魔理沙が魔法の森に住み始めてから一ヶ月と少し経った。
最初の頃は魔法の森での生活に戸惑っていた様だが、今ではもう慣れた感じで生活している。
何とも逞しい事だ。
最近では魔法の森に生えている茸を使った実験などをしており、その成果を魔理沙は霊児に話したりしている。
だが、その実験の回数はそんなに多くはないとの事。
魔法の森に住み始めてまだ日が浅いからか、色々と忙しい様だ。
それでも魔理沙は週に何度か博麗神社に足を運んび、ご飯を作りに来てくれている。
まぁ、霊児がまともに作れる料理が鍋料理だけだと知ったたらそうなるのかもしれないが。
魔理沙がご飯を作りに来る事に関しては霊児は凄くありがたく思っている。
何せ、何もしなくても美味しいご飯が食べれるのだから。
ここ一ヶ月の事を思い出して少しボーッとしていた事に気付いた霊児は、

「……っと」

頭を軽く振って意識を戻す。
そして空を見上げると雨が降りそうな天気ある事が分かり、

「雨が降り始める前に売り終わってよかったぜ」

霊児は人里でお守りやらお札を売り終わった後で良かったと漏らす。
下手をしたら雨が降る中で商売をしなければならなかったのだから。
運が良い時に返って来れたと霊児は思いつつ、神社に戻ったら何をし様か考える。
まず、掃除をする事を考えたが、

「……却下だな」

こんな天気じゃ掃除をしても直ぐに雨が降りそうなので却下する事にした。
ならば縁側で煎餅でも齧り、その後に瞑想でもするかと言う予定を立てたところで霊児は博麗神社の鳥居の前に足を着ける。
その時、

「……何だ?」

霊児は博麗神社の異常さに気付く。
霊児の気付いた異常さとは何か。
それは妖怪と怨霊。
そう、大量の妖怪と怨霊が博麗神社に屯っているのだ。
文やにとりと言った妖怪は兎も角、今現在屯っている様な知性の欠片も無い様な妖怪は博麗神社に近付く事さえない。
勿論、怨霊も同様だ。
それなのに知性の欠片も無い様な妖怪や怨霊が博麗神社に屯っている。
この事から導き出される答えは一つ。

「誰かがここに連れて来た」

霊児がその様な結論を出したところで、霊児の存在に気付いた一匹の妖怪が霊児に襲い掛かって来た。
霊児は襲い掛かって来た妖怪を無視して考える。
何故、犯人はこんな事をしたのかと。
時間が掛かりそうであったが、答えは意外にも直ぐに出た。
霊児が出した答えは、

「俺への宣戦布告か」

自分への宣戦布告。
霊児がそんな答えを出した瞬間、襲い掛かって来た妖怪は霊児の間合いに入っていた。
口を開けている様子から霊児の頭を噛み砕く気の様だ。
妖怪の口が霊児の頭に触れ様とした瞬間、

「……邪魔だ」

霊児が腕を振るう。
霊児の振るった腕はそのまま妖怪に当たり、霊児の腕が当たった妖怪は砕け散りながら明後日の方向へ吹っ飛んで行った。
それを合図にしたかの様にして神社の境内に居る妖怪と怨霊は霊児の方へと顔を向ける。
霊児は自身に向けられている視線を無視して一歩一歩足を進めて行く。
そして全体の半分程進んだ所で、妖怪と怨霊の全てが一斉に霊児へと襲い掛かって来た。
このままでは霊児は無数の妖怪、怨霊に殺されてしまう。
そう思われたが、

「……邪魔だって言ったのが聞こえなかったのか?」

霊児がそう言って霊力を解放した瞬間、無数の妖怪と怨霊は吹き飛ばされてしまった。
周囲に妖怪、怨霊の姿が見えなくなったのと同時に霊児は霊力の解放を止める。
すると、

