霊児の住む博麗神社に魔理沙が泊まり始めた最初の頃は神社での生活に魔理沙は少し戸惑っていた。
が、直ぐに神社での生活に慣れていった。
中々の適応力だ。
それはそうと、魔理沙が博麗神社に泊まり込む様になってから変わった事がある。
変った事と言うのは食卓に並ぶ朝昼晩のご飯の事。
毎回毎回鍋料理であった博麗神社の食卓が鍋料理で無くなり、違う料理が食卓に並ぶ様になったのだ。
鍋料理で無くなった理由は魔理沙がご飯を作っているからである。
霊児とは違って魔理沙は作れる料理のレパートリーが多く、おまけに美味い。
これに関しては霊児はかなり喜んでいた。
楽が出来、毎回違う種類の美味しいご飯が食べれるのだから。
そして、魔理沙が博麗神社に泊まり込み始めてから時が流れて大晦日の現在。
霊児は、

「霊児ー、これは何処に置けば良いかな?」
「あー……それはあっちの方にでも置いといてくれ」
「はーい」

魔理沙に蔵の掃除を手伝わせていた。
元々、大晦日になったら掃除をする予定だったので人手が増える事となって霊児は万々歳である。
人数が多いと掃除の効率が上がるなと言う事を霊児が思っていると、

「霊児、これ何?」

魔理沙は何かを手に持って霊児の近くにやって来る。

「ん?」

霊児は魔理沙の方に顔を向けると、二個セットになっている玉の様な物が目に映った。
これは、

「……陰陽玉か」

陰陽玉である。

「陰陽玉?」

初めて聞く単語であるからか、魔理沙は首を傾げてしまう。
そんな魔理沙を見ながら、

「ああ、陰陽玉って言うのはな……」

霊児は陰陽玉に付いて簡単に説明していく。
陰陽玉の説明を聞いた魔理沙は、

「へぇー、凄い物なんだね」

驚いた顔をしながら興味深そうな目で陰陽玉を見詰める。
魔理沙が興味深そうな目で陰陽玉を見ていたからか、

「……欲しかったらやるぞ」

霊児は欲しかったら上げると言う。

「え?」

霊児の突然の発言に魔理沙は驚きの表情を浮かべる。
何せ、説明を受けた時に陰陽玉は相当高価な代物であると聞いたからだ。
そんな高価な代物を自分が貰っても良いのかと言う様な事を魔理沙が考えていると、

「ぶっちゃけ、俺の戦闘スタイルには不向きなんだよ。陰陽玉って」

霊児は陰陽玉は自分の戦闘スタイルに合わないと口にする。
陰陽玉は使用者の傍らに佇ませ、援護射撃をさせると言ったのが主な使い方だ。
基本的に陰陽玉は遠距離戦、若しくは中距離戦で最も高い効果を発揮する。
だが、霊児の基本的且つ一番得意とする距離は近距離。
近距離戦が最も得意な霊児に取っては陰陽玉を傍らに佇ませても邪魔なだけ。
下手をしなくても攻撃をし様とした場所に陰陽玉が有って攻撃が出来ない処か防いでしまうと言う、自分ではなく敵を
援護すると言う事態になってしまうかもしれない。
いや、確実にそうなってしまうだろう。
だからと言って傍らに佇ませるのではなく手に持って鈍器として使おうにも、霊児にはもう武器がある。
緋々色金製の短剣が。
故に、霊児にとって陰陽玉は必要な物ではない。
だが、魔理沙ならどうだろうか。
少し前に霊児は魔理沙と軽い組み手をした時に分かった事だが、魔理沙の戦闘スタイルは遠、中距離戦が中心。
使用者の傍らに佇んで援護射撃を行う陰陽玉との相性はかなり良いだろう。

「で、でも、良いの?」

幾ら霊児と陰陽玉の相性が悪いとは言え、自分がそんな高価な物を貰っても良いのかと言う様な事を魔理沙が口にすると、

「良いって良いって。俺には使い道がないんだしさ」

霊児は別に構わないと返した。
溶かして別の物に変えるのなら兎も角、譲るのであれば歴代の博麗の巫女達も流石に何も言わないであろう。
多分。
万が一、歴代の博麗の巫女達に枕元にでも立たれたら鬱陶しいので暫らくは結界でも張って寝ようかと霊児が考えていると、

