど本当だったのかい」
小町が意外そうな顔をすると、
「失敬な!! 私の新聞は何時も真実しか書きませんよ!!」
文は少し怒った顔になり、小町の方に顔を向ける。
「あはは、悪い悪い。それよか、あたいも水遊びに混ぜておくれよ」
小町はそう言うや否や川の中に飛び込み、それに続く様にして文も川の中に飛び込む。
そうして、霊児達は文と小町を交えて水遊びをしていく。
「そろそろ帰るか」
日が暮れ始めたのを見て、霊児はそう口にする。
「もうこんな時間ですか。私もそろそろ帰らないと……」
「それじゃ、あたいは何所かで一杯……」
「一杯……何ですか、小町?」
そんな声が聞こえて来たのと同時に突如、小町の動きが止まる。
そして、小町はゆっくりと振り返りながら、
「え、映姫様……」
声を掛けて来た人物の名を口にする。
因みに映姫と呼ばれた者の風貌は少し深い緑色の髪を短めに揃えた少女だ。
「小町、こんな所で何をやっているんですか?」
「あ、いえ、それより映姫様は何でここに……?」
「私の所に霊が全く送られてこないからです」
「そ、それはそれは……」
小町は顔を引く付かせながら一歩下がると、
「貴女は私に霊が来るか来ないかを花占いでもして待っていろと?」
映姫は一歩前に出る。
「い、いえ、そんな事は……」
小町は冷や汗を流しながら更に後に下がる。
同時に、映姫はズカズカと小町に近付き、
「小町!!!!」
「きゃん!! ごめんなさい!!」
説教を始める。
「……誰?」
霊児が誰なのかと呟くと、
「彼女は四季映姫・ヤマザナドゥ。閻魔様です」
文から映姫の情報が聞ける。
「それはそうと逃げましょう」
「え、何で?」
文の台詞に霊児が首を傾げると、
「彼女の趣味は説教と言われています。一度捕まったら朝まで帰れないかもしれませんよ」
文は映姫が説教好きであると言い、全速力で妖怪の山に帰って行った。
あの慌て振りから本当の事だろう霊児は思い、映姫の注意が小町に向いているうちに霊児は魔理沙とにとりの手を掴んで二重結界式移動術を発動して博麗神社に跳ぶ。
「大体、貴女はですね……」
「ひーん!!」
余談ではあるが、映姫の説教は朝まで続いたという。
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