「やるねぇ……流石は博麗だ」

そう言った声と共に拍手の音が聞こえて来た。
声と拍手の音が聞こえて来た場所は神社の屋根の上。
霊児がそこに目を向けると、緑色の長い髪に魔法使いの様な格好をした女性が目に映った。
おまけに女性の手には先端部分に三日月を模した装飾がある杖があった。
その風貌と杖から霊児はこの女性は魔法使いかと考えたが、

「……それだけじゃないな」

下半身が幽霊の様になっていたので只の魔法使いでは無いとも考える。
それだけならば良かったのだが、この女性は尋常では無い程の邪気を発しているのだ。
これ程の邪気を発せられる者であるからか、霊児は警戒しながら、

「誰だ、お前?」

女性の名を尋ねる。
名乗ってくれるかは微妙であったが、

「私かい? 私の名は魅魔。ただの悪霊で魔法使いさ。博麗の者に恨みを持っている……ね」

女性……魅魔はすんなりと自分の名を名乗ってくれた。
そして魅魔の台詞から霊児は歴代の博麗の巫女達の誰かと戦って敗れたかと考える。
霊児がそんな推察を立てていると、

「今代の博麗が男だとは聞いていたが……まさか本当だったとはね……」

魅魔はそう言って少し驚いた表情を浮かべた。
どうやら、今代の博麗である霊児が男であると言う情報は魅魔の中では半信半疑の情報であった様だ。
少しの間驚いた表情をしていた魅魔であったが直ぐに表情を戻して口元を釣上げ、

「さて、私の要求を言おうか。聞き入れられれば苦しんで死ぬのが苦しまずに死ぬに変わるよ」

要求がある事を伝える。

「要求だと?」

霊児が何の要求であるかを問うと、

「そうさ。なに、難しい事じゃない。陰陽玉を寄越しな」

魅魔は陰陽玉を寄越せと言う。

「陰陽玉を?」

霊児には何故魅魔が陰陽玉を欲しているのか分からなかった。
何せ陰陽玉は自分との相性は悪く、魔理沙に上げるまでは倉庫で埃を被っていた様な代物なのだから。
魅魔が陰陽玉を欲している理由を考えている霊児の心情を知ってか知らずか、

「そう、陰陽玉さ。あれには特別な力があってね。使い手に影響されながら少しずつ力を吸収すると言う力がね」

魅魔は陰陽玉に付いての簡単な説明を行った。
陰陽玉の説明を聞いた霊児は思わず驚きの表情を浮かべてしまう。
陰陽玉にそんな力があったのかと。
霊児が驚いている間に、

「そして、力が十分に溜まると一度だけ絶大な力を放出させる事が出来るんだよ。尤も、放出させる力の方向性は正だろうが
負だろうが善だろうが悪だろうが自由に変えられるんだけど……ね」

魅魔は更に陰陽玉に付いての説明をする。
どうやら、陰陽玉と言う物は相当凄い物の様だ。
陰陽弾は只のオプション兵装ではなかったのかと言う事を霊児は思い知りながら、

「その力が目的か?」

魅魔に陰陽玉から放出される力が目的かと問う。
その問われた事を、

「正解。序に言うと力を放出した後の陰陽玉は再び力を吸収し、十分に溜まるとまた力を放出する。つまり、何度でも再利用が効くんだよ。陰陽玉はね」

魅魔は肯定し、その力は何度でも再利用が可能であると口にする。

「…………………………………………」
「さて、説明したところでもう一度言おうか。陰陽玉を寄こしな」

陰陽玉の説明を一通り行ったからか、魅魔は改めて陰陽玉を寄越す様に言う。
魅魔は博麗神社に陰陽玉が在ると思っている様だが、博麗神社には陰陽玉は無い。
魔理沙に上げてしまったからだ。
だからと言って、馬鹿正直にその事を魅魔に言えば標的が魔理沙に変わってしまう。
霊児はそこまで考えを廻らせ、

