家出した。
確かに魔理沙の口から家出したと言う言葉が発せられた。
霊児は魔理沙の発言に驚いたものの、このまま外に突っ立たせていたのでは魔理沙が風邪を引くと思い、

「取り敢えず、中に入れよ。風邪を引くぞ」

神社の中に入る様に言う。

「うん……」

魔理沙がコクンと頷いた後、霊児は魔理沙を連れて神社の中に入る。
神社の中に入ると霊児と魔理沙は廊下を歩いて居間へと向かう。
そして居間に着くと、霊児は居間にある箪笥を漁り始める。
その様子を見ながら魔理沙が持って来た荷物を畳の上に置くと、

「ほら」

霊児は箪笥の中からタオルを取り出して魔理沙に投げ渡す。

「わ……っと」

投げ渡されたタオルを魔理沙が受け取ると、

「取り敢えず、体を拭けよ」
「……うん、ありがとう」

魔理沙は礼を言い、受け取ったタオルで濡れた髪や顔を拭っていく。
その様子を見ながら、

「今、風呂沸かして来るから待ってろ」

霊児は魔理沙に風呂を沸かす事を伝え、湯殿へと向う。
湯殿に着いた霊児は浴槽に入れる為の水を溜めている樽の中身を確認する。

「よし、ちゃんと入っているな」

樽の中に水が入っている事を確認し終えると、水が入っている樽を持ち上げて浴槽の中に水を入れていく。
余談ではあるが博麗神社の湯殿は檜風呂であり、霊児は檜風呂の独特の雰囲気を気にいっている。
浴槽が水で一杯になると霊児は外へ向う。
向った先は壁を一枚取り払えば直ぐに浴槽と言う場所だ。
その場所まで来た霊児は体を屈め、

「これで火を点けるってのは結構面倒臭いんだよな……」

火打石を使って薪に火を入れ、浴槽の水を沸かしていく。
パチパチと言う音を立てながら燃えている薪を見ながら、

「今度、にとりにでも頼んで風呂場を改造して貰おうかな。簡単にお湯が出る様に」

そんな事を呟く。
まぁ、にとりなら喜んで作ってくれるだろうと霊児は思いながら自分の部屋に向かう。
自分の部屋に向かった理由が魔理沙の代えの服を探す為だ。
幾ら魔理沙を風呂に入れても、風呂から上がって雨で濡れた服を着せては何の意味も無い。
故に霊児は自分の部屋の箪笥の中を漁っているのだが、

「てか、俺って女物の服を持ってないよな……」

魔理沙に合いそうな服は見当たらなかった。
男である霊児が女物の服を持っていないのは当然と言えば当然だ。
自分の代えの服で我慢して貰うかと霊児が考えていると、

「あ、でも確か……蔵の方にあったな」

蔵の方に魔理沙に合う服があると言う事を思い出す。
霊児が思い出した服と言うのは霊児よりも前の代の博麗……過去の博麗の巫女達が着ていた巫女服だ。
前に蔵を掃除した時に見た筈であるが、

「んー……一寸記憶があやふやだな」

どの辺りに仕舞って置いたかの記憶が微妙であった。
こんな事ならもう少し頻繁に蔵の掃除をして置けば良かったかなと言う事を霊児は思い、

「ま、行ってみるか」

蔵へと向かう事にする。
野晒しで置いていた訳ではない筈なので巫女服は綺麗な状態であろう。
もしダメだったらその時は自分の服を渡せばいいかと考えている間に霊児は蔵の前に辿り着く。
そして蔵の扉を開けると、

