今の季節は秋。
この時期の博麗神社の畑では主に芋類や人参などの野菜を育てている。
因みに比率で言えば芋がかなり多い。
何故かと言うと霊児曰く、芋なら腹が膨れ易いし調理も楽だと言う事で芋を多く育ているとの事。
さて、秋と言う季節には色々ある。
食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋、芸術の秋などなど。
霊児もそれに倣い、

「……まぁ、俺は修行する位しかないんだけどな」

普段している修行よりも厳しいものをしている。
厳しいと言っても基本は何時もと同じ針を使った修行だ。
では、何が違うのか。
それは針の数と針に乗せる体の場所だ。
普段は一本の針の上に指先を乗せ、そこから霊力を放出すると言った修行をしているのだが、今回は無数の針の上……針山の上に座禅を組むと言った方法を取っている。
勿論、普通に座禅をしたのであれば針が霊児の体に刺さってしまう。
なので、霊児は下半身全体から霊力を放出して刺さらないようにしている。
何時もの指先から霊力を放出しているのの下半身バージョンだ。
聞いただけなら簡単に聞こえるが、これが中々に難しい。
下半身全体から針が壊れたり吹っ飛んだりせず、針が体に刺さらない程度の霊力を放出し続けているのだ。
何時もの様に指先一つで霊力の放出を行うものよりも難易度はかなり高い。
そんな難易度の高い修行を霊児は普通にこなしている。
まぁ、何時もよりもかなり集中してはいるが。
失敗したら下半身全体に針が刺さってしまうので当然と言えば当然だ。
霊児がそんな修行を始めてから暫らくすると、

「……よっと」

修行が一段落着いたからか、霊児は浮かび上がって針山から離れて着地する。
そして地面に固定している針を回収していく。
針を回収していく時、あまりにも数が多くて霊児は面倒臭そうな表情をしていたが。
針の回収をし終えると、

「んー……この後どうすっかな」

霊児は体を伸ばしながらこの後どうするかを考える。
そして考えた結果、これと言ってやらなければならない事はないと言う結論に達した。
それならば縁側で茶でも啜ろうと言う予定を立てていると、

「あ……」

霊児の目の前に落ち葉が通る。
それを見た後、霊児は神社の石畳に視線を移し、

「あー……掃き掃除しなきゃな」

掃き掃除をしなければならないと感じた。
面倒ではあるが、このまま放置していて石畳が落ち葉で埋まってしまってもあれだ。
霊児は溜息を一つ吐き、箒を取りに向かう。





















掃除を始めてから数十分もすれば落ち葉の大半が一箇所に集まる。
集められた落ち葉を見て、

「結構積もってたんだな……」

霊児はそう呟く。
流石にここまで積もっていたとは思わなかった様だ。
集められた落ち葉を見ながら、

「……芋が育っていれば焼き芋が出来るな」

霊児は畑に育てている野菜の事を頭に浮かべる。
畑に種を植えたのは秋の始まり頃。
順調に育っていれば、そろそろ採れる頃合だ。
そう考えた霊児は箒を神社の玄関付近に戻して畑の様子を見に向う。
そして畑に入る直前、

「ん?」

霊児は畑に誰かが居る事に気付く。
よく博麗神社にやって来るのは魔理沙、にとり、文の三人だ。
だが、畑から感じる気配はその三人のもではない。
更に言うのであれば霊児が今まで会った者達の気配でもない。

「……………………」

畑泥棒かと思った霊児は身を隠しながら畑の様子を探る。
霊児の目に映ったのは二人の少女。
二人の髪の色は橙色に近く、髪の長さは肩を少し超す程度。
畑に居るうちの一人は変わった帽子を被っている。
二人の風貌を確認にした霊児は左手で左腰に装備してある短剣を抜く。
左腰の短剣を抜き終わると霊児は右手を背中に持っていき、背中に四本隠し持っている短剣のうちの一本の柄頭にあるリングに中指を通す。
そして中指を動かして短剣を飛ばし、それを右手で掴み取る。
両手に短剣を装備した後、霊児はもう一度畑に向けるが、