「断る」

断ると言う答えを返す。

「……何?」
「聞こえなかったのか? 断ると言ったんだ」

霊児はそう言いながら左腰に装備してある短剣を掴む。

「俺からも要求をさせて貰おうか。大人しく消えればそれで良し。さもなくば……」
「さもなくば?」

魅魔が続きの言葉を言う様に促すと霊児は短剣を抜き放ち、構えを取り、

「地獄の最下層に叩き落す」

地獄の最下層に叩き落すと告げる。
その発言を聞いた魅魔は口元を釣上げ、

「出来るのかい? お前の様な小僧に」

霊児を挑発する様な事を言う。
すると、

「お前はこれからその小僧に……倒されるんだぜ」

霊児はその挑発に挑発で返す。
その挑発を受けた魅魔は杖を構え、

「ほざいたな!! ガキが!!」

そう言い放ちながら霊児との距離を詰めに掛かる。
魅魔が距離を詰めに掛かったのと同時に霊児も距離を詰めに行く。
そして二人は中間点で激突し、

「「ッ!!」」

自分の得物で相手の得物を受け止めて鍔迫り合いの形にる。
だが、二人は直ぐに弾かれる様にして距離を取ってしまう。
距離を取っている中、魅魔は杖の先端を霊児へと向け、杖の先端から星の形をした弾幕を大量に放つ。

「チッ!!」

霊児は迫って来る弾幕を目に入れながら体勢を立て直し、上昇して放たれた弾幕を回避する。
弾幕が地面に着弾したのと同時に魅魔の姿を確認し様と視線を落とすと、

「ッ!? 居ない!?」

魅魔が居ない事に気付く。
何所に行ったか探そうとした瞬間、

「ッ!!」

霊児は上方から気配を感じた。
反射的に顔を上げると、右手で杖を振り被りながら降下して来ている魅魔の姿が目に映る。
この距離では迎撃は不可能であると霊児は判断し、杖での一撃を受け止める為に攻撃が来るであろう場所に短剣を動かす。
すると、霊児の短剣に魅魔の杖の先端部分が激突する。
そのまま自分の得物で相手の得物を押し込もうと力を籠めている時、

「その先端部分……刃か」

霊児は魅魔の杖の先端部分の三日月が刃で出来ている事に気付く。
あの三日月は只の装飾ではなかった様だ。

「よく気付いたね」

魅魔はそう言いながら左手の人差し指を霊児の顔に向けた。
その瞬間、

「ッ!!」

何かを感じた霊児は己の直感に従って顔を傾けると、魅魔の指先から何かが放たれる。
放たれたものとは魔力によるレーザーだ。
あのまま顔を動かさずにいたら顔面にレーザーが直撃していたなと思いつつ、霊児は魅魔に右手を向ける。
右手を向けられたのと同時に魅魔は慌てて霊児の短剣から杖を引いて後方に下がった。
魅魔が後ろに下がったタイミングで霊児の右手から青白い閃光が迸る。
迸ったものは霊児の霊力。
膨大とも言える程のこの霊力をまともに受けるのは不味いと魅魔は判断し、杖を突き出して障壁を生み出す。
それで霊児から放たれた霊力を防ぐが、

「ぐっ!!」

魅魔が思っていた以上に威力が高く、押し出される様な形で霊児との距離を離してしまう。
魅魔との距離が離れた事で霊児は一息吐き、

「……ん?」

気付く。
自分の頬から血が流れている事に。
先程のレーザーを完全に回避出来なかったのかと思い、

「……やるな」

霊児は右手の手の甲で血を拭い、魅魔に向って突撃して行く。
霊児の接近に気付いた魅魔は大量の弾幕を霊児に向けて放つ。
迫って来る弾幕を避けられるものは避け、避けられないものは短剣で斬り払うと言った方法で霊児は対処していく。
全ての弾幕を対処し、魅魔が自分の間合いに入ると霊児は短剣を使って接近戦を仕掛ける。
霊児が振るう短剣を魅魔は杖を使って防御していく。
霊児は終始攻めているのに対し、魅魔は防戦だけ一杯一杯の様だ。
だと言うのに魅魔は余裕の表情を浮かべている。
何か作戦でもあるのだろうか。
そんな考えを一瞬でも抱いたからか、

