霊児は怪しさ満点の建造物である夢幻遺跡の入り口が何処にあるのか探す為に夢幻遺跡の外周に沿う様にして歩いて行くと、

「お……」

只の外壁だと思っていた場所から突然入り口が現れた。
霊児はその事に少し驚いたものの、本当にこれは遺跡かと言う疑問を抱きながら中に入って行く。
すると、霊児が入って来た入り口が閉じてしまう。
これはある意味予想通りだなと思いながら霊児は周囲を見渡し、

「思っていたよりも広いな……」

そんな事を呟く。
中に入って分かった事だが、この夢幻遺跡は外観以上に中が広い。
広さの他には、壁や床と言った物が全て金属で出来ている事が分かった。
何やら人工的な雰囲気が感じられたからか、霊児は改めて只の遺跡では無いと実感する。
故に周囲を警戒しながら足を進めて行くと、

「撃つと動く……間違えた、動くと撃つ」

正面の方から脅しとも言える様な声が聞こえて来た。
その声に反応した霊児が顔を上げると金色の髪をツインテールにし、セーラー服を着た少女が目に映る。
この少女が夢幻遺跡の主かと霊児が考えていると、

「君だね、最強の魔法使いは……」

少女はそんな事を口にした。

「最強の魔法使い? 一体何の事だ?」

霊児が思わずそう聞き返し、首を傾げてしまう。
少なくとも、霊児は魔法使いではないからだ。
そんな霊児の心中を無視するかの様に、

「惚けたって無駄さ。ここまで来れたって事は君が最強の魔法使いである事の何よりの証明だからね」

少女は手に持っている者を霊児に向ける。

「これはかなり小型だけど非常に強力な銃だ。おまけに反動も小さくて連射も利く。逆らわない方が身の為だぜ」

少女が自分の持っている物を銃だと口にした事から、霊児はこの少女は幻想郷の存在では無い事を理解した。
何故ならば、幻想郷に銃と言った類の物は流通してはいないからである。
そして少女の台詞から偶然幻想入りしたのではなく何らかの目的があって幻想郷に来た事を霊児が理解していると、

「さぁ、状況を理解したのなら一緒に来て貰おうか」

少女は霊児に自分と一緒に来る様に言う。
当然、霊児は少女の言う事を聞く気は欠片も無い。
逆に少女の目的を聞かせて貰うと言わんばかり短剣の柄に手を持っていく。
それを見た少女は銃の狙いを良く絞る。
銃で霊児を無力化させる積りの様だ。
少女の狙いに気付いた霊児は彼女が発砲した瞬間に斬り込み、幻想郷にやって来た理由を聞く事を決める。
そして銃の引き金が引かれ様としたその時、

「誰がそんな物騒な御持て成しをしろと言ったのよ!! このお馬鹿!!!!」

何者かが少女の背後に現れ、少女の頭を思いっ切り殴った。
殴られた少女は、

「いててて……何するんだぜ……」

若干涙目になりながら殴って来た者の方に体を向け、

「こっちの方が雰囲気が出てて面白いと思ったのに……」

そんな事を言う。

「折角のお客様が怖がるでしょうが!!」

少女を殴った者はそう言い放って霊児の方に向き直る。
霊児に向き直った者は長い赤い髪を後ろで纏め、赤い服を着た少女であった。
先程のやり取りからこの少女の方が立場が上なのかと霊児が思っていると、

