霊児が何時もの様に野菜を適当に鍋に入れた鍋料理を食べていると、襖が開かれる音が聞こえて来た。
その音に反応した霊児は音が聞こえて来た方に顔を向けると、

「魅魔か」

魅魔の姿が目に映る。

「やあ」

魅魔は片手を上げて挨拶の言葉を口にし、霊児の近くにまで移動して腰を落ち着かせる。
そして、

「また鍋料理かい。毎日毎日これ何だろ? よく飽きないねぇ……」

そんな事を口にした。

「そうか?」

霊児は少し疑問気な表情をしながら魅魔の方に顔を向け、

「そういや何でお前一人で来てるんだ? お前、魔理沙の家に引っ越したんじゃないのか?」

魔理沙の姿ない事から、その様な事を尋ねる。

「いや、引っ越した訳じゃないんだよ」

魅魔は別に引っ越した訳では無いと言い、

「そりゃ、一ヶ月近くは住み込みで魔法の事とか教えてたけどね」

何も無い所から茶碗や箸と言った食器を具現化させた。
食器を出す時に魅魔から魔力を感じた事から霊児は召喚魔法の一種かと判断しつつ、

「なら、魔理沙は一人前になったのか?」

魔理沙は一人前になったのかと尋ねる。
霊児から尋ねられた事を、

「いや……確かにこの一ヶ月で相当力は上げたけど、まだまださ」

魅魔は否定しながら自分の茶碗にご飯をよそっていく。

「だけど……一から十まで全てを教えてもあの子の為にはならないからね」

そしてご飯を口の中に入れながら、

「自分一人で考えたりする力も必要なのさ」

自分の力だけで何かを成す事が必要だと言う。

「ふーん……」

魅魔の言い分に霊児が納得したタイミングで、

「あ、この肉美味しいね」

魅魔は何時の間にか鍋の中にある肉を食べながらそんな感想を漏らす。

「それ、昨日人里の特売で買ったのだけどな」

肉の出所を口にしながら霊児も肉を口に運んだ時、

「この汁、どんな出汁を使ってるんだい?」

今度はどんな出汁を使っているのかと言う事を尋ねて来た。

「秘密」

霊児が秘密と返すと、

「ちぇ、けち臭い」

魅魔は少し拗ねた表情になる。
だが、それでも箸を勧めるところを見るに中々食い意地が張っている様だ。
魅魔は口の中に入れたものを飲み込み、

「何所まで話したっけ?」

何所まで話したかと口にする。

「一から十まで等々」
「ああ、そうだったそうだった」

霊児にそう言われて魅魔は答えが出たと言う様な表情をしながら箸を置き、

「私が徹底的に教えても私と全く同じタイプの魔法使いになってしまう可能性があるからね。魔理沙には魔理沙の想い描く魔法使いになって欲しいのさ」

少し神妙な顔をしながらそう口にした。
その後、それでもちょくちょく様子を見には行くけどねと続ける。
それを聞いた霊児は、

「なんだ、ちゃんと師匠してるんだな。少し意外だ……」

少し驚いた表情になった。

「意外とは何さ」

霊児の意外と言う物言いに魅魔は少しむくれたからか、

「悪かったって。そう言えば魔理沙にどんな魔法を教えたんだ?」

霊児は軽く謝りながら魔理沙にどんな魔法を教えたのか尋ねる。

「そうだねぇ……私の使う魔法で魔理沙が使えそうなものに日常生活で役に立つ魔法だね」

魅魔は顎に手を当てながら魔理沙の教えた魔法を口にしていき、

「そうそう、最近は魔法薬を作り始めたんだよ。あの子」

魔理沙が魔法薬を作り始めた事に付いて話す。

「魔法薬?」

霊児が首を傾げると、

「魔法の媒介になる物と言えば分かり易いかな? それ単体でも魔法が使えたり、それを通して魔法を使えば威力が上がったりと言う事もあるね。
勿論、薬と言うの名の通り普通の薬としても使えるよ」

魅魔は魔法薬に付いて簡単な説明を行う。

「へぇー……」

バリエーションが豊富何だなと霊児は思いながら、

「ご馳走様」

そう言って箸を置く。

「って、あー!! 私殆ど食べてないのに!!」

魅魔が自分はまだ全然食べていないと言う事を口にした刹那、

「図々しい図々しい」

霊児はそんな突っ込みを入れ、鍋を台所に運んで行く。
そして鍋洗いが終わらせ、居間に戻った瞬間、

「むー……魔理沙はちゃんと私の分も出してくれるのに……」

魅魔は霊児に文句を言う。
そんな魅魔を煩わしく思ったからか、

「分かった分かった。そっちの棚に饅頭が在るから食ってて良いぞ」

霊児は饅頭の在る場所を口にする。
同時に、魅魔は教えられた棚へと向かって行く。
棚が在る場所へと向かって行く魅魔を見て、霊児は賞味期限ギリギリだけどなと思いながら外に出て掃き掃除を始めた。





















