季節は廻り、冬から春へ。
雪が溶け始めた頃、霊児と魔理沙の二人は魔法の森にやって来ていた。
魔法の森にやって来た理由は魔理沙の新居を探す為だ。
魔法の森に二人が入り始めて暫らくした後、

「にしても……」

霊児は魔理沙の方に視線を移し、

「そんなんで、此処に住めるのか?」

本当に魔法の森に住めるのかと尋ねる。

「だ、大丈夫だよ!!」

魔理沙は少し強気な口調でそう返すが、魔理沙の右手は霊児の左手を確りと掴んでいた。
どうやら、魔法の森の独特の雰囲気に若干怯えている様だ。
そんな魔理沙を見ながら、

「ま、魔法の森に住むと魔法使いとしての力量が上がると言う利点がある」

霊児は魔法の森に付いての説明を簡単に行う。

「うん」
「だが、欠点もある。それは危険度だ」

行われた説明に魔理沙が相槌を打つと、霊児はそう言いながら足を止めた為、

「わ……っと」

霊児と手を繋いでいた魔理沙も少し前のめりになってしまう。
それでも何とか転ばずに済んだ魔理沙は霊児と同じ様に足を止め、何で行き成り止まったんだと言う視線を霊児に向けると、

「ここ、魔法の森特有の妖怪って言うのは木や茸と言った植物に擬態している事が非常に多いんだ」

霊児は魔法の森に存在する妖怪の事を口にしながら右手を横に動かし、ある方向に向けて人差し指を突き出す。
そして、

「……よっと」

霊児は人差し指から霊力で出来た弾を一発だけ発射する。
霊力で出来た弾は射線上にある木に向かって行き、その木に着弾して爆発を起こす。
すると、霊力の弾が当たった木は悲鳴を上げながら崩れ落ちた。

「え? え?」

何が起こったのか分からないと言った表情をしている魔理沙に、

「今のが木に擬態した妖怪だ。俺達を取って食おう虎視眈々と狙ってたぞ」

霊児は今の木が妖怪である事を教える。
その一言で、魔理沙は驚いた表情をしながら木が在った場所に視線を移す。
木が在った場所を目をパチクリさせながら見ている魔理沙に、

「今の魔理沙の実力でも一対一なら勝つ事は十分に可能だ。俺が上げた陰陽玉もあるしな」

霊児は今の魔理沙の実力でも勝つ事は十分に可能だと言い、魔理沙の傍らでフヨフヨ浮いている陰陽玉を指さす。
霊児の指に釣られる様にして魔理沙が陰陽玉に目を向けると、

「まぁ、やばいと思ったら空中に逃げるのも手だな。ここの妖怪の殆どは空を飛べないって俺の勘が言ってるし」

霊児はそう言って魔理沙の方へと視線を戻す。
そして、

「とまぁ、魔法の森は結構危険が有る場所何だが……それでも住むか?」

霊児は改めて魔理沙に魔法の森に住むかと尋ねると、

「うん!!」

魔理沙は力強く頷いた。
魔理沙の目には少しも揺らぎが見られない。
そんな魔理沙の見て霊児はやっぱりなと思った。
何故ならば、聞くまでも無くこの程度の危険で引く事は無いと知っていたからだ。
魔理沙の夢は凄い魔法使いになる事。
その夢を叶えるためならば、多少の危険で引いてはいられないのだろう。
霊児は改めて魔理沙の意志の強さを感じつつ、