「大変失礼致しました。変な対応をしてしまいまして」

赤い髪をした少女が謝罪をしながら頭を下げる。

「俺は別に気にしていない」

霊児がそう返すと、

「寛大な御心遣い、感謝致します」

赤い髪をした少女は頭を上げた。
そのタイミングで、

「私はこの船の船長をしております岡崎夢美と申します。よろしくお願いしますわ」
「私は船員の北白河ちゆりだ。よろしくだぜ」

二人の少女は自己紹介を行う。
赤い髪をした少女が夢美で、金髪の少女がちゆりと言う名前の様だ。
それに返す様に、

「俺は博麗霊児だ」

霊児も自己紹介を行った。
互いの自己紹介が終わった後、

「それよりも……これって言うかここ、船の中なのか?」

霊児は少し意外そうな表情をしながら周囲を見渡す。
自身の目に映る夢幻遺跡の内装と外観から船に結び付かなかったからだ。

「ええ、正真正銘船ですわ。唯、船と言っても水の上に浮かんだり、空を飛んだり、宇宙空間を移動したりと言った
タイプの船とは用途などが違うのですけどね」

夢美は船である事を肯定し、用途に付いての説明も行った。
夢美の説明を聞く限り、通常の船とは用途がかなり違う様だ。
霊児がその事を理解していると、

「この船の名称は可能性空間移動船と言いまして、私はこの船に乗って統一原理に当て嵌まらない力を探しに来たのです」

夢美は幻想郷にやって来た理由を説明した。
その説明を聞いた霊児は夢美達が幻想郷にやって来た理由は理解し、

「可能性空間……平行世界、パラレルワールド、異世界と言った様な世界の事か?」

可能性空間と言うのは今口にした事で合っているのかと問う。

「あら、お若いのに博識ですわね。その様な認識で問題無いですわ」

霊児の発言を夢美は肯定しながらも少し驚いた顔になった。
どうやら、霊児がその様な事を知っているとは思わなかった様だ。
その後、

「それにしても、まさか行き成り見付かる何て。貴方のその力……」

夢美はウットリとした表情で霊児を見詰める。

「ああ、遂に魔法がこの目で見られる何て……」
「いや、俺のは魔法じゃないんだが……」
「ああ、遂に魔法がこの目で見られる何て……」
「だから俺のは魔法じゃなくて、神仙術と陰陽術と呪術と結界術とその他諸々を複合させたもので……」
「ま・ほ・う・よ・ね?」
「……あ、うん。もうそれで良いよ」

霊児は夢美の熱意に根負けしたと言った感じでそう言った。
何処か疲れた表情をしながら、

「それよか、願いを叶えてくれるって言うのは本当なのか?」

霊児は夢美に願いの件に付いて尋ねる。

「願い? 何の事?」

夢美は何の事か分からないと言った表情になって首を傾げると、霊児は外で一戦交える事の原因となった紙切れをポケットから取り出した。
そしてそれを夢美に見せると、

「あ、それ私が書いたやつだぜ」

紙切れを見たちゆりが自分が書いたものだと言う。
それを聞いた霊児はこいつが原因かと思った。

「紙切れ? それにちゆりが書いたもの? どれどれ……」

夢美は霊児から紙切れを受け取り、そこに書かれている内容を読み上げる。

「えーと……何々……『古の遺跡"夢幻遺跡"本日10時開店。この遺跡に訪れた方にはどんな願いも叶えてみせます。皆様の御来店を心よりお待ちしております』」

読み上げた後、夢美は霊児に視線を戻す。

「……何これ? 貴方もよくこんな紙切れを見て来る気になったわね。いや、貴方の様な子供なら信じても可笑しくはないか……」

夢美はよくこれで来る様になったなと言った後、霊児位の年齢なら信じても可笑しくないかと口にすると、

「いや、別に俺は信じてはいなかったんだが信じている奴が意外と多くてな。面倒な事になる前に俺が来たんだ」

霊児は夢美が言った事を否定し、面倒な事になる前に来たのだと返す。

「子供らしく無い子供ねぇ……まぁ、良いわ。私は貴方の事を調べたいの。魔法の事をよく調べて学会に復讐してやるんだから!!!!」

夢美は霊児を子供らしく無い子供と判断した後、自身の目的を言い放った。

「学会に復讐?」

霊児が思わず首を傾げると、

「要するにご主人様はこの世に魔法と呼ばれる様な統一原理……まぁ、科学だな。科学では説明出来ない力があるって事を学会に発表したんだ。
そしたら思いっ切り笑われたんだぜ」

ちゆりは夢美が学会に復讐したい理由を説明する。

「ああ、成程」

ちゆりの説明を聞いて霊児が納得した表情を浮かべていると、

「兎に角!! 書いてあった以上仕方が無いから貴方の扱う魔法が本当に強いものであったのなら、私の出来る範囲で好きな願いを叶えて上げるわ!!」

夢美は強い魔法を使えるのならば可能な範囲で願いを叶えると言う。

「え、本当?」

願いを叶えてくれるとは思っていなかったからか、霊児は聞き返す様に本当かと問うと、

「私に二言は無いわ!!」

夢美は力強く自分に二言は無いと言い放つ。
霊児は儲け物だと思いながら自分の扱っている力が魔法を扱う為の魔力ではなく霊力である事は黙って置く事にした。
夢美の様子から魔力と霊力の違いを説明しても理解してくるから分からなかったし、一から説明するのは面倒であるからだ。
霊児がそんな事を決めていると、