「ゲホ、ゲホゲホ!!」

埃が舞い、咳き込んでしまう。

「あー……最近入ってなかったから埃が溜まってるな。大晦日にでも蔵の掃除をした方がいいな、これは」

霊児はそんな愚痴を漏らしながら蔵の中に入って行き、

「確か奥の方だと思うんだけど……あったあった」

奥の方でそれっぽい木箱を発見する。
木箱は結構な年代物の様ではあるが、劣化している様子は見られない。
この事から、

「加護か何かでも掛けてたのか?」

霊児はそんな推察を立てながら木箱を開ける。
木箱の中には綺麗に畳まれた巫女服が何着もあった。
それを見た霊児は当たりだと思い、

「魔理沙に近いサイズのがあれば良いんだけど……」

魔理沙に近いサイズのがあればと願いながら物色を行う。
物色を始めてから少しすると、

「んー……これより小さいサイズのがないな……」

霊児は取り出した巫女服を手に持ちながら悩み始める。
巫女服の大きさから考えて、これを魔理沙に着せてもブカブカだろう。
何か良い方法がないかと考えていると、

「……いや、帯やら紐で縛れば大丈夫か?」

余剰部分を帯や紐で縛ってサイズを無理矢理調節させると言う方法を思い付く。
この方法ならば多少サイズが大きくても問題はないであろう。

「ダメだったら俺の服を着せればいいか」

そう呟き、霊児は木箱の中に一緒に入っていた紐と帯を持って蔵から出る。
そして居間に向かい、

「魔理沙」

襖を開けながら魔理沙の名を呼ぶ。

「……あ、霊児」

名を呼ばれた魔理沙が霊児の方に顔を向けると、

「そろそろ風呂が沸いたかと思うから風呂に入れ。風邪引くぞ」

霊児は魔理沙に風呂に入る様に言う。

「うん、ありがとう」

魔理沙の礼を聞くと、霊児は魔理沙を風呂場まで案内する
そして脱衣所の着くと、

「替えの服はここに置いておくぞ。大きかったら帯か紐で縛っておいてくれ」

霊児は持って来た巫女服を籠の中に入れる。

「うん」
「それと、脱いだ服はその辺に掛けて置いてくれ」

そう言い、霊児が脱衣所を後にし様とすると、

「うん。霊児……」

魔理沙が霊児を呼び止める。

「ん?」

呼び止められた霊児は足を止めて魔理沙の方へ振り返ると、

「ありがとう」

魔理沙は礼の言葉を言う。
その礼に、

「気にすんな」

霊児はそう返して脱衣所を後にする。
脱衣所を後にした霊児は居間へと向かう。
居間に着くと霊児はそのまま台所に移動して、野菜を切り始めた。
何故野菜を切っているのかと言うと、鍋料理を作る為だ。
作り始めた理由としては霊児自身も腹を空かしているが、魔理沙も腹を空かしているだろうと思ったからだ。
野菜を切っていきながら、

「しかし、何だって魔理沙は家出したんだか……」

どうして魔理沙は家出したのと呟く。
魔理沙が家出した理由が気にならないと言えば嘘になる。
魔理沙の実家である霧雨道具店はかなり大きな店だ。
霧雨道具店と言う大きな店を経営しているのだから結構な金持ちであるのだろう。
そんな金持ちな家を家出する理由ともなれば幾らかの興味は湧く。
その事は、

「ま、それは飯を食べた後にでも聞けばいいか」

飯を食べた後に聞けばいいかと霊児は思い、次の野菜を切り始める。





















鍋料理が出来、鍋を居間に運んから暫らくすると、

「上がったよ」

魔理沙が風呂から上がって来た様だ。

「そうか」

そう言って霊児は魔理沙の方に顔を向けると、

「やっぱりこの巫女服、大きかったから縛ったよ」

霊児の目には巫女服を来た魔理沙の姿が映った。

「あ、ああ、そうか」
「? どうかした?」

霊児の反応に少し違和感を感じた魔理沙はどうかしたのかと問い掛けると、

「いや、何でもない」

霊児は何でも無いと返す。
口ではそうは言ったが、霊児にはある疑問があった。
何に疑問を覚えているのかと言うと、魔理沙が着ている巫女服にだ。
魔理沙が巫女服を着ているのは何の問題は無い。
霊児が渡した物なのだから。
では、霊児は巫女服の何に疑問を覚えたのだろうか。
それは魔理沙が着ている巫女服にだ。
魔理沙が着ている巫女服は腋が大きく露出しているタイプなのである。
巫女服って腋が露出しているタイプだったかと霊児は頭を捻るが、魔理沙が着ている巫女服を見ても変な違和感を感じない。
若しかしたら、博麗神社の巫女服は腋が露出しているのが伝統なのかもしれない。
腋が露出している巫女服は神職に携わる者としていいのかと霊児は思ったが、