「ありがとう、霊児」

魔理沙が満面の笑顔で礼の言葉を口にした。
どうやら、高価な物をと言うより霊児からのプレゼントと言うのが嬉しかった様だ。

「どういたしまして。後でお前にも使える様に陰陽玉を調整しておくから」

霊児がそう言った後、霊児と魔理沙は再び蔵の掃除を始める。





















蔵の掃除が終わってから時間が流れ、月が空を支配する時間帯。
年が明け始めた頃、霊児は毎年恒例とも言えるある事を行っていた。
座禅を組み、目を瞑って集中している霊児に、

「霊児、何してるの?」

魔理沙は何をしているのかと尋ねる。

「一寸した儀式だな」

霊児は座禅を組み、目を瞑った状態のまま儀式だと答えると、

「儀式?」

魔理沙は首を傾げてしまう。
何の儀式か分からないと言った雰囲気を察した霊児は、

「ああ。この儀式と言うのは……」

この儀式に付いての簡単な説明をする。
その説明を聞いた魔理沙は、

「へぇー……凄いんだね、霊児」

素直な感想を漏らす。

「まぁ、凄いと言っても俺の場合は儀式を大分簡略化してるけどな」

霊児の言う通り、儀式と言っても大掛かりな物がセットされている訳ではない。
有るのは火が点いた二本の蝋燭だけ。

「それに儀式と言っても大げさなものじゃない。やる事は俺の霊力で天香香背男命に干渉してその実力を落とし、天照大神を嗾けて天香香背男命を倒す事なんだけどな」
「へぇー……」
「干渉すると言っても向こうは神だ。干渉したりするにしてもそれなりの準備が必要なんだ」

それがこれと、霊児は火が点いて蝋燭を指さす。

「この儀式とは関係ないが、神を呼び寄せて自身に憑依させて能力を行使させるって言う神降ろしには色々と条件が必要だったりする事があったりするんだ」
「そうなんだ」
「まぁ、俺の場合は俺の霊力を餌に呼びたい神を呼び寄せたり、霊力を使ってこちら側に引っ張り寄せて無理矢理俺に憑依させ、憑依した後は俺の霊力で
神を縛って神の能力だけを行使させ、用が済んだら体から追い出すと言う方法を取るから然程手間は掛からないけどな」

そう言った後、霊児は神を呼び寄せる事なんて殆ど無いんだけどなと口にする。
とても神職に携わる人間の台詞とは思えないが、霊児は欠片も気にしていない。

「話を戻すが、今回の儀式の様にこっちから神に直接干渉するとなればそれ相応の準備が必要になるんだよな」

面倒臭いからそのうち、この準備も必要ない様にするけどなと霊児が続けると、

「……お」

霊児は何かに気付いたかの様に目を開いて顔を上げる。

「どうかしたの?」

魔理沙がどうかしたのかと尋ねると、

「無事に天照大神が天香香背男命に勝った様だ」

霊児は儀式が終わった事を伝えて蝋燭の火を消し、立ち上がる。
そして、

「さて、戻って何か食おうぜ」

腹が減って来たからか霊児は戻って何か食べ様と言う。

「うん」

魔理沙が了承の返事をすると、霊児と魔理沙は二人揃って神社の中に入って行く。
そして居間に向かう為に廊下を歩いている時、

「……ん?」

霊児はある一室の前で何かを感じて立ち止まる。

「どうかしたの? 霊児」

急に立ち止まった霊児に魔理沙がそう声を掛けると、

「一寸な……」

霊児はその一室の襖を開く。
すると、

「どうもー!! 明けましておめどうございまーす!!」
「ど、どうも、明けましておめでとうございます」

文と椛が居た。

「明けましておめでとう。そしてまたか」

霊児は新年の挨拶を返しながらまたかと言った瞬間、

「ええ、またです」

文が胸を張りながら返す。
そんな文を霊児はジト目で見ていたからか、

「そんな邪険に扱わないでくださいよー。ちゃんとお酒とお節料理を持って来たんですから」

文はお酒とお説料理を指さす。

「……まぁ、いいか」

何処か諦めた様に霊児がそう言った後、霊児と魔理沙は部屋の中に入って適当な場所に座る。
それを見た文は、

「ま、ま、取り敢えず一杯」

そう言って霊児の杯に酒を注ぐ。
注がれた酒を飲みながら、

「あ、魔理沙には天狗の酒は勧めるなよ」

霊児は魔理沙に天狗の酒を勧めるなと言う忠告を行う。

「分かってますよ。ちゃんと人間用のお酒も用意してますから」

その忠告に文はそう返しながら魔理沙の杯にも酒を注いでいく。
魔理沙の杯が酒で一杯になると、

「それにしても……」

椛は霊児の方に顔を向けた。

「ん? どうかしたか?」

椛に視線に気付いた霊児はどうかしたのかと尋ねる。
尋ねられた椛は、

「何で天狗のお酒を飲んで霊児さんは平気なんですか?」

何で天狗の酒を飲んでも平気なのかと言う疑問を口にした。
今現在、霊児は飲んでいる酒は文から注がれた天狗の酒。
人間が普通に飲める様な物ではない。
そんな酒を平然と飲んでいる霊児に、