「でも、弱かったら願いは叶えないわ」

夢美は弱かったら願いは叶え無いと言う。
夢美にも望んでいる事がある以上、夢美の言い分は最もだ。

「それで良いわね?」

夢美は同意を求めるかの様な視線を霊児に向けると、

「ああ、それで構わない」

霊児はその条件で構わないと返す。
自分の力の見たい様であるから夢美が戦うのかと霊児が思っていると、

「じゃ、頑張ってねちゆり。その間に私は霊児君の力を観察してるから」

夢美はそんな事を言い出した。

「……何?」

夢美が戦うものだと思っていた霊児が肩透かしを喰らった気分になっていると、

「それは……若しかして……」

ちゆりは恐る恐る夢美の方へ顔を向ける。
すると、夢美は物凄く良い笑顔を浮かべ、

「勿論あんたが霊児君と戦うのよ、ちゆり」

ちゆりに戦う様に指示を出す。

「えー!?」

驚きの声を上げながら文句を言い始めたちゆりを殴って黙らせ、

「文句を言わずに戦う!! 貴女には私が造った科学魔法があるでしょうが!!」

自分が造った科学魔法があるだろうと言う。
それでも渋っているちゆりに、

「どうせ勝てはしないだろうけど善戦はしないよね!! ちゆりが戦っている間に私は貴重なデータを取るんだから!!」

何気に酷い事を夢美は口にしながら奥の方へと向かって行った。
おそらく、貴重なデータとやらを取りに向かったのだろう。
夢美の姿が見えなくなると、

「仕様が無いな……」

ちゆりは気だるそうな表情をしながら霊児の方に向き、銃を構え、

「ご主人の命令だ。子供とは言えど、容赦はしないぜ!!」

ちゆりは強気な台詞を言いながらの引き金を引く。
すると、銃から光線の様な物が発射された。
霊児は迫って来る光線を目に入れながら落ち着いた様子で左腰に装備してある短剣を引き抜く。
そして、迫って来た光線を引き抜いた短剣の腹で受け止める。

「うげ!?」

容易く防がれた事にちゆりは驚きの声を上げてしまう。
どうやら、光線を防がれた事は完全に予想外であった様だ。
だが、

「ッ!!」

ちゆりは直ぐに表情を戻し、再び銃から光線を放つ。
今度は一発だけではなく、何発もだ。
一発だけでは仕留め切れないと判断した様である。
しかし、

「おっと」

そんなちゆりの行為は意味を成さなかった。
何故ならば、連続して放たれた光線は全て霊児の持つ短剣の腹に受け止められてしまったからだ。
ちゆりは放たれた光線をこうも容易く防いだ霊児を見て再び驚いた表情を浮かべながら、

「何でそれ壊れないんだよ!!」

光線が何発当たっても壊れる事の無い短剣に文句を言う。
その文句に、

「そりゃ、この短剣は特注品だからな」

霊児は少し自慢気な表情で特注品だから壊れないのだと返す。

「この銃で壊れないとか……一体どんな素材で出来てるんだよ、その短剣」

ちゆりは愚痴る様に銃を仕舞い、代わりにペンの様な物を取り出した。
霊児はそれで何をするのかと考えていると、ちゆりはそのペンの様な物を使って空中に何かを描き始める。

「あれは……魔法陣か?」
「その通りだぜ」

霊児の呟きをちゆりが肯定したのと同時に魔法陣が完成した。
完成したのと同時に魔法陣がから炎が現れ、

「この炎は……一寸熱いぜ」

現れた炎は霊児に向けて飛んで行く。
霊児は慌てる事なく炎が自身の間合いに入った瞬間に、

「ふっ!!」

短剣を一閃。
すると、炎は真っ二つに斬り裂かれて消滅した。

「うっそー……」

その光景を見たちゆりは唖然とした表情を浮かべてしまう。
ちゆりがそんな表情を浮かべている間に霊児はある事を考えていた。
考えている事と言うのはちゆりが放った炎に魔力が感じられなかったと言う事だ。
魔法を発動させる時に魔力を感じられなかったのは隠蔽していたからと言われれば説明が付く。
だが、魔法によって生み出された炎に魔力が欠片も感じられないと言うのは隠蔽をしているからでは説明が付かない。