「……まぁ、俺の格好も神職に携わる人間の格好には見えないしどうでもいいか」

翌々考えれば自分も神職に携わる者の格好ではないのでどうでも良いかと判断する事にした。
何せ霊児の普段の格好は背中に陰陽のマークが付いた白いシャツに黒いズボン、そして羽織と腋が露出した巫女服よりも神職携わる者の服装とは思えないからだ。

「? 何か言った、霊児?」

霊児の呟きが聞こえたからか、魔理沙は霊児に何か言ったのかと尋ねる。
その問いに、

「いや、何でもない。それよか、飯出来てるから食べ様ぜ」

霊児は何でも無いと返し、ご飯を食べ様と言う。

「うん」

お腹が空いていたからか、魔理沙は否定する事なく卓袱台の前に腰を落ち着かせる。
そして、

「「いたただきます」」

二人は食事を取り始めた。





















「ごちそうさま、美味しかったよ」

鍋料理を食べ終わった魔理沙は美味しかったと言う感想を漏らす。

「お粗末様」

霊児はそう返した後、頃合かと判断し、

「さて、聞きたい事があるんだが」

霊児は魔理沙の方に顔を向ける。
そして、

「何で家出なんてしたんだ?」

何故、家出をしたのかを問う。
霊児のその発言を受けた魔理沙は驚き、俯くも、

「……………………あのね」

家出をした事情を話し始める。
事の発端は今日の朝と昼の間の時間帯に起きた些細な会話からとの事。
その時、魔理沙は自分の父親に魔法関連の道具を置かないのかと尋ねた。
父親が置く気は無いと返すと、魔理沙が自分は魔法が使えるし識別などは自分がやるから置いてもいいだろうと言う。
が、それでもダメだと魔理沙の父親は返す。
それを起爆剤にしたかの様に口論となってしまう。
そこからは売り言葉に買い言葉。
次第に口論から口喧嘩へと発展していく。
ここまでなら、ただの親子喧嘩で済んだのだろう。
だが、魔理沙の父親が言った発言が魔理沙を家出させる原因となってしまったのだ。
何と言ったかと言うと、『お前には才能なんて無いんだから魔法なんてやめてしまえ!! 何の役にもたたん!!』と。
この発言が原因で喧嘩は更にヒートアップ。
最終的に父親の『お前何か勘当だ!!出て行け!!』と言う発言を受けた後、魔理沙は荷物を纏め、
『上等だ!! こんな家なんか、二度と戻って来るか!!』と言い放って家を飛び出した。
そして、家を飛び出した魔理沙は博麗神社にやって来て現在に至ると言う訳だ。

「あー……」

家出した経緯を魔理沙から聞いた霊児は思う。
これは説得して家に帰る様に仕向けるのは無理だなと。
何故ならば、家出した原因を話してその時の事を思い出したからか魔理沙はイライラしてますと言う様な表情をしているし、
魔理沙は一度言い出したらそれをやり遂げ様と進んで行く性格である事を霊児は知っているからだ。

「はぁ……」

霊児は溜息を一つ吐いて立ち上がり、

「取り敢えず、空き部屋に案内するぞ」

空き部屋に案内すると言う。

「え?」

それを聞いた魔理沙が驚いた表情を浮かべると、

「暫らく俺の神社に泊まるんだろ?」

霊児はそう言って歩き出す。
そんな霊児を見た魔理沙は慌てて立ち上がり、畳の上に置いておいた荷物を持って霊児の後を追う。
二人が歩き始めてから少しすると、

「ここだ」

霊児はそう言って襖の前に立ち止まり、襖を開ける。

「わあ……」

中々に広い部屋が目に映り、魔理沙が感嘆の声を漏らすと、

「取り敢えず、好きに使ってくれていいぞ」

霊児はこの部屋は好きに使っても構わない言う。

「あ、うん」

それを聞いた魔理沙は取り敢えず部屋の中に入って持って来た荷物を畳の上に置き、

「霊児」
「ん?」
「ありがとう」

礼の言葉を口にする。
その言葉に、

「気にすんな」

霊児は気にするなと返した。





















深夜。
空を月が支配する時間帯、霊児は魔理沙の部屋となった部屋の前に着ていた。
そして部屋へと続く襖をそっと開けて中の様子を伺うと、ぐっすり寝ている魔理沙の姿が霊児の目に映った。
規則正しく寝息を立てている事から完全に寝ていると霊児は判断する。
それを確認した霊児は襖を閉め、廊下を通って縁側に向かう。
縁側に着くと、霊児はそこから空中へと躍り出た。
空中に出ると上昇して高度を上げ、ある程度の高さを確保すると、