「はっ!!」

霊児は短剣で魅魔の杖をカチ上げて強引に隙を作り出す。
杖をカチ上げられてがら空きになった魅魔の胴体に霊児が渾身の一撃を叩き込もうとしたところで、

「ッ!?」

霊児は何かを感じ、反射的に攻撃を止めて後ろに下がる。
その瞬間、霊児が居た場所に幾つかの火柱が出現した。
あのまま攻撃を加え様としていたら霊児はこの火柱に呑み込まれてしまっていたであろう。
直前で下がっていて良かったと霊児が思っていると、

「よく気付いたね。ホント、博麗の名を持つ者は勘が良い……」

魅魔が感心した様にそう呟く。
そんな魅魔を警戒しながら霊児は火柱が発生した場所に目を向けると、

「空中に……魔方陣……」

空中に描かれた魔方陣が目に映った。
霊児が呟いた空中に魔法陣と言う単語に、

「ご明察」

魅魔は反応を見せ、

「私位になると、空中に魔法陣を描く事も出す事も朝飯前なのさ」

自分なら空中に魔法陣を描く事も出す事も容易いと言う。
魅魔が発したその言葉に霊児は何か引っ掛かりを覚えた。
描く事も出す事もと言う部分に。

「……ッ!?」

その部分に隠された何かに気付いた霊児は慌てて自分の周囲を確認すると、

「しまった!!」

霊児は自身が無数の魔方陣に囲まれている事に気付く。

「気付いたかい。だが、もう遅い」

魅魔がそう言った瞬間に、全ての魔方陣から様々な攻撃が放たれる。
それは弾幕であったり、レーザーだったり、炎のだったり、水であったり、氷であったり、雷であったりと様々だ。
隙など一切無い様な攻撃ではあるが、霊児は全て紙一重で避けていく。
それを見ていた魅魔は只の悪足掻きだと思っていたが、

「何……」

魅魔の予想とは裏腹に霊児に攻撃が当たる事を無かった。
当たりそうになるものは多々あるものの、霊児は来るのが分かっているかの様に射線上から体を動かしてしまって攻撃が当たらない。
中々被弾しない霊児に痺れを切らしたからか、魅魔自身も霊児に向けて大量の弾幕を放つ。

「くっ!!」

四方八方から迫って来る攻撃に魅魔自身から放たれる大量の弾幕。
魔法陣から繰り出される多種多様な攻撃と大量の弾幕の前では流石の霊児も完全に避け切れなくなり、体中に攻撃や弾幕を掠らせ始めていく。
このままではそう遠くないうちに被弾すると思った霊児は

「しっ!!」

魔法陣から繰り出される攻撃と弾幕の隙間を縫う様にして左手に持っている短剣を魅魔に向けて投擲した。
投擲された短剣の精度に魅魔は少し驚くも、涼しい表情をしながら顔を傾ける事で投擲された短剣を回避する。
短剣を避け切った後、

「そんな悪足掻きが通用すると……ッ!?」

魅魔はそう言い掛けて気付く。
霊児の姿が消えている事に。
霊児が何所にに行ったのか探そうとした時、

「ッ!!」

魅魔は自身の背後に気配を感じて慌てて振り返る。
振り返った先には投擲された短剣を左手で掴み、その短剣で魅魔の首を斬り落そうとしている霊児の姿が見えた。

「チィッ!!」

魅魔が反射的に後ろに下がった瞬間、霊児の短剣が振るわれる。
振るわれた短剣は魅魔が咄嗟に下がった事で狙いが外れ、

「……やってくれたね」

魅魔の首ではなく魅魔の帽子を斬り落とした。

「……一体、何をした?」

何時背後に回ったのか分からなかったからか、魅魔は霊児にどうやって自分の背後に回ったのかと問うが、

「教えると思っているのか?」

霊児は背後に回った方法を教えずに魅魔との距離を詰め、短剣を振るう。
魅魔は杖を使って斬撃を防いでいく。
これでは先程の焼き回しになると思われたが、そうはならなかった。
何故ならば、