「……科学魔法って言うのは魔力を使わない魔法なのか?」

霊児がそんな推察を立てているとちゆりはペンの様な物を仕舞い、代わりに筒の様な物を取り出していた。
取り出したそれを構えると筒の様な物の先からエネルギーの塊が飛び出し、刀身がエネルギーで構成された剣となる。
準備が整ったからかちゆりは構えを取り、

「いっくぜー!!」

そう声を上げながらちゆりはそれを振り被りながら霊児へと肉迫して行く。
ちゆりが持っている剣から何も感じない事から、ちゆりが扱う物は全て霊力、魔力、妖力、神力と言った力を使わないものであると霊児は確信した。
確信したのと同時に、直ぐ近くにまでちゆりが迫って来ている事に気付いた霊児は、

「しっ!!」

ちゆりが持っている剣を蹴り飛ばす。

「あっ!?」

自身の手元から剣が飛んで行った事にちゆりが驚いている間に霊児は蹴りを放った勢いを利用して体を回転させ、ちゆりに膝蹴りを叩き込む。
膝蹴りの直撃を受けて吹っ飛んで行くちゆりに霊児は指先を向け、五本の指先から霊力を放つ。
放たれた霊力は一直線にちゆりに向かっていき、ちゆりに命中するのと同時に爆発と爆煙が発生する。
発生した爆煙が晴れると、

「きゅうー……」

うつ伏せになる様にして倒れているちゆりの姿が現れた。
少し待っても立ち上がる様子が無い事から、勝負は着いた様だ。
そして倒れているちゆりに霊児が近付こうとしたところで、

「ちゆり!!」

夢美が慌ててちゆりの傍に駆け寄って来た。
倒されたちゆりが心配になって来たのだろう。
そう思われたが、

「何瞬殺されてるのよ、このお馬鹿!!」

夢美はそんな事を言いながらちゆりの頭を殴った。
どうやら、欠片も心配してはいなかった様だ。

「だってー……」

ちゆりは体を起こし、少し涙目になりながら殴られた部分を擦ると、

「だっても勝手もないわ!! 貴女が瞬殺されたせいで全然データが取れなかったじゃない!!」

瞬殺されたせいでデータが取れなかったと夢美は怒りながら再度ちゆりの頭を殴る。

「ってぇー……」

殴られた痛みで蹲る事となったちゆりを無視し、

「全く、貴女が少しで疲労させるなり何なりさせてくれたらその隙を突く様にしてこの子を気絶させて持って帰る事が出来たのに!!」

さらっと恐ろしい事を夢美は言い始めた。

「……おい、一寸待て」

霊児は何かを言おうとしたが、

「そうよ……この世界に来て早々に魔法は実在すると言う確信を得た。その魔法の力を観察してデータを取るだけじゃ満足出来る訳が無い!!
私もその力を自由自在に使いたい!! だから!! 私は貴方を実験材料として連れて帰り、その力を徹底的に調べ上げてやるわ!! そして、
魔法の力を私のものにしてくれる!!」

それを無視するかの様に夢美は自身の目的を語り出す。
最初の頃の丁寧な口調は何所へやら。
遂に本性を表したと言った感じだ。
既に勝った気でいる夢美に、

「俺を簡単に連れ帰れるかな?」

霊児はそう構えを取る。

「そうね……私が造った科学魔法は魔法を真似て造った偽者。本物の魔法使いである貴方に勝てる訳がない」

やはりと言うべきか、夢美は霊児の事を魔法使いであると誤解している様だ。
だが、霊児はそれを訂正する気は無い。
説明が面倒と言う事もあるが、説明したとしてもこの先の展開は変わらないと思ったからだ。
そんな霊児の心中を知ってか知らずか、

