霊児は魅魔を博麗神社の居間に運び、畳の上に寝かせる。
その後、霊児は自分の部屋へと向かう。
何の為に向かったかと言うと、自分の怪我の治療をする為だ。
自分の部屋に着くと霊児は服を脱ぎ、救急箱を取り出して怪我の治療を始める。
先ず、固まり始めた血を清潔なタオルで拭っていく。
血を拭う度に少々痛みが走ったが、霊児は走る痛みを無視して血を拭う作業を続ける。
そして全ての血を拭い終えて傷口が露になると、

「治癒術か何かを作った方が良いかもな……」

霊児はそんな事を呟きながら傷口に薬を塗っていく。
この時にも痛みが走ったが霊児はその痛みを無視する。
薬を全て塗り終えると、霊児は薬を塗った場所に包帯を巻いていく。
片手で包帯を巻くには手古摺りそうな場所にも傷口は在るのだが、霊児は器用に包帯を巻いていった。
そして、

「……よし」

傷口全てに包帯を巻き終えた霊児は一息吐き、一通り体を動かしてみる。
動かす度に痛みは走るものの、痛みは無視出来る範囲であるし包帯も動きを阻害したりはしない。
この分なら仮にもう一度戦う事に何の問題も無いなと霊児は思い、救急箱を仕舞って血で汚れたりボロボロなった服と羽織りを
自分の近くに置いて綺麗な服に着替え直す。
着替えが終わると、霊児はボロボロになった衣服を抱えて居間へと向かう。
魅魔の様子を確認する為だ。
霊児は居間の襖の前に着くと、襖を開けて中に入る。
すると、

「……まだ寝てるのか」

魅魔は気絶しっ放しである事が確認出来た。
それを確認した霊児はその場に座って胡座を掻き、持っている衣服を近くに置く。
魅魔に話を聞かない限りこの先の行動方針が決まらないからだ。
霊児は胡座を掻いたまま暫らくの間ボーッとしていると、

「う……ううん……」

魅魔が目を覚まし始める。
目を覚ましたのと同時に魅魔は周囲を見渡し、

「あ……」

霊児の存在に気付く。
同時に魅魔は何かを思い出した表情になった。
そして、

「あー……すまんかった」

魅魔は霊児に頭を下げる。
魅魔から敵意を感じなかったからか、

「取り敢えず、色々と説明して貰おうか」

霊児は魅魔に色々と説明をする様に要求した。





















「つまり邪気に中てられ、邪気を吸収していたせいでああなったと?」
「ああ、その認識で間違ってないよ」

魅魔は霊児が言った事を肯定しながら出されていたお茶を飲み、

「確かに博麗の者には怨みはあったが、それは昔の話さ。長く生きている……生きていると言うのは少し語弊があるか。
長く存在しているとそれも薄まっていってね。今更博麗の者をどうこうし様と言う想いはなかったんだよ」

今更博麗の者に危害を加える気はなったと口にする。

「つまり、急に俺を始末し様と行動を起こしたのは……」
「邪気に中てられたから……だね」

霊児が言おうした言葉を魅魔は先に言う。

「ふよふよとのんびりと飛んでいると物凄い強い邪気を感じてね。ちょいと様子を見に行ったら……」
「そのまま邪気に中てられて暴走したと?」
「まぁ……そうなるね」

霊児が言った事を肯定しながら魅魔はバツが悪そうな顔になった。
どうやら、邪気に中てられて暴走をした事を苦々しく思っている様だ。
そんな表情をしながら、

「気付いたらこう……憎悪とか憎しみとかが湧き上がって来て博麗の者を……つまりはあんたを殺さなきゃ気が済まないって
感じになってね。更には全てを滅ぼしたいと言う思考も生まれ、気付いたら行動に移していたって訳さ」

