「毎日毎日、鍋物と言うのはどうかと思うんだが……」
魅魔が毎日の食事が鍋物と言うのはどうかと思うと言う発言をすると、
「只飯食って癖に文句を言うな」
霊児はただ飯を食ってる癖に文句を言う。
すると、魅魔は思わず言葉を詰まらせてしまった。
それも仕方が無い事であろう。
ただ飯を食っている事は事実なのだから。
「それに朝は卵、昼は魚、夜は醤油って言う風に味付けは変えているだろ」
味付けは毎回変えているのだから霊児は文句を言われる筋合いは無いと言うと、
「……もっと他に変えるところがあるんじゃないかい?」
魅魔はそんな突っ込みを入れる。
が、
「無い」
霊児は変える事なぞ何も無いと断じて箸を進めていく。
何を言っても無駄だなと感じた魅魔は、
「……私はもう何も言わないよ」
何処か諦めた表情をしながらそう言い、箸を進めて行く。
黙って食う辺り、霊児の作る鍋料理にそこまで文句があると言う訳では無い様だ。
食事を取り終えた後、霊児は空になった鍋を台所に持って行って鍋洗いを始める。
それが終わると、霊児は縁側で茶を啜りながらのんびりと過ごす。
魅魔はそんな霊児をボケーッとした表情で見ながら、
「それにしても……この神社は相変わらず参拝客が来ないね」
博麗神社に参拝客が来ない事を呟く。
「まぁ……場所が場所だしな」
霊児はそう言いながら魅魔の方に顔を向け、
「昔はどうだったんだ? 俺より前の博麗の事を知ってるんだろ?」
昔の博麗神社はどうだったのかを尋ねる。
尋ねられた魅魔は、
「昔かい? そうさねぇ……私の知る限りじゃあ……見た事がないね」
少し昔の事を思い出す様な表情をしながら見た事がないと言う。
どうやら、博麗神社に参拝客が来ないのは昔からの様である。
まぁ、別に参拝客の来なくても困る事は無いし別にこのままでも良いかと言う様な事を霊児が考えていると、
「おや、誰か来たみたいだよ」
魅魔は誰かがやって来たと言う。
「ん?」
それに反応した霊児が顔を上げると、空から何者かがやって来ているのが分かる。
少しすれば、箒に跨ってやって来ていると言う事も分かった。
箒に跨っていると言う事から、
「あれは……魔理沙か」
霊児はやって来ているのは魔理沙であると判断した瞬間、
「やっほ、霊児!!」
魔理沙は霊児の目の前に降り立って挨拶をする。
「よお」
その挨拶に返す様に霊児が片手を上げると、
「あのねあのね!! もう少したら新しい魔法が出来そうなんだ!! 出来たら霊児に見せて上げるね!!」
魔理沙はキラキラとした表情をしながら新しい魔法が出来そうだと言い、その魔法が出来たら霊児に見せると言う。
そんな魔理沙の表情を見た霊児はどんな魔法を作ったのだろうと思っていると、
「お、その子は魔法使い……だね」
魅魔が霊児の後ろから顔を出して、魔理沙が魔法使いであると判断した。
急に魅魔が現れた事に魔理沙は驚きの表情を浮かべるも、
「えっと……誰?」
魅魔に誰であるかを訪ねる。
「私かい? 私は魅魔って言う者さ」
魅魔は自身の名を名乗りながら魔理沙に近付き、
「一寸、私と話しをしてみないかい?」
自分と話してみないかと言う。
「えっと……はい」
魔理沙は少し悩んだものの、魅魔と話す事にした。
何やらこそこそと話している魔理沙と魅魔を見た後、霊児は再び茶を啜ろうとしたところで、
「霊児ー」
また誰かが博麗神社にやって来た様だ。
霊児は今度は誰だと思いながら声が聞こえて来た方に顔を向けると、
「にとりか」
にとりの姿が目に映る。
にとりが霊児の目の前に降り立つと、
「どうしたんだ?」
霊児が何しにやって来たのか問う。
その問いに、
「例の装置のメンテナンスに来たんだよ」
にとりはそう答えてスパナやらレンチやらを取り出す。
にとりの言う例の装置と言うのは畑に自動で水を遣る機械の事だ。
もうメンテナンスの時期だったかと霊児が思っていと、
「それじゃ、早速メンテナンスしてくるね」
にとりは神社の中にある装置に向かおうとする。
それを見た霊児は、
「あ……」
にとりに頼もうとしていた事を思い出す。