「折角だから教えてあげる。科学魔法って言うのは魔力を使わずに正の光子と光波から魔法を擬似的に再現したものなのよ」

夢美は科学魔法の説明を行う。
そんな説明をされても全然分からなかったが、霊児は取り敢えずそう言うものなのだと思う事にした。

「確かに私に魔力は無い。けれど、科学力ならあるわ!!」

夢美の言葉から察するに、今度は科学魔法を使わずに純粋な科学力で戦う気の様だ。
科学力だけで戦う相手と言うのは今回が初めてであるからか、霊児が少し警戒していると、

「兎に角!! 私と戦って貴方が勝ったら望みを叶えて上げるわ!! その代わり、私が勝ったら貴方には私の世界に来て貰うからね!!」

夢美は改めて霊児が勝てば願いを叶え、自分が勝ったら霊児を連れて帰ると言う。
只のマッドサイエンティストと思われていたが、夢美は自分の発言には責任を持つタイプの様だ。
願いの件で霊児が負けたら連れ帰ると付け加える辺り、チャッカリしているなと霊児が思っていると、

「尤も、嫌だ言っても聞かないけどね」

夢美は構えを取った。
そして戦いが始まると思われたその時、

「あ、一寸待って。戦闘用の服に着替えて来るから」

夢美はそんな事を言いながら霊児に背を向け、奥の方へと引っ込んでしまう。
思いっ切り出鼻を挫かれた霊児は、

「……夢美って幻想郷で普通にやっていけそうな性格だな」

思わずそんな事を呟いてしまった。
それから少しすると、

「さて、やりましょうか」

夢美は戻って来た。

「いや、やりましょうって……」

戻って来た夢美を見た霊児は何かを言いたそうな表情を浮かべてしまう。
何故ならば、戦闘用の服に着替えて来ると言ったのに先程までの服装との違いはマント羽織っているかいないかだけであったからだ。
霊児と同じ事を思っていたからか、

「戦闘用の服って……マントを羽織っただけじゃ……」

ちゆりは思った事をそのまま呟いた。
その発言が気に入らなかったからか、

「おだまり!!」

夢美はちゆりの頭を殴る。

「ってぇー……」

ちゆりが頭を押さえて蹲っている間に、

「確り気合を入れてよね!! 死んだら連れ帰っても意味が無いんだから!!」

夢美は死なない様に注意しろと言う。
勿論、霊児の身を案じている訳では無い。
霊児が死んだら魔法の力を解明出来ないと考えているからだ。
自身の勝利を疑っていない夢美に、

「安心しろ、勝つのは俺だ」

霊児は不敵な笑みを浮かべながらそう返す。
それを合図にしたかの様に、

「うんうん、男の子はそうでなくっちゃ。本気でいくわよ!! 霊児!!」

戦いが始まった。
戦闘開始と同時に霊児は猛スピードで夢美に肉迫し、短剣を振るう。
夢美が反応出来ない様なスピードで短剣は振るわれたのだが、

「ッ!!」

防がれてしまった。
防がれたと行っても夢美が防いで訳では無い。
夢美から発生した障壁に防がれたのだ。
霊児はその事を認識するのと同時に、障壁から霊力も魔力も妖力も神力も感じない事に気付く。
ちゆりと同じく夢美もそう言った力を扱わないのかと霊児が考えていると、

「考え事をしている余裕があるのかしら?」

霊児は何時の間にか無数のボール状の物に囲まれていた。
何時の間にと言う想い顔に浮かべながら霊児は周囲を見渡すと、それ等は一斉に霊児に向けてレーザーを放つ。

「ちっ……」

霊児は舌打ちをしながらレーザーを避け、夢美から離れる。
今は良くても地上だけで何れ避けるのにも限界が来ると霊児は感じたからだ。
なので、霊児は床を蹴って空中に躍り出る。
空中に上がり、降下しないで空中に留まっている霊児を見た夢美は、

「空も飛べるんだ、素敵!!」

嬉しそうな声を上げながら自身も空中に躍り出た。

「素敵って……お前も空飛んでるだろうが」

夢美が自分と同じ高さまで来た時、霊児がそう指摘すると、

「私の場合は自力で飛んでるんじゃなく、反重力システムを使ってるの」

夢美は少し頬を膨らませながら自分は反重力システムを使って飛んでいるのだと言う。
霊児には反重力システムと言う物が何のかは分からないが、自力で飛んでいる訳では無いと言う事は分かった。
夢美の表情から自力で飛べる自分の事を羨んでいる事を霊児が何となく察していると、