「じゃ、先に進もうぜ」

先に進む様に言う。

「うん!!」

魔理沙が力強く返事をしたのを合図にしたかの様に、霊児と魔理沙の二人は手を繋いだまま魔法の森の奥へと進んで行く。





















「お、ここ何か良いんじゃないか?」

それなりに開けた場所に出たからか、霊児はここになら家を建てられるんじゃないかと口にする。
その後、霊児は周囲を見渡してこの広さなら大丈夫だなと思っていると、

「でも、どうやって家を建てるの? 私はそんな魔法は使えないよ」

魔理沙からどうやって家を建てるのかと言う疑問の声が聞こえて来た。
魔理沙が抱いた疑問に、

「安心しろ、ちゃんと考えている」

霊児が自信有り気な表情でそう返す。
そんな霊児を見ながら、

「人里で大工さんに頼んで建てて貰うの?」

魔理沙は人里で大工を雇うのかと問う。

「外れ。人里の大工じゃ魔法の森の瘴気には長時間耐えられないからな。ここに家を建てる様に頼むのは無理だ」
「それじゃ、どうするの?」

問うた事に霊児から否定の言葉が返って来た為、魔理沙が首を傾げてしまった。
そんな魔理沙に対して答えを示すかの様に、霊児は背後にある木に顔を向け、

「そう言う訳だから、手を貸してくれないか? 覗き見している烏天狗」

そう声を掛ける。
すると、霊児が声を掛けた木から何かが飛び出して来た。

「ッ!!」

それに驚いた魔理沙が思わず霊児の後ろに隠れると、飛び出して来た者が地に足を着け、

「あやややや、バレてましたか」

飛び出して来た者……射命丸文がバレてしまった事を口にする。

「何時からお気付きに?」

文が何時から気付いたのかと尋ねると、

「魔法の森に入った時から」

霊児はシレッとした表情で魔法の森の入った時だと言い、

「で、手を貸してくれないか?」

霊児が文に家を建てるのに手を貸してくれないかと聞く。
どうやら、霊児は天狗に家を建てて貰おうと考えていた様だ。
家を建ててくれと頼まれた文は少し考える素振りを見せ、

「うーん……私個人としては手を貸しても良いんですが、家を建てるのなら当然人手が要りますよね?」

霊児に家を建てるのなら人手が要るだろうと言う事を尋ねる。

「そうだな」

人手が要る事を霊児が肯定すると、

「そうなると、結構な数の天狗を動かす事になります。幾らなんでも只で人間の為に動かすと言うのは無理があるかと……」

文が申し訳無さそうな表情で只で手を貸す事は出来ないと言う。
が、

「安心しろ、只じゃない」

霊児が只じゃと言ったからか、

「え?」

文は思わず表情を変える。
どう言う事なのだろうと思いながら。
そんな文の内心を知ってか知らずか、

「妖怪の山で俺と試合をし、こっちの優勝賞品を家を建てると言う事にする」

霊児は言葉を紡いでいく。

「こっちの?」
「そう。そっち……つまりは天狗側の優勝賞品を何でも好きな願いを一つ叶える……と言うのはどうだ?」

霊児の話に興味が湧いて来たからか、

「……詳しく聞きましょう」

文は真面目な表情をしながら霊児に続きを話す様に促す。

「形式としてはこうだ。俺と一対一で戦う。俺が天狗相手に全勝すれば俺の勝ち。逆に俺が天狗一人にでも負ければそっちの勝ちだ」
「……それでは霊児さんが不利では?」
「その方がそっちも条件を呑み易いだろ?」

霊児にそう言われ、文は確かにと考え、

「……仮にその方法で試合をしたとして、賞品抜きでの利点は?」

賞品抜きでの利点を尋ねる。

「勿論あるぞ。まず一つ」

霊児はそう言って人差し指を立てた。

「何時だったか言ってただろ。最近妖怪の山も意気消沈気味だと」
「……確かに言いましたね」

何時だったか酒が入った時にそんな事を愚痴っていたなと、文がその時の事を思い出そうとしていると、

「こう言ったイベントをすれば盛り上がり、活気が付く。それがそちら側の利点その一だ。そして二つ目」

霊児は利点を説明し、中指を立てて指で二の形を作る。

「社会や組織に付き物の謀反を企んでる者、下克上を企んでる者の炙り出し」
「炙り出しですか?」

炙り出しと言う単語で文が首を傾げた時、

「そう。勿論純粋に腕試しで参加する者も居るだろうが賞品の願いを使って成り上がろうとする者、博麗の名を持つ俺を
倒して名に箔を付け様とする者も現れるだろう。そう言う者が居ると分かっていれば、そちらも対策を立て易いだろ?」