「にとり、一寸待ってくれ」
思い出した事を伝える為に霊児はにとりを呼び止める。
呼び止められたにとりは、
「うん? なんだい?」
足を止めて霊児の方に顔を向けた。
そのタイミングで、
「頼みたい事があるんだが」
霊児は頼みたい事があると口にする。
「頼みたい事?」
頼みたい事と言われたにとりが首を傾げると、
「ああ、タンクの管を風呂場に繋げる事って出来るか?」
霊児はやって欲しい事をにとりに伝えた。
「風呂場に?」
「ああ、つまり……」
霊児はにとりに管をどう繋げ、どう言う風にして欲しいのかを話す。
「ふむ……蛇口を捻れば水が出たり、お湯が出たりする様にしたいと」
「ああ、どうだ? 出来るか?」
少し悩んでいるにとりに霊児は出来そうかと尋ねると、
「ふふん、河童の科学力を舐めて貰っては困るよ。それぐらい朝飯前さ」
にとりは胸を張りながら出来ると口にする。
どうやら、霊児の要望は叶いそうな様子だ。
「でも、材料の調達があるから少し遅れると思うよ」
「分かった」
多少時間が掛かるのは仕方が無い事だなと霊児が思っていると、
「報酬は胡瓜ね」
にとりは報酬に胡瓜を要求して来た。
「夏になったら作って置く」
霊児が夏になったら胡瓜を作って置くと口にすると、
「オッケー。じゃあ、早速風呂場に案内してよ」
にとりは風呂場に案内する様に言う。
どの様に付けるか考えたい様だ。
そんなにとりの考えを察したからか、
「分かった」
霊児はにとりを風呂場へと案内する。
風呂場に着いたにとりは、霊児の希望を聞きながらどう付けるかを考えていく。
それが終わって大体の構想が決まった後、にとりは当初の予定通りに水遣り機のメンテナンスへと向かう。
メンテナンスをしている間はにとりの傍に居ても邪魔になるだけなので霊児は縁側に戻ると、
「……ん?」
魔理沙と魅魔が居なくなっている事に気付く。
「どこ行ったんだ、あいつ等?」
霊児はそう呟いて周囲を見渡すが、
「……居ないな」
魔理沙と魅魔の姿は何処にも見えなかった。
急に居なくなった二人に霊児は少し疑問を抱くも、
「ま、大丈夫だろ」
直ぐに大丈夫だろうと思い、縁側で寛ぐ事にした。
あれから一週間後。
この一週間、珍しく魔理沙も魅魔も霊児の所に顔を見せなかった。
その代わりと言っては何だが、今日は朝からにとりがやって来ている。
風呂場の改修工事の為だ。
にとりが朝っぱらから改修工事を行っている中、霊児は縁側で茶を飲んでいた。
そして、
「はぁー……」
一息吐きながら空を見上げると、
「……ん?」
誰かがここにやって来ているのが霊児の目に映る。
やって来ている者は二人である事を霊児が認識すると、その二人は霊児の前に降り立つ。
霊児の前に降り立ったのは、
「霊児、元気だった?」
「少し久しぶりだね」
魔理沙と魅魔であった。
「暫らく見なかったけど、何してたんだ?」
霊児が二人に暫らく見なかった理由を尋ねると、
「ああ、実はね」
魅魔は魔理沙の頭に手を乗せる。
そして、
「この子を弟子にしたんだ」
魅魔は魔理沙を弟子にしたんだと言う。
「弟子に?」
霊児は少し驚いた表情をしながら魔理沙の方を見ると、魔理沙は何所か嬉しそうな表情をしている。
そんな魔理沙の表情を見た後、霊児は魅魔に顔を向け、
「何でまた?」
何故、魔理沙を弟子にしたのか問う。
霊児の問い掛けに、
「ちょいと、この子に光るものを見てね」
魅魔はそう答えて魔理沙の頭から手を離す。
魅魔の話を聞き、霊児は魔理沙が嬉しそうな表情をしている理由を理解した。
魅魔程の魔法使いに評価された事が嬉しかったのだろう。
霊児がそんな事を思っていると、
「で、だ。ちょいと頼みがあるんだが」
魅魔が頼みがあると口にする。
「頼み?」
霊児が首を傾げると、
「ああ、ちょいと魔理沙と手合わせをしてくれないか?」
魅魔は魔理沙と手合わせをして欲しいと言う。
「手合わせを?」
手合わせと言われたからか、霊児は魔理沙の方に再び顔を向ける。
魔理沙のやる気満々と言う表情が霊児の目に映った。
何を言っても結局戦う事になりそうだったので、
「ああ、いいぜ」