「さぁさぁ、この状況をどうするの!?」

夢美は何所か楽しそうな表情でこの状況をどうするのか問うて来た。
現在の霊児の状況はボール状の物に囲まれている。
このボール状の物から発せられるレーザーで霊児を倒す事は出来ないであろう。
しかし、攻撃を行う直前にレーザーが命中して攻撃が外れると言う事態が起こるかもしれない。
それでペースを乱されたりしたら面倒だと判断した霊児は少し後ろに下がりながら両手を広げ、

「夢想封印・散!!」

己が技を放つ。
夢想封印・散とは通常の夢想封印とは違って広範囲に散らばる様に放つ夢想封印である。
霊児の体から七色に光る弾が次々と発射され、次々とボール状の物を破壊していく。
ボールが破壊させた時に発生した爆煙に紛れる様にして霊児は夢美の背後に回り、

「はあ!!」

短剣を振るう。
だが、

「またか!!」

またしても夢美から展開された障壁に阻まれてしまった。

「あっぶなー……今の動き全然見えなかったわ」

先程の時と今の夢美の台詞から察するに、夢美が反応出来なくても障壁は展開される様だ。
霊児がその事を理解している間に、夢美は懐から銃を取り出した。
そして取り出した銃を霊児に向け、引き金を引くとレーザーが放たれる。
自身に向けて迫って来るレーザーを霊児は短剣の腹で受け止めるが、

「何っ!?」

思っていた以上に威力があったからか、霊児は後ろへ飛ばされてしまう。
飛ばされながらも霊児が体勢を立て直している間に、夢美は指を鳴らす。
すると、夢美の周囲に無数の赤い色をした十字架が現れた。
夢美は現れた十字架を見渡しながら、

「行け!!」

号令を掛け、十字架を一斉に飛ばす。
目標は当然霊児だ。
飛んで来る十字架の速度はかなりのものではあるが、霊児に取っては避けれない程ではない。
自身に向けて突っ込んで来る十字架を順調に避け続けてから少しすると、

「ッ!?」

霊児はある事に気付く。
自分が十字架に囲まれていると言う事に。
しかも上下左右全てだ。
おまけに霊児が通り抜けられる隙間が無い。
どうやら、こうなる様に霊児は誘導された様である。
夢美の頭の回転速度に霊児が少し驚いていると、十字架が霊児を押し潰す様に迫って来た。

「ちっ……」

霊児は舌打ちしながら周囲を見渡すが、やはり通り抜けられそうな隙間は無い。
少なくとも十字架と十字架の間に体を入れる事は出来ないと言う事を霊児が理解している間に、十字架と霊児の距離は縮まっていく。
どうしたものかと思いながら霊児はもう一度周囲を見渡すと、

「……ん?」

一部の十字架と十字架の間に僅かな隙間が出来ているのを発見した。
その隙間を発見した霊児は笑みを浮かべながら手に持っている短剣を投擲する。
霊児が短剣を投擲したタイミングで全ての十字架がぶつかり合った。
十字架がぶつかり合い、激突音を響かせている様子を見ながら夢美は自身の勝利を確信する。
おそらく気絶しているであろう霊児を回収する為に夢美が十字架を消そうとしたところで、

「またか!!」

夢美の周囲に障壁が展開された。

「え!?」

この事態に夢美は驚きの表情を浮かべてしまう。
霊児はあの無数の十字架の中に居る筈であると思っていたからだ。

「……どうやってあそこから抜け出したの?」

夢美はどうやって十字架の中から抜け出したのかと尋ねるが、

「企業秘密だ」

霊児は十字架の中から抜け出した方法を教えず、力を籠めて障壁を突破し様とする。
だが、障壁を突破する事は出来なかった。
その事実に霊児は少し苛立っていると、

「くそ……ん?」

霊児は何かを発見する。
霊児が発見した物と言うのは夢美の服の上にある金属の塊だ。
位置的には大体鎖骨付近にあり、金属の塊は何やら光を放っている。
光がが一段と強く輝くと、

