「んー……」

今日も今日とて朝から鍋料理を食べている霊児。
基本的に春夏秋冬朝昼晩と毎日が鍋料理であり、腹さえ膨れればそれで良いと言う考えの霊児ではあるが、

「……流石に飽きが来たな」

流石に飽きが来始めた様である。
飽きが来たのであれば別の料理に手を出すのが定石だ。
なので、

「鍋料理以外で俺に他に作れそうな物って……」

霊児は鍋料理以外に作れそうな物を考える。
少しの間考えた結果、

「……無いな」

無いと言う結論に達した。
なら、取れる手段は一つだけ。
その手段と言うのは、

「鍋のバリエーションでも増やすか……」

鍋のバリエーションを増やすと言うもの。
だが、ここで問題が出て来る。
問題と言うのは、鍋の中に何を入れるかと言う事だ。
因みに卵を入れると言う事は既にやっている。
あれは美味しかったなと霊児はその時の事を思い返していると、

「…………はっ!!」

考えがずれ始めて来ている事に気付き、鍋のバリエーションに付いての思考に戻す。
そして卵以外に何か良い物はないかと考えていると、

「……あ」

霊児は昆布の存在を思い付く。
思い立ったら何とやら。
霊児は早速昆布を採りに向かう為に立ち上がるが、

「……そう言えば、幻想郷に海はなかったな」

直ぐに幻想郷に海が存在しないと言う事を思い出し、意気消沈したかの様に腰を落ち着かせていく。
幻想入りした昆布を頂くと言う方法もあるが、そんな都合良く昆布が幻想入りしている訳が無い。
昆布は諦めるしかないであろう。
ならば他に何か無いかと考え、

「芋は今やってるしな……」

そう呟きながら霊児は鍋の中に視線を移す。
鍋料理は意外と何でも合うのだ。

「でも、あれは失敗だったな……」

霊児の言うあれと言うのは葡萄の事である。
少し前に秋姉妹が葡萄を中心とした果物を霊児にプレゼントしてくれたのだ。
神様が人間にプレゼントを渡す。
その時、霊児は普通逆じゃないかと思ったが気にしない事にした。
で、それ等の果物を貰った時に霊児は物は試しと言う事で葡萄を鍋に混入して食べてみたのだ。
因みに味は食べれない程不味いと言う事はなかったが、進んで食べたいと言う味ではなかった。
取り敢えず葡萄の事は頭の隅に追いやり、霊児は秋と言う事で秋の味覚に付いて考えてみる。

「秋の味覚と言ったら……」

最初に栗を思い付いたが、栗は既に栗ご飯と言う形で使っているので却下。

「他は……魚?」

次に魚が霊児の頭に思い浮かぶ。

「そう言えば……秋の旬と言えば魚と言うのがあったよな……」

魚を出汁に使ったり煮込んで食べたりと色々と出来そうだ。

「……よし、魚を釣って来よう」

霊児は新しい鍋の具は魚にする事を決め、残りの鍋料理を急いで平らげる。
そして食べ終わると鍋を台所に運んで水洗いを済ませ、霊児は蔵に移動して釣竿を探す。
蔵を探し始めて少しすると、

「えーと……確かこの辺に……あったあった」

霊児は釣竿を見付けて取り出す。
その後、

「後は魚を入れる壺……これでいいか」

釣った魚を入れる為の壺も取り出し、釣竿と壺を持って外に出る。
そして空中に踊り出て、

「よし、行くか」

霧の湖を目指す。
以前、妹紅が霧の湖で魚を釣っていた事があったのであそこなら魚が釣れると思ったからだ。





















「到着っと」

霧の湖に着いた霊児は地面に足を着け、辺りを歩き回って良い釣りのポイントを探していく。
探し始めてから少しすると、

「お、ここは良いんじゃないか?」

良い釣りポイントを見付ける。
自分の勘が何も訴え無い事から霊児はここで問題なしと判断し、地面に腰を落ち着かせ、釣り針に餌を付けて湖に釣り糸を垂らす。
釣り糸を垂らしてから少しの時間が流れるが、

