「ふあ……」

朝、目が覚めると同時に霊児は着替えを始める。
そして着替えが終わると、居間へと向かう。
居間に着き、そのまま台所に向かって朝食の準備をし様としたところで、

「おっはよー!! 霊児ー!!」

襖が勢い良く開けられた。
こんな朝っぱら誰だと思いながら霊児は襖が開かれた方に顔を向けると、

「魔理沙」

魔理沙の姿が霊児の目に映る。
どうやら、やって来たのは魔理沙であった様だ。
その事を認識すると、

「どうしたんだ? こんな朝っぱらから」

霊児は何しにやって来たのかを尋ねる。
すると、

「ね、ね!! これ見てよ、霊児!!」

魔理沙は満面の笑みを浮かべながら霊児に近付き、手に持っている紙切れを見せ付けた。
見せ付けられた紙切れを霊児は魔理沙から受け取り、

「何だこの紙切れ?」

首を傾げる。
その時、

「あ、何か書いてあるな」

紙切れに何か文字が書かれている事に気付く。
読める文字だったので、霊児は書かれている文字を読み上げる事にした。

「何々……『古の遺跡"夢幻遺跡"本日10時開店。この遺跡に訪れた方にはどんな願いも叶えてみせます。皆様の御来店を心よりお待ちしております』
って本当か、これ?」

霊児は書かれている文字を読み上げた後、今一信用ならないと言った表情になる。
幾らなんでも都合が良過ぎるからだ。
こんなのを信じる者など居ないだろうと霊児は思っていたが、

「ね、ね、どんな願いもだって!! 凄いよね!!」

魔理沙は思いっ切り信じている様である。
よく信じられるなと霊児が何所か感心した様な表情を浮かべていると、

「霊児!!」

魔理沙は霊児の手を掴み、

「一緒に行こ!!」

外へ飛び出す。

「お、おい!!」

霊児が声を掛けても魔理沙に止まる気配は少しも見られない。
そんなにこの紙切れに書かれている事に興味が惹かれるのだろうかと霊児が思っていると、

「着いたよ!!」

目的の場所に着いた様だ。
魔理沙の声で思考の海から脱出した霊児が顔を上げると、

「おおう……」

巨大な建造物が霊児の目に映った。
この建造物が紙切れに書かれていた夢幻遺跡なのだろか。
霊児は取り敢えず目に見えている建造物を見渡しながら、

「てか、昨日までは無かったよな……これ」

思わずそんな事を呟く。
霊児の言う通り、昨日までの時点でこの様な建造物はなかった。
ならば、夜中から朝の間に現れたの考えるのが道理だ。

「しっかし……どうやって転移して来たんだ?」

自分なら例え寝ていてもこんな近くに転移して来たと言うならその時の霊力、魔力、妖力、神力の反応で気付きそうだがと言う事を霊児が考えていると、

「おや、魔理沙と霊児じゃないかい」

それを中断させるかの様に霊児と魔理沙の背後から声が聞こえて来た。
聞こえて来た声に反応した霊児と魔理沙が振り返ると、

「魅魔」
「魅魔様!!」

魅魔の姿が二人の目に映る。

「お前もこれを見て来たのか?」

霊児は魅魔を目に入れながら手に持っている紙切れを見せると、

「ああ、そうさ。それと来たのは私等だけじゃないみたいだよ」

魅魔は霊児が言った事を肯定し、右手の親指を後ろの方に動かす。
それに釣られる様に霊児が目を動かすと、

「こんなに来てたのか……」

妹紅、幽香、静葉、穣子、文、椛、にとりと言った面々が霊児の目に映る。
魅魔の発言から察するに、全員あの紙切れに書かれている事に釣られて来た様だ。
皆単純だなと思いながら霊児はもう一度夢幻遺跡と思われる巨大な建造物に顔を向け、調べていく。
外装が金属で出来ている事を知るのと同時に、霊児はこの建造物は転移して来たのではなく純粋に幻想入りしたのではと考え、

「こんな物が幻想入りねぇ……」

単純に外の世界で忘れ去られたのか、それとも偶然か何かで幻想入りしたのかどうなのかと言う事を判断する為に頭を廻らせる。
だが、中々判断が着かない。
中々判断が着かない事で霊児が頭を抱え様としたところで、