「はぁー……」

掃除が終った後、霊児は縁側でお茶を飲みながら一息吐く。
同時に霊児はこの一杯の為に生きている様な気がして来た。
そして続ける様にお茶を飲んでお茶を飲み干した後、ボケーッとしていた時、

「あらあら、随分平和そうな顔をしてるわね」

霊児の近くに誰かが現れる。
それに気付いた霊児は誰だろうと思いながら顔を上げると、

「……幽香」

風見幽香の姿が目に映った。
どうやら、やって来たのは幽香であった様だ。

「こんにちは」

幽香が挨拶の言葉を掛けて来たので、

「何か用か?」

霊児はジト目で何の用かと尋ねる。

「あらあら酷いわね。私の様な良い女が尋ねて来て上げたって言うのに」

幽香はクスクスと笑いながら少し不満があると言う様な事を言い、

「はい、これ」

ある物を霊児に手渡す。
霊児は手渡されたものを見ながら、

「これは……花?」

尋ねる様にそう呟く。
すると、

「ええ、そうよ。ちゃんと植えてね」

幽香は花である事を肯定し、ちゃんと植える様に言う。

「これ……何て言う花なんだ?」

見知った花では無かったからか、霊児が何て名前の花なのかと聞く。
聞かれた幽香は、

「それはノコギリソウと言う花よ」

花の名前を口にする。

「ノコギリソウ……」

霊児は花の名前を呟き、もう一度ノコギリソウに目を向けた時、

「おや、誰か来てるのかい?」

魅魔が霊児の後ろから姿を現す。
魅魔の姿を見たからか、

「あら、魅魔じゃない」

幽香は少し驚いた表情になる。
同時に、

「おや、幽香じゃないか」

魅魔も少し驚いた表情になった。
そんな二人の表情を見た霊児は、

「あれ、二人って知り合いなのか?」

二人に知り合いなのかと問うと、

「ええ、古い知り合いね」
「もうかなり会っていなかったけどね」

二人は知り合いである事を肯定する。
意外な交友関係を知って少し驚いている霊児を余所に、

「そう言えば、魔理沙の極太レーザーってあんたの極太レーザーにそっくりだけど……あれを教えたのあんたかい?」
「ええ、少し前にね。貴女の口振りだとあの子、もうあれを使える様になっている様だけど……どうして貴女が知ってるの?」
「それは簡単さ。魔理沙を弟子にしたからね」
「へぇ……結構面倒臭がり屋の貴女がねぇ……」
「そこまで意外そうな顔をする事もないだろうに」
「あら、ごめんなさい」
「……ったく。そう言えば、魔理沙はあの極太レーザーにマスタースパークって名前を付けたみたいだよ」
「へぇ……中々良い名前じゃない。これからは私もその名前を使おうかしら」