「あっち……だったな」

霊児はある方向に体を向けて飛んで行く。
飛び始めてから暫らくすると、ある建物が見えて来る。
見えて来た建物と言うのは香霖堂だ。
何故、霊児が香霖堂にやって来たかと言うと霖之助に魔理沙が家出した事を話す為だ。
魔理沙の実家と付き合いがある霖之助に魔理沙の無事を伝え貰えれば人里で変な騒ぎにはならないであろうと言う判断からである。

「よ……っと」

霊児は香霖堂の前に着地し、扉を開けて中に入る。

「香霖、起きてるかー?」

そう声を掛けながら、霊児が店の奥に進んで行くと、

「おや、こんな遅くに誰かと思ったら霊児じゃないか」

霖之助が店の奥の方から現れた。

「いらっしゃい。それで、何かご入用かな?」
「ご入用って言うか、伝えなきゃならない事がある」
「伝える事?」

霖之助が首を傾げると、

「ああ。実はな、魔理沙が家出した」

霊児は魔理沙が家出した事を伝える。

「…………は?」

霖之助の目が点になったので、

「いや、だから魔理沙が家出したんだって」

霊児はもう一度魔理沙が家出をした事を伝える。

「ちょ、一寸待ってくれ!? どうしてそんな事に……」

霖之助が事情の説明を求めて来たので、

「今から説明する」

霊児は魔理沙が家出をした理由を説明する事にした。

「……って訳だ」
「成程……」

魔理沙が家出をした理由を知った霖之助は溜息を吐く。

「魔理沙にしろ、親父さんにしろ頑固だからなぁ……」
「あ、魔理沙は二度と戻る積りはない様だぞ」
「だろうね」

そう言って、霖之助はもう一度溜息を吐く。

「取り敢えず、魔理沙の親御さんに魔理沙は無事だって事を伝えてくれ。そうすれば人里で変な騒ぎにはならないだろ」
「分かった。明日、僕の方からそれとなく伝えて置くよ」

霖之助が伝えてくれると言ったので、

「じゃ、伝えるべき事は伝えたから俺は帰るぜ」

霊児はこのまま帰る旨を伝えて反転する。
そして香霖堂を出ようとすると、

「ああ、霊児」

霖之助に呼び止められた。

「ん?」

霊児が霖之助の方に振り返ると、

「魔理沙の事、よろしく頼むよ」

魔理沙の事を頼むと言われる。

「ああ」

そう言って、霊児は香霖堂を後にした。





















翌朝。
目が覚めた霊児は朝食を作ろうと居間に向かう。
そして居間へと続く襖を開くと、

「お?」

卓袱台の上には朝食が並んでいた。
その事に霊児が驚いていると、

「あ、おはよう。霊児」

魔理沙が台所の方から出て来る。

「これ作ったの魔理沙か?」

朝食を作ったのは魔理沙かと尋ねると、

「うん。お世話になるんだからこれ位はと思って」

魔理沙は自分が朝食を作った事を肯定する。
鍋料理以外の物が博麗神社の食卓に並ぶのは初めてじゃなかったかと霊児が思っていると、

「結構自信があるんだ。早く食べよ」

魔理沙に急かされる様にそう言われ、霊児は卓袱台の前に腰を落ち着かせて朝食を口に運ぶ。

「ど、どうかな? 美味しい……かな?」

魔理沙が少し不安気に美味しいかと尋ねると、

「ああ、美味い」

霊児は美味しいと言う、
すると、魔理沙は凄く嬉しそうな顔になる。
どうやら、霊児に美味しいと言われた事が凄く嬉しかった様だ。

「魔理沙は食べないのか?」

霊児がそう言うと、

「あ、うん!!」

魔理沙は霊児の反対側に座って朝食を食べ始める。





















余談ではあるが、この日から博麗神社の食事は魔理沙が作る事となった。


















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