霊児は手合わせをする事を了承し、立ち上がる。
そして魔理沙から少し離れた場所に向かい、霊児は改めて魔理沙に顔を向けた。
霊児の目には相変わらず自信満々な表情をしている魔理沙が映っている。
魅魔に弟子入りしたお陰で実力が大きく上がったのであろうか。
霊児はそんな事を考えながら腰を少し落とす。
そのタイミングで魔理沙が動いた。
魔理沙は魔力を集中させた両手を突き出し、
「メテオニックシャワー!!」
大量の星型の弾幕を放つ。
弾幕の量に霊児は少し驚くも、直ぐに跳躍して弾幕を避ける。
が、
「……っと」
魔理沙はそれを読んでいたかの様に霊児の回避先に現れて箒を振るう。
回避先を読まれた事に霊児は少し驚いたものの、右腕で魔理沙の箒を防ぎ、
「そら」
左手の人差し指の先を魔理沙に向け、そこから霊力で出来た弾を一発だけ放つ。
放たれたそれは魔理沙に着弾し、爆発と爆煙が発生した。
同時に、霊児は魔理沙から距離を取って地に足を着ける。
そのタイミングで、魔理沙は爆煙の中を突っ切る様にして飛び出して来た。
自身の正面に半透明な何かを展開させながら。
それを見た霊児は、
「障壁か……」
展開されているのは障壁であると判断した。
あれを展開したお陰で霊児の攻撃を無傷で防げた様である。
幾ら加減したとは言え、魔理沙はあの距離で霊児の攻撃を完全に防いだ。
しかも爆煙の中から飛び出す時に霊児とある程度の距離が取れる進路を取った。
自分の思っていた以上に魔理沙が強くなっているなと思っていると、
「……ん?」
霊児は魔理沙が何かブツブツと呟いている事に気付く。
魔法使いである魔理沙が何かをブツブツ呟いているとなると、
「……詠唱か」
詠唱しか無い。
霊児がそんな判断をしている間に詠唱が終わったのか、
「オーレリーズサン!!」
魔理沙は魔法を発動した。
魔理沙の発動した魔法を見た霊児は、
「あれは……魅魔の魔法か……」
魅魔が使った魔法であると思い出す。
だが、魅魔のとは違って生み出された弾は赤と青の二つだけ。
それに大きさも魅魔のと比べて小さい。
まだ未完成なのだろうかと霊児が考えていると、その二つの弾は霊児に向けて突撃して来た。
「お……っと」
突撃して来た二つの弾を霊児は落ち着いた様子で避けていくと、魔理沙は何かを霊児に向けて投げて来る。
魔理沙が投げて来た物は、
「陰陽玉か……」
霊児が上げた陰陽玉であった。
陰陽玉はかなりの硬度があるので直撃したら痛いだろうなと霊児は思いながら体を傾ける。
霊児が陰陽玉を避け切ったタイミングで、つい先程避けた赤と青の弾が再び霊児に向って来た。
「……っと」
霊児は当然それを避けるが、その瞬間に陰陽玉が再び舞い戻って来る。
赤と青の弾を回避した瞬間には陰陽玉が。
陰陽玉を回避した瞬間には赤と青の弾が攻撃を仕掛けて来る。
その攻撃の中に居る霊児は中々に考えられた波状攻撃であると思った。
しかし、そんな波状攻撃であってもそう易々と攻撃に当たる霊児では無い。
霊児は何度目かになる陰陽玉を避けた後、飛んで来た赤と青の弾を殴って破壊する。
その直後に飛んで来た二個の陰陽玉を明後日の方向に蹴り飛ばす。
これで波状攻撃は終了だ。
波状攻撃が終わった事で、
「ふぅ……」
霊児は一息吐く。
が、
「……ん?」
直ぐに魔理沙から魔力の高まりを感じたからか顔を上げる。
そのまま魔理沙に視線を移すと、ミニ八卦炉を両手で持って突き出している魔理沙の姿が目に映った。
何か強力な一撃を放って来るのかと霊児が思っていると、魔理沙は得意気な表情をしながら、
「マスタースパーク!!!!」
極太のレーザーを発射した。
その極太レーザーは幽香が放った極太レーザーとそっくりであった。
魔理沙の得意気な表情から、あれが自分に見せたかった魔法かと思いながら霊児は右手を突き出して、
「ぐ……」
極太レーザーを受け止める。
思っていた以上に威力があったからか、霊児は歯を喰い縛って力を籠めた。
それから少しすると、魔理沙の魔力が切れたからか極太レーザーの出力が落ち始めて来る。