霊児は炙り出しに付いての説明を行う。

「ふむ……」

妖怪の山とて一枚岩と言う訳ではない。
確実に謀反を企んでいる者の一人や二人居るだろう。
そう言った者の炙り出しは天狗社会、そして妖怪の山全体の為になる。
文がそこまで考えを廻らせたところで、

「そして三つ目」

霊児は薬指を立てて、指で三の形を作った。

「これは俺の利点だが、妖怪の山に今代の博麗がどれ程の存在かと言うのを知らしめる事が出来る」

妖怪の山は幻想郷でも勢力としてはとても大きな場所だ。
そこで自身の実力を見せれば、他の妖怪が悪さをしない様に牽制になると霊児は考えている。
他にも未だに今代の博麗が不在と言う情報を払拭するのにも役立つであろう。

「どうだ、お互いに利点があり、条件としては俺に不利だ。呑み易いとは思うが?」
「……私の一存では決められません。大天狗様にこの事を報告し、許可が取れればとなりますが、よろしいですか?」

文は自分の一存では決められないのでこの話は大天狗に伺いを立ててからになるが良いかと問うと、

「ああ」

霊児は肯定の返事を返す。

「では、許可が取れたら神社の方へ伺いますので」

そう言って文は妖怪の山の方へと飛び去って行った。
文が飛び去った後、

「……霊児」

魔理沙は霊児に声を掛ける。

「ん?」

その声に反応した霊児は魔理沙の方に顔を向けると、

「大丈夫なの?」

魔理沙は心配そうな表情を霊児へ向けた。

「大丈夫だって」

霊児はなんて事無いと言った表情でそう返す。
そんな霊児の表情を見たからか、魔理沙は凄く安心した気分になった。

「ま、取り敢えず今日のところは神社に帰ろうぜ」
「うん!!」

そして、霊児と魔理沙は博麗神社へと帰って行く。





















そして一週間後。
霊児の出した提案は見事に受け入れられ、

『さあー、始まりました!! 今代の博麗VS天狗連合の試合です!!』

霊児と天狗達の試合を始まりを告げる文の声が周囲に響き渡る。
因みに文の声が響き渡ってるのは河童が作ったマイクと言う機械のお陰だ。
この機械は何でも声量を大きく上げる効果があるらしい。

『司会進行はこの私、清く正しい射命丸文でお送りしまーす!!』

何気に司会進行のポジションを手に入れた文は中々ちゃっかりしているなと霊児は思っていると、

『審判は白狼天狗の犬走椛だー!!』

文がこの試合の審判をする者の名を口にした。
椛が審判をしているのかと霊児が少し驚いていると、

「と言うかなんですか、私の格好!!」

椛が顔を少し赤くしながら文句を言う。
何故顔を赤らめているかと言うと今の椛の格好は露出が多く、ボディラインが確りと見える様なものであるからだ。
因みに、この格好はレースクイーン衣装と呼ばれる様なものらしい。
露出が多く、ボディラインがしっかり見えるからか椛は少々恥ずかしい様である。
そんな椛の文句に、

『え? 審判はそんな格好らしいわよ?』

文はそう返す。

「……何所で仕入れた知識なんですか?」

椛は何所で仕入れた情報なのか尋ねると、

『えーと……人伝?』

文は人伝であると答える。
それを聞いたからか、椛は思わず溜息を一つ吐く。
二人の反応を見て霊児は何所かで混ざったなと直感的に思っていると、

『それはそれとして、ルールの説明に入りたいと思います!! ルールは簡単!! リングの外に体の一部が出るか、
まいったと言うか、ダウンして10カウント以内に立ち上がれないか、気絶したら負けとなります!!』