「……………………………………釣れないな」

魚は一向に釣れなかった。
まぁ、初めのうちはこんなものかと霊児は思ってそのまま釣りを続行する。
そしてそのまま数時間程の時が流れたが、

「……………………………………釣れねぇ」

一匹も釣れなかった。
どう言う事だと霊児が思っていると、

「あら、霊児じゃない」

背後から声を掛けられる。

「ん?」

その声に反応した霊児は背後に振り返ると、

「妹紅」

妹紅の姿が目に映った。
霊児が妹紅の存在を認識すると、

「やっ」

妹紅は片手を上げて霊児に近付いて行き、

「霊児も釣り?」

霊児も釣りなのかと問う。

「ああ。そう言う妹紅もか?」

霊児がそれを肯定し、妹紅も釣りかと尋ねると、

「ええ。私も釣り」

妹紅は自身の釣り道具を霊児に見せる。
その後、

「どう、釣れてる?」

妹紅は霊児に釣れているかを尋ねると、

「全然だ」

霊児は首を横に振って釣れていない事を言う。
その事を聞くと、

「ふーん」

妹紅は霊児の近くに腰を落ち着かせて釣りを始め、

「……よし、ヒット」

魚を釣上げる。
容易く魚を釣上げた妹紅を霊児は羨ましそうに見ながら、

「……なぁ、何かコツとか無いのか?」

コツが無いのかを尋ねる。

「コツねぇ……」

妹紅は首を傾げて考え始め、

「うーん……私は結構昔から釣りをしてたら何時の間にか釣れる様になってたからコツと言っても……あ、精神を落ち着かせてみるとかはどう?」

精神を落ち着かせて釣りをしてみたらどうだと言う。

「精神をねぇ……」

妹紅の助言を受け、霊児は目を瞑って精神を落ち着かせて集中していく。
そんな状態を維持して暫らく経ったが、

「……………………釣れねぇ」

魚は釣れなかった。
その結果を見た妹紅は、

「あ、あはははは……」

思わず苦笑いを浮かべしまう。
一向に魚が釣れない現象に痺れを切らしたのか、霊児は釣り糸を湖から出して立ち上がる。

「止めるの?」
「いや、釣り方を変える」
「釣り方を?」

妹紅が首を傾げると、霊児は集中しながら水面を見詰め、

「ッ!!」

勢い良く釣り竿を振るう。
そしてその瞬間に釣竿を引く。
するとどうだろう。

「おお!!」

釣り針には魚が見事に掛かっているではないか。
急に魚が釣れる様になった霊児に妹紅が驚きの目を向けていると、霊児は何事もなかったかの様に釣った魚を壺の中へ入れる。
魚を壺の中に入れ終え、霊児が再び釣竿を振るおうとしたところで、

「どうやったの、今の?」

妹紅はどうやって魚を簡単に釣上げられる様になったのかと問う。
すると、

「ああ、釣り針を直接魚の口に引っ掛けた」

霊児は妹紅に簡単に釣上げられた理由を説明をする。

「直接?」

妹紅が首を傾げると、

「つまり、泳いでる魚の口に釣り針を直接引っ掛けたんだ。餌に食い付くのを待つのではなくな」

霊児は詳しく説明を行う。

「……凄い事するわね、霊児」

霊児の説明を聞いた妹紅は驚いた表情をしながらそんな感想を漏らす。
霊児は大した事が無い様にそれを行っているが、霊児と同じ様な事が出来る者がどれだけ居るであろうか。
下手をすれば数える程も居ないかもしれない。
霊児の凄さを知っていたが、改めてその凄さを再確認した様な気分に妹紅がなっていると、

「最初っから、こうしてれば良かったぜ」

霊児はそんな事を言いながら次々と魚を釣上げていく。
それを見ながら、妹紅も釣りを再開し始める。





















「いやー、大量大量」

釣りを終えた霊児は体を伸ばしながらそんな事を口にする。
霊児の言葉通り、壺の中は魚で大量の様だ。

「妹紅はどうだった?」
「私も大量よ」

そう言いながら妹紅は自分の壺の中を霊児に見せる。
どうやら、妹紅の方も大量の様だ。
その後、

「うーん……少し釣り過ぎたかしら?」

妹紅は釣り過ぎたかもしれないと呟く。
そんな妹紅を呟きを聞いた霊児は、

「なら、余った魚は干物にするなりしたらどうだ?」

干物にしたらどうだと言う提案をする。

「あ、成程」

霊児の提案を聞いて妹紅はその方法を帰ったら実行に移す事にした様だ。
妹紅が帰った後の予定を決めた後、

「それじゃ、そろそろ……」

霊児がそろそろ帰ろうと壺に手を伸ばした所で言葉に詰る。
それを不審に思った妹紅は

「どうしたの?」

どうしたのかと尋ねると、霊児が無言で壺を置いてある場所に指をさす。
それを追う様にして妹紅は視線を移すと、

「……氷ってる」

見事なまでに壺は氷り付いている。
妹紅がどうして壺が氷り付いているのだろうと考えを廻らせたところで、

「……妹紅、お前の壺も氷ってるぞ」

霊児は妹紅の壺も氷り付いている事を伝えると、

「え? ああ!! 私の壺が!?」

妹紅は自分の壺に視線を移して驚きの表情を浮かべてしまう。
そんな妹紅の表情を見ながら、

「……今日って、物が氷る程冷えてたか?」

霊児はそんな事を呟くと、

「それはないと思うわ。それならもう木に生えている葉は全て無くなっている筈よ」

妹紅は最もな答えを返す。
霊児は妹紅の言う事は最もだと考え、ならば壺は人為的な方法で氷らされたと考える。
最後の魚を入れた時はまだ氷っていなかったので、氷らされた時間は霊児と妹紅が話していた時であろう。
それならば、霊児と妹紅の壺を氷り付かせた犯人はそう遠くには行ってはいない筈。
霊児はそんな結論に達し、キョロキョロと周囲を探す。
妹紅も霊児と同じ様な結論に達したらしく、霊児と同じ様に周囲を探し始める。
探し始めて少しすると、