そして極太レーザーが完全に消えると霊児は左手で左腰にある短剣を抜き放ち、一瞬で魔理沙に近付き、
「……え?」
短剣の切っ先を魔理沙の首に突き付ける。
何時近付かれたのか分からないと言った表情をしている魔理沙に、
「俺の勝ちだな」
霊児は自分の勝利を宣言して短剣を魔理沙の首から離して鞘に収める。
そのタイミングで、
「勝負あったみたいだね」
魅魔が二人に近付いて来た。
すると、
「魅魔様ー、負けちゃいましたー」
魔理沙が魅魔に泣き付く。
「よしよし、魔理沙は十分頑張ったよ」
そう言いながら魅魔が魔理沙の頭を撫でていると、
「おーい、風呂場の改修工事終わったよ」
にとりが風呂場の改修工事が終わったと言って神社の中から出て来た。
同時に、
「あれ、魔理沙来てたんだ」
にとりは魔理沙の存在に気付き、魔理沙に近付いて行く。
「あ、にとり」
にとりが近付いて来たから、魔理沙もにとりも存在に気付く。
そして、四人で雑談をしながら神社の中に入って行った。
「にして、何で俺を魔理沙と戦わせたんだ?」
魔理沙とにとりが台所で夕食を作っている間、暇だったので霊児は気になった事を魅魔に尋ねてみた。
「ああ、それかい。魔理沙が少し天狗になり掛けていたからね。調子に乗る前に魔理沙に霊児と戦う様に言ったのさ」
どうやら、弟子である魔理沙の増長を防ぐ為に霊児と戦わせた様だ。
「へぇー……結構ちゃんと師匠をやってるんだな」
霊児が少し驚いた顔をしながらそんな事を言う。
「私を何だと思ってたんだい?」
魅魔は少しムスッとした表情をしながら霊児の方に顔を向けると、
「悪い悪い」
霊児は片手を上げて軽く謝る。
その様子を見た魅魔は溜息を一つ吐き、
「ま、最初は少し渋っていたんだが……ある事を言ったら凄くやる気を出してね。あれには少し驚いたね」
渋っていた魔理沙にやる気を出させる事を言ったら自分の想像以上だったと言う。
「何を言ったんだ?」
「それはあれさ。女同士の秘密ってやつさ」
どうやら、魔理沙に言った言葉を口にする気は無い様だ。
言う気が無いなら別にいいかと霊児が思っていると、
「しかし、私はあんたがあの子に陰陽玉を上げてた事に驚いたよ」
魅魔は魔理沙に陰陽玉を上げた事に驚いたと言う。
「まぁ、あれは俺には必要ないからな」
「あれ……一応は博麗の秘宝だよ」
魅魔が少し呆れ気味に陰陽玉が博麗の秘宝であると口にするが、
「俺にとっちゃ倉庫で埃を被ってるだけの物だったけどな」
霊児は自分に取っては価値の無い物と言って体を伸ばす。
それを聞いた魅魔は苦笑を浮かべ、
「それはそうと、魔理沙は強くなってただろ」
少し自信有り気な表情をしながら魔理沙は強くなっていただろうと言う。
「ああ、それには驚いた。どんな鍛え方したんだ?」
霊児が魅魔にどんな鍛え方をしたのかと問うと、
「魔理沙本人の希望もあったけど、基本は長所を伸ばすのを重点的にだね」
魅魔は長所を伸ばす様に鍛えたと言う。
「長所を?」
「あの子は保有魔力量が高く、光や熱を扱う魔法が得意でね。そこをさ」
「へー……」
「後は基本的な魔法に戦闘のいろはだね。ま、あの短時間であそこまで強くなったのは師である私が良かったからだね」
魅魔が師である自分が良かったから魔理沙が短時間でここまで強くなったのだと言うと、
「結局、それを言いたかっただけじゃないのか?」
霊児がそんな突っ込みを入れる。
「ははは、かもね。でもま、誰かを鍛えるってのは楽しいよ。教えた事を吸収し、成長していく姿を間近で見いくのはね……」
そう言って魅魔が少し遠い目をしていると、
「おーい、ご飯できたから運ぶの手伝ってよー」
台所からにとりの声が聞こえて来た。
料理を作っていたのが魔理沙とにとりであったからか、
「おお、今日は何かな? 魔理沙の作る料理は毎回種類が違うから楽しみだ」
魅魔は嬉しそうな表情をする。
「それは俺への当て付けか?」
「さてね?」
霊児と魅魔はそんな事を言い合いながら、台所へと向って行った。
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