文がルールぼ説明に入る。
ルールに関しては霊児は全く関与していなかった。
故に霊児はルールを確りと頭に叩き込む。

『続いて禁止事項!! 飛行、殺傷、弾幕と言った行為は禁止されております!! ご注意ください!!』

禁止事項を聞き、武器は有りなんだなと霊児は思った。

『それでは、試合を始めたいと思います!!』

試合を始めると言う声が耳に入った霊児はリングに上がると、中々に広いリングであると言う感想を抱く。
リングの広さをある程度確認した後、霊児は少し回りを見ると、

「かなり来てるな……」

結構な数の見物客が観客席に居る事も分かった。
天狗に河童に神にその他の妖怪。
観客の人数から、このイベントは結構規模が大きいものであるのかと霊児が考え始めた時、

「……お」

魔理沙、にとり、静葉、穣子と言った面々が一塊になっているのを発見する。
おまけに『霊児頑張れ!! ファイト!!』と書かれた垂れ幕も見えた。
何時の間にあんな垂れ幕を作ったのだろう。
霊児がそんな事を思っていると、魔理沙達が手を振ってきたので霊児も手を振る。
すると、天狗側の選手もリングに上がって来たので霊児は手を振るのを止めて天狗の方に目を向けた瞬間、

「……ん?」

何所かで見た顔だなと霊児は感じた。
何所だったかなと記憶を辿って行くと、

「……あ」

霊児は思い出す。
目の前に居る天狗は前に妖怪の山に侵入した時に気絶させた白狼天狗であると。
相手の白狼天狗も霊児の顔を見て何かを思い出しそうな表情をしている。
ここで自分の事を思い出されるのは宜しく無いなと霊児が思っている間に、

『試合開始!!』

試合が開始された。
試合開始の合図が聞こえたのと同時に相手の白狼天狗は身構える。
その瞬間、霊児は一瞬で目の前の白狼天狗の懐に入り込んで掌打を胴体に叩き込む。
掌打を叩き込まれた白狼天狗は何が起こったのか分からないままリングの外に飛ばされてしまった。
この一連の流れを見て椛は一瞬唖然としてしまったものの、直ぐに吹き飛ばされた白狼天狗の安否を確認する為にリングから飛び降りる。
そして吹き飛ばされた白狼天狗の容態を確認し、

「……気絶!!」

気絶と言う宣言を行った。

『い、一瞬で勝負が決まってしまったー!! 凄い!! これが今代の博麗の力なのかー!! 勝者、博麗霊児!!』

文が霊児の勝利を伝えるアナウンスを言い終えるのと同時に、会場がワッと沸き上がる。
勝負が着き、対戦相手に自分の事がバレなかった事に霊児が内心でホッと一息吐いていると、

「……ん?」

次の対戦相手がリングに上がって来た。
それに気付いた霊児が現れた天狗の方に視線を移した時、

「まったく、油断しすぎだね。こんなお子様にやられるなんて」

現れた天狗はそう言って前髪を手の甲で掻き上げる。

「ま、君みないなお子様は僕が華麗に倒して僕が伸し上がるための第一歩にして上げるから、光栄に思いたまえ」
「あー、はいはい」

勝利宣言の様なもの言った相手側の天狗に霊児が適当に返したタイミングで、

『それでは、第二試合開始!!』

試合開始の声が掛かった。
その瞬間、

「これで終わりさ!!」

天狗は刀を抜き放って霊児へと肉迫し、振るう。
それに対し、霊児は落ち着いた様子で振るわれた刀の進路上に左手を翳す。
すると、

「……は?」

天狗が振るった刀は霊児の掌で止まっていた。
霊児の肉処か皮膚も斬る事が出来ずに。
今、目の前に起こっている現実が信じられないと言った様な表情を天狗が浮かべていると、

『これは凄い!! 霊児選手、刀を掌で!! 素手で受け止めてしまったー!!』

文のアナウンスが流れるのと同時に会場が再びワッと沸く。
その間に霊児は左手に触れている刀を掴んで天狗を刀ごと自分の方へ引き寄せ、引き寄せられて来た天狗を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた天狗は先程の天狗と同じ様にリング外に飛んで行き、それを追う様にして椛もリングの外に出る。
そして、リングの外に出た天狗に椛が近付き、