「本当に人間ですか、霊児さん?」

椛は本当に人間なのかと問う。
すると、

「失敬な。俺は純度100%の人間だ」

霊児から自分は純粋な人間だと言う発言が返って来る。
これ以外の答えは返って来そうになかったからか、椛は天狗の酒を飲んでも平気な理由は今代の博麗だからだと思う事にした。
椛がそんな風に結論付けていると、

「それよりも魔理沙さん」

文は魔理沙に声を掛ける。

「何?」

声を掛けられた魔理沙は一旦酒を飲むのを止め、文の方に顔を向けると、

「魔理沙さんが博麗神社に泊まる様になって長くなりますが、霊児さんとのムフフなイベントが起こったりはしましたか?」

文はそんな事を尋ね出した。

「ムフフなイベント?」

魔理沙は良く分からないと言った表情で首を傾げたタイミングで、

「俺と魔理沙の年齢でそんな事があってたまるか」

霊児からその様な突っ込みが入る。

「……自分で言って置いて何ですが、それが分かる霊児さんもどうなんですかね?」

文がそう言ったところで襖がスパーンと開けられ、

「明けましておめでとー!!」

そんな声が聞こえて来た。
霊児は誰だと思いながら声が聞こえて来た方に顔を向けると、

「あ、にとり」

椛がやって来た者の名を口にする。

「あ、椛と文さんも来てたんだ」

椛と文が既に来て居た事に驚きつつも、にとりは襖を閉めて四人に近付き、

「はい、お酒とお節料理」

酒とお節料理を床に置く。
その後、

「それにしても、二人は天狗主催の新年会に出てると思ってたんだけど……」

にとりは文と椛の二人がここ居る事が意外だと言う事を口にする。

「最初は天魔様主催の新年会に出ていたのですが、文さんに無理矢理連れて来られて……」

椛が文に無理矢理連れて来られたと言う事を話すと、

「大丈夫大丈夫。あの大人数で二人の天狗が居なくなったって誰も気付かないって。去年もそうだったし」

文は何の問題も無いお気楽そうな顔をしながら返す。

「はぁ……」

それを聞いた椛が思わず溜息を吐くと、

「ほらほら、溜息を吐くと幸せが逃げるって言うわよ。椛」

文が椛を慰める様な事を言う。

「誰のせいだと……」

椛が文に食って掛かろうとしたところで、

「まぁまぁ」

にとりが椛を宥める様に声を掛ける。
そのタイミングで、襖が再び開かれた。
今度は誰だと思いながら霊児は襖の方に目を向けると、

「あら、随分賑やかじゃない」
「妹紅」

妹紅の姿が目に映った。

「あやややや、藤原妹紅さんじゃありませんか」
「あら、何時かの烏天狗」

文と妹紅がそんな風に言葉を交わした後、妹紅は襖を閉めて霊児達の方に近付いて行く。

「妹紅さんもここに?」
「ええ。霊児には色々と世話になってるからそのお礼を兼ねてね」

文の問いに妹紅はそう答え、持って来た物を床に置く。
妹紅が持って来たのは酒と焼き魚の様だ。
霊児達が妹紅が持って来た物を確認していると、妹紅は座って酒を飲む。
それを皮切りにしたかの様に、

「それにしても、妹紅さんと霊児さんが知り合いだったなんて思いもしませんでしたよ」
「ま、色々あってね」
「あ、ほら。魔理沙、杯の中が空になっているよ」
「あ、ありがとう。にとり」
「んー……本当に天魔様主催の新年会を抜けたままでいいのかな……」
「いいんじゃねえの?」