「ああー!!」

誰かが大きな声を上げた。
その声に反応した一同は、声を上げた者の近くに駆け寄る。
すると、声を上げた者の正面に看板がある事に霊児は気付く。
この看板に書かれている事に驚いたのだろうと推察した霊児は看板に書かれている文字を読み上げる事にした。

「えーと……何々、『夢幻遺跡内入場者は1名まで。それ以上は認められません。規定人数を超えて入場された場合、この時空での遺跡の存在は保障出来ません』
って書いてあるな」

看板に書かれている事をそのまま受け取ると、願いを叶えられるのは1名のみと言う事だ。
霊児の発言を聞いたからか、霊児以外の他の面々もその事を理解する。
だからか、

「ッ!!」

その瞬間に戦いが始まった。





















「ったく、危なかったな……」

霊児は先程の場所から少し離れた場所に移動し、そう呟く。
何故霊児がこんな場所に居るかと言うと、戦いの気配を察知してあの場所から退避したからだ。
因みに先程の場所の近辺では魔理沙と魅魔、妹紅と幽香、静葉と穣子がそれぞれ戦っている。
上手い事、他の面々を出し抜けた様だ。

「後は漁夫の利でも……」

霊児はこのまま漁夫の利を狙おうとしたところで、後ろへと跳ぶ。
その瞬間、霊児が立っていた弾幕が着弾した。

「……ま、そう上手くはいかないか」

そう口にしながら霊児は地に足を着け、弾幕が飛んで来た方へと顔を向ける。
顔を向けた先には、

「流石です、霊児さん」

椛の姿があった。
椛を視界から外さない様にしながら、

「しっかし、意外だな。お前がこう言うのに参加するなんて」

霊児は椛がこう言った事に参加するのは意外だと口にする。

「まぁ……偶にはこう言ったお祭り騒ぎに参加するのも良いかと思いまして」

椛はそう返しながら地に足を着け、構えを取った。
通常の物より太い刀と丸くて中央に紅葉のマークが付いている盾を手に持っている。
あれが椛の得物の様だ。
すんなり椛が戦闘体勢に入った事から、

「……若しかして、やっぱこうなる事を予想してたのか?」

霊児がこうなる事を予想していたのかと椛に問う。

「ええ、まぁ。幾らなんでも都合が良すぎますよ。何でも願いを叶えてくれる……って」

椛が霊児の言った事を肯定し、溜息を一つ吐くと、

「だよなぁ……」

霊児も同じ様に溜息を一つ吐いた。
どうやら、霊児と椛は似た様な事を考えていた様である。

「ま、願いを叶えてくれるならくれるで叶えて貰いたい事もありますしね」

椛は願いを叶えてくれるのなら儲け物と言う様な事を口にすると、

「願いねぇ……その願いって言うのは俺の後ろで隙を伺ってる文に関係しているのか?」

霊児はそんな事を言う。、
すると、霊児の背後から何かが飛び出して椛の隣に降り立つ。
飛び出して来た者とは、

「あやややや、バレてましたか」

霊児が口にした文であった。
何やら苦笑いを浮かべている文を無視し、

「そうですね、この先輩を真面目にして欲しいと言う願いがありますね」

椛は自分の願いを口にした。
その願いか聞き捨てならなかったのか、

「一寸!! 私は真面目でしょうが!!」

文は椛の方に顔を向けて心外だと言う。
すると、

「そう言いたいのであれば、普段の職務態度を何とかしてください。あれの何所が真面目ですか」

椛も文の方に顔を向けて、文の何所が真面目なのかと返す。
それを皮切りにしたかの様に、

「そう言う貴女は頭が固過ぎなのよ!!」
「文さんが不真面目過ぎるんです!!」
「あー決めた!! 私の願いはこの後輩を可愛気のある性格して!! にするわ!!」
「やれるものならやって見てください!!」

文と椛は言い合いを始める。
喧嘩するかの様に放たれる売り言葉に買い言葉。
そんな二人の言い争いを聞き、

「……お前等、本当は仲良いだろ」

霊児が思わずそう呟くと、文と椛はギロリと言う音が聞こえるかの様な視線を霊児に向ける。
どうやら、霊児に仲が良いと言われた事が余程心外であった様だ。
霊児はそんな事を考えつつも、同時に自分の方に顔を向けた辺りやっぱり中が良いのではと思いながら、