「……気絶!!」

気絶と言う宣言を行う。

『圧倒的だー!! 我々は今、今代の博麗の力の片鱗を垣間見たー!! 勝者、博麗霊児!!』

文のアナウンスが入るのと同時に会場はまたまた会場がワッと湧き、熱気に包まれていく。
そんな声援と熱気を維持したまま、試合は次々と進んでいった。





















『全試合、終了!! 勝者、今代の博麗、七十七代目博麗、博麗霊児!!』

試合は霊児の全勝で終わり、文が霊児の勝利を告げるアナウンスが聞こえるのと同時に観客席から様々な声援が送られる。
そんな盛り上がりを維持したまま解散になるかと思われたその時、

「少し良いか?」

大柄の男がリングに上がって来た。
霊児が誰だと思ってリングに上がって来た男に視線を向けると、

『「だ、大天狗様!!」』

文と椛が驚きの声を上げる。

「大天狗……」

霊児は文と椛の二人が発した者の名を呟き、大柄の男を観察する。
観察した結果、他の天狗とは文字通り格が違う存在であると霊児が感じ始めた時、

「この方は私と文さんの直属の上司である大天狗様です。そして大天狗様達の中で一番の武闘派であり、思慮深い方です」

椛は目の前の大天狗に付いて説明をしてくれた。
どうやら、霊児が黙っているのを見て気を利かせてくれた様だ。

「ああ、ありがとう」

その事に霊児が礼を言うと、

「まずは見事と言って置こう。今代の博麗よ。その齢で大したものだ」

大天狗が称賛の言葉を口にする。

「……どうも」

大天狗から発せられる気配を気にしながら、霊児は取り敢えず礼の言葉を言うと、

「魔法の森に家を建てると言うのは近々必ず完遂させよう」

大天狗は魔法の森に家を建てるのは必ず完遂させると言う事を少し大きな声で宣言した。
元々この試合で霊児が勝った場合の賞品が魔法の森に家を建てると言う事であったが、改めてこの場で口にする事により、ある種の強制力を持たせた様だ。
この大天狗は中々に誠実な人物の様であると言う印象を霊児は抱きつつ、

「……それを言う為だけに態々リングに上がった訳じゃ……ないんだろ?」

大天狗の目的を問う。

「ふむ……博麗の名を持つ者は勘が良いな」

大天狗は霊児の勘の良さに感心しつつ、腰に装備してある刀を抜き放ち、

「貴公の戦い振りを見ておると血が滾ってな。儂とも一つ、戦って貰いたい」

霊児と戦いたいと言って構えを取った。
そんな大天狗を見ながら霊児は考える。
別に断る事は可能であろうが、この観客の数でそれをするのはよろしくない。
何故ならば、下手をすれば今代の博麗は敵を前に尻尾を巻いて逃げる腰抜けと言う印象を持たれるかもしれないからだ。
それで妖怪が調子に乗って悪さをしたら元も子も無い。
その様な印象を持たれる事を避ける為、

「良いぜ、やろうか」

霊児は戦う意志がある事を伝え、左腰に装備してある短剣を左手で抜いて構える。
霊児と大天狗の二人とも戦う意志を見せたからか、

『え、えーと……特別試合、開始!!』

文は少々戸惑いながらも試合開始の宣言を行う。
宣言が聞こえたと同時に霊児は動く。
一瞬よりも短い一瞬で大天狗に肉迫し、短剣を振るう。
そんなスピードでも大天狗は確りと反応し、刀を使って短剣による攻撃を防ぐ。

「チッ」

霊児は今の一撃を防がれた事に舌打ちしつつ、大天狗から間合いを取る。
大天狗は霊児が離れたのと同時に刀を振り上げながら霊児との距離を詰め、刀を振り下ろす。
霊児はその一撃を体を逸らして回避するが、

「ッ!!」

大天狗の放った一撃はリングに当たり、リングを真っ二つに叩き割った。

『おおっと!! 大天狗様の一撃がリングを叩き割ったー!! そしてリング製作に携わった天狗と河童の膝が崩れ落ちたー!!』

文の実況が響き渡る中、リングが割れた衝撃でバランスを崩す前に霊児はリングを蹴って大天狗から距離を取る。
発生していた衝撃が収まったタイミングで、

「「ッ!!」」

霊児と大天狗は同時に駆け、交差する。
その後、二人はリングを足で削りながら減速していく。
完全に止まると二人は相手の方へと向き直り、大天狗と霊児は同時に駆けて激突し、