「チィッ!!」

先程の攻防の時よりも斬撃のスピードが上がっているからである。
そのお陰で魅魔は魔法陣を仕掛けて攻撃を……と言った事を出来なくなっているのだ。
今回は完全に霊児の優勢。
このまま霊児が押し切るかと思われたその時、、

「かっ!?」

突如、霊児は腹部に強い衝撃を感じるのと同時に後方へと吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされている最中に霊児がブレーキを掛けて強引に止まり、腹部を押さえながら魅魔の方に目を向けると、

「足だと……」

普通の人間の様な二本の足が目に映る。
どう言う事だと霊児が思っていると、

「幽霊みたいな下半身だから、こんな足が現れるとは思わなかった?」

魅魔はそう言いながら霊児に自身の足が良く見える様に足を上げた。
どうやら、魅魔は幽霊の下半身と通常の下半身を使い分ける事が出来る様だ。
そこまで考えが回らなかった霊児を、

「まだまだ……甘いね」

魅魔は甘いと言い、自分の周囲に幾つかの魔方陣を出現させる。
そして、出現させた魔法時からレーザーを霊児に向けて放つ。
自身に向かって迫って来るレーザーを霊児は上昇する事で避け様とするが、

「なっ!?」

レーザーは霊児の後を追う様にして進路を変えて来た。
それに気付いた霊児は急いで今居る場所から離れるが、レーザーはまた進路を変えて来る。
追尾式だと判断した霊児は移動の最中に体を反転させながら両腕を広げ、

「夢想封印!!」

己が技を放つ。
霊児の体中から七色に光る弾が次々と飛び出して自身を追尾してくるレーザーに当たり、相殺していく。
夢想封印で全てのレーザーを相殺した事を確認した霊児は鳥居の上に降り立ち、魅魔を睨み付ける。
睨みつけられたからか、魅魔は迎え撃つ様にして霊児を睨み返す。
暫らくの間二人が睨み合いを続けていると、ポツリポツリと雨が降り始めた。
雨の勢いは次第に強くなり、雨音が強くなり始めると、

「今代の博麗は随分と強いね……」

魅魔が霊児の強さを褒め称える様な事を言う。
その言葉と同時に魅魔は自身の魔力を解放させ始め、

「なら、私も本気でいくかね」

魅魔から感じる魔力が爆発的に高まったのと同時に、

「……翼?」

魅魔の背中から黒い翼の様なものが生えた。
霊児はその事に一瞬驚くも、直ぐに表情を戻して構えを取る。
霊児が構えを取ったのを見たからか、魅魔は掌を突き出す。
そして、

「オーレリーズサン」

自身の正面に赤、青、黄、緑の色をした四つの玉を生み出し、

「……行け」

四つの玉を霊児に突撃させる。
霊児は飛び上がって回避し様とするが、

「……こいつもか」

この四つの玉も先程のレーザーと同じ様に霊児を追尾して来た。
ならば、先程と同じ様に迎撃するまで。
霊児はそう判断してスピードを落とし、四つの玉が近付いて来た所で短剣を振るう。
タイミングは完璧であった。
だが、