「と言うか、お前等二人で俺と戦うのか?」

二人に組んで戦うのかと尋ねる。

「ええ、そうです。私達は大天狗様と互角に渡り合う貴方がこの中で一番厄介であると思っています」
「ですから、こう言う事態になった時は手を組もうと言う取り決めをしていたのです」
「まぁ、それでも文さんと組むのは不本意ですが」
「それはこっちの台詞よ」

二人は組んで戦う事を肯定し、再び言い争いを始めた。
そんな二人に呆れながらも、

「ま、それは分かった」

霊児は左手を短剣の柄に持っていく。
その瞬間、文と椛は言い争いを止めて霊児の方に顔を向ける。
霊児から発せられる雰囲気が明らかに変わったからだ。
二人が霊児に警戒をしながら間合いを調整していると、

「だが……それで俺に勝てるかな?」

霊児はそう言いながら左手で短剣を抜き放ち構えを取る。
それを見た椛は再び構え取り直す。
そして、

「行きます!!」

椛は大地を蹴って霊児へと肉迫し、霊児が自身の間合いに入るのと同時に刀を振り下ろす。
振り下ろされた刀を霊児は短剣で受け止め、

「だ!!」

椛に向けて蹴りを放つ。
放たれた蹴りが自分の体に当たる前に椛は盾で受け止めるが、

「ッ!!」

思っていた以上の威力であった為か、後ろへ吹き飛ばされてしまう。
霊児は吹き飛んで行った椛に追撃を掛け様とすると、

「私を忘れてませんか?」

文が真横から現れる。
霊児が顔を文の方に向けたのと同時に、文は持っている団扇を振るう。
その瞬間、

「ッ!!」

団扇から物凄い勢いの突風が放たれる。
至近距離で突風に当てられたからか、霊児は僅かに体勢を崩してしまう。
その間の文は跳躍し、

「はあ!!」

霊児に飛び蹴りを放つ。
寸前で気付いた霊児は腕で文の蹴りを受け止め、腕を振るって文を弾き飛ばす。
文が弾き飛ばされたのと同時に椛は再び霊児に肉迫し、

「たあ!!」

突きを放つ。
迫り来る刀を霊児は体を逸らす事で避け、その勢いを利用して蹴りを放つ。
放たれた蹴りは椛に直撃し、椛は蹴り飛ばされてしまう。
蹴り飛ばされた椛に追撃を仕掛ける為に移動を行おうとしたところで、

「いかせませんよ!!」

文が霊児に超高速で近付き、攻撃を仕掛ける。

「ちっ!!」

それに気付いた霊児は椛への追撃を止めて文の攻撃を回避するが、

「まだです!!」

体勢を立て直した椛が再度攻撃を仕掛けて来た。
その攻撃も何とか対処するが、次の瞬間には文が攻撃を仕掛けて来る。
椛の攻撃を対処すれば文が攻撃を行い、文の攻撃を対処すれば椛が攻撃を行う。
そんな二人の攻撃を見ながら、霊児は中々考えられた攻撃だと思った。
決定打を与えさせない立ち回りに追撃を防ぐ様に繰り出される波状攻撃。
中々のコンビネーションである。
その事から本当は仲が良いんじゃないかと霊児は改めて思いつつ、

「さて……と……」

このままでは決着が着きそうにないと感じた。
なので、霊児は早々に決着を着ける為に行動を起こす。
先程と同じ様に椛を蹴り飛ばした後、

「……捉えた」

攻撃を仕掛けて来た文の手を掴む。

「え……」

自身の手を掴まれた事に文は思わず唖然とした表情になってしまう。
捉えられるとは思っていなかったからだ。
唖然としている文に、

「確かに速いけど……さすが目が慣れたぜ」

霊児はそう言い、椛に向けて投げ飛ばす。

「ちょ!?」

投げ飛ばされた文は椛に見事命中し、二人は地面に倒れ込んでしまう。

「一寸、離れなさいよ!!」
「貴女が離れてください!!」

文と椛が自分から離れろと言い争い始めている間に、霊児は右手の指先を二人に向ける。
それに気付いた文と椛が言い争いを止めて霊児の方に顔を向けると、霊児の指先から霊力で出来た弾が発射された。
弾の弾速と倒れている事から避けれない事を悟った文と椛は、