「ッ!?」

霊児は弾き飛ばされてしまった。
あの障壁の力が一瞬だけ強くなったのだろうと思いながら霊児が体勢を立て直すと、

「……ん?」

金属の塊から光が消え、障壁が消える様子が霊児の目に映る。
この一連の流れから、霊児はあの金属の塊が障壁を展開させているのだと判断した。
同時に、にとりが機械系の物は強い負荷を掛けると爆発したり壊れたりすると言っていた事を思い出す。
金属の塊とにとりの言葉を結びつけながら今後の予定を霊児が立てていると、

「成程、あれから抜け出したのも魔法の力なのね……」

夢美は目を輝かせながらそんな事を言う。
どうやら、十字架の包囲を抜け出したのを魔法の力によるものだと夢美は判断した様だ。
そして、

「やっぱり魔法って、ス・テ・キ」

夢美は恋する乙女の様な表情で霊児を見詰める。
そんな夢美の表情を見て、夢美の魔法に対する憧れと言うか執着は相当なものだなと霊児が思っていると、

「これは何が何でも連れ帰らなきゃね」

夢美がより一層気合を入れて何かを呟くと、夢美の両腕に四つの砲身がくっ付いた大きな銃が現れた。
夢美は重さに耐える様な表情をしながら砲身の狙いを霊児に付け、

「ファイア!!」

引き金を引く。
その銃から放たれた物は今までの様な光線やレーザーではなく、実弾であった。
こう言った弾を見るのが初めてであったから、霊児は少し驚いた表情を浮かべてしまう。
が、直ぐに表情を戻して迫り来る弾を大きく移動しながら回避して行く。
暫らくそのまま避け続けるが、中々弾切れを起こさない。
もしも弾数が無限であるならば、今行っている回避行動は只の時間の浪費でしかない。

「……止まった状態で使いたかったが、仕方無い」

霊児は少し不満を感じさせる声色でそう呟き、両手を広げる。
そして、

「夢想封印!!」

己が技を放つ。
霊児の体から七色に光る弾が次々発射され、射線上にある弾を消滅させながら夢美へと突き進んで行く。
それに反応するかの様に夢美から障壁が展開され、夢美が銃から弾を放つのを止めるのと同時に七色に光る弾が障壁に着弾した。
七色の弾が障壁に激突した事で爆発と爆煙が発生し、その衝撃が夢美を襲う。

「ッ!!」

障壁を抜けて自身に衝撃が伝わった事に夢美は驚きながらも衝撃に耐えていると衝撃が止み、爆煙が晴れた。
衝撃が止んだ事で夢美は安心した表情を浮かべ、

「結構驚いたけど私の障壁の方が……」

自身の障壁の方が上だと言おうとして気付く。
霊児が指先を自分に向けている事に。
それだけだったら夢美も言葉を途中で切る様な事はしなかったであろうが、ある事に気付いてしまったから言葉を止めてしまったのだ。
気付いた事と言うのは霊児の指先が青白い光を放っている事。
夢美は霊力、魔力、妖力、神力と言った力を感じ取る事は出来ない。
しかし、それでも霊児の指先から発せられている青白い光をそのままにしては不味いと言う事は分かった。
なので、夢美は直ぐにそれを阻止し様と銃の砲身を霊児に向ける。
だが、

「遅い」

夢美が砲身の狙いを霊児に付けた時には、

「しまっ!!」

霊児の指先から霊力で出来た巨大な弾が放たれていた。
放たれたそれは勢い良く夢美に迫って行き、夢美から発生した障壁に激突する。
自身の障壁で防げた事に夢美が安堵の息を漏らすと、

「……え?」

夢美が身に着けている金属の塊が突如爆発した。
その事に夢美は驚くも、直ぐに限界以上の出力を出した事で爆発したのだと推察する。

「でも、これをオーバーロードさせる様な攻撃を……」

夢美が障壁をオーバーロードさせる様な攻撃に驚いていると、

「ッ!!」

目の前に霊力で出来た弾が迫って来ている事に気付く。
夢美は慌てて上半身を後ろに倒し、霊力で出来た弾を避ける。
避けれた事に安堵し、冷や汗を流しながら上半身を起こすと、

「ッ!!」

何時の間にか正面に迫って来ていた霊児に夢美は腕を掴まれ、

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃ!!!!」
「きゃああああああああああああああああああ!!!!」

そのまま一本背負いの要領で夢美は床に向けて投げ付けられた。















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