魅魔は邪気に中てられら後の事に付いて話す。

「ふむ……」

魅魔の話を聞き、霊児は嘘を吐いてはい無いと感じる。
序に言えば霊児の勘も特に何かを言ってはいなかった。
だが、魅魔が嘘を吐いていないから問題なのであると霊児は考える。
魅魔程の実力者でさえ、暴走する邪気。
先程思い付いた可能性が見事に的中した霊児は思い、これは放置していたらマズイであろうと頭を抱えてしまう。
下手をしたら今この瞬間にも至る所で邪気に中てられた誰かが暴走している可能性がある。
勿論魅魔が全ての邪気を吸収してもう安全と言う事も考えられるが、それだけで安全と決め付けるのは早計だ。
これは早急に調べる必要がある。
霊児は何で一戦交えて疲れているのにこんな事をしなければならないんだと思いながら、

「なぁ」
「なんだい?」
「お前が邪気を感じたのはどの辺だ?」

魅魔に邪気を感じた場所が何所なのかを問う。
すると、魅魔は襖を開け、

「あーと……ここからだと……あっちの方だね。あっちに飛んで行けば分かると思うよ」

廊下に出てある方向に指をさす。

「そうか……」

霊児は魅魔が指さした方向を記憶していくと、

「それにしても……」
「ん?」
「今代の博麗は随分と強いんだね。昔、私に色々してくれた博麗の巫女は文字通り一捻りする位の力は今の私にはあるんだけどね」

魅魔が霊児の強さを称賛する様な事を口にする。

「ま、強くなければ博麗なんてやってられないしな」

魅魔の称賛の言葉に霊児は返す。
そして近くに置いておいたボロボロになった衣服を持って立ち上がり、外に目を向ける。

「何所かに行くのかい?」

魅魔が何所に行くのかを尋ねると、

「お前が中てられた邪気がどうなっているのか確かめに行く」

霊児は邪気がどうなっているかを調べに行くと言う。

「なら、私も一緒に行こうか?」

魅魔は自分も同行し様かと言うが、

「ダメだ。また邪気に中てられて暴走でもしたら洒落にならん」

霊児はまた邪気に中てられて暴走したら面倒だから付いて来るなと返す。
そう言われた魅魔は思わず言葉を詰まらせてしまう。
実際に邪気に中てられて暴走してしまったのだから仕方が無い。
そんな感じで押し黙っている魅魔に対し、