「大体、あんたがあんな所に居るから……」
「貴女が動きを読まれて捕らえられたから……」

責任の擦り付け合いを行う。
その間に霊力で出来た弾は二人に命中して爆破し、発生した爆煙で辺りが包まれる。
発生した煙が晴れると、気絶した文と椛の姿が見て取れた。

「よし、一丁上がり」

霊児は自身の勝利を口にしながら短剣を仕舞い、他の面々がどうなっているのかを確認する為に顔を動かす。
すると、

「お……」

決着が着きそうな一組を発見した。
なので、霊児は気付かれないようにその一組の近くへ移動する。
霊児が近くに行くと、

「はっはっは。大分強くなった様だけどまだまだだね、魔理沙」

魅魔はそう言いながら倒れている魔理沙に勝利宣言をしていた。
魔理沙が思っていた以上に強くなっていたからか、魅魔の機嫌は良さそうだ。
そんな上機嫌の魅魔の隙を突く様に、

「油断大敵何とやら……だな」

霊児は魅魔の首に手刀を叩き込む。
その瞬間、魅魔は崩れ落ちる様に地面に倒れた。
魅魔の様子を見るに、完全に気絶している様だ。
それを確認した後、

「ふぅー……厄介な奴がこうも簡単に片付いてラッキーラッキー」

霊児は一息吐きながらまた周囲を伺うと、

「お……」

霊児の目には妹紅と幽香の二人が倒れているのが映る。
どうやら、妹紅と幽香の決着は相打ちで終わった様だ。
妹紅も幽香も相当な実力者である為、倒すとなれば相当骨が折れる事になるであろう。
そんな相手が労せずに脱落してくれたのはラッキーだなと霊児は思いながら再び周囲を伺うと、

「あれは……」

静葉と穣子の秋姉妹の姿が目に映った。
この姉妹は魔理沙と魅魔、妹紅と幽香と違って今現在も戦闘中の様だ。
そして戦いに熱中しているせいか、周りの様子は目に入っている様子が無い。
今日は運が良いなと霊児は思いながら戦闘中の二柱に指先を向け、そこから霊力で出来た弾を発射する。
放たれたそれは丁度二人が掴み合いをしている時に命中し、爆発と爆煙が発生した。
発生した爆煙が消えた後、着弾地点には気絶した静葉と穣子が転がっていた。
これで静葉と穣子も脱落。

「後は……にとりだけか」

そう呟きながら周囲を見渡すが、にとりの姿は見られない。

「…………………………………………」

霊児は集中しながらもう一度周囲を見渡し、

「そこ!!」

ある場所に向って手を伸ばす。
伸ばした手に何かが触れる感触を得た霊児はそれを掴む。
すると、

「え……」

掴んだ先から声が漏れる。
その声は主とは、にとりだ。

「な、何で……」

何かを問い掛ける様な声色でにとりから言葉が発せられると、

「勘だ」

霊児が勘であると答える。
同時に、にとりが姿を現した。
どうやら、光学迷彩で姿を隠していた様だ。
驚いた表情を浮かべているにとりに、

「で、どうする?」

霊児は自分と戦うかどうかを問うと、

「うー……降参。私の負け」

にとりは直ぐに自分の負けを認めた。

「それじゃ、こいつ等神社に運んで置いてくれ」

霊児は気絶している連中を神社に連れて行く様に言い、にとりの肩から手を放す。

「あーあ、結局霊児の勝ちかぁ……」

にとりが愚痴る様にそう言うと、

「ま、そう言う訳だからこいつ等の事を頼むぜ」

霊児は念を押す様に気絶している連中を頼むと言う。

「はーい」

にとりが了承の返事を口にすると霊児はにとりに背を向け、

「さーて、鬼が出るか蛇だ出るか……」

少し用心しながら怪しさ満点の巨大な建造物である夢幻遺跡へと向かって行った。
















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