それぞれが思い思いに、好きな様にワイワイと騒ぎ始める。
騒ぎ始めてから少した辺りで、

「それにしても……」

妹紅はにとりと楽しそうに話している魔理沙を見て、

「元気そうね」

何処か安心した表情を浮かべる。

「魔理沙がどうかしたのか?」

妹紅の呟きが聞こえたからか、霊児は妹紅にどうかしたのかと問う。
問われた事に、

「いや、前に慧音が自分の所の生徒が家出したって言っててね」

妹紅は慧音なる人物が自分の所の生徒が家出したと言っていた事を霊児に話す。
妹紅が話した事を聞き、霊児はそう言えば魔理沙は家出したんだったなと言う事を思い出した。
どうも魔理沙と一緒に生活するうちに、霊児は魔理沙が家出をしていると言う事をすっかりと忘れてしまっていた様だ。
少しばかり霊児が自分の間抜けさに呆れていると、

「香霖堂の店主は慧音に、あの子がここに居候してるって言ってたのよ」

霖之助が慧音なる人物に魔理沙が博麗神社に居候していると伝えたと口にする。
どうやら、霖之助は魔理沙の実家以外にも色々と気を回してくれた様だ。
そのお陰で人里に商売をしに行った時に騒ぎになっていなかったのかと霊児が思い始めた時、

「慧音には霊児の所に居るなら安心だって言っといたわ」

妹紅が慧音なる人物に霊児の所にいるなら安心だと伝えておいたと言う。

「手間掛けさせた様でで悪いな」
「別にこれ位の事なら構わないわよ」

妹紅はそう返しながらお節料理を食べていく。
そしてある程度箸が進んだところで、

「そう言えば、あの子って戻る気はあるの?」

妹紅はふと思い付いたかの様に魔理沙は実家に戻る気はあるのかと尋ねる。

「いんや。帰る気は全く無いってさ」

そう言って霊児は酒を飲み、

「春になったら魔法の森で一人で暮らせる場所を探すらしい」

魔理沙が一人暮らしをする気だと言う。
その場所を探すのは俺も手伝う予定と霊児が続けると、

「あら、そうなの? てっきりずっとここに暮らすものだと思ってたけど」

妹紅は少し驚いた表情になる。

「魔理沙は魔法使いだからな。魔法使いとしての力量を上げるならここより魔法の森ので暮らす方がずっと良い。魔法の森には魔法使いとしての力量を上げる効果があるらしいしな」

霊児は前にアリスから聞いた魔法の森の情報を口にし、また酒を飲む。
すると、

「新年、明けましておめでとう」

そんな声と共に襖が勢い良く開かれた。
開かれた襖の方に顔を動かした霊児の目に、

「幽香」

幽香の姿が霊児の目に映る。
自分の神社にやって来る何て珍しいなと霊児が思っていると、幽香の姿を見たからか魔理沙は少し怯えた表情をしながら近く居たにとりの後ろに隠れてしまった。
どうやら、幽香と初めて会った時の一件がまだ尾を引いている様だ。

「あやややや、これは幽香さん」
「こんばんは、新聞記者さん」

幽香が文に挨拶をした後、幽香は霊児に近付く。
自分の直ぐ近くにまで来た幽香に、

「まさか、新年早々俺と戦いに来たのか?」

霊児は少し物騒な事を聞く。
聞かれた事に、

「それこそまさかよ」

幽香は戦う気は無いと返して酒とお節料理を取り出す。

「ただの新年の挨拶よ」

そう言って幽香は霊児の隣に座り、

「貴方とは……長い付き合いになりそうだし……ね」

妙に色っぽい声で長い付き合いになりそうだしねと霊児を見詰めながら言う。
その言葉に裏に隠された意味に気付いた霊児は、

「……はぁ」

思わず溜息を吐く。
本当に厄介な奴に目を付けられたなと言う想いを籠めて。

「あら、私の様な良い女に見詰められて溜息を吐くなんて失礼な男ね」

霊児の反応に不満があったからか幽香が少し怒った表情になると、

「悪かった悪かったって」

霊児は幽香を宥めながら酒を勧める。
幽香は勧められた酒を飲んだ後、立ち上がって魔理沙の方に近付く。
近付かれた魔理沙は、

「あ、あの……」

少しビクビクした様子を見せる。
そんな魔理沙を守る様にしてにとりが幽香を睨み付けると、

「そんな睨まなくても取って食ったりはしないわよ」

幽香はそう言い、腰を落ち着かせて魔理沙と話し始めた。
最初は幽香を警戒していた魔理沙とにとりであったが、次第に打ち解け始めていった様だ。
その様子を見た霊児は自分の神社でドンパチが起きないと分かり、安堵した瞬間、