「俺が戻ってくるまで留守番をしといてくれ」

霊児は留守番をしてくれと言う。

「……良いのかい?」
「何がだ?」
「私にそんな事を頼んでさ。さっきまで殺し合いをしてたのに」

先程まで殺し合いをしていた相手に留守番を頼む事に魅魔が疑問を覚えていると、

「じゃあ聞くが今も俺を殺したいと思っていたり、幻想郷を滅ぼしたいと思っているのか?」

霊児は魅魔に今でも自分を殺したいと思ったり幻想郷を滅ぼしたいと思っているのかと尋ねる。

「いいや」

その事を魅魔が否定すると、

「だろ。ならお前をどうこうする理由はないさ。お前と戦うのも疲れるし、地獄の最下層に叩き落す術式を発動するのも疲れるしな」

霊児はそう言って廊下に出てそのまま飛んで行こうとすると、

「そう言えば……あんたの名前を聞いていなかったね」

魅魔は霊児の名を聞いていなかったと呟く。
それを聞き、霊児はそう言えばそうだったなと思い、

「霊児。七十七代目博麗、博麗霊児だ」

自身の名を名乗り、空中へ躍り出て邪気が発生しているであろう場所へと向かう。
霊児の飛んで行く姿を見ながら、

「ほんと……変わってるね。今代の博麗は」

魅魔はポツリとそう呟いた。





















「結構飛んだし、この辺りだと思うんだが……」

霊児はそう言いながら眼下に広がる森を見渡していくと、

「……ん?」

森の一部に何かを感じた。
霊児はその感じた場所に降下し、

「……っと」

地に足を着け、邪気を感じる方へと足を進めて行く。
先に進むにつれて邪気が強くなるの感じ、霊児が表情を引き締めたところで、

「こいつは……」

発見する。
霊児が発見したと言うのは少々風化した白骨死体。
霊児はその白骨死体に近付き、膝を地に着けて調べ始める。
調べ始めてから少しすると、

「……こいつで間違いないな」

魅魔から感じた邪気と同じ感覚だった為、この白骨死体のせいで魅魔が暴走したのだと判断する。
てっきり呪われたアイテムか何かが邪気の発生源だと考えていた霊児は意外だと思いつつ、もう一度その白骨死体を調べていく。
着ている服はかなりボロボロだが、幻想郷の人間が着ている服では無いと言う事が分かった。
ならば、これは外来人の白骨死体であろう。
だが、疑問が浮かぶ。
仮に人間の死体が邪気を発したとして、魅魔程の力がある者が狂うであろうかと言う疑問が。
しかし、魅魔がこの邪気で暴走したのは事実。
霊児は少し考え、

「あまりこう言うのは好きじゃないんだがな……」

そう呟きながら霊児は頭蓋骨の部分に手を触れ、目を瞑って集中する。
霊児は何をしているのかと言うと、この白骨死体から記憶を読み取ってどう言う原因で邪気を発する様になったのか調べているのだ。
調べ始めてから暫らくすると、

「…………成程」

霊児は頭蓋骨から手を放して立ち上がる。
何故頭蓋骨から手を離したかと言うと、この白骨死体が邪気を発する様になった原因が分かったからだ。
どうも、この白骨死体の生前は相当な善人だった様なのである。
だが、その人の良さに付け込む者が居た。
そのせいで身近な者にも、信じていた者にも、何もかもにも裏切られ、最終的には村八分に遭ったかの様に住んでいた場所を追われたのだ。
しかし、それでもこの者は誰か怨むと言う事はしなかった。
そんな風に誰も怨まなかった者であったが、怨んでしまったのだ。
死ぬ直前に。
何故、自分がこんな目に遭わなければならない。
自分が何をしたんだと。
そして全てを怨み、憎み、憎悪して死んでいった。
その時に抱いた想いは邪気になり、それは日に日に強くなっていく。
この者が死んでから幾らかの年月が流れた後、幻想入りを果たして今に至ると言う訳だ。

「人の想いは強い。それは善い方向にも悪い方向にでも何かを変える程に……それをこの者は見事に体現した……か」

霊児は白骨死体を称賛する様な事を口にし、

「この近辺に妖精処か妖怪の気配を感じなかったのは邪気が原因だな」

周囲に妖精や妖怪の気配を感じられなかった理由を理解する。
もし、この周囲に妖怪が居たら骨であろうと食い尽くされていた事であろう。

「妖精は勿論の事、並大抵の妖怪では近付く事さえ出来ない邪気でも魅魔位の実力者になると興味を引く対象になる……か」

そして近付いてしまったら邪気に中てられて暴走してしまう。
しかもそれは強者に限られると言う非常に厄介なもの。
事が大きくなる前に解決する必要がある。
なのでこの邪気を祓う為に、

「……邪気を祓う為にもまずは供養から始めるか」

霊児は供養を始める事にした。
取り敢えず近くに落ちていた木の枝を線香代わりにし、邪気を祓っていく。
邪気の量が量だけに時間が掛かると思われたが、邪気は思っていた以上に早くに祓い終えた。
邪気を払い終えたのと同時に霊児は白骨死体を丁寧に埋葬していく。
埋葬をし終えると、

「後は……っと」

霊児は印を組んで術を発動させる。
何の術を発動させたかと言うと、残り香の様に漂っていた周囲の邪気を祓う為の術だ。
この様に周囲の邪気を祓って置けばここにも再び妖精やら妖怪も寄り付く様になるであろう。
もうやる事は無いと判断し、この場を後にし様としたところで、