「なっ!?」

当たる直前で四つの玉が散開してしまった為、霊児の短剣は空を斬る結果となってしまう。
そして散開した四つの玉は霊児を取り囲む様に配置され、

「ッ!!」

四つの玉から次々と弾が発射された。
霊児は腕を交差させ、防御の体勢を取って自身に命中していく弾を堪える。
チャンスを待つ様に。
堪え始めてから少し時間が経つと、そのチャンスが来た。
どう言う理由かは分からないが、弾の射出が止んだのだ。
そのチャンスを逃す霊児では無い。
霊児は弾の発射が止んだのと同時に最大速でそれぞれの玉の近くに移動し、短剣を使って玉を真っ二つに叩き割る。
傍から見れば四つの玉は同時に割れた様に見えた事だろう。
真っ二つに割れた玉は墜落しながら消えていく。
それを見届けた霊児は魅魔の方に向き直ると、

「ッ!?」

魅魔が生み出したであろう三つの魔方陣からレーザーが放たれていた。
放たれたそれは途中で交わり、絡み合う様にしながら霊児に向って突き進んで行く。
レーザーのスピードから回避は不可能だと判断した霊児は左手に持っている短剣を真下に投げ、腕を交差させながら、

「八方鬼縛結界!!!!」

八方鬼縛結界を展開させる。
この八方鬼縛結界と言う結界は八方鬼縛陣と言う鬼をも縛る術を応用したものだ。
何故相手を縛る術を結界に応用したのかと言うと霊児は鬼をも縛ると言う点に着目し、考えたからである。
鬼をも縛る力を防御力に変えられないかと。
その結果生まれたのが、この八方鬼縛結界だ。
霊児の持つ結界術の中でも一番の防御力を持つ結界術である。
だが、

「ッ!? 破られ」

魅魔の放ったレーザーは、そんな霊児の結界を破った。
結界を破ったレーザーは霊児に命中し、大爆発が起きる。
同時に衝撃波と爆煙も発生した。
直撃はしたものの、魅魔はこれで終わったとは思えずに自分の死角に警戒を向ける。
この爆煙を利用して死角から攻撃を仕掛けて来ると魅魔は考えていたが、

「なっ!?」

その考えは外れる事となる。
何故ならば、霊児は真正面から突っ込んで来たからだ。
死角に意識がいっていた為、魅魔は反応が遅れてしまう。
反応が遅れた事で生まれた隙を突くかの様に霊児は魅魔に肩に掴み掛かり、

「夢想封印・零!!」

己が技を発動する。
夢想封印・零。
この技は只、夢想封印を零距離で放つと言う技だ。
だが、零距離で放つが故に非常に避け難い。
そんな攻撃を反応が遅れた状態でこの技を放たれた魅魔には避け様が無く、全弾まともに喰らってしまう。
同時に爆発と爆音が発生し、周囲を爆煙が包み込む。
それから少しすると、

「ぐっ!!」

魅魔はボロボロになりながらも爆煙の中か飛び出し、後ろに下がりながら体勢を立て直し、

「何所だ……」

周囲を探ると、

「見付けた……」

鳥居の上に立っている霊児を発見した。
霊児の格好はボロボロであり、額や肩、膝などから血が流れているがまだまだ戦えそうな様子だ。
魅魔が現時点での霊児の状態を推察していると、霊児は破れ掛かっていた左肩口の羽織とシャツの部分を引き千切る様に捨て、
口の中に溜まっていた血を吐き出した後、鳥居に刺さっていた短剣を引き抜いて構えを取る。
その瞬間、

「ッ!!」

霊児の姿が消えた。
同時に何かを感じた魅魔は慌てて頭を下げる。
すると、魅魔の頭が在った場所に光が走った。
走った光と言うのは霊児が振るった短剣だ。

「ちぃっ!!」

攻撃を外した事で霊児が舌打ちをすると、魅魔は体を回転させながら霊児が現れた場所目掛けて杖を振るう。
タイミングとしてはかなり完璧な一撃。
しかし、

「ッ!?」

魅魔の攻撃は外れてしまった。
何故ならば、杖が当たる直前に霊児の姿が消えてしまったからだ。
魅魔はまた後ろかと思い、振り返ろうとした瞬間、

「ッ!? 下か!?」

真下から気配を感じたので視線を下に落とす。
視線の先には短剣で斬り上げ様としている霊児の姿が見えた。

「くっ!!」

霊児の姿を確認すると、魅魔は咄嗟に顎を引きながら後ろに下がる。
そのお陰か、魅魔の被害は髪を数本斬られるだけで済んだ。
同時に魅魔にとってのチャンスが生まれた。
攻撃を外した事で霊児は少し無防備になっているからだ。
なので、