「……気付いていないな」

二人の少女は霊児の存在に気付いた様子はない。
それをチャンスと判断した霊児は超スピードで二人の少女の間に移動し、

「動くな」

二人の少女の喉下に短剣を翳す。
突然の事態に二人の少女はビクリとしたが、何とか顔を動かして霊児の方を見る。
その瞬間、

「人の畑に何の用だ? 畑泥棒か?」

霊児は二人の少女に畑泥棒かと問う。
すると、

「ち、違いますよ!!」
「畑泥棒なんてしないわよ!!」

二人の少女は畑泥棒ではないと口にする。

「本当か?」

霊児が疑いの眼差しを二人に向けると、

「本当だよ!!」
「大体、神である私達が畑泥棒なんてマネする訳が無いじゃないですか!!」

二人の少女は神である自分達がそんなマネをする訳が無いと言う。

「神……」

神であると言われたからか、霊児は二人に意識を集中させていく。
すると、

「……確かに神力は感じるな」

霊児は二人から神力を感じる事を理解する。
神力が感じられる事から、この二人が神であると言う事は間違い無い。
霊児が自分達の事を神であると判断したのを察したからか、

「疑いは晴れた? だったら……」

少女の一人が自分達を早く解放する様な事を言おうとする。
だが、

「確かにお前達が神である事は分かったが……俺はお前達二人が何の神かは知らない」

その前に霊児はこの二人……この二柱が何の神か分からないと言って短剣を握る手に力を籠めていく。
そして、

「お前等二人が貧乏神や疫病神の類ならこの場で……」

霊児が何やら物騒な事を言おうとした瞬間、

「あ、霊児。こっちに居たんだ」
「魔理沙?」

魔理沙の声が聞こえて来た。
霊児は魔理沙の方に顔を向け、

「どうしたんだ?」

どうかしたのかと尋ねと、

「どうしたって遊びに来たんだけど……」

魔理沙は遊びに来たと言う事を伝え、霊児に近付いて行く。
そして霊児の近くに居る二柱の少女を見て、

「あれ、その人達って秋の神様だよね?」

そんな事を言う。

「……へ?」

魔理沙の一言を受けた霊児は鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔になった。
霊児がそんな顔をしている間に魔理沙は二柱の少女の顔を覗き込み、

「うん、やっぱり秋の神様だ」

秋の神様であると言う確信を得た。

「秋の……神様?」

霊児が尋ねる様な声色でそう言ったからか、

「うん。里の収穫祭で毎回呼ばれていて、この二人がいるから人里は豊作が約束されてるってお父さんとお母さんが言ってたよ」

魔理沙は二柱がどう言う神様であるかを説明する。

「………………………………」

その説明を聞いた霊児はゆっくりと二柱の少女に視線を戻すと、二柱の少女は目はホラ見た事かと言わんばかりの目をしていた。

「………………………………」

霊児は無言になりながら二柱の首元から短剣を外し、二本の短剣をそれぞれ元の場所に収め、

「博麗神社へようこそー」

掌を返したかの様に二柱を歓迎した。





















「まったく、私達の事を畑泥棒と勘違いするなんて失礼しちゃうわね!!」

博麗神社の中で秋の神様のうちの一柱が怒りを露にしながら饅頭を食べていく。

「だから悪かったて」

霊児が何度目かの謝罪の言葉を口にすると、

「まぁまぁ、無断で畑に入った私達も私達だったんだし」

もう一柱の神様が怒っている神様を宥める。
窘められたからか、怒ってた神様の機嫌がある程度直った。
それを確認すると、

「あ、自己紹介がまだでしたね。私は秋静葉。紅葉の神です」

窘めた方の神様が自己紹介行う。
それに続ける様にして、

「私は妹の秋穣子。豊穣の神よ」

怒っていた神様も自己紹介をする。
二人の自己紹介を受けたからか、

「私は霧雨魔理沙です」

魔理沙は自分の名を名乗った。

「そう言えば私達は貴女に助けられたのよね」
「ええ、そうね。ありがとう、魔理沙ちゃん」

殆ど魔理沙に助けられた様な形だったので穣子と静葉の二柱は魔理沙に礼を言う。

「えへへへへ……」

神様にお礼を言われたから魔理沙は照れ臭そうな表情になる。
そんな魔理沙の表情を見た後、静葉と穣子は霊児の方に顔を向け、

「貴方は?」

霊児が誰なのかを問う。

「俺は今代の博麗、博麗霊児」

霊児が簡単な自己紹介をすると、

「へぇ、貴方が……」

穣子は霊児をマジマジと霊児を観察し始める。

「貴方の羽織の背中に"七十七代目博麗"って書いてあったし、ここ……博麗神社に住んでいるのだかららそうだとは思ってましたけど……」
「でも、噂と天狗も新聞に書かれていた事は本当だったのね。今代の博麗は男って言う話し」