「あー……早く秋にならなかなー……」

霊児の背後からどんよりとした声が聞こえて来た。

「ん?」

その声が気になった霊児が顔を背後へと向けると、静葉と穣子の秋姉妹の姿が見える。
秋姉妹の二柱を見た霊児が、

「なんだ、居たのか」

思わずそんな事を呟くと、

「居たのかですって!?」
「居たのかって!?」

静葉と穣子は怒った顔をしながら霊児に詰め寄るって来た。

「居たわよ!! 何!? 気付かない程に影が薄いって!?」
「悪かった、俺が悪かったって」
「何!? 私達は秋以外には存在価値が無いゴミ屑ですって!?」
「言ってねぇよ、そんな事」

怒鳴って来る静葉と穣子に霊児は適当に謝りながら思った。
こいつ等、酒癖が悪いと。

「大体、一年間秋だけで十分なのよ!!」
「そうそう!! 秋だけで十分!!」
「あーはいはい、そうですね」

霊児は静葉と穣子を適当に宥めている間にも、新年会と言う名の宴会は大いに盛り上がっていく。





















「どうしてこなった……」

宴会は終わった後、霊児は思わずそう呟いてしまう。
何故ならば、霊児以外の全員が酔い潰れて寝てしまっているからだ。
即ち、この宴会の後片付けは霊児一人でしなければならない。

「……はぁ」

霊児は溜息を一つ吐き、宴会の後片付けを始める。
こんな事なら俺も酔い潰れていれば良かったと霊児は思いながら片付けをしていく。
片付けと言っても食器やら空き瓶やらを隅の方に追いやっているだけだが。
そんな簡単な作業であるからか、片付け自体は直ぐに終わった。
片付けが終わった後、霊児は周囲を見渡し、

「……はぁ」

溜息を一つ吐いて別の部屋へと移動する。
そして移動した部屋から布団を取り出して宴会場であった部屋に戻り、布団を眠っている者達に掛けていく。
全員に布団を掛け終わると霊児は溜息を一つ吐き、全員の寝顔を見ながら、

「にしても……どいつもこいつも幸せそうな顔して眠りやがって」

呆れた声色でそう漏らす。
暢気に寝やがってと思いながら霊児は周囲を見渡していくと、

「……お」

片付けた物を置いておいた場所とは反対側の方にまだ未開封の酒瓶を見付けた。
折角なので一人酒と洒落込もうと霊児は思い、酒瓶を手に取って外に出る。
外に出ると、

「雪か……」

霊児は雪が降っている事に気付く。
何時、振り出したんだろうと思いながら霊児が足を進め様とした瞬間、

「……っと」

風が吹き、霊児の髪と羽織りが風で揺れる。
霊児は風が止むまで一旦歩みを止め、風が止むのと同時に足を進め始めた。
そして鳥居の前に辿り着くと跳び上がり、鳥居の上に着地して腰を落ち着かせる。
そのままボーッとしながら、

「しっかし、何時の間にか騒がしくなったな」

霊児は思う。
何時から自分の神社は騒がしくなったのかと。
少なくとも、昔はそんな騒がしいものではなかった。
こうも騒がしくなる様になったのは、

「俺が俺を思い出してから……か」

霊児が前世の事を思い出した時からであろう。
だが、

「でも、その記憶は日に日に薄れていっている」

前世の記憶は日に日に霊児の頭の中から消えていっている。
おそらく、数年もすれば前世の記憶は完全に消えてしまうだろうと言う確信を霊児は得ていた。
最終的には前世の事を覚えていたと言う事だけを覚えている状態になるだろう。
ある意味、自分と言うものが無くなっていく恐怖を感じていく様なものだが、

「けど、ま……いいさ」

霊児に気にした様子は欠片も見られ無かった。
何故ならば、前世の事が無くなっても自分が自分である事に……今代の博麗で七十七代目博麗で博麗霊児である事に変わりは無いと言う事を霊児は理解しているから。
それ以前に、既に終わった生に執着する気は霊児には無い。
過去ではなく今を生きているのだから。

「どうなろうと、俺は俺として生きるだけだ」

霊児はそう呟き、酒瓶の蓋を開け、

「にしても、もう少し静かでもいいとは思うが……」

酒を飲みながら同時に新年会と言う名の宴会を思い出す。
本当に騒がしい宴会であった。

「……でも、ああ言う騒がしいのも悪くない」

そんな事をポツリと口から漏らし、霊児は酒を飲む。

「うん、悪くない」

霊児は騒がしいのも悪く無いと思いつつ、夜雪を見ながら飲む酒は一段と美味いと感じた。













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