「……ああ、そうだ」

霊児は何かを思い出したかの様に埋葬した場所を囲む様に陣を描いていく。
陣を描き終わった後、霊児はまた印を組んで術を発動する。
何をしたかと言うと、埋葬した場所に結界を張ったのだ。
下手に荒らされて白骨死体からまた邪気が発せられるのを防ぐ為に。
霊児は結界が張られた事を確認した後、

「……来世では幸せにな」

そう呟いてこの場所を後にした。





















「香霖、居るかー?」

そう言って霊児は香霖堂の扉を開ける。
霊児は博麗神社に帰る前に香霖堂へやって来たのだ。
魅魔との戦いでボロボロなった衣服を修繕して貰う為に。
霊児の来訪に気付いた霖之助は、

「ああ、いらっしゃい」

霊児を出迎える言葉を口にする。
そんな霖之助の言葉を聞きながら、霊児はカウンターに近付き、

「羽織りと服の修繕を頼む」

持って来ていた衣服をカウンターの上に置く。
霖之助は置かれた衣服を広げ、

「これはまた……随分とボロボロにしたものだね」

そんな感想を漏らす。
その後、霊児の方に視線を移す。
衣服に血が着いていた事と、頭部や服の隙間などから包帯が見えた事から、

「見たところ怪我もしている様だけど、一体誰にやられたんだい? 花の妖怪かい?」

霖之助は誰に怪我を負わされたのかを尋ねる。
霖之助は幽香に負わされた傷と思っている様だが、

「いや、悪霊」

霊児はそれを否定する様に悪霊に負わされたと言う。

「悪霊? 君をそんなにする程の悪霊がいるのかい?」

霖之助は少し訝し気な表情をしながら確認する様に本当に悪霊に傷を負わされたのかと問うと、

「ああ」

霊児はその事を肯定する。

「やれやれ、君をそこまでの手傷を負わせる悪霊が居るとは……怖い話しだ」
「安心しろ、その悪霊はもう改心したらしいから」

霊児は霖之助を安心させる事を言い、

「俺が持って来た服、どれ位で直る?」

自分の服がどれ位で直るのかを問う。

「そうだね……四日かな」
「四日か……」

ボロボロになっているし、血で汚れていたりしているので妥当な日数だろう霊児は考える。

「それじゃ、四日後に取りに来るぞ」
「うん。その時までにはちゃんと修繕しておくよ」

その後、適当に雑談をして霊児は香霖堂を後にした。
























霊児が博麗神社に帰り、居間へと続く襖を開けると、

「お帰りー」

魅魔が非常にリラックスした様子で霊児を出迎えた。
そんな魅魔を見て、

「おい……」
「なんだい?」
「何、人の饅頭と煎餅を勝手に食ってんだ?」

霊児はそう突っ込む。
霊児の突っ込み通り、魅魔は饅頭と煎餅を食べている。

「いやー、只待っていると言うのも暇で……」

魅魔が悪気がないと言った表情で煎餅を口へと運ぶ。
それを皮切りにしたかの様に口論となるが、魅魔を神社に泊めると言う事態に落ち着いた。
霊児曰く、どうしてこうなったとの事。
そしてその翌日。
畑の様子を見に来た霊児は唖然とした表情を浮かべる。
何故かと言うと、

「ありゃー……これは酷いね」

畑が見るも無惨な状態になっていたからだ。
その惨状は魅魔も思わず酷いと言ってしまう程。
この惨状を作り出した者は昨日の妖怪や怨霊であろう。

「………………………………」
「あ、あの霊児?」

体中から霊力を漏らし始めた霊児に魅魔は恐る恐るそう尋ねると、

「勿論、これ直すのを手伝ってくれるよな?」

霊児はかなり良い笑顔で魅魔に手伝う様に言う。
すると、

「も、勿論さ!!」

魅魔は間髪入れずに手伝う旨を伝える。
後に魅魔はこう語った。
了承以外の選択肢はなかったと。


















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