「……流石だな」
「……お前もな」

鍔迫り合いの状態になる。
ある程度その状態を維持すると、二人は短剣と刀を離す。
そして、超高速で短剣と刀の応酬を繰り広げる。
そんな応酬をする度に発生する衝撃でリングは割れ、砕け、散っていく。
その動きを正確に見えている者は一体何人居るであろうか。
おそらく、極僅かしかいないであろう。
霊児も大天狗も、それ位の速さなのだ。
短剣と刀による応酬を行い始めてから少しすると、霊児は右手で四本隠し持っている短剣の一本を抜いて霊力を解放する。
霊児が霊力を解放したタイミングで大天狗も妖力の解放を行う。
そして、

「はあ!!!!」
「ぬん!!!!」

二本と短剣と一本の刀が激突する。
物凄い衝撃音と衝撃波が発生したのと同時に、二人を中心した場所にクレーターが発生した。
突如として発生したクレーターに観客が驚いていると、二人は同じタイミングで自分の得物を相手の得物から離して大きく間合いを取る。
間合いが取れ、二人が仕切り直しの意味合いも籠めて構えを取り直したところで、

『あ、あのー……』

文から声が掛かった。
それを聞いた二人は何だと思いながら文の方に顔を向けると、

『大変盛り上がっているところ悪んですが……御二人とも……リングアウトされています』

文からリングアウトをしていると言われる。
そう言われて二人は自分の足元を見た時、

「あ……」
「む……」

二人の目にはリングではなく地面が映った。
どうやら、今までの戦闘の影響でリングは完全に吹っ飛んでしまった様だ。
何時の間にかリングアウトをしていたと言う事態に二人が何とも言えない表情になっていると、

「……ふっ」

突如、大天狗は口元に笑みを作りながら刀を鞘に納めた。
大天狗から戦いの意志を感じられなくなったからか、霊児も二本の短剣をそれぞれの鞘に収める。
二人が戦闘体勢を解除した瞬間、

「礼を言うぞ、中々に楽しい時間であった」

大天狗は楽しい時間であったと言い霊児に背を向け、

「今代の博麗、七十七代目博麗、博麗霊児よ、その名……未来永劫覚えて置こう」

そう言ってリングを降り、何処かへと去っていった。
大天狗の姿が見えなくなった後、

「…………若しかして、俺はまた厄介なのに目を付けられた?」

霊児はポツリとそう呟いた。





















「処で椛。リングが吹っ飛んだけど、大丈夫だったのか?」
「リングが吹き飛ぶ前に観客席に逃げたので大丈夫でした」





















妖怪の山で開催された天狗との試合が終わってから一週間程経ったある日、

「わぁー」

魔理沙は目を輝かせながら魔法の森に建てられた家を見詰める。
中々に大きな家だ。
魔理沙一人で住むには十分過ぎる大きさである。
これだけ立派な家をよくこの短期間で建てられたなと霊児が感心していると、

「これはまた、見事な家だね」

霊児達の背後からそんな声が聞こえて来た。
声が聞こえて来た方に霊児と魔理沙が顔を向けた先には、

「香霖か」

森近霖之助が居り、

「香霖!?」

霖之助の存在を認識した魔理沙は驚きながら霊児の後ろに隠れる。

「ま、まさか、私を連れ戻しに……」
「安心して良いよ。その気はないから」

霖之助は魔理沙が言おうとしていた事を否定し、袋の中から何かを取り出す。
そして、

「僕は新築祝いを持って来たんだよ」

取り出した物を魔理沙に手渡した。

「これは?」

手渡された物を見て、首を傾げている魔理沙に、

「これはミニ八卦炉と言って……」

霖之助は簡単にミニ八卦炉の説明をしていく。
説明を聞いた魔理沙は、

「ありがとう、香霖!!」

霖之助に礼を言う。

「構わないよ、それ位」

礼を言われた霖之助はクールに返すも、その表情は満更でもなさそうだ。
その後、何所から聞いたのか色々な連中が集まって魔理沙の家の新築を祝っての宴会が始まった。



















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