何やら色々と話しに華を咲かせていく。
霊児はその様子を見ながら幽香から渡されたノコギリソウを植え、博麗神社を後にした。





















「と言う訳でここに来た」
「どう言う訳だい?」

霊児が何の説明をせずそんな事を言ったからか、霖之助は少し呆れた表情でそう返す。
仕方が無いので、

「神社で俺が一戦交える事になりそうな雰囲気だったからここに避難して来た」

霊児は事情を話す事にした。

「いや、それでここに避難されても困るんだが……」

霊児の事情を聞いた霖之助は困った様な表情を浮かべると、

「まぁ、多分大丈夫だって」

霊児は心配無いと言いながらカウンターに腰を落ち着かせる。
その様子を見て、霖之助は何所か諦めた表情に成った時、

「それよか香霖。香霖って花言葉に詳しいか?」

霊児が霖之助にそんな事を尋ねて来た。
予想外の事を尋ねられたからか、霖之助は鳩が豆鉄砲を喰らった様な表情をしてしまう。
だが、直ぐに表情を戻し、

「花言葉かい? それなり詳しいけど……どうしてだい?」

それなりに花言葉を知っている事を口にして何故そんな事を聞いてきたのかを尋ねる。

「いやさ、幽香が俺に花を渡して来たんだ。あいつが何の意味も無く花を渡して来るとは思えなくてさ」

だから花言葉の意味が知りたいのだと霊児は言う。

「ほう、花を。どんな花を貰ったんだい?」
「ノコギリソウって言う花だ」
「ノコギリソウ……」

霖之助は顎に手をやって少し考え始め、

「ノコギリソウの花言葉は確か……戦いだったかな?」

ノコギリソウの花言葉を口にする。
その瞬間、霊児は固まってしまった。
何故ならば、幽香が何の目的でノコギリソウを渡したのか分かってしまったからだ。

「…………つまりあれか、幽香は俺と戦いたがってると」

念の為か、霊児が幽香の目的を口にした瞬間、

「その可能性が高いね」

霖之助はその可能性が高いと断言する。

「さっさと逃げてきて正解だったな」

霊児が安心したかの様に息を一つ吐いたタイミングで、

「彼女と戦うのは流石の君でも遠慮願いたいかい?」

霖之助が幽香と戦うのは遠慮したいかと問う。

「戦って負ける気は無いが、あそこで戦うと俺の神社が戦闘の余波で壊れかねないからな」

そう言った後、前に魅魔と戦った時に博麗神社が無事だったのは本当に運が良かったなと霊児は思った。
出来るだけ博麗神社で戦う事は避け様と霊児は考えながら、

「てか、何であいつは俺と戦いたがっているんだ?」

幽香は何故、自分と戦いたがるのかと言う疑問を口にする。
答えが出ないと思われた疑問だが、

「それは君が強いからだね」

霖之助がその答えを言ってくれた。

「強いから?」

霊児が首を傾げると、

「君だってあるんじゃないかい? 体を思いっきり動かしたいと思う日が。彼女の場合、それが戦いになっているのだろう」

霖之助は分かり易い例を出して説明する。

「あー……」

そう言われ、霊児は納得した表情になった。
霊児にも体を思いっ切り動かしたいと思う事があるからだ。
納得した霊児の顔を見た後、

「因みに、彼女以外の強い妖怪も強い相手と戦いたいと思っているのが多々居ると思うよ」

霖之助は幽香以外の強い妖怪も強敵と戦う事を望んでいると言う事を口にする。
それを聞いた霊児は、

「参考になる意見をどーも」

何所か諦めた表情をしながら溜息を一つ吐き、

「しかし、どうしたもんかね。神社に居る時に戦いを挑まれて神社が倒壊したら洒落にならないし……何か良い手は無いか?」

霖之助に何か良い手は無いかと問う。

「そうだね……」

霖之助は少し考え、カウンターの下を探し始める。
そして、

「今の季節ならこれかな」

霖之助はカウンターの上に取り出した物を置く。
カウンターの上に置かれたものは小さな袋。

「これは?」

霊児がこれは何だと尋ねると、

「これは向日葵の種が入った袋だね」

霖之助は向日葵の種が入った袋だと答える。

「向日葵の種?」

霊児が何故これを取り出したのか分からないと言う表情をしながら首を傾げたからか、

「うん、彼女は花の中でも向日葵を特に大切にしている様でね。これを神社で育てているとなれば神社で戦いを挑まれる事は無いと思うよ」

霖之助は向日葵の種を取り出した理由を説明した。

「ふむ……」

向日葵の種を植え、育てるだけで神社の安全が確保出来るのなら安いものであると霊児は考え、

「なら、貰ってくぞ」

向日葵の種を貰っていく事を決める。

「毎度」

霖之助のその台詞を聞き、

「……やっぱ現金は取るのか?」

霊児がそう尋ねると、

「当然」

霖之助はかなり良い笑顔をしながら当然と返す。
霖之助の 笑顔を見た霊児は溜息を一つ吐きながら財布を取り出した。






















「どうしてこうなった……」

博麗神社に戻って来た霊児は関口一番そう呟いてしまう。
何故ならば、博麗神社の上空の方で幽香と魅魔が戦っているからだ。
霊児が神社を出るまでは仲良く話していた筈であるのだが、どうしてこうなったのであろうか。
暫らく会っていなかったから互いの実力を確認しているのかと思いながら、

「ノコギリソウを植えてなかったら神社倒壊してたかもな……」

そんな事を呟いた。
幽香と魅魔は上空で激しい戦いをしていると言うのに、戦いの余波や衝撃は地上まで殆ど届いていない。
これ即ち、幽香と魅魔が博麗神社に被害が出ない様に戦っていると言う事だ。
博麗神社に入り浸っている事が多々ある魅魔が神社に衝撃がいかない様にしているのは兎も角、幽香も神社に衝撃をいかない様にしている
理由は植えられているノコギリソウを気遣っての事だと考えられる。
霊児はノコギリソウを植えておいて良かったと思いながら二人に気付かれ無い様に回れ右を行う。
下手をしたらこのまま二人の戦いに巻き込まれる可能性があるからだ。
霊児は神社に背を向けながら足を進め、これからどうするかを考える。
少なくともあの二人の戦いが終わるまでは神社に戻らない方が良いだろう。

「でも、どうするかな……」

霊児としては今日はもうのんびりと過ごしたい。
自分の神社以外でのんびり過ごせそうな場所を考え様とした瞬間、

「魔理沙の家……」

魔理沙の家が霊児の頭に過ぎる。
あそこならばのんびりと過ごす事が出来るであろう。
そう判断したからか、

「よし、魔理沙の家に行くか」

霊児は魔理沙の家に向う事を決める。
あの二人の戦いが何時終わるか分からないので今日一日止めて貰おうと思いながら、魔法の森の方へと向かって行った。
























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