「貰った!!」

魅魔は隙を突く様にして杖を突き出す。
三日月の部分で霊児を突き刺して仕留める積りの様だ。
その三日月が霊児の腹部に当たる直前、霊児は背中に隠し持っている四本の短剣のうちの一本を右手で抜き放ち、短剣の腹で魅魔の刺突を受け止める。
受け止めたと同時に激突音が発生し、霊児は後ろに吹き飛ばされてしまう。
魅魔から大きく距離を取ってしまう前に霊児はブレーキを掛けて止まり、構えを取る。
そして魅魔の隙を探す様に霊児が視線を動かしていると、

「さっきから何度も消えたり現れたりするあれ……二重結界を応用した術だね」

魅魔は霊児が行っている消えたり現れたりする移動術を二重結界を応用したものだと言う。

「ッ!?」

言い当てられた事に霊児は思わず驚きの表情を浮かべる。

「私は過去に博麗の巫女と戦った事がある。その時に二重結界が発動したところを見た事があってね」

どうやら、過去に二重結界を発動したところを見た事があったので霊児の使う移動術が二重結界を応用したものであると気付いた様だ。

「そして……」

魅魔はそう言って自身の肩口の布地を弾き飛ばし、

「私に掴み掛かった時に何か細工をし、私の周囲に現れては消えると言う事を仕出かした」

自身の肩に何か細工をしただろうと言う事を口にする。
そこまで読まれた事に霊児は内心驚く。
魅魔の言う通り、霊児は夢想封印・零を放つ時に魅魔の肩を掴んで短剣に柄に刻み込んである術式と同じものを霊力で刻んで置いた。
だから、霊児は魅魔の周囲に二重結界式移動術で瞬時に現れる事だ出来たのだ。
これではもう魅魔に二重結界式移動術の術式を刻む事は出来ないであろう。
まだ、魅魔の肩に刻んで置いた術式の残存霊力からもう数回程なら二重結界式移動術で跳べたのにと霊児が思っていると、

「さて、お喋りはここまでだ」

魅魔はそう言って斜め下に数本のレーザーを放つのと同時に霊児を左右から挟み込む様な弾幕を放つ。
霊児は左右から迫って来る弾幕を後ろに下がって避けるが、

「がっ!?」

突如発生した火柱に当たり、霊児は火柱に呑み込まれながら上空に巻き上げられてしまう。
何故火柱がと思った瞬間に霊児は気付く。
魅魔が斜め下に放ったレーザーがこの火柱を生み出したのだと言う事に。
霊児はその事に気付いたのと同時に火柱の中から抜け出し、体勢を立て直す為に体を回転させた時、