「ん?」

霊児は何かを見付けた。

「見付けたの?」

妹紅がそう問い掛けると、

「あそこ」

霊児はある場所に向けて首を動かす。
妹紅は霊児が首を動かした先に視線を移すと、茂みの中から顔を出している女の子の姿が目に映った。
肩口位までの長さの青い髪に氷の羽を生やした女の子だ。
女の子の様子から、あれで隠れている積りなのだと霊児と妹紅は判断する。
隠れるのならせめて顔と羽は隠すべきではないだろうかと霊児と妹紅は思いつつ、女の子のしてやったりと言う表情からあの女の子が壺を氷付けにした犯人であると確信した。
その瞬間、霊児は無言で指先をその女の子に向け、指先から霊力で出来た弾を発射する。
発射された弾は女の子の目の前に着弾し、爆発を起こす。
爆発に巻き込まれた女の子は吹き飛んで後ろにあった木にぶつかって跳ね返り、霊児と妹紅の近くに墜落する。

「いたたたたた……」

女の子がぶつけた場所を擦りながら立ち上がると、

「……よう」
「ご機嫌いかが?」

霊児と妹紅が若干怒りを混ぜた視線を女の子に向ける。
そんな視線を向けられた女の子は一瞬ビクッとなるも、

「な、何? あたいに何の用!?」

直ぐに強気な表情になって何の用かと言う。

「……これやったの、お前か?」

霊児は静かな声色で氷った壺を指さす。

「あ、あたいは知らないよ」

女の子は冷や汗を流しなら首を横に振り、壺を氷らせた事を否定する。

「……そうか、それは悪かったな。処でお前は誰だ?」

霊児が名を尋ねると、

「あたいは最強の妖精、氷の妖精のチルノよ!!」

女の子は元気良く名の名乗った。

「ほう、チルノって言うのか。最強って言う位だから強いんだろうな?」
「とーぜんよ!!」

強いのかと言われて、チルノは胸を張りながら肯定する。

「ほう、なら壺を氷らせる位は楽勝で出来るよな?」
「当然よ!! だってそれはあたいが氷らせたんだもん!!」
「ほう……」
「自白してくれて、ありがとう」
「…………あ」

チルノは慌てて両手で自分の口を塞ぐがもう遅い。
何故ならば霊児の右手は青白い光を放っており、妹紅の右手は炎を纏っていたからだ。
チルノがその事を認識するのと同時に霊児と妹紅はニコッと笑い、その右手を振り下ろした。





















「さて、これどうすっかな」

大きなタンコブを作り、プスプスと煙を上げているチルノを尻目に霊児は氷ってしまった壺に付いて考えていると、

「それなら私が」

妹紅は両手に炎の生み出して、氷った壺に放つ。
すると氷っていた壺がどんどん融けていき、元の壺に戻る。

「おお、凄いな」
「ま、炎の扱いに関してはお手の物よ」

そう言って妹紅は少し照れ臭そうな表情をしながら自分の壺を担ぐ。
そして、

「それじゃ、またね」
「ああ、またな」

軽い挨拶を交わした後、妹紅は去って行った。
妹紅を見送った後、霊児も自分の壺を持って神社に帰って行く。





















その日の鍋には当然の様に魚が入った。
霊児曰く、美味しかったとの事。





















そして季節は秋から冬へと変わり、段々と寒くなっていく日々のある日。
大雪が降り、そしてそれが大雨に変わった日。
霊児は雪から雨に変わるなんて珍しい日だな思いつつ、人里で売る為のお札とお守りを作っていると、

「……ん?」

誰かが来訪して来たのを感じる。
こんな日に来るなんて物好きが居るなと思いながら霊児は縁側の方に移動すると、

「……魔理沙」

魔理沙の姿が目に映る。
だが、妙だ。
こんな雨の日だと言うのに魔理沙は傘を差さずに雨に打たれるがままになっており、大きな荷物を持っている。
おまけに突っ立っているだけで魔理沙は何の反応も示さない。
それを不審に思った霊児は、

「魔理沙?」

外に出て魔理沙に近付く。
近付いて見るが、魔理沙は俯いていて表情を見る事が出来ない。

「魔理沙?」

もう一度霊児が魔理沙の名を呼ぶと、魔理沙は顔を上げる。
その顔は雨で濡れており、泣いているのか泣いていないのかが分からない。
少しの間、その状態で霊児と魔理沙は見詰め合う。
そして霊児が口を開こうとした瞬間に、

「家出した。暫らく泊めて」

魔理沙はそう口にした。















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