静葉と穣子の二柱は霊児が今代の博麗である事を何となくではあるが察していた様だ。
それ故に今代の博麗が男であると知っても然程驚いたりはしなかった様である。

「でもまぁ、それなら納得ね。私達の背後を容易く取ったのは」

霊児が今代の博麗であると確信したからか、穣子は霊児が自分達の背後を容易く取った事に納得するが、

「穣子、私達の戦闘力は大して高くは無いんだからそんな風に私達の背後が取れて凄いって言う風に言わなくてもい良いんじゃないかしら?」

静葉にそう突っ込まれ、

「うぐ……」

言葉を詰まらせてしまう。
そのタイミングで、

「処で、何で俺の所の畑に居たんだ?」

霊児は疑問に思った事を二人に問う。

「ああ、それは秋の気配を感じたからよ」
「秋の気配?」

霊児が首を傾げると、

「解り易く言えば秋を連想させる物ですね」

静葉が簡単に説明する。
静葉の説明を聞いた霊児は何かあったかなと考え、

「……若しかして、芋の事か?」

芋が霊児の頭を過ぎった。
霊児が秋に焼き芋と言うのは割と有名だな考えていると、

「そう、それよそれ」

穣子はそれだと口にする。
どうやら芋で当たっていた様だ。
ただ単に芋を育てているだけで秋の神様が寄って来ると考えられないので、博麗神社が建っているこの場所の霊脈と合わさって
秋の気配と言うのが強くなっているのかと霊児が思っていると、

「あ、そうそう。私の予想だともう食べ頃ね」

穣子が自信満々に芋が食べ頃だと言う。

「お、そうなのか」

豊穣の神である穣子が言うのであれば食べ頃なのだと思い、

「じゃ、芋採って来るから焼き芋でも食うか?」

そう言って霊児は三人の方を見る。
表情を見るに、三人とも異論はない様だ。

「んじゃ、芋とって来るからその間に火点けておいてくれ。外に落ち葉溜めてる場所があるから」
「はーい」

そう言って魔理沙が外に移動すると、静葉、穣子の秋姉妹がそれに続く。
その後、霊児は倉庫に移動して籠を持ち出して畑へと向う。
畑に着くのと同時に

「よっと」

霊児は畑から芋を引き抜く。
霊児の手には見事な芋が見える。
手に持っている芋を見ながら、

「若しかしてこれもあの姉妹のお陰かな?」

霊児はそんな事を呟く。
魔理沙曰く、あの二柱のお陰で人里の豊作は約束されているとの事なのでこの見事な芋はあの二柱が
来てくれたかお陰かもしれない。
だとしたら、あの姉妹に感謝しなければならないだろう。
霊児はそんな事を思いながら、次々と芋を抜き採っていく。
そして籠の中が一杯になったところで、

「こんなもんかな」

霊児はそう漏らし、籠の中に目を向ける。
籠一杯に四人で食べるのならばこれぐらいで十分だろう。
もし足りなくなったらまた採りに行けばいいだけだ。
霊児は籠を持って魔理沙、静葉、穣子が居る場所に辿り着くと、落ち葉が良い感じに燃えていた。
霊児が三人の近くに来たタイミングで秋姉妹が何処からか取り出した串に芋を刺し、燃えている落ち葉の中に入れていく。
そしてある程度時間が経つと、霊児達は串を取って焼き芋を食べ始める。
その芋の味は、

「お、美味い」
「美味しいー」
「美味しいですね」
「言い育て方してるわね」

霊児を含めた四人に好評であった。
そして雑談を交わしながら四人は焼き芋を食べていくと、

「ん?」

霊児は上空に何か気配を感じて顔を上げる。
すると何かが降りて来た。
降りて来たのは、

「椛」

犬走椛であった。

「こんにちは」

椛は頭を下げて挨拶をし、頭を上げると、

「あら、白狼天狗じゃない」
「あ、穣子様に静葉様」

椛は穣子と静葉の存在に気付く。
雑談している時に秋姉妹も妖怪の山に住んでいると聞いたので、同じ妖怪の山に住んでいる椛と交流があるんだろうなと霊児は思いながら、

「どうしたんだ?」

椛に博麗神社にやって来た理由を尋ねる。

「いえ、今日は休暇でして。暇だったのでその辺を飛んでいたらいい匂いが神社からしまして……」

どうやら、焼き芋の匂いに釣られた様だ。

「なら、お前も食ってくか?」
「いいんですか?」

突然のお誘いに椛が思わずそう返すと、

「ああ、芋ならまだ沢山あるしな」

霊児は籠の中に目を向ける。
それに釣られる様にして椛も籠の中に視線を移す。
椛の目には沢山の芋が映った。
これなら自分が混ざっても平気かなと思い、

「じゃあ、ご一緒させて貰いますね」

ご馳走になる事を決める。
そして、一同は椛も交えて焼き芋を食べていく。
余談であるが翌日、畑の様子を見て昨日は食べ過ぎたかと霊児は思った。











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