「ッ!!」

真下から超高速で近付いて来る魅魔の存在が目に映った。
霊児は咄嗟に右手に持っていた短剣を魅魔に向けて投擲するが、

「読んでたよ!!」

投擲した短剣は容易く避けられてしまう。
短剣を避けた魅魔は更に速度を上げ、

「貰った!!」

杖を突き出す。
突き出された杖は、

「ッ!!」

霊児の胸部に深々と突き刺さっていた。
そして霊児の胸部から流れ出た血は杖を伝わり、魅魔の頬に何滴か零れ落ちる。
その瞬間、

「やった……」

魅魔は自身の勝利を確信した。
心臓を刺し貫かれて生きている人間などいないのだから。
だが、

「……残念だったな」
「ッ!!」

霊児は生きていた。
魅魔は馬鹿なと思い、目を見開く。
確実に心臓を確実に刺し貫いた筈なのにと思いながら、

「なんで……」

魅魔は思わずポツリとそう呟く。
その後、更に言葉を続け様としたところで、

「ギリギリで杖を掴んだからな。俺の心臓は無事だ」

霊児は杖を掴んだから自分の心臓は無事なのだと教える。
そう言われて魅魔は気付く。
霊児の右手が自分の杖を掴んでいる事に。
そして、自分が杖を突き刺す直前に霊児が短剣を投擲したのは杖を掴む手を空かせる為だったのかと魅魔は思う。
だが、そこで一つの疑問が魅魔の頭に浮かぶ。
何故、短剣で杖による刺突を受け止めなかったのだろうかと。
そうすれば霊児は傷を負わずに済んだであろうに。
魅魔がそんな疑問を抱いていると、

「態々攻撃を受けた理由は、勝ったと思った瞬間に油断が生まれるからだ。事実、お前は油断してただろう」

霊児は誰も聞いてもいないのに攻撃を受けた理由を話し始める。

「そして、態々こんな事を話した理由は……」

霊児はそう言いながら左手を魅魔に向ける。
左手に短剣は無く、その手は拳銃の形をしており、

「時間稼ぎだ」

指先は青白い光を放っていた。
魅魔は莫大な量の霊力が指先に集まっている事を肌で感じ、慌てて杖から手を離してその場から退避しようとした瞬間、

「終わりだ……」

霊児の指先から超巨大な霊力で出来た弾が発射された。





















「ふぅ……」

霊児はフラフラした様子で降下し、地に足を着ける。
そして周囲を見渡すと石畳は剥れ、巨大なクレーターが出来ているのが目に映る。
しかし、神社その物は無事だった様だ。
その事に安堵しながら霊児は地面に手を当てて、集中する。
それから少しすると、

「……よし、霊脈も無事な様だ」

霊児は地面から手を離して安堵の表情を浮かべた。
最後に放った一撃で霊脈に何らかの異常が発生するかもと思ったが、それは杞憂であった様だ。
そして、霊児は自身が生み出したクレーターの中に目を向けると、

「ッ!?」

驚きの表情を浮かべながら慌ててクレーターの中へと降りて行く。
何故、慌てていたのかと言うと、

「こいつ、消滅していなかったのか……」

クレーターの中に気絶している魅魔を発見したからである。

かなりボロボロな状態ではあるが、消滅はしていなかった。
意識を取り戻されては厄介だと思った霊児は、直接地獄に送る為の術式を発動させ様とした瞬間にある事に気付く。
霊児が気付いた事と言うのは、

「……邪気を感じない?」

魅魔から発せられていた邪気が感じられなくなっている事。
霊児は隠しているのかと思い、魅魔の体に触れて邪気があるかを探る。
結果、

「……やっぱり感じない」

完全に邪気が無くなっていると言う判断を下す。
何故、あれだけの邪気が無くなっているのかと霊児は考えを廻らせると、

「若しかして……こいつ、邪気のせいで暴走していた?」

邪気のせいで暴走していたのではと言う可能性を思い付くが、そこで直ぐにある疑問が浮かぶ。
魅魔程の実力者が邪気に中てられた位で暴走するであろうかと言う疑問が。
そんな疑問が浮かんだと同時に、

「……いや、違うか」

霊児は直ぐに別の可能性を考え出す。
魅魔程の実力者でさえ、暴走する程の邪気だったのではないかと言う考えを。
もし、この考えが正しければ大変な事になる。
下手をすれば幻想郷中の大半の者が邪気で暴走する事になってしまう。
そう考えた霊児は魅魔の襟首を掴んで、神社の中へと連れて行く。
魅魔から色々聞く為に。















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